合流宙域に着くと、既にほとんどの艦艇が集結していた。我々の所属するα部隊は、超弩級宇宙戦艦5、宇宙巡洋戦艦8、宇宙巡洋艦15その他宇宙駆逐艦及び補助艦艇多数を有する大艦隊である。
「戦隊、予定ポイントにつきました。」
桐原からの報告を受け、機関停止を命ずると、小西は艦橋メンバーにこう告げた。
「本演習はCICにて行う。艦橋乗組員は全員CICへ向かえ。西村機関長もCICに来てエンジンの面倒を見てくれ。」
西村機関長は驚いた顔をしたが、すぐに
「わかりました。」
と返事をした。それに頷くと、少し迷ったがさらに言葉を続けた。
「戦場は常に流動的だ。万が一戦闘計画にない局面が訪れた際、戦隊がもし戸惑って行動が滞った場合、本艦が具申の上単独で動く可能性がある。申し訳ないが、どうにか了承してほしい。以上だ。」
そう言い、全員に敬礼をした。申し訳ない、その思いで背筋がいつもより伸びる。すると、その思いを読み取ったのか、杉内が敬礼をしながら言う。
「艦長、お言葉ですが、そう思い詰めなくても結構です。我々もあの戦闘計画書に欠陥があることはわかっていました。ですから、艦長がそのような決断をされて嬉しく思いますし、それでこそ我々の本領が発揮できると言うものです。」
その言葉を聞いて、少なくとも自分は天狗になったのではないと改めて自信を持つことができた。
「ありがとう、杉内砲雷長。おかげで気が楽になった。」
「そう言っていただいて、光栄です。」
小西と、杉内の視線が交錯する。以前から小西のことを慕い、ついてきてくれた杉内からの言葉は、今の小西を落ち着かせるには十分であった。
「5分後に戦闘計画確認のブリーフィングを行う。艦橋乗組員はブリーフィングルームに移動。その後CICにて集合、演習開始まで待機せよ。以上だ。」
そう言い、改めて全員に敬礼した後、小西は艦橋を後にした。
ブリーフィングルームでは、小西が作戦要綱を補足を加えつつ読み上げていた。
「…鶴翼陣の本隊に対し、敵艦隊が両翼を攻撃し始めたところで我々がアステロイド群から小ワープを敢行し、敵旗艦及び主力戦隊の撃滅を狙う。その後、我々は敵艦隊に圧力をかけつつ、本隊をもって敵艦隊を撃滅する…これが正規の戦闘計画だが…」
そう言った後、一呼吸おいて、言った。
「…だが、予定通りにならないことも戦場ではあり得る。まず、敵が隊列という隊列を組まず、我々に対しゲリラ的な機動戦闘を仕掛けてきた場合だ。この場合はまず司令官に意見具申する。受け入れられた場合は当然戦隊と行動を共にするが…再び具申案が跳ね除けられた場合には本艦は戦隊から離脱、単独で本隊の救援に向かう。」
「艦長、一つよろしいですか。」
そう言ったのは砲雷長である杉内だ。小西は頷いて発言を許可する。
「ああ、言ってみたまえ。」
「お言葉ですが、駆逐艦単艦で増援に行っても効果的なことは何一つできないのではないですか?まして戦隊規模で動いても何かできるとは思えません。でしたら計画通りに行動した方がよろしいのではないでしょうか。」
「…確かにその通りかもしれないが、別に可能性がないわけではない。特に相手が間隔を広く取って機動戦闘を仕掛けてくるのであれば、敵艦直上から駆逐艦の機動力をもって殴り込みつつ、各個撃破すれば問題ないと考えるが。」
杉内は納得したような顔をして
「艦長の考えを支持します。」
と言った。その言葉に小西は笑顔を返し
「ありがとう。他に質問はないか?」
と尋ねる。周りを見渡すが、特に物事を尋ねたがっているような顔は誰もしていなかった。小西は腕時計をチラ見する。…まだあと数分あるな、そう小西は思い、近くにいた兵士にマイクを貸すように言い、マイクの放送先を艦内放送にするよう指示した。杉内たち艦橋乗組員は何をするのかと小西を不思議そうな目で見る。小西はそれを横目に兵士に作業を進めさせ、やがて合図があることを確認すると小西は話し始めた。
「乗組員諸君。艦長の小西だ。演習を前に君たちに聞いて欲しいことがある。各員、作業の手を止めて一度、聞いて欲しい。」
その言葉を聞いて全ての将兵が荷物を床に置き、作業の手を止め、スピーカーに耳を傾ける。
「さて、話をしたいのは今艦内に蔓延っているこの薄汚い空気についてだ。…ご存知の通り、先月新しい技術科長として阿部宙尉が赴任してきて以降、この艦の空気は一層悪くなっている。それはそうだ、これには命令無視して艦から去ったというとんでもない噂が立っているのだ、乗組員諸君が彼を忌み嫌い、忌避するのもわかる。」
そう言いながら阿部の方を見るとやや俯いているようにも感じる。小西は阿部に笑いかけ、話を続ける。
「だが、それはあくまで噂の話だ。彼が噂通り、命令無視をするような人間ならば、そもそもなぜ命令無視として上層部から裁かれないのだろうか。それは、当然、彼がそのようなことをしていないからである。また、通常、命令無視をするような人間は生活態度が芳しくなく、仕事も適当なことが多い。が、阿部宙尉はこれまで見てきたどんな乗組員よりも完璧に仕事をこなしていることは諸君らも薄々感じているだろう。彼は、間違いなく噂のような人間ではなく、完璧すぎる人間であり、訳あってあまぎから転属になっただけなのだ。彼は諸君らが憎む相手ではなく共に戦う仲間であり、上官である。そのこと、しかと心得よ。」
そう言い、彼はマイクの電源を切る。艦内では言葉では表しにくい気まずい空気が流れており、それはCICでも同様であった。小西はそんな艦橋乗組員に告げる。
「いいか、君たちが所謂模範となって阿部宙尉と親密な関係を築いていかないと下士官もその気になってくれないではないか。阿部宙尉は仲間、その事実は誰がなんと言おうと変わらない。全員、今更ながら彼と和解し、良き友であってやってくれ。」
そう言うと艦橋乗組員はお互いに顔を見合わせ、バツの悪そうな顔をしていたが
「阿部宙尉、その…。本当にすまなかった。勝手な噂で判断したりして。」
と杉内が阿部に歩み寄ったことで他の乗組員も気まずそうにゆっくりと步を進め、やがて阿部の前に立つと、ゆっくりと頭を下げて謝罪し阿部と和解していく。…この艦の乗組員の良いところはとても素直な所だよな、と小西は思いつつ全員が阿部と和解したことを遠くから見届けていた。やがて、和解が済み阿部の周りが賑やかな声で満たされていることを確認した小西は
「よし、そろそろ行こうか。」
と言う。その言葉に先程までの賑やかな雰囲気は無くなり、再び演習前の張り詰めた空気に戻る。その様子に小西は小さく頷くと
「各員CICへ。解散。」
と号令をかけた。
「戦隊、予定ポイントにつきました。」
桐原からの報告を受け、機関停止を命ずると、小西は艦橋メンバーにこう告げた。
「本演習はCICにて行う。艦橋乗組員は全員CICへ向かえ。西村機関長もCICに来てエンジンの面倒を見てくれ。」
西村機関長は驚いた顔をしたが、すぐに
「わかりました。」
と返事をした。それに頷くと、少し迷ったがさらに言葉を続けた。
「戦場は常に流動的だ。万が一戦闘計画にない局面が訪れた際、戦隊がもし戸惑って行動が滞った場合、本艦が具申の上単独で動く可能性がある。申し訳ないが、どうにか了承してほしい。以上だ。」
そう言い、全員に敬礼をした。申し訳ない、その思いで背筋がいつもより伸びる。すると、その思いを読み取ったのか、杉内が敬礼をしながら言う。
「艦長、お言葉ですが、そう思い詰めなくても結構です。我々もあの戦闘計画書に欠陥があることはわかっていました。ですから、艦長がそのような決断をされて嬉しく思いますし、それでこそ我々の本領が発揮できると言うものです。」
その言葉を聞いて、少なくとも自分は天狗になったのではないと改めて自信を持つことができた。
「ありがとう、杉内砲雷長。おかげで気が楽になった。」
「そう言っていただいて、光栄です。」
小西と、杉内の視線が交錯する。以前から小西のことを慕い、ついてきてくれた杉内からの言葉は、今の小西を落ち着かせるには十分であった。
「5分後に戦闘計画確認のブリーフィングを行う。艦橋乗組員はブリーフィングルームに移動。その後CICにて集合、演習開始まで待機せよ。以上だ。」
そう言い、改めて全員に敬礼した後、小西は艦橋を後にした。
ブリーフィングルームでは、小西が作戦要綱を補足を加えつつ読み上げていた。
「…鶴翼陣の本隊に対し、敵艦隊が両翼を攻撃し始めたところで我々がアステロイド群から小ワープを敢行し、敵旗艦及び主力戦隊の撃滅を狙う。その後、我々は敵艦隊に圧力をかけつつ、本隊をもって敵艦隊を撃滅する…これが正規の戦闘計画だが…」
そう言った後、一呼吸おいて、言った。
「…だが、予定通りにならないことも戦場ではあり得る。まず、敵が隊列という隊列を組まず、我々に対しゲリラ的な機動戦闘を仕掛けてきた場合だ。この場合はまず司令官に意見具申する。受け入れられた場合は当然戦隊と行動を共にするが…再び具申案が跳ね除けられた場合には本艦は戦隊から離脱、単独で本隊の救援に向かう。」
「艦長、一つよろしいですか。」
そう言ったのは砲雷長である杉内だ。小西は頷いて発言を許可する。
「ああ、言ってみたまえ。」
「お言葉ですが、駆逐艦単艦で増援に行っても効果的なことは何一つできないのではないですか?まして戦隊規模で動いても何かできるとは思えません。でしたら計画通りに行動した方がよろしいのではないでしょうか。」
「…確かにその通りかもしれないが、別に可能性がないわけではない。特に相手が間隔を広く取って機動戦闘を仕掛けてくるのであれば、敵艦直上から駆逐艦の機動力をもって殴り込みつつ、各個撃破すれば問題ないと考えるが。」
杉内は納得したような顔をして
「艦長の考えを支持します。」
と言った。その言葉に小西は笑顔を返し
「ありがとう。他に質問はないか?」
と尋ねる。周りを見渡すが、特に物事を尋ねたがっているような顔は誰もしていなかった。小西は腕時計をチラ見する。…まだあと数分あるな、そう小西は思い、近くにいた兵士にマイクを貸すように言い、マイクの放送先を艦内放送にするよう指示した。杉内たち艦橋乗組員は何をするのかと小西を不思議そうな目で見る。小西はそれを横目に兵士に作業を進めさせ、やがて合図があることを確認すると小西は話し始めた。
「乗組員諸君。艦長の小西だ。演習を前に君たちに聞いて欲しいことがある。各員、作業の手を止めて一度、聞いて欲しい。」
その言葉を聞いて全ての将兵が荷物を床に置き、作業の手を止め、スピーカーに耳を傾ける。
「さて、話をしたいのは今艦内に蔓延っているこの薄汚い空気についてだ。…ご存知の通り、先月新しい技術科長として阿部宙尉が赴任してきて以降、この艦の空気は一層悪くなっている。それはそうだ、これには命令無視して艦から去ったというとんでもない噂が立っているのだ、乗組員諸君が彼を忌み嫌い、忌避するのもわかる。」
そう言いながら阿部の方を見るとやや俯いているようにも感じる。小西は阿部に笑いかけ、話を続ける。
「だが、それはあくまで噂の話だ。彼が噂通り、命令無視をするような人間ならば、そもそもなぜ命令無視として上層部から裁かれないのだろうか。それは、当然、彼がそのようなことをしていないからである。また、通常、命令無視をするような人間は生活態度が芳しくなく、仕事も適当なことが多い。が、阿部宙尉はこれまで見てきたどんな乗組員よりも完璧に仕事をこなしていることは諸君らも薄々感じているだろう。彼は、間違いなく噂のような人間ではなく、完璧すぎる人間であり、訳あってあまぎから転属になっただけなのだ。彼は諸君らが憎む相手ではなく共に戦う仲間であり、上官である。そのこと、しかと心得よ。」
そう言い、彼はマイクの電源を切る。艦内では言葉では表しにくい気まずい空気が流れており、それはCICでも同様であった。小西はそんな艦橋乗組員に告げる。
「いいか、君たちが所謂模範となって阿部宙尉と親密な関係を築いていかないと下士官もその気になってくれないではないか。阿部宙尉は仲間、その事実は誰がなんと言おうと変わらない。全員、今更ながら彼と和解し、良き友であってやってくれ。」
そう言うと艦橋乗組員はお互いに顔を見合わせ、バツの悪そうな顔をしていたが
「阿部宙尉、その…。本当にすまなかった。勝手な噂で判断したりして。」
と杉内が阿部に歩み寄ったことで他の乗組員も気まずそうにゆっくりと步を進め、やがて阿部の前に立つと、ゆっくりと頭を下げて謝罪し阿部と和解していく。…この艦の乗組員の良いところはとても素直な所だよな、と小西は思いつつ全員が阿部と和解したことを遠くから見届けていた。やがて、和解が済み阿部の周りが賑やかな声で満たされていることを確認した小西は
「よし、そろそろ行こうか。」
と言う。その言葉に先程までの賑やかな雰囲気は無くなり、再び演習前の張り詰めた空気に戻る。その様子に小西は小さく頷くと
「各員CICへ。解散。」
と号令をかけた。