「これ以上我に近づくな、下がれ」

 しかし、美しい男から発せられた言葉は非情だった。

「それに『贄』だと? 我は最初から『贄』など求めておらん。我が『妻』となる『花嫁』を求めていた。……なのに、どこで意味を取り違えたのか『贄』などと……」

「まあ、それは大変な失礼を……っ! 父はわたくしめが大切だと、妾腹の妹を差し出しましたの。ご迷惑をおかけしました。でももうこうして誤解が解けたのですから、本来のやり方にしたがって本家のわたくしが貴男さまに嫁ぎます。正しい血筋で行わなければなりませんよね」

 美月も引き下がらない。
 ここで白花と交代してもらえれば、自分は『神の花嫁』だ。

 突然現れた上にこの世の者とは思えない容姿に纏う空気。
 たとえ『神』でなかろうとも『妖し者』でもどうでもいい。

(私はこの男がいい。ほしい……! この美しい人こそ、私の伴侶に相応しい)

 こうして戸惑った顔をしながら後ろに下がっていく姿も麗しい。
(女性に近づかれるだけで恥ずかしがるなんて――なんて可愛らしいところがあるのかしら)

 うっとりとしながら荒日佐彦に寄り添おうとする。
 あとは腕に絡みついて胸でも当てれば、どの男もあっという間に自分に夢中になった。

「――来るな、お前は臭うし邪気まで纏っている。しかも馴れ馴れしい、不愉快だ」

 しかし荒日佐彦に冷ややかに手を払われ、近づくことを拒絶されてしまう。
 それだけでも矜持が傷つけられたのに、続いた言葉に美月は更に傷つく。

「こっちが呆れるほど、ほらふきな女だな。しかも、自分の都合のいいように話すから、内容がコロコロ変わって支離滅裂だ。よくこれで人として生きてこられたものだ」

「……なっ! し、失礼な……っ!」
 体を震わせ涙目になって怒り始めた美月を、宮司と白花が荒日佐彦から引き離した。

 はっきり性分を否定されてこなかった美月にとって、最大級の屈辱な言葉だった。
 宮司と白花を振り払い、怒りを乗せて荒日佐彦に突っかかっていく。

「私を誰だと思っているの!? 私は槙山家の長女、美月よ! 帝国で高名な鷹司家に嫁にいくのよ!」
「先ほど、婚約解消をされたといっていなかったか?」
「まだよ! まだ! だからこうして私と妹の交換を提案しているのでしょう!」

 キーキーと甲高い声を上げ、腕を上下に振って荒ぶる美月を宮司と今度は勇が押さえ込んだ。
 こうなると、興奮して歯止めが利かなくなるのをよく知っているからだ。