・【風魔法】


 リュウは落ち着いた声で、かつ、分かりやすく時々強調しながら喋っている。
「風魔法は風を操って時には移動し、時には攻撃をする魔法です。攻撃にならない加減で自分に風を当てることにより、浮いたり、早く移動することができます。いちいち自分で強弱を調整するというよりも、先に調整した風魔法を心の中で唱える方法が楽だと思います。ちなみに心の中で唱えることと声に出して唱えることの違いですが、心の中で唱えるほうが小さい魔法しか扱えず、声に出して唱えることで大きな魔法を扱えるといった感じです。風魔法で移動する時はどっちにしろ小さい調整で大丈夫なので、先に設定しておくといいですよ」
 なるほど、リュウって聞きたいこと全部先回りして言ってくれて楽だなぁ。
 まず自分の中で、これくらいかなと思って風魔法を下から当ててみると、ふわっと浮いた。
 それに対してリュウが、
「すごいです! 一発でそういう感覚を出せるって本当に才能あります! 梨花さんは、梨花は天才ですね!」
 何かめっちゃ褒めてくれるし、最高にアガる。
 上下左右に移動して、何だか感覚が掴めた感じ。
 これに風移動小という何の捻りの無い名前を付けたところで、もうちょっとスピードを上げてみようと思ったその時だった。
 ヒュン。
 私は思ったよりも上へ飛んだ、というよりも上空に飛ばされた。
「わぁぁあああああああ!」
 私はパニックになってしまい、目を瞑ってしまった。終わりだ。終わりだ。
 と思っていると、何かに当たって優しく跳ねたような感覚がした。
 そのあとに何かにギュッと支えられたような。
 おそるおそる目を開けると、なんとリュウが私をお姫様抱っこしていた。
「最初はこうなりますからね。大丈夫です。これが普通です。ただ梨花は元々魔力が高過ぎて出力の幅が大きいだけです」
 そう言って私を優しく草むらにおろしたリュウ。
 でも跳ねたような感覚は何なんだろうと思っていると、近くにトランポリンのようなモノがあった。
「トランポリン」
 と私が反射で呟くと、
「俺は布を扱うことが得意で、こういったモノならいつでも出せるんです。トランポリンの強弱も自分で設定できますし」
「それは火・水・木・風・雷のどれ? それか無属性?」
「そういう属性には当てはまらない魔法もあるんです。言うなれば布ですね」
 そんな言うなれば布なんてまんまなこともあるんだ、私は感心していると、リュウが、
「風魔法扱うこと、まだできますか? 今ので疲れましたら一回休みましょう」
 と言ってくれたんだけども、今の感覚を大切にしたいので、私はもう一度チャレンジしてみた。
 すると強風の速度で完璧に移動できるようになった。
 リュウは手を叩いて、
「素晴らしいです! 梨花すごすぎる!」
 と言ってくれて、めっちゃテンションが上がった。
 さて、最後は、
「エイリー……チャイナドレスだね!」
 そう私が言うと恥ずかしそうに笑ったリュウ。いやオマエが作ったんだろ、とは思った。可愛いからいいけども。リュウも服も。
 あと私が何か言いかけても全然そこには突っかかってこない。
 そういうことをいちいち言ってこない心の広さがめっちゃ好きだ。
 リュウは咳払いを一回してから、
「では、チャイナドレスに着替えてください」
 と言ったので、私はウキウキで早着替えの魔法をした。
 やっぱりこの服は体に密着して、自分のスタイルがくっきり浮かび上がる感じがたまらなくカッコイイ。
 摂生に努めた生活をしてこれた成果が出て、自己肯定感が上がる。
 リュウはそれなりに満足そうな顔しながら、うんうん頷いて、
「その服は徒手空拳なので、基本的な運動神経が飛躍的に上がっているはずです。適当に体を動かしてみてください」
 言われた通り、走ったり跳んだりしてみると、風魔法を使っているほどに素早く動け、またジャンプ力も飛躍的に上がり、着地する時に大丈夫かと思ったけども、全然普通に地面に降り立つことができた。
「使いやすい! この服!」
「梨花に合っているのかもしれないですね。いや、それ以上に似合っています。可愛いです。梨花」
 いや!
「急に真っ直ぐ褒めないでよ!」
 顔が火照ってきた。
 リュウは慌てながら、
「こういうこと言うのダメですか?」
「いや別にいいけども! 急にどうしたのとは思う!」
「俺はずっと言いたいですよ。でも言ってばかりだと効力が薄れるかなとか思っています」
「だとしたら言い過ぎなほうだよ!」
「でも言葉は気持ちを伝えるためにあるんですから、言い過ぎだと思われても俺は言いたいです。ダメですか?」
「だっ、ダメなはずないじゃん! ありがとう!」
 そう私が荒らげると、
「でもそんな大きな声ばかり出させてしまうんでしたら止めますよ」
 と言って私を優しく抱きしめたリュウ。
 まるで荒ぶる小動物を収めるかのように。
 どうやらリュウは溺愛ぶりが始まると止まらなくなるらしい。
 だから私は身を任せることにした。
 優しく私の頭をポンポンして、撫でてくれるリュウに私は抵抗しないことにした。
 何で異世界転移したかは分からないけども、こんなことをしてくれる男性と出会えたんだからラッキー一択だ。
 もしかしたら私へのご褒美なのかもしれない。いや分かんないけど。
 ちょっとしてからリュウは離れて、
「では続きをしましょうか。心の奥底を見て、どの属性が使えそうですか?」
 自分の心の奥底を見ると、もう心臓がバクバクいって興奮しまくってしょうがない。
 もう虹色だ、いろんな感情が出てくる虹色、と思っていると、本当に何だか虹色が見える。
 なんというか、色がマーブル模様になっているような、シャボン玉溶液の光の反射みたいな感じ。
 私は試しに、赤色を念じながら蹴りをしてみると、なんと、炎を纏った蹴りが出た。
「素晴らしいです! やっぱりドラゴン模様なので火ですね!」
 そうリュウは拍手したんだけども、いや、もしかすると、と思い、今度は青色を念じながら蹴ると、水を纏った蹴りが出て、それを見たリュウが「えっ!」と叫んだ。
 いやまだまだ、私はこの青色には、少し透明な青色もありそうだと思い、それを念じて蹴ると、今度は氷を纏った蹴りが出た。
 リュウは開いた口が塞がらないといった感じ。
 何だかもっと驚かせたいと思って、私はどんどん感じた色を念じて蹴りを繰り出した。その結果、バラのトゲを纏った蹴り、岩の蹴り、風の蹴り、雷の蹴り、そして光っているような蹴りも出せた。
 でもこれこそエイリーだと思った。
 エイリーは闇属性以外の属性を全て出せて、闇落ちした時に闇属性も出せるようになるんだ。
 まさにエイリーだなぁと思ってニコニコしながらリュウのほうを見ると、呆気にとられているような表情をしていたはずのリュウは何だか恐怖で震えているようだった。
 いやいや!
「何か変だったっ?」
 あまりにもおののいているので、私はビックリし、少々焦りながらそう聞くと、リュウは、
「俺の予想を上回る属性まで使えています。梨花とシンクロしています。その服は」
「エイリ、チャイナドレスが私とシンクロ! めっちゃ嬉しい!」
「そうですね、俺も嬉しいです。本当にすごいです。梨花は天才です!」
「ううん! この服を作ってくれたリュウが天才なんだよ!」
 と抱きつこうと思ったその時だった。
 村のエントランスのほうから叫び声が聞こえた。
 リュウは一気に真剣そうな表情になり、
「魔物かもしれません。俺が倒します。行きましょう」
 と言ったので、私も気を引き締めて、リュウのあとをついていった。
 でも何だかリュウの速度が遅く感じたので、私は、
「先に行って倒せたら、倒しておく!」
 と私が言うと、リュウは一瞬不安そうな顔をしたけども、
「無理しないでください」
 と言って優しく私の背中を押してくれた。
 何だかこれなら圧勝できると思った。
 村のエントランスに着くと、そこには恐竜のような怪物がエントランスの看板を壊して、暴れていた。
 村人は逃げ惑うだけで何もできなくて。
 恐竜の身長は三メートルくらいあるけども、速度は遅そうだから一気に仕留めると思ったところで、その恐竜が体の周りに風を纏い、近くのモノや草木を風で巻き上げて、巻き上げたモノなどを意図的に操作して、村人へ向かって発射した。
 私は瞬足で、その村人の前へ行き、水の蹴り上げでシールドを出現させて、守った。
「梨花さん!」
 私は声援を背中で感じながら、恐竜の方向を向いた。
 逃げている途中で腰を抜かした村人に向かって、攻撃を発するなんて許せない。
 恐竜は体の周りに風を纏っているのなら、その風を炎で熱くして攻撃すればいいと思った。
 だから足先に炎を込めて、足先から火炎放射を出すようなイメージで突くような蹴りを発したその時だった。
 ズゴォォオ!
 私の足先からは火炎放射のように広がる感じではなくて、炎のレーザービームのようなモノが一直線に出て、恐竜を貫いた。
 すると恐竜は黒と紫のモヤに包まれて、そのまま消え失せた。
 何だか素材になりそうな皮膚というか布や何か宝石のようなモノを落として。
 ……あれ? 想像と違くね? ……私はじわじわ炙ってダメージを与えるつもりだったんだけども、めっちゃ宇宙SFロボットモノのビームが出た……。
 一瞬何が起きたのか分からず、静まり返る現場、その数秒後、黄色い声援が聞こえてきた。
「すご! 梨花すごい!」
「梨花の魔力半端無いぞ!」
「というか梨花の服可愛い! んで強いて!」
「凄すぎる! これでこの村は安泰だ!」
「火、火なのか……? 強すぎる……勝てない……」
 最後、ヒロさんだった。じゃがいも火入れ魔法使いのヒロさんだった。
 声援は鳴りやまない。
 リュウが私の隣にやって来て、
「大丈夫だった? 梨花!」
 と私の手を握った。
 いや、
「何か余裕だったかもしれない……」
「それは良かった! それが一番良いことだから!」
 私の無事を見て、ホッとしているリュウへ私は、
「あの、魔物が起き上がることってないかな? ほら、あそこに素材みたいなのが落ちているんだけども、そこからまた新しい魔物が召喚されるとか」
「いや、ああいった素材が落ちている時はもう完全に倒した証拠ですよ、こういう魔物の素材も服になるんですよ……って! えぇぇえええ!」
「……どうしたの、リュウ?」
「何か、二メートル以上の恐竜みたいな魔物だった……?」
 何だかまた震え始めたリュウに、何なに、やっぱり復活するの? と思いながら、
「いや三メートルくらいあったけども……」
 と答えると、リュウが目を丸くしながら、
「上級魔物だよ……今の魔物……それを倒すなんて……すごいよ、梨花……」
 と、ちょっとヒいてるくらいの感じだったので、私は慌てて、
「いやいや! そんな強く無かったよ! ちょっとだけ風魔法使うだけで!」
「いや魔物はあんまり魔法も使わないんだよ、牙や爪で襲ってくるだけなんだ……あとは火を吹くくらいかな、うん……」
 何かめっちゃヒいてらっしゃる……いや!
「ヒかないで!」
 とハッキリ言ってしまうと、リュウは、
「ヒいているわけじゃないんですよ、でも本当にすごくて……梨花は本当に才能に溢れていると思います」
 でもちょっとヒいているような気もするけども、でもまあそう言ってくれているんだからもうそれを信じよう。
 というか私、もしかするとめちゃくちゃ強い?