2007年
 卵子同士の掛け合わせにより、一匹のマウス「かぐや」が誕生した。

 メス同士の単為生殖で生まれた個体は小柄で免疫力が高く、寿命も長い。

 単為生殖の技術が確立され、ヒトにも適応されるにつれ、その個体は人間の抱える問題の解決に繋がると考えられるようになった。
 例えば、人口増加に伴う土地不足問題など。

 やがて様々な観点からヒトのオスは不要とされ、時代の流れの中で社会から排斥、ついに「男」は淘汰されるに至った。

 ――現在、ヒト科のオスはこの地球上に存在しない。

 ***

 埃臭い図書館の奥にある人類史のコーナー。
 誰も来ないこのエリアは、周囲に馴染めない私――伊部(いべ)琴菜(ことな)にとって逃げ場所の一つだった。
 私は繰り返し読んだそのページに目を走らせる。

『ヒトの繁殖はマシン『MA-J1』を使用し卵子同士の単為生殖で行われる。
 かつてはヒトも他生物と同様、生殖器による繁殖がなされていた。
 現在、こういった原始的で動物的な行為は、ヒトには不要のものである』

(原始的で動物的な繁殖……。ヒト以外の生物は今もそれが当たり前のこと……)

 私は分厚い本を閉じ、細く息を吐く。

(異性と身を寄せ合い、胎内で新たな生命体を生み育む……。その行為に憧れるのは、おかしなことなの……?)
 その日、私は会社を辞めた。
「お疲れ」
 上司は、目も上げず形ばかりの言葉を返す。
 私は一つ礼をして、3年間お世話になった職場を後にした。

「あ、伊部(いべ)
 資料室の前を通り過ぎようとした時、それは聞こえて来た。
千財(せんざい)さん、池逗(いけず)さん。それに……)
「……」
(……武森(たけもり)さん)
 フロアのリーダー格、千財さんは蔑んだ眼差しをこちらへ向ける。
「そういえば伊部、今日で辞めるんだっけ?」
「送別会でもするぅ?」
「まさか」
 池逗さんの言葉を、千財さんは言下に否定する。
「伊部と一緒に食事とか無理じゃない?」
「だよねぇ」
 池逗さんが狡そうに笑う。
「絶滅したオスと原始的な繁殖がしたいとかぁ、その感性が無理ぃ」
 二人は露骨に私へあてつけながら、聞こえるように会話している。
(くっ……)
 私は足早にその場から去ろうとした。
 しかし千財さんは逃さぬとばかりに声を荒げる。
「武森! あんたも言ってやりなよ! あんたはあいつの被害者なんだからさ!」
「……」
 振り返った先、武森さんはうなだれていた。髪がのれんのように横顔を覆い、その表情は見えない。
 やがてぽつりと零れたのは、無機質な声。
「……いいよ、もう」
「武森! だってあんた、伊部に振り回されて……!」
「……関係ない!」
 武森さんの声は小さく震えている。横顔を覆う髪の向こうから雫が落ちるのが見えた。
「……ごめんね!」
 いたたまれず、私はその場から駆け去る。
「最低!」
 千財さんの鋭い怒声を背に受けながら、私は会社を後にした。


(また、ここに来ちゃった……)
 私は区画D――自然保護区へと足を踏み入れる。
 目の前に広がるのは、夕日に染まる草原。樹が生い茂り、花が咲き、穏やかな音を立てて川が流れている。甘い風がふわりと私の髪を揺らした。
(気持ちいい……)
 目を閉じると、虫の羽音や動物の鳴き声が耳に届く。新鮮な草のアロマ。鼻先をかすめる気配に目を開くと、テントウムシが飛び去って行くのが見えた。遠くでは鹿の群れが移動している。
「はぁ……」
 草むらに腰を下ろすと、じわりと視界が歪んだ。


 ――武森! あんたも言ってやりなよ! あんたはあいつの被害者なんだからさ!
 千財さんの言葉が胸を苛む。けれどそれ以上に堪えたのは、武森さんの涙だった。
 ――……関係ない!
(ごめん、武森さん。ごめんね……)

 私と武森さんは数日前まで恋人だった。仲睦まじい私の二人の母のように、温かい家庭を作ることを目指すパートナーだった。
 でも、駄目だった。
 私は彼女を、どうしても恋愛対象に見られなかったのだ。
(彼女はあんなに優しいいい子なのに……)

 私は昔からこの女だけの世界で、女に恋愛感情を抱くことが出来なかった。それよりも、なぜかとうに絶滅した「男」に心惹かれた。
 人類史の本によれば、男という生物は女よりも体が大きく力が強く、ゆえに力づくで物事を解決する傾向があったらしい。体は筋肉質で固く、胸は平坦、全体的にごつごつとしている。その声は地の底から響くほど低く、女に恐怖を抱かせるものだったとか。
 授業で教えられた時、クラスの子たちは揃って顔を歪め悲鳴をあげた。しかし、私は恐怖よりも興味の方が勝った。
 一度見てみたいと。
 それから私は、「男」に関する記録を読み漁った。
 だが、その行為は周りの人間の目には奇異に映ったらしい。時が経つほどに、友人と呼べる人間は一人、また一人と去って行った。私の異様な行動には両親も頭を抱え、気付けば私は地域で孤立していた。

 そんな私に手を差し伸べてくれたのが、武森さんだった。
 彼女は私の噂を知りながら、好意を寄せてくれた。私の知識を誉め、研究する姿勢に敬意を示してくれた。
 そんな彼女に、私も自然と好意を抱いた。
 手を繋ぎ、ハグをすると、心の奥から甘いぬくもりが湧きあがる。これが愛し愛されることだと感動を覚えた。
 彼女なら愛せる、永遠を誓うパートナーになれる、確かにそう思ったのだ。

 けれどそれはハグまでだった。
 キス以上のことをしようとすると、私の体は拒絶反応を起こす。大好きなのに、大切なのに。
 やがて私は彼女に別れを切り出し、関係を解消するに至った。

 私の変人ぶりが原因で孤立することはあっても、暴力や迫害を受けたことはこれまで一度もなかった。それは文明レベルの低い者のすることであり、恥ずべき行為とされていたからだ。
 けれど武森さんを傷つけたことで、会社の人たちは私を白眼視し始めた。献身的に愛を注ぐ恋人を傷つけ、絶滅した前時代的な生物を選ぶ、頭のおかしい人間だと。
 その空気に堪えられなくなった私は、ついに今日会社を辞めた。
(私だって、普通に生まれたかった……)

 夕方の風が、涙を冷やす。
(ここは心地いい。私を白い目で見る人は誰もいないし……)
 花の上を飛び交う虫。草原を進む動物の群れ。
(あらゆる生命が結ばれ合い、命を育んでいる)
 ヒトも昔は、この中の一部だった。今では到底考えられないことだが。
(どんな気持ちだろう。機械に頼らず、自分自身の体で命を繋いでゆくというのは)
 ヒト科のオスが絶滅した今、私たちにそれを知るすべはないけれど。

 その時だった。轟音と共に、地面が大きく揺れた。
 鳥が一斉に枝から飛び立ち、動物たちは右往左往する。
(地震?)
 私は身を固くし、辺りを見回す。ふと、空の一部の色がおかしいことに気付いた。
(え?)
 珊瑚色の空の一部が、四角く切り抜かれたように黒くなっている。更に数ヶ所、色が反転し虹色のノイズが走っていた。
「なにこれ……」
 やがてめりめりと音を立て、真っ黒な部分から何かが姿を現す。それは船の舳先(へさき)のように見えた
「きゃあああっ!」






 同時刻。
 中央管理局のコントロールルームではけたたましい警報が鳴り響いていた。

『緊急事態発生! 緊急事態発生!』
『区画D自然保護区エリア3に大型の異物が突入! ドーム天井を破損した模様!』

 厳めしい制服を纏った室長が眉間にしわを寄せ、声を上げる。
「各所に連絡、ただちに調査へ向かわせろ! 場所は自然保護区エリア3だ!」






 目の前の異様な光景を、私は理解できず、ただ見つめていた。
(何、これ……)
 さっきまで珊瑚色だった空はあちこちに黒い四角形が浮き出し、それ以外の部分には虹色のノイズが走っている。空には大きな裂け目が生じ、その向こうには別の空が覗いていた。
 その裂け目から落ちてきたのは。
(う、宇宙船!? それに、空の向こうに空!?)
 情報を処理しきれず呆然となる私の目前で、船のハッチが大きく開く。
(な……!)
 姿を現したのは、獣頭人身の生き物だった。
「あっちゃ~」
 コリーのような頭の生物はガリガリと頭を掻く。その口から飛び出したのは、とても低いが甘い魅力的な声だった。
「まずいことになっちまったな。天井バッキバキ」
(犬……の形の宇宙人!? まるでおとぎ話に出てくるビーストだわ!)
 口元のインカムは、翻訳機だろうか。仕立ての良さげなスーツが印象的だ。
「だから幾度も申し上げたでしょう、社長」
 続いて、黒猫に似た頭部の生物がしなやかな足取りで出て来た。艶やかな黒い獣毛に覆われた指が、銀縁の眼鏡をそっと押し上げる。
「舵を切るときは慎重に、と!」
 その鋭くも低い声に、思わず身をすくめる。本能的に恐怖を感じ取った。
(社長? あのコリーみたいな人が社長なのかな)
 更に、ヤモリそっくりの頭を持ったツナギ姿の生物が現れる。
「過ぎたことをとやかく言っても仕方ない。補償について考えよう」
 最後に軽やかな足取りで、ウサギっぽい頭の小柄で白い生物が飛び出してくる。
「ここの責任者を探して、謝んなきゃね~」
(みんな、唸る様な低い声。少し怖い気がするのに、なぜか体の奥をビリビリと震わせる、甘い響きを感じる……)

 四人は地面へ足を降ろす。
「すげぇな、ここ。地球の自然界を見事に再現してんぞ」
「風も気持ちいい! 草の匂い、最高!」
 伸びをする犬型獣人の側で、兎型獣人が嬉しそうにはねる。そこへヤモリ型獣人と猫型獣人が歩み寄りながら辺りを見回す。
「虫や鳥、魚もいる。大掛かりなビオトープのようなものか?」
「高度な技術によって作り上げられていますね」
 そう言って猫型獣人は、額に手を当てため息をついた。
「賠償額を想像するだけで胃が痛みます」
「ん?」
 ヤモリ型獣人のペリドット色の目がこちらを向いた。
(え?)
「社長、あそこに人が」
 闖入者たちが一斉にこちらへ首を巡らす。
(見つかった……!)
「うぉ、気付かなかった!」
 犬型獣人を先頭に彼らは大股で近づいてきた。
(こっち来た!)
 血の気が引く。
(宇宙人と言えば、キャトルミューティレーション? それともチップを埋め込まれる!?)
 怪しげな本の情報が脳内を駆け巡る。
 その場から逃げ出すことも出来ず、あっさりと私は彼らに取り囲まれてしまった。
「ヒッ」
「君、大丈夫かい?」
 身を縮める私を、彼らは気づかわし気に見下ろしている。
「え……、あ……」
 兎型獣人がしゃがみこみ、私と目線を合わすと首を傾げた。
「破片がぶつかったりしてない? ケガは?」
「い、いえ、私は、特に……」
「なら良かった。ボクはフラウド・ドナルレス。フラウドって呼んでね。キミの名前は?」
「わ、私は伊部琴菜……」
「イベ・コトナ……琴菜ちゃんだね、覚えた!」
 ふくふくと動く白い口元が愛らしい。
「あー、フラウド! お前ほんっと油断も隙もないな! 社長を差し置いて!」
 言いながら、犬型獣人は私の側に片膝をつく。
「俺はエイロック・ハグオ。よろしくな、琴菜ちゃん」
「は、はい。えっと、ハグオ社長……?」
「え~、そんな他人行儀寂し~ぃ。ダーリンでいいよ」
 ウィンクを決めている彼からは、社長の威厳を感じない。
「社長、琴菜さんを困らせるのはおやめください」
 そう言いながら、眼鏡をかけた黒猫獣人が私に向かって優雅に頭を下げた。
「申し遅れました。私、ハグオ社の経理を務めております、タロク・エセマイズと申します。タロクとお呼びください」
「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます」
 私も慌てて頭を下げる。そして私たちは自然の流れで最後の1人を見やる。皆の注目を浴びたヤモリ型獣人は、気まずげに目を逸らした。
「……シラフェル・スイラルカム。シラフェルでいい」
 不愛想だが、嫌な印象は受けなかった。

(友好的な人たちみたい。連れ去られたりしないのかな?)
 ほっと息をついた私だったが、次の瞬間視界がくるりと回転する。
「え?」
「一応、医者に診せた方がいいだろうな」
 気が付けば、私はエイロックさんに抱えあげられていた。
(えぇえっ!?)
 あまりにも何の抵抗もなく抱きあげられてしまったことに、驚愕する。
(まるで医療リフトだわ!)
「社長さぁ。どさくさ紛れに可愛い子に触れてラッキーなんて思ってないよね?」
「フラウド、お前と一緒にすんな」
「な~んて言ってるけど、油断しないでね琴菜ちゃん。これだからオッサンは」
「オッサン言うな」
 やいのやいのと言い合う二人を微笑ましく思いながらも、私は別のことに感動を覚えていた。
(なんて頑丈な腕。太くて逞しくてがっちりと私を捕えている。それに柔らかさのない筋肉質の胸。低い声。これって、文献で読んだ「男」?)
 長年、資料でしか知らなかった存在の登場に、知らず体が打ち震える。
(若木の様なこの匂い。これは文献に記されていなかった特徴かも。この匂いに、しっかりと固い体。まるで巨木に身を預けているみたい)
「くだらない冗談を言っている場合ですか」
 黒猫のタロクさんが、細くため息をつく。
「こちらの不注意で異星の方に怪我をさせたとなれば、大問題ですよ」
(『異星』……!)
 彼の口にした言葉に、ドキリとなる。やはり彼らは宇宙人、いや異星人なのだ。
「琴菜ちゃん、病院どこ? 医務室でもいいや。このまま運ぶから」
 エイロックさんの声が聞こえる。けれど私の頭の中は、目の前の出来事で飽和状態だった。心臓は限界の動きをしている。
(いたんだ。地球ではとっくに滅んでしまったけど、宇宙にはまだ……)
 行き過ぎた興奮が限界に達してしまったのだろう。
(「男」が存在していた……!)
 脳裏が真っ白に染まり、私は意識を手放した。
「社長、琴菜(ことな)さんの様子が!」
「お、おい、琴菜ちゃん? 失神か、これ? しっかりしろって!」
 その時、機械扉の開く音がした。振り返った四人の目に、何十もの銃口が映る。
「動くな!」
 警備隊長の目が、エイロックの抱えた琴菜を捕らえた。
「その者を降ろせ! そして全員両手を頭の後ろに組んで地に伏せろ!」
「あのっ、ボクたちはあの……」
「言った通りにしろ!!」
 四人は命令通りに琴菜を降ろし、そして地面へ伏せる。駆け寄った警備隊が素早く獣人たちの両手を背後に捻り上げ、電子手枷を取りつけた。




「う……、ん……」
 瞼を開くと、目に映ったのは白い天井とカーテンだった。
(……あ!)
 自然保護区での記憶がよみがえり、私は慌てて身を起こす。
(どうして私、こんなところに? エイロックさんたちは?)
 その時、カーテンがサッと開き、医療スタッフが顔を出した。
「伊部さん、目が覚めたのね」
「あ、あのっ」
「血圧確認するから、もう一度横になって。体温は……、うん、平熱。倒れたって聞いたから、驚いたわよ」
「……倒れた?」
 どこで?
 じゃあ、あれは夢だったのだろうか。空が割れ、そこから宇宙船が現れたのも。獣頭人身の「男」が現れて、私を抱き上げたのも。
(そうよ、夢よね。あんな非現実的な出来事……)
 絶滅種に興味を持ちすぎたあまり、そんな夢まで見るようになってしまったかと、自嘲的に笑う。本当に私は、普通じゃない……。

「伊部さん、眩暈はない? 痛むところは?」
「いえ、特には」
「なら良かったわ」
 医療スタッフはニコニコしながら器具を片付ける。
「でも驚いたでしょ。空から異星の船が降ってくるなんて」
(え!?)
「幸いぶつからなかったから良かったものの、一歩間違えばあなた命を失っていたわ」
 医療スタッフは慣れた手つきで書類を取り出す。
「ショックで気絶したようだけど、特に外傷は見当たらないし、不幸中の幸いと言ったところかしら。でも精密検査をしておくわね。これに目を通してサインをしてくれる?」
「あ、の……」
「そうそう。しばらく自然保護区は立ち入り禁止ですって。あなたよく出入りしていたらしいから伝えておくわね」
(夢じゃない!?)

 私の心臓は早鐘を打ち始める。
「あの……っ」
 カラカラにへばりつく喉に、唾を送り込む。
「獣の頭をした人たちは、今どこに?」
「彼らなら、輝夜(かぐや)様の元へ連行されたわ。取り調べだって」
「!」
 わなわなと手が震える。
(地球上から絶滅した「男」が、今、すぐ近くにいる!)

「伊部さん、今夜は念のためここで休んでね。容体が急変した場合……」
 私は彼女の言葉を最後まで聞かず、ベッドから滑り降り医療ルームを飛び出す。
「伊部さん!? どこへ行くの?」
 背後からの声を振り切り、私はま廊下を走った。


輝夜(かぐや)様の元へ連行されたらしいたけど)
 私は息を切らせ、中央センターへと飛び込む。
(謁見室? 審問室? それとも……)
「ねぇ、見た? 異星人」
 誰かの声が耳に飛び込んできた。
「見た見た、不気味。あれ『男』なんでしょ?」
「!」
 通り過ぎてゆく二人の、今来た方向に目を向ける。
 謁見室の前に人だかりができていた。皆、中に足を踏み入れず、扉の陰から覗き込んでいる。その表情は、見世物を見ている人のものであった。
(あそこだ……!)
 私は謁見室に入ろうとした。けれど幾重にも重なる人垣に阻まれ、前に進めない。
「すみません、通してください!」
「無駄に大きいよね。あの生物、絶対にかさばって邪魔でしょ」
「わかる。それに声、聞いた? 怖いし野蛮」
 大袈裟に身震いする彼女らの横をすり抜ける。
「ねぇ、あいつら『男』なら、足の間にオガエルの総排出腔みたいな器官あるの?」
「キッモ。原始的! もはやエイリアンじゃん! あ、異星人(エイリアン)か」
「すみません、通してください!」
 私は強引に、二人の間に体をねじ込ませた。
「ちょっと、なに?」
 咎める声を聴き流し、私は謁見室へ足を踏み入れた。
(な……!)

「おい! この扱いはどういうこったよ!」
 室内には、見覚えのある四人がいた。ただし服は引き剥がされ、下着一枚の姿にされている。背後に回った両手首には電子手枷が装着されていた。
(エイロックさん! みんな!)

 謁見室の最奥の玉座には、金の縫い取りが見事な赤い衣をまとい、蒼いアイラインを隈取のように施した女性が座っている。壇上より全てを冷たく見下ろす彼女こそ、この世界の頂点に立つ存在、第13代輝夜様だ。
 部屋の壁際には、中央勤務の職員と警備隊がぐるりと立ち並ぶ。皆、一様に、惨めな姿をさらす闖入者たちへ蔑みの目を向けていた。
 四人の虜囚は、可動式の柵で囲まれていた。

「事故ったことは謝ったし、賠償金もきっちり支払うって言ってんだろ!」
 怒りをあらわにしたエイロックさんは、先ほどの雰囲気とはまるで違っていた。壇上の輝夜様をねめつけ、大きく開いた口から鋭い牙を覗かせている。
「いきなりひん剥いて縛り上げて身体検査たぁ、まるっきし犯罪者扱いじゃねぇか!」
「何あれ。野蛮」
 近くから、嘲りの声が聞こえて来た。
「絶対に野放しにしちゃダメな生物でしょ」
 その言葉に、憤りを覚える。
(あんな扱い受ければ、誰だって怒るに決まってる!)
「……ねぇ。伊部だよぉ」
 人混みの中から、よく知る声が聞こえて来た。
(! 池逗さん、それに隣にいるのは千財さん!)
 私と視線が合うと、千財さんは口元を歪めて笑った。
「早速オスのにおいでも嗅ぎつけて来た?」
「……!」

 その時、部屋の中央から声が飛んで来た。
「あんたはさっきの、琴菜ちゃん!」
「! エイロック、さん……」