・
・【畑】
・
畑というか家庭菜園が集まっているみたいな感じで、それぞれ自分の好きな農作物を作るらしい。
私には空きの畑を与えられて、何の種を植えるかみたいな話をしていると、先に畑にいた黒髪の男性が、
「まず農作物の味を知らなきゃ選べないだろ? なぁ、みんな、この転移子に農作物をいくらでも差し出してもいいよな?」
するとその場にいた男性や女性全員が、
「勿論!」
「俺んとこのトマトをまず食べてくれよ!」
「まあトマトなら私のほうが美味しいけどね」
「ここで今トウモロコシが成っているのは僕だけだよ! 生でも食べられるからどうぞ!」
「ナスはあんま生で食べるヤツじゃねぇけど、食いたかったらどーぞ」
と次々に、口々に言ってくれて、めっちゃ良い村だと思った。
あと全部大体味知ってる。
でも形状は微妙に違ったりしていて、これが老人の言っていた『転移子はこの世界の言葉やモノを自分がいた世界の言葉に変換して聞こえ、また喋られる』ということなのかもしれない。
何か味も違いがあるかもしれないので、とりあえず一通り頂くことにした。
……正直めっちゃお腹すいてるし。
まずトマトは本当にトマト、でもちょっと酸味が強いかな、でもこのあたりは本当に品種の違いって感じがする。野性味が強い品種という感じ。
トウモロコシはめちゃくちゃ甘い。普通に高級な八百屋さんで並んでいる感じ。でもこの人の作り方次第って感じもする。ちゃんと一つの苗から一つのトウモロコシしか作っていないので、ちゃんと間引きを行なっているんだと思う。なんてプロっぽいこと思っちゃったけども、私の知識は何もかも漫画やアニメだ。
ナスを生で食べたこと自体無かったんだけども、食べてみると爽やかな甘みと皮のちょっとした苦み、そしてこの瑞々しさがたまらなく美味しかった。
キュウリはもう全く一緒。スーパーで買ってくるヤツ。安物のキュウリの味がする。この風味、この風味。
そして私がジャガイモを女性から手渡しされた時だった。一人の男性が言った。
「いやジャガイモ、生では食べないから!」
すると手渡ししてくれた女性が、
「分かってるわよ! まず持ってもらおうと思っただけ!」
「意地悪で生でかじらせようとしたんじゃないのっ? この転移子、可愛いから」
「嫉妬じゃないからぁ! というかアンタ! そういうこと言わないの!」
と言い合いを始めて、あっ、こっちの世界でも可愛いという言葉がセクハラに認定されているのかなと思っていると、男性のほうが、
「何だよ、嫉妬してるのかよ」
と言うと、女性のほうが顔を真っ赤にしながら、
「当たり前だろ! アンタと私は付き合っているんだから!」
何だ、普通にアツアツなだけかよ、と少しほっこりしてしまった。
というか普通に可愛いとか言われて嬉しいし、私は全然セクハラ認定しない派です。
その男性が私とその女性に近付いてきて、
「どうせ俺が必要なんだろ?」
と女性に言って、何だろうと思っていると、
「まあそうだけどさ、じゃこのジャガイモ、調理しといて」
「しといて、って何だよ! 俺の魔力も無限じゃねぇんだぞ!」
「知ってるわよ、アンタの魔力は見習い魔法使い程度でしょ」
「オマエは見習い魔法使いほどにさえ魔法使えないけどな」
……今、魔力とか魔法使いとか言った……? えっ! えぇ?
「この世界、魔法あるんですか……?」
私がおそるおそる聞くと、その男性がニコっとしながら、
「おぉ! あるぞ! 俺は火の魔法が使えるからな!」
と言うとすぐさま女性が、
「火入れの魔法でしょ、アンタの魔力じゃ」
「一緒だよ! 術者以外が触れたら普通にヤケドするからな!」
そう言って男性は、畑も人もいないほうへ行き、手から炎を出してそのジャガイモに当て始めた。
うわっ! うわっ! 本当に魔法使ってる! めっちゃテンション上がる! いい! この世界めっちゃいい! アガる!
魔力なんてものがあるなんて凄すぎる、と魔力を意識したその時だった。
何だか私の心の奥にも、何かが灯ったような気がした。
あれ、何だろう、私は自分の心の奥に話し掛けてみることにした。
いやそもそもこの心の奥に話し掛けるという感情というか行動もよく分からないんだけども。
すると、何だか私、魔法が使えるような気がしてきた。
何だこの感覚、いいや、まず口に出そう。
この世界に詳しいのは私じゃなくて、この村人たちだから。
「すみません、何だか私も、魔法使えるような気がします」
そう言った刹那、その場にいた全員がこちらを向いた。
いや元々向いていたかもしれないけども、何人かは火入れしている男性のほうも向いていたから。
「さすが転移子だ……」
「特殊な能力、やっぱりあるのね!」
「これはすごいことになってきた……」
「ちょっと、ちょっと、どういうこと?」
「これが転移子の力らしい」
何かハードル上がってない? 大丈夫かなと思いつつ、おろおろしていると、一人の男性が、
「魔法には属性があり、五大属性と言って、火・水・木・風・雷がある。また無属性の魔法もある。水が派生して氷などもあるのだが、ザックリ分けるとこうなる。君の心に今、色はありますか? 何色ですか?」
火入れを終えた男性が近付き、
「おっ、魔法は一切使えない魔法オタク、やってるな?」
と言うとその男性は、
「別にいいでしょう。わたくしが役に立てる瞬間なのだから」
と落ち着いて答えた。
すごい嫌味言われているのに冷静だな、と思いつつ、えっと、今私の心の中にある色は……と思うと、緑色と青色が見えたので、
「緑色と青色です」
と素直に答えると、その魔法オタクと言われた人よりも火入れしていた男性が、
「えぇぇえええええええええ! 二属性! すげぇぇええええええええええ!」
と叫んだ。
どうやら二属性らしい。そしてすごいことらしい。ちょっ、私ヤバくね? テンション、ガン上げじゃん。
魔法オタクの男性は深呼吸してからこう言った。
「ということは木と水ですね、魔法の使い方を簡単にレクチャーします。ヒロ、邪魔しないで下さい」
火入れしていた男性、ヒロさんというんだ。
ヒロさんは頷き、
「こんなすごい魔法使いを前にして、ちょけられるはずないだろ……」
と何かヒいていた。
私はあういう嫌味にヒいちゃうけどな。
魔法オタクの男性はヒロさんの動きが完全に止まったところで喋り出した。
・【畑】
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畑というか家庭菜園が集まっているみたいな感じで、それぞれ自分の好きな農作物を作るらしい。
私には空きの畑を与えられて、何の種を植えるかみたいな話をしていると、先に畑にいた黒髪の男性が、
「まず農作物の味を知らなきゃ選べないだろ? なぁ、みんな、この転移子に農作物をいくらでも差し出してもいいよな?」
するとその場にいた男性や女性全員が、
「勿論!」
「俺んとこのトマトをまず食べてくれよ!」
「まあトマトなら私のほうが美味しいけどね」
「ここで今トウモロコシが成っているのは僕だけだよ! 生でも食べられるからどうぞ!」
「ナスはあんま生で食べるヤツじゃねぇけど、食いたかったらどーぞ」
と次々に、口々に言ってくれて、めっちゃ良い村だと思った。
あと全部大体味知ってる。
でも形状は微妙に違ったりしていて、これが老人の言っていた『転移子はこの世界の言葉やモノを自分がいた世界の言葉に変換して聞こえ、また喋られる』ということなのかもしれない。
何か味も違いがあるかもしれないので、とりあえず一通り頂くことにした。
……正直めっちゃお腹すいてるし。
まずトマトは本当にトマト、でもちょっと酸味が強いかな、でもこのあたりは本当に品種の違いって感じがする。野性味が強い品種という感じ。
トウモロコシはめちゃくちゃ甘い。普通に高級な八百屋さんで並んでいる感じ。でもこの人の作り方次第って感じもする。ちゃんと一つの苗から一つのトウモロコシしか作っていないので、ちゃんと間引きを行なっているんだと思う。なんてプロっぽいこと思っちゃったけども、私の知識は何もかも漫画やアニメだ。
ナスを生で食べたこと自体無かったんだけども、食べてみると爽やかな甘みと皮のちょっとした苦み、そしてこの瑞々しさがたまらなく美味しかった。
キュウリはもう全く一緒。スーパーで買ってくるヤツ。安物のキュウリの味がする。この風味、この風味。
そして私がジャガイモを女性から手渡しされた時だった。一人の男性が言った。
「いやジャガイモ、生では食べないから!」
すると手渡ししてくれた女性が、
「分かってるわよ! まず持ってもらおうと思っただけ!」
「意地悪で生でかじらせようとしたんじゃないのっ? この転移子、可愛いから」
「嫉妬じゃないからぁ! というかアンタ! そういうこと言わないの!」
と言い合いを始めて、あっ、こっちの世界でも可愛いという言葉がセクハラに認定されているのかなと思っていると、男性のほうが、
「何だよ、嫉妬してるのかよ」
と言うと、女性のほうが顔を真っ赤にしながら、
「当たり前だろ! アンタと私は付き合っているんだから!」
何だ、普通にアツアツなだけかよ、と少しほっこりしてしまった。
というか普通に可愛いとか言われて嬉しいし、私は全然セクハラ認定しない派です。
その男性が私とその女性に近付いてきて、
「どうせ俺が必要なんだろ?」
と女性に言って、何だろうと思っていると、
「まあそうだけどさ、じゃこのジャガイモ、調理しといて」
「しといて、って何だよ! 俺の魔力も無限じゃねぇんだぞ!」
「知ってるわよ、アンタの魔力は見習い魔法使い程度でしょ」
「オマエは見習い魔法使いほどにさえ魔法使えないけどな」
……今、魔力とか魔法使いとか言った……? えっ! えぇ?
「この世界、魔法あるんですか……?」
私がおそるおそる聞くと、その男性がニコっとしながら、
「おぉ! あるぞ! 俺は火の魔法が使えるからな!」
と言うとすぐさま女性が、
「火入れの魔法でしょ、アンタの魔力じゃ」
「一緒だよ! 術者以外が触れたら普通にヤケドするからな!」
そう言って男性は、畑も人もいないほうへ行き、手から炎を出してそのジャガイモに当て始めた。
うわっ! うわっ! 本当に魔法使ってる! めっちゃテンション上がる! いい! この世界めっちゃいい! アガる!
魔力なんてものがあるなんて凄すぎる、と魔力を意識したその時だった。
何だか私の心の奥にも、何かが灯ったような気がした。
あれ、何だろう、私は自分の心の奥に話し掛けてみることにした。
いやそもそもこの心の奥に話し掛けるという感情というか行動もよく分からないんだけども。
すると、何だか私、魔法が使えるような気がしてきた。
何だこの感覚、いいや、まず口に出そう。
この世界に詳しいのは私じゃなくて、この村人たちだから。
「すみません、何だか私も、魔法使えるような気がします」
そう言った刹那、その場にいた全員がこちらを向いた。
いや元々向いていたかもしれないけども、何人かは火入れしている男性のほうも向いていたから。
「さすが転移子だ……」
「特殊な能力、やっぱりあるのね!」
「これはすごいことになってきた……」
「ちょっと、ちょっと、どういうこと?」
「これが転移子の力らしい」
何かハードル上がってない? 大丈夫かなと思いつつ、おろおろしていると、一人の男性が、
「魔法には属性があり、五大属性と言って、火・水・木・風・雷がある。また無属性の魔法もある。水が派生して氷などもあるのだが、ザックリ分けるとこうなる。君の心に今、色はありますか? 何色ですか?」
火入れを終えた男性が近付き、
「おっ、魔法は一切使えない魔法オタク、やってるな?」
と言うとその男性は、
「別にいいでしょう。わたくしが役に立てる瞬間なのだから」
と落ち着いて答えた。
すごい嫌味言われているのに冷静だな、と思いつつ、えっと、今私の心の中にある色は……と思うと、緑色と青色が見えたので、
「緑色と青色です」
と素直に答えると、その魔法オタクと言われた人よりも火入れしていた男性が、
「えぇぇえええええええええ! 二属性! すげぇぇええええええええええ!」
と叫んだ。
どうやら二属性らしい。そしてすごいことらしい。ちょっ、私ヤバくね? テンション、ガン上げじゃん。
魔法オタクの男性は深呼吸してからこう言った。
「ということは木と水ですね、魔法の使い方を簡単にレクチャーします。ヒロ、邪魔しないで下さい」
火入れしていた男性、ヒロさんというんだ。
ヒロさんは頷き、
「こんなすごい魔法使いを前にして、ちょけられるはずないだろ……」
と何かヒいていた。
私はあういう嫌味にヒいちゃうけどな。
魔法オタクの男性はヒロさんの動きが完全に止まったところで喋り出した。