神奏のフラグメンツ

「慧にーさん……」

奏多は懐かしむように、過去の記憶に身を任せる。

「俺は、慧にーさんを死なせたくない!」

きっといつまでも、この記憶を忘れない。
この温かさを忘れない。
きっと、これからもずっと覚えている。
そんな着地点へ落ち着くなり、奏多の身が軽くなった。

「結愛、この状況を打開しよう!」
「はい、奏多くん!」

奏多と結愛は改めて戦意を確かめ合う。

「奏多、敵の視線をこちらに向けさせる。結愛と一緒に援護してくれ」
「分かった。慧にーさん」

奏多は即座に打開に動くべく、慧達のもとへと進んでいった。
今の自分がすべきことは、みんなとともに飛行機の安全を確保することなのだから。

「今だ。このまま突き進んで、緊急着陸させるぞ!」

さらに司を先頭に、『境界線機関』の者達がリディアとアルリットの防衛を崩しにかかる。
だが……。

「無意味だ」

そう断じたリディアの瞳に殺気が宿る。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、全ては無意味に、塵のように消えていく。

「――っ」

リディアの表情は変わらない。
深遠の夜を照らす満天の月のような――流麗にして楚々たる容貌は僅かも曇らなかった。
『破滅の創世』の配下達にとって、一族の者達は不倶戴天の天敵である。神敵であると。

「乗客が、パイロットにこのことを伝えてくれることを願うしかないな」

流石にそう簡単には通してくれないかと、司は思考を巡らせた。

「それでも止めるさ。たとえ、それが無意味なものだとしても……」
「これ以上、進ませないわ!」

決定打に欠ける連撃。
それでも慧は怯むことなく、観月と連携して次の攻撃に移った。

「あたし達がするべきことは『破滅の創世』様の望むこと。この世界にもたらされるべきは粛清だよ」

そう宣言したアルリットは神の鉄槌を下そうとする。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。
『破滅の創世』の奪還のために、一族の者達を相手取る戦いは世界各地で続いている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界にとっての最大の敵で在り続けていた。

「厄介なこと、この上ないな」

帰趨(きすう)の見えない状況に、慧は考えあぐねる。
『破滅の創世』である奏多の防衛を最重要視せねばならない。
だが、『破滅の創世』の配下達、一族の上層部の思惑。
先手を打とうとも後手に回ろうとも、はっきりとしたことは分からなかった。