……ん、もふ……
(……めよ)
頭の中に何かの声が響く。
いつものレヴィラスの声じゃない。
だ……誰……?
(我を崇めよ……!)
「は……っ!崇め……っ!?どなた!?」
ハッとして目を開ければ。ふかふか。ふかふかのベッドの上のまま。他にすることもなくて、部屋の中の大きなベッドに横たわった。こんな大きなベッド、使ってもいいものなのか、不安だったけど。レインが言ったことに嘘はないと分かっていたし、いつの間にか寝入ってしまっていたのだが……一体、何事……!?
しかしすぐに違和感に気が付く。
背中にあるもふもふ。しかも、温かい。
さらには腕の中に何かもふもふの温かいものが……。
「ニャーッ」
(我を崇めるのだ……!)
あ……さっきから脳裏に響いてきた声、このこのだ。力が発動しにくいといっても、至近距離だとさすがに響くのか……。それに動物と言葉を介すなら、その声が読み取れた方が便利だ。もしかしたら無意識にこのこの声を拾おうとしたのかな。
――――――しかし。
「にゃんこだ」
「ナーッ!」
(にゃんこだ……ではない!我はお猫さまぞ……!お猫さまを……崇めよ……!)
何だろうこのこ、かわいいな。
「名前は?」
「にゃ……」
(うぐ……っ、我の気迫に何一つ動じないとは……やはり、還ってきたのだな……)
「え……」
このこも、俺を知っているの……?
「まぁ、それならよいにゃ」
「しゃべったぁ――――――――っ!?」
「ふむ、ニャーをただのにゃんこと思うことなかれ!」
そ……そりゃ……そうだよな。だってしゃべるにゃんこ……!こちらではこれが普通なのだろうか……?まだ、思い出せないけど……。
「ニャーこそは……」
「う、うんっ」
ドキドキ。
「お猫さまであるぞにゃ!!」
「いや、そのままじゃ……」
にゃんこだもの。
「ニャーっ!!」
びくっ。
「お猫さまを崇めよ、さすれば救いをもたらさん……」
「それ、何か違うような……?」
知っているものと……どこか違う?
「あーがーめーよー、にゃっ」
「……っ!?」
いや、ほんとビビるのだが……!?それにしても……。
「もふもふだ」
もふもふにゃんこ。長毛種と言う猫だろうか?しっぽまでもっふもふだ。
「こ……この毛並みに……ひれ伏すがよいにゃあぁぁっ!」
「よ……よく分からないけど……」
「にゃんとぉっ!?」
そう、言われても……もふもふにゃんこだし……。
「わふっ、それくらいにせぬか。ご主人に怒られても我は知らぬぞ」
その時、後ろでもこもこが動いて、後ろにもいたのだと思い出す。
そして急いで後ろを振り向けば。
「わふっ」
「ひゃっ」
迫力満点、しゃべる狼がいた。グレーの毛並みの……もっふもふなのだが……。
「何で……ベッドに……」
「うむ、我らのご主人はまだ暫く行けぬがゆえ……ご主人の主をよろしくと頼まれたのだ」
「その主って……」
「汝である」
懐かしい響きの言葉だ。でもそれは、俺を示す言葉。
「君たちのご主人は……レヴィラス?」
「うむ、そうだ」
やっぱり……。
「君たちは……ただの狼と猫じゃぁ……」
「お猫さまにゃあぁぁぁぁぁ――――――――っ!」
それは……分かってるけれど。
「我らは、魔狼と魔猫。魔物の狼と猫だな」
「ニャーッ!我は神獣にゃっ!魔物と一緒にするにゃっ!」
「……まぁ神に仕える獣である」
「それでしゃべれるんだね」
猫がおしっぽをばたばたさせているが……。神の、遣いか……。
「ご主人の与える加護ゆえ」
「うん、すごいね」
レヴィラスは……あの拙い言葉を唱えていたこは……多分もう……何度も生まれ直して立派になっているのだろうな。
「レヴィラスは……まだ暫く来れない?」
「何だかもめているようだ。竜が帰ってくれば、ご主人の元に行けるかどうか聞いてみるがよい。我らはご主人には、ご主人の主を連れてきてもよいか、聞いても却下されるだろう」
「竜……」
「ご主人の主の騎士ぞ」
そうか……竜の……騎士がいるんだ。どんなひとかな……。ひとじゃないかもしれないけど。
「竜の騎士なら、連れてってくれる?」
「ご主人の主が望むのなら、かなえない騎士はおらぬであろう」
……確かに。彼らは、俺の命ならば何だって……。どうしてかそれを知っていて、知っているのはこの世界に還って来たからなのだと知っている。だからこそ、心配になってしまう……。
「……考えてみる……けど、ソラだよ。俺は、ソラ」
「ぐぬぬ……ご主人よりも先に呼べば何と言われるか分からぬ……ご主人が呼んでから、お呼びいたそう」
「……うん」
レヴィラスは……嫉妬深いのだろうか。いや、何だか子どもの我が儘のようにも聞こえてしまうのは気のせいだろうか?
「我はお猫さまにゃ!恐れないにゃ!ソラよ……!我を崇め……っ」
「こら、【さま】をつけぬか」
あ、お猫さま、狼に叱られた。その崇めよ……もそのご主人に似たのかな……?何だか微笑ましくなってしまう。いや……レヴィラスは……【崇めよ】ではなかったか。
確か……。
【願え】
【乞い願え】
【冀え】
「レヴィラス……」
まだ、レヴィラスには会えないのか……。
あの声に耳を傾けるかのように、深く意識のそこに沈もうとしていれば、唐突に足音が響いてきた。
レインでは……なさそう……?
そして勢いよく扉が開いた。しかも入って来たのは……。
「じゃじゃじゃぁ――――――――んっ!我が君よ、そろそろもふもふが恋しくなって来たのではなくて?お姉さんのもっふもふの……出番であることは分かっているわ……!」
ひぇっ!?さらに濃ゆいもふもふ来たぁ――――――っ!?