「では、早速貴方のご依頼内容をお聞かせ願えますか?」
「はい。……最低な女子がいたんです」
琳寧が口にした内容を簡単にまとめると、自分の彼氏を親友だと信じていた人に取られた、と言ったものだった。
「なるほど。その場の状況や、何か証拠となるものはありますか?」
「えっと……」
ポケットから携帯を取り出し、彼女はナナシに渡した。
渡された携帯の画面には、ショッピングモールで一人の男性と女性が楽しそうに話しながら歩いている姿が写されていた。
手元を見ると、仲良く手を繋いでいるようにも見え、傍から見たら恋人同士に見える。
女性は茶色の短髪に、長袖の服にワイドパンツを着用している。
男性の方は耳が見えるほど短い黒髪で、白いTシャツを着ており、ダメージジーンズを履いていた。
「男性の方が私の元彼になる予定の人です。名前は加藤翔。それで、女の方は元親友の樹理香苗です。その二人が──」
途中で言葉を切った琳寧の顔は赤くなっており、目は吊り上がり、下唇を噛み怒りを我慢している。
「落ち着いてください。確かにこれは立派な証拠になりますね。他には何かありますか?」
「……そういえば、私が翔と居る時、必ずと言っていいほど香苗は、いつも近くに居ました」
「翔さんの行動で、何か不思議に思ったことなどはありませんか?」
「翔に? 特には……」
「そうなんですね。三人で居る時の写真などはありますか?」
ナナシは持っていたスマホを一度琳寧に返し、問いかけた。
「ありますよ。よく三人で買い物とかしてたから」
再度画面を操作し携帯を彼に渡した。
受け取った彼は、表情一つ変えずに画面を見始める。
共にジュースやお菓子を楽しんでいたり、三人で肩を組んでいる写真がある。
どれも楽しそうに笑いながら写っているため、怪しい写真などは無い。気になる所と言えば、香苗の服装はいつも長袖や長ズボンと、肌の露出を隠しているような服装を身につけている。
他の二人は、半袖や半ズボンなどが多いため、浮いていた。
「…………おや?」
「どうしたんですか?」
「……いえ、少し気になっただけです。自己完結しましたので、お気になさらず」
ナナシが手を止めた写真には、琳寧と香苗が肩を組んでいる姿が写っていた。
インカメを使っており、香苗は右手首から写真に写っている。その見切れている部分には、不自然に白い何かが見え隠れしていた。
「ありがとうございます。こちらはお返ししますね」
ナナシは笑みを浮かべ、携帯を琳寧に返した。
「では、最後にいくつか確認させていただきます」
「では、私は先程正体を明かさないとお伝えしました。ですが、貴方と契約するにつれて、話さなければならない事が一つあります」
「契約?」
「はい。それで、話さなければならない事とは、私が人間ではないという事です」
自身の胸に手を置き、淡々と話すナナシの言葉に琳寧は驚きが隠せず、目を見張る。
「それじゃ、貴方は何者ですか!?」
「それにはお答え出来ません」
琳寧の言葉に対し間髪入れず、彼は笑みを浮かべたまま返した。
「あと、契約するにあたっていくつか質問し、その質問全てに『YES』と答えていただく必要があります」
言葉一つ一つが妖しく、彼女は困惑の表情を浮かべながらも聞き漏らしがないように聞いている。
「あ、ここで辞退するのであればそれで構いませんよ。どうしますか?」
そこからは少しの沈黙が訪れ、重い空気がこの汚部屋を包み込む。
「か、必ず依頼は達成してくれるんですよね? 途中で逃げ出したりは──」
「安心してください。私は、契約した人の依頼を最後までやり遂げなければ、次の方と契約が出来ない仕組みになっております。なので、何があってもやり遂げますよ」
その言葉には嘘偽りがない。真剣な口調で、前髪で見えないはずの目から感じる視線は鋭く体に突き刺さる。
「さぁ、どうしますか?」
やわらかい口調で問いかけられた彼女は、自身の膝に置いていた手を強く握った。
「契約、します!」
気合の入った言葉と共に、揺るぎのない瞳を向ける。その目は怒りの炎で埋め尽くされており、体に突き刺さるような強い憎悪を感じ取れる。
「でしたら、今から三つの質問します。それにはYESかNOでお答えください。NOと答えた場合はその時点で終わり。貴方との契約は破棄させていただきます。では、質問しても宜しいですか?」
「お願いします」
琳寧の言葉を聞いたあと、ナナシは頷き口を開いた。
「では、一つ目。貴方は復讐したい相手を殺したいほど憎んでいますか?」
「YES」
「二つ目。結果がどうなっても、貴方はこの復讐をやり遂げたいですか?」
「YES」
「三つ目。貴方自身がどうなっても構いませんか?」
その言葉に、今まですぐ答えることが出来ていた琳寧だったが、少し言葉を詰まらせた。
ナナシは質問したあと、返答が来るまで待ち続せている。
「………い……YES」
「本当に?」
「……えっ?」
「本当にYESでよろしいのですか? もしかしたら貴方の××を頂くかもしれませんよ?」
ナナシは無表情なため、何を思っているのか分からない。
「…………YES」
「分かりました。でしたら、契約完了いたします」
口にするのと同時に、彼はいきなり懐からカッターナイフを取りだした。そして、次の瞬間。
────ザシュッ
「えっ!?」
ナナシは、いきなり自身の首にカッターナイフを当て頸動脈を切った。血が噴水のように飛び散り、辺りを赤く染めていく。
琳寧は自身に血が降り注ぐ中、動けない。鉄の匂いが小さな部屋に充満し始める。
『復讐は呪い、呪いは支配。お前の中に渦巻く赤い炎。その炎を青い炎へ、浄化致しましょう』
響きのある声でナナシが呟くと、辺りを赤く染めた血は、モゾモゾと動き出した。
「ひっ?!」
彼の首から飛び散らされた血は、一気に琳寧の左手首へと集まり、リング状に形が生成された。
「なに、これ……」
「それは、契約の証であるブレスレットです。もし、無理やり外そうとすれば、貴方の体内に侵入し、全ての血液を吸収しますのでお気をつけて」
「え、本当なの?」
「はい」
ナナシは先程頸動脈を切り、血が吹き出してしまった人だと思えないほどしっかりとした足取りで立ち上がった。首の傷もいつの間にか治っている。
「では、行きましょうか」
「はい」
二人はドアを開け、外へと歩き出した。
「はい。……最低な女子がいたんです」
琳寧が口にした内容を簡単にまとめると、自分の彼氏を親友だと信じていた人に取られた、と言ったものだった。
「なるほど。その場の状況や、何か証拠となるものはありますか?」
「えっと……」
ポケットから携帯を取り出し、彼女はナナシに渡した。
渡された携帯の画面には、ショッピングモールで一人の男性と女性が楽しそうに話しながら歩いている姿が写されていた。
手元を見ると、仲良く手を繋いでいるようにも見え、傍から見たら恋人同士に見える。
女性は茶色の短髪に、長袖の服にワイドパンツを着用している。
男性の方は耳が見えるほど短い黒髪で、白いTシャツを着ており、ダメージジーンズを履いていた。
「男性の方が私の元彼になる予定の人です。名前は加藤翔。それで、女の方は元親友の樹理香苗です。その二人が──」
途中で言葉を切った琳寧の顔は赤くなっており、目は吊り上がり、下唇を噛み怒りを我慢している。
「落ち着いてください。確かにこれは立派な証拠になりますね。他には何かありますか?」
「……そういえば、私が翔と居る時、必ずと言っていいほど香苗は、いつも近くに居ました」
「翔さんの行動で、何か不思議に思ったことなどはありませんか?」
「翔に? 特には……」
「そうなんですね。三人で居る時の写真などはありますか?」
ナナシは持っていたスマホを一度琳寧に返し、問いかけた。
「ありますよ。よく三人で買い物とかしてたから」
再度画面を操作し携帯を彼に渡した。
受け取った彼は、表情一つ変えずに画面を見始める。
共にジュースやお菓子を楽しんでいたり、三人で肩を組んでいる写真がある。
どれも楽しそうに笑いながら写っているため、怪しい写真などは無い。気になる所と言えば、香苗の服装はいつも長袖や長ズボンと、肌の露出を隠しているような服装を身につけている。
他の二人は、半袖や半ズボンなどが多いため、浮いていた。
「…………おや?」
「どうしたんですか?」
「……いえ、少し気になっただけです。自己完結しましたので、お気になさらず」
ナナシが手を止めた写真には、琳寧と香苗が肩を組んでいる姿が写っていた。
インカメを使っており、香苗は右手首から写真に写っている。その見切れている部分には、不自然に白い何かが見え隠れしていた。
「ありがとうございます。こちらはお返ししますね」
ナナシは笑みを浮かべ、携帯を琳寧に返した。
「では、最後にいくつか確認させていただきます」
「では、私は先程正体を明かさないとお伝えしました。ですが、貴方と契約するにつれて、話さなければならない事が一つあります」
「契約?」
「はい。それで、話さなければならない事とは、私が人間ではないという事です」
自身の胸に手を置き、淡々と話すナナシの言葉に琳寧は驚きが隠せず、目を見張る。
「それじゃ、貴方は何者ですか!?」
「それにはお答え出来ません」
琳寧の言葉に対し間髪入れず、彼は笑みを浮かべたまま返した。
「あと、契約するにあたっていくつか質問し、その質問全てに『YES』と答えていただく必要があります」
言葉一つ一つが妖しく、彼女は困惑の表情を浮かべながらも聞き漏らしがないように聞いている。
「あ、ここで辞退するのであればそれで構いませんよ。どうしますか?」
そこからは少しの沈黙が訪れ、重い空気がこの汚部屋を包み込む。
「か、必ず依頼は達成してくれるんですよね? 途中で逃げ出したりは──」
「安心してください。私は、契約した人の依頼を最後までやり遂げなければ、次の方と契約が出来ない仕組みになっております。なので、何があってもやり遂げますよ」
その言葉には嘘偽りがない。真剣な口調で、前髪で見えないはずの目から感じる視線は鋭く体に突き刺さる。
「さぁ、どうしますか?」
やわらかい口調で問いかけられた彼女は、自身の膝に置いていた手を強く握った。
「契約、します!」
気合の入った言葉と共に、揺るぎのない瞳を向ける。その目は怒りの炎で埋め尽くされており、体に突き刺さるような強い憎悪を感じ取れる。
「でしたら、今から三つの質問します。それにはYESかNOでお答えください。NOと答えた場合はその時点で終わり。貴方との契約は破棄させていただきます。では、質問しても宜しいですか?」
「お願いします」
琳寧の言葉を聞いたあと、ナナシは頷き口を開いた。
「では、一つ目。貴方は復讐したい相手を殺したいほど憎んでいますか?」
「YES」
「二つ目。結果がどうなっても、貴方はこの復讐をやり遂げたいですか?」
「YES」
「三つ目。貴方自身がどうなっても構いませんか?」
その言葉に、今まですぐ答えることが出来ていた琳寧だったが、少し言葉を詰まらせた。
ナナシは質問したあと、返答が来るまで待ち続せている。
「………い……YES」
「本当に?」
「……えっ?」
「本当にYESでよろしいのですか? もしかしたら貴方の××を頂くかもしれませんよ?」
ナナシは無表情なため、何を思っているのか分からない。
「…………YES」
「分かりました。でしたら、契約完了いたします」
口にするのと同時に、彼はいきなり懐からカッターナイフを取りだした。そして、次の瞬間。
────ザシュッ
「えっ!?」
ナナシは、いきなり自身の首にカッターナイフを当て頸動脈を切った。血が噴水のように飛び散り、辺りを赤く染めていく。
琳寧は自身に血が降り注ぐ中、動けない。鉄の匂いが小さな部屋に充満し始める。
『復讐は呪い、呪いは支配。お前の中に渦巻く赤い炎。その炎を青い炎へ、浄化致しましょう』
響きのある声でナナシが呟くと、辺りを赤く染めた血は、モゾモゾと動き出した。
「ひっ?!」
彼の首から飛び散らされた血は、一気に琳寧の左手首へと集まり、リング状に形が生成された。
「なに、これ……」
「それは、契約の証であるブレスレットです。もし、無理やり外そうとすれば、貴方の体内に侵入し、全ての血液を吸収しますのでお気をつけて」
「え、本当なの?」
「はい」
ナナシは先程頸動脈を切り、血が吹き出してしまった人だと思えないほどしっかりとした足取りで立ち上がった。首の傷もいつの間にか治っている。
「では、行きましょうか」
「はい」
二人はドアを開け、外へと歩き出した。