元コスプレイヤーが新婚旅行しているだけですが?


・【未開の森】


 ギルドのお姉さんから、
「マルドの森はランクBにはなっているけども、未開の森だから思わぬ素材が手に入るかもしれないよ? つまりは思わぬ魔物も出てくるかもしれないから注意が必要だけども、まあアズール山のボスを倒した二人には不必要な心配だよね」
 とお墨付きをもらって、マルドの森という未開の森へやって来た。
 私は勿論、リュウも見たこと無い動物がいて、リュウは大層興奮していた。
 でもリュウはその見たこと無い動物は一切倒さず、奥へ奥へ進んでいったので、
「見たこと無い動物なら、毛皮とか手に入れないの?」
 と聞いてみると、
「生態系のことを考えると、倒さないほうがいいんです。仮に集落でもあれば、そこと話をつけてから……ありましたね」
 リュウが奥を指差すと、そこには明らかに人工物があり、どうやら木の幹や葉で作った家みたいだ。
「ここの集落の方々とお話をして、それから狩るか狩らないか決めましょう」
 私とリュウはその集落のほうへ行くと、住民と思われる子供が指笛を鳴らし始めた。
 可愛いねぇ、と思っていると、リュウが、
「多分警戒音ですね、俺たちは集落から一歩引いた位置に移動して待ちましょう」
 そっか、歓迎の音色じゃなかったんだ、と思った。
 リュウが言った通り、槍を持った大人たちが集まってきた。
 リュウは手を挙げていたので、私も手を挙げた。
 私の今の恰好は胸元があいた格闘家スタイル、エイリーほどの神速は出せそうには無いけども、結構身軽に動ける感じはする。
 リュウは剣士スタイル。木々が鬱蒼としている森なので、リュウは草木を剣で払いながら移動していた。
 住民の中でも屈強そうな男性が、
「オマエたちは何者だ」
 リュウは堂々と、
「この辺りの素材を集めにきた者です。素材として集めてもいい、草木や動物はありますか?」
「オマエたちのようなよそ者にやる素材なんぞ一ミリも無い」
「分かりました。では魔物なら狩ってもよろしいですよね?」
「それは好きにしろ、何故なら魔物はオマエらと同じよそ者だからな」
 そんな会話をして一旦集落から離れた私とリュウ。
 私は不満に思っていることをリュウに、つい愚痴った。
「ちょっとあの人たち失礼じゃない? だって私とリュウのこと魔物と同系列に扱ったんだよ?」
「まあそういう部族もあるから、あんまり気にしないで。梨花。それにさ」
 そう言って私のほうをしっかりと見たリュウ。何だろうと思っていると、
「俺がその分梨花のことを大切に扱うから許してあげてほしい」
 リュウは私の手を綿飴を扱うように優しく握った。
 いや!
「それは分かってるけど!」
 と何かツッコミのようなイントネーションの声が出た。
 その感じで笑ったリュウ。
 いやパートナーのイチャイチャをギャグで返すなよ、私。
 そんな会話をしながら、私とリュウは魔物だけを狙って狩っていった。
 魔物は黒い紫色の煙を纏っているので、見分けることは簡単だ。
 魔物の見た目はアズール山とは違うけども、動きのパターンというか、タイプは似通っている。
 まるでただテクスチャーを変えただけのゲームの敵キャラって感じ。
 やっぱりちょっとゲームっぽいんだよなぁ。
 そんな時だった。
「キャァァァ!」
 女性の叫び声が聞こえたので、すぐさまそちらへ向かうと、女性を襲うとしている魔物がいたので即座に私とリュウがその魔物に向かって攻撃を喰らわせて撃退した。
 すぐ倒したからどの程度の魔物だったか分からないなと思いつつ、魔物の素材を拾おうとすると、それを遮るようにリュウが拾おうとしながら、リュウが小さい声で、
「同じ女性同士、梨花が話し掛けてあげてください」
 と言ったので、まあそうか、と思いつつ、ヤダ人見知りの私が出ちゃうと思っていると、その女性からこっちに駆け寄ってきて、
「有難うございます! 是非お礼をさせてください!」
 と言ってきたので、私とリュウは狩りを途中で辞めて、その女性についていくことにした。
 案の定、あの集落に戻ってくると、さっき私とリュウに意地悪なことを言った屈強な男性がこっちへ駆け寄ってきながら叫んだ。
「オマエら! この子を解放しろ!」
 いや!
「捕まえたわけじゃないよ!」
 という私のツッコミと、
「捕まえられたわけじゃないよ! 助けてくれたの!」
 という女性の声が若干ユニゾンして聞きづらくて、その屈強な男性は「んっ?」となった。
 改めて女性が、
「捕まえられたわけじゃなくて、魔物に襲われているところを助けてくれたの!」
 と言うと、その屈強な男性は驚きながら、
「オマエたち……疑って悪かった……それにキャリー、無事で良かった……」
 と言うと、そのキャリーと呼ばれた女性を抱きしめて、何か良かったじゃんとは思った。
 すると屈強な男性が、
「オマエたちのことは分かった。宿くらいは貸し出すし、その辺の草木なら素材の採取を許可する」
「有難うございます。ただ宿は結構です。こちらで安心なテントを出しますので。でも草木の採取の許可、感謝します」
 そう大人の対応したリュウは私の腕を引いて、また森のほうへ進みだした。
 こういう時、しっかりしているなぁ、と思っていると、集落から離れたところでリュウが叫んだ。
「この草木の採取の許可出たぁ! どんな特徴があるのか楽しみだなぁ! 新作のアイスの見たこと無いナッツくらい楽しみ!」
 そう無邪気に笑ったリュウが可愛過ぎた。ギャップ過ぎる。見たこと無いナッツは若干怖いでしょ。
 そこからリュウは草木を採取し始めた。
 どうやらリュウ的にあまり見たこと無い植物ばかりで、大層嬉しそうに時に斬って、時に裂いて、時にそのまま魔力の中に収めていった。
 そんな生き生きとしているリュウを見ているだけで私は幸せだった。ぶっちゃけ眼福。
 奥の奥までいくと、明らかに他の草木とはオーラが違う木があった。
 その木は木の皮が漆黒で黒光りしていて、なんとなく重さを感じた。
 周りの木々は薄緑色で軽やかな雰囲気なのに、この木だけ全く違う求心力のある太めの幹に大地を包み込むように広げる大きな葉っぱ群。
 正直その黒さも相まって「魔物?」と思ってしまったが、黒紫の煙を纏っているわけでもないので、これは自然の木ということが分かった。
 リュウはその木を触りながら、
「この木はかなりすごい素材の予感がする……」
 と神妙そうに言ったので、
「じゃあ早速採取しようよ」
「いや、この木、この一本だけだ。これを採取することはちょっと抵抗があるなぁ」
 私もその木を触ってみると、あることに気付いた。
「この木、多分枯れかけているよ。こんなパサパサで、触れただけでボロボロ崩れるということはもう寿命が近い感じする」
「そんなことが分かるのか? 梨花は」
「まあなんというか農業系の漫画の知識だけども」
「……漫画?」
 そう少し不可思議そうな顔をしたリュウ。
 あっ、この世界って漫画が無いんだ、ちょっとだけ残念と思っていると、リュウはこう言った。
「もしかすると漫画って絵と文字の娯楽のこと? 梨花の世界にもあったんだな」
「あっ、こっちにもあるのっ?」
「うん、都会のほうに、だけどもね」
 私はこっちの世界の漫画も読みたいなぁ、と思ったところで、いやその前にまずこの木の話だ。
「リュウ、もう枯れかけているわけだからもらってもいいんじゃない? だから一本しかなくても何も言われなかったんじゃないの?」
「う~ん、そうだ、培養してしまえばいいかもしれないな。この地にもう一本生やして、その培養した木から採取すれば」
「じゃあ私!」
 と私は農夫の恰好に早着替え魔法で着替えた。
 すると、なんとなくこの木は挿し木で増やせるんじゃないかなと思って、
「枝を採取して、下の葉っぱを何枚かちぎってから、茎を水に浸せば、挿し木で増えるような気がする」
 とリュウへ言うと、リュウは目を丸くしながら、
「挿し木という方法があるのか……植物って種だけじゃないんですね」
「そうそう、植物を育てる方法はいろいろあるんだよ! まあそれも漫画仕込みだけども!」
「いろんな方法があるといいですね、俺も梨花といろんな方法で仲良くなっていきたいよ」
「何そのザックリとしたお気持ち表明」
「単純接触だけじゃなくて、いろんな言葉を喋り合ったり、そうだ、今度何かプレゼントしたいからさ、好きなモノとか教えてほしいです」
「プレゼントを一緒に買いに行くタイプなんだ、リュウは」
 そう、ほほうと思いながら頷いていると、
「やっぱり一緒に居る時間は長いほうがいいかなと思って。その方法も変えたほうがいいかな?」
「ううん! それはそのままでいいと思う!」
「良かった、じゃあそれはそうと一緒に挿し木というヤツをやって隣に木を育てましょうか」
 とリュウは言った。確かにそれはそうと過ぎる話だったな、と私も思った。
 というわけで私は枝を一本頂戴して、水に浸かりそうな部分の葉をちぎって、その枝を水に付けた。
 水は農夫の水魔法で出現させて、浸からせるためのコップはリュウが出してくれた。
 さらにそこから私の木魔法で生長を促して……ちゃんと根が生えてきた!
 根がある程度長くなったところで、地面に植える準備。
 リュウがたくさんある木々を剣でカットして、土地を整えた。
 そして土に植えたその黒い木の皮の枝はぐんぐん生長していき、なんと花が咲いた。
 真っ白い花で、黒い木の皮とのコントラストで、まるでモノクロ映画だった。
 モノクロ映画の最終盤といった、綺麗な光景。
 私はどんな実がなるのか見たくなって、生長を止めず、魔法を注ぎ込み続けると、なんと金色の実が成ったのだ。
 モノクロ映画と思っていたら、重厚でシックな家具のような雰囲気になった。
 するとリュウが急にコックさんの恰好になって、どうしたんだろうと思っていると、その実をもぎって、果実を舌に乗せて、吟味し始めた。
 コックさんの魔法って何なんだろう? と思っていると、リュウがこう言った。
「これは食べても大丈夫な果実ですね、というかとても美味しいです。甘さの中にもちょうどいい酸味があって、疲労回復成分も入っているような感じですね。旨味が強いです」
 コックさんの魔法って可食度テストみたいな感じなんだ。
 リュウに木の実を手渡されて、私も食べてみると、めちゃくちゃ美味しかった。
 甘さはバナナに近い、でも香りは柑橘系交じりで酸味もそんな感じ。バナナにオレンジピューレを掛けて食べているような感じ。
 リュウはまた一個木の実を獲ってからじっくり観察している。
 何だろうと思っていると、
「この木の実のヘタ部分、もしかしたらすごい素材かもしれません。具体的にはまだ言えませんが、魔力も感じます。これはやはり素晴らしい木だったようです」
「じゃあ良かったね、もうオリジナルのほうは枯れそうだったし」
「幹も成長しましたし、木の皮も頂いていきましょう」
 と言ったその時だった。
「あぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
 というドデカい声が後方から聞こえてきて、振り返るとそこにはあの屈強な男性とキャリーと呼ばれていた女性がいた。
 今の叫び声、もしかしたらやってはいけないことをしたのでは、と心臓がバクバクなっていると、リュウもそんな感じで、顔が引きつっていた。
 ヤバイ、最悪一目散に逃げ出すしかないな、と思って、私はエイリーの服に早着替えしたところで、リュウが私を守るように一歩前に出て、頭を下げた。
「申し訳御座いません! この黒い木が枯れかけていたので、改めて一本育ててしまいました! もし良くないことでしたら今すぐに撤去しますので!」
 と言ってリュウが新しく育てた黒い木のほうに剣を向けると、屈強な男性が声を荒らげた。
「やめろ! やめてくれ!」
 すぐさまリュウが、
「いいえ! こっちは俺が一人で勝手に育てたほうです! 勿論こちらの女性は関係ありません! ただの連れ添いです!」
 と明らかに私のことをかばうようなことを言い出したので、それは違うと思って、
「ううん! 私も育てました! 私とリュウの二人で育てたんです! すみません!」
 私は逃げる気満々だけども、やっぱりここは、と思って私も頭を下げた。
 するとキャリーと呼ばれていた女性が声を上げた。
「キュウソの木を復活して頂き! 誠に有難うございます!」
 そう言ってその女性はまた私に近付いてきて、今度は飛びついてきた。
 ついハグしていると、屈強な男性が、
「まさかキュウソの木を育ててくださるとは……我々にとってはもう神のような存在だ……どうかお礼をさせてほしい」
 その後、私とリュウはこの住民たちの集落でもてなしを受けた。
 それと同時にあのキュウソの木という木をもう何本か育ててほしいと依頼され、さらに定期的にメンテナンスに来てほしいと言われた。
 それなら、とリュウはこの集落のために農夫の服を作ってあげる約束をした。安請け合い過ぎでは、とは思ったけども、そこもリュウの良さなので黙っていた。
 見返りとして、木の実や木の皮をいくらでも持って行っていいという話になり、リュウは上機嫌だった。
 いやでも実際私から見ても、不思議な力があるような素材だったから、これはマジで良いんじゃないか?
 全てをこなしたのち、私とリュウはまた一旦自分の家へ戻った。
 いつでも遊びに来ていいとも言われたので、まあ森の雰囲気も悪くないし、避暑地としていいかなと思った。

・【尋ね人】


 銀髪の女性・バルさんが、私とリュウが作業着で服を作っている時に家へ訪ねてきた。
「梨花、リュウ、なんかアンタたちに用があるって人が来ているから集会所に来てほしい」
 私とリュウは小首を傾げながら、バルさんと一緒に集会所へ行くと、そこには物々しいというか、何か仰々しいというか、戦闘集団のような人たちが集会所で偉そうに座っていた。
 見るからに最悪だったので、何か溜息をついてしまうと、その中で神官のような恰好をした男性がこう言った。
「遅い、どれだけ待たせる気か」
 するとバルさんが、
「全然待ってないでしょ」
 と言うと、向こうの集団の剣士が剣を抜きそうに見えたので、私は素早く移動して、その剣に手をかけたところを手で抑えて、
「何する気?」
 と聞くと、神官は笑いながら、
「まあいい。それだけ速く動ければまあ合格だろう」
 剣士は舌打ちをしてから、手を剣から放した。
 何だこのカス集団と思っていながらリュウのほうを見ると、リュウは明らかに慄いているような面持ちだったので、
「リュウ、どうしたの?」
「いや……あの……正義騎士団の方々ですよね?」
 と言ったので、コイツらが正義のはずないだろと思っていると、神官がこう言った。
「いかにも。ん? オマエ、どこかで見たことあるな、どこだっけなぁ、まあワシが覚えていないということはその程度の人間ということだ、どうでもいい。さて、梨花、ワシたちの女になれ」
 このクズ神官、一回の台詞で何個屁をこくんだと思いながら、わなわなしていると、その正義騎士団と名乗る集団がゲラゲラ笑いながら、
「世界神官様! 女になれ、は、さすがに言葉足らずです!」
「でもまあ女になれでもいいっすけどねぇ!」
「こんな子をみんなでまわしたいもんだなぁ!」
 と言ったところでバルさんが声を荒らげた。
「下品な連中め! そんな連中はこの村に滞在させない! 出て行け!」
 その瞬間、向こう側の魔法使いが詠唱したと思ったら、雷の魔法を出現させてバルさんへ向かって飛ばした。
 イライラし過ぎて反応が遅れてしまった私、ヤバイと思った時にはリュウが受け止めていた。
 ホッとしていると、リュウが頭を下げてこう言った。
「申し訳御座いません! 村の人間が無礼を働いてしまい! ご用件は一体何でしょうか!」
 えっ? と思ってしまった。
 いやだってどう考えても悪いのはコイツらじゃん、リュウ一体どうしてしまったの? と思っていると、神官が口を開いた。
「気の強い女を服従させることも楽しいんだが、まあ今日はそういう予定じゃない。梨花、悦べ、オマエを正義騎士団に入れてやる。これからワシたちと魔物退治をしていくのだ」
「は? やるはずないじゃん」
 思った言葉がそのまま口から出てしまった。
 いやよくよく考えれば、リュウが変なんだからそれに合わせて言ったほうが良かったのかもしれないけども、こんな連中にそんな言葉遣いをするわけないじゃん。
 すると神官はわなわなと唇を震わせてから、こう言った。
「そんな答えは待っていないんだよ! じゃあ言うぞ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっているんだよ! 責任をとらんか!」
「いや知らんし」
 神官は唾を飛ばしながら叫ぶ。
「これは明らかなんだ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっている! このままじゃ思った以上に被害が出る! それは避けたいんだよ!」
 それにしても、オマエがこの世界に来てからって、何?
 私をずっと捕捉していたの? と思っていると、リュウが口を開いた。
「やはり世界神官様が梨花をこの世界に呼び寄せたのですか? 特殊な能力を持っている人間として、転移させたんですか?」
 ん? と思っていると、神官は偉そうにこう言った。
「いかにも。まあ最初は眠たいだけのただのザコだと思って放置したが、どうやら能力は違ったようだな。だから今こそスカウトに来ているのだ」
 ……! コイツが私をこの世界に連れてきた張本人っ? マジかよ! というか! 何か聞き覚えのある声!
 あの時だ!





 どんな夢だったか眠気まなこで反芻する。
 私はパジャマで、幻想的な光り輝く空間に横になっていた。
 そこは見たこともないような黄金の部屋、というか壁も天井も床さえもない文字通り空間で、私はどこにいるんだろうという、さながら幽体離脱感覚だった。
 その空間の奥から男性二人組の声がして、
「まさか」
「もういい」
「でもまさか」
「こんなんはもういい」
 と小さな声でボソボソ話していた。
 何に対して言っているのかは分からないけども、言い方的に何だか私への悪口っぽくて、ちょっとイラついたことを覚えている。
 最後にその男性の一人が、
「本当にもういい!」
 と叫んだら、目が覚めて、って、まだ私は目が覚めていないけども、そう、今こうやって目が開けて……って!





 ……の! 『本当にもういい!』と叫んでいたヤツだ!
 そうか! 私は特殊な能力を持っている人間として呼び寄せられたけども、パジャマの能力を引き出していた結果、ただの眠いヤツと判定されてその場に捨てられたんだ!
 おい!
「私を捨てるなよ! この村の方々が拾ってくれたから良かったけども!」
「だから今拾ってやると言ってるんだ、悦べ、梨花よ」
「喜べるはずがないだろうがぁぁあああああああああああああああ!」
 めちゃくちゃデカい声が出た。
 場も何か静まり返った。
 このまま何か消滅しないかなと思っていると、神官がこう言った。
「逆にどうしたら正義騎士団に入るか? ワシはオマエの力を買ってやってるんだぞ?」
「せめてリュウと一緒とかなら考えてやってもいいけどなぁ?」
 と答えておくと、神官は高笑いを上げた。
 何なんだと思っていると、
「正義騎士団にこんなザコを置いておくスペースなんてないわぁ!」
 と叫ぶと、他の連中もケタケタ笑い出して、もう何かもう、マジで語彙消失だが、最悪だった。
「帰れ、というか帰らないなら私が」
 と言って私はエイリーの服に変身すると、何かキモイ拍手が起きてキモかった。
 いやいや、もういい、
「私がオマエたちを始末する」
 と睨みつけると、神官や他の連中も立ち上がって、
「一旦引くしかないようだな」
 とか言って集会所から出て行った。
 いや普通に私にビビってるし、とか思っていると、バルさんがこう言った。
「塩撒こう、塩」
 塩撒くという行動、こっちでもあるんだと思った。
 私はバルさんと塩を持ってこようと、近くの家へ行こうとすると、リュウが何かキモ集団のほうへついていくので、
「どこ行くの? リュウ」
「いや一応最後に頭を下げようかなと思って」
「いいよ、そんなの」
「でもあの方々はこの世界を牛耳って、治安を守る正義騎士団なんだ」
「そんな風には見えないけどね」
「ゴメン、今だけはちょっと離れるね」
「まあリュウがやりたいんだったら否定はしないけど」
 私とリュウは離れたんだけども、何だかモヤモヤしてきて。
 そりゃ塩撒くシスターズは失礼だけども、それ以上にアイツら失礼だったじゃん。
 でもそういう何か、頭を下げたりしないとこの村に嫌がらせが来るのなら、と思った時だった。
「わぁぁああああああああああああああ!」
 村民の叫び声がエントランスのほうから聞こえてきた。
 だから私はエイリーの神速で、エントランスのほうへ向かうと、なんと剣を抜いた剣士がリュウに対して斬りかかっていた。
 リュウも魔法を出す直前だったけども、それよりも私のほうが速く、剣士のアゴをドロップキックした。
「ぐへぇぇぇえええええええええええええ!」
 汚ねぇ声を上げた剣士は無視して、
「何してんだ! オマエら!」
 神官は苦虫を噛み潰したような顔をしてから、
「一旦退却だ!」
 と言ってどこかへワープしていった。
 本当はワープする直前に隙があったので、神速で叩き込むことも可能だったけども、深追いはしなくていいかと思って棒立ちしておいた。
 私はリュウへ、
「何があったのっ?」
「いや、多分梨花が正義騎士団に入るためには俺が邪魔だと思って急に攻撃してきた。俺が死ねば、ってことなんだろう」
「そんなん私から恨み買うだけじゃん!」
「「「「その通り!」」」」
 急に大きな声がエントランスの外から聞こえてきて、私はついビックリしてしまうと、私とリュウの視線の先には四人のパーティがいた。
「えっと、今度は誰ですか……?」
 と驚いたついでに、おそるおそる聞くと、その四人のうち、勇者の恰好をした人がこう言った。
「正義騎士団を壊滅させたい同盟です」
 次から次へと何なんだ……と思っていると、その勇者が一歩前に出てこう言った。
「我々は正義騎士団に異世界転移させられて、そのくせ捨てられてしまい、どうすればいいか分からない同盟です。正義騎士団を壊滅に追い込み、また元の世界に転移してもらうことを目的としています。是非我々と共に闘ってください!」
 そう言って頭を下げた勇者と、他の三人も。
 まあ悪い人たちじゃないということは大体分かったけども、
「多分復讐するほど強い相手じゃないですよ? 適当にワンパンで言うこと聞かせて、転移してもらえばいいじゃないですか」
「それは貴方が強いからです! 我々にその力は無いんです!」
 ハッキリ力が無いと言われてしまった、と思っていると、勇者がまた口を開いた。
「向こうの世界に会いたい人や未練は無いのですか!」
 それを言われた時、何か、なんというか、まあ、一人だけコスプレ仲間の顔が浮かんだけども、あとはまあって感じだった。毒親だったし。
 今から戻って会社で仕事? 無理無理、だってリュウと一緒にいたいし。
 だから、
「まあ、私は別にいいかなぁ」
 と答えると、その勇者や他の三人も目が飛び出るほど驚いてから、
「そ! そうですかぁ……はぁ……」
 と言ってから、すごすごとどこかへ消えていった。
 でもそうか、
「私って薄情なのかな」
 とポツリと呟くと、リュウが私の手を握りながら、こう言った。
「そんなことないです。むしろ俺に対して情が深いんです。こっちの世界に残ってくださる決断をして頂き、誠に有難うございます。少なくても俺は幸せです」
 リュウが幸せならいっかと思って、私とリュウはまた家に戻っていった。

・【魔物の質と量】


 最近はまた新しい場所、トロン渓谷へ行き、魔物をバッサバッサ倒していた。
 情勢的に魔物の量も質も増えているという噂もあるけども、まあ私とリュウにとっては余裕だし、いろんな素材が手に入ってまあ楽しいねって感じだ。
 村のほうも戦闘服にみんな慣れて、強い魔物を倒して、素材を残してくれているので、帰ってくるとまた思いもしない素材がもらえて結構嬉しい。
 そんな時だった。
 トロン渓谷で見たくもない顔が私とリュウの目の前に現れた。
「おい、梨花、オマエを始末することにした。正義騎士団に入って我らの仲間にならなかった自分を恨むんだな」
 神官だ、あのジジイ神官だ、変に毛量が多くて髪を染めすぎていて変な質感になっているシワだらけ神官だ。
 剣士は早速こっちへ向かって剣を抜いたので、私は魔法使いの服からエイリーの服に着替えた。
 リュウも機動力重視で風の魔法使いに変更した。
 こうすればリュウは私と連携することができるから。
 今回、リュウは毅然とした態度で、
「何で梨花を始末するという話になるんですか」
 と聞くと、神官は、
「話す時間も無駄だ!」
 と言いながら持っていた杖を私とリュウのほうへ向けると、向こうの剣士と格闘家と舞踏家が一斉にこっちへ飛び掛かってきたけども、まあ遅い。
 エイリーの神速を使ってしまえば、もう相手の動きはスローモーションで。
 その動きに唯一ついてこれるのは、リュウの神風魔法のみ。
 私とリュウで一人ずつコンビネーションキックを浴びせる。
 浴びせている最中もまだ相手は喰らっていることにさえ気付いていない。
 その間に、三人分フルボッコにしてやったところで、神速モード解除。
 すると急に喰らったような顔をしながら三人が吹き飛んでいった。
 神官は何が起きたのか分からないといった表情で私とリュウのほうを指差しているだけで。
 三人の叫び声でやっと気付いて振り返ると、その場に膝から崩れ落ちた。
 さて、
「あとはアンタだけだけども、まだやる?」
 神官がまたこっちを振り返ってから、
「でも! でもだ! オマエがこの世界の魔物増量の理由なんだよ!」
「魔物増量ってそんな10%増量中のスナックみたいに言われても。そんなんただの言いがかりじゃん」
 私が呆れるようにそう言うと、リュウが少し屈んで、膝から崩れ落ちた神官の視線を合わせながら、
「何かちゃんとした根拠があるのなら教えてください」
 と言っているんだけども、視線を合わせるって幼稚園児にするヤツじゃんと思ってちょっと笑ってしまった。
 いや勿論リュウにそういう煽りみたいなことは無いんだろうけども。リュウは私と違って性格が良すぎるから。
 神官は苦虫を噛み潰したような顔をしてから、なんとか立ち上がってこう言った。
「ワシたちの占い師はオマエに魔物増量の手掛かりがあるという占いが出た。だから梨花を始末しに来たんだ。さすがに魔物の量が多すぎるんだ。どうにかしないといけなくてな」
「そっちの占い師がポンコツなだけじゃないの? 言いがかりも言いがかりだってば」
 と私が溜息交じりにそう言ったところで、リュウがこう言った。
「分かりました。では梨花がその理由じゃない証明をしましょう」
 どうするんだろうと思っていると、
「梨花、占い師の恰好になってください。それで占ってみましょう」
「そうか、私が自分でやればいいってことか」
 すると神官がすぐに、
「いやわざと違うようにするに決まってる! せめて男のほうがせんか!」
「俺は梨花よりも魔力が弱いですし、梨花はわざと違うようにするような女性ではありません」
 まあできたら、わざと違うようにする女性だけどもな、と思いつつ、私は木陰に移動して占い師の恰好に着替えた。
 この恰好は初めてだけども、シースルーの口を隠す布が妙に色っぽくて、さらにタイトめの上半身・下半身がカッコイイ。
 最後に煌びやかな帽子をかぶってセット完了。
 戻ってくると、リュウが水晶を渡してくれたんだけども、実際どうすればいいんだろうか?
「リュウ、これってどうすればいいのかな?」
「多分水晶に魔物増量の原因は誰か聞けばいいんじゃないですか」
 ずっと魔物増量という言い方しているけども、だからそれはスナックなんだよな、と思いつつ、私は水晶を持って、立った状態で占うことにした。
 いや立ち飲みみたいな、立ち占いなんてみたことないけどな。
 まあいいか、
「水晶さん、水晶さん、魔物増量の原因を指差してください」
 と、何か、なんとなくこっくりさんみたいな言い方してしまった。
 私は占いとかあんまり信じないほうなので、知識が薄いため、結果漫画でありがちなこっくりさんになってしまった。
 でもそんな適当な占いでも水晶の中が何か渦巻きだして、リュウも神官も「おぉっ」と声を上げた。
 ニンテンドー64並のグラフィックがぐにゃぐにゃと動いているような感じ。
 一体どうなるんだろうと思っていると、矢印が出現し、その矢印は私に向いた。
 いや!
「私かい!」
 と叫んでしまった。これはもうドデカ声だった。
 多分間とテンポが最高だったんだろう。
 リュウにも神官にもちょっとウケてしまった。
 それくらいの声の張りだった。
 いやいや! そんなウケをしがんでいる場合じゃなくて!
「私っ? 私が原因ってことぉぉおおおっ?」
 するとウケ終えた神官が私のことを指差しながら、
「やっぱりそうだよ! オマエだよ! オマエのせいなんだよ!」
 私は水晶を地面に置いてから、
「いやいや! 私じゃないよ! 私じゃないよ! そんな陰で操ってないよ! リュウも知ってるでしょ! 私ずっとリュウと一緒にいるでしょ!」
 でも神官は一歩前に出て、
「いやでも今も矢印が指しているだろ! 寝静まったあとにどこかへ行ったりしていないか! この女は!」
 私と神官から鬼気迫る表情で話し掛けられているリュウは、何故か困惑しているというよりは何か考えているような顔だった。
 多分私よりも短気な神官が、
「おい! 男! なんとか言わないか!」
 と言うと、リュウが後ろ頭を掻きながら、
「でも、この矢印、ちょっとズレていない?」
 と言ったんだけども矢継ぎ早に、神官が、
「じゃあちょっと動け! 梨花! 水晶の周りをぐるぐる歩け!」
 こんなヤツに呼び捨てされる筋合いも命令される筋合いも無いんだけどもな、と思いつつも、私も気になっていたので、水晶の周りをぐるぐる回ってみると、水晶の矢印は常に私のほうを向いたので、
「やっぱり私かい!」
 と叫んだら、これもちょっとウケた。
 二周半したタイミングで、ギリギリ三周しなかったタイミングで声を上げたらウケた。
 いやちょうど食い気味みたいなタイミングじゃないんだよ。どうでもいいんだよ、私のツッコミが上手くハマった瞬間なんて。
 神官は何か興奮気味に、
「コイツで間違いないじゃん! 魔物増量は困るんだよ! せめて元の魔物数に戻せ! 予定が狂う!」
 私はどうしようという顔でリュウのほうを見ると、リュウは確信を得たような顔をしてから、こう言った。
「梨花、梨花が右手首に付けているブレスレットのほうを向いていますよ。この矢印」
「えぇっ!」
 私が驚いている間に、リュウは水晶を持って、私のブレスレットのほうに近付けた。
 このブレスレットはコスプレイヤー時代に初めてできたファンからもらったブレスレットなんだけども、リュウが水晶を持ってブレスレットに近付けると、間違いなくブレスレットのほうを指差していた。
「ど、どういうこと……?」
 するとリュウが神妙な面持ちでこう言った。
「もしかしたら魔物増量に関わっている人間からもらったブレスレットなのかもしれませんね」
 と言ったところでなんと目の前に十メートルはありそうな、巨大な怪獣のような魔物が出現したのだ。
「あわわわわ! 終わりだぁぁああああああああ!」
 そう神官が叫んだ瞬間だった。
 なんとその魔物は二秒も保たないまま、消えていった。
「えっ? どういう現象?」
 私がポツリと呟き、リュウは神官へ、
「こんなことあるんですか?」 
 と聞くと、神官は震えながら、首を横に振った。
 でも、この、さっきまでいたはずの十メートルの魔物からは倒した時のアイテムや素材が出現していて、倒した状態になっている。
 誰かが狙撃でもしたのだろうか、と思っていると、
「大丈夫ですか! 梨花さん!」
 という声と共に、なんと! あのブレスレットをくれたファンが目の前に出現したのだ!
「何で梨花さんがこの世界にいるんですか!」
 そう言って私に抱きつくように飛びついてきたので、スッとかわした。
 だってリュウの前で他の男性とハグしたくないし、そんな、ハグする仲というわけじゃなかったから。あくまでファンとコスプレイヤーという関係だし。
 リュウは持っていた水晶を私の目の前へ見せるように持ってきて、
「梨花、この男性のほうに矢印が向いていますし、その矢印から黒くて紫色の煙が出始めました」
「じゃあコイツじゃん!」
 めっちゃデカい声が出たし、タイミングも完璧だったけども、誰もウケなかった。
 何だかクライマックスのような雰囲気だ。
 いやでもそうだ、そんなウケたかな? と一瞬考えている場合じゃない。
「何で貴方がこの世界に?」
 と私がファンの子に聞くと、そのファンの子はこう言った。
「逆に何で梨花さんがこっちの世界にっ?」
「私は異世界転移して、この神官に呼び寄せられるようにこの世界へやって来たんだ」
「何だよ! それ! あの覆面の男! あとこの神官もか! 何してんだよ!」
「覆面の男って何?」
「僕はさ! 覆面の男から暇潰しできる世界があるって聞いたからやっていたのに! 梨花さんがいるなら! こんなことしなかったよ!」
 一体どこからどう聞けばいいのだろうか、あんまり要領を得ない感じでどうしようかと思っていると、リュウが冷静にこう言った。
「まず貴方は何をしていたんですか?」
「僕はこの世界に魔物の絵を描いて送って眺めていたんだよ! 暇潰しにいいって覆面の男から言われてさぁ!」
 すると私はハッとしてから、
「そう言えば、君は漫画家志望だったね」
「覚えていてくれたんですか! 最高だ! 嬉しいです! 僕がもしプロの漫画家になったら僕の漫画をコスプレしてほしいと言ったこと! 覚えていますか!」
「勿論、それも覚えているよ」
「やったぁぁああああ!」
 そう言ってジャンピングガッツポーズをしたそのファンの子。
 いやでも、この子の話を聞く限り、何か、かなり真っ黒といった感じだけども。暇潰しに魔物を送るってかなりダメじゃない?
 そういう子だったと聞くと、何かなぁ、といった感じではある。
 リュウは落ち着いた声で、
「では何で最近魔物が強く、また増量していったんですか?」
「それは勿論コスプレ会に梨花さんが来なくなってしまったからです! だって梨花さんに会えないんだったらもうこの世の終わりじゃん! ストレス発散としてどんどん狂暴な魔物を描いて送って破壊していくところを眺めていたんだよ!」
 するとずっと黙っていた神官が叫んだ。
「やっぱりオマエのせいじゃないか!」
 それに対してリュウは神官を糾弾するように、
「それなら転移させたオマエたちのせいだろ!」
 と言ったんだけども、私は首をブンブン横に振ってから、
「でもそのおかげでリュウに出会えて!」
 と声を荒らげると、リュウは嬉しそうに私のことをハグして、
「梨花!」
 と叫んだ。
 うわっ、何か幸せかもと思ったその時だった。
 私の視界に映ったファンの子が憎しみの表情をしながら、怒鳴った。
「イチャイチャするな! 梨花さんは僕のモノだ!」
 そう言って、なんとさっきまで出現していた十メートルの怪獣と同じ魔物を召喚した。
 これはもうすぐに倒さないと、と思って、私はエイリーの神速で一気に攻撃を叩き込んでいると、リュウも神風魔法で加勢してくれて、どんどんダメージを与えていく。
 私は主に徒手空拳を奮って、リュウは神風を剣にして、切り刻んでいくような感じ。
 すると手応えが消えたので、神速モードをオフにすると、その怪獣のような魔物は黒い紫色の煙になって消えていき、アイテムと素材を落とした。
 全てが終わると、ファンの子はその場に尻もちをついた。
 だから私は言ってやることにした。
「私は私のモノだ! 自分の好きにする! だから私はリュウと一緒に居る!」
 ファンの子は震えながらも、まだ負けていないというような鋭い瞳をしながら、こう言った。
「じゃあこの世界を壊すような魔物を梨花さんの遠くに出して破滅させてやる」
 じゃあ、と思って私は神速モードで一気にファンの子を縛り上げて、拘束し、
「はい! 牢獄行き!」
 と言ってやった。
 ファンの子はいつの間にやらといった表情をしてから意気消沈した。
 私は神官へ、
「じゃあこういうヤツをどうにかする牢獄くらいあるんでしょ? あとはよろしくね」
 と言うと、リュウが、
「梨花、ファンだけどいいのか?」
「ファンは好きだけどストーカーは嫌いだから、返すね、ブレスレット」
 と私は答えてから、ブレスレットを外して、ファンの子の胸ポケットにねじ込んだ。
 結果、ファンは神官に封印されたみたいで、この世界から魔物が増えることはなくなった。

・【エピローグ?】


 各地の魔物は増加せず、減ってきているというニュースをギルドで知った。
 魔物の素材集めはできなくなったけども、そもそも魔物は強くなるための素材という一面がほとんどで、魔物がいなければもう強くなる必要も無い。
 このまま平和な世界でスローライフかなぁ、と思っていると、急にまた魔物が各地に出現するようになったのだ。
 もしかするとあの神官、適当だから逃がしたのか? と思っていたんだけども、魔物のなんというか、テイストが違うのだ。
 今までの魔物はどこか丸っこい感じの、そのなんというか、今考えると画力が低い人間の魔物といった感じだったのだが、新しい魔物は本当に禍々しい、画力がトップクラスの魔物といった感じ。
 言うなれば幼年児向けの魔物から一気に青年向けになったといった感じ。グロテスクだが、どこかカッコ良さのある、といった感じ。
 ただ牙や爪などが前の魔物よりもしっかり尖っていて、強さは比較にならないほど強くなっていた。
 そんなある日、私とリュウはギルドのお姉さんと共に、レストランで食事することになった。
 勿論、この世界情勢についての意見交換だ。
「つまり梨花とリュウは”以前”の魔物を召喚していたヤツを捕まえたということだよね?」
 そう、今や以前・以後。
 それだけ以後の魔物は強力なのだ。
 と言っても私とリュウからはまだまだ余裕なんだけども、他の人たちが結構心配で。
 襲われて壊滅状態になった街の話も聞くし。
 リュウは斜め下を見ながら、こう言った。
「あのファンの子が言っていた、覆面の男についてもっと深掘りすれば良かった。神官もあの時に聞けば良かったのに」
「でもまあ神官は牢獄に拘束してからいくらでも聞けるからいいと思っていたんじゃない?」
「じゃあ俺の不始末だ……」
 そう頭を抱えて落ち込んだリュウ。
 いやでも、
「それを言うなら私もだし、私たちがそこまでこの世界を守るために行動する必要も無いじゃん」
「だからって見ず知らずの人でもケガをしてしまったら俺は嫌だ」
 そう言ったリュウに、何だかきゅんとしてしまった。
 だから好きなんだ、私は。
 リュウが真面目に、世界の幸せを本気で考えているところが。
 最近はギルドのお姉さんからの連絡もあり、強い魔物退治へ行っている。
 素材集めというよりは本当に、依頼としての魔物退治。
 まあ私もできるほうなので、一緒についていって討伐を繰り返している。
 リュウは意を決したような溜息をフッと吐いてから、こう言った。
「よしっ、神官の元へ行こう」
「どうしてそうなるのっ?」
 と私が聞くと、
「やっぱりあの子が何か鍵を握っているはず。ちゃんと拘束しているかの確認もしたいし。神官たちなんて俺と梨花からしたら楽勝の相手だから、絶対あの子に会えるはずだ。だからちゃんともう一回話を聞こう」
 するとギルドのお姉さんが、
「私もそれがいいと思いますよ、やっぱりリュウは根っからの勇者だね!」
「いやそれはもう昔の話だけどもさ、俺はもっと優雅に梨花と旅行がしたい。そのためには世界が平和じゃないとできないだろう? 梨花、俺のためについてきてほしい」
「そんな……リュウだけのためじゃないでしょ! 私もリュウと楽しく旅行したい! だからそのためになるんだったら何でもするよ!」
 ギルドのお姉さんとは別れて、私とリュウは神官のいる、正義騎士団本部に乗り込んだ。
 門番や兵士がいたけども、私とリュウを見るなり、何もせず、そのまま通してくれた。
 神官のいる間まで着くなり、神官がこう言った。
「何の用だ……門番は何をしている……」
 どこか疲弊しているような表情をしている神官。
 まあそんなことはどうでもいい。どうせ夜遊びみたいなもんだろう、コイツの疲れは。
「あの子に、以前の子に会わせてほしい」
「何で今更、今はそっちじゃないだろ。今はむしろ強力過ぎる魔物を送っているヤツを止めないといけないだろう」
 リュウが一歩前に出て、勇ましくこう言った。
「その送っているヤツを探すための情報を得たいんです」
「そういうことはワシがやる。オマエたちは黙って魔物退治でもしていろ」
 こんな会話していても埒が明かない、というわけで、
「実力行使します」
 と私が言うと、すぐさまその神官はその場に土下座して、
「分かりました」
 と言った。
 別に土下座までしてほしかったわけじゃないんだけどもな。
 こんなシワシワの土下座見たって何も興奮しないし。
 神官のあとをついていき、牢獄のような場所に辿り着き、その一つの牢獄の中に確かにあの子がいた。
「梨花さん……」
 そう瞳を潤ませながら私のことを見てきたファンの子。
 最初に会った時よりも、体が痩せていて、あんまり良い環境ではないみたいだ。
 まあそれだけのことをしていたというのもあるけども、ちょっと可哀想ではある。
「君、また魔物を送っている?」
「まさか! その能力はもう覆面の男に取られたよ!」
 覆面の男! また出た!
 すぐさまリュウが声を出した。
「覆面の男というのはこの神官にも話したのか?」
「勿論話したよ! こういうことを正直に言わないと牢獄からも出られないでしょ! 多分!」
 私は神官のほうを向いて、
「どういった話だったか神官が話してください。それを合っているかどうか君が判断して」
 神官は一歩後ずさりながら、
「何でワシが喋るんだよ」
「なんとなくです。なんとなくそっちのほうがいいような気がしたからです」
 神官は妙に困惑していて、別に普通に喋ればいいのにと思っていると、リュウが、
「神官、早く答えてください」
 と凄むように睨むと、神官は観念した顔になってから喋り出した。
「覆面の男が突然出現して、魔物を送る魔法の紙と魔法のペンを取り上げたという話だったよな? それ以外は無いよな?」
「はい、それだけです」
 リュウは頷いてから、
「では覆面の男について詳しく教えてください」
「詳しくっていうと、どう説明すればいいんだ? 急に出現して急に言ったんだよ」
「まず出会いについて教えてください。覆面の男とは最初、いつ出会いましたか?」
 その子はう~んと唸ってから、
「確か、異世界モノについて調べている時に、何か、同人誌というか、何かよく分かんない本を手に入れて、それを開いたタイミングでその覆面の男が現れて。この世界に魔物を送ってほしいと言われて」
「声はどんな声ですか?」
「何か加工しているような、ボイスチェンジャーを使っているような声だったよ」
「背格好はどうでしたか、私と梨花と神官、誰が一番近いとかありますか?」
 リュウは分かりやすく聞いている感じがする。
 この子自体は要領得ないといった感じだけども、そんな子でも答えられるようにちゃんと筋道を立てている感じだ。
 こういう明瞭なところもリュウの好き好きポイントだ、と私はバカっぽく思っていたその時だった。
 なんと、急にその子は眠そうな目をしたと思ったら、そのままなんと寝てしまったのだ。
「どういうことっ!」
 とデカい声を出してみた。
 これはツッコミというよりはその子を起こすため、といった感じだ。
 こういう寝かけこそ一番目覚めるタイミングなので、大きな声を出してみたんだけども、一切目が覚める様子は無く。
 リュウは神妙な面持ちのまま、こう言った。
「まあもうその能力は無いという話なので、この子を牢獄から出してください。俺と梨花、そして俺たちが住んでいる村で預かります。こんな牢獄に居れば改心のチャンスも無いですから」
 私は正直反射的に『えっ? ヤだなぁ』と思ったんだけども、まあリュウがいるんだったらどうにかなるかなと思っていると、神官が激しく首を横に振って、
「そんなことはできん! 現にコイツは何らかの魔法攻撃を今受けたんだぞ! こっちで管理する!」
 と言ったところで、あっ、これふて寝とか喋り疲れたとかじゃなくて魔法攻撃なんだ、と思った。
 リュウは矢継ぎ早にこう言った。
「いいえ、魔法攻撃を受けたということはもはや管理できていない一番の証拠じゃないですか。魔法攻撃を受けてしまうような牢獄なら俺が村で管理します」
「コイツは極悪人なんだぞ! 牢獄に居たほうがいいだろ!」
「いいえ、もうそういった能力が無いなら、この世界で優しく生活させるべきです」
 リュウは絶対性善説だなと思っていると、神官が怒鳴り声を上げた。
「極悪人は牢獄行きが正しいだろ! オマエは頭がおかしいんだよ!」
「頭がおかしいのはこっちの台詞です。何で急にこの子を眠らせたんですか? 神官」
 私はつい「えっ」と生返事してしまったところで、そのついでに喋ることにした。
「今神官が眠らせたの? 何で?」
 唇を噛んで黙っている神官を睨みながらリュウが口を開く。
「俺は別に確証があってそう聞いたわけじゃないんですよ、ただ単純にどのくらいの身長が聞きたくて聞いただけです。なのにその言葉さえも怖がって言わせないなんて、まるで神官が覆面の男みたいじゃないですか?」
 神官は明らかに図星のような表情をした。
 リュウは続ける。
「そもそもずっと貴方の台詞はおかしかった。まるで魔物の量を神官が調節しているような物言いが多かった」
 私もちょっと気になっていたところでもある。
 改めて私も反芻した。神官の言っていたことを。





「これは明らかなんだ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっている! このままじゃ思った以上に被害が出る! それは避けたいんだよ!」
「ワシたちの占い師はオマエに魔物増量の手掛かりがあるという占いが出た。だから梨花を始末しに来たんだ。さすがに魔物の量が多すぎるんだ。どうにかしないといけなくてな」
「コイツで間違いないじゃん! 魔物増量は困るんだよ! せめて元の魔物数に戻せ! 予定が狂う!」





 思った以上に被害が出る? じゃあ思った通りなら自分の思惑通りということ?
 さすがに多すぎるの”さすが”って何? ちょっとくらいの多さは許容範囲ということ?
 予定が狂うって、魔物が一定の量だと予定通りってこと?
 私はモヤモヤしていた点と点は線になった。
「オマエかい!」
 デカい声が出て、ちょっとだけリュウにウケた。
 でも神官は戦々恐々としている。
 当たり前だ、当たり前だというかもうコイツが元凶ってことじゃん。
「知らない……ワシは何も知らない……」
 リュウは溜息をついてから、
「とは言え、今この子を眠らせたのは貴方ですよね。俺は魔力には敏感なんです。弱い弱い眠らせる魔法を放ちましたよね? あの程度の、本来なら誰にも感知されないほどの魔法で眠るような相手はもう怖くないので、この子は俺と梨花が預かります」
「ダメだ……それはダメだ……」
 私はこの瞬間、ある手が浮かんだ。
 だからそれをリュウに伝えることにした。
「リュウ、今から私が描く服をすぐに作ってもらうことってできる?」
「素材はいくらでも持っているから何でも作れるよ」
「じゃあ描くね!」
 私は紙とペンで絵を描き始めた。
 基本的にスーツなんだけども、この小道具が大切で、漫画でも何度も何度も見たこのアイテム。
 そう、警察手帳だ!
「私はこの服を着て神官を吐かせる!」
 リュウはすぐさま服を作って、私は誰にも見られない場所に移動して着替えた。
 イメージは交番の警察官ではなくて、刑事課の警察官だからスーツが基本で。
 私は神官に迫りながらこう言った。
「オマエがやったんだろ! オマエが覆面の男なんだろ!」
 すると神官は怯えだして、下を向いた。
 どうやら警察官の魔力が私には宿っているらしい。
 ここはリアル志向で、かつ丼とか言わずに、いくことにした。
「もうネタは上がっているんだよ! さぁ! 吐け! 今吐けばまあ情状酌量もあるからな!」
 その情状酌量の言葉に反応した神官。
 ここが攻め時だと思って、
「ちゃんと吐けば死刑なんてことはない! 多少は刑に服すことになるが、まあちゃんと数年したら生きて帰ってこれるだろう。何、この牢獄でちょっと休むだけだよ。この牢獄の管理もそのままオマエの部下にやらせる。だから事実上、ちょっと自宅待機しているだけだよ。さぁ、吐くんだよ……吐くんだよ!」
「分かりました! 吐きます! ワシが覆面の男でした!」
 言った! 認めた! でもここからだ!
「何が目的だったんだ! 目的を言え!」
「目的は、自分の思った通りの軍団が、思った通りの展開をすることが好きで、それが見たくてこんなことをしていました……」
「つまり自分が作った映画のような気持ちだったんだな、生身の人間を使った即興ストーリーの監督ってところか」
「はい! それが楽しくて! だから要は役者を異世界転移で補給して! 全部ワシがやっていると思うと快感が込み上げてきて!」
「じゃあ今の魔物を送っているヤツにもそれを要求すればいい! ちょうどいい魔物にしてくれと言えばいい!」
 するとまた黙ってしまった神官の近くの壁を私が蹴ると、また神官が喋り出した。
「それが……コイツの時もそうだったんだが、一度その能力を付与させると、ソイツ自身にも魔力が宿ってワシより強くなってしまうんだよ……コイツも今のヤツもあんまり言うことを聞いてくれなくてな……何で絵を描くヤツはみんな自己中なんだよ……」
「それは人それぞれだろ! じゃあ逆にどうやって今回コイツからその能力を取り上げたんだよ!」
「牢獄に入れられて意気消沈していたからだ……向こうの気力次第といったところだ……」
「じゃあ今描いているヤツを意気消沈させられれば、能力を解除できるということだな!」
 私は語気を強めてそう声を上げると、それに反比例するかのように神官は小声で、
「でも……その今描いているヤツはコイツ以上に、自分が作った魔物が街を破壊していくことに興奮していて、多分一筋縄ではいかないと思うぞ……」
「その今描いているヤツはどこにいるんだ!」
「オマエがいた、地球というところだ」
「また地球かい! じゃあどうやったらその付与した魔力を取り上げることができる! オマエしかできないのか!」
「呪い解除魔法を使える者なら誰でも可能ではあると思う……」
 私はリュウのほうを見ながら、
「リュウは使えるっ?」
「闇の魔法使いになれば可能です」
「よしっ! じゃあ神官! 空間を移動する魔法使えるんだろっ? それで私とリュウを移動させろ!」
 と言ったところでリュウから待ったが入った。
 手を伸ばして物理的に止められた。
 何だろうと思っていると、
「こういう大切なところを神官には任せられません。だから……神官はまず服を脱いでください」
「急にBLっ?」
 と声を上げてしまうと、リュウは不可解そうな顔をしながらこう言った。
「えっ、いや、いいえ、神官の服の構造を確認して、その通りに服を作ればきっと梨花も空間移動魔法が使えるはずです。ここからは神官に頼らず、自分たちでいきましょう」
「確かにそうだ……じゃあ神官は脱げ!」
 と命令すると、その命令のまま脱ぎ始めて、従順過ぎてちょっとキモイなぁ、と思った。
 その神官の服をしっかり細かにチェックしたリュウはまた服を作り出して、神官の服と同じ服を作り上げた。
 そもそもリュウがそのまま神官の服を着てほしいと言わなくて良かったなぁ、と胸をなで下ろしていた。
 私はまた陰で着替えて、神官の服になると、何かいろいろできるような気がした。
 そっか、私が空間移動魔法を使えれば、あの戻りたい同盟の人たちも戻せるじゃん、私が。
「じゃあもう善は急げね! リュウ! 一緒に行こう!」
「分かりました、梨花、よろしくお願いします」
何か異世界転移するぞって感じに念じれば、いける気がしたから念じた。
 そして私とリュウは私の空間移動魔法で地球に戻った。

・【地球に帰還】


 私とリュウは私が住んでいたアパートの前に立っていた。
 リュウは周りを不可思議そうに見渡していた。
 確かにこういう遠くにビルディングなんてあの異世界には無いもんなぁ。
 私はあまり浮かないように、農夫の服に着替えたところで、あんまり普通の服ってストックに無かったなと思った。
 コスプレかコスプレじゃないかみたいな、変なローランドだったから。
 一つ気になったことがあり、私は自分の住んでいた部屋へまず行くことにした。
 でもその前に、
「リュウ、あのビジネスマンの服というものに着替えてほしい。あれに着替えてくれれば周りの環境から浮くことはないから」
「分かった。そうする」
 そう言ってビジネスマンの服に着替えてもらった。
 ビシッとしたスーツにキッチリしたネクタイ、そして私の趣味で伊達メガネを掛けてもらっている。
 私の服に普通の服は無いけども、リュウにはいろんな服を着せて遊んでいたので、リュウはこの世界に馴染む服をいっぱい持っている。
 その中でもやっぱりスパダリと言えば、スーツでしょ、と思っている。
 さて、
「まずは私が住んでいた部屋へ行こう」
「分かりました。そうしましょう」
 部屋に行けばネットだって繋がるし、とか思っていたんだけども、既に空き室になっていた。
 というか荷物は? エイリーの服とかどうしたんだろうか……誰かがもう処分しちゃったのかなと思って、ちょっと落ち込んでしまった。
 いや今はリュウの作ったエイリーの服があるけども、やっぱり私が仕事終わりに家でちまちま作っていたほうにも執着があって。
 まあそれはもう仕方ないか、と思って、頼れるところに頼ることにした。
 勿論毒親ではない。
 私の唯一のコスプレ仲間、雛子の家だ。
 よく雛子の家で合わせとかしていたなぁ、と思いながら、私は雛子の家へ行くことにした。電車……あっ、お金無いわ。
「リュウ、これから私についてきてほしい。風の魔法使いの服で」
「分かりました。と言うと梨花はチャイナドレスですね」
「そう! 変身したらすぐ行くよ! 恥ずかしいからね!」
「恥ずかしがる必要無いですよ、梨花はすごく美しいですからね」
「そういうことじゃないの! そういう社会じゃないの! ここは!」
 私がつい大きな声でそう言ってしまうと、
「いろいろあるんですね、分かりました。素直に受け入れます。今はまず先を急ぎましょう」
 と答えてくれてホッとした。
 でも実際好きな服が着れない世界って堅苦しいなぁと思った。
 私はエイリーの服に着替えて神速モード、リュウも神風魔法でついてきてくれている。 
 というか普通に魔法使えちゃっているんだと思ってしまった。
 まあ描いているヤツというのも魔法で描いて送っているわけだから魔法使えるわけか。
 私は速攻雛子のアパートに着き、階段も歩かず、飛ぶように部屋の前に立った。
 さて、今は何曜日というか何時だ……? そうだ、全然時計とか見てこなかった、と思ったその時だった。
 目の前の扉がバンと開いて、なんと制服姿の雛子が現れたのだ。
「「うわぁぁぁああああああああああああああああああああああ!」」
 私も雛子もデカい声が上がってしまった。
 すぐさま雛子は私であることに気付いたみたいで、
「梨花! エイリーのコス! どしたんっ? えっ! えぇっ! えぇぇぇえええええええええええええええ! 急にアタシの家で合わせっ? 鬼神騎士のリュウとっ? どゆことっ?」
 と私とリュウの顔を交互に見ながら、慌てている。
 説明したい気持ちは山々だけども、
「まず匿って!」
 と言うと、雛子は、
「勿論! 梨花のことはいくらでも匿うわ!」
 と言って私とリュウを部屋の中に入れてくれた。
 雛子は肩で息をしながら、
「まずどしたんっ? いやいやいや! まず今日はリモートワークにしてもらうわ! それから! 待ってて! 連絡入れる! 適当に座ってて!」
 相変わらず雛子が真面目に社会人やっていることに感動しながら、私は部屋の奥でリュウと共に座ることにした。
 リュウは小声で、
「友達?」
「唯一のね!」
「じゃあ大切な人ですね」
 と微笑んだ。
 そう、でも今はリュウという大切な人が増えて。
 いやそもそも同じ村に住みみんなも大切で、今の私には大切な人がいっぱいだ、と思ったところで雛子がこう言った。
「いやいやいやいや! イケメン過ぎだろ! えっ? どういう状況っ! 何があったんっ?」
 私は深呼吸してから、
「嘘だと思うだろうけども私を信じて話を聞いてほしい」
「もうこの時点で嘘っぽいから大丈夫! 全然何でも聞くし!」
 この時点で嘘っぽいって私がリュウのようなイケメンと一緒に居るということ? まあそうだけど、と思いながら喋り出した。
「私は異世界転移して、このリュウ似のリュウと出会って冒険していたんだけども、魔物がどんどん強くなってきて、その魔物を送り込んでいる人間が地球に居るみたいでその人物に会って止めたいんだ」
 雛子は固まった。
 雛子死んだ? と思っていると、リュウが喋り出した。
「俺が梨花のパートナー、リュウです。よろしくお願いします。まず今から梨花がその魔物の絵を描きますので、その魔物の絵を描きそうな人を一緒に調べてほしいんです」
 私は正直どうやって調べればいいか分からなかったけども、リュウがそう言って正直『おっ』と思った。
 そうか、絵が上手いほうである私が魔物の画風をトレースしながら描いて、それを雛子に見せて、さらにネットとかで上げて、ネット民から調べてもらえばいけるということか。
 リュウはネットまでは考えていなかっただろうけども、一気に筋道が浮かんで、さすがリュウだなぁと感心していると、
「まず梨花のパートナーって何?」
 という結構どうでもいいことに突っかかったので、どうしようかなと思っているとリュウが、
「梨花と真剣にお付き合いしています」
 と言って頭を下げて、何か改めて言葉にされると照れるなと思っていると、雛子が、
「それは、いけませんねぇ……」
 と言って雛子は黙った。
 何がいけないんだよ、いいだろ別に。
 でもリュウは何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと思って、おどおどし始めたので、
「大丈夫! 雛子の嫉妬!」
 と言いながら私はリュウの肩を叩いた。
 するとリュウは、
「嫉妬されるようなものでは御座いません」
 と言ってまた頭を下げると、雛子は大きく口をあけて、
「そういうところがいいんだなぁ!」
 と叫んだ。
 何だ、コイツ、話が進まないなぁ。
 まあいいや、勝手に進めよう。
「じゃあ絵を描くから何か思い当たる人あったら言ってね。まあどうせネットに上げてネット民に聞くことになると思うけども」
 私は魔力の中に入れていた紙とペンを出すと、雛子が、
「急に出した!」
 と言ったので、あぁなるほど、こういうことかと思って、私は雛子の目の前で、ビキニアーマーに早着替えの魔法を使ってから、
「私って魔法使えるんだぁ」
 と言ってみると、雛子が、
「ズルい……」
 と言って俯いて、何だか泣くような素振りを見せたので、何だろうと思っていると、
「うちだって毒親なのに! 恵まれていないのに! 梨花ばっかり異世界行ってズルい! アタシだって異世界転移してやるんだからな!」
「でもコスプレとかできなくなるよ」
「いやいやいや! 梨花がえっちな服着てるじゃん! 今まさに!」
「まあこういう服を着ていても、誰からも何も言われないけどね」
「最高じゃん! 好きな服を着させろよ! エロい連中からとやかく言われずにさ!」
 私は農夫の服になってから、
「こうやって農業する村だけども来る?」
「スローライフ付きぃぃいいい? 最高過ぎるじゃん!」
「全然楽しいだけだよ、魔法で農業するから」
「やらせろ!」
 そうヨダレをだらだら流しているような表情で顔をこっちへひん剥いた雛子。
 これは楽しくなってきたぞ、と思いながら、私は絵を描くことに集中した。
 まず、なんというか、青年向けみたいなハッキリとした画風があって、と描いたところで雛子がポツリと口をついた。
「春賀さんだ」
「春賀さん?」
 私がオウム返しすると、雛子は頷きながら、
「そう春賀孫市さん。今人気のプロの漫画家だよ。その人は春賀スタジオとか言って住所も調べたら出てくるから行ってみればいいよ」
 私は雛子からお金と服を貸してもらって、リュウと二人でその調べた住所へ向かった。
 着くとそこは高層マンションといった感じで、セキュリティがしっかりしている感じ。
 一応正面突破として「異世界から来た者です。魔物を送ること、迷惑しています」とマンションを管理している人に伝えると、管理している人は不可思議そうな顔をしていたけども、春賀さんが招き入れてくれるということでエレベーターの扉があいて、自動でその階へ行った。
 着くとそこには春賀さんと思われる人が立っていて、
「まさか異世界からこっちへ来るなんてな」
 と言ったので、もうここはハッキリ言えばいいと思って、
「貴方が送る魔物が強過ぎてみんな迷惑しています。止めてくれませんか?」
 すると春賀さんは私とリュウを部屋に招き入れて、フィギュアなどの資料を置いている誰もいない部屋に連れてきてから、こう言った。
「あの世界は自分の本当の性癖を出せる世界だった」
 何だか語りそうだったので、私もリュウも黙って聞いていることにした。
「あの世界の人たちが迷惑していることは分かったが、罪の意識が低かったことも事実だ。でもこうやって直接やって来られると……そうだな、止めることにしよう。でもその代わり、僕もその世界に行って戻って来れるということだよね。覆面の男からは自ら行ったらもう戻って来れないという話だったが、君たちは多分行き来ができるんだろう? それならばたまに僕もあの世界に連れてってほしい。好きにモノを壊したり、勿論木とか岩ね、そういうモノを壊して発散がしたいんだよ」
「それならいいけども」
 と私は答えつつも、リュウの顔を伺うと、リュウも真面目に頷きながら、
「分かりました。交渉成立ですね。ではこれでもう魔物は出ませんね」
 と言ったところで春賀さんがこう言った。
「ただ、あの世界を自由に眺められている僕だから分かる。あの世界はもっと広い。あの世界の奥地にいる真の魔物を見て描いていた部分もあったからね。もしあの真の魔物が君たちのいる世界の中心にやって来たら大変なことになるだろう」
 でも、
「私とリュウは強いので大丈夫です。そこはみんなで協力もするだろうしっ」
 春賀さんはコクンと首を揺らして、
「ならまあいいんだけどね」
 リュウは春賀さんへ、
「では魔物を送る能力を解除します」
 と言いながら闇の魔法使いの恰好になると、春賀さんが急に目を見開いたので、背筋がゾクッとしてしまうと、春賀さんが声を荒らげた。
「その恰好! めっちゃ良いね! そんなすぐ変身できるなんて凄いよ!」
 あっ、あくまでオタクってことね……。
 リュウは全く動じず、春賀さんの魔法を解除した。
 すぐに春賀さんが「何か使えなくなったのが分かるな」と言ったので、多分そうなんだろう。
 最後に春賀さんからお近付きの印として自分の漫画をくれた。
 それを魔力の中に入れると、それにも春賀さんは好意的に反応し、
「やっぱり魔物を送るよりも向こうの世界の人たちと知り合うほうが良かったなぁ! 覆面の男も人が悪い!」
 と言ってまあ確かに人は悪いんだけどもなと思った。
 春賀さんが生き生きと、
「じゃあ連絡先交換しよう!」
 と言ってきたんだけども、でも異世界間どうやろうと思っていると、リュウが、
「とにかくいろいろ試してみましょう。通信魔石をこの春賀さんに持ってもらって異世界間で通話できるかやってみましょう。通信魔石というのは持って対象者を念じながら喋ると声が向こうに届くという魔石です」
 とリュウが春賀さんに説明したところで私とリュウは一旦異世界に戻って、通信魔石で会話できるか試してみると、なんと普通にラグ無しで会話ができたので、じゃあこれで、ということになった。
 私とリュウは春賀さんの通信魔石をポイントにして異世界転移して戻ってきたので、すぐに目の前にやって来られた。
 春賀さんはウキウキといった感じで喋っていたことが印象的だった。
 まあとにかく悪い人ではなくて良かった。結局画力があり過ぎたということなんだろうなぁ。
 私とリュウは雛子の家に戻ると、雛子が開口一番こう言った。
「この部屋も! 会社も清算するからさ! アタシも異世界に連れてってくれよ!」
 じゃあ、ということで雛子にも通信魔石を持たせて、一旦私とリュウは異世界に戻ることにした。
 雛子と他に喋っていたことは基本異世界で生活して、コスプレイベントにだけは顔を出そうという話だった。
 結局コスプレはコスプレで好きなのだ。
 雛子も私も。
 異世界に戻ってきた私とリュウ。
 まあ一旦は解決といった感じだ。
 春賀さんが世界の奥には、みたいなことを言っていたけども、まあその時はその時かなと思った。

・【エピローグ】


 私とリュウの家の隣に二つ家ができた。
 雛子の家と春賀さんの別荘だ。
 あの私のファンだった子は結局元の世界に戻すことにした。
 あの子はもっと頑張って地球でプロの漫画家を目指すらしい。
 神官は牢獄に入り、まあ部下たちに世話されて楽しく生活しているんだろうなと思っていたけども、どうやら部下たちは神官のことを実は嫌っていて、結構しっかり罪人をやっていると風の噂で聞いて『ざまぁ』とは思ってしまった。私は口が悪いので。
 とは言え、リュウの前では私の口は軽やかに甘々。
「梨花、今日も仕事頑張りましょう。しょっぱい系アイスクリームくらいの汗をかきましょう」
 と言った農夫の恰好に着替えたリュウを私は後ろから抱き締めた。
「どうしたんですか? 梨花」
「何かこうしたくなっただけ!」
「それなら俺だってしたいことがありますよ」
 そう言って私と正面を向き合ったリュウが前からハグしてくれた。
 リュウは小さい声で、
「ずっとこうしてたい」
 と言ってきて、何かキュンキュンしてきた。
 いや、
「仕事しないとダメだよっ」
 と言っておくと、
「知っているよ。梨花にカッコイイところ見せたいからね」
「いつもカッコイイけどね」
「梨花はいつも可愛いね」
「それも知ってる」
 そう言って笑い合った。

(了)

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