神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

 僕とリンが幻獣などの閉じ込められた檻を見張るようになってしばらく、ようやく檻を動かし始めました。

「あ、檻が移動を始めたよ」

「まだですよ。護衛の兵士は山ほど残っています」

 僕たちはそのまま檻と一緒に移動を開始、たどり着いたのは……どこかの地下にある空間でしょうか?

 幻獣などが入った檻はその奥のスペースに並べられ、先ほどよりも少ない兵士が守りについています。

 そして、それを見つめるように段差になった半円状の……見物席というものでしょうか?

 そこには豪華な身なりをした人間たちが大勢集まっていました。

 そして、最上段にある席には更に豪華な身なりをした男女が数名。

 ここは一体?

「さあさあ、お待たせいたしました! 幻獣や精霊、妖精たちの販売会を始めたいと思います!」

 この近くに立っていた男がそんな宣言をしました。

 やはりここは幻獣たちを売りさばく場所でしたか。

「司会は私、創造魔法使い『トマージュ』が担当させて頂きます! 下等な幻獣どもの首には〝強制従属の首輪〟がはまっておりますのでお買い上げ頂いた皆様に逆らうことはできません! 観賞用に使うなり気晴らしにもてあそぶなりご自由にどうぞ!」

 トマージュとか言う男の宣言にリンが怒りを貯め込んでいくのがわかりますがいまは堪えさせます。

 影の軍勢たちが動き始めたら僕たちも行動開始なのですから。

「さて、まずは商品番号1番! マンティコアからです!」

 マンティコア……外で暴れ狂っていますが、あのような危険な幻獣まで捕まえていましたか。

「さて、このマンティコアを捕まえるには大変苦労いたしました! なので、金額もミスリル貨100枚からのスタートとさせていただきます!」

〝ミスリル貨〟と言うのが里暮らしの僕たちにはわかりませんがそろそろ行動を始めてもいいでしょう。

 僕は右手を掲げ振り下ろします。

 それと同時に影の軍勢たちが行動を開始、この会場全体が薄暗いためその闇に便乗して様々な方法で豪華な身なりを整えた人間たちを始末していきました。

「な、なんですか、これは!? 一体なんの騒ぎです!?」

 慌てて衛兵たちが駆け出し事態を鎮圧させようと動き始めましたが、そちらの方が都合のいい。

 僕とリンが持っていた魔剣で衛兵たちを真っ二つにして走り出しました。

「な、なんだ!? なにが起こってる!?」

「トマージュ様、創造魔法を! このステージにも賊が侵入しておりま……」

 とりあえずなにかを言い出しそうだった男の首もはね、増援でやってきた衛兵たちも魔剣でまとめて命を刈り取ります。

 ……昔は血の臭いだけでも体調を崩していたのに、いまでは自分から相手を殺しても気にしなくなるとは。

 成長したのか、感覚が麻痺してしまったのか、わかりませんね。

 増援の兵士が出てこなくなったタイミングで檻を創造魔法ですべて消し去り、〝強制従属の首輪〟をマインからもらったナイフで切り落としていきます。

 首輪を失った幻獣や精霊たちは力を取り戻し、その本来の凶暴さを発揮して周囲にいる者たちを攻撃し始めました。

 豪華な身なりをした者たちはそれによってほぼ皆殺しにされ、最も高いところにいたより豪華な身なりをした人間たちも影の軍勢によって逃げ場を塞がれているようです。

 ただ、あの場には対抗装備を持った兵士たちがいて完全に制圧できていない様子。

 僕は残っていた幻獣たちも呼び出して増援に向かわせました。

「……幻獣を召喚だと!? やはり侵入者か! 姿を現せ!」

 今更のようにトマージュと呼ばれていた男が創造魔法を使い僕とリンの鎧にかかっていた透明化の効果をかき消しました。

 それによって僕たちの姿も露わになったわけですが……すでに勝敗は決していますし大差ないでしょう。

「なんだお前たちは! どこから入り込んだ!?」

「幻獣たちの檻が運び込まれるとき、一緒に入ってきましたよ」

「その前から幻獣たちと一緒にいたけどね! 本当に腹が立つわ!!」

「そんな時からいただと! 嘘をつくな! 私の創造魔法を欺くなど……」

「創造魔法、使っていなかったじゃないですか」

「私たちが幻獣のみんなを召喚して始めて使ったものね」

「うるさい、うるさい、うるさい! 名を名乗れ!」

 この男、意味がわかっているのでしょうか?

 この場で名前を聞いたところで意味などないことに……。

 僕もリンも、より高出力の創造魔法で身を守られているのですが……。

「まあ、あなたの最期です名乗っておきましょうか。僕はある里の契約者、シントです」

「私は守護者のリンよ。すぐにお別れするけどよろしくね?」

「くっくっく! 名を名乗ったな! 行け、〝強制従属の首輪〟よ! あの者たちを捕らえよ!」

 ああ、やっぱりそれですか。

 事前にメイヤから話を聞いていましたけども本当に使ってくるとは。

 ……それにしても〝強制従属の首輪〟にしては魔力が薄すぎるような?

 ともかく、僕たちにあたった〝強制従属の首輪〟……の出来損ないのようなものはより強い創造魔法によって守られている僕たちに触れた瞬間、崩れ落ちました。

 無様ですね。

「なんだと!? 私の〝強制従属の首輪〟が通じない!? 精霊だって従えられるのに!!」

「精霊? 幻獣は?」

「幻獣は別のお方の担当だ! それにしてもどこかの里の田舎者が私をコケにするなど100年早いわ! お前の里の広さなど雀の涙程度だろう! 私が国王様から頂いた領地では私が創造したトメィトがトメィト畑で毎日たくさん収穫されている! それはそのまま食べてもよし! 飲み物にしてもよし! パンの材料にしてもよしなのだ! その収益金はお前の里の収益などとは桁外れに大きいぞ!」

「……ねえ、シント。この男は一体なにを言い出したの?」

「……さあ? とりあえず、そろそろ退場してもらいましょうか」

「そうだね。私が魔弓で頭を吹き飛ばしてもいい?」

「……どうせなら腹を吹き飛ばしましょう。死ぬまでもがき苦しんでもらうように」

「わかったよ。それじゃあ、始めるね」

 リンは保管庫からマインの新しく作った弓を取り出してトメィトと自慢していたトマージュとかいう男に向けました。

 ですが、トマージュはまったく怯んでいませんね?

「ふん! 魔弓だかなんだか知らないが私の創造魔法の防壁を破れると思うな、小娘!」

「試せばわかるわよ!」

 リンが放った魔弓の一射。

 それだけでトマージュの腹には大きな穴が開き大量の血がこぼれ落ちました。

「え? 私の創造魔法が通用しない? それに傷の回復もできないだなんて?」

「創造魔法では大怪我の回復は無理ですよ。そのまま死になさい。愚か者」

「そんな……私はこの国第二位の創造魔法使いだぞ? 私が失われればこの国の損失に……」

「知ったこっちゃないわね。幻獣たちをもてあそんだ罪、その身で償いなさい」

「嫌だ、私が死ねば私のトメィト畑はどうなる? 私の収益金は?」

「……知らないわよ」

「私のトメィト……」

 その言葉を最期にトメィト……じゃなかったトマージュは動かなくなりました。

 トメィトってそんなに大事だったのでしょうかね?
 トマージュだかトメィトだか知りませんがこの男の死体も炎で焼き払い、あとは各所で戦っている幻獣たちと合流して退散です。

 そう考えていたそのとき、僕とリンに向けて2本の首輪が飛んできました。

 その力はなかなか強いものでしたが僕の創造魔法に比べればはるかに劣るもの。

 僕とリンに触れた時点で崩れ落ちます。

「……ふむ。トマージュが殺されただけのことはある。私より強い創造魔法使いがいるとは想像もしなかった」

 暗がりから出てきたのは30代前半程度の男。

 無気味な表情を浮かべ僕たちを見ています。

「お前は誰だ!」

「名乗ってもいいだろう。私はウィシク、この国……いや、元この国の第一位創造魔法使いだ」

「元この国?」

「お前たちが解き放った幻獣たちによって貴族も貴賓席にいた王族たちも皆殺されたよ。こうなってしまっては国の舵取りなどできはしないだろう。この国は内乱状態に陥るはず。国としての体裁など保てるものか」

「それは失礼を」

「心にもない詫びだな。まあ、いい。創造魔法使いだった見習いたちが皆殺しにされていたのもお前たちの仕業か?」

 ……やはりトライとオニキスは創造魔法使いを皆殺しにしましたか。

 覚悟していたとはいえ、気分が重くなります。

「その表情、命じたわけではないようだがお前たちの仕業のようだな。〝強制従属の首輪〟などという危険物を量産させないためにもその芽は潰しておきたいというのが幻獣たちの本音だろう」

「そうなってしまいますね。その方々は後ほど聖魔法で浄化いたしましょう」

「そうしてもらえると助かる。生きて私の前から姿を消せればの話になってしまうが」

「……やっぱり戦いに来たのね!」

「ここまで国を乱されたのだ。最後の奉公くらいはせねば。どちらか一方でも〝強制従属の首輪〟で操れれば共倒れを狙えたが甘くはなかったようだ」

「そんなミス、するわけないでしょうが!」

「そうだろうな。それにしても〝創造魔法〟が扱えるのに〝魔剣術〟まで扱える。お前たちは何者だ?」

「それに答える義理はありませんよ。この問答は時間稼ぎですか?」

「そのような考えもない。確かに魔力を貯め込んでいるのは事実だがお互い様だろう? 単純に戦いを始める前に疑問を聞いておきたかったのだ。殺してしまっては疑問を聞くこともできないからな」

「私たちを殺せるだなんて相当な自信があるようね?」

「無論あるとも。先ほども言ったが私は最上位の創造魔法使いだ。その程度ができなくてどうするというのだ?」

 この男の自信は本物のようです。

 僕たちは神域の契約者と管理者のため不老不死ではありますが、油断していると痛い目にあうでしょう。

 特にリンはかなり頭に血が上っています。

 戦いが始まる前に注意しておくべきですね。

「リン、一度冷静におなりなさい。僕たちでも手こずる相手のようです。怒りに身を任せて単調な動きになればそれこそ相手の狙い通りでしょう」

「う……ごめん」

「そちらの少年は理性的だな。いいコンビだ。話に乗るはずもないが念のためのスカウトだ。私とともに幻獣たちを支配するつもりはないか? 本気になればこの国どころか近隣諸国一帯を支配下に収めることができるぞ?」

「お断りです。断られることがわかっているのに聞かないでください」

「それもそうか。これでも本気だったのだが」

「そもそも、そのような方法で国を支配してもすぐに支配体制が崩れてしまうのでは?」

「それを見るのが面白いのだよ。恐怖支配とそれが崩れたときの戦乱。実に滑稽ではないか」

「……とりあえず、あなたとは一生わかり合えそうにないことはわかりました」

「だろうな。トマージュも私の考えは理解できないと散々抜かしていた。別に理解してもらいたい訳ではないのだがな」

 それならば、無駄にスカウトなどしないでいただきたいのですが……。

 この男にはそれすら無駄な話なんでしょうね。

「そちらの少女もスカウトしたいが無駄だろう。さて、魔力も貯まってきた。そろそろ戦いを始めたいがよろしいか?」

「望むところよ!」

「構いませんよ。ああ、幻獣たちは使わないであげます」

「いい判断だ。幻獣たちを使っても私が〝強制従属の首輪〟で従えるだけだからな。では、行かせてもらう!」

 ウィシクが気合いを入れて魔力を解き放つと僕たちに向けて何本もの石の槍が飛んできました。

 リンはそれをすべて受け止めるつもりだったようですが、嫌な予感がした僕はリンの腕を引っ張り上げて空へと脱出します。

 そして、嫌な予感は的中しており、リンの足をかすめた岩の槍はマインの作った鎧を砕いていました。

「マインの鎧が!?」

「リン、これからは攻撃すべてを回避してください。あの男の攻撃力は半端なものではありません」

「う、うん。わかった」

「ほう。空も飛べるか。では、こちらはどうかな!」

 僕たちの頭上に現れたのは何本もの氷柱の槍。

 僕とリンは炎の壁を張りそのすべてを消し去ります。

「ふむ。防御力も素晴らしいな。だが、いつまで耐えられるかな!?」

 今度は炎の矢が幾本も軌道を変えつつ迫ってきました。

 僕たちはそれらを飛び回りながら回避しますが、矢は僕たちのあとをついて回り水の玉で一本一本消していくのがやっとです。

 この男、本当に手強い!

「この! 私の魔弓を防げるものなら防いでみなさい!」

 リンはウィシクの攻撃が収まったのを見計らい魔弓でウィシクを狙い撃ちにしました。

 ですが、ウィシクは回避しようともせず、リンの放った矢は届く前に消え去ります。

「なんで!?」

「創造魔法で作った障壁だ。なかなか強い魔弓だが……トマージュはこの程度も守れないほど力が弱かったのか。無様だな」

「では、この剣はどうです!?」

 僕は魔剣を取り出し斬りかかりますが結果は同じ。

 見えない壁に阻まれて剣を止められてしまいました。

 その上、おそらくは風の弾丸でしょうが反撃を受けてしまい、ブレストプレートに大きな亀裂が入ってしまいましたよ!?

「シント!?」

「僕はまだ大丈夫です! ですが、魔剣による攻撃すら効かないとは……」

「いやいや、素晴らしい名剣だ。私でなければ切り裂かれていただろう。私を切るには不十分だったようだが」

「この……がはっ!?」

「リン!? くっ!?」

「そちらの少女は直撃したようだが少年は盾で防ぐか。だがその盾も何回防げるかな?」

 見ればリンはブレストプレートを破壊されて大怪我を負いポーションを飲んでいますし、僕の盾にも大きな亀裂が入っています。

 おそらくは見えない風の槍を撃ち込まれたのでしょう。

「さて、次だ」

 ウィシクの宣言通り、今度は電撃が僕たちに迫ってきます。

 僕もリンもぎりぎりでかわしましたが……このままではまずいですね。

 なにか対抗策を考えないと。

「とりあえず手の内はすべて見せたな。では、ここからは複合で行かせてもらおうか」

「まだ、余裕があるの!?」

「本当に早く倒す手段を見つけなければ負けてしまいますね!」

 ウィシクの宣言通り岩の針や氷のつぶて、炎の渦、風の刃、電撃の壁などが次々と僕たちふたりを攻め立てます。

 リンも盾を取り出しかわしきれない攻撃は防いでいますが、その盾もすぐに亀裂まみれになってしまいあと数回使えば砕け落ちるでしょう。

 その間も魔剣ではなく各種魔法を使った攻撃を繰り出しますが、ウィシクはすべて涼しい顔で受け流していました。

 僕たちの攻撃などかわす理由さえないと言った様子です。

 各属性の上位魔法ですら受け止められてしまうのだから始末に負えない。

 一体どのようにすればウィシクの守りを削れるのか……。

「ほれほれ、少年少女。早くせねば死んでしまうぞ?」

「わかっているわよ!」

「次の手段……最終手段ですが仕方がありませんね!」

 僕はウィシクの足元からせり出す岩の槍を放ちました。

 土魔法ではなく創造魔法を使って。

「ッ!?」

「えっ!?」

「今回はかわした!?」

 いままではどんな魔法を使っても涼しい顔をして受け止めるだけだったウィシクが今回は明確に自分から回避しました。

 これはひょっとして……。

「行きますよ!」

 僕は炎の槍を創造魔法で作って放ちます。

 すると、ウィシクはそれも身をひねり回避。

 なるほど、そういうことでしたか。

「シント、なにがどうなっているの?」

「ウィシクの防壁は〝創造魔法〟でないと破れないんですよ。だから、ほかの攻撃では一切歯が立たなかったんです。魔剣だろうと魔法だろうとね」

「……そこまで読み取られてしまったか。では、ここから先は遠慮無用! 今度こそ殺してくれる!」

 ウィシクの宣言通り攻撃が激しくなりましたが、僕も創造魔法の防壁を張ることでそれらを耐えることができるようになりました。

 ただ、一発一発を受け止めるだけでも魔力を大量に消費するために魔力回復用のポーションを大量消費することになりましたが作り置きは大量にあるので問題ありません。

 追加で作っておいて本当によかった。

「くっ……創造魔法の防壁で防がれることが知られてしまうと、そう易々と攻撃が通じる相手ではなくなるか!」

「魔力は大量に消費していますけどね!」

「ほざけ! 私の創造魔法をそれだけしのいでおいて魔力が尽きぬなど人外にも程がある! お主、何者だ!?」

「それに答える必要はありません。こちらからも攻めさせていただきます!」

 僕は創造魔法で可能な限りの魔法を生み出しウィシクを攻め立てました。

 ウィシクもすべてを回避することはかなわず、何発かは受け止めることになってしまい、攻撃の手数も段々と減っていっています。

 魔力回復用のポーションと思われる液体を飲み始めているあたり、かなり厳しくなってきているのでしょう。

 ここが勝負の決め所ですね!

「はぁぁぁぁ!!」

「懲りずに魔剣での攻撃か! 魔力が減っているとはいえどその程度、耐えてみせるぞ!」

 僕はその手に剣を持ちウィシクに斬りかかります。

 ウィシクは防壁を厚く張ったようですが、その防壁と僕の剣は拮抗。

 やがて防壁を切り裂いてウィシクの左腕を切り飛ばすことに成功しました。

 ……致命傷にはほど遠かったですね。

 ウィシクは僕の追撃を避けるためか大きく間合いを取り1本のポーションを飲み干しました。

 すると、切り落としたはずの左腕が生えてきて……欠損回復用のポーションまで待っていたんですね。

「なぜだ!? なぜ、私の防壁を魔剣で切り裂ける!?」

「秘密ですよ。さあ、ここからは近接戦闘の時間です。僕もあまり得意ではありませんが……リンにも手伝ってもらいましょうか」

「呼んだ?」

「呼びました。このダガーを使って戦ってください」

「このダガー……わかった!」

 僕の作りだした武器は単純、〝創造魔法で生み出した魔剣そっくりな武器〟です。

 見た目は魔剣とうり二つに作りましたからウィシクも油断して回避してくれませんでした。

 リンに渡したダガーも創造魔法で魔剣そっくりに作り出したダガー。

 僕たちふたりがかりで接近戦を挑めばウィシクの防壁もすぐに消えてなくなるでしょう。

「なんだ……なんなのだ、お前たちは!?」

「幻獣や精霊、妖精たちを助けにきた田舎者ふたりですよ」

「そうそう。悪いけど、〝強制従属の首輪〟なんて危険物を作れる創造魔法使いを生かしておくことはできないの。逃がさないから死になさい!」

「くっ……こんなところで死んでたまるか!!」

 ウィシクは出入り口に向かい逃げだそうとしましたが、出入り口の前に大量の魔力を使って分厚い鉄の壁を作ってしまいました。

 もちろん、反対側の出口にも。

 魔力消費が大きかったので魔力回復用のポーションを飲む必要がでましたが、大した問題ではないでしょう。

「おのれ……このような壁、すぐにでも!?」

「大量の魔力を使って作った壁です。破壊するにも大量の魔力を必要とするのでは?」

「こんな小僧がここまでの創造魔法使いだと……?」

「国一番の創造魔法使いだからと言って慢心しすぎましたね。大人しく死んでください」

「まだだ! まだ私は諦めないぞ!!」

 ウィシクは最後のあがきとばかりに攻撃魔法を連発してきます。

 ですが、先ほどまでと違い込められている力は微々たるもの。

 わざわざかわさずに障壁で防ぐだけでも魔力の消耗をほとんど感じません。

 やがて、ウィジクの元までたどり着いた僕らふたりはそれぞれの武器による攻撃を開始、ウィジクの障壁をどんどん削り取っていきます。

 ウィジクも最後のあがきとばかりに魔力回復用のポーションを続けて飲みほしていますが、どうやら障壁が削れて行くスピードの方が早い様子。

 障壁が消え去ると僕の剣はウィシクの胸を深く切り裂き、リンのダガーはウィシクの腹に深々と突き刺さりました。

 これで決着ですね。

 回復用のポーションが残っていたとしても僕は何本でも創造魔法で剣を生み出すことができるのですから。

「馬鹿な……こんな子供たちに私が殺される? 私の国の野望は……ここで終わりなのか?」

「幻獣や精霊、妖精たちをもてあそんだ罰です。その命、尽き果てるまで後悔しなさい」

「そうね。あなたに救いなんて与えはしない。あなたの死体は闇魔法で消し去ってあげる。その存在すら残さないほどにね」

「……これが、私の終わり……この30年近くを創造魔法の研究だけに費やしてきた私の終わりなのか?」

「誰にも手を出さなかったのであれば生を全うできたでしょう。怒らせた相手がまずかった。ただそれだけです」

「幻獣どもなど……人間に支配されるだけの……」

 その言葉を最後にウィシクは事切れました。

 リンは宣言通り闇魔法の炎でウィシクの亡骸を取り込み、塵すら残さずその存在をこの世界から抹消しましたね。

 このような存在を残しておきたくないのは僕も一緒なので止めませんでしたが。

『お疲れ様だ。契約者、守護者』

『すまないな、俺たちが戦いに割って入れば足手まといにしかならなかった』

「トライ、オニキス。無事だったのですね?」

『無論だ。この国にいた創造魔法使いの始末もすんでいる。……お前たちは喜ばないだろうがな』

『許せ。〝強制従属の首輪〟の知識はすべて断っておきたかった』

「……仕方のないことだったと諦めます。それよりも亡骸はどうしてありますか?」

『申し訳ないがそのままだ。どうするのだ?』

「僕とリンが行って聖魔法の炎で送り出してあげます。……勝手なのは承知していますが」

「うん。身勝手に殺しておいて、最後だけ弔うだなんて傲慢だけど」

『いや、それでもよかろう。この広間にいる愚か者どもはカエンに焼かせていいか?』

「お願いします。幻獣たちの売買に関与しようとした愚か者ども、わざわざ僕たちが弔う意味もない」

『ではカエンに伝えてくる。場合によってはこの部屋そのものが焼け落ちるだろうが、幻獣たちは避難させるから安心してくれ』

「頼みました。オニキス、創造魔法使いたちの亡骸まで道案内をお願いします」

『心得た。ふたりとも付いてこい』

 オニキスに案内された部屋では子供から年配の方まで100人以上が死んでいました。

 僕とリンは手分けしてその方々すべてを聖魔法で浄化して焼き払っていきます。

 すべての作業が終わったのは夕方になってから。

〝貴族街〟とやらで暴れていたみんなもすでにすべての家々を壊し尽くし焼き払い、がれきと焼け落ちた灰の広がる土地へと変えていました。

〝王城〟を守っていたという兵士たちも全滅し、残されたのは僕とリン、幻獣、精霊、妖精たちのみです。

 僕とリンは転移で帰還することように言われましたがほかのみんなはそれぞれやることが残っているそうです。

 特に今回捕らえられていた者たちを故郷に送り返すための護衛を務めてくれるのだとか。

 僕たちではそんなことはできないですし、ヒト族である以上怖がられてしまう恐れがあります。

 みんなの優しさに甘えて僕とリンは帰るとしましょう。

 それにしても、長かった〝王都〟との戦いもこれで終わりなんですね。

 助けられる範囲だけでも助けられてよかった。
〝王都〟での決戦から一カ月ほどが過ぎました。

 影の軍勢には念のため各地で監視を続けてもらっていますが、あれ以来〝狩り〟が行われることもなくなり神樹の里では平和な日々が続いています。

 ただひとつの問題を除いて。

「~~~♪」

「ディーヴァの歌唱会は今日も人気だね……」

「はい。たくさんの住民が集まっています……」

 そう、囚われていた幻獣や精霊、妖精たちのほとんどが神樹の里へと移住を希望してきたのです。

 各自、自分が暮らしていた場所に一度は戻ったものの、人間たちの〝狩り〟によって住むことができない環境にされてしまっていることが多く、また、多くの仲間を失った場所に住むことがつらい者もいてそういった方々はすべて神樹の里へ招き入れました。

 更に問題となっているのが……。

「~~~♪」

「ミンストレルも楽しそうに歌っているよね」

「あちらは幼い者たちが多いですけどね」

 はい、幼い幻獣や精霊、妖精たちもたくさん移住してきたことです。

 こちらは元々神樹の里にいた幻獣や精霊たちが四方八方手を尽くして親を探して歩いたのですが、親らしき者たちは見つからずおそらく〝狩り〟のときに殺されてしまったと言うのが全員の一致した見解です。

 この子供たちは一旦神樹の里で引き取り、親らしき者たちが戻ってきた時に返してあげるように手配していますが……望みは薄いでしょう。

 それ以上に神樹の里に慣れ始めている子供たちが外界へ出ていくことを望むかどうか。

 恐ろしい思いをしてきたのですから可能な限りその恐怖を忘れさせてあげないと。

「それにしてもいまの神樹の里ってどれくらい広いんだろう?」

「さあ? 僕とリンの魔力量に比例して広がっているそうですが、岩山や海だけでなく普通の山々を作ることもできましたし相当広がっているのでは?」

「海だってかなり広いもんね。マーメイドのみんなはときどきお魚を持ってきてくれるけど、あれってどこから持ち込んでいるんだろう?」

「それもわかりませんね。この前聞いてみましたが海の中に泳いでいるそうですよ。あと、僕はよく知りませんが宝石の原料になる珊瑚や宝石の一種である真珠も手に入るそうです。リン、ほしいですか? あと、ドワーフたちもたくさん宝石を持っていてアクセサリーがほしいなら好きなものを作ってくれるそうですが」

「んー、いらない。そんなものがあっても戦いの邪魔にしかなりそうもないし、アクセサリーとかよくわからないもの」

「そうですか。ちなみに、アクセサリーには魔力効率を上げたり身体能力を高めたりする魔法を込めることもできるそうですが……」

「それならほしい。シントを守る手段が増えるならいくらでももらう!」

「いくらでもはだめだそうですよ。指輪が左右の手にひとつずつ、ブレスレットがひとつ、ネックレスがひとつ、耳飾りがひとつまでしか魔法のアクセサリーは身につけても効果を発揮しないそうです」

「そうなんだ。でも、指輪と耳飾りはなんとなく想像できるけど、ブレスレットとネックレスってなに?」

「ブレスレットは腕にはめるアクセサリー、ネックレスは首飾りらしいです」

「そっか。昼食を食べたらマインのところに行って発注してみよう」

「それがよさそうですね。……ああ、ディーヴァとミンストレルの歌唱会も終わったようです」

「本当だ。みんな思い思いに散っていくね」

「最近だと早めに来て場所取りをしている者たちもいるそうですよ?」

「そこまで人気になっちゃったんだ」

「そのようです」

 そのあともリンとおしゃべりをしながらディーヴァとミンストレルが合流するのを待ちます。

 やってきたふたりはどこか恐縮した様子ですね。

「お待たせしました。シント様、リン。最近は待たせることが多くなってしまい申し訳ありません」

「ごめんなさい、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「気にしていません。それにしても、ふたりの歌唱会は大混雑ですね」

「うん。みんなぎっしりなんだもの」

「はい。聴きに来てくれるのは嬉しいのですが、後ろの方にいる方はあまり声が届いていないらしく」

「私もなの。みんなには喜んでもらいたいなぁ」

「ではそこもマインに相談してみますか。昼食後、マインへと魔法効果のあるアクセサリーをお願いしに行くところだったんですよ」

「そうだね。五大精霊のマイン様ならなにかいい解決手段を知っているかも」

「……気軽に五大精霊様を使ってもいいのでしょうか?」

「いいと思いますよ。ヴォルケーノボムとトルマリンは僕たちとの手合わせしか暇つぶしがないとまで言い出していますから」

「〝王都〟との戦いが終わっちゃったからね。みんな張り詰めていた空気が抜けきらないんだよ」

「そういうことでしたらご一緒させていただきます」

「うん。一緒に行く!」

「では、メイヤのところに行きましょう。昼食の準備は整っているはずですから」

 合流した僕たち4人は神樹で待っているメイヤの元へ。

 今日も美味しい果実を食べながらアクセサリーの話をしてみました。

『いいのじゃないかしら。〝王都〟の一件ではシントとリンでさえ魔力不足、回復力不足が露わになってしまったわけだし、毎日の食事以外でも強化できるならするべきよ』

「やっぱりそうですか。ちなみに〝王都〟へ行く前に作っておくべきだったのですかね?」

『結果論だけ見ると作っておくべきだったわ。でも、〝王都〟にあれだけ強い魔法使いがいるだなんて想定していなかったもの。反省して次に備えましょう。みんな次はもうないと考えているけど』

 そう言えば、あの後〝王都〟がどうなったのか聞いていませんね。

 ミンストレルがいる場で聞くべきではないでしょうし、マインにアクセサリーをお願いしている間、こっそりと聞き出してみるべきでしょうか?

『それにしても、ミンストレルもよく食べるようになってくれて安心したわ。ここに来たばかりの頃は痩せ細っていて食事もあまり食べられなかったもの』

「だって、メイヤ様の果物って美味しい!」

「申し訳ありません。森では役職を与えられていない時点でのエレメンタルエルフはあまり食事なども与えられないのが一般的だったのです。本当にメイヤ様には感謝しております」

『木の実を生み出すことくらい神樹にとっては造作もないことよ。喜んで食べてくれるのならいくらでも作り出すわ。私の木の実はいくら食べても太らないから安心なさい』

「……それではひとつお願いが」

『なに? できる範囲でなら要望に応えてあげるわよ?』

「歌を遠くまで聞こえるようにする実というのは作れませんか? もっと多くの方々に聴いてもらいたいのです」

『ふむ。不可能ではないけれど、それだったら風魔法の《ファーボイス》を使った方が早いわ。風魔法を覚えられる木の実をいま作ってあげるからそれを食べて《ファーボイス》の練習をしなさいな。ミンストレルも覚えたい?』

「覚えたい!」

『じゃあ、ふたり分ね。はい、どうぞ』

「ありがとうございます。わがままを聞きとどけてくださり」

『気にしない気にしない。あなたの歌はみんなの癒しになっているのだし、少しでも多くの者たちに聴いてもらいたいのが私の本音でもあるわ』

「では遠慮なく頂きます」

 こうして昼食も無事に終了。

 ディーヴァとミンストレルを連れてマインたちの鉱山へ。

 そこでは相変わらずドワーフたちがせっせと鉱石を掘り出したり、掘り出した鉱石からいろいろな道具を作り出したりしていました。

 僕たちの鎧や魔剣も定期的に更新されているんですよね。

 物作りへの執念って恐ろしい。

『ん? 契約者に守護者か。それにディーヴァとミンストレルも一緒とは。何用じゃ?』

「魔法のアクセサリーをお願いに来ました。作れますか?」

『喜んで作らせてもらおう! どのような効果を望む!?』

 マインが勢いよく迫ってきました。

 ……物作りへの執念って恐ろしい。

「ええと、僕とリンには魔力上昇と魔力回復力上昇、負傷回復力上昇のアクセサリーを。ディーヴァとミンストレルは……」

「歌声を遠くまで響かせることができるようなアクセサリーをお願いしたいのですが、可能でしょうか?」

『どれも可能じゃ。そうじゃな、ディーヴァとミンストレルのアクセサリーは二日もあればできるじゃろ。契約者と守護者のアクセサリーは一週間待て』

「それくらいでしたら喜んで。でも、無理はしませんよね?」

『この程度、無理のうちにも入らん。デザインにも凝らせてもらうから安心しろ。テイラーメイドにも負けぬアクセサリーを仕上げてみせよう!』

 それはそれで怖いのですが……まあ、デザインとかはよくわかりませんしお任せしましょうか。

 あちらの方が専門家ですし。

 依頼が終わったので鉱山から出ようとするとウィンディが飛んできました。

 鉱山内にやってくるとは意外ですね?

『契約者、守護者、ごきげんよう。ディーヴァとミンストレルが《ファーボイス》を覚えたいと聞いてやってきたのだけれど』

「はい。少しでも多くの方に歌を聴いていただきたいのです」

『それなら私が練習に付き合ってあげる。私は風の精霊、風魔法は専門家よ』

「よろしいのでしょうか、五大精霊様直々のご指導など……」

『私がいいと言っているのだから気にせずにいらっしゃいな。ミンストレルも一緒にね?』

「はい!」

『では行きましょう。契約者、守護者、またね』

「シント様、リン。今日はこれで失礼します」

「ばいばい、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

「魔法の練習、頑張ってください」

「ディーヴァもミンストレルも頑張ってね!」

 ウィンディはふたりを連れて行ってしまいました。

 マインもアクセサリー作りを始めていますし……アクエリアに〝王都〟の結果を聞きに行きましょう。

 アクエリア、湖にいてくれるといいんですが。

 僕とリンはアクエリアなど水の関係者が住む湖へとやってきました。

「アクエリア、いますか?」

『はい。契約者、守護者、今日はどうされました?』

「もう1カ月ほど経ってしまいましたが、僕たちが帰ったあと〝王都〟はどうなったのか聞きたくて」

『なるほど。みんな、誰かが報告しただろうと考えて誰も報告していなかったのですね。承知いたしました。お伝えします』

 ……みんな、誰かが報告したと考えていたんですか。

 多分、メイヤあたりが報告したと考えていたのでしょうが、この1カ月はメイヤと一緒にいる間はミンストレルも一緒だったので物騒な話をできませんでしたからね。

『まず〝王都〟ですが、〝王城〟を私たち五大精霊の力で完全にガレキの山にしました。中に残されていた書類などもヴォルケーノボムやトルマリンが念入りに焼き払っていたのであそこにあった技術資料はすべて消失させることができたでしょう』

「お城まで破壊したんだ……」

『五大精霊の怒りを買うとどうなるかを知らしめないといけませんでしたので。そのあと、幻獣たちが〝王都〟を脱出するための道を何本か作りました』

「道、ですか?」

『邪魔な壁があったのでそれらを破壊して回りました。すべては破壊していませんが何本か大きな幻獣たちでも通れるだけの道は作らせていただいております』

「……さすがですね」

『あと……〝貴族街〟でしたか。あそこは幻獣たちが暴れ回ったのでほぼなにも残っていませんでしたが、私たち五大精霊で更に〝整地〟いたしました。私が水ですべてを洗い流し、ヴォルケーノボムがそのあと焼き払い、ウィンディが竜巻で大地を削り、マインが大地を隆起させたり陥没させたりし、トルマリンが雷の雨で一体の岩を砕いて回っております。人間どもではあの場所を再利用することなどできないでしょう』

「……そこまでやる必要ってあったの?」

『守護者、五大精霊にまで手を出したんですよ。そのくらいの反撃は覚悟していただかねば』

「状況はわかりました。それ以外の人間たちは?」

『私たちに手向かってきたもの以外は無視しています。今後あの街が機能するかまでは我々の知るところではありません』

「……それもそうですね。ほかに変わったことは?」

『報告すべきは以上でしょうか。影の軍勢は〝対抗装備〟の残りがないか調べ回っていますし、そういったものがあれば私たち五大精霊が出向いて破壊して参ります。これ以上、契約者と守護者の手を煩わすことはありません』

「僕も人間なのですから力を貸したいのですが……」

『だめです。本来であれば契約者や守護者は神域に残り状況を管理するのが務め。事態が急を要していた上に私たちだけでは対抗できなかったからこそ、おふたりにも動いてもらっていたのです。これからはのんびりとこの神域で暮らしてください』

「……わかりました。ですが、なにかあればいつでも相談してください。できる限りの力になります」

「はい。五大精霊様のお力は信じておりますが私たちで力になることがあるのであればなんなりと」

『ありがとう。でも、基本は動かないでくださいね』

 アクエリアに念を押されましたが、僕とリンの出番はこれ以上ないそうです。

 もちろんなにかあったときに備えて訓練はかかしませんが、出番はないかもしれませんね。

 そのあともいろいろな場所を巡って不満や改善点がないかを聞いて周り、すぐに対応できるものはその場で解決、その場で対応できそうにないものは五大精霊やメイヤに相談して対応すると告げました。

 そうこうしているうちに夕食時間となり夕食も食べ終え、あとは温泉で疲れを取って寝るだけ。

 今日は少し遅めの時間に温泉に入り、夜空の星を眺めます。

「綺麗だね、シント」

「そうですね。ようやくゆっくりする時間ができました」

「うん。これからはどうするの?」

「訓練はしますが……五大精霊やメイヤが神域外に出ることをあまり許してくれないでしょう。のんびり神樹の里で暮らしましょうか」

「賛成。シントと一緒にいられる時間が増えて嬉しいなぁ」

「僕もリンとのんびりできる時間が増えて嬉しいですよ」

「お互い嬉しいね」

「ええ、お互いに」

 ときどきは夜空を見ながらの温泉もいいものです。

 途中でリンが眠りそうになり始めたので起こしてベッドへと連れて行きましたがこういう生活も悪くありません。

 この先は戦乱が起こりませんように。
 神樹の里の周りで積もっていた雪も溶け、本格的な春がやってきました。

 神樹の里自体は常春な気候なので季節の移り変わりなど感じないのですが、やはり春になると嬉しい物です。

「ディーヴァの歌唱会も段々聴衆が増えていっているよねー」

「《ファーボイス》とアクセサリーのおかげでかなり遠くまで歌声が聞けるようになったおかげです。大型の幻獣などは後ろの方で見ていますからいまでは座席の取り合いもないそうですよ」

「そう言えば、ディーヴァの歌を聴くためだけに神樹の里に来ている幻獣や精霊、妖精がいるって聞いたけど?」

「いますね。どこかからディーヴァの噂を聞きつけて集まって来たようです。ただ、この神樹の里は招かれていなければ幻獣たちでも入れないのが原則。そういった者たちには一時的に入る許可を出して歌を聴き終わったら帰ってもらうようにしています」

「それ、ちゃんと言うことを聞いているの?」

「破ったら二度と里に入れないともメイヤが言いつけていますからね。みんな、きちんとルールを守って聴いていってくれていますよ」

「そっか。そう言えば、湖や海で新しい歌を覚えるときにも聴衆がいるって聞いたけど……」

「そっちも本当のようです。まだ不慣れであっても新しい歌をいち早く聴きたいと」

「こう言っては悪いけど私たちとあんまり変わらないのかも」

「怒りを買わない限りは温厚ですからね。みんな、この2カ月ほどですっかり落ち着いてくれたのでしょう」

「まだ働いている影の軍勢には申し訳ないけどね」

「影の軍勢だって交代で休みを取ってディーヴァやミンストレルの歌を聴きに来ています。最前列に居座りたいから影に潜っているだけで」

「それならいいか」

「〝対抗装備〟の破壊も進んでいますし、いまでは五大精霊が街を襲ってくることを恐れて自分たちから〝対抗装備〟とその技術書を街の外に捨てていてくれるそうです。助かりますね」

「うん。やっぱり、あまり誰かが死ぬのは気持ちいいことじゃないからね。甘い考えなのは理解しているけれど」

「そうですね。〝王都〟では仕方のないこととは言え大勢の方を殺してしまいました。次は誰にもそんなことはさせたくありません」

 僕たちがそんなことを話している間にもディーヴァの歌唱会は終わったようです。

 今回も聴衆は思い思いの方へと散っていき……結界の外を目指して進んで行くのは神域外から来てくれていた聴衆の方でしょうか。

 ミンストレルの歌も終わったようで、一緒に駆け寄ってきます。

「いつもお待たせして申し訳ありません。《ファーボイス》と魔法のアクセサリーのおかげで遠くまで声が聞こえるようになり、更に喉の調子が良くなるとつい歌が……」

「うん。みんな楽しそうに聞いてくれるから私も嬉しくなっちゃう!」

「気にしていませんよ。僕たちのところまでふたりの歌は届いていますし」

「うん! ふたりともとってもいい声だったよ!」

「ありがとうございます。幻獣様などからもたくさん新しい歌を教えていただきレパートリーを増やしているのですが、飽きられないかが心配で」

「私はお歌の練習中だからディーヴァ様みたいにたくさんの歌は歌えないの。でも、みんなそれでも喜んでくれるもん!」

「それはよかった。それでは昼食に行きましょうか」

「はい。参りましょう」

「うん!」

 いまだにこの4人で食事は取るようにしています。

 メイヤとしては「4人一緒に来ればお互いに体調チェックができていいでしょう?」と言うことらしいのですが、神樹の里で神樹の実を食べている僕たちが体調を崩すなどあり得るのでしょうか?

 ともかく、今日も美味しい昼食です。

 木の実の味も毎回変わっていますし、味の種類も増えていっている気がしますが……聞くのは野暮でしょう。

 食事が終わったら、最近メイヤがはまりだしたお茶を出してもらい、ゆっくりとした時間を5人で過ごします。

『それにしてもディーヴァとミンストレルの歌は大好評ね。結構順番待ちが発生しているのよ?』

「そうなのですか、メイヤ様。できればたくさんの方々に聴いていただきたいのですが……」

『いろいろと手は打ってあるけれどそれでも聞ける聴衆の数って限られるからどうしてもね。ミンストレルは小さな妖精や幼い幻獣や精霊、その親たちから人気ね』

「うん! 私もみんなから喜んでもらえて嬉しい!」

『そう考えると……シント、ふたりのために歌唱用の音楽堂を創造魔法で作ってあげなさいな』

「音楽堂ですか?」

『ええ。そこで歌えば声が響き渡るようになってよりたくさんの聴衆に声が届くようになるの。毎日、暇をしているのだから創造魔法の練習だと思って作ってあげなさい』

「構いませんよ。ただ、それがどのような形をしているかがわからないと」

『そこに詳しい者たちは明日招き入れるわ。その指示に従って音楽堂を建てなさいな。ディーヴァとミンストレルに相応しい立派な物をね』

「わかりました。頑張ります」

『頑張ってちょうだい。……ところで話は変わるけれど、神樹の里ができてからそろそろ1年なのよね。つまり私とシントが出会ってから丸1年が経過する訳よ』

「そう言えば僕が生まれ故郷の村を追放されたのって1年前でしたっけ。この1年間はいろいろ忙しくてそんなことすっかり忘れていました」

『シントのいた村の話、影の軍勢が調べてあるけれど聞きたい?』

「もうあの村とは何の関係もないのでどうでもいいのですが、影の軍勢の皆さんがわざわざ調べてくださったのです。聞きましょう」

『なんでも廃村になっていたそうよ。それも作物の放置具合から考えて夏にはいなくなったのだろうって』

「夏ですか。僕を追い出したのが春の始まりの頃なのにずいぶんと早い」

『そこで暮らしていた人々の行方までは知らないけれど、調べてもらう?』

「どうでもいいです。あそこには両親と兄もいましたが僕が役立たずだとわかると家にも入れず、食事も満足にくれなかったような連中ですから。興味がないとはいいませんが影の軍勢の皆さんの手を煩わす程の問題でもありません」

『わかった。私たちが出会って1年ということはリンがやってきてからももうすぐ1年なのよね』

「……その節は大変ご迷惑を」

『気にしていないってば。あなたもこの里の守護者になったのだからその名にふさわしい活躍をしてみなさい』

「はい! ありがとうございます、メイヤ様!」

『大変よろしい。1周年記念のお祝いとかもしたいけれど、幻獣たちが集まってお祭り騒ぎになるからやめておきましょう』

「それがいいですね。やめておきましょう」

『あと細かい問題もあるけど、それはまた後回しね。今日話して明日解決することでもないし。みんなは午後からどうするの?』

「僕とリンは里の見回りを。ついでになにかすぐに応じられる要望がないかも聞いて周りに」

「はい。そうさせていただきます」

「私とミンストレルは海に行きマーメイド様たちから海の歌を習いに行かせていただきます。もっともっと歌の種類を増やしたいので」

「うん! みんなにたくさんのお歌を聴いてほしい!」

『わかったわ。4人とも気をつけてね』

「はい。それにしても平和でのんびり過ごせるようになったものですね。神樹の里は」

『……移住希望者も多いのだけどね』

「それって受け入れられますか?」

『受け入れることは可能だけれど……引っ切りなしに来るから保留』

「それは大変です。メイヤの判断に任せます」

『そうしてちょうだい。それじゃあ、夕食の時間には戻ってきなさいね』

「はい。それではまた」

 本当に神樹の里も平和になりました。

 あとは暮らしているみんなが不自由なく過ごせる体制を整えることができれば完璧ですね。

 それを目指して頑張るとしましょう。
 ディーヴァとミンストレル用の音楽堂を建てることになった翌日、僕の前には巨大な3匹のドラゴンが鎮座していました。

 ちなみにリンは別の場所で訓練をしてもらっています。

 僕は数日こちらにかかりきりでしょうから。

『音楽堂を建てたいというのは君か?』

「はい。ドラゴン様方にわざわざ……」

『ドラゴンでいい。神域の契約者ともなれば我々などよりも上位の存在だ』

『それにしてもディーヴァ、いい子ね。こっそり一般聴衆に紛れ込んで歌を聴かせてもらったけれどあの子のためなら音楽堂を建てたくなるわ』

「ありがとうございます。それで、僕は田舎者。〝音楽堂〟という施設をまったく知らないのですが……」

『そのために我々が来た。お前は安心して創造魔法で物作りに励め』

『ただ、音楽堂とは細かい作りなのだよ。数日はかかるだろう。覚悟しておいてもらいたい』

「わかりました。それで、どのような大きさのものを用意すれば?」

『まずは……そうね。このお花畑の外に野外ステージを作りましょう』

「野外ステージ?」

 それも聞いたことがないのですが……どういう施設なのかドラゴンたちの説明を待ちましょう。

『歌を歌う者たちが外で歌うための……まあ、高い場所だ。それだけでも少しは声が届く範囲が変わってくる』

『花畑はアルラウネの管轄と聞くのでいくら踏み荒らしてもすぐに元通りだろうが気持ちのいいものではない。ステージの上だけを花で飾り付けてもらおう』

「わかりました。どのような建物を建てれば?」

『イメージを送るわ。その通りに建ててみて。小さすぎても大きすぎてもだめだから、そのときはやり直しね』

「はい。……イメージも伝わってきました。始めます」

 ええと、左右に上り下りするための階段があって後ろは石材製の半円をした壁があって……第一段階はこのようなところでしょうか。

『ふむ。形としてはできているな』

『形だけだな。華が足りない』

『わかっていて作ったのでしょうけれど、もっと美しくしなくちゃだめよ?』

「具体的にはどのようにすればいいでしょう?」

『全面の目に見える部分はすべてレンガ風にするといい。それだけで見栄えがかなりよくなる』

『あとは後ろの石材だな。ただの石よりは……白い石などを使った方がみやすいだろう』

『あとは簡単なものでいいから魔力式の照明器具を足元と天井につけて。そうすればディーヴァの表情なども見やすくなるわ』

 結構細かい指示ですね。

 でも、これくらいでへこたれてもいられません。

 ディーヴァのためです、頑張りましょう!


********************


『ふむ。これならば合格だ』

『確かに。見栄えも素晴らしいし、装飾も凝っている』

『途中でドワーフにも来てもらった甲斐があったわ』

「……ありがとうございます。ドワーフの皆さんもお疲れ様でした」

「……なんの。ディーヴァの歌は儂らも楽しみにしとる」

「……しかし、疲れた」

 野外ステージというのを作り続けて20数回目。

 ようやく『形は』合格点をいただけました。

 ただそれだけでは『華が足りない』と言うことで彫刻などもほしいと言われたのですが、僕はまったくもってそちらは素人。

 それを告げると、この神域にはドワーフも住んでいるだろうと言う話になりドワーフの方々数名にも手伝っていただき彫刻を彫っていただくことに。

 ここでもドラゴンの細かい注文が爆発して気に食わない点があるとやり直し。

 僕が創造魔法で柱や壁を元に戻してから再度彫り始めていただきました。

 さすがにドワーフの皆さんは美的センスもあったのか、10回くらいで合格をいただけましたが、それでも疲れ切ってしまっているようです。

 本当にご苦労様でした……。

『さて、ディーヴァとやらの屋外ステージはできたな。次はミンストレルという幼子の屋外ステージだ』

「え?」

『ミンストレルも歌うのであろう? ディーヴァばかりがこのような立派なステージを持っていては不満が出るだろうよ』

『そうね。まだ見習いであっても扱いは対等にするべきだわ』

 これから、ミンストレル用の屋外ステージも……。

 ドワーフの皆さんも諦めたような表情をしていますしどうしましょうか?

「とりあえず、ミンストレルのステージも作ります。仕上げの彫刻は明日でも構いませんか?」

『ふむ。ドワーフたちも疲れているようだ。それでもよかろう』

『疲れていてはいい作品もできないものね』

『では離れた場所に移動だ。それが終わったらアルラウネを呼んでこのステージを花で装飾してもらうぞ』

「……はい」

 ミンストレルのステージも数十回のダメ出しを受けてようやく完成しました。

 こちらの彫刻は子供らしくかわいらしい妖精や花のデザインをモチーフにしたものがいいだろうというのがドラゴンたちの案です。

 花の飾り付けはどちらのステージでも行うので、先にミンストレル用のステージをローズマリーに飾りつけてもらいましたが、ここでも細かい注文がいろいろ出て彼女も疲れた表情を浮かべていました。

 あと、僕の方はステージの前にある平野部分になだらかな傾斜をステージ部分が中心となるように半円状へと盛り上げていくように指示を受けましたよ。

 こうすることでより歌が聴きやすくなるそうです。

 同じようにディーヴァのステージでも飾り付けと地盤変化を行いましたが、ローズマリーも僕も疲労困憊でした。

 明日はミンストレルのステージに彫刻を施すだけで終わり、明後日から音楽堂作りになるのだそうですが……どれくらいかかるんでしょう。

 いまの時点からドッと疲れが出てきました。

 実際、リンと一緒に温泉に入っていたときに彼女に相当甘えていたみたいで……リンは喜んでいましたが恥ずかしいです。

 ともかく、明日は野外ステージとやらの効果を確認しに行かねば。


********************


「うわー! すごいね! こんなに離れていてもディーヴァの歌が聞こえるよ!」

「野外ステージを作った甲斐がありました……」

「……相当大変だったんだね?」

「魔力回復用のポーションを数本飲まなければいけない程度には」

「……頑張って」

「今日はミンストレルのステージを仕上げるだけですが……明後日以降の〝音楽堂〟作りが恐ろしいです」

「夜はたっぷり私に甘えていいからね?」

「……それも恥ずかしいですがそうします」

 ミンストレルのステージに施した彫刻も10数回のダメ出しを受けて完成。

 とてもかわいらしい仕上がりにはなりましたが……ドラゴンって細かいです。
 ミンストレルの屋外ステージが完成した翌日、いよいよ〝音楽堂〟を作り始めます。

 作り始めるのですが……そのとき見本として渡された素材がちょっと。

「……本当にこれを使って〝音楽堂〟を作るのですか?」

『当然だ。あれほどの歌姫たちが使う音楽堂、見栄えもよくなければ』

「ちなみにこの鉱石。僕の神眼ではクリスタルと出ているのですが……」

『クリスタルよ?』

「どこから持ってきたのですか?」

『私たちのねぐらの側にいいクリスタルが産出できる場所があったのだ。そこから特に透明度の高いものを用意してきた』

「これで〝音楽堂〟を作れと?」

『外観はな。完成したあとは我々が強固な結界魔法を施す。我らでさえ傷つけることが不可能なほどの結界だ。傷ひとつ付かないぞ』

「それはありがたいのですが……これで送られてきたイメージ通りの外観を作るのですよね? 1回作るだけでも魔力枯渇を起こすのですが……」

『魔力回復用のポーションは山ほど持っていると聞くわ。頑張りなさい』

「……はい」

 このクリスタル、神眼で調べた限りかなり特別製なんですよね。

 これ自体、魔力親和度が異常に高く、普通のクリスタルなんかよりもはるかに強固。

 これを創造魔法で複製して送られてきただけの大ホールを作るとは……。

 ともかく嘆いてばかりもいられません。

 始めましょう。

 今日一日でできれば運がよかったと考えて……。


********************


『ふむ。大分形にはなってきているのだが、まだまだ甘いな』

『そうだな。可能な限り外観は整えたい』

『大型の幻獣なども出入りするんだもの、初めはしっかり整えないとね』

 ……やっぱり初日ではだめでしたか。

 ええ、わかっていましたとも。

 こうなることくらい。

『もう日が暮れる。続きは明日だな』

『そうしよう。ではな、契約者』

『明日も頑張りましょう』

「……はい」

 僕は夕食を食べ終え、温泉に入っているときと寝るときはリンに甘えきり、毎朝になると朝食と昼食以外は〝音楽堂〟作りを続けます。

 そんな日々が5日間、つまり一週間続いた頃、ようやくドラゴン達から合格が出ました。

『これならばよかろう』

『内部で混み合うこともないはずだ』

『ご苦労様。第一段階は終了ね』

「……第一段階?」

『扉もなしに放置するのか?』

『幻獣や精霊相手といえども見栄えが悪いぞ』

『魔力を通したら自動で開閉する仕組みのドアを作るわ。同じクリスタル製でね』

「……ああ、入口のところに妙な隙間があったのはそう言う意味ですか」

『そういうことだ。外箱には結界魔法を施した。これで誰も傷つけられない』

『さあ、扉作りだぞ。気を抜くな』

『妖精たちでも開閉できるような微弱な魔力にも反応しなくちゃだめよ?』

「……はい」

 この魔力開閉式の扉、調整がなかなか難しい。

 少しでも強くしようとすると精霊クラスの魔力でなければ開かないようになってしまい、弱くしすぎると近くを妖精が飛んだだけでも開くようになってしまう。

 結局、この扉の調整にも一週間かけ、ここまで2週間かけた計算です。

 リンは僕が毎日甘えてくれることに上機嫌ですが……僕は疲れ切っていますよ?

 そして、翌日は更に面倒なことを依頼されました。

『外箱はできた。出入り口の扉もできた。あとは内部の遮熱処理だな』

「遮熱処理?」

『この神樹の里では常春なのだろうが日差しを受け続ければ室内の温度はぐんぐん上がって行く。そうならないために外部からの熱をある程度通さないための遮熱処理が必要なのだ』

『そうね。音楽堂本体は木製だもの。魔法仕掛けの空調設備や結界魔法もつけるけれど、不快な場所はない方がいいに決まっているわ』

「あなた方だけで施す、と言う選択肢はないんですね……」

『我々がいなくなったあとの管理は基本お前の仕事だ。音楽堂の掃除にはシルキーを使えばいいがそれ以外の管理は自力でできるようにせよ』

「……はい。わかりました」

 遮熱処理の魔法はそこまで難しいものでもなく、3日で終わりました。

 終わりましたが……確かに〝音楽堂〟の内部は暑かったです。

 汗だくになりながらの作業は想像以上に体力を消耗していたようで、リンには「温泉に入りながら寝ていたよ?」とまで言われる始末。

 汗は綺麗さっぱり流せるのですが、とにかく疲れています。

 寝るときのリンの匂いが心地いい……。
 なんとなく、毎朝リンと分かれて行動するのが寂しくなってきました。

 でも、音楽堂作りはやり遂げねば!

 今日も音楽堂前では3匹のドラゴンが待ち構えています。

 1枚の木の板を持って。

「おはようございます。その木の板は?」

『これから内装……つまり音楽堂本体を作ってもらうために必要な木材だ。よく調べてまったく同じものを何枚もサイズ違いで作れるようにしてもらいたい』

「構いませんが……神眼で調べた結果、見たことも聞いたことのない木なのですがこれは?」

『音を響かせるには最適な品質を持った木材を最高品質で作ってもらった。ドライアドでも苦労していたぞ』

『そうね。あなたが外観作りをしていた2週間をかけてようやく満足できる木材になったもの』

 ……ツリーハウス、あなたにも飛び火していたんですね。

 すべての工事が終わったら謝りに行きましょう。

「それで、〝音楽堂〟本体ですか? それは木製の家を作るようにすればいいのでしょうか?」

『いや、まったく違う。いまイメージを送る』

 このときドラゴンから送られてきたイメージは……複雑なんてものじゃないですよ!?

 なんですか、この壁のギザギザは!

 角度まで完全に指定されているじゃないですか!?

『いま送ったのが音楽堂本体だが、説明は必要か?』

「お願いします。さすがにこの複雑さはちょっと……」

『まずステージ。その後ろの壁がまっすぐな木の板でできているのは反響音を聴衆にしっかりと聞かせるためだ。そうすることで音がより鮮明に届く』

『ステージの上面がなだらかな円状になっているのも同じ理由よ。すべては聴衆に音を届けるためね』

『天井が波打っている理由は低音部分が吸収されるためだ。低音部分だけが後ろまで響いては雑音になってしまうからな』

『壁の波打ちは逆に音を響かせるためだ。そうすることで遠くまで音が響き渡り、後ろの方でも臨場感を味わえる』

『彼女たちが魔法のアクセサリーや《ファーボイス》の支援を使っているとはいえ、場所はしっかりと作ってあげたいものね。さあ、はりきって作るわよ!』

「……はい」

 こうして始まった〝音楽堂〟本体作り。

 まずはステージから始めたのですが、その時点からダメ出しが連発。

 なんでも、ステージは完全に水平になっていなければいけないのだとか。

 僕は慎重にステージ上面を造り上げ、この時点で2日を消費。

 次はステージに上がるための階段……と考えていたのですが、〝音楽堂〟では演者が別の入口から入ることになるためいらないらしく。普通に木の板に細工を施して作るだけで許してもらえました。

 次はステージ後ろの壁作り。

 反響音とやらを綺麗に響かせるために必要な設備というだけのことはあり、細かい指摘が爆発。

 この部分を作るのにも一週間ほどかけました。

 その次はステージ上の天井作りです。

 こちらも綺麗な丸みを帯びていなければいけないと言うことで指摘を何度も受けましたがなんとか3日で完成させました。

 ですが、ステージを作るだけでも2週間を消費しています。

 この先天井や壁などを作るのには何週間かかるのか……。


********************

 そして、唯一の休憩時間であるリンとの温泉と睡眠時間。

 温泉でリンに話しかけられてしまいました。

「ねえ、シント。大丈夫? 毎日、疲れた顔をして帰ってきているよ? 辛かったら少しくらい休んでもいいんじゃない?」

「いえ、大丈夫ですよ。早く音楽堂を完成させないとドラゴン達の不満が爆発しそうです」

「でも、ディーヴァやミンストレルも心配してるんだよ? 段々シントの元気がなくなっていってるって」

「それは悪いことをしていますね。ですが、創造魔法でもないと竜たちの細かい注文に応えられないのですよ……」

「私が乗り込んで文句を言おうか?」

「やめてください。竜との関係がこじれたら〝音楽堂〟が作れなくなります」

「でも……私にはシントの方が心配だよ。もうすぐ1カ月になるんだし」

「すみません。ずっと心配をかけっぱなし、甘えっぱなしで」

「甘えてくれるのはいいけど……そうだ、私の胸に寄りかかってみる?」

「どうしてですか?」

「女の人の胸に顔を埋めると男の人は気持ちが安らぐんだって! シントもやってみて!」

「はい。こうでしょうか?」

「そうそう。ああ、シントの感触が気持ちいい……」

 僕もなんだかリンの柔らかい胸に包まれていると気持ちが癒される気がします。

 でも、これって慣れてしまってはいけないことの気がしますね。

「ありがとうございます、リン。もう大丈夫です」

「もういいの? 私はもっとシントの感触を感じていたかったな」

「なんだか僕の方がだめになるような気がして。とりあえず、温泉から出て寝ましょうか」

「うん。明日は私も〝音楽堂〟の工事を見に行くからね!」

「わかりました。ただ、ドラゴン達と衝突しないでくださいよ」

「わかってるって。さあ、一緒に寝よう」

「ええ、そうしましょうか」

 今日もリンに抱きしめられながら寝ることとなりました。

 リンの優しい匂いに包まれているとよく眠れるんですよね……。
「だめだよ! こんな難しい工事、毎日シントにやらせていちゃ!」

 リンが〝音楽堂〟を見学に来てすぐさま、不満が爆発しました。

 ドラゴンたちでさえ気圧されています。

『う、うむ。だが、音楽堂というのはこういうものなのだ』

『その通り。この神樹の里で作れるのは契約者しかいまい?』

『そうよね。契約者がいないと……』

「シントしか作れないことはわかるの! こんな複雑で難しい作業を毎日毎日休みなしでシントにやらせていたことが大問題なの! ドラゴン基準で考えないで! 私たちは契約者と守護者だけど人間とエルフなんだから!!」

『ああ、いや、その……』

『契約者がなにも言わなかったものだからつい……』

『私たちなら休まずにこの程度の作業を毎日続けられるんだけど……』

「ともかくシントには無理! できれば3日に1日、少なくとも5日に1日は休ませなさい!」

『わ、わかった。3日に1日休むことにしよう』

『音楽堂は早く作ってもらいたいがそういう事情であればやむを得まい』

『そ、そうね。無理をさせすぎてもよくないわ』

「そういうわけだから今日はお休み! シント、どこかにお出かけ!」

「えぇ……いいのですか、ドラゴンたちは?」

『いや、無理をさせすぎてきたようだからな……』

『守護者を止められる理由がない……』

『本当にごめんなさい……』

 ドラゴンにまで謝られてしまいました。

 リン、強すぎです。

 でも、お出かけとはどこに行くのでしょうか?

 とりあえず〝音楽堂〟は出ましたが。

「リン、これからどうするのですか?」

「まずはディーヴァの歌唱会に行く! いまの時間から行けばそれなりの場所を確保できるから!」

「構いませんけど……無理矢理はだめですよ?」

「わかってるよ!」

 怒ったままのリンに連れられてディーヴァの野外ステージへ。

 そこでは開始時間より大分早いのに幻獣などがすでに場所取りをしていました。

「相変わらずディーヴァの歌は人気ですね」

「ステージができてからはよく声も通るようになったからね。さあ、私たちも席を取るよ。あそこがいいかも」

 リンに連れられてやってきたのは前に大型の幻獣などがいなくてディーヴァの顔がよく見ることができそうな丘の上。

 そこで開演時間を待ち、ディーヴァがやってくると大歓声で迎え入れられ、彼女の歌が始まります。

 ですが、ディーヴァの歌っている歌は僕の知らない歌。

 彼女も僕が知らないうちに成長していたんですね。

 ディーヴァが10曲ほど披露すると歌唱会も終了。

 また歓声が響き渡り聴衆たちが帰っていきます。

 やがて、僕たちの元にディーヴァがやってきて……僕のことを叱り始めました。

「シント様。私たちのために〝音楽堂〟を作ってくださっているのはわかります。感謝もしておりますが無理はなさらないでください。ミンストレルも心配しているんですよ? シント様が契約者とはいえ過労を起こせば倒れます。そうなれば心配を皆さんにかけてしまいますからね。これからは無理をせずに休み休み建設を進めてください」

「大丈夫だよ、ディーヴァ。私がドラゴンたちから3日に1回の休みをもぎ取ってきたから!」

「よくできました、リン! それくらいなら大丈夫ですね!」

「うん! あと、毎日作業の様子を見に行くことにする! シントが疲れて無理そうになったら休憩を取らせてもらうか連れ帰ることにするから!」

「それがいいです! ところで、シント様。私の歌が増えていたことに気がつきましたか?」

「もちろん。誰から学んだのですか?」

「エアリアルが人間の吟遊詩人が歌っているのを聞いて覚えてきてくれたそうです。あと、今日は歌いませんでしたがシント様たちが幻獣様などを救い歩いているときの歌や、〝王都〟決戦の時の歌も人気ですよ?」

「それはそれで恥ずかしいのですが……まあ、仕方がないでしょうね」

「諦めてくださいな。あ、ミンストレルも来ました。シント様がいるのを見て走ってきていますね」

「転ばないといいんですが」

「転んでも起き上がって走ってきますよ」

 ディーヴァのいうとおりミンストレルは僕の元まで駆け寄ってくると、そのまま勢いよく抱きついてきました。

 受け止めきれずに草むらに押し倒されてしまいましたが、ミンストレルは本当に嬉しそうです。

 ミンストレルにまで心配をかけていたんですね。

 そのあと昼食後はメイヤも含め5人で海エリアへ。

 なんでも海の生物が大量に住み着くようになり海の幸が気兼ねなく食べられるのだとか。

 実際、マーメイドたちが魚をひとり1匹ずつ捕まえてきてくれ、それを焼いて食べたのですがメイヤの木の実とはまた違ったおいしさがありました。

 そして海岸にできた砂浜という場所には貝殻というものもたくさん落ちていて、ミンストレルはそれを拾い集めて遊んでいましたね。

 そうこうしているうちに夕方になり、夕食も木の実を食べて温泉に入って就寝。

 翌日からはリンに見守られながらの作業となりました。

 昨日休んでリフレッシュできたせいか、作業もぐんぐん進みそのまま1カ月ほどで内装工事も完了。

 扉の取り付けや魔力式空調設備、魔力式照明なども取り付け終わり2階や3階にある特別席への出入り口や階段、演者用の出入り口や控え室などもすべて完成しました。

 あとは実際に使ってみて不備がないかをチェックするだけだそうです。

 最初の公演はやはりディーヴァの歌唱になるとのこと。

 そのときは僕たちも一番後ろ壁から音がちゃんと聞こえるか確認しますし、実際に使われるその日が楽しみになってきました。

 リンは「まだちょっと無茶してる!」って怒り気味ですけどね?
 完成から一週間ほど経ってようやくやってきた〝音楽堂〟最初の公演日。

 一週間も時間がかかったのはシルキーたちによる徹底的な清掃が施されたためです。

 このシルキーたちも神樹の里への移住希望者だったらしく、働き場所が見つかったことでメイヤも受け入れたようです。

 彼女たちも清掃のしがいがある〝音楽堂〟が手に入り大満足なようですね。

『それにしても大満員だな』

 今日はドラゴンたちも小型になるのではなく人に変化して聴衆として参加しています。

 建てる最中は細かいところまで見なければいけなかったらしく、人の姿にはなれなかったようですね。

「公演開始までまだ1時間もあるのにもうぎっしりですよ」

「そうね。初めての〝音楽堂〟利用っていうこともあるみたいだけれど、みんな期待しているみたい」

『いまのうちにディーヴァへとあいさつしに言っておいた方がいいのではないか?』

「そうしましょうか。行きましょう、リン」

「そうだね」

 僕たちは一度会場を出て警備をしてくれている精霊たちに通してもらい演者用の控え室へ。

 そこでは普段よりも一層豪華なドレスに身を包んだディーヴァが肩を落として座っていました。

 となりにいるミンストレルも心配そうにしています。

「ディーヴァ、大丈夫?」

「リン……シント様も」

「かなり緊張していますね。大丈夫ですか?」

「……その、いつもと同じように歌を歌うだけとはわかっているのです。でも、これだけ立派な場所で歌うとなると緊張してしまい」

「無理もないよ。本当に大丈夫? 無理なら……」

「いえ、大丈夫です。歌い始めればいつもの調子に戻ります。ただ、その……もう少しだけ側にいてもらえますか、リン」

「うん、いいよ。開演10分前になるとドアが開かなくなっちゃうからその前には戻らなくちゃいけないけど」

「そこまで甘えませんよ。ただ、お友達と話していたいだけですから」

「そっか。なにを話す?」

「そうですね……リンは私が来る前、この里でなにをしてきたのですか?」

「私? それはね……」

 ディーヴァとリン、それにミンストレルの会話は開演20分前まで続きました。

 その頃にはディーヴァも落ち着きを取り戻し顔色も戻っていましたね。

 いいことです。

「あ、そろそろ戻らなくちゃ。ディーヴァ、大丈夫?」

「はい。もう大丈夫です。今日の演目、しっかりと歌いきってみせます」

「今日の演目か……私たちの活躍の歌もあるんだよね?」

「もちろん。人気の歌ですから」

「恥ずかしいなぁ」

「ふふふ。しっかり聞いていってくださいな」

「うん、わかった。それじゃあ、シント。戻ろっか」

「ええ。ディーヴァも無理をしない程度に」

「ありがとうございます」

 僕たちがドラゴンたちの元に戻ったあと、開演10分前のブザーが鳴り響き場内が静まりかえりました。

 開演3分前になると灯りも徐々に暗くなり、ステージの上だけが照らされるように。

 やがて、開演時間になるとやってきたのはミンストレルを引き連れたディーヴァでした。

「皆様、本日は私の歌を聴くためにお集まりいただきありがとうございます。今日は私の歌だけの予定でしたが、途中途中でミンストレルの歌もお聞きくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします!」

 その宣言に集まった聴衆たちは歓声を持って応えました。

 これはミンストレルの歌を聴くこともできそうですね。

 それにしても〝音楽堂〟ですか、これはすごい。

「観客席の一番後ろにいてもいまの声がはっきり聞こえるんですね」

「私も驚いちゃった」

『そうだろう、そうだろう。これが音楽堂なのだ』

『ここでの歌は迫力が違うぞ』

『ディーヴァの歌声は私たちも気に入っているわ。どんな迫力のある声を響かせてくれるのかしら?』

 ドラゴンたちも期待が高まっている様子です。

 さて、1曲目はなんでしょうか?

「1曲目ですが私の故郷に伝わっていた古いエルフの歌になります。私が初めて覚えた歌、どうかお聞きください」

 最初はディーヴァが初めて覚えた歌ですかどのような歌なんでしょう?

 多分聞いたことはあるのでしょうが説明付きで聞くのは初めてですね。

「~~~♪」

「ッ!?」

「すごい……」

『確かに。ここまでよく響く歌声だ』

『魔法などを併用しているとはいえここまでとは』

『ドラゴンの私たちですら甘く見ていたわ』

 本当に最後尾にいる僕たちのところまでディーヴァの透き通った歌声が響き渡って届いています。

 これが〝音楽堂〟ですか……。

「……皆様、1曲目はいかがでしたでしょうか?」

 ディーヴァが歌い終わるとディーヴァの歌声並みの大歓声が巻き起こりました。

 みんな、ここまですごいことになるとは想像していなかったのでしょうね。

「ありがとうございます。2曲目はニンフの皆様から教えていただいた歌となります。人間たちの恋心を歌った歌。皆様には縁遠い歌かもしれませんがお耳汚しを」

 このようにしてディーヴァの歌は次々と披露されていきます。

 ときどき挟まれるミンストレルの歌も大いに会場を沸かせ、彼女もまた嬉しそうに手を振っていました。

「さて、次が最後の歌になります。最後の歌は影の軍勢の皆様や五大精霊様方より伺った話を元にして作った歌、『神樹の契約者と守護者、幻獣解放のための戦い』となります。皆様にも大好評のこの歌、ミンストレルと合唱いたしますので最後にお聞き届ください」

 最後に僕たちが行った最終決戦の歌ですか……。

 聴衆の皆さんにも人気のようですしこのまま聞きとどけましょう。

 となりのリンも顔を真っ赤に染めて俯いてますけど。

「~~~♪」

「~~~♬」

 ディーヴァの爽やかでありながら重厚な歌声と、ミンストレルのかわいらしく陽気な歌声が〝音楽堂〟の中に響き渡りました。

 聴衆は誰ひとり音を発せず、静かにその音色へと耳を傾け歌声に酔いしれているようです。

 やがて、僕たちの活躍を歌った歌もクライマックスとなり、終わりを迎えました。

 揃ってお辞儀をしたディーヴァとミンストレルを待っていたのは今日いままでで一番の大歓声。

 彼女たちもやりきった笑顔でそれに応えて手を振っています。

「本日はお越し頂きありがとうございました。〝音楽堂〟での次回公演がいつになるかは決まっておりませんが次の機会もまたお越しくださいますようお願いいたします。ああ、でも、今回来ることができなかった皆様を優先して上げてくださいね? 私としては神樹の里の皆様に歌を聴かせて差し上げたいので」

 そう告げてお辞儀をするとディーヴァとミンストレルは控え室へと戻っていきました。

 聴衆たちも続々と帰っていき、やがて僕とリン、ドラゴンたちだけが取り残されます。

『いや、素晴らしい歌声だった』

『2カ月かけて建造した甲斐があるというもの』

『本当に。でも、もう少しいろいろな歌を聴きたいわね』

「歌の題材がこの里では少ないですからね」

「ディーヴァもいろいろと話を聞いて回っているのだけど、なかなか新しい歌はできないそうよ」

『そうか。ならば我々がお節介をすることにしよう。彼女の控え室に案内してもらえるか?』

「はい。構いませんが……どんなことをするんですか?」

『竜の冒険譚を少々教える。それから彼女のために人の街から歌集も買ってこよう』

「歌集を買ってくる? ドラゴンってお金を持ってるの?」

『多少ならね。とりあえず彼女と相談よ』

 ドラゴンたちは言い出したら聞かないのでとりあえずディーヴァたちの元に案内します。

 そこで、ディーヴァにドラゴンたちの冒険譚を語り始めるとディーヴァも新しい歌を思いついたようで必死に歌をメイヤが作った紙に書きため始めました。

 それからドラゴンたちからの差し入れで人間たちの歌集も手に入ることを知ると、恐縮しながらも大喜び。

 彼女は本当に歌を歌うことが好きですからね。

 ドラゴンたちは簡単な楽器も買ってくると言い出しましたし、よほどディーヴァの歌が気に入ったのでしょう。

 そんなドラゴンたちとも今日でお別れ。

 次は1カ月後くらいに差し入れを持って遊びに来るそうです。

 メイヤからも「1カ月に一度くらいならディーヴァの歌を聴きに来ても構わない」と了解を取り付けてあったあたり手が早い。

 それからディーヴァとミンストレルによる〝音楽堂〟での公演は一週間に一度と決まりました。

 それだけ要望が多かったことと、ディーヴァとミンストレルも〝音楽堂〟で歌う楽しさに目覚めたことがあるようです。

 それ以外の日はニンフたちが歌を披露したりフェアリーやピクシー、エアリアルなどが舞いを披露したりしているそうですね。

 作るのには本当に苦労しましたが、有効活用してくれているようでよかったです。

 ……僕にリンへの甘え癖が付いてしまったのはまた別の話として。