・【エピローグ?】


 各地の魔物は増加せず、減ってきているというニュースをギルドで知った。
 魔物の素材集めはできなくなったけども、そもそも魔物は強くなるための素材という一面がほとんどで、魔物がいなければもう強くなる必要も無い。
 このまま平和な世界でスローライフかなぁ、と思っていると、急にまた魔物が各地に出現するようになったのだ。
 もしかするとあの神官、適当だから逃がしたのか? と思っていたんだけども、魔物のなんというか、テイストが違うのだ。
 今までの魔物はどこか丸っこい感じの、そのなんというか、今考えると画力が低い人間の魔物といった感じだったのだが、新しい魔物は本当に禍々しい、画力がトップクラスの魔物といった感じ。
 言うなれば幼年児向けの魔物から一気に青年向けになったといった感じ。グロテスクだが、どこかカッコ良さのある、といった感じ。
 ただ牙や爪などが前の魔物よりもしっかり尖っていて、強さは比較にならないほど強くなっていた。
 そんなある日、私とリュウはギルドのお姉さんと共に、レストランで食事することになった。
 勿論、この世界情勢についての意見交換だ。
「つまり梨花とリュウは”以前”の魔物を召喚していたヤツを捕まえたということだよね?」
 そう、今や以前・以後。
 それだけ以後の魔物は強力なのだ。
 と言っても私とリュウからはまだまだ余裕なんだけども、他の人たちが結構心配で。
 襲われて壊滅状態になった街の話も聞くし。
 リュウは斜め下を見ながら、こう言った。
「あのファンの子が言っていた、覆面の男についてもっと深掘りすれば良かった。神官もあの時に聞けば良かったのに」
「でもまあ神官は牢獄に拘束してからいくらでも聞けるからいいと思っていたんじゃない?」
「じゃあ俺の不始末だ……」
 そう頭を抱えて落ち込んだリュウ。
 いやでも、
「それを言うなら私もだし、私たちがそこまでこの世界を守るために行動する必要も無いじゃん」
「だからって見ず知らずの人でもケガをしてしまったら俺は嫌だ」
 そう言ったリュウに、何だかきゅんとしてしまった。
 だから好きなんだ、私は。
 リュウが真面目に、世界の幸せを本気で考えているところが。
 最近はギルドのお姉さんからの連絡もあり、強い魔物退治へ行っている。
 素材集めというよりは本当に、依頼としての魔物退治。
 まあ私もできるほうなので、一緒についていって討伐を繰り返している。
 リュウは意を決したような溜息をフッと吐いてから、こう言った。
「よしっ、神官の元へ行こう」
「どうしてそうなるのっ?」
 と私が聞くと、
「やっぱりあの子が何か鍵を握っているはず。ちゃんと拘束しているかの確認もしたいし。神官たちなんて俺と梨花からしたら楽勝の相手だから、絶対あの子に会えるはずだ。だからちゃんともう一回話を聞こう」
 するとギルドのお姉さんが、
「私もそれがいいと思いますよ、やっぱりリュウは根っからの勇者だね!」
「いやそれはもう昔の話だけどもさ、俺はもっと優雅に梨花と旅行がしたい。そのためには世界が平和じゃないとできないだろう? 梨花、俺のためについてきてほしい」
「そんな……リュウだけのためじゃないでしょ! 私もリュウと楽しく旅行したい! だからそのためになるんだったら何でもするよ!」
 ギルドのお姉さんとは別れて、私とリュウは神官のいる、正義騎士団本部に乗り込んだ。
 門番や兵士がいたけども、私とリュウを見るなり、何もせず、そのまま通してくれた。
 神官のいる間まで着くなり、神官がこう言った。
「何の用だ……門番は何をしている……」
 どこか疲弊しているような表情をしている神官。
 まあそんなことはどうでもいい。どうせ夜遊びみたいなもんだろう、コイツの疲れは。
「あの子に、以前の子に会わせてほしい」
「何で今更、今はそっちじゃないだろ。今はむしろ強力過ぎる魔物を送っているヤツを止めないといけないだろう」
 リュウが一歩前に出て、勇ましくこう言った。
「その送っているヤツを探すための情報を得たいんです」
「そういうことはワシがやる。オマエたちは黙って魔物退治でもしていろ」
 こんな会話していても埒が明かない、というわけで、
「実力行使します」
 と私が言うと、すぐさまその神官はその場に土下座して、
「分かりました」
 と言った。
 別に土下座までしてほしかったわけじゃないんだけどもな。
 こんなシワシワの土下座見たって何も興奮しないし。
 神官のあとをついていき、牢獄のような場所に辿り着き、その一つの牢獄の中に確かにあの子がいた。
「梨花さん……」
 そう瞳を潤ませながら私のことを見てきたファンの子。
 最初に会った時よりも、体が痩せていて、あんまり良い環境ではないみたいだ。
 まあそれだけのことをしていたというのもあるけども、ちょっと可哀想ではある。
「君、また魔物を送っている?」
「まさか! その能力はもう覆面の男に取られたよ!」
 覆面の男! また出た!
 すぐさまリュウが声を出した。
「覆面の男というのはこの神官にも話したのか?」
「勿論話したよ! こういうことを正直に言わないと牢獄からも出られないでしょ! 多分!」
 私は神官のほうを向いて、
「どういった話だったか神官が話してください。それを合っているかどうか君が判断して」
 神官は一歩後ずさりながら、
「何でワシが喋るんだよ」
「なんとなくです。なんとなくそっちのほうがいいような気がしたからです」
 神官は妙に困惑していて、別に普通に喋ればいいのにと思っていると、リュウが、
「神官、早く答えてください」
 と凄むように睨むと、神官は観念した顔になってから喋り出した。
「覆面の男が突然出現して、魔物を送る魔法の紙と魔法のペンを取り上げたという話だったよな? それ以外は無いよな?」
「はい、それだけです」
 リュウは頷いてから、
「では覆面の男について詳しく教えてください」
「詳しくっていうと、どう説明すればいいんだ? 急に出現して急に言ったんだよ」
「まず出会いについて教えてください。覆面の男とは最初、いつ出会いましたか?」
 その子はう~んと唸ってから、
「確か、異世界モノについて調べている時に、何か、同人誌というか、何かよく分かんない本を手に入れて、それを開いたタイミングでその覆面の男が現れて。この世界に魔物を送ってほしいと言われて」
「声はどんな声ですか?」
「何か加工しているような、ボイスチェンジャーを使っているような声だったよ」
「背格好はどうでしたか、私と梨花と神官、誰が一番近いとかありますか?」
 リュウは分かりやすく聞いている感じがする。
 この子自体は要領得ないといった感じだけども、そんな子でも答えられるようにちゃんと筋道を立てている感じだ。
 こういう明瞭なところもリュウの好き好きポイントだ、と私はバカっぽく思っていたその時だった。
 なんと、急にその子は眠そうな目をしたと思ったら、そのままなんと寝てしまったのだ。
「どういうことっ!」
 とデカい声を出してみた。
 これはツッコミというよりはその子を起こすため、といった感じだ。
 こういう寝かけこそ一番目覚めるタイミングなので、大きな声を出してみたんだけども、一切目が覚める様子は無く。
 リュウは神妙な面持ちのまま、こう言った。
「まあもうその能力は無いという話なので、この子を牢獄から出してください。俺と梨花、そして俺たちが住んでいる村で預かります。こんな牢獄に居れば改心のチャンスも無いですから」
 私は正直反射的に『えっ? ヤだなぁ』と思ったんだけども、まあリュウがいるんだったらどうにかなるかなと思っていると、神官が激しく首を横に振って、
「そんなことはできん! 現にコイツは何らかの魔法攻撃を今受けたんだぞ! こっちで管理する!」
 と言ったところで、あっ、これふて寝とか喋り疲れたとかじゃなくて魔法攻撃なんだ、と思った。
 リュウは矢継ぎ早にこう言った。
「いいえ、魔法攻撃を受けたということはもはや管理できていない一番の証拠じゃないですか。魔法攻撃を受けてしまうような牢獄なら俺が村で管理します」
「コイツは極悪人なんだぞ! 牢獄に居たほうがいいだろ!」
「いいえ、もうそういった能力が無いなら、この世界で優しく生活させるべきです」
 リュウは絶対性善説だなと思っていると、神官が怒鳴り声を上げた。
「極悪人は牢獄行きが正しいだろ! オマエは頭がおかしいんだよ!」
「頭がおかしいのはこっちの台詞です。何で急にこの子を眠らせたんですか? 神官」
 私はつい「えっ」と生返事してしまったところで、そのついでに喋ることにした。
「今神官が眠らせたの? 何で?」
 唇を噛んで黙っている神官を睨みながらリュウが口を開く。
「俺は別に確証があってそう聞いたわけじゃないんですよ、ただ単純にどのくらいの身長が聞きたくて聞いただけです。なのにその言葉さえも怖がって言わせないなんて、まるで神官が覆面の男みたいじゃないですか?」
 神官は明らかに図星のような表情をした。
 リュウは続ける。
「そもそもずっと貴方の台詞はおかしかった。まるで魔物の量を神官が調節しているような物言いが多かった」
 私もちょっと気になっていたところでもある。
 改めて私も反芻した。神官の言っていたことを。





「これは明らかなんだ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっている! このままじゃ思った以上に被害が出る! それは避けたいんだよ!」
「ワシたちの占い師はオマエに魔物増量の手掛かりがあるという占いが出た。だから梨花を始末しに来たんだ。さすがに魔物の量が多すぎるんだ。どうにかしないといけなくてな」
「コイツで間違いないじゃん! 魔物増量は困るんだよ! せめて元の魔物数に戻せ! 予定が狂う!」





 思った以上に被害が出る? じゃあ思った通りなら自分の思惑通りということ?
 さすがに多すぎるの”さすが”って何? ちょっとくらいの多さは許容範囲ということ?
 予定が狂うって、魔物が一定の量だと予定通りってこと?
 私はモヤモヤしていた点と点は線になった。
「オマエかい!」
 デカい声が出て、ちょっとだけリュウにウケた。
 でも神官は戦々恐々としている。
 当たり前だ、当たり前だというかもうコイツが元凶ってことじゃん。
「知らない……ワシは何も知らない……」
 リュウは溜息をついてから、
「とは言え、今この子を眠らせたのは貴方ですよね。俺は魔力には敏感なんです。弱い弱い眠らせる魔法を放ちましたよね? あの程度の、本来なら誰にも感知されないほどの魔法で眠るような相手はもう怖くないので、この子は俺と梨花が預かります」
「ダメだ……それはダメだ……」
 私はこの瞬間、ある手が浮かんだ。
 だからそれをリュウに伝えることにした。
「リュウ、今から私が描く服をすぐに作ってもらうことってできる?」
「素材はいくらでも持っているから何でも作れるよ」
「じゃあ描くね!」
 私は紙とペンで絵を描き始めた。
 基本的にスーツなんだけども、この小道具が大切で、漫画でも何度も何度も見たこのアイテム。
 そう、警察手帳だ!
「私はこの服を着て神官を吐かせる!」
 リュウはすぐさま服を作って、私は誰にも見られない場所に移動して着替えた。
 イメージは交番の警察官ではなくて、刑事課の警察官だからスーツが基本で。
 私は神官に迫りながらこう言った。
「オマエがやったんだろ! オマエが覆面の男なんだろ!」
 すると神官は怯えだして、下を向いた。
 どうやら警察官の魔力が私には宿っているらしい。
 ここはリアル志向で、かつ丼とか言わずに、いくことにした。
「もうネタは上がっているんだよ! さぁ! 吐け! 今吐けばまあ情状酌量もあるからな!」
 その情状酌量の言葉に反応した神官。
 ここが攻め時だと思って、
「ちゃんと吐けば死刑なんてことはない! 多少は刑に服すことになるが、まあちゃんと数年したら生きて帰ってこれるだろう。何、この牢獄でちょっと休むだけだよ。この牢獄の管理もそのままオマエの部下にやらせる。だから事実上、ちょっと自宅待機しているだけだよ。さぁ、吐くんだよ……吐くんだよ!」
「分かりました! 吐きます! ワシが覆面の男でした!」
 言った! 認めた! でもここからだ!
「何が目的だったんだ! 目的を言え!」
「目的は、自分の思った通りの軍団が、思った通りの展開をすることが好きで、それが見たくてこんなことをしていました……」
「つまり自分が作った映画のような気持ちだったんだな、生身の人間を使った即興ストーリーの監督ってところか」
「はい! それが楽しくて! だから要は役者を異世界転移で補給して! 全部ワシがやっていると思うと快感が込み上げてきて!」
「じゃあ今の魔物を送っているヤツにもそれを要求すればいい! ちょうどいい魔物にしてくれと言えばいい!」
 するとまた黙ってしまった神官の近くの壁を私が蹴ると、また神官が喋り出した。
「それが……コイツの時もそうだったんだが、一度その能力を付与させると、ソイツ自身にも魔力が宿ってワシより強くなってしまうんだよ……コイツも今のヤツもあんまり言うことを聞いてくれなくてな……何で絵を描くヤツはみんな自己中なんだよ……」
「それは人それぞれだろ! じゃあ逆にどうやって今回コイツからその能力を取り上げたんだよ!」
「牢獄に入れられて意気消沈していたからだ……向こうの気力次第といったところだ……」
「じゃあ今描いているヤツを意気消沈させられれば、能力を解除できるということだな!」
 私は語気を強めてそう声を上げると、それに反比例するかのように神官は小声で、
「でも……その今描いているヤツはコイツ以上に、自分が作った魔物が街を破壊していくことに興奮していて、多分一筋縄ではいかないと思うぞ……」
「その今描いているヤツはどこにいるんだ!」
「オマエがいた、地球というところだ」
「また地球かい! じゃあどうやったらその付与した魔力を取り上げることができる! オマエしかできないのか!」
「呪い解除魔法を使える者なら誰でも可能ではあると思う……」
 私はリュウのほうを見ながら、
「リュウは使えるっ?」
「闇の魔法使いになれば可能です」
「よしっ! じゃあ神官! 空間を移動する魔法使えるんだろっ? それで私とリュウを移動させろ!」
 と言ったところでリュウから待ったが入った。
 手を伸ばして物理的に止められた。
 何だろうと思っていると、
「こういう大切なところを神官には任せられません。だから……神官はまず服を脱いでください」
「急にBLっ?」
 と声を上げてしまうと、リュウは不可解そうな顔をしながらこう言った。
「えっ、いや、いいえ、神官の服の構造を確認して、その通りに服を作ればきっと梨花も空間移動魔法が使えるはずです。ここからは神官に頼らず、自分たちでいきましょう」
「確かにそうだ……じゃあ神官は脱げ!」
 と命令すると、その命令のまま脱ぎ始めて、従順過ぎてちょっとキモイなぁ、と思った。
 その神官の服をしっかり細かにチェックしたリュウはまた服を作り出して、神官の服と同じ服を作り上げた。
 そもそもリュウがそのまま神官の服を着てほしいと言わなくて良かったなぁ、と胸をなで下ろしていた。
 私はまた陰で着替えて、神官の服になると、何かいろいろできるような気がした。
 そっか、私が空間移動魔法を使えれば、あの戻りたい同盟の人たちも戻せるじゃん、私が。
「じゃあもう善は急げね! リュウ! 一緒に行こう!」
「分かりました、梨花、よろしくお願いします」
何か異世界転移するぞって感じに念じれば、いける気がしたから念じた。
 そして私とリュウは私の空間移動魔法で地球に戻った。