・【地球に帰還】


 私とリュウは私が住んでいたアパートの前に立っていた。
 リュウは周りを不可思議そうに見渡していた。
 確かにこういう遠くにビルディングなんてあの異世界には無いもんなぁ。
 私はあまり浮かないように、農夫の服に着替えたところで、あんまり普通の服ってストックに無かったなと思った。
 コスプレかコスプレじゃないかみたいな、変なローランドだったから。
 一つ気になったことがあり、私は自分の住んでいた部屋へまず行くことにした。
 でもその前に、
「リュウ、あのビジネスマンの服というものに着替えてほしい。あれに着替えてくれれば周りの環境から浮くことはないから」
「分かった。そうする」
 そう言ってビジネスマンの服に着替えてもらった。
 ビシッとしたスーツにキッチリしたネクタイ、そして私の趣味で伊達メガネを掛けてもらっている。
 私の服に普通の服は無いけども、リュウにはいろんな服を着せて遊んでいたので、リュウはこの世界に馴染む服をいっぱい持っている。
 その中でもやっぱりスパダリと言えば、スーツでしょ、と思っている。
 さて、
「まずは私が住んでいた部屋へ行こう」
「分かりました。そうしましょう」
 部屋に行けばネットだって繋がるし、とか思っていたんだけども、既に空き室になっていた。
 というか荷物は? エイリーの服とかどうしたんだろうか……誰かがもう処分しちゃったのかなと思って、ちょっと落ち込んでしまった。
 いや今はリュウの作ったエイリーの服があるけども、やっぱり私が仕事終わりに家でちまちま作っていたほうにも執着があって。
 まあそれはもう仕方ないか、と思って、頼れるところに頼ることにした。
 勿論毒親ではない。
 私の唯一のコスプレ仲間、雛子の家だ。
 よく雛子の家で合わせとかしていたなぁ、と思いながら、私は雛子の家へ行くことにした。電車……あっ、お金無いわ。
「リュウ、これから私についてきてほしい。風の魔法使いの服で」
「分かりました。と言うと梨花はチャイナドレスですね」
「そう! 変身したらすぐ行くよ! 恥ずかしいからね!」
「恥ずかしがる必要無いですよ、梨花はすごく美しいですからね」
「そういうことじゃないの! そういう社会じゃないの! ここは!」
 私がつい大きな声でそう言ってしまうと、
「いろいろあるんですね、分かりました。素直に受け入れます。今はまず先を急ぎましょう」
 と答えてくれてホッとした。
 でも実際好きな服が着れない世界って堅苦しいなぁと思った。
 私はエイリーの服に着替えて神速モード、リュウも神風魔法でついてきてくれている。 
 というか普通に魔法使えちゃっているんだと思ってしまった。
 まあ描いているヤツというのも魔法で描いて送っているわけだから魔法使えるわけか。
 私は速攻雛子のアパートに着き、階段も歩かず、飛ぶように部屋の前に立った。
 さて、今は何曜日というか何時だ……? そうだ、全然時計とか見てこなかった、と思ったその時だった。
 目の前の扉がバンと開いて、なんと制服姿の雛子が現れたのだ。
「「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああ!」」
 私も雛子もデカい声が上がってしまった。
 すぐさま雛子は私であることに気付いたみたいで、
「梨花! エイリーのコス! どしたんっ? えっ! えぇっ! えぇぇぇえええええええええええええええ! 急にアタシの家で合わせっ? 鬼神騎士のリュウとっ? どゆことっ?」
 と私とリュウの顔を交互に見ながら、慌てている。
 説明したい気持ちは山々だけども、
「まず匿って!」
 と言うと、雛子は、
「勿論! 梨花のことはいくらでも匿うわ!」
 と言って私とリュウを部屋の中に入れてくれた。
 雛子は肩で息をしながら、
「まずどしたんっ? いやいやいや! まず今日はリモートワークにしてもらうわ! それから! 待ってて! 連絡入れる! 適当に座ってて!」
 相変わらず雛子が真面目に社会人やっていることに感動しながら、私は部屋の奥でリュウと共に座ることにした。
 リュウは小声で、
「友達?」
「唯一のね!」
「じゃあ大切な人ですね」
 と微笑んだ。
 そう、でも今はリュウという大切な人が増えて。
 いやそもそも同じ村に住みみんなも大切で、今の私には大切な人がいっぱいだ、と思ったところで雛子がこう言った。
「いやいやいやいや! イケメン過ぎだろ! えっ? どういう状況っ! 何があったんっ?」
 私は深呼吸してから、
「嘘だと思うだろうけども私を信じて話を聞いてほしい」
「もうこの時点で嘘っぽいから大丈夫! 全然何でも聞くし!」
 この時点で嘘っぽいって私がリュウのようなイケメンと一緒に居るということ? まあそうだけど、と思いながら喋り出した。
「私は異世界転移して、このリュウ似のリュウと出会って冒険していたんだけども、魔物がどんどん強くなってきて、その魔物を送り込んでいる人間が地球に居るみたいでその人物に会って止めたいんだ」
 雛子は固まった。
 雛子死んだ? と思っていると、リュウが喋り出した。
「俺が梨花のパートナー、リュウです。よろしくお願いします。まず今から梨花がその魔物の絵を描きますので、その魔物の絵を描きそうな人を一緒に調べてほしいんです」
 私は正直どうやって調べればいいか分からなかったけども、リュウがそう言って正直『おっ』と思った。
 そうか、絵が上手いほうである私が魔物の画風をトレースしながら描いて、それを雛子に見せて、さらにネットとかで上げて、ネット民から調べてもらえばいけるということか。
 リュウはネットまでは考えていなかっただろうけども、一気に筋道が浮かんで、さすがリュウだなぁと感心していると、
「まず梨花のパートナーって何?」
 という結構どうでもいいことに突っかかったので、どうしようかなと思っているとリュウが、
「梨花と真剣にお付き合いしています」
 と言って頭を下げて、何か改めて言葉にされると照れるなと思っていると、雛子が、
「それは、いけませんねぇ……」
 と言って雛子は黙った。
 何がいけないんだよ、いいだろ別に。
 でもリュウは何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと思って、おどおどし始めたので、
「大丈夫! 雛子の嫉妬!」
 と言いながら私はリュウの肩を叩いた。
 するとリュウは、
「嫉妬されるようなものでは御座いません」
 と言ってまた頭を下げると、雛子は大きく口をあけて、
「そういうところがいいんだなぁ!」
 と叫んだ。
 何だ、コイツ、話が進まないなぁ。
 まあいいや、勝手に進めよう。
「じゃあ絵を描くから何か思い当たる人あったら言ってね。まあどうせネットに上げてネット民に聞くことになると思うけども」
 私は魔力の中に入れていた紙とペンを出すと、雛子が、
「急に出した!」
 と言ったので、あぁなるほど、こういうことかと思って、私は雛子の目の前で、ビキニアーマーに早着替えの魔法を使ってから、
「私って魔法使えるんだぁ」
 と言ってみると、雛子が、
「ズルい……」
 と言って俯いて、何だか泣くような素振りを見せたので、何だろうと思っていると、
「うちだって毒親なのに! 恵まれていないのに! 梨花ばっかり異世界行ってズルい! アタシだって異世界転移してやるんだからな!」
「でもコスプレとかできなくなるよ」
「いやいやいや! 梨花がえっちな服着てるじゃん! 今まさに!」
「まあこういう服を着ていても、誰からも何も言われないけどね」
「最高じゃん! 好きな服を着させろよ! エロい連中からとやかく言われずにさ!」
 私は農夫の服になってから、
「こうやって農業する村だけども来る?」
「スローライフ付きぃぃいいい? 最高過ぎるじゃん!」
「全然楽しいだけだよ、魔法で農業するから」
「やらせろ!」
 そうヨダレをだらだら流しているような表情で顔をこっちへひん剥いた雛子。
 これは楽しくなってきたぞ、と思いながら、私は絵を描くことに集中した。
 まず、なんというか、青年向けみたいなハッキリとした画風があって、と描いたところで雛子がポツリと口をついた。
「春賀さんだ」
「春賀さん?」
 私がオウム返しすると、雛子は頷きながら、
「そう春賀孫市さん。今人気のプロの漫画家だよ。その人は春賀スタジオとか言って住所も調べたら出てくるから行ってみればいいよ」
 私は雛子からお金と服を貸してもらって、リュウと二人でその調べた住所へ向かった。
 着くとそこは高層マンションといった感じで、セキュリティがしっかりしている感じ。
 一応正面突破として「異世界から来た者です。魔物を送ること、迷惑しています」とマンションを管理している人に伝えると、管理している人は不可思議そうな顔をしていたけども、春賀さんが招き入れてくれるということでエレベーターの扉があいて、自動でその階へ行った。
 着くとそこには春賀さんと思われる人が立っていて、
「まさか異世界からこっちへ来るなんてな」
 と言ったので、もうここはハッキリ言えばいいと思って、
「貴方が送る魔物が強過ぎてみんな迷惑しています。止めてくれませんか?」
 すると春賀さんは私とリュウを部屋に招き入れて、フィギュアなどの資料を置いている誰もいない部屋に連れてきてから、こう言った。
「あの世界は自分の本当の性癖を出せる世界だった」
 何だか語りそうだったので、私もリュウも黙って聞いていることにした。
「あの世界の人たちが迷惑していることは分かったが、罪の意識が低かったことも事実だ。でもこうやって直接やって来られると……そうだな、止めることにしよう。でもその代わり、僕もその世界に行って戻って来れるということだよね。覆面の男からは自ら行ったらもう戻って来れないという話だったが、君たちは多分行き来ができるんだろう? それならばたまに僕もあの世界に連れてってほしい。好きにモノを壊したり、勿論木とか岩ね、そういうモノを壊して発散がしたいんだよ」
「それならいいけども」
 と私は答えつつも、リュウの顔を伺うと、リュウも真面目に頷きながら、
「分かりました。交渉成立ですね。ではこれでもう魔物は出ませんね」
 と言ったところで春賀さんがこう言った。
「ただ、あの世界を自由に眺められている僕だから分かる。あの世界はもっと広い。あの世界の奥地にいる真の魔物を見て描いていた部分もあったからね。もしあの真の魔物が君たちのいる世界の中心にやって来たら大変なことになるだろう」
 でも、
「私とリュウは強いので大丈夫です。そこはみんなで協力もするだろうしっ」
 春賀さんはコクンと首を揺らして、
「ならまあいいんだけどね」
 リュウは春賀さんへ、
「では魔物を送る能力を解除します」
 と言いながら闇の魔法使いの恰好になると、春賀さんが急に目を見開いたので、背筋がゾクッとしてしまうと、春賀さんが声を荒らげた。
「その恰好! めっちゃ良いね! そんなすぐ変身できるなんて凄いよ!」
 あっ、あくまでオタクってことね……。
 リュウは全く動じず、春賀さんの魔法を解除した。
 すぐに春賀さんが「何か使えなくなったのが分かるな」と言ったので、多分そうなんだろう。
 最後に春賀さんからお近付きの印として自分の漫画をくれた。
 それを魔力の中に入れると、それにも春賀さんは好意的に反応し、
「やっぱり魔物を送るよりも向こうの世界の人たちと知り合うほうが良かったなぁ! 覆面の男も人が悪い!」
 と言ってまあ確かに人は悪いんだけどもなと思った。
 春賀さんが生き生きと、
「じゃあ連絡先交換しよう!」
 と言ってきたんだけども、でも異世界間どうやろうと思っていると、リュウが、
「とにかくいろいろ試してみましょう。通信魔石をこの春賀さんに持ってもらって異世界間で通話できるかやってみましょう。通信魔石というのは持って対象者を念じながら喋ると声が向こうに届くという魔石です」
 とリュウが春賀さんに説明したところで私とリュウは一旦異世界に戻って、通信魔石で会話できるか試してみると、なんと普通にラグ無しで会話ができたので、じゃあこれで、ということになった。
 私とリュウは春賀さんの通信魔石をポイントにして異世界転移して戻ってきたので、すぐに目の前にやって来られた。
 春賀さんはウキウキといった感じで喋っていたことが印象的だった。
 まあとにかく悪い人ではなくて良かった。結局画力があり過ぎたということなんだろうなぁ。
 私とリュウは雛子の家に戻ると、雛子が開口一番こう言った。
「この部屋も! 会社も清算するからさ! アタシも異世界に連れてってくれよ!」
 じゃあ、ということで雛子にも通信魔石を持たせて、一旦私とリュウは異世界に戻ることにした。
 雛子と他に喋っていたことは基本異世界で生活して、コスプレイベントにだけは顔を出そうという話だった。
 結局コスプレはコスプレで好きなのだ。
 雛子も私も。
 異世界に戻ってきた私とリュウ。
 まあ一旦は解決といった感じだ。
 春賀さんが世界の奥には、みたいなことを言っていたけども、まあその時はその時かなと思った。