♢♦♢
~ペトラ遺跡~
遂にオロチと対峙したルカ達――。
オロチを倒す為に完全体の竜神王ジークリートへと姿を変えたルカは、全てが始まったあの日の出来事が脳裏でフラッシュバックしていた。
そしてそれは図らずも、ジークもまた然り。
ただ、これはジークがルカと出会うほんの少し前の事であった――。
<(……エミリオ。我のプライドに懸けて、主との“約束”は守り通す――)>
♢♦♢
~王都・大聖堂~
時は遡る事ジークとルカが出会ったあの日――。
王都を襲ったモンスター軍の襲撃により、辺りは瞬く間に酷い惨劇に包まれていた。迫りくるモンスター達から大勢が逃げ惑う。ルカの母親であるエミリオ・リルガーデンもその1人だった。
『――目覚……さ……ッ……ジーク……ト……!』
真っ暗闇の中、微かに誰かの声が聞こえた気がした。
<……ん……何だ……?……此処は一体……>
ふと意識を取り戻した竜神王ジークリート。
彼は何処かも分からない真っ暗闇の中、深い深い眠りから目覚めた様な不思議な感覚だけを感じていた。
『……ジー……リート……ッ!……』
<またか……。何者かが我を呼んでいるのか……?>
自分がどういう状況なのかも此処が何処かも分からないジークであったが、微かに響いてくる声と共にまだ朧げな意識の中何とか記憶の糸を辿る。
<そうか……。確か我は……オロチとモンスター共に裏切られ……人間の小癪な封印魔法によって閉じ込められた……>
断片的に浮かび上がってくる記憶のピースの紡ぎ、ジークは自身の現状を少しづつ理解し始めたのだった。
どれ程時間が経ったのか定かではない……。
分かる事と言えば、封印された自身の肉体は既に滅んでおり、魂だけが存在しているという事。魔力も残っている様だ。
『……目覚めな……いッ……ジークリート……!』
<さっきから何者だ……。今確かに我の名を呼んだな……>
ジークは先程から響いてくる声の正体を突き止めようと、声がしてくる方へと意識を研ぎ澄ませた。
『……竜神王……ジークリートよ――』
<ずっと我の名を呼ぶ貴様は何者だ……?>
『目覚めたのですね。竜神王ジークリート……。私はエミリオ・リルガーデン。大昔より、貴方の封印をしてきた一族であるリルガーデン家の者です』
<そうか。この忌々しい魔力、コレは貴様達人間のものであったか>
幾年ぶりの感情が芽生え、ジークは沸々と怒りが込み上げてくる。
『ジークリートよ。どうやら長きに渡って受け継いできた我々の使命も終わりがきました……。今から貴方の封印を解きましょう――』
<何?封印を解くだと……⁉ 急に出てきた挙句に、再び我を陥れようと言う算段か。何を考えている、人間め!>
『そうではありません。ただ、私達の役目を終える時がきただけなのです。だから私は貴方の封印を解くのです』
ジークは話している人間の意図がまるで理解出来なかった。
分かったのはこの人間が女という事と自分を封印した一族であるという事。久方の眠りから覚めたジークにとって、この状況は余りに理解し難いものであった。
<ふん……。我を封印しておきながら今度はそれを解くなど、人間は何処まで傲慢で身勝手な生き物か>
『貴方がそう思うのも無理はありませんジークリート。ですが運命とはいうのは何時も必然であり、巡り巡っている自身の定めです』
<また訳の分からぬ戯言を……。封印を解くなら早く解け。我にとっては願ったり叶ったりだ。此処を出た瞬間真っ先に貴様から食らってやろう。
そして、その後はモンスター共とあのオロチの野郎を必ず殺してやるッ! ヌハハハハハハ!>
魂だけとなったジークであったが、その魔力の強さと圧倒的な存在感を、エミリオは確かに感じ取っていた。
『いいでしょう。封印を解いたら私を食らいなさい。肉体の無い貴方がどうやって私を食らうか気になりますが、解放するには1つだけ条件があります』
<勝手に我を目覚めさせ勝手に振韻を解くとほざきながら我を侮辱し更に王である我に条件とな――。
ヌハハハハハハ!何処まで笑わせるんだこのクソ人間はッ!>
突如現れた人間の女が次々に自己中な発言をするせいでジークは笑いが止まらなくなった。何処までもふざけた人間だという怒りを通り越し、ジークはいつの間にか面白いと思っているのだった。
<よし……。全く持って不愉快な人間よ。試しにその条件とやらを述べてみよ>
ジークの言葉に、エミリオはそっとこう言った。
『貴方のその誇り高き力で、私のたった1人の息子を守って下さい。条件はそれだけよ――』
<貴様の息子……だと?>
微塵も予想していなかったエミリオのまさかの申し出。ジークは一瞬戸惑い言葉に詰まっていた。
『そう。息子の名はルカ・リルガーデン。
今私達はモンスター軍に襲われていて王国と大勢の人々が犠牲になっているわ……』
<成程。だがやはり貴様は愚かだな。ここで仮に我が条件を飲んだとしても、封印を解いた後にそれを守る根拠は全くないぞ――>
そう。正にジークの言う通りである。
条件を飲むと言い封印さえ解けば後はジークの自由。だがそれは当然エミリオも分かっていれば、わざわざジークがエミリオに言う必要もなかった。
確かに言う必要などなかったのだが、何故かジークはそう口にしていたのだ……。
『そうですね。ですが貴方はモンスターの王である竜神王ジークリート。貴方ともあろう者が、人間1人を守るというこんな“簡単な事”も出来ないのですか?』
<何だとッ……⁉>
『それならば仕方がないですね。伝説とまで語られている貴方の実力を見誤りました。本当は大した事の無い実力の様ですね。封印されたのも納得です』
<ふざけるな人間がッ!! 我を侮辱するなど許さぬぞ!!>
『では出来るのですか? 私の息子を一生涯守り切る事が?』
<当たり前であろうッ! 貴様の息子1人どころか人間程度何億人だろうと守る事だって我には容易だッ!>
王としてのプライドが、エミリオの発言を断じて許さなかった。
人間如きの条件など取るに足らんと言わんばかりに、ジークはエミリオの条件を飲み込んだ。
そして……。
ふと冷静になったジークは、この瞬間初めて自分がしてしまった過ちに気付く――。
だが時すでに遅し――。
『フフフ。そうですか。それを聞いて安心しました。今の言葉は私の特殊な空間魔法にて音を保管させて頂きましたので、もし貴方が条件を破った際には、今の発言が王国中に響きます』
<……⁉>
『そして……人間である私との容易な条件も満たせない貴方は、全世界の笑い者となるでしょう。1番笑われた王として歴史に名を刻んで下さい――』
<ぐッ……!(とんでもない女だ……。我はオロチよりも厄介な奴を相手にしてしまったのでは……)>
『因みに、条件を飲んでくれたので必要ないと思いますが、私が貴方の封印を“解いただけ”では、貴方は此処から出られません』
<何……⁉>
エミリオが淡々と喋れば喋れる程、ジークは血の気が引いていく。何という人間を相手にしてしまったのだと――。
『貴方が此処から出るには“召喚魔法”が必要となります。勿論それを扱える者がね』
<貴様何処まで我をおちょくる気だ……! さっきの条件を飲んだところで意味がないではないか>
『いいえ、大丈夫ですよ。何故なら、私の息子であるルカが召喚魔法の使い手ですからね』
たかが人間だと見下していたジークであったが、エミリオの1枚も2枚も上手な策略に、何時しか初めて人間に対して関心が芽生えているジークであった。
~ペトラ遺跡~
遂にオロチと対峙したルカ達――。
オロチを倒す為に完全体の竜神王ジークリートへと姿を変えたルカは、全てが始まったあの日の出来事が脳裏でフラッシュバックしていた。
そしてそれは図らずも、ジークもまた然り。
ただ、これはジークがルカと出会うほんの少し前の事であった――。
<(……エミリオ。我のプライドに懸けて、主との“約束”は守り通す――)>
♢♦♢
~王都・大聖堂~
時は遡る事ジークとルカが出会ったあの日――。
王都を襲ったモンスター軍の襲撃により、辺りは瞬く間に酷い惨劇に包まれていた。迫りくるモンスター達から大勢が逃げ惑う。ルカの母親であるエミリオ・リルガーデンもその1人だった。
『――目覚……さ……ッ……ジーク……ト……!』
真っ暗闇の中、微かに誰かの声が聞こえた気がした。
<……ん……何だ……?……此処は一体……>
ふと意識を取り戻した竜神王ジークリート。
彼は何処かも分からない真っ暗闇の中、深い深い眠りから目覚めた様な不思議な感覚だけを感じていた。
『……ジー……リート……ッ!……』
<またか……。何者かが我を呼んでいるのか……?>
自分がどういう状況なのかも此処が何処かも分からないジークであったが、微かに響いてくる声と共にまだ朧げな意識の中何とか記憶の糸を辿る。
<そうか……。確か我は……オロチとモンスター共に裏切られ……人間の小癪な封印魔法によって閉じ込められた……>
断片的に浮かび上がってくる記憶のピースの紡ぎ、ジークは自身の現状を少しづつ理解し始めたのだった。
どれ程時間が経ったのか定かではない……。
分かる事と言えば、封印された自身の肉体は既に滅んでおり、魂だけが存在しているという事。魔力も残っている様だ。
『……目覚めな……いッ……ジークリート……!』
<さっきから何者だ……。今確かに我の名を呼んだな……>
ジークは先程から響いてくる声の正体を突き止めようと、声がしてくる方へと意識を研ぎ澄ませた。
『……竜神王……ジークリートよ――』
<ずっと我の名を呼ぶ貴様は何者だ……?>
『目覚めたのですね。竜神王ジークリート……。私はエミリオ・リルガーデン。大昔より、貴方の封印をしてきた一族であるリルガーデン家の者です』
<そうか。この忌々しい魔力、コレは貴様達人間のものであったか>
幾年ぶりの感情が芽生え、ジークは沸々と怒りが込み上げてくる。
『ジークリートよ。どうやら長きに渡って受け継いできた我々の使命も終わりがきました……。今から貴方の封印を解きましょう――』
<何?封印を解くだと……⁉ 急に出てきた挙句に、再び我を陥れようと言う算段か。何を考えている、人間め!>
『そうではありません。ただ、私達の役目を終える時がきただけなのです。だから私は貴方の封印を解くのです』
ジークは話している人間の意図がまるで理解出来なかった。
分かったのはこの人間が女という事と自分を封印した一族であるという事。久方の眠りから覚めたジークにとって、この状況は余りに理解し難いものであった。
<ふん……。我を封印しておきながら今度はそれを解くなど、人間は何処まで傲慢で身勝手な生き物か>
『貴方がそう思うのも無理はありませんジークリート。ですが運命とはいうのは何時も必然であり、巡り巡っている自身の定めです』
<また訳の分からぬ戯言を……。封印を解くなら早く解け。我にとっては願ったり叶ったりだ。此処を出た瞬間真っ先に貴様から食らってやろう。
そして、その後はモンスター共とあのオロチの野郎を必ず殺してやるッ! ヌハハハハハハ!>
魂だけとなったジークであったが、その魔力の強さと圧倒的な存在感を、エミリオは確かに感じ取っていた。
『いいでしょう。封印を解いたら私を食らいなさい。肉体の無い貴方がどうやって私を食らうか気になりますが、解放するには1つだけ条件があります』
<勝手に我を目覚めさせ勝手に振韻を解くとほざきながら我を侮辱し更に王である我に条件とな――。
ヌハハハハハハ!何処まで笑わせるんだこのクソ人間はッ!>
突如現れた人間の女が次々に自己中な発言をするせいでジークは笑いが止まらなくなった。何処までもふざけた人間だという怒りを通り越し、ジークはいつの間にか面白いと思っているのだった。
<よし……。全く持って不愉快な人間よ。試しにその条件とやらを述べてみよ>
ジークの言葉に、エミリオはそっとこう言った。
『貴方のその誇り高き力で、私のたった1人の息子を守って下さい。条件はそれだけよ――』
<貴様の息子……だと?>
微塵も予想していなかったエミリオのまさかの申し出。ジークは一瞬戸惑い言葉に詰まっていた。
『そう。息子の名はルカ・リルガーデン。
今私達はモンスター軍に襲われていて王国と大勢の人々が犠牲になっているわ……』
<成程。だがやはり貴様は愚かだな。ここで仮に我が条件を飲んだとしても、封印を解いた後にそれを守る根拠は全くないぞ――>
そう。正にジークの言う通りである。
条件を飲むと言い封印さえ解けば後はジークの自由。だがそれは当然エミリオも分かっていれば、わざわざジークがエミリオに言う必要もなかった。
確かに言う必要などなかったのだが、何故かジークはそう口にしていたのだ……。
『そうですね。ですが貴方はモンスターの王である竜神王ジークリート。貴方ともあろう者が、人間1人を守るというこんな“簡単な事”も出来ないのですか?』
<何だとッ……⁉>
『それならば仕方がないですね。伝説とまで語られている貴方の実力を見誤りました。本当は大した事の無い実力の様ですね。封印されたのも納得です』
<ふざけるな人間がッ!! 我を侮辱するなど許さぬぞ!!>
『では出来るのですか? 私の息子を一生涯守り切る事が?』
<当たり前であろうッ! 貴様の息子1人どころか人間程度何億人だろうと守る事だって我には容易だッ!>
王としてのプライドが、エミリオの発言を断じて許さなかった。
人間如きの条件など取るに足らんと言わんばかりに、ジークはエミリオの条件を飲み込んだ。
そして……。
ふと冷静になったジークは、この瞬間初めて自分がしてしまった過ちに気付く――。
だが時すでに遅し――。
『フフフ。そうですか。それを聞いて安心しました。今の言葉は私の特殊な空間魔法にて音を保管させて頂きましたので、もし貴方が条件を破った際には、今の発言が王国中に響きます』
<……⁉>
『そして……人間である私との容易な条件も満たせない貴方は、全世界の笑い者となるでしょう。1番笑われた王として歴史に名を刻んで下さい――』
<ぐッ……!(とんでもない女だ……。我はオロチよりも厄介な奴を相手にしてしまったのでは……)>
『因みに、条件を飲んでくれたので必要ないと思いますが、私が貴方の封印を“解いただけ”では、貴方は此処から出られません』
<何……⁉>
エミリオが淡々と喋れば喋れる程、ジークは血の気が引いていく。何という人間を相手にしてしまったのだと――。
『貴方が此処から出るには“召喚魔法”が必要となります。勿論それを扱える者がね』
<貴様何処まで我をおちょくる気だ……! さっきの条件を飲んだところで意味がないではないか>
『いいえ、大丈夫ですよ。何故なら、私の息子であるルカが召喚魔法の使い手ですからね』
たかが人間だと見下していたジークであったが、エミリオの1枚も2枚も上手な策略に、何時しか初めて人間に対して関心が芽生えているジークであった。