俺と遥太と陽葵は、帰宅後三人で通話を始めた。

『あの後考えたんだけど、私はいいと思う。私だって、本当のことを知りたい。このままうやむやにして忘れるなんてできない』

「俺もだ。真実を捻じ曲げたままにしたら、千種があまりに浮かばれない」

 俺達の意見は、尋に賛同するということで概ね一致していた。

『けど実際犯人を見つけたとして、尋は、その後どうするつもりなんだろう』

 確かに、それは考えたことがなかった。大体あのメールの言っていることが確かなのかどうかも怪しいのに、俺はいつの間にかその気でいた。けれど、今更そんなことをどうこう言ってなんかいられない。期限があったのだ。九月一三日までと、あのメールには明記されていた。今日が八月二六日だから、残された期間は三週間。それを越したらどうなるかは知らないが、何かあった後では遅い。厳守すべきだろう。

『それに探すって言ったって、手掛かりも何もない』

「だからそれを俺達が見つけるんだよ。警察でも辿り着けなかった真実を、俺達が暴く」

『無茶だよ……』

『嫌ならやめればいいじゃん。私達だけでもやれるから、遥太は文化祭の手伝いでもしてきなよ』

 相変わらず陽葵は容赦がないなと思う。特に遥太には当たりが強い。イケメンで腹が立つからだそうだ。まったく陽葵らしい。最近ではそういう態度もしなくなっていたが、やはりこっちの方が彼女らしい。委縮している陽葵は、陽葵らしくない。

『別に嫌だなんて言ってない』

『じゃあどうなの』

『…………るよ』

『何って? 聞こえない』

『やるよって言ったんだよ』

『初めから素直にそうやって言えばいいじゃん』

 陽葵の言葉に遥太が反論できないでいるのに、俺はつい失笑してしまった。千種が死んで以来、俺達の会話も前より少なくなっていたので、何だか以前のように戻ったような気がして、二人のやり取りにどこか懐かしさを覚えた。でもやはり何かが足りなくて、間違いなく欠けていて、その隙間に冷たい風が吹き込んでヒリヒリと痛む。
 ふと窓の外を見る。橙色の夕焼けはどこか空疎で、儚くて、今までそんなこと思ったりもしなかったのに、物憂げな気持ちになった。

「お兄ちゃーん! ごはんできたよー! 早く来ないとえんがわにあげちゃうからねー!」

 一階から妹が俺を呼ぶ声が聞こえて、はっとした。時計を見やると、七時を回ろうとしていた。
 えんがわというのは家で飼っているミニチュアダックスフンドの名前で、父親の好物だからという単純な理由で付けられた。そんな理由で名付けられたえんがわのことを、少し不憫に思う。

「まあ、詳しいことは尋も交えて明日話そうぜ」

『そうだね』

『うん。じゃあ、行ってらっしゃい、お兄ちゃん』

 陽葵がからかうように言ったのを無視して、俺は通話を切った。が、陽葵がいつもの陽葵に戻ったような気がして、内心少しほっとしてもいた。
 もうあの頃には戻れない。わかってはいるけど、どこかで俺は、四人でこの悲しみを乗り越えて、あの頃のように屈託のない笑顔を交わせることを望んでいた。