「ま、手練(てだ)れといっても、傭兵崩れならこんなもんか」

 最後に残ったリーダー野盗を斬り伏せ、さくっと戦闘を終わらせた俺は、

「【カオウ】、 【ホーリー・フレッシュ】だ」

 ――りょーかい――

 すぐに浄化の最上位精霊【カオウ】に呼びかけ、黒曜の精霊剣・プリズマノワールについた野盗の血と脂を、聖なる力によって浄化した。

 戦った直後とは思えないほどに、見違えるように綺麗になった黒曜の精霊剣・プリズマノワールを慣れた手つきで鞘に納めると、俺はあわやひどい目にあわされるところだった女騎士へと近づいていく。

「よ、災難だったな」

 馴染みの友人に軽く挨拶するような調子で、俺は片手を上げた。
 もちろん敵意がないことを示すように、にっこり笑顔も忘れない。

 あれはたしか、北の魔王ヴィステム討伐の旅を始めてすぐの頃だったかな。
 戦闘時の固い表情を引きずっていたせいで、助けた子供に怖がられた――なんて経験が俺にはあった。

 表情一つで相手の受け取り方が180度変わるという、得難(えがた)い実体験だった。
 それ以来、俺は笑顔を意識するようにしている。

「ご助力いただき誠にありがとうございました、旅の剣士様。なんとお礼を申し上げればよいのやら」

 護衛の女騎士は自分の剣を拾い上げて鞘に納めると、腰を大きく折り曲げながら丁寧に頭を下げた。

 胸がばいんと大きく、腰がきゅっと(くび)れていて、ビキニアーマーとまでは言わないけれど露出が多く防御力が極めて低そうな――だけどとても高貴そうな白銀の鎧に身を包んでいる。

 見栄え重視の祭典・儀式用か、そうでないなら何らかの術で防御加護を付与された最高級のアーマーだろう。

 でないとこの露出の高さ――おへそは見えているし、ミニスカートで太ももが大きく露出している――からくる防御力の低さは理解に苦しむ。
 常識的に考えて。
 鎧の意味がまったくない。

 もちろん見る分には素敵なんだけれども。

 そして頭を下げた時に金髪のポニーテールがぴょこんと可愛く揺れたのが、目を引いた。
 手入れされた透き通るようなさらさらの金髪に、とてもよく似合っている。

 優雅さすら感じさせるアーマーのデザインといい、どこか気品のある立ち居振る舞いといい、おそらく護衛の女騎士自身もそれなりに高い身分なのだろう。

 そしてそれはつまり、それよりもはるかにやんごとない身分の者が、あの美しい白馬車の中には乗っているということだ。

 だからといって、変にかしこまるつもりはないんだけどな。
 俺は平民上がりだし、マナーとか敬語とか堅苦しいのは苦手だからさ。

 それにしてもだ。
 助けに来てすぐに気づいてはいたんだけど、改めて思う。

「改めて見ると、本当に可愛い女の子だな。好みか好みじゃないかと聞かれれば、めちゃくちゃ好みだ」
「か、可愛い!?」

 女騎士がぴょこんと小さく飛び上がった。 

「え、あれ、声に出てた?」
「で、出ておりました、旅の剣士様……」

「いやまぁ……うん。可愛いと思うぞ」
「あ、ありがとうございます」

 あまりこういったことを言われた経験はないのだろうか。
 女騎士は耳まで真っ赤っかになって、挙動不審にそわそわとしている。
 さっきまでの凛々しく戦う姿とのギャップが、これまたすごく可愛いな。

 こほん。
 まぁ、それはそれとしてだ。

「襲われている女の子を助けるのは当然のことだよ。見たところ怪我もないようで何よりだ」

 人助けは元・勇者パーティの俺としては、しごく当たり前の行為だ。
 なので俺的には、特に助けてどうのこうのって気持ちはなかったんだけど――、

「ああ、なんと素敵な殿方なのでしょう」

 金髪女騎士さんは胸元できゅっと右手を軽く握りながら、尊敬のまなざしと共に小さな声で呟いた。
 頬は赤く染まり、目は潤んだようにキラキラしている。

「お、おう」

 元・勇者パーティの凄腕の精霊騎士とはいえ、俺も人の子なので、可愛い女の子にこういう対応されるとまんざらでもない――いや、素直に嬉しかった。

 なんともこそばゆい雰囲気が出来上がったところで、

「こたびは本当に助かったのじゃ。そなたの助力と献身に心からの感謝を」

 馬車から一人の少女が降りてきたかと思うと、ねぎらいの言葉をかけてきた。