「結愛、奏多様、聞いてほしいことがあるの」

観月は奏多達に全てを話す覚悟を決める。

「一族の者のうち、記憶を封印する力を持つ私達、此ノ里家の者達が主体となって奏多様の神としての記憶を封じ込めたのは知っているわよね」
「はい……」
「はい、お姉ちゃん」

観月の説明に、奏多と結愛は唇を引き結ぶ。
いつも観月に手を引いて貰わねば、歩き出せないほどの怖がりだった妹は奏多とともにしっかりと前を向いている。
今なら結愛に届くだろうか。
この想いがどうか届いてほしいと祈りながら、観月は話を続けた。

「でも、数多の世界を管理する『破滅の創世』様の記憶を完全には封じ切ることはできなかったの。だから、一族の上層部は奏多様の神としての記憶が蘇る度に、私達、此ノ里家の者に封印を施すように迫ったわ」

あの瞬間に覚えた恐怖を、観月はきっとずっと忘れないことだろう。

「私達の大切な人を人質にして……」

死の恐怖が観月を掴んで離さない。
あの日から観月は怯えていた。
大切な人を失う恐怖を。
大切な人から向けられる憎しみの瞳と向き合う恐怖を。

「結愛、奏多様。お願い……助けてほしいの……」

助けを求める。
それを口にすることは、どこまでも簡単なようで、かなりの重責を担うことであるように観月には思えた。

「一族の上層部は『破滅の創世』様の神としての権能の一つである『神の加護』を有しているわ」

観月は一つ一つを噛みしめるように口にしてから視線を上げる。
どこまでも続くような漆黒の空は思わず引き込まれそうになるほど、星の光に満ちていた。

「神のごとき強制的な支配力。それは天災さえも支配し、それを利用することができるわ。そして、一族の上層部をよく思っていなかった者達さえも、彼らに協力してしまうほどの力なの」
「ある意味、洗脳に近い力だな」

観月の説明を慧が補足する。

「一族の上層部が有している神の加護は同じ一族の者には効果は及ばないけど、それ以外の者は影響を受けてしまうわ」

穏やかな静寂に一石を投じるように夜風が吹く。
握った両手に、観月は恐れるような想いとともに、求めるような気持ちを込め、そっと力を込めた。

「お願い……まどかを助けて……」

観月は頭を下げて乞う。

「私の大切な親友が、一族の上層部の有する神の加護の力によって……洗脳されているの」

観月は静かに語る。
いつかの日、妹に話すことができなかった過去を。
そして――

『観月ちゃん』

大切な親友が一族の上層部の支配下に置かれて、常に服従を強いられていることを。