重要な任務に失敗し、アルリットに殺害された後――。
『一族の上層部』に見逃がされたのは、あの時点で『揉め事』を増やすつもりがなかったからだろう。それに自分はまだ、利用価値があると思われたのかもしれない。兄として――。

弟は、本当に生まれない方が良かった『いのち』なのか――。

幼い慧の心に強烈に焼きついた弟の姿。
生きているはずの弟がいなくて、その家族だけがこの世界で今もどうしようもなく生きている。
過去だけがどこまでも優しくて、どうやったってそこに戻れない現実が悲しい。

忘れることなど出来ない。大切な思い出の数々。

だから、どうしても面影を重ねてしまう。心が渇望するように昔日を求めてしまっていた。
過去なんて捨てられるものではない。決して忘れられない過去の先に今も未来も繋がっているから。
大事な思い出を抱きしめたまま、この先も歩いていくしかないのだ。

「生まれない方が良かった……そんなわけねぇだろう……!」

奏多達を救うために。もう、逃げ出してはならないと慧は知っているから。

「観月、ここで何としても食い止めるぜ!」
「分かったわ」

様々な思いが過りつつも、慧と観月は動き出す。
穏やかならざる空気を纏う戦場。奏多達がいる場所。そちらへと視線を滑らせて――。

奏多と弟は繋がっている。『破滅の創世』の神魂の具現として。

もう慧は理解している。疑いようもなく確信している。
それでもその言葉が欲しくて、慧は奏多に声をかけた。

「奏多、敵の視線をこちらに向けさせる。結愛と一緒に援護してくれ」
「分かった。慧にーさん」

奏多は即座に打開に動くべく、慧達のもとへと進んでいった。
今の自分がすべきことは、『破滅の創世』の配下達の進軍を止めることなのだから。
圧倒的な不利、後手に回る後手、それでも生き残った者達は希望を捨てていない。
それぞれが抱く感情は違えど、今ここに反撃の狼煙が上がった。





「消し滅ぼす」

ヒュムノスが招くのは無慈悲に蹂躙する雷光。
その暴虐の光は排斥の意図もろとも部隊を飲み込んだ。

崇高なる神――尊き主の御座が、罪と偽りに満ちた世界であることが許されるだろうか。
そう訴えるように――。

「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。

「――きゃっ!」

たったそれだけの動作で、リディアは結愛とその周囲にいた部隊の者達を楽々と弾き飛ばした。
喰らった力の凄まじさは結愛達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。

「まぁ、攻撃自体は無駄でも、こちらに視線を向けさせることはできるよな」
「……っ」

しかし、そこに後の先を撃った慧の銃弾がリディアへと炸裂する。

「結愛、大丈夫か」

その間隙を突いて、奏多が傷ついた結愛達を守る位置に移動した。

「みんなを守ってみせる!」

奏多は不撓不屈の意思を示す。
身体を張って前に出ると、結愛達を守るために動いていった。