・【尋ね人】


 銀髪の女性・バルさんが、私とリュウが作業着で服を作っている時に家へ訪ねてきた。
「梨花、リュウ、なんかアンタたちに用があるって人が来ているから集会所に来てほしい」
 私とリュウは小首を傾げながら、バルさんと一緒に集会所へ行くと、そこには物々しいというか、何か仰々しいというか、戦闘集団のような人たちが集会所で偉そうに座っていた。
 見るからに最悪だったので、何か溜息をついてしまうと、その中で神官のような恰好をした男性がこう言った。
「遅い、どれだけ待たせる気か」
 するとバルさんが、
「全然待ってないでしょ」
 と言うと、向こうの集団の剣士が剣を抜きそうに見えたので、私は素早く移動して、その剣に手をかけたところを手で抑えて、
「何する気?」
 と聞くと、神官は笑いながら、
「まあいい。それだけ速く動ければまあ合格だろう」
 剣士は舌打ちをしてから、手を剣から放した。
 何だこのカス集団と思っていながらリュウのほうを見ると、リュウは明らかに慄いているような面持ちだったので、
「リュウ、どうしたの?」
「いや……あの……正義騎士団の方々ですよね?」
 と言ったので、コイツらが正義のはずないだろと思っていると、神官がこう言った。
「いかにも。ん? オマエ、どこかで見たことあるな、どこだっけなぁ、まあワシが覚えていないということはその程度の人間ということだ、どうでもいい。さて、梨花、ワシたちの女になれ」
 このクズ神官、一回の台詞で何個屁をこくんだと思いながら、わなわなしていると、その正義騎士団と名乗る集団がゲラゲラ笑いながら、
「世界神官様! 女になれ、は、さすがに言葉足らずです!」
「でもまあ女になれでもいいっすけどねぇ!」
「こんな子をみんなでまわしたいもんだなぁ!」
 と言ったところでバルさんが声を荒らげた。
「下品な連中め! そんな連中はこの村に滞在させない! 出て行け!」
 その瞬間、向こう側の魔法使いが詠唱したと思ったら、雷の魔法を出現させてバルさんへ向かって飛ばした。
 イライラし過ぎて反応が遅れてしまった私、ヤバイと思った時にはリュウが受け止めていた。
 ホッとしていると、リュウが頭を下げてこう言った。
「申し訳御座いません! 村の人間が無礼を働いてしまい! ご用件は一体何でしょうか!」
 えっ? と思ってしまった。
 いやだってどう考えても悪いのはコイツらじゃん、リュウ一体どうしてしまったの? と思っていると、神官が口を開いた。
「気の強い女を服従させることも楽しいんだが、まあ今日はそういう予定じゃない。梨花、悦べ、オマエを正義騎士団に入れてやる。これからワシたちと魔物退治をしていくのだ」
「は? やるはずないじゃん」
 思った言葉がそのまま口から出てしまった。
 いやよくよく考えれば、リュウが変なんだからそれに合わせて言ったほうが良かったのかもしれないけども、こんな連中にそんな言葉遣いをするわけないじゃん。
 すると神官はわなわなと唇を震わせてから、こう言った。
「そんな答えは待っていないんだよ! じゃあ言うぞ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっているんだよ! 責任をとらんか!」
「いや知らんし」
 神官は唾を飛ばしながら叫ぶ。
「これは明らかなんだ! オマエがこの世界に来てから! 魔物が強くなっている! このままじゃ思った以上に被害が出る! それは避けたいんだよ!」
 それにしても、オマエがこの世界に来てからって、何?
 私をずっと捕捉していたの? と思っていると、リュウが口を開いた。
「やはり世界神官様が梨花をこの世界に呼び寄せたのですか? 特殊な能力を持っている人間として、転移させたんですか?」
 ん? と思っていると、神官は偉そうにこう言った。
「いかにも。まあ最初は眠たいだけのただのザコだと思って放置したが、どうやら能力は違ったようだな。だから今こそスカウトに来ているのだ」
 ……! コイツが私をこの世界に連れてきた張本人っ? マジかよ! というか! 何か聞き覚えのある声!
 あの時だ!





 どんな夢だったか眠気まなこで反芻する。
 私はパジャマで、幻想的な光り輝く空間に横になっていた。
 そこは見たこともないような黄金の部屋、というか壁も天井も床さえもない文字通り空間で、私はどこにいるんだろうという、さながら幽体離脱感覚だった。
 その空間の奥から男性二人組の声がして、
「まさか」
「もういい」
「でもまさか」
「こんなんはもういい」
 と小さな声でボソボソ話していた。
 何に対して言っているのかは分からないけども、言い方的に何だか私への悪口っぽくて、ちょっとイラついたことを覚えている。
 最後にその男性の一人が、
「本当にもういい!」
 と叫んだら、目が覚めて、って、まだ私は目が覚めていないけども、そう、今こうやって目が開けて……って!





 ……の! 『本当にもういい!』と叫んでいたヤツだ!
 そうか! 私は特殊な能力を持っている人間として呼び寄せられたけども、パジャマの能力を引き出していた結果、ただの眠いヤツと判定されてその場に捨てられたんだ!
 おい!
「私を捨てるなよ! この村の方々が拾ってくれたから良かったけども!」
「だから今拾ってやると言ってるんだ、悦べ、梨花よ」
「喜べるはずがないだろうがぁぁあああああああああああああああ!」
 めちゃくちゃデカい声が出た。
 場も何か静まり返った。
 このまま何か消滅しないかなと思っていると、神官がこう言った。
「逆にどうしたら正義騎士団に入るか? ワシはオマエの力を買ってやってるんだぞ?」
「せめてリュウと一緒とかなら考えてやってもいいけどなぁ?」
 と答えておくと、神官は高笑いを上げた。
 何なんだと思っていると、
「正義騎士団にこんなザコを置いておくスペースなんてないわぁ!」
 と叫ぶと、他の連中もケタケタ笑い出して、もう何かもう、マジで語彙消失だが、最悪だった。
「帰れ、というか帰らないなら私が」
 と言って私はエイリーの服に変身すると、何かキモイ拍手が起きてキモかった。
 いやいや、もういい、
「私がオマエたちを始末する」
 と睨みつけると、神官や他の連中も立ち上がって、
「一旦引くしかないようだな」
 とか言って集会所から出て行った。
 いや普通に私にビビってるし、とか思っていると、バルさんがこう言った。
「塩撒こう、塩」
 塩撒くという行動、こっちでもあるんだと思った。
 私はバルさんと塩を持ってこようと、近くの家へ行こうとすると、リュウが何かキモ集団のほうへついていくので、
「どこ行くの? リュウ」
「いや一応最後に頭を下げようかなと思って」
「いいよ、そんなの」
「でもあの方々はこの世界を牛耳って、治安を守る正義騎士団なんだ」
「そんな風には見えないけどね」
「ゴメン、今だけはちょっと離れるね」
「まあリュウがやりたいんだったら否定はしないけど」
 私とリュウは離れたんだけども、何だかモヤモヤしてきて。
 そりゃ塩撒くシスターズは失礼だけども、それ以上にアイツら失礼だったじゃん。
 でもそういう何か、頭を下げたりしないとこの村に嫌がらせが来るのなら、と思った時だった。
「わぁぁああああああああああああああ!」
 村民の叫び声がエントランスのほうから聞こえてきた。
 だから私はエイリーの神速で、エントランスのほうへ向かうと、なんと剣を抜いた剣士がリュウに対して斬りかかっていた。
 リュウも魔法を出す直前だったけども、それよりも私のほうが速く、剣士のアゴをドロップキックした。
「ぐへぇぇぇえええええええええええええ!」
 汚ねぇ声を上げた剣士は無視して、
「何してんだ! オマエら!」
 神官は苦虫を噛み潰したような顔をしてから、
「一旦退却だ!」
 と言ってどこかへワープしていった。
 本当はワープする直前に隙があったので、神速で叩き込むことも可能だったけども、深追いはしなくていいかと思って棒立ちしておいた。
 私はリュウへ、
「何があったのっ?」
「いや、多分梨花が正義騎士団に入るためには俺が邪魔だと思って急に攻撃してきた。俺が死ねば、ってことなんだろう」
「そんなん私から恨み買うだけじゃん!」
「「「「その通り!」」」」
 急に大きな声がエントランスの外から聞こえてきて、私はついビックリしてしまうと、私とリュウの視線の先には四人のパーティがいた。
「えっと、今度は誰ですか……?」
 と驚いたついでに、おそるおそる聞くと、その四人のうち、勇者の恰好をした人がこう言った。
「正義騎士団を壊滅させたい同盟です」
 次から次へと何なんだ……と思っていると、その勇者が一歩前に出てこう言った。
「我々は正義騎士団に異世界転移させられて、そのくせ捨てられてしまい、どうすればいいか分からない同盟です。正義騎士団を壊滅に追い込み、また元の世界に転移してもらうことを目的としています。是非我々と共に闘ってください!」
 そう言って頭を下げた勇者と、他の三人も。
 まあ悪い人たちじゃないということは大体分かったけども、
「多分復讐するほど強い相手じゃないですよ? 適当にワンパンで言うこと聞かせて、転移してもらえばいいじゃないですか」
「それは貴方が強いからです! 我々にその力は無いんです!」
 ハッキリ力が無いと言われてしまった、と思っていると、勇者がまた口を開いた。
「向こうの世界に会いたい人や未練は無いのですか!」
 それを言われた時、何か、なんというか、まあ、一人だけコスプレ仲間の顔が浮かんだけども、あとはまあって感じだった。毒親だったし。
 今から戻って会社で仕事? 無理無理、だってリュウと一緒にいたいし。
 だから、
「まあ、私は別にいいかなぁ」
 と答えると、その勇者や他の三人も目が飛び出るほど驚いてから、
「そ! そうですかぁ……はぁ……」
 と言ってから、すごすごとどこかへ消えていった。
 でもそうか、
「私って薄情なのかな」
 とポツリと呟くと、リュウが私の手を握りながら、こう言った。
「そんなことないです。むしろ俺に対して情が深いんです。こっちの世界に残ってくださる決断をして頂き、誠に有難うございます。少なくても俺は幸せです」
 リュウが幸せならいっかと思って、私とリュウはまた家に戻っていった。