神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

 僕たち3人が神樹の里まで帰り着いたのは夕刻頃、そのままディーヴァとミンストレルが合流して夕食です。

 今日はベニャトも一緒ですが。

『ふむ、これからは定期的にフロレンシオに行きたいと』

「そうなります、聖霊様。どうかお許しを」

『シント、リン。あなた方の判断は?』

「毎週とかでなければいいのではないでしょうか? あの街ではよくしてくれた人間もいますし」

「私たち、ヒト族って悪人ばかりだと考えていたものね。ああいう善良な人がいるだなんて思いもしなかったよ」

『なるほど。それではベニャト、1カ月に二度だけフロレンシオに向かうことを許します。ただし、護衛としてシントとリンは必ず連れて行くように』

「え? そんなに行ってもよろしいのですか?」

『シントもリンも人の悪意に触れすぎていました。それを矯正するためにもいい機会です。この里にヒト族は招けませんが社会勉強になるでしょう。ふたりもいいヒト族と悪いヒト族がいることを忘れてはなりませんよ?』

「わかりました」

「気をつけます、メイヤ様」

『よろしい。それで、ベニャト。お酒の醸造装置? でしたか。それを作るためにはどれくらいかかるのです?』

「あー、その。俺が街に出かけられることを知ったそのときから作り始めているのであと2日もあれば完成かと」

『ドワーフはお酒のことになると手が早い。それで、原料になる種苗はどれくらい買ってくることができましたか?』

「はい。これだけでございます」

 ベニャトは買ってきた種と苗をテーブルの上に並べました。

 それをメイヤはひとつずつ手に取り品定めするように眺めていきます。

『……種や苗の作り方は覚えました。それから適切な栽培方法も。大麦は収穫しなければいけないので刈り取ることになりますがホップとブドウは多年草のようです。あなた方ドワーフに任せると無制限にお酒を造るでしょうから制限させていただきますが、3日に一度くらいは収穫できるように調整してあげましょう』

「えぇ!?」

『私は神樹の聖霊。植物に関することなら大抵のことは可能です。ただ、酵母でしたか。それは生物に関するもの。自分たちで増やしなさい。増やし方も聞いてきたのでしょう?』

「それはもちろん」

『では、そういうことで。シント、あなたは明日私と一緒に畑作りです。一から耕すのではなく創造魔法を使って耕してしまいましょう。そうすれば、すぐにでも育て始めることができます。明日は特別サービスとして私が一気に収穫できるところまで育てます。そのあとは3日後との収穫。あなた方がお酒を飲みたいと言いだしたのですから、それくらいは引き受けなさい』

「はい!」

『では、ベニャトに伝えることは以上です。ドワーフたちの元に帰っていまの話を伝えなさい』

「承知いたしました! 失礼いたします!」

 ベニャトは走り去っていきましたが……そんなに飲みたかったのでしょうか、お酒。

『ふう。これでドワーフの不満も解消されるでしょう』

「大丈夫ですか、メイヤ様。3日おきに収穫だなんて」

『無理そうなら一週間毎に頻度を下げるわ。ドワーフのお酒への執念はものすごいから軽々とこなしそうだけれど……』

「あの、メイヤ様。そんなに収穫をできるようにしては土地が痩せ細ってしまうのでは?」

『心配ないわよ、ディーヴァ。神樹の管理する神域だもの。農作物をいくら作ったところで土地が痩せ細ることなんてありはしないから』

「そうでしたか。……それでは、まことに勝手ながら私も食べたいものが」

『なに?』

「イチゴが食べたいのです。その……好きだったもので」

『イチゴね。イチゴ味の木の実は作れるけどそういう問題じゃないでしょう? シントとリン、次にフロレンシオに行ったときイチゴの種も買ってきなさい』

「そうしましょう。ディーヴァとミンストレルはほかに要望がありますか?」

「私はよくわかんない。果物ってあんまり食べたことがないから」

「私もガインの森で出されたものしか……」

『それならベニャトに言って買える範囲で果物の種や苗木などを買ってきなさい。私が果樹園にしてあげるわ』

「よろしいのでしょうか。毎日、食事として神樹様の木の実を頂いているのに……」

『たまには別のものも食べたいでしょう? さすがに肉はどうにもできないけど植物だったらいくらでも栽培してあげるわ。音楽堂の管理でシルキーたちもやってきているし、料理やお菓子作りも彼女たちに任せられるわよ』

「そこまでいろいろ頼るのは気が引けるというか……」

『シルキーって家事妖精なのよ。家事をすることがなによりの喜び。家で食べ過ぎない程度の料理とかをお願いすればもっと喜ぶわよ?』

「……そう言えばシルキーたちが来てから家の中がものすごく綺麗に掃除されていました」

「僕たちの家もですね。昔は創造魔法で掃除をしていたのですが、それよりもいつの間にかピカピカにされています」

 そうでしたか、全部シルキーたちの仕業。

 お礼をしたいのですが、多分家事をさせた方がお礼になるんでしょうね。

『なんだったら買える範囲の種や苗をすべて買ってきなさい。私がまとめて面倒を見るから。それらを見てシルキーたちにどんな料理が作れるか考えてもらいましょう』

「……投げやりでは?」

『シルキーって家事関連が大好きだからねえ……』

「種を買ってくるのはベニャトにお願いすればどうとでもなるでしょう。彼もお金にはこだわりがないようですし。でも、菜園を作ってどうするんですか? 食べる者がいませんよ?」

『あら、許可さえ出しておけば幻獣や精霊、妖精がおやつ代わりに食べるわよ? 彼らも変わった味には興味を示すでしょうし』

「……本当に投げやりですね」

『そんなものよ。なんだったら菜園の管理をするための者たちを招き入れてもいいし』

 メイヤが本当に投げやりです。

 なんだか面倒になっているのでは?

「メイヤ、本音を言ってください」

『……シルキーたちからもっと家事がしたいって要望が出ているのよ。ここで暮らしているヒト族ってあなた方4人だけでしょう? あなた方がいない間に掃除や洗濯などはしているらしいけど料理もしたいって』

「……そう言えば洗濯をしていないのに服もピカピカでした」

「私たち、知らない間に毒されちゃってたね」

「そう考えるとシルキーたちのためになにかお仕事を与えるのも悪くはないでしょうね……」

『そういうわけだから、次にフロレンシオへ行くときはいろいろな種や苗を買ってきて。あなた方が太らないような木の実は用意してあげるからシルキーたちにも存分に料理させるわ。あと、パンを焼くときは酵母も必要だからそっちも……シルキーたちなら自家製酵母を作れそうだから問題ないか』

 パンですか。

 僕は一回も食べたことがありませんがどういう味なんでしょう?

 そう考えると料理をしてもらうのも悪くないかもしれません。

 ともかく、まずはお酒を造るための準備からですけどね?
「いま棒を立てた範囲を大麦畑にするのですか?」

『第一段階ではその程度でいいのじゃないかしら? 大麦の収穫ってそれなりに大変だし』

「わかりました。イメージもマインから頂きましたし、サクッとやっちゃいますね」

 フロレンシオから帰ってきた翌日、早速畑作りのスタートです。

 最初は大麦用の畑から。

 想像していたより狭いようですが、フロレンシオで買ってきた麦の量を考えるとこの程度の広さ分しかまけないそうです。

 最初はお試しでしょうし我慢してもらいましょう。

「では始めます。……できました」

『さすがは創造魔法。イメージさえあれば作るのも早いわ』

「まあ、土を耕すだけですから。村でもたいして役に立っていなかったとはいえ小麦畑で働いていましたし」

『そうだったわね。ベニャトたち、大麦をまきなさい。土地に栄養はもう与えたわ。大麦をまき終わったら私が収穫できるところまで成長させてあげる。早くなさいな』

「はい、メイヤ様!」

 ドワーフたちがほとんど総出で大麦をまき始めました。

 そんなにお酒が飲みたかったんですかね……?

『まき終わった? じゃあ成長させてあげる』

「おお、大麦畑が!」

『神樹の聖霊にとっては造作もないことよ。次はホップ畑を作るからそっちの人員を残して大麦を収穫しておきなさい』

 次はホップ畑ですか。

 そちらのイメージはメイヤからもらいました。

 畑を耕したら支柱を用意するんですね。

 どんな植物なのでしょう?

 まずは畑を耕して……。

「メイヤ、支柱はこれくらいの高さですか?」

『そうね。それくらいの高さが必要だわ』

「これ、ドワーフたちが収穫するのは大変じゃないですか? 僕の背丈よりも高いですよ?」

『そこは踏み台なりなんなりを用意してもらって収穫してもらいましょう。物作りはドワーフの得意分野なのだし』

「メイヤ、昨日から投げやりになってませんか?」

『私、別にお酒には興味ないから』

「そうですか。それで、この次は?」

『ドワーフたち、ホップの苗を支柱の根元に植えていって』

「はい!」

 今回もまたせっせと苗を植えて回るドワーフたち。

 作業を終わらせるにはそれなりの時間がかかりましたが、すべての苗を植え終えた用です。

『それじゃあ、苗を育てるわ。蔓が伸び始めるからそれを支柱に右回りで巻き付けていきなさい。絡まらないように注意するのよ』

 メイヤが声をかけると本当に苗から蔓が伸び始めました。

 ドワーフたちはせっせと伸びてくる蔓を支柱に巻き付けていき、ある程度まで伸びきるとそこで伸びなくなりました。

 ドワーフたちの身長ではぎりぎり手が届くくらいの長さまで成長しているのですが……。

『それじゃあ、ホップの実をつけさせるわ。シント、踏み台を作ってあげて』

「構いませんが……なんのために?」

『ホップの実って先端付近に実るのよ。ドワーフたちの身長じゃ十分に収穫できやしないわ』

「なるほど。少し多めに踏み台を用意しましょう」

 ドワーフたちが持ち運びやすくそれなりに頑丈とするため鉄の踏み台を複数用意しました。

 不満があれば彼らがいくらでも作り替えるでしょうし今日はこれで我慢してもらいましょう。

『それじゃあ実を実らせるわ』

 メイヤが宣言すると蔓の先端に丸い玉のようなものができていきました。

 あれがホップの実?

『それがホップの実、毬花よ。ドワーフたちはそれを収穫して回りなさいな』

「はい、メイヤ様!」

『それじゃあ、午前中はここまでね。午後になったらブドウ畑も作ってあげる』

 どうやら午前の作業はここまでのようです。

 ドワーフたちも大麦やホップの収穫で忙しそうですからね。

 ブドウまで育てても収穫できないでしょう。

『それじゃあ、シント戻りましょう。午前中は時間が余ってしまったけれどどうするの?』

「訓練をしてきます。勘が鈍ってもいけません」

『わかったわ。お昼を食べたらブドウ園作りね』

「畑ではないのですか?」

『ブドウは果物だもの。果樹園の一部よ。そう考えると種を持ち帰ってシントやリン、ディーヴァにミンストレルのおやつ用にも作りましょうか』

「僕はどちらでも構わないのですがミンストレルには喜んでもらいたいですからね。そうさせていただきましょう」

『今回、護衛に着いた報酬として少しブドウの種は分けてもらいましょうか。ドワーフはあまりワインを飲まないと聞くし』

「そうなんですか?」

『私が聞いた話だとエールの方が好きだそうよ。とりあえず、あなたは訓練に行ってきなさいな』

「そうさせてもらいます。それでは、また」

『ええ、昼食の時に会いましょう』

 僕はメイヤと別れて訓練場へ。

 そこではリンとヴォルケーノボムが激しい戦闘を行っていました。

 ……僕が音楽堂を建てるため、1カ月ほど離れている間にそこまで差をつけられてしまいましたか。

 ともかく、僕も戦闘訓練に加わり昼食時間まで訓練を継続。

 そのあとふたりで昼食を食べにメイヤの元へと向かい、ディーヴァとミンストレルとも合流しました。

 そして、昼食を食べ終えたあとメイヤからひとつ提案が出ます。

『みんな、午後は時間を空けられる?』

「私は訓練だけの予定でしたので大丈夫です、メイヤ様」

「私とミンストレルも歌の練習でした」

『それじゃあ、シントと一緒にブドウ園作りに行きましょう。実ったブドウを少し分けてもらって食べましょうか』

「ブドウとはそのまま食べられるのですか、メイヤ様」

『果物だから大丈夫よ。ワインにするときは発酵という工程を行うの。エールとは違って素材そのものを果物として食べられるから今日はドワーフたちのブドウ園で分けてもらいましょう。そのときに種も少し分けてもらってこの近くにあなた方用のブドウ園も作るわ』

「ありがとうございます、メイヤ様」

「ありがとう、メイヤ様!」

『ディーヴァもミンストレルもそこまでかしこまらなくていいわよ。発端はドワーフたちの要求なのだもの。では行きましょうか』

 メイヤも含め5人でドワーフたちの居住地近くに作った畑に向かうことに。

 畑では……ドワーフたちの人数が減っているような?

『あら? ベニャト、ドワーフの人数が減っているけれどどうして?』

「ノーム様にお手伝いいただきエールを作れる状態にしていただきました。減った者たちはエールの醸造を始めております」

『……醸造用の装置、もうできていたのね?』

「ワイン用はまだ完成しておりません。明日にはワイン用も完成いたします」

『……好きになさいな。それで、あなたが買ってきたブドウの種だけれど少し分けてもらえる? この子たちようにブドウ園を作ってあげたいの』

「構いませんが……メイヤ様はブドウの種を作ることができるのでは?」

『……そうだったわね。品種改良もできるし、生で食べるわけだからそちらに適したブドウを作ってしまいましょう。それで、ブドウ作りだけど足場がないとあなた方では届かないのは知っているわよね?』

「もちろんです。急場しのぎではありますが踏み台は用意してあります」

『それ、午前中のホップ収穫でも使ってもらいたかったわ。ともかく、ブドウ園作りね。シント、イメージを送るからその通りに土地を耕して支柱とかを用意して』

「わかりました。……この天井の網は?」

『ブドウの蔓を巻き付けるためのものよ。とりあえず初めて』

「はい」

 僕はメイヤのイメージ通り土地を耕し、支柱と網を作りました。

 そこにドワーフたちが種を植えて回り、それが終わるとメイヤがブドウを育て始めます。

 ブドウって木なんですね。

 でも……ときどき枝が勝手に落ちるのはなぜでしょうか?

「メイヤ、枝がときどき切り離されていますがあれは?」

『〝剪定〟という作業よ。ドワーフたちは知らないだろうし、私がすべてやってしまっているの。さて、木も伸びきったことだし蔓を巻き付けようかしら』

「今回はドワーフたちに任せないんですね」

『あの高さを任せていたら夕暮れまでかかるもの』

 ……確かに、僕の背丈で手を伸ばしてやっとですからね。

 僕よりも身長の低いドワーフではどうにもできませんか。

 メイヤの力で木から蔓が伸び始め、網に巻き付いていきます。

 そして、巻き付き終わるとそこから垂れ下がるように粒のようなものがたくさんができてきました。

 これがブドウの実でしょうか?

『さて、ブドウも実らせ終わったわ。白ブドウと赤ブドウ、両方の種を渡されていたようね。とりあえず収穫なさいな。シントたちも混ざりなさい。ブドウの実は房の上から切り落とすの。シント、私の送ったイメージの道具を3つ用意してリンとディーヴァに渡してあげなさいな』

「わかりました。リン、ディーヴァ、これを」

「うん。これってどう使うのでしょう、メイヤ様」

『切り落とすものを間に挟んで閉めるのよ。まあ試してみなさい。採取したブドウはミンストレルにも分けてあげてね』

「わかっています。始めましょう、ふたりとも」

 僕たちはブドウの実をいくつか切り取り、ミンストレルにも分けてあげました。

 ブドウはこの粒の部分を食べるようですね。

 皮は渋いらしいので剥いて食べる方がいいそうですが……小粒で剥くのが大変そうです。

 行儀が悪いですが口の中で噛んでから皮だけを取り出してしまいましょう。

「うわー! 甘酸っぱくて美味しい!」

「本当ですね。あのワインの原料がこんなに美味しいだなんて」

「美味しいね。シントはどう思う?」

「美味しいですよ。確かにこれは神樹の側にもほしいです」

『品種改良したブドウを育てさせてあげるから数日待って。もっと美味しくて食べやすいブドウにしてあげる』

「うん!」

「ありがとうございます、メイヤ様」

 僕たちがあまりブドウを取り過ぎてもいけないのであとはドワーフたちに任せて作業は終了。

 ベニャトからは「数日後に酒を造って宴をするからシントとリンも来てくれ」と言われましたが大丈夫でしょうか?

 メイヤも止めなかったと言うことは大丈夫だと信じたいのですが……。
「さあ、契約者様と守護者様も飲め飲め! この里一号の酒だ!」

「フロレンシオから買ってきた酒も混じっているけどな! こっちも本当に美味い! 買い付けに行ったベニャトに感謝だな」

「おう! 新しい酒の研究費用も渡してきた! さすがに人間の酒造りだから1年単位の時間はかかるだろうが新しい酒が飲めるかもしれねえぞ!」

 新しいお酒ができたと聞きその宴会に呼ばれた僕とリンですが……完全にペースに着いていけません。

 メイヤも保護者として着いてきてくれていますが、ここまでとは想像していなかったのでしょう。

 頭を抱えてしまっています。

『む、聖霊様に契約者と守護者か。お前たちは加わらないのか?』

『この子たちにはあの輪へ加わるのは無理よ。ドワーフの宴会に加われるようなお酒の飲み方を知らないわ』

「はい。僕たちはお酒なんて飲んだことがありません」

「マイン様のお誘いでもちょっと……」

『それもそうか。端のほうにテーブルをひとつ用意しよう。そこで適当に酒を楽しんで行ってくれ』

「お酒ってエレメンタルエルフには毒と聞きましたが人間やエルフには大丈夫ですか?」

『飲む量を間違えなければな。とりあえず席に着け。あの様子ではこちらに気がつくまい。儂が酒を運んで来る。まずは基本のエールからだな。少量ずつ運んでくるから飲めなくとも気にするな』

 五大精霊であるマインを給仕役に使うのは気が引けますが、あの大宴会の中に加わるのは無理ですし諦めましょう。

 そして持って来てもらったエールですが……。

「苦い……」

「うん……」

『お前たちには合わぬか。では次、ビールというものを持ってこよう』

 次に持ってきてくれたビールものどごしはいいのですがやっぱり苦みがあります。

 リンも同じような感想でしたのでこれもだめでしょう。

『契約者と守護者は酒が苦手なようだ。どれ、次は飲みやすい果実酒を運んでこよう』

 次に運んできてくれたのは、なにか不思議な甘い香りがするお酒。

 これなら飲めそうと思って口をつけたのですが……喉を焼くような感覚がちょっと。

『どうだ? これならいけるか?』

「味は問題ありませんが飲んだあとに喉が焼けるような感覚が……」

「そう? 私はそれも含めて気に入ったけど」

『ふむ。守護者の方が酒には強いようだ。ほかの果実酒もいくつか持ってこよう。そちらも試すといい』

「なんだかすみません、マイン」

『なんのなんの。儂らが巻き込んでしまったのだ、この程度のもてなしはするさ』

 次にマインが運んできてくれたのはいろいろな香りがするお酒を数種類ずつ。

 やっぱり僕は喉を焼く感覚が気になるので一口つけるだけで終わりましたが、その分も含めてリンが飲み干してしまっています。

 大丈夫でしょうか?

『守護者よ。そのような速いペースで強い酒を飲むのは儂ですら感心せんのだが……』

「だいじょうぶれす! 次のお酒を!」

『メイヤ様?』

『これも社会勉強です。リンには恥をかいてもらいましょう』

『そういうことでしたら。次は弱めの果実酒だ。こちらなら契約者でも飲めるかもしれん』

 そう言って次に持ってきてくれたのは香りが先ほどよりも弱いお酒。

 飲んでみると喉を焼く感触も弱いので僕でも少しは飲めそうです。

 僕が一杯飲み干す間にはリンはすべて飲んでしまっていましたが……。

『次で最後にしよう『シードル』というリンゴから作った酒らしい。シュワシュワと泡立っており、一気に飲み干すのは難しいがアルコールはそれほどきつくない。……守護者はかなり酔っているが、契約者がなんとかしてくれ』

 いや、なんとかしてくれと言われましても……。

 僕たちの前に持ってこられたシードルというお酒は薄く色付き、シュワシュワと泡が出ています。

 あ、甘いですし、これなら僕も飲めるかも。

 そう思ってリンの方をみればすでにシードルを飲み干してしまいましたし……。

 マインに別の果実酒を要求していますしなにがなんだか。

 マインも嫌な顔ひとつせず新しいお酒を持ってきてリンに飲ませていますが、本当に大丈夫なんでしょうね?

 目もすごくとろんとしてきていますし……。

「ねえ、シント。シントって私のこと、好き?」

「どうしたんですか、リン?」

「あのね。私はシントのこと好きだよ。もっともっと甘えてほしいくらいに大好き」

「それがどうしたんですか?」

「……寂しいの」

「寂しい?」

「最近シントっていろいろな物作りで私と別行動が多いじゃない。それが寂しい」

「……僕も寂しいですが、仕方がないことでは?」

「それも嫌なの。私は守護者としてもっともっと強くならなくちゃいけないのはわかってる。でも、シントが一緒じゃない時間が多い方が嫌」

「どうしたんですか、リン。急にそんなことを言いだして」

「ともかく私はシントと一緒にいて甘えてもらいたい。だめ?」

「さすがに外で甘えるのはちょっと……」

「じゃあ、家の中とか温泉とかならいい?」

「そのくらいなら」

「やった! シント、大好き!」

 そう言うと急にリンが抱きついてきました。

 そして、そのまま眠ってしまいましたね……。

『あらあら。リンは絡み酒だったようね』

『守護者も甘えたがりのようじゃ。契約者も甘えさせてやれ』

「ええと、この状況はどうすれば?」

『もう連れ帰ってもいいぞ。契約者と守護者が酒を飲んだときの反応が見たかっただけだ』

『シントの酒癖がわからなかったのが残念だけど……シント、あまりお酒は口に合わなかったようね?』

「ええ。シードルというお酒なら少しくらい飲んでもいいかな、程度です」

『その程度がちょうどいい。守護者の嬢ちゃんも二度と深酒はしないだろう』

『あとは今日の出来事を明日覚えているかどうかだけど、二日酔いは確定ね。飲み過ぎた罰として、午前中は気持ち悪さを体感してもらいましょう』

「……メイヤ、怒っています?」

『ちょっとだけ』

 これ、ちょっとだけじゃありませんね。

 とりあえず、眠ってしまったリンは僕が背負って家まで帰ることに。

 メイヤは「お姫様抱っこでもできるでしょう?」と言っていましたが、やり方がわかりませんし、リンの体勢が崩れてもいけないので背負って帰ります。

 そのままベッドに寝かせて、僕は温泉に行き汗を流しリンの待つベッドへと寝転がりました。

 すると、リンが僕のことを重みで見つけたのかぎゅっと力一杯抱きついてきて離してくれません。

 ……今日はこのまま寝てしまいましょうか。


********************


「ほんっとうにごめんなさい!」

 朝起きてリンが放った最初の声は僕に対する大声での謝罪でした。

「リン、昨日の夜のこと覚えているんですか?」

「……はい、全部覚えています」

「僕にもっと甘えてほしいのも本心ですか?」

「はい、本心です」

「いろいろと作って回るときに寂しいのも?」

「……うん、寂しい」

「修行の時、一緒じゃないのも嫌なんですか?」

「我慢しているよ? シントを守るのが守護者の務めだもん。それでも寂しい……」

「リン。本当にあなたは甘えたがりですね」

「だって、初めて人として扱ってくれたのはシントだったんだもの。ディーヴァは遠いお姫様だったし……」

「わかりました。なるべく僕も訓練に加わります。ただ、里のみんなも大なり小なり要望が出てきているようですし、それを解決するときは一緒にはいられませんよ?」

「そのときは私が付いていく!」

「リン……」

「だって、我慢できなくなっちゃって……」

 そう言えば昨日の夜メイヤは二日酔いがどうのと言っていましたが……どういう意味なんでしょう?

 リンの体調が悪いのでしょうか?

「あと……ものすごく頭が痛いんだけど、これってなに?」

「ああ、それは多分『二日酔い』という症状らしいです。メイヤなら治せるでしょうが、午前中は昨日お酒を飲み過ぎた罰として治してくれないそうですよ」

「……お酒、今後は飲みません」

「僕も飲みませんが……リンは飲みたいのでは?」

「シントが飲まないなら私も飲まない! ……あ、頭が」

「とりあえず、服を着替えたら朝食です。自分で歩いて行ってくださいね」

「シント、おぶっていってくれない?」

「だめです。それも含めて飲み過ぎた罰です」

「今後は絶対にお酒は飲みません……」

 ふらつきながらも朝食の場についたリンは気分が悪いようで少しだけ木の実を食べてあとは全部保管庫にしまいました。

 そのあとメイヤにもがっつり叱られていましたし、リン、本当に反省してください。

 家で甘えたり甘えられたりするのは僕も心地よいので許しますけど。
 リンのかわいらしいわがままによって一緒に過ごす時間が増えてから数日後、またメイヤから相談事を受けました。

「美術館、ですか?」

『そうなのよ。一部の者たちが欲しがり始めてね……』

「あの、メイヤ様。美術館とはどういう施設なのでしょう?」

『ああ、そこから話さないといけないわよね。〝美術館〟と言うのは彫刻や絵画、貴重な装飾品などを飾る場所よ』

「……それって。またドワーフたちからの要望ですか?」

『いいえ。幻獣などからの要望ね。自分たちの像を造ってもらい、それを飾ってもらうつもりなのよ』

「……なんのためでしょう?」

『……さあ?』

 メイヤがわからないと言っている以上、僕たちにもわかりませんね。

 ですが、美術館ですか。

 音楽堂と同じような目にあわなければいいのですが……。

『ちなみに美術館はそんなに凝った作りじゃなくても大丈夫よ』

「そうなんですね。また音楽堂作りの二の舞はごめんでした」

『基本的に像などを飾るだけだもの。どういったものを飾るのかは知らないけれど、魔法の空調設備と飾った像などを照らしあげる照明器具。それに全体を照らす照明さえあれば十分だと考えているわ』

「またドラゴンたちが口を出してこないでしょうね?」

『そっちは心配しなくても大丈夫よ。自分たちの宝の一部も飾ってほしいとは要望が来たけれど、美術館自体にはあまり興味がないそうだから』

「それはよかった。じゃあ、手早く作った方がいいのでしょうか?」

『オーダーとしては音楽堂のように全面クリスタルの外装がほしいそうだけれど大丈夫?』

「慣れたので大丈夫です。あと、ドラゴンからもクリスタル強化の魔術や遮熱結界を習っているのですぐにでもできますよ」

『わかったわ。ただ、美術館作りにも口を出したがっている幻獣がいるのよねえ……』

「……難しい要求じゃなければ受け入れます」

『そうしてあげて。さて、土地は確保してあるから頑張ってきてね』

「わかりました。行きましょう、リン」

「うん!」

 確保してある土地、と言う場所に行くとニンフやエアリアル、そしてウィンディの姿までありました。

 彼女たちが今回の依頼主でしょうか?

『よく来てくださいました、契約者様、守護者様』

『申し訳ありません。この者たちの要望が爆発寸前までたまっておりまして……』

「構いませんよ。それで、どの程度の建物を作りますか?」

『音楽堂と同じサイズの建物をお願いできますでしょうか?』

『最初は展示物も少ないでしょうがどんどん増やしていく予定ですので』

「いいでしょう。それでは一気に作ってしまいますね」

 僕は音楽堂の作製で手慣れたクリスタルの建物を建ててしまいます。

 魔力開閉式のドアも取り付け、傷ついたり割れたりしないようにするための魔法をかけ、内部の遮熱処理まで一気にすませました。

 魔力回復用のポーションは数本のみましたが……。

『素晴らしいです、契約者様。これほどの建物ができるだなんて』

『ええ。あとは内側の建物、美術館の工事ですね』

「そちらはまるでわかりませんが、大丈夫ですか?」

『私たちはよく知っていますので』

『人間に化けてよく行っておりました』

「ウィンディ、それっていいのですか?」

『……あまりよくはありませんが、止める理由もなく』

「それで、木材はこの前使った木材でいいのでしょうか?」

『いえ、美術館自体には木材を使う必要がありません』

「木材を使わない?」

『様々な建築様式があるのです。まずは1階から作っていきましょう』

 1階は基本的に岩の壁と床がメインになりました。

 ところどころ木の板を細く貼り合わせた場所を作っていますがこれはなんのためでしょう?

 1階には〝順路〟と言うものがあり、これをぐるっと回って見て回るように設計されているようです。

 いまはなにも置かれていないので殺風景ですが。

『さて、次が2階部分です。契約者、ここに木でできた階段をつけてください幻獣たちが上り下りできるような。あと、小さい者たちでも大丈夫に設計を』

「難しいですね……このような感じでしょうか?」

『うーん、もう少し段差を低くしてあげてください。その方が上りやすそうです』

「わかりました。この程度でしょういかがです?」

『これなら大丈夫ですね。2階に参りましょう』

 とりあえず2階部分も岩の床で敷き詰めてもらいたいと言うことでしたので、指示通り岩の床で敷き詰めます。

 1階には光が届かなくなりましたが魔力式照明器具をある程度設置して回ったので問題ないでしょう。

『さて、2階部分ですがとりあえず順路を作ってしまいましょう。そこから本格的な作業開始です』

 嫌な言葉が出てきましたがとりあえず順路を作りましょう。
 2階の壁はすべて木材で細い木材を並べるようにして作るように指示され、なんだか温かみのある空間になりました。

 さて、ここからが本題のようですね……。

『契約者様、壁を縦に開けてそこに少しだけ空間を空けた二枚のクリスタルを貼ってください』

「いいですが……どの程度の広さを?」

『ここからここまで。できますか?』

「楽勝ですが……遮熱や割れないようにもしたほうがいいですよね?」

『お願いいたします』

 僕は指示された部分の壁を消し、代わりにクリスタルの壁を貼り直しました。

 ニンフはこのあとどうするのでしょうか?

『さすがは契約者様の創造魔法。水漏れの心配もない。では始めましょう』

「え?」

「うわぁ! 綺麗!」

 ニンフがやったこと、それはクリスタルの間に綺麗な水を発生させたことです。

 そうすることで、外からの光が取り込まれ、水による屈折で神秘的な輝きを帯びました。

『契約者様。残り3面もお願いいたします』

「わかりました。2階はこうするんですね」

『ええ。それから、あとで、足元の岩の上に土と短い草を生やしていただけますか? 自然の草むらを表現したいのです』

「いいですよ。とりあえず、壁を先に片付けましょう」

 ニンフの要望通り壁に穴を開けてクリスタルを貼る作業を繰り返したあとは草原を作る作業となりました。

 そして、そのあと階段作りもお願いされて3階も作るようです。

 建物の高さ的にそれが限界ですが……。

『契約者様、まずはこの階を歩けるようにしたあと、この階をドーム状に2枚のクリスタルで覆ってください』

「ドーム状?」

『ああ。イメージをお送りいたします』

 ニンフから送られてきたイメージはこの階全体を半球上にすっぽり包む形に天井を作ってほしいと言うものでした。

 イメージさえあれば簡単なのですが……なにに使うのか?

 とりあえず、足場を作りニンフのイメージ通りの天井を作ります。

 するとニンフもそこに水を張り……。

「シント、すっごく綺麗だよ!」

「そうですね。幻想的です」

『契約者様。この階も2階と同じく土と草原で覆っていただけますか?』

「わかりました。わかりましたが……なにを飾るのでしょう?」

『それはそのときのお楽しみと言うことで』

 ニンフの考えはよくわかりませんが、とりあえず美術館の建物は完成したようです。

 ただ、メイヤの話だといろいろなものを展示して初めて意味を成すとか。

 そちらはどうするのでしょう?
 美術館を作った翌日、またニンフたちに呼び出されました。

 今度はなんでしょう?

「幻獣や精霊、妖精たちの像を造ってほしい?」

『はい。ニンフたちが言い出しまして……』

「いや、まあ、構わないのですが……どうやって?」

『契約者様、創造魔法でなんとかなりませんか? 素材は錆びたりしないようにミスリルやオリハルコンがいいです』

「一応、それらってヒト族の間ではかなり高級品らしいですよ? この里では無制限に手に入りますし、僕としてもなじみ深いので作りやすいですが……」

『では、お願いいたします。手始めに私の像から』

「はい。どのような像がいいでしょう?」

『ポーズをとりますのでその通りに。ぐるっと一回りしてもらえれば全体像もわかると思います』

「わかりました。素材は?」

『幻獣様と五大聖霊様はオリハルコンで。私たち精霊や妖精はミスリルでお願いします』

「いいでしょう。それでは始めましょうか」

 ニンフがポーズをとったので僕はそこを中心に一回りしてイメージを固めました。

 そして、創造魔法で像を造ってみたのですが……。

『なにかが違いますね』

「違いますよね」

『もう一回お願いできますか?』

「そうしてみましょうか」

 そのあとも何回か試してみましたがうまくいかず、満足できる品ができたのは12回目。

 これ、意外と大変なのでは?

『思ったよりも大変なんですね、創造魔法の像造りって』

「僕のイメージ通りのものしかできませんからね」

『次はエアリアルの像で試してみましょう』

「……これ、どれだけ繰り返すんですか?」

『たくさんですよ?』

「音楽堂と同じ目にあいそうな……」

 エアリアルの像は8回目で完成。

 その場にいたということでウィンディの像も造りましたがこちらは5回です。

 少しずつ腕は上がって行っている?

『さて、今日は草原エリアにいる皆さんの像を造りに行きましょう』

「かなりいますよね?」

『いいじゃないですか。練習にもなりますし』

 ニンフとエアリアル、ウィンディ、保護者のリンと一緒に草原エリアへ。

 そこではたくさんの幻獣などが思い思いに過ごしていました。

『さて、どのような像を造りましょう?』

『ペガサス様は飛んでいる姿がほしいですね』

『ユニコーン様は走っている姿と休んでいる姿でしょうか?』

「……そんなに作るんですか?」

『美術館は広いですから』

『展示スペースもたくさんありますよ』

「既に先が思いやられる……」

 とりあえずはペガサスということで休んでいたシエロとシエルに声をかけ、シエロに飛んでもらい、下からのイメージとシエルに乗って横や上からのイメージを焼き付けます。

 その結果、シエロの像は4回ほどで完成しました。

 シエロとしては3回目ので十分だと判断したのですが、ニンフたちが満足しなかったんですよね……。

 シエロも疲れた顔をしていましたし、かなり面倒な依頼なのでしょう。

 できあがった像は誇らしげに見ていましたが。

 次はユニコーンということでチャージランスに来てもらい、まずは寝そべっている姿の像から造ります。

 こちらは3回目で合格点をいただき、チャージランスも面白そうに見ていましたね。

 次は走っている姿を像にしたいそうなのですが、これは僕でも難しい。

 なので、チャージランスにぐるぐる回りながら走ってもらい、イメージを固めました。

 今回も3回目で成功、出来映えも上々だそうですよ、ニンフとエアリアル基準で。

 そのあとも草原を生息地にしている幻獣などを次々と像にしていき1日目は終了。

 草原の幻獣などは1日で回りきれなかったために2日目も草原エリアを回ることになりました。

 2日目もいろいろな像を造って歩きましたが……草原エリアってこんなに住民が増えていたんですね。

 そうしながら歩いているとローズマリーの花畑へと着きました。

 そこにはディーヴァとミンストレルの姿も。

「おや、3人一緒でしたか」

「ああ、シント様。今日も像造りですよね。お疲れ様です」

「お疲れ様です!」

『お疲れ様~』

「像造りの精度もかなり上がってきたので楽にはなってきたんですけどね……どうにも数が多くって……」

「……幻獣様方もかなりいらっしゃいますので」

『うーん、アルラウネの像だけを造りに来たんだけど……一緒にディーヴァとミンストレルの像も造っちゃおう!』

「えぇ!?」

「いいの!?」

『ふたりも精霊だし問題なし! ふたりともアルラウネの周りに座って』

「ええと、こうでしょうか」

「こう?」

『契約者様、3人まとめて像に!』

「はいはい。もうどうにでもしますよ」

 僕はこうして3人の像も造りました。

 出来映えも1回で合格が出たのでよかったです。

 その像を見てディーヴァは恥ずかしがっていましたが……。

 とりあえず草原エリアの幻獣などは2日間ですべて像にすることができた模様。

 リンからの強い言葉で1日休みを取り、そのあとは3日に1日休みを取りながら、森、湖、海、山、岩山などすべてのエリアにいる幻獣や精霊、妖精の像を造って回りました。

 ニンフたちはこの大量の像を美術館のどこに飾ろうとしているのでしょうか……?
 すべてのエリアに暮らしていた幻獣や精霊、妖精の像を造ってから1日休みをもらい、僕とリンは再び美術館へとやってきました。

 相変わらずニンフやエアリアルもいますが……今日はトルマリンを除いた五大精霊たちも勢揃いですね。

 どういうつながりでしょうか?

『おう、契約者。また派手に動いとるけんの』

「僕が好きで動き回ってるわけではありませんよ、ヴォルケーノボム。それでみんなはなぜ集まっているのですか?」

『儂らはエアリアルに集められた。美術館の3階を整備したいそうじゃ』

「3階。一番上の階ですか」

 確か、あそこはだだっ広い草原地帯でしたね。

 あそこを整備?

『申し訳ありません。この子たちがどうしてもと言って聞かず……』

「僕はかまわないのですが……なにを作るんですか?」

『みんなが暮らしている環境を再現するんです。あとでアルラウネやドライアドも来てくれます』

「ローズマリーにツリーハウスまで」

 どんどん話が大きくなっていっていますが、大丈夫ですかね、これ?

 ともかく、みんな一緒に3階へ移動。

 そこに作られた景色に一同感心していました。

『よくもまあ、これだけのもんを……』

『契約者、大変だったのでは?』

『音楽堂の時のような無理はしておらぬよな?』

「今回はすぐにできましたよ。クリスタルを二重にして、その隙間にニンフが水を張っただけですから」

『ならばよいのじゃが。それでニンフたちよ、我々に何を望む?』

『幻獣や精霊、妖精の暮らしている環境を再現していただきたいのです。具体的にいえば小規模な山や岩山、火山、湖、海などを』

『このスペース内に作ろうとしたら狭くもなるけん』

『構いませんが、なにをどう飾るのでしょう?』

『それはそのあとのお楽しみと言うことで!』

『……とりあえず始めるか』

『そうすっぞ』

『そういたしましょう』

『申し訳ありません。この子たちのわがままに付き合っていただき……』

 ニンフとエアリアルの指示の元、整地作業が始まりました。

 山はそれほど高くせずに広めで、岩山も切り立った崖などは作らず段差をつけるように作っています。

 ヴォルケーノボムが担当している火山は、実際に溶岩は吹き出させずに湯気だけを出してほしいと指示が出ていました。

 ヴォルケーノボムに言わせれば「穴を開けて温泉でも作っとくけんの」となりましたが。

 アクエリアの担当した湖と海は僕たちのくるぶしくらいまでしか深さのない遠浅のものを作ってもらったようで、マインには海のエリアに砂浜も作ってもらっています。

 ……なかなか本格的ですね。

 遅れてやってきたローズマリーとツリーハウスも合流し、森と花畑を作りました。

 ただの草原だった一面が急に豪華になったものです。

『……すごい、豪華な作りになっています』

「テイラーメイド?」

『あ、はい。テイラーメイドです』

 更にテイラーメイドまでやってきましたがなにをするのでしょうか?

『あ、アラクネ様も来てくださいました。これで本格的な作業が始められます』

「本格的な作業?」

『はい。像の配置です。まずは……駆け回るユニコーン様の像から置きましょう。ええと……あちらの草原に置いてください』

「わかりました。このあたりでいいですか?」

『そのあたりです。よろしくお願いします』

「では」

 僕は保管庫にしまってあった駆け回るユニコーンの像を取り出して草原に置きました。

 ただ、この像って立つのですが不安定なんですよね……。

『契約者様、限りなく透明で破壊できないクリスタルって作れませんか?』

「限りなく透明で破壊できないクリスタル……何度か試せばできそうですがなんのために?」

『ユニコーン様の像が倒れないためです。それを支柱として倒れないように支えたいと』

「わかりました。試してみましょうか」

 僕はこの建物などの素材になっているクリスタルを元に更に透明度を増し強固なクリスタルを創造魔法で作りあげていきます。

 ただ、透明度は上がったのですが強度はあまり上がらず、壊れないようにするための強化魔法で代用することにしました。

 そして、そのクリスタルを何本か支柱としてユニコーンの像の下に埋め込み、支えとしてあげればユニコーンの像の設置完了です。

『ふむ、これは面白いのう』

『確かに。よくできたユニコーンの像が走るように再現されておる。創造魔法でもなければここまでの躍動感は出ないであろう』

『ええ。それで、置く像はもっとたくさんありますよね?』

『はい。まずは草原エリアから設置して回りましょうか』

 僕はニンフたちに指示されるままたくさんの像を置いて回ります。

 そのすべてに地面へと支柱を伸ばすようにも指示され、動かないよう固定するのだとか。

 確かに、これなら多少蹴られた程度ならびくともしないでしょう。

『では、空の幻獣様も飾りましょう』

「空の? ペガサスや鳳凰などですか?」

『はい。そのためにアラクネ様に来ていただきました』

「テイラーメイドに?」

『ええと、失礼いたしますね。私は天井に張り付きますので』

 そう言うとテイラーメイドは糸を出して天井に張り付き、移動をして糸を垂らし始めました。

 これって?

『契約者様、これにまずはペガサス様の像を乗せてください』

「構いませんが……テイラーメイドの糸でもいつかは切れてしまうのでは?」

『高さを決めたら、糸の周りを先ほどのクリスタルで天井と固定してください。そうすれば落ちません』

 なるほど、確かにそれなら多少のことでは落ちてこないでしょう。

 テイラーメイドが垂らしてきている糸にシエロの像を乗せると引っ張り上げられ、ある程度の高さで固定。

 そこからは僕の仕事でクリスタルを使った固定になりました。

 同じ要領で空飛ぶ幻獣などを固定していき、空にも像が増えましたね。

『空はこれでいいでしょう。シルフィード様の像も飾ることができましたし』

「だからウィンディの像は飛んでる姿のものだったのですね……」

『はい。ほかのエリアにも像を設置して回りましょう』

 ほかのエリア、森や山、岩山、火山、湖に海にもそれぞれの像を配置していきます。

 マインの像は岩山の頂上に、ヴォルケーノボムの像は火山の麓に、トルマリンの像は山の山頂に、アクエリアの像は湖の中心に飾られることとなりました。

 しかしここで問題がひとつ。

「海のエリア、つまりマーメイドやマーマンを配置する場所ですが遠浅では転がってしまいますよ?」

『像の形に添った穴って開けられませんか? 2階に貫通しないような』

「2階の天井、つまりこの床もかなり厚いので可能です。そのようにして固定します」

 マーメイドとマーマンも配置して海も完成。

 最後に花畑にローズマリーとディーヴァ、ミンストレルの像を置けばこの階は終了のようです。

『にきやかになったのう』

『ああ。だが、大変素晴らしい空間だ』

『本当に。幻獣たちの美術館なんていうからどのようなものを作るのか心配していたのだけれど……』

『五大精霊様に褒められると頑張った甲斐があります』

「像を造ったのは全部僕ですけどね……」

「シントも頑張ったね……」

 3階に飾られなかった像はすべて2階と1階に分けて展示するそうです。

 2階に展示する分だけは今日中に終わらせてしまい、1階の分は翌日の作業となりました。

 気がつけば1階の床で石だったところにはテイラーメイド製の敷物が敷かれていますし、準備万全というところなのでしょう。

 1階の準備が整った翌日には開館するそうですが、どれくらい幻獣や精霊、妖精たちは来るのでしょうね?
 さて、今日は美術館のオープン日でもあるんですが、それ以前にフロレンシオに買い物に行く日でした。

 なので、ベニャトを連れてフロレンシオまで買い物……今回はたくさんの銀と金のアクセサリー販売と果実の種や苗木、畑にまくための小麦の種の確保をしてから帰ります。

 女将の店でも果実の苗木などは取り扱っていないようで別のお店を紹介してくれましたが、そこの店長さんもいい人で助かりました。

 僕たちの買い物は2時間ほどで終わったので、そのまま街を出て空へと飛び出しその場でメイヤの木の実を食べて昼食にします。

「いや、今回もいい商売になったぜ。サンキューな、契約者様、守護者様」

「気にしないでください。僕たちの方こそたくさん果物の種や苗木を買ってもらったんですから」

「そうそう。結構かかったんじゃない?」

「まあ、それなりにな。だが、この程度、半月後に来たときにはまた取り返せるだろう。ヒンメルであの量のアクセサリーが売れていればだが」

「そこはお店の手腕に期待しておきましょう。今後は半月に1回来ることも伝えましたし」

「そうだな。前に仕入れたアクセサリーは全部1週間経たずに売れちまったそうだ。店にも莫大な利益が入ったとか。あのままひん曲がらずに商売を続けてもらいたいもんだ」

「ですね。話は変わりますが、お酒造りはどうなっています?」

「ん? まあ、ぼちぼちだ。やっぱり麦の収穫量が少ないんでエールやビールにできる量もすくねえ。ワインは結構な量ができているから、そっちで気張らししているな」

「ドワーフのみんなってそんなにエールが好きなんだ……」

「おうよ、守護者様! エールは命の水だぜ! まずは大麦の収穫量を増やすための装置を開発中だがな」

 そこまでしたいんですね、ドワーフたちは。

 心の中でしか応援するつもりはないですけど、頑張ってください。

「酵母菌もしっかり育ってるし、ほかの種類もいろいろ育ててきている。契約者様。すまねえが今回買ってきたリンゴの苗木、少し分けてもらえないか?」

「メイヤに頼んでみますが……どうしたんですか?」

「〝シードル〟って酒造りにも挑戦したくなった。一からの手探りだから時間はかかるだろうがものにしてみでるぜ」

「うぅ……」

 リンはお酒で大失態を見せましたからね。

 完成したシードルは飲んでみたいがお酒は飲まないと決めた、そこで葛藤しているのでしょう。

 大いに反省しなさい。

「さて、昼食もそろそろ終わりか?」

「ですね。シエロとシエルのところまで戻りましょう」

「待ちぼうけさせちゃまずいからね」

 僕たちが2匹と別れたあたりの上空まで来ると2匹も森の中から姿を現しやってきました。

 そして、そのまま神樹の里にいるメイヤの元へと飛行します」

 飛行しますが……メイヤがちょっと困り顔ですね?

 なにかあったのでしょうか?

『ああ、シント、リン。ちょうどいいところに帰ってきてくれたわ』

「ちょうどいいところ?」

「なにかございましたか、メイヤ様?」

『ええ。美術館を建てたでしょう? そこで展示されている像を見た者たちが口コミでいろいろ伝播して回って……行列になっているのよ。なんとかできる?』

「なんとかって……順番は守って入って行っているのでしょう? それでは、どうしようもありませんよ」

『でもそうなると、夜までかかってしまいそうで……』

「ああ、夜ですか……そう言えば私たちも夜の3階って見たことがなかったね、シント」

「灯りは最小限ですし、綺麗な星空が水の幕を通じてよく見えるでしょうね」

『そんなことになったら、もっと観客が増えるわよ!』

「そうは言われましても……ねぇ?」

「私たちもできないことはあります。メイヤ様」

『ああ。そうよね。でも、列を途中から区切ることってできない?』

「その程度でしたら、多分」

『それじゃあ、お願いしてもらえる? 半端な量じゃなくなってきているの』

「わかりました。わかりましたが……そんなにですか?」

『そんなによ! 見ればわかるわ』

「はぁ……? 行きましょうか、リン」

「そうだね。よくわからないけれど……」

 リンと一緒によくわからないまま美術館まで行くと……大量の行列ができていました!

 なんですか、この行列は!?

 行列の整理をしているのはニンフとエアリアルのようなので、彼女たちを捕まえて話を聞くことに。

『契約者様! 大変なことになっちゃってる!』

『私たち、もっとゆっくり楽しんでもらえる美術館を目指していたのに!』

「はいはい、落ち着いて。この騒動の発端はなんですか?」

『ええと、朝、ペガサス様がやってきて3階の展示物をご覧になり、いたく感動して帰られて、それで話を広めて回ったらしいのです』

『そのあとからは、引っ切りなしに草原の皆様がやってきて、それを見かけた空の幻獣様方がやってきて、更に森や山、岩山、湖などに話が広まり……』

「ああ。マーマンやマーメイドはここまで来られませんからね」

『はい。それでもこの行列です……』

『助けてください! 契約者様、守護者様!』

 いや、助けてくださいと言われましても……。

「できることなんて列の整備と入場者制限くらいですよ?」

『それだけでも助かります!』

『私たちではそれすらも怪しかったので!』

「わかりました。今日受け入れ可能な人数は?」

『ええと……あそこくらいまでですね』

「思いのほか少ないですが……時間が時間ですし諦めていただきましょう」

 僕は列の途中から今日の入館可能者はここまでと言う看板を立ててみんなに説明して歩きました。

 そうすると明日は何時頃から入館できるのかを聞かれたのでニンフとエアリアルにそれも答えてもらい、みんなには申し訳ありませんが解散してもらうことに。

 逆に、制限ぎりぎりだった方々は喜んでいましたね。

 その方々にも、今日見終わったらしばらくは再度来ないようにお願いして周り、今後は……まあ、落ち着いて行くでしょう。

 ニンフたちにもこの看板は渡していきますし。

 さて、そうなってくると問題は3階から星空をどのように見ることができるかになるのかですが……

 これも五大精霊と一緒に体感してみましたがすごいことすごいこと。

『綺麗じゃけん』

『まったくじゃ』

『これは、皆の前に出せませんね』

『HUKIRTEY』

『申し訳ありません。この子たちの思いつきで……』

「まあ、作ってしまったのはしょうがありません。しばらくは夜の入館は禁止としましょう」

「そうね。でも、いつかはばれるわよ?」

『うぅ……』

『そのときの夜間解放は抽選でしょうか?』

「倍率、ものすごいことになりますよ?」

『やるしかありません……』

 こんな危険物を作ってしまったのはニンフとエアリアルなんですから頑張っていただきましょう。

 これ以上は手を貸せません。
 予想外だった美術館の騒ぎも…まあ、みんなの協力で収まりつつあります。

 ただ、どの幻獣や精霊、妖精たちも3階の眺めは見てみたいらしく、一度は行ってみたいと朝早くから順番待ちをしている者もいるそうですね。

 あと、3階だけではなく1階と2階も好評で、同じ里で暮らす仲間たちがどんな姿をしているかを知るいい機会だそうです。

 草原の者たちが岩山などに行く機会なんて滅多にありませんからね。

 これを機にほかの場所に遊びに行く者も現れるようになったとか。

 いい変化が訪れてくれたようで嬉しいです。

 それから、僕たちが買ってきた各種苗木や果物の苗に種はやはりメイヤの目からすればもっともっと品種改良できるものだったらしく、そちらをしてからブドウ園と一緒に植え込みたいと言うことで一週間ほど待ち状態になりました。

 あと、小麦も品種改良を施すつもりらしく、それを知ったシルキーたちは早速ドワーフたちのところへ稲刈り用の鎌と粉挽き用の石臼、それからパンを焼くための窯を発注しに行ったそうです。

 あちらはあちらで気が早い。

 そして、2日ほどは平和な日が続いていたのですが、3日目にはまた新しい建物の建築依頼が。

「水の生き物を展示する建物?」

『ええ、そう。美術館が大賑わいになったのだから海の生き物がどんな風に生きているのかを知ってほしいってマーメイドやマーマン、ニクスたちが言い出したのよ』

「あの、メイヤ様。彼らは美術館に行けないからでは?」

『地上で活動できるように足を魚のものから人間の足にする魔法を覚えていたらしいのよ。マーマンもマーメイドも。すると、美術館の内容をいたく気に入っちゃってね……』

「今度は海の生き物を展示ですか?」

『できれば川や湖の生き物も展示したいそうなのだけれど……』

「なにか問題があるのでしょうか?」

『……アクエリアの湖でさえ湖の生き物が住み着いていないの。魔法で汚染していないほかの湖とつなげているらしいのだけれど、ときどき様子を見にやってきてはすぐに帰ってしまうみたいで嘆いていたわ』

「そちらはそちらでいつか解決方法を模索してほしいとお願いされそうです」

『……もう来ているのだけど、さすがに無理と言って突っ返しているわよ?』

「メイヤ様、感謝いたします」

『いえ、とりあえずは水の生き物を展示する場所ね。発起人のマーメイドたちのところで詳しい話を聞いてきて』

「わかりました。……でも、どうするつもりなんでしょうね?」

『考えはあるそうよ。シントがやたら頑丈で透明なクリスタルを作れることを知ったから』

 僕も海に行ったことはマーメイドなどを助けに行ったときのみですし、なぜ海の生物たちが神樹の里にいるのかも知りません。

 そこも含めてマーメイドたちに聞いてきますか。

 そう考えて海エリアに来たのですが……アクエリアもいました。

 今回も大きな騒ぎになっているような……。

『お待ちしておりました。契約者、守護者』

「アクエリア、あなたがいる時点であまりいい話のような気がしません」

『そうおっしゃらずに、話だけでも……』

「話は伺いますが……僕も海や湖、川なんて疎いですよ? 水辺とは縁遠い生活でしたので」

『そこ大丈夫ですわ。契約者様』

「あなたが今回の代表のマーメイドですか?」

『はい。我々3人が設計のお手伝い……と言いますか依頼をさせていただきます』

「どうぞよろしく。それで、今回はどのような建物を作ればいいのでしょう?」

『建物の広さはいままで通りで構わないのですが、入口から水中方向に地下へと進んでいくイメージで作れますでしょうか?』

「水中方向ですか? ……ちょっとイメージがわきません」

『では、私が考えたイメージを送らせていただきます』

 マーメイドから送られてきたイメージは、入口以外ほぼすべての部分が水中に隠れてしまっているような建物です。

 創造魔法でもなければこんな建物作れませんね。

「ん。イメージはもらいましたし試してみましょう。場所はどの辺りがいいですか? イメージだと水中に入ってもしばらくはまっすぐ進んで陸とは接触しないようになっていますが」

『それも含めて水中の醍醐味です。入口は……こちらに』

 マーメイドに指示された場所へと入口を作り、そこから水を押し出しながらの建物作りです。

 陸の建物より魔力をより使っていますが、許容範囲ですね。

 僕の魔力量も更に上がってきました。

「お望み通り透明なクリスタルで作りました。万が一でも割れないようにかなり厚めにしてあります。強化と透明化の魔法を更に施してあるので割れることはないはずですが」

『ありがとうございます。それでは海の中をご案内いたしましょう』

 僕たちは入口から内部へと入っていき水中へとたどり着きました。

 やっぱり海面が上にあると光の当たり方が神秘的になりますね。

 外で出迎えてくれているのはほかのマーメイドやマーマンたちですか。

『皆様、足元をご覧ください』

「足元? あれは貝殻? でも閉じている? あと岩からせり出している赤やピンクのあれは?」

『あれは貝殻ではなく〝貝〟です。海に打ち上げられたものは死んだ貝の抜け殻になります。あれらはまだ生きていますよ。少しかわいそうですが見ていてくださいね?』

 マーマンが貝に近寄っていきそれをツンツンつつくと、貝が開いたり閉じたりして移動していきました。

 本当に生きているんですね。

『とまあ、あれらは普段はじっとしておりますが生き物です。あと、地面から伸びている赤やピンクの枝のようなものは〝珊瑚〟といいます。あれも生きた……難しい話は抜きにしましょう。ともかく生物です。長年かける必要はありますが、ゆっくりゆっくりと伸びていきます』

「そう言えば昔、宝石の原石になると言っていたのも……」

『あの珊瑚です。形を整えよく削って磨き上げれば美しい石になります。軟らかく水に濡れるといけなかったり、汗が付いてもだめだったり、定期的に専門の磨き職人が表面を綺麗に磨いてあげないとくすんでしまったりと扱いの難しい品物ですが……』

「なるほど。ドワーフの皆さんなら扱い方を覚えるのも早いでしょうが、手入れの方法まで完璧に誰かに伝えようとすると難しいでしょうね」

『そうなります。さて、ここはまだまだ入口。お楽しみはここから先になりますよ』

 そう言えばここはまだ入口でした。

 見たことがないものばかりだったので気をとられすぎていましたね。

 それでは奥も見せていただきましょう。
 僕たちはマーメイドに案内されるまま海中の方へと降りていきます。

 滑らないように処理をかけてほしいとイメージの中にお願いがあったのですべての床には滑り止めの魔法をかけていますが、この入口からの道も傾斜になっているんですよね。

 創造魔法って知れば知るほどどんな魔法でも使えるから便利です。

『ここはもう水中です。まだ光がぎりぎり届く範囲なので契約者様と守護者様にも見えていると思いますが……契約者様、創造魔法で《暗視》の魔法ってかけられませんか? この入口を通り抜けたもの全員に効果を及ぼすような』

「そうですね……できますが、魔力式空調装置などと同じ扱いになります。利用者が少ないと正常に動作しませんよ?」

『では、魔力を溜めておくことができて、残量がわかる……樽のようなものはご用意できますでしょうか? 普段は利用者の魔力を使い、それで足りなくなってきたら樽の中の魔力を使う。そちらが減ってきたら私たちで補充いたします』

「では、そちらも残量がわかりやすいように透明なクリスタルで作ってしまいましょうか」

 僕は入口に仕掛けをして通るものに《暗視》の魔法がかかるようにし、そこから伸びたクリスタルが横に設置されたクリスタルの容器に繋がるように仕掛けを施しました。

 今回は僕とリンが試しにこの装置を使ってみましたが、本の和すかに容器内に入っていた魔力の水のようなものが減ったそうです。

『ありがとうございます。これで周りの様子も見渡しやすくなったでしょうか?』

「ええ、よく見えます」

「すっごい! 天井や足元をお魚が泳いでる!」

『ここは陸地に近い海を生息域にする魚の住処ですね。奥の方まで行けばもっとたくさんの魚がいますよ』

「それは楽しみ!」

「そう言えばこの建物、水中深くに向けて広がていますが、大きさも巨大でしたね」

『いろいろなものを見ていただきたいですから。……あら? 皆様、上をご覧ください』

「上?」

 マーメイドに言われたとおり上を見上げると丸いなにかから足が4本生えていて首の出ている生き物が泳いでいました。

 こちらに気がつくと、珍しいものが気になったのか寄ってきてくれましたね。

「マーメイド、この生き物は?」

『〝亀〟と呼ばれる生き物です。陸で暮らすものとこの子のように海で暮らすものの2種類に分かれております。今回は珍しいものを見かけたので寄ってきてくれたのですね』

「それじゃあ、私たちって運がいいんだ」

『亀自体がこの海域ではあまり生息していませんから本当に運がいいですよ。亀も行ってしまいましたし、次のスポットをご案内いたします』

 次は深いところに続く道のようです。

 途中でもいろいろな魚たちが目に留まり、その都度リンがマーメイドに説明を求めているので歩く速度はかなり遅いですが、仕方がないでしょう。

 そしてたどり着いたのは、海の底近辺。

 ここまで来ると本当に《暗視》がかかっていないと真っ暗なはずです。

『このエリアは深海魚の生息域です。ああ、ちょうどあちらから1匹来ますね』

 マーメイドの指さした方向から魚が1匹泳いできましたが……なんというか。

「あんまりかわいくない……」

『深海魚というものはそう言う種族が多いのです。光の届かない海底で暮らすために自分たちも目立たなくするような進化を遂げて参りました』

「なるほど。生き残るための知恵ですか」

『そうなります。どの生物も生き残るためには工夫を重ねて進化していくのです』

「ためになりますね」

「うん。ためにはなるけど……もっとかわいいお魚が見たいな」

『わかりました。浅い海の底へ通じる通路へと向かいましょう』

 僕たちは来たときとは違う通路を抜けて浅瀬の方に向かいます。

 向かいますが通路の途中で、1匹の円柱状の体をした生き物が降ってきて、僕たちを物珍しげに見つめてきました。

 この生き物は一体?

『あら、〝アザラシ〟ですか。そう言えばこの建物の一部は海面すれすれまででていましたね。新しい生息地にでも選んでくれたのでしょう』

「マーメイド、〝アザラシ〟ってなに?」

『海に暮らす生き物のひとつです。魚ではなく哺乳類という生き物ですね。浅瀬の上で日に当たってのんびり暮らしたり、海の中で泳ぎ回ったりと気ままな生き物です』

「なるほど。この生き物のための施設もこの海面上に造りますか? そうすればもっと出会いやすくなるでしょう」

『それはいいですね。是非お願いします。ともかく今日はご案内のみと言うことで』

 僕たちはマーメイドに導かれるまま、別の陸地が近い部屋へと案内されました。

 ただここは、太陽光も届くような明るい海のようです。

『ここも海の底の一種です。先ほどとはまるで違うでしょう?』

「うん! 色とりどりで綺麗!」

『ここは太陽光が届く海辺ですからね。綺麗なお魚などもたくさん泳いでいます』

 マーメイドの言うとおり様々な色をした魚たちが泳ぎ回っていました。

 岩には珊瑚だけではなく〝イソギンチャク〟という生物もはりついていて、あれは小型の魚を食べるそうですがあれの中に隠れている魚もいるそうでして複雑な生態系というものを成しているようです。

 それにしても、海ですか。

 これだけたくさんの生き物がいるだなんて知りませんでした。