神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

 僕たちはマーメイドに案内されるまま海中の方へと降りていきます。

 滑らないように処理をかけてほしいとイメージの中にお願いがあったのですべての床には滑り止めの魔法をかけていますが、この入口からの道も傾斜になっているんですよね。

 創造魔法って知れば知るほどどんな魔法でも使えるから便利です。

『ここはもう水中です。まだ光がぎりぎり届く範囲なので契約者様と守護者様にも見えていると思いますが……契約者様、創造魔法で《暗視》の魔法ってかけられませんか? この入口を通り抜けたもの全員に効果を及ぼすような』

「そうですね……できますが、魔力式空調装置などと同じ扱いになります。利用者が少ないと正常に動作しませんよ?」

『では、魔力を溜めておくことができて、残量がわかる……樽のようなものはご用意できますでしょうか? 普段は利用者の魔力を使い、それで足りなくなってきたら樽の中の魔力を使う。そちらが減ってきたら私たちで補充いたします』

「では、そちらも残量がわかりやすいように透明なクリスタルで作ってしまいましょうか」

 僕は入口に仕掛けをして通るものに《暗視》の魔法がかかるようにし、そこから伸びたクリスタルが横に設置されたクリスタルの容器に繋がるように仕掛けを施しました。

 今回は僕とリンが試しにこの装置を使ってみましたが、本の和すかに容器内に入っていた魔力の水のようなものが減ったそうです。

『ありがとうございます。これで周りの様子も見渡しやすくなったでしょうか?』

「ええ、よく見えます」

「すっごい! 天井や足元をお魚が泳いでる!」

『ここは陸地に近い海を生息域にする魚の住処ですね。奥の方まで行けばもっとたくさんの魚がいますよ』

「それは楽しみ!」

「そう言えばこの建物、水中深くに向けて広がていますが、大きさも巨大でしたね」

『いろいろなものを見ていただきたいですから。……あら? 皆様、上をご覧ください』

「上?」

 マーメイドに言われたとおり上を見上げると丸いなにかから足が4本生えていて首の出ている生き物が泳いでいました。

 こちらに気がつくと、珍しいものが気になったのか寄ってきてくれましたね。

「マーメイド、この生き物は?」

『〝亀〟と呼ばれる生き物です。陸で暮らすものとこの子のように海で暮らすものの2種類に分かれております。今回は珍しいものを見かけたので寄ってきてくれたのですね』

「それじゃあ、私たちって運がいいんだ」

『亀自体がこの海域ではあまり生息していませんから本当に運がいいですよ。亀も行ってしまいましたし、次のスポットをご案内いたします』

 次は深いところに続く道のようです。

 途中でもいろいろな魚たちが目に留まり、その都度リンがマーメイドに説明を求めているので歩く速度はかなり遅いですが、仕方がないでしょう。

 そしてたどり着いたのは、海の底近辺。

 ここまで来ると本当に《暗視》がかかっていないと真っ暗なはずです。

『このエリアは深海魚の生息域です。ああ、ちょうどあちらから1匹来ますね』

 マーメイドの指さした方向から魚が1匹泳いできましたが……なんというか。

「あんまりかわいくない……」

『深海魚というものはそう言う種族が多いのです。光の届かない海底で暮らすために自分たちも目立たなくするような進化を遂げて参りました』

「なるほど。生き残るための知恵ですか」

『そうなります。どの生物も生き残るためには工夫を重ねて進化していくのです』

「ためになりますね」

「うん。ためにはなるけど……もっとかわいいお魚が見たいな」

『わかりました。浅い海の底へ通じる通路へと向かいましょう』

 僕たちは来たときとは違う通路を抜けて浅瀬の方に向かいます。

 向かいますが通路の途中で、1匹の円柱状の体をした生き物が降ってきて、僕たちを物珍しげに見つめてきました。

 この生き物は一体?

『あら、〝アザラシ〟ですか。そう言えばこの建物の一部は海面すれすれまででていましたね。新しい生息地にでも選んでくれたのでしょう』

「マーメイド、〝アザラシ〟ってなに?」

『海に暮らす生き物のひとつです。魚ではなく哺乳類という生き物ですね。浅瀬の上で日に当たってのんびり暮らしたり、海の中で泳ぎ回ったりと気ままな生き物です』

「なるほど。この生き物のための施設もこの海面上に造りますか? そうすればもっと出会いやすくなるでしょう」

『それはいいですね。是非お願いします。ともかく今日はご案内のみと言うことで』

 僕たちはマーメイドに導かれるまま、別の陸地が近い部屋へと案内されました。

 ただここは、太陽光も届くような明るい海のようです。

『ここも海の底の一種です。先ほどとはまるで違うでしょう?』

「うん! 色とりどりで綺麗!」

『ここは太陽光が届く海辺ですからね。綺麗なお魚などもたくさん泳いでいます』

 マーメイドの言うとおり様々な色をした魚たちが泳ぎ回っていました。

 岩には珊瑚だけではなく〝イソギンチャク〟という生物もはりついていて、あれは小型の魚を食べるそうですがあれの中に隠れている魚もいるそうでして複雑な生態系というものを成しているようです。

 それにしても、海ですか。

 これだけたくさんの生き物がいるだなんて知りませんでした。
 そのあともいろいろと部屋を見て回り、海面すれすれの部屋ではそこを飛び回る魚を、海の底付近にある部屋では海の底で生きている生物たちを間近で見ることができました。

 これだけでもわくわくします。

 あと、海の中にも〝海藻〟と言って草の仲間が生えているんだとか。

 それを食べて成長する生物たちもいるらしく、草木の育ちやすい神樹の里はそういった生物にはいい環境なのかもしれません。

 マーメイドは海藻が増えすぎるため、定期的に除去しているそうですが……。

『さて、次が最後の部屋でございます』

「そうですね。僕が作った部屋数とも合いますし……ただ、結構長いですよね、次の部屋まで」

『沖合に生息する魚を見てほしかったので。これでも私たちの魔法で近くまで寄ってきていただいているのですよ』

「それは楽しみ!」

『じっくりご覧ください。あら? 説明しているところにいい魚が』

 僕たちの歩いている通路の左側を高速で1匹の魚が通り過ぎていきました。

 かなり高速だったのであまりはっきりとは見えませんでしたが……あれは一体?

『あれはマグロという魚です。回遊魚と言いまして泳ぎ続けていないと死んでしまう魚ですね』

「この建物って大丈夫なんですか?」

『この建物にはぶつからないような仕掛けを私たちの方で既に組み込んであります。あら、次はカツオの群れが』

「どこどこ、って上か」

『はい。あのように群れになって泳ぐのがカツオの特徴ですね。と言うことは近くにイワシの群れでもいるのかしら?』

「イワシの群れ?」

『小型の魚が〝イワシ〟です。カツオと同じように群れで動き回り、時には……ああ、いました!』

「え? 魚が竜巻みたいになってる!?」

『イワシはああやって体を大きく見せかけることで大型魚からの捕食を避けることもあるのです。見ることができて幸運でした』

「海の生き物とはいろいろなことをするのですね……」

『ええ、生き残るための知恵ですから。さて、もっと沖合へと出てみましょうか。たくさんの魚に会えるといいのですが……』

 そのあとも奥に進むにつれて見たことも聞いたこともない魚たちがたくさん姿を見せました。

 途中で現れた〝サメ〟という魚はいろいろな性質を持っているそうで、小型の魚や亀を食べる種類から〝プランクトン〟という目に見えないような小さな生き物を吸い込んで食べる種類まで多種多様なようです。

 実際、見かけただけでも頭の部分がT字型になった〝シュモクザメ〟というものや大型の〝ジンベイザメ〟と言うものに出会いましたから。

 マーメイドたちが管理する海ではいろいろな海の生物が暮らせるように環境を整えているそうですが、それにしても驚きです。

『さて、ここが一番沖合に作った部屋です。どのような魚や生物がいてくれるか……』

「それはマーメイドでもわかりませんか」

『私たちが追い込めばいくらでも見ることができますが、それでは面白くないでしょう?』

「そうかもしれませんね」

 そんなことを話している間に僕たちの側によってきた生き物が1匹。

 これはなんでしょうか?

「マーメイド、この生き物は?」

『これは〝イルカ〟ですね。エコーロケーションに珍しいものが引っかかったので様子を見に来たのでしょう』

「〝エコーロケーション〟ってなに?」

『〝超音波〟という耳には聞こえない音を使ってものの形などを調べるのです。それを使いこの建物が発見されたので様子を見に来たのでしょう』

「結構かわいいね」

『小魚などが餌ですよ?』

「……私たちも肉とかを食べるし一緒だよ」

『そうですね。ほかには……あちらに〝ミンククジラ〟が』

「〝ミンククジラ〟?」

『あの生き物です。いまは遠いので正確な大きさがわからないでしょうが私たちよりも大きいですよ』

「沖合に出るといろいろな魚や生物がいるんだね……」

『もちろん。陸の近くで暮らす魚なども多いですが、沖合に出れば陸の近くでは暮らせない大型の生物たちだって……おや?』

「ん? 影?」

『あら、本当に今日は運がいい』

「運がいいって!? マーメイド!? あの巨大ななにかはなに!?」

『落ち着いてください、守護者様。あれは〝シロナガスクジラ〟と言います。幻獣や精霊、妖精たちを除く普通の生物では世界最大の生物と言われていますね』

「あれって今どの辺りを泳いでいるの?」

『あの大きさですと……海面を泳いでいるのではないでしょうか? クジラやイルカはヒト族と同じ哺乳類。水中では息ができませんからね』

「あんな大きな生き物が私たちとおなじ……」

「いや、驚いたものです……」

『あら、〝シャチ〟も近づいてきました。今日はいろいろな生き物と巡り会えて本当に運がいいですね』

「この黒い生き物が〝シャチ〟ですか」

「お腹の方は白いね」

『シャチもクジラの仲間の一種です。好奇心が強いので普段海の中にはいない皆さんが気になって寄ってきたのでしょう』

「本当に運のいい日です」

「そうだね。いろいろなお魚や生き物に巡り会えたんだもの」

『本当です。ほかの皆さんを案内するときもこれだけ海の仲間を紹介できればいいのですが……』

 そこばかりはどうしても運になってしまうようです。

 マーメイドとしても自然に生きている海の生き物たちを見てもらいたいそうで追い込みなどはしたくないのだとか。

 それにしてもすてきな場所になりました。

 この日はまだ時間があったのでディーヴァとミンストレルも連れてくるとふたりとも大はしゃぎで海の様子を見て回り、森の中では絶対に出会えない生き物とのふれあいを楽しんでいった様子です。

 帰り際にはマーメイドの仲間たちが用意してくれた〝ホタテ〟と言う貝も食べさせてもらいましたが、甘みがあってコリコリしていて美味しいです。

 夕食に戻るとき、メイヤへのお願いとして「ホタテ貝の養殖を認めてもらいたい」というお願いをされましたが、メイヤに伝えると「無理のない範囲であれば好きにやらせるといいわ」と言うことでした。

 翌日にそのことを伝えに行ってホタテ貝の養殖も無事に決まり、この建物は『海族館』と名付けられることに。

 そちらも正式にオープンすると物珍しさから幻獣や精霊、妖精たちが集まり、海の中という普段は体験できない環境に興奮して帰っていくそうです。

 ……神樹の里って娯楽に飢えているのでしょうか?
 ニンフたちが作った美術館、マーメイドたちの作った海族館も大好評。

 もちろん、2カ月かけて作りあげた音楽堂も大好評です。

 そして、いまはメイヤが徹底的に品種改良を行った果物園が造園され、シルキーたちの小麦畑も完成し、いつの間にか用意してあった酵母を使ったパンも美味しく頂いていました。

 ……そんなに幻獣や精霊、妖精たちは娯楽や趣味に飢えていたんでしょうか?

 とりあえずシルキーが作ったパンをひとつ食べてから朝食へ向かいましょう。

 このパンも柔らかくてふっくらしていて美味しいのですが。

「シント、なにを難しい顔をしているの?」

「ああ、いえ。神樹の里のみんなは娯楽に飢えていたのかなと」

「そのことかぁ。確かにそうなのかも。音楽堂もなにかに利用されるたびに満員だって聞くし、幻獣たちって普段はなにをして過ごしていたんだろうね?」

「はい。神樹の里も……僕らの魔力が上がって行っているおかげでものすごく広がっているらしいのですが、あまりみんなが楽しめる施設はなかったと感じて」

「……野生の幻獣や精霊、妖精たちってどうやって過ごしているんだろうね?」

「さあ? メイヤにでも聞いてみましょうか、朝食を食べ終わったら」

「それがいいかも。メイヤ様に聞いてみよう」

 僕とリンは途中でディーヴァとミンストレルに合流、4人で神樹の元へと向かいます。

 そこで朝食を食べて気になっていたことを聞いてみたのですが、メイヤの答えは意外なものでした。

『幻獣や精霊、妖精たちなんて気ままなものよ? この神樹の里の中でだって住む場所をよく変えているもの』

「そうなんですか?」

『そうよ。そこに音楽堂や美術館、海族館ができたからみんな興味本位で行って楽しんでいるだけ。行く者たちが途絶えることはないでしょうけれど、本来的に幻獣などが娯楽施設で楽しむ方がおかしいのよ』

「なるほど。僕はてっきり神樹の里でやることがないため、みんな退屈しているものだとばかり」

『退屈じゃないけれど、狩りができないのは不満だって言っていたわね。ここって野生動物がいないでしょ? そういった動物たちをときどき食べていた者たちからは要望が出ているわ』

「それって、僕たちが外に出て捕まえてくればいいのでしょうか?」

『気の長い話になるわよ? 野生動物だって自然に増えていくわけじゃないもの。たくさん捕まえてきて数を増やさせて生活圏をつくり、育て上げる。とてもじゃないけれどシントとリンが解決できる問題じゃないわ』

「そうでしたか。では、そういった者たちを一時的に外へと出してあげるのは?」

『それも提案したのだけれど、美味しい果実がたくさん手に入るこの里を離れるのも嫌だって。みんな〝狩り〟に怯えて不安な生活を暮らしていた反動で不満を言っているだけよ。とりあえず無視しておきなさい』

「わかりましたが……本当にいいのですか?」

『いいのよ。ここにいれば食べ物に困ることは無いし、戦闘訓練相手だってたくさんいる。力の弱い者たちも怯えて暮らす不安がない。縄張り争いの必要だってないわ。むしろ、シントとリンの魔力に合わせて里が拡張されていっているせいで自分たちだけが住んでいていいのか困っているくらいよ?』

 そうですか、そんな状況だったんですね。

 でもそうなると、春頃から出ていた問題は?

「メイヤ、移住希望者の件ってどうなっています?」

『悪意がないか調べて少しずつだけど受け入れているわ。里だけが無駄に広くなって住民ががらがらというのもね……』

「メイヤには苦労をかけています……」

『幻獣などの管理なんて契約者や守護者のあなたたちでもできないでしょう? 里の神樹の聖霊で管理者の私がやるのが一番なの。あまり気にしないでおきなさい』

「そうさせていただきます。……ところで、シルキーの数、増えていませんか?」

『増えたわよ? 美術館に海族館が増えたからそっちの掃除をするためのシルキーを追加で招き入れたわ。彼女たちも掃除のしがいがある建物を任せられて大喜びね』

「……僕の家でも毎朝と夕方に少量ずつパンを焼いていてくれますが、便利に使いすぎていませんか?」

『シルキーは家事ができれば満足な妖精だから放っておきなさいな。感謝しているでしょ?』

「それはもちろん。彼女たちが来てくれてからすべての家事をやらなくても済んでいますから」

『それだけで十分よ。まあ、彼女たちからも困った要望が出てきているのだけれど……』

「シルキーたちの要望ですか? 簡単なものなら応じますよ。普段のお礼に」

『牛を飼いたいそうなのよ。乳を搾っていろいろな料理を作るために。あと野菜畑も作りたいそうだわ』

「牛ってなんでしょう? そしてシルキーって家事の妖精なんですよね? なんで野良仕事までしたがっているんですか?」

『牛は食肉として供給されることもあるけれど、その乳を搾って飲んだりいろいろな食品を作ったりできる家畜よ。野菜栽培をしたがっているのは、あなた方に果物以外のお料理を食べさせたがっているのね』

「僕は果物だけでも十分なんですが……」

『シルキーとしてはそれが不満らしいのよ。肉料理はともかく、野菜料理すら食べない……と言うか自分たちの料理を食べてもらえないというのが』

 シルキーたちって一体……。

 まともな食事を与えられずに生きてきた僕は首をかしげてしまいますし、同じような生活だったリンも困った顔をしています。

 ミンストレルもよくわからないような顔をしていますし、少しだけ理解がありそうなのはディーヴァだけですか。

 少し彼女に聞いてみましょう。

「ディーヴァ、果実だけの食事というのは問題なのでしょうか?」

「私もいままで用意された食事を食べていただけなのでなんとも言えませんが……里にいた頃は野菜も食べていました。メイヤ様の果実ほど美味しくはなかったのですが、いろいろな味のお野菜がありましたね」

「なるほど。シルキーたちはそれも知ってもらいたいのでしょうか?」

「そこまではわかりかねますが、木の実一辺倒のお食事だけではなく豊かな大地ですのでいろいろと味わっていただきたいのでしょう。……正直に申しますと、ミンストレルにも木の実以外の作物を食べさせてあげたいところです」

「そうなんですね。では、次にフロレンシオへと行ったときには野菜の種苗も買ってきましょうか」

『その方がいいでしょう。私が品種改良をしてあげるから、みずみずしくて苦みが少なく甘い野菜が食べられるわよ。あとは……油の原料にできるような種などがあれば食用油も作ってあげる』

「食用油?」

『オリーブやごまなどを絞って作った食べ物を焼いたりする時の調味料よ。ああ、でも、ローズマリーがいるのだからひまわりを咲かせてもらってその種からひまわり油を作るのが一番早いわね』

「よくわかりませんが……手に入りそうだったら買ってきます」

『そうしてちょうだい。本当は圧搾機とか道具が必要なのだけど、聖霊である私なら素材だけあれば油を作り出すことができるから』

「……聖霊も大概いろいろなことができますよね?」

『聖霊だもの』

 メイヤとの付き合いも1年以上ですが植物関係については本当に万能です。

 自分で新しい花や木を生み出すことはできないようですが、そちらはアルラウネのローズマリーやドライアドのツリーハウスに任せているようですし。

 果物園だって設備は僕が創造魔法で作りましたが、種や苗、苗木を植える以外の作業はすべてメイヤがやってしまいました。

 新しいものを生み出すことは苦手なようですが、一度覚えたものを改良するのは得意なようですし、なんというか万能です。

『さて、朝食も食べ終わったところで新しい……と言うか遂に私でもせき止められなくなった問題の解決に出向いてもらいたいの』

「それってひょっとして……」

『アクエリアたちの湖に魚などが住み着かない問題よ。アクエリアも困っていて対処して欲しがっているのよ。力を貸してあげて』

「わかりました。〝狩り〟の対処では散々お世話になっていますし、できる範囲で力になってきます」

「シント、私も行くからね。また、オーバーワークを起こしたら困るもの」

『そこまで無理しなくてもいいのだけれど……ともかく、話を聞いて調査をお願い。それでもだめだったら諦めもつくでしょうし』

 はあ、遂に来ましたか。

 僕もリンもついでに言えばディーヴァとミンストレルも水場事情には疎いのに。

 どうやって解決しましょうか、この難題……。
 ともかく状況がわからなければどうにもできないのでアクエリアたちの暮らしている湖を見に行くことにしました。

 最初はかなり近場に作っていたはずなんですが、いつの間にかこの湖も距離のある場所になってしまっているんですよね……。

 こんなところでも神樹の里の広がりを実感できます。

『ああ、契約者、守護者。来てくれたのですね』

「ええ、メイヤに頼まれて」

「でも、私たちも水場の環境には疎いよ?」

『それでも構いません。なにか参考になる意見があればと思い……』

「まあ、そういうことでしたら。いろいろお世話にもなっていますし」

「うん。どこまで力になれるかわからないけれど」

『いえ、すぐに解決するだなんて誰も考えておりません。ひとまず私たちの湖へ』

 アクエリアに案内された湖は、なんというか清浄な水がたまっている湖でした。

 それこそ、汚れひとつ浮いていないほどの。

「アクエリア、あなた方が暮らしていた湖ってこんなに綺麗だったのですか?」

『はい。昔住んでいた湖も同じくらい綺麗でしたよ?』

「それでもお魚とかは住んでいたの?」

『ええ、普通に暮らしていました』

 つまり、綺麗すぎて住みつけないのではないのですね。

 弱りました、本当にお手上げです。

『なにかいい手は浮かびませんか?』

「期待されているのはわかるのですが、僕は田舎の村暮らし。湖どころか池にすら行った試しがありません」

「私も逃亡者のエルフだったから泉で身を清める程度にしか使ってなかったしなぁ……」

『そうですよね。普通のヒト族ではそれが普通でしょう。ですが、私たちは豊かな水場の生態系というものも作りあげたいのです』

「うーん、どうする、シント?」

「困りましたね。水に詳しいことで一番詳しいはずのアクエリアから相談を受けている。それだけでもかなりの非常事態なのですが……」

『どうにかなりませんか?』

「うーん……」

 なにがいけないんでしょう?

 海にはあんなにたくさんの生き物が住み着いているのに。

 こうなったらマーメイドさんたちにでも聞いてみますか。

「マーメイドさんたちのところに行ってみましょう。彼女たちならなにか詳しい話を聞けるかもしれません」

『水の五大精霊として水の精霊に頼るなど……しかし、そうも言っていられないのが現状ですね。わかりました。海エリアに行きましょう』

「つまらないプライドなど捨てましょう。本当に困っているのなら」

「そうですよ、アクエリア様。私なんて、森にいる間も追放されてからも食いつなぐのがやっとでしたのに」

『……申し訳ありません。五大精霊だからと傲慢になっておりました。ともかく、マーメイドやマーマンたちに話を伺いへと行きましょう』

「それがいい。行きましょうか」

「うん。行こう」

 そういうわけでして、僕たちは湖エリアから海エリアに移動。

 そこでは……あれ?

 海族館には既に誰もいませんね?

 案内役のマーメイドさんたちものんびりしていますし。

「マーメイドさんたち、海族館を訪れる幻獣などはもういないんですか?」

『あ、契約者様と守護者様。そんなことはないですよ? 私たちの海族館では人数を区切り案内役をつけての行動になります。どうしても人数制限が厳しいんですよ。それに日が傾き始めると魚たちの行動も変化してきますし』

「なるほど。それで、もう誰もいなかったんですね」

『そうなります。申し訳ありませんが、事情を説明してお帰り頂きました。代わりに日時指定の案内予約を取り付けておりますので、その時間帯に来て頂ければ確実に案内させて頂くとも伝えてあります』

 マーメイドさんたちは本当に考えて行動しています。

 ……こう言っては悪いですがアクエリアとは大違いですね。

『それで、契約者様と守護者様はどういったご用件でしょう? また海の中が見たくなりましたでしょうか? 魚たちの行動パターンが変化しているので、どの程度会えるかはわかりませんがそれでもよければご案内いたします』

「いえ、本題はアクエリアからの依頼です。湖にも魚たちを住まわせたいそうなのですが、なかなかうまくいかず困っているとかで」

『ウンディーネ様が。水の最高位精霊様でも苦労なさるのですね』

『……はい、まことに無様なのですが神樹の里が平和になったあと、汚染されていない湖と空間をつなげて何度も魚を呼び寄せてはいるのです。ですが、すぐに逃げ帰ってしまい……』

『……想像以上の難事では?』

「はい。僕たちでは解決できそうもないためマーメイドさんたちの知恵を借りられればと」

『うーん、そう言われましても……私たちも同じような方法でいろいろな場所に転移用の穴を開けて魚を呼び寄せているんです。貝などは私たちが拾ってきて定住させてものもありますが、魚のような生物は自分たちからこの海を選んで定住してくれています』

『……話を聞くだけでうらやましい限りです』

『ウンディーネ様からうらやましがられても……あと、この海って冷たい海域も暖かい海域もいろいろあるじゃないですか。だからそれぞれの海域にしか生息しない生物たちも進んでやってくるんですよ。大半はこの海の豊富な資源を気に入って帰ろうとしませんけど……』

『まったくもってうらやましい限りです』

『ええと……ウンディーネ様も海中散歩に行かれますか?』

『是非に。どれほどの生物たちが生息しているのか見てみたいですし、なにかヒントがつかめるかもしれません』

『ではどうぞ。……あの、契約者様と守護者様も一緒に来てください。ウンディーネ様だけではプレッシャーが』

「ついていきますよ」

「私たちもこの時間の海って気になるものね」

 こうしてアクエリアも伴って行われた海族館での散歩。

 この時間でも様々な生き物が確認することができ、なにかあるごとにアクエリアは「うらやましい」とつぶやいていました。

 アクエリア、案内役のマーメイドさんが怯えているから止めなさい。
 結局、海の生態系を見に行っても収穫はゼロ。

 アクエリアがうらやましがって終わるだけの結果になりました。

 あとで、案内してくれたマーメイドさんにはしっかり謝っておきましたが……。

 さて、そうなってくるとどこが悪いのか。

 とりあえず、今日もメイヤの元で朝食です。

『……その様子だと相当な難問のようね』

「難問なんて問題じゃありません」

「マーメイドたちに頼んで海の中も見せていただきましたが、なんの解決策も見つからず……」

『困ったわ。私も神樹の聖霊だから水の中までは管轄外なのよ。水が管理領域のはずである水の五大精霊ウンディーネさえわからない難問など、私になんとかできる問題じゃないわ』

「ですよね……」

「困りました……」

 となりからディーヴァとミンストレルも不安そうにのぞき込んできますが、ふたりも水辺のことは知らないのでいい案がなく、どうしようもありません。

 仕方がないので今日も湖エリアへと向かいますが……どうにかなるでしょうか?

 朝食後に湖エリアに行くとアクエリアがなにか考えごとをしているような顔で待っていました。

『アクエリア、なにか思いつきましたか?』

「ああ、契約者。昨日、海の中を見てきましたが、海の水は常に変わり続けているじゃないですか。それが原因なのではないかと」

「水が変わり続けている、ですか? アクエリア様?」

『はい。私たちの湖では水の出口、つまり〝川〟が一切なかったので水がたまったままの状態を保ち続けています。それに川を作れば淡水系の魚たちもやってくるのではないかと』

「なるほど。ですが、川とはそんな簡単にできるのですか?」

『……イメージを送りますので創造魔法でお願いいたします』

「構いませんが……川とはどこに流れ着くのでしょう?」

『山の中に染みこむ場合もありますが、基本的には海へと流れ出します』

「それ、先にマーメイドさんたちの許可がいりますね」

『……ですよね』

「五大精霊だからって勝手になんでもやろうとしない。ここは幻獣や精霊、妖精たちが共生する場所です。一部の力が強いものが横暴な真似をし出すとメイヤが排除しますよ?」

『……メイヤ様には私たちでもかないません』

「なら、何事もまず相談して許可を得てからです。海エリアに行きますよ」

 まったく、アクエリアも焦っているのか物ごとを急いで進めようとしすぎです。

 とりあえず、アクエリアを伴い海エリア、海族館前にやってきましたが、そこには順番待ちの住民たちが集まってなにかを食べていました。

 緑色の海藻みたいですがあれは?

『おや、契約者様と守護者様。それにウンディーネ様も。今日はなんのご用ですか?』

「マーマン。いえ、アクエリアが川を作りたいと言い出したものですから来たのですが……あの幻獣などが食べている緑色の草みたいなものは?」

『ああ、海藻の昆布です。切り取って天日干しするとああなります。かみ応えがあり適度に塩分が乗っていて独特の風味もありますから時間待ちにと提供してみたら好評でして』

「それって今後も提供できるだけの量があるのですか?」

『……メイヤ様のお力で海藻も大量に増えていきますから』

「……申し訳ありません」

『契約者様はお気になさらず。それで、ウンディーネ様は川を作りたいのでしたね』

『はい。川を作るにあたり、どこか海と繋がってもいい場所を教えていただきたく』

『なるほど。それでしたら、あの崖の上にはつなげられますか?』

「崖の上?」

 マーマンが指さした方向には海の上にある少しだけ高い崖がありました。

 崖の上に川をつなげるとは一体?

『なるほど。滝を作るのですね?』

『はい、ウンディーネ様。来場者には変わったものを見せて差し上げたいので』

「あの、〝滝〟ってなんでしょうか?」

『契約者様はご存じありませんか。と言うことは守護者様も?』

「申し訳ありません、不勉強で」

『いえいえ、おふたりの境遇は里にいる幻獣や精霊、妖精たちみんなが知っていることです。不勉強だなんて感じませんよ。〝滝〟と言うのは簡単に言うと水が高い場所から低い場所に落ちる場所のことです。それも流れ落ちるというような緩やかなものではなく、本当に落下するほどの急な勢いで』

「それは確かに変わったものでしょうね」

「私も楽しみです」

『滝の周りでは水も飛び散ります。場合によっては〝虹〟も見えるかもしれません』

『〝虹〟とは光が水などに当たって様々な色に分解されたものを指します。いつでも見ることができるかはわかりませんが、条件が揃えば見ることもできるでしょう。神樹の里は常春で雨が降ることもありませんからね』

 そう言えば、雨が降っている様子を確認したこともこの1年以上ありませんでしたね。

 気温や天候管理はすべてメイヤがやっているはずなので、僕らが暮らしやすいようにしてくれているのでしょう。

 でも、そうなると、水を飲まなければいけない住民たちはどうしているのか?

 これもメイヤに確認しなくちゃいけませんね。

「マーマン、アクエリア、説明ありがとうございます。それで、川を作るのは問題ないのでしょうか?」

『構いませんよ。ただ、あまりにもたくさんの水が流れ込まれても困りますが……』

『そこは私の方で調整いたしますよ、マーマン。川を作る許可をいただきありがとうございます』

『この程度でしたらお安いご用です。……それにしても淡水の魚たちが住み着きませんか。困ったものですね』

『……はい。〝王都〟との戦いの最中は気に留めておりませんでしたが、平和になってしまうとどうしても気になって』

『心中お察しいたします。私どもの海では、〝決戦〟前から様々な生き物が住み着いていましたので……』

『……うらやましい』

「はいはい、アクエリア。うらやましがっても始まりません。湖に戻りますよ」

「そういたしましょう。マーマン、ありがとうございました」

『いえ。契約者様と守護者様もまた遊びに来てください』

 とりあえず、またマーマンを威嚇し始める前にアクエリアを引っ張って湖エリアへ帰りましょう。

 まったく、海の環境がうらやましいからってマーメイドやマーマンに嫉妬しても意味がないでしょうに。
 なんだか駄々っ子のようになり始めたアクエリアを連れて湖へと戻ってきました。

 とりあえず、川造りの許可もいただけましたし、作業開始……のつもりだったのですが、今度はアクエリアがいじけ始めています。

『……私の湖の方が先にできていたのに……普通の湖に繋がるゲートだって用意してあったのに……魚たちが1匹も住み着いてくれないだなんて』

「はいはい、アクエリア。わかりましたから川を造り始めましょう」

「そうですよ。昼食はメイヤ様からいただいている木の実で住ませますが、夕食になってもメイヤ様の元に戻らないと今回怒られるのはアクエリア様ですよ?」

『うう……メイヤ様に怒られるのも怖い……わかりました。始めましょう。イメージを送ります』

 アクエリアから送られてきたイメージは……結構複雑ですね?

 川も一直線じゃありませんし、周囲は岩で覆われるように指定されています。

 ところどころ池もありますし、これはなにに使うのでしょうか?

『ご説明は必要ですよね?』

「よろしくお願いします。なんで曲がりくねっているのかも、岩で側面を固めているのかも、途中に池があるのかもまったくわかりません」

『まず、曲がりくねっている理由です。川が一直線になると水が一気に流れ落ちていくのですよ。それを避け、ゆっくりと進ませるために川を曲がりくねらせています』

「川が曲がりくねっている理由はわかりました。岩をくりぬいたイメージで川を造るのは?」

『普通に大地をえぐり取っただけだと水の流れで土が削り取られ、段々川がまっすぐになっていってしまいます。自然とそういった土や砂が集まってできる地形もありますが、海に近いですし余計な砂などは流し込みたくはありません。……岩も少しずつですが削られていってしまうのですが』

「なるほど。最後の池はなんですか?」

『川の流れをゆっくりにするための休憩場所のようなものです。そこでも魚たちを呼び寄せられないか検証ですね』

 川造りっていろいろ考えているんですね。

 ただ、一直線に水を引き込むだけではだめですか。

 そうなってくると……。

「アクエリア。この川って湖側から造っても大丈夫なんですか?」

『湖に繋がる場所を最後に造っていただければ。水が流れ込んでしまうと創造魔法といえども大変ですよね?』

「大変ですね。それにしても森の中を移動しながらの川造りですか。意外と時間がかかりそうです」

「シント?」

「……はい。明日はお休みですよね。わかっています」

 リンが一緒について歩いているのは僕の監視役でもあるんですよね……。

 とりあえず、無理をしない程度に頑張りましょう。

 まずは、指定されたあたりまで森の中に分け入って、湖に繋がらない位置から創造魔法を発動と。

「アクエリア、これで大丈夫ですか?」

『ええ、その程度の幅と深さがあれば十分です。あとは、それを少しずつ下に下に掘り下げていくように並べていただければ大丈夫ですね』

「……結構難しいですよ?」

『ああ、深くなりすぎてもいけません。次の岩を配置するときもっと深くしなければいけなくなりますので』

「……とっても難しいです」

「アクエリア様。あまり無理をおっしゃるようでしたらシントを連れ帰りますからね?」

『……創造魔法でも難しいですか?』

「創造魔法は僕のイメージした通りのことしかできません。やれるだけやってみますのでアクエリアはその都度確認を」

『お任せください』

 そのような感じで始まった川造り。

 アクエリアからのダメ出しとリンからの牽制の綱渡りが続く中、完成したのは全体の半分ほど。

 続きは翌々日ということになり、この日はリンが僕を普段以上に甘やかして寝ることとなりました。

 そして、休息日を挟んでの2日目。

 この日もアクエリアとリンの駆け引きが続く中、夕暮れ前に海までつなげることに成功しました。

 湖まで戻り湖と川をつなげると、そこから水も流れていきアクエリアによれば途中途中に造った池で時間はかかるだろうがやがて海まで流れ着くだろうとのことです。

 ともかく、川造りは完了。

 流れでて少なくなっていく水は湖の精霊などがその都度補充するそうです。

 便利ですね、精霊って。

 そして、完成したことをメイヤに報告しましたが、あまり表情はよろしくありませんでした。

『そう、川造りは終わった訳ね』

「はい。2日後くらいに様子を見に来てほしいと言うことでしたので、そのときに状況を確認しに行きますが……それだけではだめでしょうか?」

『うーん。なんとなくだけど、だめなような気がしてならないのよね』

「メイヤ様、理由がわかっているのでは?」

『わかっていたら教えるわ。わざわざあなた方を出向かせるような真似はしないわよ』

「そうでしたか。疑って申し訳ありません」

『いいえ、気にしないでちょうだい。それにしても海は生態系豊かなのに湖はまったくなにも生息していないって言うのはねぇ……』

「アクエリアもそこが気に入らないみたいですね」

『……あの子も〝水の五大精霊〟なのだから焦らなければいいのに。まったく、困ったものよね』

「あはは……まあ、僕が動く分には気にしませんが……」

『契約者を動き回している時点で問題よ。あの子たち、それを理解しているのかしら?』

「最初に働かせ始めたのは音楽堂造りをメイヤが依頼したところからですよ?」

『……さて、夕食にしましょう』

「話をごまかさないでください」

 まったく、メイヤだって僕を働かせているというのに。

 僕もただ暇をしているよりよっぽどいいので、進んで協力しますが……今回は難題ですね。
 さて、約束の2日が過ぎてアクエリアたちの湖の様子を見に行きましたが……落ち込んでいると言うことはだめでしたか。

『……契約者と守護者、どうすればいいのでしょう』

「念のために聞きます。だめだったんですね?」

『はい。湖も池もだめでした。池の方がより長く留まってくれるのですが、それでも帰っていってしまいます』

「あの、失礼ながら、アクエリア様。私たちにも限界が……」

『承知の上でお願いしております。なにか知恵はありませんか?』

 知恵と言われましても……。

 うーん……。

「念のために聞きたいのですが、アクエリアが前に住んでいたという湖? 泉? は魚がいたんですよね?」

『はい。たくさんおりました。〝王都〟の人間どもがヒュドラの毒を流し込んだので全滅したでしょうが……』

「その湖ってここより綺麗でしたか?」

『私の暮らす湖です。ほぼ同じ水質と純度を保っております』

「じゃあ、濁っていたとかそういうこともないんですね?」

『もちろんです。湖に人間たちが流してきた汚れが入り込んできたら、その都度浄化していました』

「うーん、そうなってくると本当に浮かんでくるアイディアがないのですが……」

『そうですか……守護者は?』

「私は逃げ回るときの汚れを泉や池で落とし水を汚したり魚を捕まえて食料にしたりする側でしたから……」

『……残念です。海はあんなに豊かな生態系を保つことができているのに、湖は魚1匹住み着かないのでしょう?』

「いや、僕たちに聞かれても……」

「水のことはアクエリア様が専門ですよね?」

『そうなのですが……』

 アクエリアにアイディアがないのでは僕たちに浮かぶアイディアなんてありませんよ?

 それにしても海ですか。

 あちらはなぜあんなにも魚がいるのでしょうか?

『弱りました。本当にいい案が思いつかない……』

「僕たちはもっとですからね?」

「水の生き物のことは専門外ですよ?」

『ですよね。湖にいる精霊や妖精たちにも話は聞いているのです。でも、みんな理由がわからないと言うばかりで……』

「それは仕方がないのでは?」

「五大精霊のアクエリア様でわからないことを解決できるのでしたら、誰かが教えてくださいますよ」

『そうですよね……』

 さて、本当に困ったものです。

 どうして湖に魚が1匹も住んでくれないのでしょう?

 普通なら1匹2匹住んでくれてもいいような……。

 この里にだって幻獣や精霊、妖精たちがたくさん集まっていますし、移住希望者はたくさんいるそうですし。

 本当に訳がわかりません。

 そう考えていくと、生き物に必要なものが足りないとかそういうことでしょうか?

 幻獣とかは究極的には大気中の魔力だけでも生きていける種族も多いそうですし。

 僕やリンだってメイヤと出会う前は食べ物や飲み物に苦労していました。

 そう考えていくと、詳しい知識を持っていそうなのは……また海の皆さんですね……。

「アクエリア、海エリアに行きましょう」

『海に、ですか?』

「水に関わることで湖関係の精霊たちがだめなら海の幻獣や精霊たちでしょう。ほら、早く行きますよ」

『はい。それでなにかわかるのでしたら』

 アクエリアを伴いまた海エリアへ。

 そこでは順番待ちの方々がまた昆布をガジガジ梶って楽しんでおり、整理役のマーマンさんがいてくれました。

 誰かを呼ぶ必要がなくて助かります。

『ようこそ、契約者様、守護者様、ウンディーネ様。また来られたと言うことは……』

「はい。川を造っただけではだめでした」

「それで、魚がたくさん住んでいる海に詳しそうなあなた方に話を伺えればと」

『なんでも構いません。教えていただけますか?』

 これにはマーマンさんも困り顔です。

 さすがに言い知恵は浮かばないのでしょう。

『うーん、困りましたね。私たちも海藻類や貝を運んではきましたが、魚たちは呼び込んでいないのですよ。ただ、世界各地の海に繋がっているゲートを作っただけで』

『やっていることは私たちの湖と同じですか……』

『そのようですね。入場予定者が全員帰ったあとでしたら海族館をもう一度ご案内いたしますがいかがなさいますか?』

『そうしていただけますか? 私たち湖の精霊や妖精だけではどうしても答えがわからず……』

『かしこまりました。それではまた後ほどお越しください』

『そうさせていただきます』

 そのあと、僕とリンは昼食を食べ適当に時間を潰してからアクエリアを誘って再び海エリアにある海族館へ。

 この時間になるともう入場者はすべて帰ったあとですからね。

『お待ちしておりました。契約者様、守護者様、ウンディーネ様』

「お手数をおかけいたします。マーメイド」

「前回の案内だけで解決だったらよかったんだけどね……」

『申し訳ありません。もう一度ご案内をお願いいたします』

『いえ、気にしておりません。こちらへどうぞ』

 マーメイドには再び海族館の中を案内してもらいました。

 いつ来ても綺麗ですね、海族館は。

 それにしても海だけはどうしてこんなに賑やかなのでしょう?

「マーメイド、マーマンにもした質問を繰り返すようで悪いのですが、世界各地の海とゲートを繋いだ以外特になにもしていないんですよね?」

『はい。海藻類や各種貝、海底にはりついて暮らす生物は持ち込みました。あと珊瑚も根付かせたりしましたがそれくらいです。あとは自然と住み着きましたね』

「そうですか。ところで、魚ってなにを食べて生きているんですか? 大きな魚はそれよりも小さな魚を食べていると聞きました。小魚の類いはプランクトンというものを食べているんですよね? それらはどうやって?」

『それらも自然と外界か流れ込んできました。それ以上に海藻やプランクトンがいなければ海の生物が住み着けませんから』

「そうなんですか?」

『契約者様はご存じない言葉かもしれませんが自然の生物は皆、〝食物連鎖〟というつながりを持って生きております。より小さな生物を大きな生物が食べていき、大きな生物が死んだあとの死骸は小さな生物の栄養源とされ分解される。そういう仕組みです』

「なるほど。プランクトンがいないと小魚たちの食事ができないと」

『はい。あとは……水の中に空気が足りなくなります』

「水の中って空気があるの?」

『ありますよ、守護者様。ただ、水の中にあるため鼻から吸うことはできません。〝エラ呼吸〟と申しまして、吸い込んだ水の中から必要なものだけを取り出す仕組みがあるんです』

「そうなんですね。僕たちには知らないことばかりです」

「本当に。私たちって本当に田舎者なんだよね」

『知らないことはこれから覚えていけばよろしいのですよ、契約者様も守護者様も』

「ありがとう、マーメイド。……そう言えばアクエリアが先ほどから黙っていますね?」

「本当だ。どうなさいましたか、アクエリア様?」

『……私たちの作ったゲート。〝魚〟は通れますが〝プランクトン〟は通れません』

「……アクエリア」

「あの、それでは食事ができませんよ?」

『それに、水中にも植物がないので呼吸ができないはずです』

「……」

「……アクエリア様、それでは魚もなにも住めません」

『申し訳ありません。至急、メイヤ様の元に向かい植物性プランクトンと水中に生える草を用意していただきます! それではまた!』

 アクエリアはそれだけ言い残して行ってしまいました。

 そうですか、そもそも魚が生きることができない環境でしたか。

 それは1匹たりとも住み着きませんよね……。
 アクエリアたち湖の精霊、妖精たちのうっかりというかなんというかが判明し、僕たちはやることもなくなったので少し早いですが神樹の元へと戻りました。

 神樹の元には少し疲れた表情のメイヤがいますね。

『ああ、お疲れ様。根本的な原因はわかったようね』

「わかったらしいですね」

「魚だけ呼び込んで呼吸も食事もできないのでは逃げ帰ると思うんです、メイヤ様」

『私も同じ意見よ。アクエリアたちの方が詳しいし湖の環境整備はしていると考えていたのだけれど……まさか、なにもしていなかっただなんて思いもよらなかったわ』

「メイヤ、どうしてあげたんですか?」

『植物性プランクトンは私の力でなんとかなるからある程度の量を湖や池の中に作ってあげたわ。あとは水中に生える水草なども用意してあげた。基本はそれくらいね。それだけで十分とも言えるのだけれど』

「ここ数日の私たちってなにをしていたんでしょうか?」

『……アクエリアに振り回されていただけね』

 疲れました。

 今日は本当にリンへと甘えてしまいましょうか……。

「ねえ、シント。少し甘えてもいい?」

「リンも甘えたくなりましたか……」

「シントも甘えたい?」

「ええ、とても」

「じゃあ、夜はシントが甘えてもいいから夕食までは私に甘えさせて?」

「そういうことなら。甘えさせてあげますからしがみつくなりなんなりしてください」

「やったぁ!」

 リンは僕の左腕にしっかりとしがみついてきました。

 顔も擦り付けてきていますし、本当に甘えん坊モードです。

 それにしても……。

「なんでアクエリアは基本的なことにすら気がつかなかったのでしょうね?」

「よくわかんない。メイヤ様は理解できますか?」

『私にもちょっと……そもそも魚しか通れないゲートってほかの淡水系生物はどうするつもりだったのかもわからないし……』

「淡水系の生物ってそんなにたくさんいるんですか?」

『いるわよ。海族館では見る機会がないけど、海にはもっといろいろな生き物が生息しているし。湖や泉、沼なんかにもいろいろと生物はいるわ。それにそういう場所にしか咲かない花もあるからね』

「そうなのですね。メイヤ様、湖も賑やかになるのでしょうか?」

『なるでしょうね。根本的な原因が取り除かれれば魚や水生生物にとって住みよい環境のはずだし、いろいろな魚が住み着くんじゃないかしら?』

「シント、海族館みたいな建物の依頼が来ても受けちゃだめだよ?」

「僕もこれ以上アクエリアにはしばらく振り回されたくありません。アクエリアには申し訳ありませんが1年以上増設などは待ってもらいましょう」

『その方がいいわね。あの子、調子に乗って新しいお願いもしてきていたし』

「新しいお願い……」

 嫌な響きですが内容だけは聞いておきましょう。

 内容だけは。

『川をもう一本造ってほしいそうよ。今度は滝に繋がる川じゃなくて、なだらかに海へ繋がる川が』

「お断りしたいのですが理由だけは聞いておきましょう」

『川魚ってね、産卵だけ川でして育つときは海で育つっていう種類がいるのよ。それらの生息域を確保するために新しい川がほしいそうよ?』

「……それ、作らなくちゃだめですか?」

『少なくとも秋までは待つように伝えたわ。そのあとはあなた方がやりたくなったら手伝ってあげなさい』

「1年はシントを貸したくありません」

「僕もアクエリアがらみの依頼はちょっと……」

『アクエリアも今回はあなた方を振り回しすぎたものね。少し反省してもらわないと。ふたりとも果樹園に行って果物でも食べてきたら? 夕食まではまだ時間があるわよ?』

「……動くのも面倒な気持ちなんですよね」

「私もシントに甘えていたい気分です」

『本当にアクエリアは反省ね』

 そのまま僕とリンは神樹に寄りかかって寝転び、気がついたら本当に眠ってしまっていました。

 メイヤに起こされたのはディーヴァとミンストレルが来たときで、ディーヴァからは「よほど疲れていたのですね……」と心配されてしまい……なんだか申し訳ありません。

 本当に気疲れしていたんですよ……僕もリンも。

 夕食後はふたり仲良く温泉につかりもたれ合いながら疲れをとり、そのまま寝間着に着替えたら部屋のベッドで一緒に寝ます。

 いや、本当に疲れた数日間でした。

 そして翌朝もシルキーが焼いてくれた一口サイズのパンをいくつか食べて神樹の元へ向かい朝食です。

 朝食ですが……メイヤから面倒くさいお願いをされました。

『シント、リン。湖に魚たちが住み着いたそうだから見に来てほしいんだって、アクエリアが』

「昨日の今日ですか……」

「はりきりすぎですよ、アクエリア様……」

『ゲートをたくさん作っていろいろなところから魚を呼び込んだようね。あと、焼き魚もごちそうしてくれるって』

「やりたい放題ですね」

「〝水の〟五大精霊様ですよね?」

『……海の魚だけ何度も振る舞われているのが悔しいらしいのよ』

「あの、メイヤ。神樹の里って段々おかしくなってきていませんか?」

『おかしくはなっていないわ。ただ、いろいろなものから解放された反動でいろいろ要望が上がってきてしまっているだけで』

「……つまり、まだまだ要望はあると」

『大丈夫よ。シントばかりに働かせないから。ちょうどアクエリア向けの要望も来ているし』

「アクエリア向けの要望ですか?」

『山エリアに渓流……つまり谷のある川を造ってほしいって依頼ね。マインにも頼んで土地の準備はさせるからあとはアクエリアに任せるわ』

「わかりました。ところで山とかに住んでいる皆さんは水などをどうしていたのでしょう?」

『山の中にも水の精霊たちが作った泉があるのよ。そこで水を飲んでいるわよ』

「それならよかった。……面倒ですがアクエリアたちのところに行きましょうか」

「行かなかったら家まで押しかけてきそう……」

『ごめんなさいね、ふたりとも。こんな大事になるとは思ってもいなかったものだから』

「いえ。行きましょう、リン」

「……今晩も甘えようか、シント」

「それがいいです」

 面倒くさいながらもアクエリアたちの湖エリアに行くと、本当に魚が住み着いていました。

 アクエリアは1種類1種類捕まえてきては丁寧に説明をしてくれてお昼時には〝美味しい川魚〟を食べさせてくれたし本当に美味しかったのですが……どうにも気持ちが付いてきません。

 なんでしょうね、このモヤモヤ感は……。
 アクエリアの依頼を片付けたあとは平和になりました。

 フロレンシオから買ってきた野菜の種もメイヤが品種改良をしてからシルキーたちが毎日食べる分だけを畑に植え、翌朝収穫して料理となり出してくれます。

 野菜料理もいろいろあり、生野菜をふんだんに盛り付けただけの〝サラダ〟というのもありました。

〝ドレッシング〟というものをかけて食べましたが、それだけでも味が変わって美味しかったです。

 ドレッシングの材料は油や果物それから〝酢〟というものらしいですが、いつの間にそんなものまで用意していたのか……。

 ともかく、シルキーによるパンと野菜料理を食べたあとは神樹のところに行ってメイヤたちと朝食です。

 今日はまだディーヴァとミンストレルが来ていないようなので、来るまでメイヤと話をして待っていましょうか。

『ふうん。シルキーたちは酢まで用意していたのね。用意周到なものだわ』

「酢というのは作るのが難しいのですか?」

『酒造りと似たようなものよ。パンといい野菜といい、シルキーはあなた方に果実以外の食べ物を食べさせたいようね』

「僕は果物だけでも満足しているのですが……」

「私もです、メイヤ様。毎日お腹いっぱい食べられるだけでも幸せなのに、いろいろなものまで食べさせていただくだなんて」

『シルキーもあなた方の境遇は聞いているのでしょうね。その上で、果物以外にも美味しい食べ物があることを知ってもらいたいのだと思うわ。彼女たちが好きでやっているのだもの、気が済むまで付き合いなさい』

「付き合うのは構わないのですが、なんだか申し訳ないです」

「はい。家事をしてもらっているだけでもありがたいのに、食事まで用意してくれるだなんて」

『それだけあなた方ふたりはシルキーにも愛されているということよ。感謝の心を忘れずに接してあげなさい』

「それはもちろんです」

「もちろん、感謝は忘れません」

『それで十分よ。さて、アクエリアの依頼からしばらく経ったけれど次のお願いを聞いてもらえるかしら? 本人たちは無理なら無理で構わないと言っているから軽い気持ちで聞いてもらいたいのだけれど』

「なんでしょうか? また困りごとでも?」

『困りごとというか……神樹の里の景観が寂しいっていう話が出ているのよ』

「そうなんですか、メイヤ様?」

『神樹以外に目立つものがないのも事実だからね。まあ、本人たちにとっては遊び場がほしいと言う理由もあるのでしょうが』

「遊び場……具体的に〝本人たち〟とはどのような者たちでしょうか?」

『風関係の者たちね。エアリアルとか』

 ふむ、エアリアルなどですか。

 欲しいものは〝遊び場〟ということですが……話だけは聞きましょう。

「それで、〝遊び場〟とはなにを求められているのですか?」

『〝風車小屋〟ね。ある程度の大きさがあれば目印にもなるし便利だろうって言うのがあちらの言い分』

「〝風車小屋〟?」

『あなた方は知らないでしょうね。風を受けて回る羽根の付いた小屋よ。私の聞いた話によると、ヒト族はその内部を機械状にして粉挽きができるようにしてあるものもあるらしいわ』

 ふむ、粉挽き。

 あれ、でも……?

「神樹の里に粉挽き装置っていりますか?」

『いらないわね。ヒト族が大量の麦を収穫して粉にするなら使うでしょうけれど、この里で粉を使うのはあなた方ふたりとエレメンタルエルフのディーヴァとミンストレルの4人だけ。それだってシルキーたちが必要に応じてやっていることだから大量の麦を製粉する必要も理由も意味もないわよ』

「……ではなんのために風車小屋を?」

『だから〝遊び場〟よ。風車の羽根を回して遊びたいだけなの。だから引き受けなくてもまったく構わないわけ。とりまとめはウィンディがやってくれるそうだけれど、どうする?』

「とりあえずウィンディに話を聞いてみましょうか。難しそうな依頼だったら諦めてもらうと言うことで」

『それでまったく構わないわよ。ああ、ディーヴァとミンストレルも来たみたい。朝食にしましょうか』

 メイヤの言う通りディーヴァとミンストレルがやってきたので朝食に。

 風車小屋の話題が朝食の場でも出たのでミンストレルが興味を持ち、ウィンディには4人で話を聞いてみることとなりました。

 ウィンディは特にいる場所を決めていませんから念話で呼びかけて神樹の元まで来ていただきましょう。

 呼び出すと彼女はすぐに現れました。

 さすが風の五大精霊、動きが速い。

『お呼びでしょうか、契約者』

「はい。風車小屋の件なのですが」

『申し訳ありません。私の方でもみんなに待ってもらうように言い聞かせていたのですが、遂に抑えが利かなくなりました』

「別に責めるつもりはありません。ただ、僕たちは4人とも〝風車小屋〟どころか〝風車〟というものも見たことがないんですよ」

『そうでしたか。では最初に私がイメージを送らせていただきます。その通りに小さな置物を作っていただけますか?』

「わかりました。……イメージもわきました。まずはこれを形作ればいいんですね?」

『はい。何回か回数は重ねていただきますが風車の仕組みをお教えします』

「では。……イメージ通りだとこういう建物になりますが合っていますか?」

 僕が作り出したのは4枚の板のようなものが中心で交わりそれが大きな建物に刺さっているもの。

 イメージ通りだとこうなのですが……。

『はい、形は合っています。次は……羽根が回るようにしましょう』

「羽根?」

『この板状の部分です。中心の軸でくるくる回るようにしていただければ』

「その程度でしたら。……これでいいですか?」

『はい。これが〝風車〟の原型です。本来でしたら風を送って回るようにするのですが、まだその域には達していません。指で回してみましょうか』

 ウィンディは〝風車の羽根〟をつまみ、指ではじきました。

 すると中心部分を軸に羽根がくるくる回っています。

 これには驚きました。

 そして、ミンストレルが遊びたがっていたのでそのままあげることに。

 これはまだ原型ですからね。

『次は風を受けて回る原理を教えましょう。お手数ですが、羽根の部分を曲げられるようにできますか?』

「曲げる?」

『はい。ミンストレルちゃん、一度貸してもらえる?』

「いいよ!」

『ありがとう。この部分の角度を指で変えるようにしたいのです。できますでしょうか?』

「中央部分と同じように回転させるようにできればいいんですよね? それなら可能です」

『よかった。ミンストレルちゃん、ありがとう。それでは契約者、お願いいたします』

「わかりました。……これでいいですか?」

『ええ、大丈夫です。羽根の角度は……これくらいかな? よく見ていてください、皆様』

 そう言ってウィンディが風車に風を当てると指ではじいたわけでもないのに風車が回り始めました。

 なるほど、これが風車の原理……。

『以上が風車の説明となります。小屋の部分は省略いたしますね。なにかを取り付ける訳でもないですし、頑丈で風を受けても動かない作りになっていれば問題ないものですから』

「わかりました。それで、これを作ればいいんですか?」

『はい。……ただ、サイズだけは大きくしていただかねばなりません』

「具体的にどの程度のサイズですか?」

『その……言いにくいのですが、森の木々の二倍程度くらい高さがほしいそうです。あと風車の羽根も森の木と同じくらいの長さがほしいと』

「……素材はなにがいいのでしょう?」

『それはなんでも構いません。小屋の部分はレンガで作っていただいても結構ですし、楽なのであればクリスタルでも大丈夫です。ただ、羽根は頑丈にしていただけると助かります。あと、よく回るようにしていただけるとなお』

「ウィンディも意外と注文が多いですね……」

『だめでしょうか?』

「可能な限りやってみます。だめでしたら諦めてください。あと、羽根の角度とかも大切ですよね、きっと」

『はい。角度が上手にできていないとよく回りません』

「では、そちらの実験もウィンディが手伝ってください。僕たちだけでは知識不足です」

『お手伝いできることならなんなりと。……正直、私も精霊や妖精からの要望で手を焼いておりますので一基でも作っていただければ助かります』

「では、その方針で。リンもそれなら構いませんよね?」

「うん。無理をしない範囲でなら」

『ご迷惑をおかけします、契約者、守護者』

 こうして次なる依頼〝風車小屋造り〟が始まりました。

 あと、風を送ると回る風車もミンストレルにあげることにします。

 彼女、すごく目がキラキラしていましたからね。