◇
「というわけで、私が勇者になってしまいました」
ミスティが申し訳なさそうにぺこんと頭を下げた。
決戦の翌々日、場所は王宮の俺の部屋でのことだった。
あの後。
意識を失ってから丸二日も眠り続けていた俺が目を覚ましたと聞いて、幼女魔王さまとミスティが俺の部屋にやってきた。
そして俺がすっかり元気になったことを確認すると、大事な話があると告げられた。
そして俺は、ミスティが聖剣に選ばれて新たな勇者となったことを知ったのだ。
なんでも俺が意識を失っていた間。
幼女魔王さまたちは残存兵力を再編成したり、リーラシア帝国へ仔細を伝え、和議を結ぶべく急使を派遣するなど、諸々の後始末をしていたらしいんだけど。
あれこれやっているうちに、持ち主を失った聖剣が急に光りはじめ、その光がミスティを指し示したのだという。
よくわからないままミスティが聖剣を握ったところ、次の勇者に指名する神託が降りてきたらしい。
「まさか人間族にしかなれない勇者に、エルフが選ばれるとはのぅ」
幼女魔王さまが思案顔を見せる。
「ハーフエルフは人間族の血も混じっていると考えれば、絶対にありえないってわけではない……のかな?」
俺もなんとも言葉に困っていた。
「あまりに突飛で想像もしていなかったことだったので、もう困惑しかありません……」
でも当のミスティが一番困っていた。
「リーラシア帝国も不承不承じゃが、とりあえず今のところは文句は言ってきておらぬの」
「そもそも聖剣は、リーラシア帝国の持ち物ってわけでもないしな。ここ5代くらい続けてリーラシア帝国から勇者が出ているから、半分所有物みたいになっちゃってるけど」
聖剣は人類の最終兵器だ。
根本的に、一国が独占できるものではない。
「しかも正当な持ち主以外が抜こうとするとその身を焼かれる、勇者専用の武器じゃからの。これほど証明が簡単なものはないじゃろうて」
「ミスティが聖剣を抜けることが、そのまま勇者であることの証明だもんな」
「でもどうしましょう? ハルト様。そもそも勇者というのは、何をすればいいんでしょうか? 元・勇者パーティの先達として是非ともアドバイスなどを頂ければ」
ミスティが困り顔をしながら、元・勇者パーティメンバーの俺に尋ねてくる。
「そうだな……基本的には勇者の神託だな。俺が知る限りでは、あーしろこーしろって神託が勝手に降りてくるみたいだったけど。ミスティに、何かそういうのはなかったか?」
「勇者に選ばれた時に聞いたあとは、今のところは特にないですね」
「そっかぁ。それとやっぱり勇者パーティの結成だな」
伝統的に、勇者は信頼のおける仲間とともに勇者パーティを作るのだ。
「勇者パーティですか……」
言って、ミスティが俺と幼女魔王さまの顔を見た。
その意図するところは――、
「当面のメンバーは勇者ミスティ、精霊騎士の俺、そして精霊魔王さまでいいと思うぞ」
「これは強そうなパーティですね!」
ミスティはにっこり笑顔でそう言ったんだけど、
「あの? 妾だけ明らかに名前負けしていて、超へっぽこなメンバーなのじゃが? あの後、期待を胸に何度も精霊に呼びかけてみたのじゃが、【火トカゲ】以外話を聞いてくれんし……」
それとは対照的に、幼女魔王さまはションボリ顔で小さくつぶやく。
「そこはそれ、将来性に期待ってことで。それにあれだけ大変な思いをしたんだ。しばらく勇者パーティと言いつつ、今までみたいにスローライフを堪能しても罰は当たらないだろ? 俺はゲーゲンパレスで――魔王さまとミスティから、もっといろんなことを学びたいんだ」
「うむうむ。そうであるか」
「分かりました。ではハルト様も思った以上に元気なご様子ですので、景気づけに今から早速街に行きませんか?」
「そういえば、今日はちょうど『麺フェス』の日じゃったの。快気祝いにはちょうどよいのう」
「メンフィス? たしかリーラシア帝国の大昔の首都が、そんな名前だったような? 前首都のテーベに遷都するさらに前だったっけか……?」
「ハルト様ハルト様。ラーメンフェスティバル、略して『麺フェス』なんです。各地の名物ラーメンがゲーゲンパレスに集まる、年に一度のラーメンの祭典なんですよ」
「全部で300近いラーメン屋が一堂に会し、その味を競うのじゃ。ハルトもきっと驚くのじゃよ」
「300近いラーメン屋だって!? なんだそれ、すごい! すぐに行こう! 実はめちゃくちゃお腹が空いててさ」
「ふふっ、丸二日も寝ていたんですから、お腹もすきますよね」
「そうと決まれば話は早い。支度をしてすぐに麺フェスでゴーなのじゃ!」
こうして。
俺、幼女魔王さま、ミスティは新生・勇者パーティを結成し、ゲーゲンパレスでの日常を再開したのだった。
改稿版「レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします」
―完―
次回作はこちらです(↓)
S級【バッファー】(←不遇職)の俺、結婚を誓い合った【幼馴染】を【勇者】に寝取られた上パーティ追放されてヒキコモリに→金が尽きたので駆け出しの美少女エルフ魔法戦士(←優遇職)を育成して養ってもらいます
https://novema.jp/book/n1709794
育成もの異世界ファンタジーです!
「というわけで、私が勇者になってしまいました」
ミスティが申し訳なさそうにぺこんと頭を下げた。
決戦の翌々日、場所は王宮の俺の部屋でのことだった。
あの後。
意識を失ってから丸二日も眠り続けていた俺が目を覚ましたと聞いて、幼女魔王さまとミスティが俺の部屋にやってきた。
そして俺がすっかり元気になったことを確認すると、大事な話があると告げられた。
そして俺は、ミスティが聖剣に選ばれて新たな勇者となったことを知ったのだ。
なんでも俺が意識を失っていた間。
幼女魔王さまたちは残存兵力を再編成したり、リーラシア帝国へ仔細を伝え、和議を結ぶべく急使を派遣するなど、諸々の後始末をしていたらしいんだけど。
あれこれやっているうちに、持ち主を失った聖剣が急に光りはじめ、その光がミスティを指し示したのだという。
よくわからないままミスティが聖剣を握ったところ、次の勇者に指名する神託が降りてきたらしい。
「まさか人間族にしかなれない勇者に、エルフが選ばれるとはのぅ」
幼女魔王さまが思案顔を見せる。
「ハーフエルフは人間族の血も混じっていると考えれば、絶対にありえないってわけではない……のかな?」
俺もなんとも言葉に困っていた。
「あまりに突飛で想像もしていなかったことだったので、もう困惑しかありません……」
でも当のミスティが一番困っていた。
「リーラシア帝国も不承不承じゃが、とりあえず今のところは文句は言ってきておらぬの」
「そもそも聖剣は、リーラシア帝国の持ち物ってわけでもないしな。ここ5代くらい続けてリーラシア帝国から勇者が出ているから、半分所有物みたいになっちゃってるけど」
聖剣は人類の最終兵器だ。
根本的に、一国が独占できるものではない。
「しかも正当な持ち主以外が抜こうとするとその身を焼かれる、勇者専用の武器じゃからの。これほど証明が簡単なものはないじゃろうて」
「ミスティが聖剣を抜けることが、そのまま勇者であることの証明だもんな」
「でもどうしましょう? ハルト様。そもそも勇者というのは、何をすればいいんでしょうか? 元・勇者パーティの先達として是非ともアドバイスなどを頂ければ」
ミスティが困り顔をしながら、元・勇者パーティメンバーの俺に尋ねてくる。
「そうだな……基本的には勇者の神託だな。俺が知る限りでは、あーしろこーしろって神託が勝手に降りてくるみたいだったけど。ミスティに、何かそういうのはなかったか?」
「勇者に選ばれた時に聞いたあとは、今のところは特にないですね」
「そっかぁ。それとやっぱり勇者パーティの結成だな」
伝統的に、勇者は信頼のおける仲間とともに勇者パーティを作るのだ。
「勇者パーティですか……」
言って、ミスティが俺と幼女魔王さまの顔を見た。
その意図するところは――、
「当面のメンバーは勇者ミスティ、精霊騎士の俺、そして精霊魔王さまでいいと思うぞ」
「これは強そうなパーティですね!」
ミスティはにっこり笑顔でそう言ったんだけど、
「あの? 妾だけ明らかに名前負けしていて、超へっぽこなメンバーなのじゃが? あの後、期待を胸に何度も精霊に呼びかけてみたのじゃが、【火トカゲ】以外話を聞いてくれんし……」
それとは対照的に、幼女魔王さまはションボリ顔で小さくつぶやく。
「そこはそれ、将来性に期待ってことで。それにあれだけ大変な思いをしたんだ。しばらく勇者パーティと言いつつ、今までみたいにスローライフを堪能しても罰は当たらないだろ? 俺はゲーゲンパレスで――魔王さまとミスティから、もっといろんなことを学びたいんだ」
「うむうむ。そうであるか」
「分かりました。ではハルト様も思った以上に元気なご様子ですので、景気づけに今から早速街に行きませんか?」
「そういえば、今日はちょうど『麺フェス』の日じゃったの。快気祝いにはちょうどよいのう」
「メンフィス? たしかリーラシア帝国の大昔の首都が、そんな名前だったような? 前首都のテーベに遷都するさらに前だったっけか……?」
「ハルト様ハルト様。ラーメンフェスティバル、略して『麺フェス』なんです。各地の名物ラーメンがゲーゲンパレスに集まる、年に一度のラーメンの祭典なんですよ」
「全部で300近いラーメン屋が一堂に会し、その味を競うのじゃ。ハルトもきっと驚くのじゃよ」
「300近いラーメン屋だって!? なんだそれ、すごい! すぐに行こう! 実はめちゃくちゃお腹が空いててさ」
「ふふっ、丸二日も寝ていたんですから、お腹もすきますよね」
「そうと決まれば話は早い。支度をしてすぐに麺フェスでゴーなのじゃ!」
こうして。
俺、幼女魔王さま、ミスティは新生・勇者パーティを結成し、ゲーゲンパレスでの日常を再開したのだった。
改稿版「レアジョブ【精霊騎士】の俺、突然【勇者パーティ】を追放されたので【へっぽこ幼女魔王さま】とスローライフします」
―完―
次回作はこちらです(↓)
S級【バッファー】(←不遇職)の俺、結婚を誓い合った【幼馴染】を【勇者】に寝取られた上パーティ追放されてヒキコモリに→金が尽きたので駆け出しの美少女エルフ魔法戦士(←優遇職)を育成して養ってもらいます
https://novema.jp/book/n1709794
育成もの異世界ファンタジーです!