「ハハハ!流石、超新星爆発のエネルギーに耐えられるほどの設計を施された艦だ!まさか、例の大量破壊兵器をも防ぐとは!よもやこの艦は誰にも貫けまい!この艦は最強の艦だ!」
満足気に笑うシュターリンは、完全に防衛艦隊に勝ったつもりでいた。
「さあ、貴様らの貧弱な砲でいくらでも撃ってくるがいい!その全てを、我がアザゼルが弾き返して見せよう!」
そうして再び高笑いを続けた後、勝ち誇ったような笑みを浮かべつつ、マイクを手に取り言った。
「諸君!敵の大量破壊兵器は我がアザゼルの前に無効武力となった!さぁ、今こそこの星を完全に蹂躙するのだ!かろうじて浮いている防衛艦隊も、地上からチクチクと無駄な砲撃を続けている地上砲台も、奴らの持つ兵器をことごとく破壊せよ!」
その言葉を聞いたレミレランド帝国軍全将兵は、勝利を確信し雄叫びを上げながらそれぞれの艦を操り、防衛艦隊各艦や防衛砲台に向けて狂ったように突撃を開始した。諏訪にも再び敵艦百余隻が突撃してくる。クォーク振動砲を撃った直後で碌な反撃が出来ない諏訪は、敵艦からすれば格好の的であった。敵艦はそれぞれの射程に諏訪を収めると、再び一斉攻撃を開始していった。


小西は脂汗を流しながら指示を飛ばしていた。
「機関長!メインエンジンは再起動用電源と組み合わせ、艦のエネルギー再充填に充てろ!最低でもクォークビーム砲が撃てるレベルまで回復させるんだ!補助エンジンは出力最大にしろ!メインの機動力として回避行動に専念するんだ!砲雷長!使用可能な主砲塔に実体弾を装填!エネルギーが回復するまでなんとか繋げ!航海長!味方艦との合流を急げ!」
指示を受けたそれぞれができる限りのことをする。すぐに
「補助エンジン推力最大、現空域より離脱します!」
と航海長が叫び、艦が前進を始めた。だが、メインエンジンのない現状では、精々が第一航行速度でおり、現状に最も好ましい最大戦速には程遠い。それでも、なんとかするしかなかった。
「航海長!もっと海面スレスレを飛べ!取舵30°、陸地へ舵を執れ!」
「ヨーソロー!高度ちょい下げ!取舵30°!」
「砲雷長!艦尾宇宙魚雷、コスモスパロー及び主砲で接近してくる敵艦を迎撃せよ!」
「了解!第4主砲撃ち方用意!その他各砲座照準合わせ!撃ち方始め!」
実体弾を放つ轟音が艦内に響き渡り、その直後、再び爆音が響く。放たれた主砲弾とコスモスパロー、宇宙魚雷は追撃してくる敵艦数隻に命中するも、彼らもそこまで馬鹿ではない。これまで幾度となく同じ状況を経験してきた彼らはもうこの状況の回避策を考案しており、最小限の回避でこれを突き抜けると再び諏訪の喉元に向けて突撃を再開した。思っていたより敵艦を撃ち減らせなかった事で、CICにいる誰もが焦っていた。
「機関長!まだエネルギーは回復しないの!?」
そうアリアが悲鳴に似た金切り声を上げながら尋ねるも
「ダメだ!まだ4割しか回復しきっていない!これではクォークビーム砲はおろか、最大戦速すら出せないぞ!」
という返事を受け、アリアは勢いよく自身の膝を叩いた。直後、CICを激しい衝撃が襲う。
「何事だ!」
「艦橋部分に敵弾が命中!上階艦橋発令所は壊滅状態です!」
その事を聞いて小西は畜生、と舌打ちしたがそんな事をしている暇すら彼らにはなかった。
「電探士!その他の味方艦の状況はどうなっている!?」
小西はそう尋ねたが電探士からの報告はない。小西が電探士の方をチラッと見ると、口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「電探士!報告せよ!」
そう小西が催促すると、電探士は尋常ならざる震えの中、ポツリと言った。
「駆逐艦しまなみを含む…8隻全艦の…撃沈を確認…しました…。」
その言葉に小西は耳を疑った。いや、小西だけではない。アリアも、阿部も、航海長も、通信士も、機関長も、CICにいた全員が耳を疑った。
「ちょっと、何かの冗談でしょう?さっきの被弾で電探が壊れてしまったんじゃないの?」
アリアがそうおずおずと言うが電探士は目の前にある画面をメインパネルに投影し直して言った。
「この…画面を…見てください。」
その画面は、小西たちに現実を否が応でも突きつける結果となった。画面には防衛艦隊各艦の状況が記されていた。諏訪、ジュレーゼン、ティーティス、羽黒、青葉…と防衛艦隊の名前が一覧で表示され、名前の上には大体の艦の形の絵柄が描かれていた。諏訪の絵柄は黄色で囲まれ、真ん中に大きく「half-damage」と書かれていた。half-damage、つまり中破は、戦闘能力を「ほぼ」失っている状態である。戦おうと思えば戦えるものの、無理をすればかなりの確率で撃沈されてしまう、それ程の損害。一方諏訪以外の全ての艦は名前と絵柄が赤く染まっており、それぞれの艦のところにはこう書いてあった。「No-signal」と。No-signalという事はつまり敵味方識別信号を受け取れないということである。防衛艦隊を創る際、小西は当然航宙自衛隊を参考にした。航宙自衛隊では、レーダーがやられても敵味方の識別が出来るようにするため、敵味方識別信号受信装置と発進装置はレーダーとは別の、ほとんど被弾しないような場所に設置されており、それは防衛艦隊も同じであった。そして、先程の被弾でレーダーこそ一部損害を受けたものの、敵味方識別信号受信装置は、未だに健在である。つまり、信号を受け取れないと言うことはこちら側の故障ではなく、向こう側の故障、すなわち撃沈された事を表していた。小西は
「…一応確認だ。しまなみと回線を繋いでくれ。」
と祈るように言った。敵味方識別信号受信装置は、撃沈されない限り壊れないことは知っているがそれでも何かの偶然で8隻とも壊れていて、全艦健在であってくれと小西や、それ以外の誰もがそう願った。どが、現実は残酷で、通信機から流れてくるのは永遠にノイズ音だけだった。防衛艦隊は、事実上ここに壊滅したのである。



ここで、一度時間は諏訪が自由落下を始めた直後まで巻き戻る。諏訪から一時の艦隊指揮を任された杉内は、なんとかこの包囲網から逃れようと四苦八苦していた。先程、小西からの応答に応じなかった2隻…駆逐艦オズヴァルドと重巡洋艦ジュレーゼンが撃沈されたとの報告があり、いよいよ次は我が身だ、なんとか早く抜け出さなければと焦っていた。どこかに抜け道はないのか…そう思いながら電探士のレーダーを覗き込んでいた際、杉内はあることに気がついた。諏訪が元々包囲されていたあたりに、敵艦が殆ど居ないのである。杉内は不審がったが、包囲していた全艦が諏訪を追撃して行ったのだと考えれば合点がいくと考え、全艦に連絡する。
「防衛艦隊残存艦の諸君!聞こえるか!俺は、防衛艦隊の一時的な指揮を任された杉内はだ!現在、本艦前方2時の方向に敵艦隊の空白地帯がある!あそこまで行ければこの包囲下から抜け出せるに違いない!全艦、俺に続け!」
そう言った後
「桐原!取舵15°、空白地帯へ向けて突撃せよ!」
と桐原に指示、桐原は大きく頷き、空白地帯へ向けて舵を切った。先程戦列から離れかけていた羽黒もなんとか戦列に復帰し、杉内はなんとかしてでも全艦を無事に包囲下より脱出させると決意していた。そしてしまなみは遂に空白地帯に到達、後一息だと言わんばかりに拳を握り固めた、その時。不意に目の前からビーム砲が飛んできた。杉内は、ギョッとしてその場でよろめいた。
「一体…。一体なぜだ!」
そう杉内は絶叫した。杉内が何にここまで驚いたのか、それはビーム砲が飛んできたこと…ではない。空白地帯の先にも数隻の敵艦はいた事は杉内も知っていた為、多少の砲火は覚悟していた。だが、いざ空白地帯へ突入してみると、待っていたのは地獄のようなビーム砲の嵐だった。空白地帯は、敵艦隊の策略として作られたものであり、防衛艦隊のレーダーに映っていた艦影は全て、欺瞞だったのだ。敵艦は、レーダーが障害物に跳ね返ってきた電波をキャッチして敵の位置を探るというシステムである事を理解しており、あたかも空白地帯の先に数隻の艦艇しか見えないようにしていた。数隻の大型艦が多数の小型艦のレーダーの盾となり、レーダーの電波が小型艦に当たらないようにし、それによって小型艦がレーダーに映らないように隠していただけであったのだ。…要するに、杉内は敵の更なる包囲網に飛び込んでしまい、まんまと敵の策略に引っかかってしまったのである。杉内は、小西から託された艦隊を敵の包囲下から逃す事ができず、あろうことか艦隊を敵の更なる包囲下に運んできてしまった、その事が悔しくて悔しくて膝をガックリとついて項垂れてしまった。だが、ある者がその肩を優しく叩いた。杉内が恐る恐る顔を上げると、そこには桐原が操舵輪片手に杉内を励ましていた。
「杉内、別にお前1人が背負い込む事じゃない。俺だってあの空間を通れば包囲から逃げられると思っていた。みんなそうだ。だからお前のその命令に具申しなかったし、素直についてきたんだ。別に、お前だけが悪いわけじゃない。だから、大丈夫だ。責任は、俺達で取ればいい。」
その言葉に杉内はさらに涙が溢れそうになるが、それを必死に堪えて周りを見ると、全員が桐原の言葉に同調せんと大きく頷いていた。杉内は目に溜まった涙拭い命令を下す。
「全艦に告ぐ。本艦が囮になる間に全艦現空域より離脱、旗艦諏訪との合流を果たせ。以上だ。」
そう言うと桐原は
「面舵一杯、上昇角85°、垂直上昇!」
と叫び、操舵輪をめいいっぱい回したかと思うと、それを一気に引き上げた。艦隊からいきなり離脱し、急上昇していくしまなみの様子に敵艦の大多数が釘付けにされた。そしてその間に青葉を先頭にさらに数が少なくなった防衛艦隊が一気に加速度を上げ、離脱を試み始めた。幾つかの艦はそれに気づいていたが、垂直上昇した艦がこれまで彼らを苦しめてきたディ・イエデの象徴、「駆逐艦しまなみ」だということに気付き、なんとかしてあの艦を撃破しようとほぼ全ての艦がしまなみに喰らい付いて行った。
しまなみCICでは、桐原が興奮気味に言った。
「うおっ、大量だ大量だ。今までここまで敵が釘付けになった事ねぇぞ!俺達人気者だなぁ!」
そう言いつつもしっかりと操舵輪を回し、巧みに回避行動をとる。そんな桐原を見ながら杉内は頼もしいな、そう思いつつ
「使用可能な砲門で迎撃!撃ち方始め!」
と命令した。数少ない主砲、VLS、宇宙魚雷発射管が動き出し、追撃してくる間に向けて攻撃を開始する。だが、流石にこの艦だけでこの数は撃破できない。いつまで耐えれるか…。そう思いつつ迎撃を続ける。しばらくして、限界も近づいてきたある時。外を映していたモニターが真っ白に染まった。
「何事!?」
と杉内が聞くと、電探士が興奮気味に答えた。
「諏訪がクォーク振動砲を発射!見事敵超巨大戦艦に命中しました!現在、敵超巨大戦艦の損害を確認していますが、クォーク振動砲の直撃ならまず間違いなく撃破できたでしょう!」
杉内は、その知らせに飛びついた。
「本当か!?それは!」
「はい!たった今、諏訪のクォーク振動砲発射信号を確認したので!」
諏訪が、小西司令が遂にやってくれた…この戦いに、勝った…!そう思ったのも束の間、閃光が開けてみると、敵超巨大戦艦はほぼ無傷であった。杉内らは、その様子を見て戦慄した。
「…まさか…そんな…クォーク振動砲の直撃で沈まないなんて…。」
全員が心を沈めていたその時、眼下が、再び閃光で染まった。
「今度は何事だ!?」
杉内はもう悪い知らせはやめてくれ。きっと残存する重巡洋艦2隻がクォーク振動砲を追加で放ったのだろう。そう思いたかったが、現実は違った。
「敵超巨大戦艦からの発砲を確認…。重巡洋艦青葉、羽黒、駆逐艦神風、夕凪との通信、途絶…。おそらく、敵の砲撃に巻き込まれたものかと思われます…。」
杉内は、何も考えられなかった。重苦しい空気がCICを支配する。そして再び、敵超巨大戦艦の主砲が今度は諏訪に向けて放たれた。
「諏訪に向けての敵超巨大戦艦の発砲を確認…。諏訪はかろうじて浮いているもののこれまでの被弾と今の砲撃により被害は甚大、です…。」
電探士がポツリと報告したが杉内にはそれが頭に入ってくるほどの余裕もなかった。杉内はしばらく固まった後、瞼を固く閉じて言った。
「…とにかく諏訪と合流するんだ…。艦首を敵超巨大戦艦に向けろ。超高速で航行すれば超巨大戦艦からの砲撃に被弾する心配は殆どない。諏訪は超巨大戦艦を挟んでほぼ反対側にいるから、おそらく最短距離でかつ1番安全に合流できる方法だろう…。…桐原、行けるか。」
そう言うと
「行けるか、じゃなくて行け、だろ!いいよ、行ってやるよ!」
そう言い、ただでさえ限界を迎えている機関を最大出力にし、超巨大戦艦に向けて突撃を開始した。急な突撃に敵艦のほぼ全てが対応できていなかったが、それも束の間、すぐに砲撃がしまなみを襲う。桐原は必死に回避行動をとりつつ突撃を続けたが、流石のこの砲火の前では数発の被弾を許してしまい、艦が大きく揺れる。杉内は必死に操艦する桐原を横目に、西村機関長に言った。
「西村機関長、おそらくこの限界を超えた出力最大で機関に異常が出るはずです。しかし、戦闘の最中機関が故障して戦えなくなってしまったら、それはもう沈んだのと同じです。ですから、機関長は今から機関室まで降りて、機関長直々に機関の面倒を診ていただけますか。」
そう言うと西村機関長は大きく頷いて
「あいわかった。機関の面倒は、任せなさい。その代わり、その後のことは頼んだよ。」
と言い、走ってCICから出て行った。その言葉に杉内は
「任せてください…。」
と、そう言葉を溢し、再びモニターを睨みつけた。現在、しまなみはまだ敵艦隊の包囲網の中を爆進しており中間地点とも言うべき超巨大戦艦までは今しばらくある。だが、桐原が操艦している間杉内は何もすることはなく、ただただ祈り続けるしか無かった。祈られた杉内は脂汗を滲ませながら必死の回避行動を続ける。操舵輪を右に左に回し間一髪での神回避を連発する。何発もしまなみの装甲板を敵のビーム砲が掠めていったが、杉内は恐れることなく進路を超巨大戦艦に向け続けた。やがてもう間も無く超巨大戦艦の眼と鼻の先にたどり着き諏訪との合流が果たせる、そう思った時だった。
大きな衝撃が、連続してしまなみを襲った。立っていた杉内はその衝撃に耐えられず、壁に打ちつけられてしまう。その直後、CIC内に爆炎が迸った。杉内は突然の爆炎に視界を奪われ、打ちつけられた背中の痛みを堪えつつ杉内は呻きながら
「損傷報告!」
と言った。だが、返事は返ってこない。
「損傷報告!早くしろ!」
と言ったが、やはり何も返ってこない。ともかく現状を確認せねば、と杉内は必死に視界を確保しようと目をこじ開ける。すると、目の前には地獄の惨状が広がっていた。コンソールやモニターは燃え上がり、見知った顔が床に倒れている。杉内は、その中の一人一人に駆け寄る。
「おい!しっかりしろ!」
だが、誰一人として返事は返さず、連続した爆発音だけがしまなみCICに響き渡っていた。杉内はふと顔を上げた。すると、視界に入ってきたのは、血の海に倒れ込んだ桐原だった。
「おい!桐原!しっかりしろよ!」
杉内は桐原の元にも駆け寄り、必死に肩を叩いて起こそうとする。だが、桐原の胸には深々とモニターの破片が突き刺さっており、どこからどう見ても助からないことは明白だった。それでも杉内は何度も何度も桐原の名前を呼び続ける。そんな呼びかけが通じたのか、桐原は苦しそうな呻き声をあげながら
「杉内…。お前は…よくやったよ…。気にすんな…。この国のことを…後は…頼むぜ…。」
と言い、桐原の手は力無く地面に落ちた。杉内は桐原の亡骸をそっと地に置き、生き残ったモニターに目を向けた。艦の被害は深刻だが、まだいける。杉内は艦長席の予備操舵装置を手に取り、必死の操艦を始めた。だが、熟練航海長の桐原でも無理だった回避行動を、砲雷長の杉内ができるはずもなかった。すぐにまた大きな衝撃がしまなみを襲い、また杉内は壁に打ち付けられる。それでも杉内はよろめきながら立ち上がり操舵輪を握る。しかし、艦は一向に曲がる気配がなかった。杉内が混乱していると、ある通信が入る。
「機関室に被弾!死傷者多数!機関圧力調整装置その他大破!操舵不能です!」
その言葉に杉内は言葉を失ったが、直ぐにマイクを手に取り、機関長に呼びかける。
「機関長!西村機関長!大丈夫ですか!」
だが、向こうからは爆発音以外何も返ってこない。
「機関長!」
再び杉内が呼びかけると、呻くような声と共に、機関長の声が聞こえた。
「機関制御不能…機関暴走中なれど…暴発の危険性…なし…!」
そう言い終わると何かが地面に倒れるような音がし、直後マイクの奥の方から機関長、機関長!という声が聞こえた。まさか…。そう思っていると再びマイクから声が聞こえた。
「こちら機関室!西村機関長、戦死ッ…!」
その直後、マイクから大きな爆発音が聞こえ、機関室からの通信は途絶した。
その後杉内は全てを察すると拳を握り締め言った。
「総員に告ぐ!本艦はこれより超巨大戦艦に向けて文字通りの突撃を開始する!使えるものは全てばら撒け!撃ち方始め!」
そう言うとしまなみの使える全ての武装が解放され、一気にそれぞれの目標に向けて飛んでいった。超巨大戦艦にも命中したものもあるが、やはりびくともしない。それでもしまなみは諦めず攻撃を続行した。この一撃がこの艦を撃破する希望になると、そう信じて。しまなみはその後も杉内の決死の操艦でなんとか爆沈を避けながら超巨大戦艦へ肉薄し、やがて超巨大戦艦の装甲板が一つ一つ見えるような距離になった時、杉内は目を閉じてある人に思いを馳せ。
マリア…。すまない。あの日、あれだけ君のところに帰ってくると約束したのに。あれだけ帰ってきて結婚すると言ったのに、結局俺が先に逝ってしまうみたいだ。本当に、ごめん。これがフラグってやつなのかな。本当に申し訳ない。でも、愛してる。だからこそ、強く生きてほしい。そう思いつつ、杉内はマリアの顔を思い浮かべた。いつも、杉内の側で優しく笑いかけてくれたマリアの姿が次々と杉内の頭の中に出てきては消えていく。
走馬灯を流し見た杉内の頬を涙が一筋伝い、それが地面に落ちた。直後超巨大戦艦としまなみが接触、大爆発があたりに轟いた。
同じ頃、王宮の調理場で料理をしていたマリアは不意に皿を落としてしまった。ガチャン、と言う音ともに一際大きな爆発音が聞こえ、マリアは全てを察した。
「…そう…。貴方も、やっぱり死んでしまったのね…。私を置いて。」
そう呟くとゆっくりとした手つきで割れた皿の始末を始めた。目頭に大量の涙を溜めたまま。