さて翌日。
学園長で家庭科教師のエルフィンに食材の手配を依頼し、昼前にあらかじめ幾つかの工程の準備をお願いしておいた。
カズンが作る料理は味の良いものが多いので、エルフィンもすっかりノリノリで協力的に付き合ってくれている。
作りやすい料理なら学園の食堂メニューに追加されるため、調理実験にかかる費用の予算も確保してもらっているのだ。
「浸水させたお米を蒸すのと、小麦粉を練っておくのまでやっておいたわ。あと豚肉をボウルに挽肉にしてあるから確認してね」
「ありがとうございます、エルフィン先生。昼から調理を始めたのでは、食べるまでに時間がかかってしまいますから」
エルフィンは午後の枠にも受け持ちの授業がある。
彼にも調理した料理を食べて欲しいし意見も頂戴したいから、調理自体はできるだけ時短で行いたかった。
カズンとヨシュアはお揃いの紺色のエプロンを装着、エルフィンは安定の全身真っ白の割烹着姿だ。
「まず、“餃子”という料理を作ります。これは僕の前世では大変人気のある料理でした。……小麦粉の皮で包む中身を作ります。材料は豚肉の挽肉、キャベツのみじん切りを塩揉みして水分を抜いたもの、生姜も細かくみじん切り。あればニラも入れたかったですが、ニンニクと同じで匂いがあるので、午後の授業があるエルフィン先生のために今回は除きます」
口内にかける清浄魔術も、先日カズンたちが買ったような口内清浄剤もあるが、人前に出る職業人が匂いのきつい食事を控えるのはマナーの一環である。
カズンがボウルの挽肉を手で捏ねている間に、エルフィンにはキャベツを粗みじん切りにして塩揉みし、布巾で水分を搾るところまでやってもらう。
反対側ではヨシュアに、生姜を細かいみじん切りにしてもらった。
「では、こちらの挽肉のボウルにいれてもらえますか。ヨシュア、調味料を上から入れてくれるか?」
材料を手で捏ねているところに、塩や胡椒を足してもらう。
風味付けの胡麻油も加えて混ぜたところで、餃子の種の完成である。
「次、エルフィン先生に塩水を混ぜて捏ねておいてもらった小麦粉の生地で、この挽肉の種を包みます」
キッチン設備の作業台はそのままパンなどを捏ねられるよう大理石仕様になっている。
そこに小麦粉で打ち粉をして、生地を広げ細長く伸ばして端からピンポン玉より少し小さいぐらいのサイズにスケッパーでカットしていった。
小さくカットした生地をすべて簡単に丸くまとめる。
家庭で作るなら、バットに広げて生地が乾燥しないよう濡れ布巾をかけておくところだが、エルフィンがいる今回に限り必要ない。
「二人とも、僕の手元をよく見てて下さい。生地の広げ方にコツがあります」
丸くまとめた小さな生地を、打ち粉の上で麺棒で平たく丸く10cmほどの大きさまで伸ばしていく。本来ならもう少し小さくてもいいのだが、初めて作るカズン以外の二人のために、包みやすい大きさにしてみた。
「皮の端を少しだけ、薄くするのがコツなんです。中にタネを包むとき、生地が厚くなりすぎないような工夫です」
ひとまず、十枚くらいを同じやり方で一気に伸ばした。
そして、とりあえず丸く伸ばした生地一枚を手に取り、ティースプーンで掬い取った挽肉の種を生地の真ん中にのせる。
あらかじめ小さなボウルに用意しておいた水を指先につけ、生地の内側、円周の端に付けて、種を包むように半分に折る。
「中身が出ないように、ひだを三つか四つ作って生地を閉じます。これで出来上がり」
「あら可愛い、耳の形みたいねえ」
カズンが仕上げた、いわゆる餃子の形をエルフィンは気に入ったようだ。
「包む形にはいくつかバリエーションがあります。僕の前世の世界では、会食用には芸術的な様々な形のものがありましたよ」
今回は最もオーソドックスな形に仕上げてある。
「よーし、同じように生地を伸ばせばいいのね。いくわよー!」
作業台の前でエルフィンが両手に魔力を集め始める。
えい、と掛け声とともに、まとめてあった小さな生地たちが空中に浮かび、見る見るうちに伸ばされて、打ち粉をした作業台の上に並べられていく。
調理スキルの上級を持つ彼の、応用技の一つである。ちなみに分類上は魔術だ。
「包むところまでやっちゃいましょうか。種だけ生地の上にのせてくれる?」
「了解です。ヨシュア、二人がかりでやるぞ!」
「はい!」
種を半分ずつ分けて、端からティースプーンで生地にのせていく。
種が入った生地から、エルフィンが魔術で包み、ひだを付けていく。
続々と包み終わる餃子がバットの上にきれいに並べられていくのだった。
「む、作り過ぎてしまったか。ひいふうみぃ……二百個以上あるな」
一人十個程度を予定していたのだが、カズン、ヨシュア、エルフィン、後から合流するユーグレンとライル、グレンと六人分にしては多過ぎた。
「余った分は冷却魔術をかけておいて、後で食堂の調理師たちとの試食用にするわ」
調理工程はそう難しくない。味次第では、ラーメンに続いて食堂の新メニューに採用する可能性もある。
「この餃子は、それぞれが好きなタレで食します。一般的だったのは、酢醤油でしょうか」
調味料を分けて使う用に取り皿をいくつか持ってきて、テーブルの上に準備しておく。
酢、醤油、塩、辛子入りの小瓶、赤唐辛子を漬けたオイル入りの小瓶なども並べておく。
食べる者が好きにアレンジできるように。
「この料理が生まれた本場の国だと、千切りにした生姜をのせて、酢や酢醤油で食すのも好まれていたようです」
「カズン様のお勧めは何ですか?」
「僕は、醤油多めの酢醤油に、辛子をちょっと、だな」
「へえ、オレも試してみますね!」
調味料を見つめていたエルフィンが、何やら複雑そうな表情で小さく唸っている。
「あのね、カズン君。このギョーザって料理、もしかしてお酒にすっごく合うとか言わない?」
「あ、そうですね。大人たちはラガービールとの組み合わせを好む料理でした」
「やっぱりいいい!」
どうして私は教師なの、この後授業があるの! と嘆いている。
「ふふ、エルフィン先生がお酒を飲めるように、午後の授業が終わった後の調理実験が良かったですかね」
「それよ!」
それならもういっそ、エルフィンを招いてカズンかヨシュアの家で調理実験すればいいのだが。
ただ、学園の外部での活動だと、学園側から予算が下りないという問題がある。
学園長で家庭科教師のエルフィンに食材の手配を依頼し、昼前にあらかじめ幾つかの工程の準備をお願いしておいた。
カズンが作る料理は味の良いものが多いので、エルフィンもすっかりノリノリで協力的に付き合ってくれている。
作りやすい料理なら学園の食堂メニューに追加されるため、調理実験にかかる費用の予算も確保してもらっているのだ。
「浸水させたお米を蒸すのと、小麦粉を練っておくのまでやっておいたわ。あと豚肉をボウルに挽肉にしてあるから確認してね」
「ありがとうございます、エルフィン先生。昼から調理を始めたのでは、食べるまでに時間がかかってしまいますから」
エルフィンは午後の枠にも受け持ちの授業がある。
彼にも調理した料理を食べて欲しいし意見も頂戴したいから、調理自体はできるだけ時短で行いたかった。
カズンとヨシュアはお揃いの紺色のエプロンを装着、エルフィンは安定の全身真っ白の割烹着姿だ。
「まず、“餃子”という料理を作ります。これは僕の前世では大変人気のある料理でした。……小麦粉の皮で包む中身を作ります。材料は豚肉の挽肉、キャベツのみじん切りを塩揉みして水分を抜いたもの、生姜も細かくみじん切り。あればニラも入れたかったですが、ニンニクと同じで匂いがあるので、午後の授業があるエルフィン先生のために今回は除きます」
口内にかける清浄魔術も、先日カズンたちが買ったような口内清浄剤もあるが、人前に出る職業人が匂いのきつい食事を控えるのはマナーの一環である。
カズンがボウルの挽肉を手で捏ねている間に、エルフィンにはキャベツを粗みじん切りにして塩揉みし、布巾で水分を搾るところまでやってもらう。
反対側ではヨシュアに、生姜を細かいみじん切りにしてもらった。
「では、こちらの挽肉のボウルにいれてもらえますか。ヨシュア、調味料を上から入れてくれるか?」
材料を手で捏ねているところに、塩や胡椒を足してもらう。
風味付けの胡麻油も加えて混ぜたところで、餃子の種の完成である。
「次、エルフィン先生に塩水を混ぜて捏ねておいてもらった小麦粉の生地で、この挽肉の種を包みます」
キッチン設備の作業台はそのままパンなどを捏ねられるよう大理石仕様になっている。
そこに小麦粉で打ち粉をして、生地を広げ細長く伸ばして端からピンポン玉より少し小さいぐらいのサイズにスケッパーでカットしていった。
小さくカットした生地をすべて簡単に丸くまとめる。
家庭で作るなら、バットに広げて生地が乾燥しないよう濡れ布巾をかけておくところだが、エルフィンがいる今回に限り必要ない。
「二人とも、僕の手元をよく見てて下さい。生地の広げ方にコツがあります」
丸くまとめた小さな生地を、打ち粉の上で麺棒で平たく丸く10cmほどの大きさまで伸ばしていく。本来ならもう少し小さくてもいいのだが、初めて作るカズン以外の二人のために、包みやすい大きさにしてみた。
「皮の端を少しだけ、薄くするのがコツなんです。中にタネを包むとき、生地が厚くなりすぎないような工夫です」
ひとまず、十枚くらいを同じやり方で一気に伸ばした。
そして、とりあえず丸く伸ばした生地一枚を手に取り、ティースプーンで掬い取った挽肉の種を生地の真ん中にのせる。
あらかじめ小さなボウルに用意しておいた水を指先につけ、生地の内側、円周の端に付けて、種を包むように半分に折る。
「中身が出ないように、ひだを三つか四つ作って生地を閉じます。これで出来上がり」
「あら可愛い、耳の形みたいねえ」
カズンが仕上げた、いわゆる餃子の形をエルフィンは気に入ったようだ。
「包む形にはいくつかバリエーションがあります。僕の前世の世界では、会食用には芸術的な様々な形のものがありましたよ」
今回は最もオーソドックスな形に仕上げてある。
「よーし、同じように生地を伸ばせばいいのね。いくわよー!」
作業台の前でエルフィンが両手に魔力を集め始める。
えい、と掛け声とともに、まとめてあった小さな生地たちが空中に浮かび、見る見るうちに伸ばされて、打ち粉をした作業台の上に並べられていく。
調理スキルの上級を持つ彼の、応用技の一つである。ちなみに分類上は魔術だ。
「包むところまでやっちゃいましょうか。種だけ生地の上にのせてくれる?」
「了解です。ヨシュア、二人がかりでやるぞ!」
「はい!」
種を半分ずつ分けて、端からティースプーンで生地にのせていく。
種が入った生地から、エルフィンが魔術で包み、ひだを付けていく。
続々と包み終わる餃子がバットの上にきれいに並べられていくのだった。
「む、作り過ぎてしまったか。ひいふうみぃ……二百個以上あるな」
一人十個程度を予定していたのだが、カズン、ヨシュア、エルフィン、後から合流するユーグレンとライル、グレンと六人分にしては多過ぎた。
「余った分は冷却魔術をかけておいて、後で食堂の調理師たちとの試食用にするわ」
調理工程はそう難しくない。味次第では、ラーメンに続いて食堂の新メニューに採用する可能性もある。
「この餃子は、それぞれが好きなタレで食します。一般的だったのは、酢醤油でしょうか」
調味料を分けて使う用に取り皿をいくつか持ってきて、テーブルの上に準備しておく。
酢、醤油、塩、辛子入りの小瓶、赤唐辛子を漬けたオイル入りの小瓶なども並べておく。
食べる者が好きにアレンジできるように。
「この料理が生まれた本場の国だと、千切りにした生姜をのせて、酢や酢醤油で食すのも好まれていたようです」
「カズン様のお勧めは何ですか?」
「僕は、醤油多めの酢醤油に、辛子をちょっと、だな」
「へえ、オレも試してみますね!」
調味料を見つめていたエルフィンが、何やら複雑そうな表情で小さく唸っている。
「あのね、カズン君。このギョーザって料理、もしかしてお酒にすっごく合うとか言わない?」
「あ、そうですね。大人たちはラガービールとの組み合わせを好む料理でした」
「やっぱりいいい!」
どうして私は教師なの、この後授業があるの! と嘆いている。
「ふふ、エルフィン先生がお酒を飲めるように、午後の授業が終わった後の調理実験が良かったですかね」
「それよ!」
それならもういっそ、エルフィンを招いてカズンかヨシュアの家で調理実験すればいいのだが。
ただ、学園の外部での活動だと、学園側から予算が下りないという問題がある。