S級【バッファー】(←不遇職)の俺、結婚を誓い合った【幼馴染】を【勇者】に寝取られた上パーティ追放されてヒキコモリに→金が尽きたので駆け出しの美少女エルフ魔法戦士(←優遇職)を育成して養ってもらいます

「で、ここからが本番なんだけど。近くにアイセルの功績を称えるテーマパークがあるから、ここもテーマパークの一環として宣伝してもらうことにしたらどうかな?」

『宣伝?』

「アイセルが攻略した最新クエストを追体験できる場所。最高位の水の精霊ウンディーネと出会える体験型アトラクション『精霊の森』として売り出すんだ」

『ほぅほぅ、それでそれで?』
 俺の提案を聞いて、ウンディーネがとても興味ありそうに身を乗り出してきた。

「古の盟約はものすごい伝説だと思う。だけど残念ながら古すぎて、それ単体じゃもう宣伝効果がほとんど失われているとも思うんだよ」

『しょぼーん……』

「だからそこにアイセルの知名度を上乗せして、アイセルが攻略した古の盟約を疑似体験できるアトラクションとして、再構築するんだ」

『つまり知名度の相乗効果ってわけね?』

「そういうこと。そうしたら観光客が流れてくるだろうから、ウンディーネたちは訪れた観光客たちに対して、たまにやってたっていう伝説の再現をしてあげてほしいんだよ」

『ふんふん、いいじゃない。悪くないアイデアよ』

「ドリアード達が出てきて、道中でちょっとしたイタズラをするってのもありかもな。そうしたらドリアードたちの認知度も上がって彼女たちの位階が上がるかもだろ? 損する奴はいない、みんなハッピーだ」

 ウンディーネから上意下達で命令されて嫌々やるのと違って、自分の利益にもなるんだからやる気も違ってくるだろう。

『だいたいのことは分かったわ。いい案ね、それで行きましょう』

「ああでも相手は一般人だからな、間違っても怪我はさせるなよ?」

『ちょっと脅かしたりするだけでしょ? 分かってるわよ。あ、それならもういっそのこと危険要素は全部なくして、ウッドゴーレムに乗って精霊の泉まで移動するってのはどう?』

「お、いいんじゃないか? 滅多にお目にかかれないウッドゴーレムに乗れるってのは需要がありそうだし」

『ふふん、我ながらナイスアイデアよね』

「じゃあそういうことで」

『ちょっと待って、その前に』
「どうした、疑問点でもあったか?」

 話をまとめようとした俺を、ウンディーネが呼び止めた。

「疑問点って言うか、あんたたちのメリットは何なの? これじゃあ得するのは私たち精霊だけだよね?』

「俺たちのメリットは特にないかな。強いて言えばアイセルがさらに有名になることだけど、今回は損得抜きで行こうと思ってる」

『その心は?』

「ウンディーネがとても正直で好感が持てたから。俺は正直な相手には誠意をもって対応したいし、せっかく縁ができたんだから、困ってるのなら俺にできることがあればやってあげたいかなって思ってさ」

「わたしもです」
「分かる!」
「アタシ的には、高位の精霊がポイント制でランク付けされてるって裏話を、当の高位の精霊自身から直接聞けただけでも大収穫だしね。これ精霊研究における大発見よ?」

『ううっ! あんたたちってば本当にいい人間といいエルフだったのね……! 私は今モーレツに感動しているわ!』

 ウンディーネが感極まったように言った。

「そりゃ良かった。じゃあさっき提案したので話を持って帰っていいかな? さすがに俺たちの一存では決められないんだけど、アイセル率いるパーティ『アルケイン』直々のお願いなら、観光協会の人もノーとは言わないはずだからある程度期待はしてもらって大丈夫だから」

『よろしく頼むわね! できれば精霊格付け会議の前までに。ちょうど1か月後だから』

「了解だ。じゃあ話もまとまったところで俺たちは帰るか」
『あ、待って』

 帰ろうとした俺たちを、ウンディーネが再び呼び止めてきた。

「ん? 今度はなんだ?」

『ねえそこの一番小さい子』

「ちょっと! 私はもう一人前のレディなんだから!」

『あなた怒りの精霊『フラストレ』の力を使うんでしょ? だったらこれあげるわ』

 ウンディーネはサクラの反論を華麗にスルーすると、泉の中に手を突っ込んだ。
 そして一本のごつい斧を取り出した。

 サクラのバトルアックスと同じで両側に刃がついている戦闘用の斧だ。

「いらないし」

『この斧は――ってなんでさ!? 話くらい聞きなさいよね!?』

「だって私のバトルアックスって中央都で超有名な、現代の名工って言われる凄腕の武器職人が、超希少・超硬金属オリハルコンで2年かけて作った最高傑作だもん」

 へぇ、サクラのバトルアックスってそんなにすごい武器だったのか。

 どうりであれだけブンブン振りまわしてガンガン叩いても、折れたりヒビがいったりしないわけだよ。

『でもこの斧はガングニウム合金製だからオリハルコンよりも硬いし、『精霊攻撃』の威力が2割はアップするわよ?』

「やっぱ欲しい、ちょうだい!」
 サクラがそれはもう綺麗に、クルッと手のひらをひっくり返した。

「現金なやつだなぁ……ちなみにガングニウム合金ってのはなんなんだ? 聞いたことない名前だけど、金属なのか?」

『戦いの神オーディンが絶対に折れない『神槍ガングニル』を作った時に、満足いかずに捨てた失敗作がいくつもあったの。それを打ち直して作ったのがこの斧なのよ。つまり『神槍ガングニル』とほぼ同等の強度を持った金属、それがガングニウム合金ね』

「ぶ――っ!? げほっ、ごほっ――」
 ウンディーネの説明を聞いたシャーリーが、盛大に吹いてから激しくせき込んだ。

「お、おい大丈夫か?」
 俺はシャーリーの背中をそっとさすってあげる。

「ありがとケースケ……ってことは、この斧はもしかしなくても神話級の斧ってこと?」

『まぁそうね』
「そんなものをパッとくれていいの?」

『せっかく精霊の力を使いこなす斧使いがいるんだもの。きっとこの斧は、ここでこの子に渡される運命だったのよ』

「ありがとう精霊さん! 大事にするから!」

 サクラがとても嬉しそうにウンディーネにお礼を言って、今さら返すとかそういう話にはなりそうにはない雰囲気だった。

 しかし『神槍ガングニル』と同等の神話級の斧――ガングニルアックスか。

 アイセルの『魔法剣リヴァイアス』も古代遺跡から出土した最高級の魔法剣だし、俺の『星の聖衣』も現代技術では再現不可能な金属繊維だし、なんか装備面からもSランクパーティ感が増してきたよな。

 シャーリーに至っては世界で唯一の『魔法使い』という、存在自体が伝説級なわけだし。

 ともあれ。
 俺たちは無事に精霊の泉で『古の盟約』を更新し、クエストを完了したのだった。

 また後日聞いた話では。
 体験型アトラクション『精霊の泉』は、アイセルテーマパークの目玉となって大盛況なのだそうだ。

 なにせあのキラキラと輝く泉から現れるウンディーネの姿は、本性さえ知らなければ怖いくらいに神秘的だもんな。

 しかも最高位の水の精霊と絶対に出会えるということで、遠方から名のある貴族や王様までもが足を運んでいるのだとかなんとか。

 そして神々しい水の乙女精霊ウンディーネの名前は、南部諸国連合の外にまで広く知れ渡ったのだった。

―――――――

アイセルのスキルが多くなりすぎてどれが新スキルなのか分からないので、今回から何が増えたかをテキストで明示します!

【ケースケ(バッファー) レベル121】
・スキル
S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』

【アイセル(魔法戦士) レベル56→58】
(アイセルは『オーラ打撃剣術』レベル35を獲得した!)
・スキル
『光学迷彩』レベル28
『気配遮断』レベル28
『索敵』レベル35
『気配察知』レベル56
『追跡』レベル14
『暗視』レベル28
『鍵開け』レベル14
『自動回復』レベル35
『気絶回帰』レベル35
『状態異常耐性』レベル35
『徹夜耐性』レベル35
『耐熱』レベル35
『耐寒』レベル35
『平常心』レベル35
『疲労軽減』レベル56
『筋力強化』レベル56
『体力強化』レベル56
『武器強化』レベル56
『防具強化』レベル56
『居合』レベル56
『縮地』レベル56
『連撃』レベル56
『乱打』レベル56
『武器投擲(とうてき)』レベル56
『連撃乱舞』レベル56
『岩斬り』レベル56
『真剣白刃取り』レベル56
『打撃格闘』レベル56
『当身』レベル56
関節技(サブミッション)』レベル56
『受け流し』レベル56
『防御障壁』レベル35
『クイックステップ』レベル56
『空中ステップ』レベル56
視線誘導(ミスディレクション)』レベル35
『威圧』レベル49
『集中』レベル56
『見切り』レベル56
『直感』レベル56
『心眼』レベル56
『弱点看破』レベル35
『武器破壊』レベル35
『ツボ押し』レベル56
『質量のある残像』レベル35
『火事場の馬鹿力』レベル35
『潜水』レベル28
『《紫電一閃(しでんいっせん)》』レベル56(『会心の一撃』から進化)
『剣気帯刃・オーラブレード』レベル42
『オーラ打撃剣術』レベル35

【サクラ(バーサーカー) レベル51→53】
・スキル
『狂乱』レベル--
『自己再生』レベル--
『疲労軽減』レベル--
『筋力強化』レベル--
『体力強化』レベル--
『会心の一撃』レベル--
『武器投擲(とうてき)』レベル--
『精霊攻撃』レベル--

(注:バーサーカーの戦闘スキルは全て怒りの精霊『フラストレ』の力を借りるため、通常のスキルレベルとは完全に切り離されています)

【シャーリー(魔法使い) レベル109】
・スキル
『魔法』レベル105
『魔力変換』レベル105
『集中』レベル105
『疲労軽減』レベル35
『体力強化』レベル35
『筋力強化』レベル35
『武器強化』レベル35
『防具強化』レベル35
『自動回復』レベル35
『徹夜耐性』レベル35
『杖術』レベル35

・作中で使用した魔法
『極光殲滅魔法、オーロラ・ボルテクス・エクスキューション』
『装備魔法、ライトニング・クロス』
『狙撃魔法、ライトニング・ボウ』
 『精霊の泉』でウンディーネと古の盟約を交わすクエスト無事に終えた俺たちは、クエスト完了を冒険者ギルドに報告した。

 さらに半月の休養をとってしっかりと疲れを取った後、シャーリーのお父さんから出されていたクエストの最後の一つに取り掛かることにした。

 もちろん戦闘ではからっきし役に立たない俺は、パーティ『アルケイン』のみんなが休んでいる間に、資料集めやら情報収集やらで毎日駆けずり回っていたわけなんだけど。

 それはそれとして。

「これからシャーリーのお父さんが出してきたクエストの最後の1つに挑む」

 俺は屋敷(サクラがくれた、ハウスキーパー常駐のお屋敷ね)の居間にパーティの面々を集めると、クエストの詳細な説明を始めた。

1.レッサードラゴンの巨大な群れの討伐
2.盗掘によって蘇ったアンデット傭兵王グレタの鎮魂
3.最上位の水の精霊ウンディーネとの古の盟約の更新

 とクリアしてきてこれで4つめ、文字通りに最後だ。

 これまでのクエストはどれもこれもSランクパーティでも手を焼く高難度クエストばかりだった。

 伝説の傭兵王グレタとの戦いでは敵陣中央に誘い込まれた上に、接近戦では向かうところ敵なしだったアイセルが簡単に突破されて俺が接近戦に持ち込まれてしまい、あわや死にかけたし。

 『古の盟約』の更新ではウンディーネ配下のドリアードやウッドゴーレムたちと、激しい頭脳戦をやったりもした。

 でもそれも次で終わり、ついに最後の一つだ。

「最後はどんなクエストなんでしょうか?」

 いつものようにパーティのエースたるアイセルが、手を挙げながら真面目な顔をして尋ねてくる。

「南部諸国連合の東端にあるフルムント王国。その山奥にある2500メートル級の岩山の山頂付近に、謎の神殿遺跡が見つかったらしい。そこの調査をしろってことみたいだな」

「えーと、古代研究の専門家ではなく、冒険者のわたしたちが遺跡調査ですか? 専門家の護衛任務ならまだしも、それはどうなんでしょうか?」

 アイセルが不思議そうな顔を見せる。

「なんでも場所が場所なんで訓練を受けていない調査員を向かわせるのはちょっと厳しいみたいだな。目的の神殿がある山は、かなり険しい山岳地帯の奥の方にあるらしいから。だから代わりに俺たちが探索から調査まで全部行うんだ」

「はぁ……、ですが調査といっても古代文明については、シャーリーさん以外はみんな素人ですよ? 雑学王のケースケ様はそれなりには詳しいかもですけど」

 俺の説明を聞いてもアイセルはイマイチ腑に落ちないようだった。

 そんなアイセルに、

「むぐむぐ……ごくん。そりゃあれでしょ? シャーリーのパパさんが絶対に攻略できないクエストを用意してたってことでしょ? まったく超がつく親バカよね! シャーリーは美人だから心配するのも仕方ないけど!」

 俺がその辺りのことをマイルドに説明しようと口を開く前に、最近この辺りでも販売されるようになった『元気印のアイセルまん』を食べながらのサクラが、ズケズケあっけらかんと言って、

「ま、パパのことだから間違いなくそういうつもりでしょうね。『どうだ、攻略できるものなら攻略してみろ!』ってドヤ顔で言ってる顔が目に浮かんでくるわ」

 今回の件の中心人物である当のシャーリーも苦笑いをする。

「まぁシャーリーのお父さんは俺とシャーリーの仲を引き裂くのが目的だし、なにせやり手のギルドマスターだ。当然最後には絶対無理ってレベルの超高難度クエストを用意してるよな。さすがにここまできついのは予想していなかったけど」

「それに場所の問題だけじゃなくて、何の古代遺跡かも分からない以上、どんな危険が待ち受けているかも分からないですもんね」

 これまでいくつもの高難度のクエストに挑み実戦経験を重ねてきたアイセルは、今回のクエストにはなんとも納得がいかないみたいだ。

 話を聞いてからずっとアイセルは思案顔をしている。

 もちろんいい傾向だ。

 これまでのいろんな経験がアイセルの中に正しく蓄積されて、どんな問題があるのかをパッと感じ取れるようになった証拠だから。

「確かに、中にヤバいのが封印されてでもいたら、まずいもんなぁ」

 ついこの間だって古代遺跡に踏み入ったせいで、レインボードラゴンなんていう最上位ランクの魔獣と遭遇戦でやり合う羽目になったわけだし。

「せめて祭っている系統だけでも大まかに分かればいいんだけどね。古代の神様とか、高位の精霊とかドラゴンとか。そういうのがある程度分かっていれば、少しは気休めにもなるでしょうし」

「さすがにドラゴンは出ないにしても、精霊がらみだとまたウンディーネみたいな最上位の精霊がいるかもしれないんだよなぁ」

「ねぇねぇケイスケ。最上位精霊って前のウンディーネみたいなアホの子なんでしょ? だったらそんな警戒しなくてもいいんじゃないの?」

「アホの子とか言ってやるな。確かにウンディーネはやたらと人間に対して好意的でフレンドリーだったけど、アレはあくまで例外だ」

「あ、例外なんだ」

「普通は数千年も生きている最上位精霊ともなれば、人間を下に見ていることが圧倒的に多いんだよ。人間がテリトリーに入っただけで容赦なく攻撃してきたりな。ってわけでアレと同じに考えるのは絶対ダメだからな、気を付けるんだぞサクラ」

「はーい! っていうかケイスケもウンディーネのことを『アレ』とか言ってんじゃん?」

「ご、ごめん、つい口が滑ってしまって……」

 くっ、パーティでは一番の年長者たる俺としたことが、敬意と崇拝の対象たる最上位精霊ウンディーネをアレ呼ばわりしてしまうなんて。

 しかもそれを最年少のサクラに指摘されちゃうし。

「もうケースケ様ったら、ウンディーネが聞いたら怒って『古の盟約』を破棄するぞーとか言われちゃいますよ?」

 アイセルがそんな俺をやんわりとたしなめてくる。

「いやでもな? 俺が古い書物で見知った最上位精霊って、どれもこれももっと気難しくて好戦的で、人間やエルフなんてその辺の石ころとも思ってないようなのばっかりだったんだよ」

 気難しい上に好戦的で、神殺しの魔神とまで呼ばれた炎の最高位精霊イフリートなんかはその最たる例だ。
 イフリートの怒りを買ってしまい、跡形もなく滅びた古代都市の話もあるくらいで。

「人間を石ころだなんて。またまたケイスケってば私を騙そうとしてるでしょ」

「なんで俺がサクラを騙そうとする必要があるんだよ。真面目な話、ウンディーネを見て最上位精霊に対して持っていたイメージが一番崩れて悲しかったのは、俺なんだからな?」

「あははは……。色んな人がいるように、最高位精霊にもいろんな精霊がいるということですね」

「お、アイセル。上手いことまとめたな」

「ではまとめついでに、前回のクエストの体験に引っ張られることなく、しっかりと気を引き締めてクエスト完遂を目指して頑張りましょう!」

 これまたいつの間にかすっかり板についた様子で、俺の代わりにパーティ全体の意思統一を行ってくれるアイセル。

「そうだな」

 アイセルの成長を肌で感じながら、俺もクエストに向けて心を引き締めていった。

「がんばろー!」
「そうね、頑張って攻略してパパにケースケのことを認めさせないと」

 サクラとシャーリーも気合十分といった様子で、リーダーの俺としてもみんなのモチベーションが高くて一安心だった。

 ほんといいパーティだな、『アルケイン』は。

「まぁ幸いなことに、今は冒険者でありながら古代研究の専門家でもあるシャーリーがいるわけだろ? そういう意味では、パーティ『アルケイン』にはうってつけのクエストって言えるかもだ」

「逆に言えば、古代文明の専門家でかつ凄腕の冒険者であるシャーリーさんがいなければ絶対に無理なクエストですよね」

「うんうん。古代の知識がなければ、遺跡まで行ったところで調査しようがないもんね! 逆にただの研究者なら危険すぎて行かせられないんだし」

 シャーリーのお父さん的には、シャーリーが俺たちとパーティを組んでるとは夢にも思ってなくて、だからこのクエストを最後の手段として自信満々で用意していたんだろう。

 もちろん攻略可能性がほぼない分不相応なクエストをパーティに割り振るのは、ギルドマスターとしては本来あってはならない行動だ。

 俺が告発でもすれば、ギルドマスターとしての地位も名誉も吹っ飛ぶのは間違いない。

 でもシャーリーのお父さんの場合、娘のためならギルドマスターの地位や名誉なんか平気で捨てる気だろうからなぁ。
 俺が告発しないであろうことも当然見抜いているだろうし。

 シャーリーのお父さんが失脚すれば、当然シャーリーも大きな影響を受ける。

 酸いも甘いも噛み締めてきた元Sランク冒険者にして、凄腕のギルドマスターだ。
 俺の性格的にそれをよしとしない事を見抜くなんて、それこそ朝飯前だろう。

 俺はその手のひらの上で転がされながら、しかし最後のクエストを完了して一泡吹かせてやることしかできないのだ。

 なんてことを考えていると、

「はいはいケイスケしつもーん! なんでそんな辺鄙(へんぴ)なところに神殿なんて見つかったの?」

 サクラが元気よく手を挙げた。

「それについては詳しくは書いてなかったな。でもこんな山頂に普通は人は行かないだろうから、猟師がたまたま見かけたとかじゃないか?」

「たまたま~?」

 その答えに納得できなかったのか、サクラが「はぁ?」って顔で俺を見つめる。

「稀によくある話なんだよ。がけ崩れとかがあって古代遺跡がひょっこり顔を出したのを、近隣住民や通行人が見つけるっていうのは」

「ふーん、そうなんだね。さすがケイスケ、どうでもいいことをホントよく知ってるよね!」

「お前は本っ当に言い方ってもんを考えろよな?」

「えっ、褒めてるのに!?」

「はいはい、サクラは根っからの正直者だよな。実のところ、俺はそんなサクラが嫌いじゃないぞ。これからもサクラは誰よりも素直でいてくれよな」

 今日も今日とて行われるサクラとの変わらないやり取り。
 でも最近ではそれが少し楽しくなっていることに俺は気付いていた。

 なんだかんだでサクラが正直な性格をしているのは間違いなくて、アイセルやシャーリーなら黙っておくようなことも平気でずけずけと言ってくる。

 でもそんな裏表がないサクラだからこそ、俺もあれこれ考えて話さなくていいから楽なんだよな。
 サクラと話していると、リーダーとしての役目を考えなくてもいいっていうか。

 なんていうか、すごく自然体でいられるんだ。

「むむむっ! ケースケ様とサクラがなんだか妙に仲良さげです!」

「ははっ、別にサクラとはそんなんじゃないから安心しろアイセル。サクラはあれだな、どっちかって言うとちょっとませた妹みたいな感じだから」

「ませた妹違うし! わたしはもう十分立派なレディだもん! 訂正してよね!」

「うんうんそうだな。ごめんな、サクラはどこに出しても恥ずかしくない立派なレディだよな。今のは俺が悪かったよ」

「ちょっとケイスケ! 生暖かい目をしながら『しゃーないな、ここは年長の俺が折れてやるか……』みたいに言わないでくれる? 失礼しちゃうわね、もう!」

「いやいやそんなこと全然してないから。な、俺が悪かったから機嫌直せよ?」

「そのやたらと優しい言い方が、もろに子ども扱いしてるってーの! ふーんだ!」

「ううっ、やっぱり2人は仲良しです……」

「はいはい、ケースケの取り合いはその辺にしておきましょう。今はクエストの話なんだからね」

 完全に話が脱線しちゃっているのを見かねたシャーリーが苦笑しながら、パンパンと軽く手を叩いて話の流れを軌道修正した。

「はーい!」
「はい」

 シャーリー先生のお言葉を聞いて、サクラとアイセルが素直に頷く。

 ほんと今のパーティ『アルケイン』は本当にいい関係だよな。

「ケースケもあまり話を脱線しないようにね」

「え、俺のせいなのかよ?」

「少なくとも話の中心はケースケだったわけでしょ? 言ってみれば、普段の行いの結果が今出たのね」

「へいへいすんませんでした。じゃあクエストの話を続けるな」

 まぁそれでパーティがまとまるんなら、俺のせいでも別にいいっちゃいいんだけどさ?
 せっかく話も落ち着いたわけで、真面目な話をするにしよう。

「でもケースケ様、今回のクエストは山岳地帯の奥にある標高2500メートルの山の上ですよね? となるとわたしたち冒険者でも登るのは少し大変そうです」

「私は平気よ!」

「バーサーカーの力を使いこなせるようになったサクラはそりゃ平気だろうよ。でもこういうところに行くとなると、アイセルの言うとおり俺が足を引っ張りまくるんだよなぁ」

 2000メートルを超える山登りのようなハードな移動が必要な時に、ありえないほど足を引っ張ってしまうのが、基礎スキルとも言われる『体力強化』『疲労軽減』すら持たない最不遇職バッファーだった。

 バッファーは移動力に関しても全職業中で断トツでぶっちぎりの最低ランクだ。

「ま、そこはみんなで補っていきましょ。なにせアタシたちはパーティなんだから。助け合ってなんぼだもの」

「ですね! それに今回も、クエストの事前情報集めはケイスケ様が一手に引き受けてくれていたんですから。ケースケ様抜きではパーティ『アルケイン』は成り立ちませんよ」

「だよね、私もそう思う! 情報集めとか何したらいいかよくわかんないもん。ケイスケには感謝してるんだから!」

「シャーリー、アイセル、サクラ……みんな本当にありがとう……」

 俺は心の中が優しい温もりで満たされていくのを感じていた。


 その後、山のふもとにある村までは馬車で行って、そこで山登りのルートを最終確認する――とかそういうことを話し合い、作戦会議は終了となった。

 あとはしっかりと準備を整えて、シャーリーのお父さんが出した最後のクエストに旅立つだけだ。
 最後のクエストの出発前日。

「あれ? ケースケ様、買い物でも行くんですか? それともまたクエストの資料集めですか?」

 俺が拠点の屋敷から外に出ようとすると、玄関でちょうどどこかへ出かけようとしているアイセルと鉢合わせた。

「いや、さすがに資料集めはもう終わってるよ。念のためもう一回一通り読み込んで頭の中を整理してたんだけど、ちょっと気分転換もかねて外の空気でも吸いに行こうかなって思ってさ。ちょうど行ってみたい所もあったし。アイセルは買い物か?」

「わたしも荷作りが終わったので、街でもぶらついて気分をリフレッシュしておこうかなぁと思いまして。あのケースケ様、その行ってみたい所にわたしもご一緒してもよろしいでしょうか?」

「もちろんいいけど、別に楽しいところに行くわけじゃないぞ? すぐそこの寺院に行くだけだし」

「ケースケ様が寺院に行くなんて珍しいですね?」

 アイセルが「おや?」という顔をした。

「ん、そうか?」

「だってケースケ様ってあまり神様とか信じてないタイプですよね?」

「いや、神様はいるんだろうなくらいには信じているぞ?」

「あ、そうなんですね。ちょっと意外です。もっとリアリストなのかと思っていました」

「なんて言うのかな、神様はいるとは思っているんだよ。でも特に人を助けてくれるような存在だとは思っていないかな」

「えーと、つまり神様は冷たい存在だってことでしょうか?」

「冷たいっていうか、神様だって世の中のことに何でも首を突っ込むほど暇じゃないだろうし、地上のことはやっぱり地上に住んでいる俺たちが自分たちの手でどうにかしないといけないんだろうなって感じで思ってる」

「ふむふむ、そういう理解の仕方ですか。納得です。存在は信じていても、御利益なんかはないと思っているわけですね」

「そういうことだな」

「あれ? ではケースケ様は今日は何をしに寺院に行くんでしょうか?」

「ほら、今回のクエストはいつになく難易度が高いだろ? だから気分転換ついでにダメ元で神頼みでもしに行こうかなって思ってさ」

「つまり効果は無くて元々、あったらラッキー。気分転換ついでにちょっと寄ってみるか、くらいの感じですね?」

「さすがアイセル、理解が早いな」

「えへへ、ありがとうございます……」

 俺がそっと優しく頭を撫でてやると、アイセルが嬉しそうにはにかんだ。
 その心からの笑顔を見ていると、俺の心も幸せな気持ちで満たされていくのがわかる。

「それに今回は高い山に登るからさ。神頼みでもいいから、頼むから雪は降らないで欲しいなって思ったんだよな」

 言いながら、俺はかつて勇者パーティ時代に経験したとても辛い過去の記憶を思い出してしまっていた。

「あの、なんだか声がすごく切実な気がするんですけど、雪は嫌いなんですか?」

 アイセルが心配そうに尋ねてくる。

「昔さ、勇者パーティ時代なんだけど、山登り中に季節外れの大雪に降られたことがあったんだよ」

「わわっ、それは大変でしたね」

「そうなんだよ、ほんと大変だったんだよ。猛吹雪で真っ白になって視界はほとんどないし、方向感覚もなくなるし。あの時は寒さと疲労でマジで死ぬと思ったからな。あれ以来、俺は雪山にだけは絶対に登りたくないと思っているんだ」

「そ、そうでしたか……でしたら尚更わたしもご一緒します! 1人より2人の方が神頼みもきっと効果があるはずですから」

 アイセルが胸の前で両手をぎゅっと握って頑張りますのポーズをした。

 そのとても愛らしい姿を見て、寒くて辛かった冬山の記憶を思い出してどんよりしていた俺の心も、すぐにほわほわほっこり回復する。

「そうだよな、2人で頼んだ方が聞いてくれる可能性もきっと上がるよな。じゃあ一緒に神頼みに行くか」

「はい!」

 そんな風に玄関でアイセルととりとめもない話をしていると、

「あ、だったら私も行くし!」

 サクラが元気よくやってきた。
 その隣にはシャーリーもいて、苦笑いしながらぐいぐいとサクラに手を引かれている。
 その姿を見てなんとなく、年の離れた姉と妹のようだと思ってしまった。
「その様子だと、2人もどこかに出かける予定だったのか?」

「アイセルさんとシャーリーを誘ってご飯でも食べに行こうかなって思ってたの。でもせっかくだしケイスケも入れて全員でお寺に行って、その後みんなでご飯しようよ? クエストに向けての決起集会的な?」

「……なんで最初は俺がハブられてたんだ? 新手のいじめかよ? いい加減泣くぞ?」

「やーね、ケイスケが部屋にこもってなんか一生懸命やってるから、邪魔しないように気を使ってあげたんじゃない。失礼しちゃうわ! 後で差し入れ持って行ってあげようと思ってたのに」

「ごめん、今のは俺が全面的に悪かった。サクラって空気が読めないようで、ほんと気が利くよな。ごめんな、それと気を使ってくれてありがとう」

「当然でしょ、私は大人のレディだもん」

「ははっ、そうだったな。偉いぞサクラ」

 さっきアイセルにしたようにサクラの頭を優しく撫でてやると、

「だから子ども扱いしないでってば!」

 サクラはプイっと顔を背けてしまう。

 でも撫でる手が跳ねのけられることもなく、なんとなく嬉しそうな表情に見えなくもないので、言うほど嫌ってわけじゃないのかな?

 俺はサクラの機嫌が治るまでしばらく頭を撫で続けあげた。

「もう、さっきからサクラばっかりずるいです」

 さらに途中でアイセルも参戦してきて、俺は右手でサクラ、左手でアイセルの頭を撫でることになってしまう。

「はいはい、ここでいつまでも頭を撫でているのもなんだし、まずは4人で神様にお願いに行きましょう。それでそれからご飯にしましょう」

 最終的にシャーリーがいい感じにまとめてくれて、俺たちはパーティ『アルケイン』全員でこの町にある唯一の寺院へと足を運んだ。




「ここって二大主神のオルディンとアテナイを祭っている寺院ですよね?」

 アイセルの言ったとおりで、俺たちがやって来たのはどこの町にも一つはある二大主神を祭る寺院だった。

「ねえねえケイスケ、今さらなんだけど私たちがオルディンやアテナイに祈っていいの? だって私たち冒険者はみんな、冒険の神ミトラの信徒な訳でしょ? 一応」

 着いて早々、サクラが少し不安そうに聞いてくる。

「まぁ形の上ではそうだな、一応。ただ実際のところは、冒険者のほとんどは普段から積極的にミトラ神に祈ったりすることはない、どころかほぼ意識はしていないだろうけど」

 かくいう俺も、ミトラ神に祈ったり特別に何か宗教的行為をしたりするすることはほぼない。
 パーティを組む時の誓約、その時にその存在を意識するくらいだろうか。

「じゃあじゃあ、一応でも信徒なら別の神様にお願いしたら怒られるんじゃないのかな?」

「どうなんだろうな? 俺は専門じゃないから詳しくは分からないけど……シャーリー、どうなんだその辺?」

「アタシも神学は専門じゃないからはっきりとは言えないけど、オルディンやアテナイは主神で、ミトラから見たら格上にあたるから大丈夫じゃない?」

「大丈夫だってよ、サクラ」

「さすが神様、心が広いわね!」

「まぁ宗派の違いについては置いといてだ。実はこっちに小さな(やしろ)があるんだよ」

 そう言うと、俺はみんなを寺院の敷地のすみっこにポツンと立っている小さな神殿へと案内した。

「ふーん、なにここ。えらく小さいんだけど掃除用具入れ?」

 ついて早々、サクラが若干不敬なことを言ってくる。

「お前はほんと正直だな……こう見えてここも神殿なんだよ」

「だって向こうの神殿はでっかいのに、こっちはメチャクチャちっちゃいじゃん! 賽銭箱だってないし、なにここ超貧乏くさいし! どうせ神頼みするならあっちでしようよ?」

「貧乏くさいとか言うな。あくまでここの寺院のメインは二大主神のオルディンとアテナイなんだ。それでこっちはおまけみたいなもんらしい。ほら一番奥にちゃんと小さな神像があるだろ?」

 言いながら、俺は薄暗い奥に安置されている神像を手で指し示した。

「あれ、これって――」
 それを見たアイセルが何かに気付いたように言って、

「へぇ、冒険の神ミトラじゃない、珍しいわね」
 シャーリーが少し驚いたように目を見張った。

「そうだ、ここに祭られているのは冒険の神ミトラなんだ」

「つまりケースケ様は冒険の神ミトラに神頼みにきたというわけですね?」

「そういうこと」

「へー、ここって冒険の神ミトラの神殿なんだ。でもやっぱりウサギ小屋みたいに小さいよね。あははっ、ウケる!」

「だからウサギ小屋とか言うなっての」

「だって事実だし」

「ま、冒険の神だけあってミトラ神を信仰しているのはほとんど冒険者だけに限られているからな。冒険者の人口割合を考えればまぁこんなもんだろ?」

 ついでに言うと冒険者はお布施とか浄財とか、そういう宗教的金銭支援をほとんどしないからな。
 そもそも金持ちもあまり多くはないし。

 そして先立つものないと寺院も運営ができないわけで、それを考えればこの寺院はむしろ小さいとはいえよく実入りの少ないミトラ神の神殿を置いてくれているって話である。

「でもここにミトラの神殿があるってよくケースケは知ってたわね?」

「この前、傭兵王グレタのクエストの時に、墓荒らしにあった墓の主が誰なのか調べていたんだけどさ」

「あの時は蘇った傭兵王グレタを相手に大苦戦していたのを、ケースケ様がグレタを倒してパーティの皆を救ってくれたんですよね!」

「いや、そんな大層なもんじゃなかったと思うんだけど……」

「またまた御謙遜を」

 アイセルはそう言うけど、あれは本当にただの結果オーライだった。

 ゴースト系には塩が効くって聞いて撒いてみたんだけど、さっぱり効果がなかったうえに、塩袋ごとあわや斬られて殺されそうになり。
 でも斬られた塩袋からこぼれた大量の塩を、傭兵王グレタが踏んで勝手にこけてくれて、それで頭を打って成仏しただけだ。

 そんな俺の恥ずかしい戦いっぷりが、アイセルの中ではそんな風に美化されていたなんて、もはや驚きを通り越して怖いまである……。

「まぁそれはそれとして話を戻すんだけど。その時に、昔から埋葬に関わっている地元の寺院なら何か分かるかもって思ってここに来たんだよ。残念ながら特に参考になる資料はなかったんだけど、その時に神官長の人にミトラ神の小さな神殿があるって教えてもらったんだ」

「そうだったんですね、納得です」

「ってわけで俺は今から冒険の神ミトラにお願いをする。せっかくだしみんなも祈っておこうぜ。せっかくここまで来たんだ、祈るだけならタダだしな」

 俺はそう言うと目をつぶって手を合わせ、心の中で切実にお願いをした。

 偉大なる冒険の神ミトラよ、お願いなのでどうか雪だけは勘弁してください。
 もうあんな思いをするのは嫌なんです。
 あと、できれば雨もやめて欲しいです。
 なにとぞ晴天をお願いします。
 この願い、どうかお聞き届けください……


 その後。
 俺たち4人は町でご飯を食べて、明日のクエスト出発に向けて英気を養った。

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