さて、風車小屋を造ることは……無理そうでなければ決まりです。
問題は素材と風車の羽根ですね。
「ウィンディ、小屋の部分はレンガでもいいんですよね?」
『構いません、契約者。無理にクリスタルなどで創造していただく必要はありません』
「なるほど。ではとりあえず人の家サイズの小屋を造ってみましょうか」
『よろしくお願いします』
僕は創造魔法を発動させて小屋の部分を作製しました。
羽根の部分はまだ取り付けていませんが……どうしましょうか?
「小屋のサイズはこれを大きくすれば問題ありませんよね?」
『はい、問題ありません。まずは風車が回る部分を上手に回すことができるようにいたしましょう』
「それがいいでしょう。では、羽根も作ります。素材はどうしましょうか?」
『では、普通の木材で作ってみていただけますか? 角度が調節できるようにもしていただけると嬉しいです』
「このサイズでは角度を変えるだけでも大変そうですがやってみましょう。では……できました」
『羽根もこれで十分です。問題は角度ですね……』
「それなりの力を込めないと曲がりませんよ? 風を受けてすぐに角度が変わっては意味がありません」
「そうだよね。私で変えられるかなぁ?」
「リンでも難しいでしょう。ウィンディはできそうですか?」
『少しお待ちください……なんとか回せます。これで最適な角度を探していきましょう』
ウィンディに角度を変えてもらい、風も当ててもらいながらの風車造りですが、思わぬところで問題が出てきました。
……羽根の強度不足です。
『申し訳ありません、契約者。羽根を作り直していただけませんか?』
「そうしましょう。もうすぐ折れそうですから」
「風が弱いと回らないし、強いと折れちゃう。大変な作業かも」
『守護者にもご迷惑をおかけいたします。契約者に負担がかかってきたと感じたら、すぐに中止して構いませんので』
「そうさせてもらうけど……シントは平気?」
「まあ、アクエリアの依頼みたいに答えがわからないわけでもなく、音楽堂みたいに細かい作りを僕だけでやるわけじゃないのでそれほどでも。問題は最適な角度がどれくらいで見つかるかですよね」
「そっちが問題かぁ。傾け過ぎちゃだめなんだよね、ウィンディ?」
『傾けすぎてしまうと風が流れていくだけになってしまいます。角度がなさ過ぎると風を受け止めすぎてしまい、ただの壁と一緒だったり回らなくなったりしますね。羽根の傾け方を変える力作業は私にお任せいただけばいいのですが、羽根の作り直しだけは契約者に頼まねばなりません』
「その程度なら負担じゃないですし構いませんよ。……さて、新しい羽根もできました。今度は最初からある程度傾けてみましたが大丈夫でしょうか?」
『助かりました。それでは始めさせていただきます』
そのあと、何度も羽根の角度を調整しながら羽根が折れそうになって作り直してまた角度を変えて風を送るという作業をひたすら繰り返し、昼食休憩を挟んで夕食まで続けられました。
今回、僕はほとんど疲れないのですがウィンディが疲れそうです。
『今日の作業はこれくらいにいたしましょう。契約者、守護者』
「わかりました。ウィンディは疲れていませんか?」
『五大精霊がこの程度で疲れるはずもありません。……ちょっと温泉には入ってきますが』
「温泉?」
『幻獣や精霊、妖精たちが温泉に入ってみたいといいだし、ここから離れた場所にヴォルケーノボムとマインが温泉を作りました。かなり広く作られているので混雑はいたしません』
「そんな要望まで出ていたんですね……」
「幻獣たちって温泉にも入るんだぁ……」
『気分的なものですよ。ほかにも契約者と守護者の手をわずらわせる程ではない要望は私たちなどで解決しているものもありますし。神樹の里はみんなのんびりしすぎですね』
「それっていいことなのでしょうか? 悪いことなのでしょうか?」
『私たちにもわかりません。ただ、安全な神域がありそこが広くのびのびと暮らせる環境にあるというのはなによりも代えがたい幸運です。神樹の里に面していた国……ジニ国でしたか? あれらによって住処を奪われた者たちは新たな居住地を求めてさまよわねばならないところでした。その必要がなかっただけでも嬉しい限りです』
「そうなんですね。僕がメイヤと出会って創られた神域が役に立ってくれて嬉しいです」
「私も。神域の広さって私の魔力も影響を受けているんだよね? メイヤ様の木の実頼みだけじゃなくて落ち着いたらもっともっと頑張らなくちゃって思うもん」
『おふたりがそこまでする必要はありませんよ。既にこの神域は十分に広いです。メイヤ様が移住者を絞っているのは、本来幻獣などが守っている土地が荒れるようにならないためでしょう。移住希望者すべてを受け入れるだけの大地や湖、海はあるのですから』
そうだったんですね。
幻獣たちが守る土地というのも興味がありますが、よく考えるとリュウセイの親であるハクガなどは〝名もなきモノ〟と戦っていたと聞きますし、そういった事情もあるのでしょう。
力の弱い妖精を見かけることが増えたな程度にしか感じていませんでしたがそういう理由だったとは。
『ともかく、今日の作業はここまでです。明日以降もよろしくお願いいたします』
「ええ、ウィンディも無理をしないでください」
「うん。この程度の依頼ならシントは一週間に1日くらいの休みでもいいけどウィンディが大変そう」
『私は大丈夫ですよ。本日はお付き合いいただきありがとうございました。それでは』
ウィンディは風に乗り、天高くへと舞い上がっていきました。
さて、僕たちも夕食に行かないと。
風車小屋はそのままに神樹の元に行ってメイヤやディーヴァ、ミンストレルと食事です。
食事後のお茶の時間は自然と風車小屋の話題になりました。
『そう。家サイズの風車小屋から始めたの』
「そうなりました。小さすぎるものだと風車が回りやすすぎて実験にならないそうです」
「はい。私たちの力では羽根の角度を変えることができなかったため、羽根が壊れそうになったときシントが作り直す以外はすべてウィンディ様のお仕事でしたが……」
『シントもリンも働いていないくらいがちょうどいいのよ。幻獣たちも勝手気ままな要望をあげすぎだわ』
「あはは……」
「ですが、今回はウィンディ様が働きすぎているような……」
『大丈夫じゃない? 五大精霊の一角だし、無理をしそうになったら自分から休みを申請してくるわよ。あなた方が無理をしない範囲で手伝ってあげなさいな』
「わかりました。ですが、羽根が重いというのは難題ですね」
「うん。そこだけは私たちでも解決方法を考えておかないと」
『いつものクリスタルじゃだめなの?』
「木材よりも重いですよ、あれ」
『なるほど。でも、しばらくは角度の調整なのよね。そちらの問題が片付くまで放置していても構わないのではない?』
「それも無責任なような……」
『あなた方は難しく考えすぎよ。もっと気楽にしても構わないのよ、特に今回の依頼は』
「そうでしょうか?」
「ウィンディ様が頑張っているところを見るとつい……」
『アクエリアが半ば頼りすぎていたことに毒されたわね。ともかく、まずは羽根の角度決めから始めなさいな。わかりやすい要望なのだから一歩一歩進めていきましょう』
「そうですね。まずはそこからです」
「はい。ウィンディ様には申し訳ないですが頑張っていただきましょう」
『それでいいわ。さて、今日はそろそろ解散にしましょう。暗くなってもいけないしね』
メイヤの合図で僕たちは解散、それぞれの家に帰り温泉に入って眠りました。
問題は翌朝、神樹の元へと向かったときに発生していたようですが……。
「ウィンディ? なぜあなたが朝早くから神樹の元に?」
『それは、契約者に朝一番でお詫びせねばならないことがあり……』
「僕にお詫びすること?」
『……日の出頃、風車小屋の様子を見に行ったら羽根が折れていました、4本ともすべて。中央部分の角度が変わっていたので風の精霊や妖精が回して遊んでいたのだと思います』
なるほど、昨日は出しっぱなしでしたからね。
早速、いい〝遊び場〟にされてしまいましたか。
「その程度で怒りはしません。風車の羽根も創造魔法で創っているだけですからいくらでも作り直せます。それよりも精霊や妖精は怪我をしていませんか?」
『創造魔法で創られたとはいえ今回の素材はただの木材です。木材程度で怪我をすることはないのでご心配には及びません』
「ならいいのですが。朝食後は最初からやり直しですね」
『申し訳ありません……』
風関係の精霊や妖精っていたずら好きで気まぐれでしたよね。
それがあんないいおもちゃを見つければ遊んで当然ですか。
今日以降は安全のために風車は消してから帰るべきなのか悩みます。
問題は素材と風車の羽根ですね。
「ウィンディ、小屋の部分はレンガでもいいんですよね?」
『構いません、契約者。無理にクリスタルなどで創造していただく必要はありません』
「なるほど。ではとりあえず人の家サイズの小屋を造ってみましょうか」
『よろしくお願いします』
僕は創造魔法を発動させて小屋の部分を作製しました。
羽根の部分はまだ取り付けていませんが……どうしましょうか?
「小屋のサイズはこれを大きくすれば問題ありませんよね?」
『はい、問題ありません。まずは風車が回る部分を上手に回すことができるようにいたしましょう』
「それがいいでしょう。では、羽根も作ります。素材はどうしましょうか?」
『では、普通の木材で作ってみていただけますか? 角度が調節できるようにもしていただけると嬉しいです』
「このサイズでは角度を変えるだけでも大変そうですがやってみましょう。では……できました」
『羽根もこれで十分です。問題は角度ですね……』
「それなりの力を込めないと曲がりませんよ? 風を受けてすぐに角度が変わっては意味がありません」
「そうだよね。私で変えられるかなぁ?」
「リンでも難しいでしょう。ウィンディはできそうですか?」
『少しお待ちください……なんとか回せます。これで最適な角度を探していきましょう』
ウィンディに角度を変えてもらい、風も当ててもらいながらの風車造りですが、思わぬところで問題が出てきました。
……羽根の強度不足です。
『申し訳ありません、契約者。羽根を作り直していただけませんか?』
「そうしましょう。もうすぐ折れそうですから」
「風が弱いと回らないし、強いと折れちゃう。大変な作業かも」
『守護者にもご迷惑をおかけいたします。契約者に負担がかかってきたと感じたら、すぐに中止して構いませんので』
「そうさせてもらうけど……シントは平気?」
「まあ、アクエリアの依頼みたいに答えがわからないわけでもなく、音楽堂みたいに細かい作りを僕だけでやるわけじゃないのでそれほどでも。問題は最適な角度がどれくらいで見つかるかですよね」
「そっちが問題かぁ。傾け過ぎちゃだめなんだよね、ウィンディ?」
『傾けすぎてしまうと風が流れていくだけになってしまいます。角度がなさ過ぎると風を受け止めすぎてしまい、ただの壁と一緒だったり回らなくなったりしますね。羽根の傾け方を変える力作業は私にお任せいただけばいいのですが、羽根の作り直しだけは契約者に頼まねばなりません』
「その程度なら負担じゃないですし構いませんよ。……さて、新しい羽根もできました。今度は最初からある程度傾けてみましたが大丈夫でしょうか?」
『助かりました。それでは始めさせていただきます』
そのあと、何度も羽根の角度を調整しながら羽根が折れそうになって作り直してまた角度を変えて風を送るという作業をひたすら繰り返し、昼食休憩を挟んで夕食まで続けられました。
今回、僕はほとんど疲れないのですがウィンディが疲れそうです。
『今日の作業はこれくらいにいたしましょう。契約者、守護者』
「わかりました。ウィンディは疲れていませんか?」
『五大精霊がこの程度で疲れるはずもありません。……ちょっと温泉には入ってきますが』
「温泉?」
『幻獣や精霊、妖精たちが温泉に入ってみたいといいだし、ここから離れた場所にヴォルケーノボムとマインが温泉を作りました。かなり広く作られているので混雑はいたしません』
「そんな要望まで出ていたんですね……」
「幻獣たちって温泉にも入るんだぁ……」
『気分的なものですよ。ほかにも契約者と守護者の手をわずらわせる程ではない要望は私たちなどで解決しているものもありますし。神樹の里はみんなのんびりしすぎですね』
「それっていいことなのでしょうか? 悪いことなのでしょうか?」
『私たちにもわかりません。ただ、安全な神域がありそこが広くのびのびと暮らせる環境にあるというのはなによりも代えがたい幸運です。神樹の里に面していた国……ジニ国でしたか? あれらによって住処を奪われた者たちは新たな居住地を求めてさまよわねばならないところでした。その必要がなかっただけでも嬉しい限りです』
「そうなんですね。僕がメイヤと出会って創られた神域が役に立ってくれて嬉しいです」
「私も。神域の広さって私の魔力も影響を受けているんだよね? メイヤ様の木の実頼みだけじゃなくて落ち着いたらもっともっと頑張らなくちゃって思うもん」
『おふたりがそこまでする必要はありませんよ。既にこの神域は十分に広いです。メイヤ様が移住者を絞っているのは、本来幻獣などが守っている土地が荒れるようにならないためでしょう。移住希望者すべてを受け入れるだけの大地や湖、海はあるのですから』
そうだったんですね。
幻獣たちが守る土地というのも興味がありますが、よく考えるとリュウセイの親であるハクガなどは〝名もなきモノ〟と戦っていたと聞きますし、そういった事情もあるのでしょう。
力の弱い妖精を見かけることが増えたな程度にしか感じていませんでしたがそういう理由だったとは。
『ともかく、今日の作業はここまでです。明日以降もよろしくお願いいたします』
「ええ、ウィンディも無理をしないでください」
「うん。この程度の依頼ならシントは一週間に1日くらいの休みでもいいけどウィンディが大変そう」
『私は大丈夫ですよ。本日はお付き合いいただきありがとうございました。それでは』
ウィンディは風に乗り、天高くへと舞い上がっていきました。
さて、僕たちも夕食に行かないと。
風車小屋はそのままに神樹の元に行ってメイヤやディーヴァ、ミンストレルと食事です。
食事後のお茶の時間は自然と風車小屋の話題になりました。
『そう。家サイズの風車小屋から始めたの』
「そうなりました。小さすぎるものだと風車が回りやすすぎて実験にならないそうです」
「はい。私たちの力では羽根の角度を変えることができなかったため、羽根が壊れそうになったときシントが作り直す以外はすべてウィンディ様のお仕事でしたが……」
『シントもリンも働いていないくらいがちょうどいいのよ。幻獣たちも勝手気ままな要望をあげすぎだわ』
「あはは……」
「ですが、今回はウィンディ様が働きすぎているような……」
『大丈夫じゃない? 五大精霊の一角だし、無理をしそうになったら自分から休みを申請してくるわよ。あなた方が無理をしない範囲で手伝ってあげなさいな』
「わかりました。ですが、羽根が重いというのは難題ですね」
「うん。そこだけは私たちでも解決方法を考えておかないと」
『いつものクリスタルじゃだめなの?』
「木材よりも重いですよ、あれ」
『なるほど。でも、しばらくは角度の調整なのよね。そちらの問題が片付くまで放置していても構わないのではない?』
「それも無責任なような……」
『あなた方は難しく考えすぎよ。もっと気楽にしても構わないのよ、特に今回の依頼は』
「そうでしょうか?」
「ウィンディ様が頑張っているところを見るとつい……」
『アクエリアが半ば頼りすぎていたことに毒されたわね。ともかく、まずは羽根の角度決めから始めなさいな。わかりやすい要望なのだから一歩一歩進めていきましょう』
「そうですね。まずはそこからです」
「はい。ウィンディ様には申し訳ないですが頑張っていただきましょう」
『それでいいわ。さて、今日はそろそろ解散にしましょう。暗くなってもいけないしね』
メイヤの合図で僕たちは解散、それぞれの家に帰り温泉に入って眠りました。
問題は翌朝、神樹の元へと向かったときに発生していたようですが……。
「ウィンディ? なぜあなたが朝早くから神樹の元に?」
『それは、契約者に朝一番でお詫びせねばならないことがあり……』
「僕にお詫びすること?」
『……日の出頃、風車小屋の様子を見に行ったら羽根が折れていました、4本ともすべて。中央部分の角度が変わっていたので風の精霊や妖精が回して遊んでいたのだと思います』
なるほど、昨日は出しっぱなしでしたからね。
早速、いい〝遊び場〟にされてしまいましたか。
「その程度で怒りはしません。風車の羽根も創造魔法で創っているだけですからいくらでも作り直せます。それよりも精霊や妖精は怪我をしていませんか?」
『創造魔法で創られたとはいえ今回の素材はただの木材です。木材程度で怪我をすることはないのでご心配には及びません』
「ならいいのですが。朝食後は最初からやり直しですね」
『申し訳ありません……』
風関係の精霊や妖精っていたずら好きで気まぐれでしたよね。
それがあんないいおもちゃを見つければ遊んで当然ですか。
今日以降は安全のために風車は消してから帰るべきなのか悩みます。