「……まったく。干からびていても、お前は相変わらず美しかったぞ」
監禁されていた七日間、ほとんど絶食状態だったヨシュアは脱水症状を起こして、非常に危険な状態だった。
治癒魔法の使える医師から治療を受け、体内に水分を補給して貰って、何とか一命を取り留めることができたのは幸いとしか言いようがない。
当日の夜には目を覚まし、カズンはそれを確認してから自宅へ帰った。
翌日、学校帰りに見舞いの果物を携えて、再びリースト伯爵家を訪ねた。
朝のうちにカズンの家へ、リースト伯爵家からヨシュアの健康状態が回復し意識もはっきりしていると報告が来ていたからだ。
弱ってやつれてはいたが、ヨシュアの万人を魅了する麗しの美貌は健在だった。
むしろ、より物憂げな儚さが増してグレードアップしている。
「助けてくれてありがとうございました、カズン様。さすがのオレも、まさか自分の家で魔力封じが施された部屋に閉じ込められるとは思ってもみなくて……」
申し訳なさそうに苦笑いしている。
「あの屋根裏部屋か。床板の裏側にびっしり魔力封じの呪符が仕込まれていたそうだな」
「ええ。窓と壁、ドアにも透明なインクで描かれていました。あそこまでやられてしまうと、オレでも太刀打ちできません」
ヨシュアは膨大な魔力を持って生まれ、幼少期から魔法剣士として研鑽を積んできた人物だ。
ただ惜しむらくは、体内に蔵する魔力量を支えるだけの肉体の強さが足りなかった。
いつも気怠げで学園を休むことも多いのは、魔力と未成熟な肉体とがアンバランスなせいだ。
それも成長して鍛錬を続けていけば改善すると彼の叔父は言っているそうだが、まだまだ先は遠い。
「お前が魔法剣の一本も出せないほど完璧に魔力封じをやられるとはな。後妻たちはどこで、そこまで術が使える術師を見つけてきたんだ?」
後妻ブリジットは男爵家出身で、この伯爵家に嫁ぐ前は子爵家へ嫁いでいた人物だ。連れ子はそのときの子爵との間の息子と聞いていた。
どちらも、大した魔力量はなかったと聞いている。
「……本当かどうかはわかりませんが、魔道書を読んで自分たちで材料を調達して描いたんだそうです。あのまま魔力封じの施された屋根裏部屋に監禁し続けて、死ぬ寸前に特殊な毒を飲ませると、傀儡のように命令を聞くようになるのだそうで」
「なるほど、その薬剤の入っていたのがワインか」
「ええ、元からあの部屋の中に、これみよがしに置かれていましてね。水も食料もなかったものだから、危ないとわかっていてもあれを飲むしかなかった」
後妻たちは違法な隷属の魔導具を所持していたとも報告を受けている。
話を聞いて、カズンは深い溜め息をついて、ヨシュアが身体を起こしているベッド脇の椅子に腰を下ろした。
長い話になりそうだ。
「……で。後妻とその連れ子は牢へぶち込まれ、伯爵家嫡男の監禁と殺害未遂で相当、重い罰が下されるだろう。お前の描いたシナリオ通りか?」
「ふふ。……鬱陶しい輩が視界から消えてくれて、嬉しいですよ」
微笑むヨシュアは文句なしに麗しく、美しい。
この顔に皆、勝手に勘違いしたり、騙されたりするんだよなあ、とカズンはしみじみ思った。
基本的に貴族令息らしいおっとりマイペースな男だが、虫も殺さぬような可愛いタマでは決してない。
確かに成長するにつれ魔力と肉体のアンバランスで体調を崩しがちになり、物憂げな顔を見せることが多くなった。
しかし幼馴染みでもあるカズンからしたら、やんちゃが程よく抜けて大人しくなったなぐらいの感想である。
子供の頃はよく一緒に悪戯して、彼の叔父に怒られていたものである。
「……僕はてっきり、お前は爵位は継ぐが実務の面倒臭いことは義理の弟に任せて楽できるよう環境を整えるのだとばかり思っていた」
世間話ついでにヨシュアからその話を聞いたのは、そう遠い昔のことではない。
二人は同じ教室のクラスメイトで、幼い頃から互いを知る幼馴染みでもある。
今年、学園の最終学年に進級してからは同じクラスとなったので、とても親しい友人関係だった。
「最初はそのつもりでした」
実際、数年前に男爵家出身の出戻り未亡人ブリジットを後妻として迎えたヨシュアの父、リースト伯爵カイルの思惑もそうだったらしい。
魔力と肉体のアンバランスで不調を抱えていた息子ヨシュアの世話と補佐が可能な、貴族家出身で学園の卒業生でもある女性。
後妻ブリジットは学園時代は成績優秀クラスにいたそうで、連れ子アベルも伯爵家の役に立つ程度には有能だと判断されていたはずだった。
「だから義母と義弟の贅沢も、必要経費と思って目を瞑ろうとね。……だけど、彼女たちは決してしてはならないことをした」
「というと?」
「我がリースト伯爵家の先祖伝来の宝物を売り飛ばして、豪遊に使っていたんですよ。母の遺品の装飾品もね。もちろん、すぐに買い戻しを配下に命じましたが……」
リースト伯爵家は後妻に、伯爵夫人として必要と思われる品格維持費を渡していたが、本人には足りなかったようだ。
監禁されていた七日間、ほとんど絶食状態だったヨシュアは脱水症状を起こして、非常に危険な状態だった。
治癒魔法の使える医師から治療を受け、体内に水分を補給して貰って、何とか一命を取り留めることができたのは幸いとしか言いようがない。
当日の夜には目を覚まし、カズンはそれを確認してから自宅へ帰った。
翌日、学校帰りに見舞いの果物を携えて、再びリースト伯爵家を訪ねた。
朝のうちにカズンの家へ、リースト伯爵家からヨシュアの健康状態が回復し意識もはっきりしていると報告が来ていたからだ。
弱ってやつれてはいたが、ヨシュアの万人を魅了する麗しの美貌は健在だった。
むしろ、より物憂げな儚さが増してグレードアップしている。
「助けてくれてありがとうございました、カズン様。さすがのオレも、まさか自分の家で魔力封じが施された部屋に閉じ込められるとは思ってもみなくて……」
申し訳なさそうに苦笑いしている。
「あの屋根裏部屋か。床板の裏側にびっしり魔力封じの呪符が仕込まれていたそうだな」
「ええ。窓と壁、ドアにも透明なインクで描かれていました。あそこまでやられてしまうと、オレでも太刀打ちできません」
ヨシュアは膨大な魔力を持って生まれ、幼少期から魔法剣士として研鑽を積んできた人物だ。
ただ惜しむらくは、体内に蔵する魔力量を支えるだけの肉体の強さが足りなかった。
いつも気怠げで学園を休むことも多いのは、魔力と未成熟な肉体とがアンバランスなせいだ。
それも成長して鍛錬を続けていけば改善すると彼の叔父は言っているそうだが、まだまだ先は遠い。
「お前が魔法剣の一本も出せないほど完璧に魔力封じをやられるとはな。後妻たちはどこで、そこまで術が使える術師を見つけてきたんだ?」
後妻ブリジットは男爵家出身で、この伯爵家に嫁ぐ前は子爵家へ嫁いでいた人物だ。連れ子はそのときの子爵との間の息子と聞いていた。
どちらも、大した魔力量はなかったと聞いている。
「……本当かどうかはわかりませんが、魔道書を読んで自分たちで材料を調達して描いたんだそうです。あのまま魔力封じの施された屋根裏部屋に監禁し続けて、死ぬ寸前に特殊な毒を飲ませると、傀儡のように命令を聞くようになるのだそうで」
「なるほど、その薬剤の入っていたのがワインか」
「ええ、元からあの部屋の中に、これみよがしに置かれていましてね。水も食料もなかったものだから、危ないとわかっていてもあれを飲むしかなかった」
後妻たちは違法な隷属の魔導具を所持していたとも報告を受けている。
話を聞いて、カズンは深い溜め息をついて、ヨシュアが身体を起こしているベッド脇の椅子に腰を下ろした。
長い話になりそうだ。
「……で。後妻とその連れ子は牢へぶち込まれ、伯爵家嫡男の監禁と殺害未遂で相当、重い罰が下されるだろう。お前の描いたシナリオ通りか?」
「ふふ。……鬱陶しい輩が視界から消えてくれて、嬉しいですよ」
微笑むヨシュアは文句なしに麗しく、美しい。
この顔に皆、勝手に勘違いしたり、騙されたりするんだよなあ、とカズンはしみじみ思った。
基本的に貴族令息らしいおっとりマイペースな男だが、虫も殺さぬような可愛いタマでは決してない。
確かに成長するにつれ魔力と肉体のアンバランスで体調を崩しがちになり、物憂げな顔を見せることが多くなった。
しかし幼馴染みでもあるカズンからしたら、やんちゃが程よく抜けて大人しくなったなぐらいの感想である。
子供の頃はよく一緒に悪戯して、彼の叔父に怒られていたものである。
「……僕はてっきり、お前は爵位は継ぐが実務の面倒臭いことは義理の弟に任せて楽できるよう環境を整えるのだとばかり思っていた」
世間話ついでにヨシュアからその話を聞いたのは、そう遠い昔のことではない。
二人は同じ教室のクラスメイトで、幼い頃から互いを知る幼馴染みでもある。
今年、学園の最終学年に進級してからは同じクラスとなったので、とても親しい友人関係だった。
「最初はそのつもりでした」
実際、数年前に男爵家出身の出戻り未亡人ブリジットを後妻として迎えたヨシュアの父、リースト伯爵カイルの思惑もそうだったらしい。
魔力と肉体のアンバランスで不調を抱えていた息子ヨシュアの世話と補佐が可能な、貴族家出身で学園の卒業生でもある女性。
後妻ブリジットは学園時代は成績優秀クラスにいたそうで、連れ子アベルも伯爵家の役に立つ程度には有能だと判断されていたはずだった。
「だから義母と義弟の贅沢も、必要経費と思って目を瞑ろうとね。……だけど、彼女たちは決してしてはならないことをした」
「というと?」
「我がリースト伯爵家の先祖伝来の宝物を売り飛ばして、豪遊に使っていたんですよ。母の遺品の装飾品もね。もちろん、すぐに買い戻しを配下に命じましたが……」
リースト伯爵家は後妻に、伯爵夫人として必要と思われる品格維持費を渡していたが、本人には足りなかったようだ。