「文献や写真でみる白人と少々違うみたいだ。そうだ、家に連れて帰ろう! 我が家の医師たちに見せて診させて、その報告書を世界中に発表するんだよ! なあ、勇。そうしたら君の妹君が白人である原因が掴めるし、世界中の白人たちの研究だって進む。だって陽に当たっても元気でいるんだ! いい考えだろう?」

「……慶悟、僕は賛成できない」

 美月は勇の反対に便乗して声を上げた。
「そうよ! 絶対に嫌! どうして結婚しても、こんな出来損ないと一緒に鷹司家で生活しないといけないの? それにこの女は淫女です。一緒に住んだら慶悟様だけでなく屋敷で働いている男たちを誘惑して、きっと争いの元になります!」

「? さっきと話が違うんじゃないか? 白人の妹は色惚けした宮司に拐かされて情婦になったんだろう? それを憂いていたと。なら宮司から引き離した方がいいじゃないか」
「……っ! そ、それは……」
 勇に冷たい視線で蔑まれ、美月は肩をすぼめて口を噤んでしまった。

「まあいいや。ねえ、君。名前はなんて言うの? ああ、僕から名乗らなくては紳士らしくないね。僕は鷹司慶悟。君の兄の勇とは親友でね。少しは話を聞いているよね?」
「……はい」

 そうだ。
 勇は帝都の大学に宿舎を借りて通って、そこで鷹司財閥の息子と知り合って交流を深めていったと聞いた。
 冷静で物静かな勇と、対照的だと思う。

 よく言えば明るくて雄弁で朗らかだ。
 悪く言えば周囲を読まない、空回りした明るさがある。
 思ったことを取捨選択せずに喋る、小さな男の子を相手に話しているような錯覚に陥る。

「で、君の名前は?」
「白花、と申します」
「きよか、どんな漢字かな?」
「白い花、と書いて白花です」

 ヒューッと慶悟が口笛を鳴らす。
「センスあるなぁ。君の容姿にぴったりだ。あ、『センス』ってね、表現方法が優れてる、素敵だって意味だよ。父君がお付けになったのかな?」

「……いえ」
 御祭神である荒日佐彦様に付けていただいたと言っても、ここにいる誰もが信じやしないだろう。

「じゃあ、誰だろう? 母君?」
 答えようもないので白花は黙って視線を逸らした。

 とにかく、いまこうして和気藹々としている場合ではない。
「私はここで失礼して、宮司様含む神社の関係者の方の手当をしたいと思います」

 そう言い、頭を下げ慶悟の前から去ろうとしたが、彼は白花の手を掴んで放そうとしなかった。
「ええ~、駄目だよ。僕は君ともっと話がしたいんだ。怪我人は美月たちに任せて白花は僕と一緒にいよう」

 慶悟の発言に白花だけでなく、美月や勇、義母も驚き一斉に引き止める。
「止めて! そんな子、放っておいてください! その子嘘つきなのよ? 名前だって白花じゃないんです。本当の名は『うさぎ』なんですから!」

「うさぎ? そうなの?」
 きょとんとした顔で尋ねてくる慶悟に白花は、
「以前はそう呼ばれていました。『白花』は、高貴な方が名付けてくださった名前なんです」
 と答えつつ、慶悟の手を振り払おうとする。

 けれど、彼の手は吸い付くように自分の手を掴んでいる。
 それどころかますます囚われて、腰まで掴まれて胸元まで引き寄せられてしまう。

「お放しください……! どうか……!」
「慶悟様! そんな女、どこかへやってしまって!」
「慶悟、止めろ。放すんだ」

 三人に詰め寄られ慶悟はムッとした顔になる。
 その様子も頬を膨らませ、本当に子供のようだ。

「なんだよ、白花も美月も勇も……母親違いの妹だって僕は気にしないよ」

 隠していた事実を述べられて、美月、勇、義母が驚き、声を失った。
 慶悟は「はぁ」と肩を揺らし、言葉を続けた。

「君の妹君と結婚して一族の中に入るんだ。事前に身辺調査くらいしている。鷹司家として、していない方がおかしい」

「……そうか。しかしその娘はもう慶悟さんに不向きです」

 後からやってきた勇蔵が、そう慶悟に諭す。