プリメーラ公女様とイネス公女様が今日の結果を報告するためフロレンシオ行政庁に立ち寄ったとき、僕たちも話があるので立ち会ってほしいと伝えさせていただきました。

 シントやメイヤ個人ではなく〝里〟として話があると。

 僕たちの正体を知っているプリメーラ公女様はとても驚いていますね。

 人の街のこと、それも他国の街のことに神域が関係しようとしてきているのですから。

 イネス公女様は僕たちのことを知らないので理解ができていないでしょうが、それが普通で当たり前、このまま黙っています。

「イネス公女様。本日は孤児院の視察と毛布の配布をしていただき……」

「たいした話ではありません、長官。それ以前に孤児院運営部で起きていた大きな不祥事、あちらの責任はどうお考えで?」

「はっ……それについては……」

「答えられませんか。年下だと考え甘く見ているのなら容赦しませんよ?」

「い、いえ! 私の報酬より今後数年かけてあの者たちが着服していた金額を孤児院運営部に補填いたします!」

「そうですか。それで手打ちとしましょう。では、愚か者たちの処遇は?」

「部長については私財没収と市民証剥奪の上で街から永久追放。それ以外に着服していた者どもについては着服金額に応じた罰金を科し、支払えなければ街で強制労働を行わせる考えです」

「……お姉様、この処分は適当なのでしょうか?」

「イネスではまだ判断が難しいでしょうね。では、私が補佐として。部長の処分は国外追放としなさい。いい見せしめです。着服者たちで支払えない者は1年以内に返還できなければ国が買い取ります。国の犯罪者として無期限の強制労働といたしましょう」

「そ、それは……」

「それから、孤児院運営部への補填。それも3年以内に完結させなさい。無論、あなたの年給を上げることは禁じます。あなたの身柄は国の監視下とさせていただきますので御覚悟を」

「は、はい……」

「それから申し訳ありませんが、フロレンシオ行政庁すべての部署に国の会計監査を入れさせていただきましょう。不正があれば同様の処分を国として執行いたします。そして、国からの監査が入ることを漏洩した場合も国外追放。長官もシェーンもいいですね?」

「は、はい!」

「わかりました!」

 さすがはプリメーラ公女様、お厳しいお方です。

 これでフロレンシオの街が少しでも住みやすくなればいいのですが。

「それで、孤児院運営部の次の部長は誰が?」

「その……申し訳ありません、プリメーラ公女様。さすがに1日では……」

「そうですか。それではシェーン。しばらくの間はあなたが代行なさい」

「私がですか!?」

「孤児院運営部でイネスが真っ先に問題ないと判断したのはあなたです。ほかの部員には私からの命令として部長代行を務めさせることを告げましょう。いかがです? 孤児院の運営管理を改善するにはもってこいのポストですよ?」

「そ、そうですが……私は入庁3年の……」

「イネスが選んだ人材です。私もイネスもイネスの療養のためにしばらくはこの街を離れません。その間、毎日様子を見に来て差し上げましょう。本当に優秀な人材であればそのまま部長の椅子はあなたに差し上げます。孤児院の子供たちのためです。いいですね?」

「子供たちのため……はい! できる限りやってみせます!」

 プリメーラ公女様は人をその気にさせるのもお上手です。

 シェーンさんはこれから大変でしょうが、がんばてもらいたいものですね。

「よろしい。イネス、もう少しだけ補佐として代行してもいいかしら?」

「構いません、プリメーラお姉様。やはり私では処罰や登用は経験不足でした」

「そこも含めて勉強しなさい。さて、先ほどメイヤ様よりある支援の話をいただきました。この話は知るものが少なければ少ないほど都合がいいもの。長官、あなたはこの場から立ち去りなさい。残りはシェーン孤児院運営部部長代理と話を詰めます」

「は、はい……」

 力なく長官さんは出て行きましたが諦めていただきましょう。

 本当にここからの話は知る人が少ないほど都合のいい話なんですから。

「……さて、邪魔者も退席しましたし話の続きです。メイヤ様を始めシント様たちはとある隠れ里の住人です。そこから孤児院へ支援の話を持ち出してくださいました」

「支援のお話……ですか?」

「はい。ここから先の話はメイヤ様から。あと、私たちの代表はイネスに戻します。いいですね、イネス」

「はい、プリメーラお姉様。メイヤ様、孤児院への支援とはなんでしょうか?」

「ああ、それね。私たちの里から定期的に食料をすべての孤児院に分けてあげようと思って。もっとも、私たちの里で採れるものは野菜と果物だけなんだけれど」

 メイヤのその発言に驚いているのはイネス公女様とシェーンさん。

 600人いる孤児に食料を支援しようだなんて夢物語ですよね、普通は。

 僕たちのことを知っているプリメーラ公女様は平然としていらっしゃいますが。

「あ、あの。すべての孤児院って600人規模ですよ? それだけの食料を集められる、それも定期的に?」

「ええ、野菜と果物だけならその規模の食料を定期的に持ってきてあげる。条件はひとつ、私たちの里のことを漏らさずにイネス公女様かプリメーラ公女様からの支援だと偽り続けて」

「メイヤ様! そんな功績をいただくわけには参りません!」

 イネス公女様が慌てていますがメイヤは平然としています。

 この程度想定済みですからね。

「そう? あなたが少し迷惑を受けるだけでこの街の子供たちが救われるのよ? 悪い取引ではないと思うのだけど」

「でも、そんなことしてもいつかはばれて……」

「この国って冬でも野菜が収穫できるわよね? その種を分けてちょうだい。そうすれば、春夏秋冬すべての季節に合わせた野菜のみを持ってきてあげる。果物は……旬のものだけになるから、かわいそうだけど食べられない時期は我慢してもらいましょう」

「ええと、種の用意はできます。できますが、いまから育てても……」

 今度はシェーンさんですか。

 確かに理屈上は間に合いませんよね、理屈上は。

「間に合わせるわよ。そういう隠れ里だもの、私の里は」

「……本当にそれで子供たちが助かるんですね?」

「少なくとも定期的に食事を作りに来てあげる。食材も野菜だけなら残して行ってあげるわ。あとは、孤児院運営部だったかしら? そこと各孤児院の手腕次第よ」

「……わかりました。孤児院運営部として、その話受けさせてください」

「いいわ。あとは……この場合、イネス公女様になるのかしら。私たちの隠れ蓑になり続けてもらえる?」

「……はい、引き受けます。ただ、私からもひとつお願いが」

「聞けるお願いと聞けないお願いがあるけれど……なに?」

「この国のほかの街にある孤児院にも食料を分けていただけませんか? この街だけでやってしまうと怪しまれてしまいます」

「……なるほど。確かにそれもそうよね。供給できる量に限りはあるけれどそれでもいいなら。この街以外は1カ月3000人分を限度にしましょう。私たちの里にはマジックバッグを作れる職人もいるから運ぶときの重さや腐敗なんかは気にしなくても平気よ。ただ、悪人には渡さないことが条件だけれど」

「そちらは私が責任を持って見定めます。わがままを聞いていただきありがとうございました」

「こちらこそ。これからは子供たちを守るため、仲良くやっていきましょう?」

「ありがとうございます、メイヤ様」

「ありがとうございます、メイヤさん、皆さん」

 このあとの打ち合わせで最初の支援は半月後と決まりました。

 メイヤがこっそり教えてくれた話では、既に野良仕事のできる仲間たちが畑を作り野菜を育てる準備を始めているそうです。

 あと、半月後にはプリメーラ公女様とイネス公女様のお父様、つまり公王陛下もこの街に来ているはずらしいとのこと。

 メイヤもごあいさつしたいと言い出し始め……これ、絶対聖霊ってばれますよね?

 プリメーラ公女様も神域の関係者に知り合いがいるって言ってましたし。