「奏多様がいるとはいえ、持ちこたえるだけで精一杯だな」

学園の教師達が抱いていた危惧は現実のものとなった。
倒しても倒しても神獣達は再生を遂げ、何度でも襲いかかってくる。
その圧倒な物量に押されて、それぞれが分断されたまま、合流して戦えないのだ。
まさに抵抗する術がない以上、どうにも手の打ちようがなかった。
他の場所でも戦闘が行われているのか、助勢は見込めそうもない。
リディアとアルリットがこの場を去らない限り、この悪夢のような大攻勢は途切れることはなかった。

「結愛……」

観月は倒れている妹の身を案ずる。
結愛はぐったりとして動かない。彼女の傍には奏多がいた。

神と人間は根源的に繋がらない。
不可視の関係性。
それでも――結愛は奏多と歩む未来を夢想している。
人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
でも、共に進むことくらいは出来るのかもしれないと結愛は信じて。
求めて。求めて。求めた先。
どんなに足掻いても報われずに終わる可能性もある。
けれど、それと同じだけ希望もあるはずだ。
奏多と結愛が結ばれる。
そんな未来だって無限の可能性の中には存在する。

『お姉ちゃん、好きな人ができました。奏多くんです』

花が咲き零れるような結愛の笑顔。
そう――観月は知っている。
この世界の未来は人と、人の想いの行く末の先にあることを――。

「結愛、あなたならきっと大丈夫」
 
観月の横顔は強い哀感に満ちてはいたけれど、その眼差しはまっすぐに逃げる事なく現実を見つめているようだった。

「だからお願い。奏多様とともに生きることを諦めないで」

神の魂の具現としてあり得ない生を受けた奏多。一族の誰かが悔いたところで、過ぎた過去は決してやり直せない。
この世界はやがて、無慈悲な神々の怒りを受けて砂上の楼閣のごとく崩れ去るかもしれない。

『罪代を払え。愚者の理解はいらぬ。ただ現実を示すのみ』

恐らく、先程語った奏多の――『破滅の創世』の言葉は本心だろう。
ましてやそれが延々と折り重ねった憎しみに起因するものであるならば、尚更だ。

「だが、それでもさ……」

慧は守りきれるはずだと信じている。最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それが『冠位魔撃者』――その名が献ぜられた慧にとって、前に進むための力となるはずだから。

「奏多、人として生きてきたおまえの意思は神のご意思とは違うだろう」

慧は過ぎ去った忌々しい日々を思い返す。
一族の過ちによって、数多の世界に多くの傷痕を残した。
人間と神の間に存在する、簡単には埋めることのできない根深い憎悪。
『破滅の創世』の配下の者達は不老不死だ。
それに対抗するために一度、滅した自分を利用する。
不死者。
それが今となっては、自分が生かされているという唯一無二の証。
だが、慧は呪いともいえる宿命に利用されるのではなく、真っ向から立ち向かうことを選んだ。