元コスプレイヤーが新婚旅行しているだけですが?


・【早着替えの魔法】


「さて、まず梨花さんにはこのなんてことない服を着て頂きたいんです。きっと梨花さんも慣れれば着ていない服もすぐ着れるようになると思いますが、最初なのでまず着替えてください。
 その服はTシャツにシャツを羽織る感じで、下はジーパンだった。マジでなんてことない服。
 私は、
「この服にはどういった効果があるんですか?」
 と聞くと、リュウさんは優しく首を横に振り、
「これは何の能力も無い、普通の服です。多分それでも梨花さんはこの服の能力をフル活用してしまうとは思うのですが、能ある鷹は爪を隠す、この服で自分の特殊な能力を隠して下さい」
「隠したほうがいいんですか?」
「魔力の高い人間はいろんなことに狙われやすいんです。何か戦闘があった時、真っ先に狙われるというか。梨花さんは見習い魔法使いの服を着た時、正直魔力は中堅以上の魔力がありました。引き出し過ぎてしまうんです。梨花さんは」
「つまりチートということですか?」
「そうなりますね」
 と頷いたリュウさん。
 チートという言葉も通じるんだと思いつつも、そう言えば異世界転移子は自分の世界の言葉に変換されるって言っていたし、実際は違う言葉でもちゃんと通じるように会話できるんだろうな、と考えた時に、すぐにあの言葉が思い浮かんだ。
 それは『チャイナドレス』だ。
 中国のドレス、中国という言葉を知らなきゃ出てこないはずの言葉。
 これもちゃんと変換されるのだろうか、変換されなきゃ鬼神騎士のエイリーの服は説明できないな。
 いや別にリュウさんにエイリーの服を説明して作ってもらおうとかそんな計画は無いけども……って、
「リュウさん、どこに行くんですか?」
「いやだって梨花さん、これから着替えるわけですから一旦退席しますよ」
「もう付き合い始めたということなんですから別に大丈夫じゃないですか?」
「そんな、だからって着替えているところに同席するなんて恥ずかしいじゃないですかっ」
 と慌てるように言ったリュウさん。
 何これ、めっちゃ可愛い。急に席席言い始めてちょっと変とは思うけども、こういうこと気にしてくれる男性というのもアリだな。
 それなら、
「じゃあ私が着替え終えたら」
「はい、それでよろしくお願いします」
 そう言って玄関から外に出て行ったリュウさん。
 真面目でお堅いところも似ている……って、漫画のキャラと比べるのはちょっとキモイな、自重しようと思いながら着替えて、リュウさんを呼び戻した。
「どうですかっ?」
 と私が軽く半回転すると、
「自分が作った服でどうこう言うの少し恥ずかしいですが、可愛いと思います」
 と少し照れくさそうに笑った。それが可愛いんだよ。バカかよ。最高かよ。
 でもすぐにまた真面目な顔になって、こう言った。
「……やっぱりちょっと魔力ありますね、別に魔力を増幅させるような服でもないんですが」
「そう言われると、何かちょっと元気が出るような。軽やかな気持ちになるなぁ」
「つまるところ普段着なので、晴れやかな気持ちになってしまっているんだと思います」
「いや、嫌なことみたいな言い方されましても」
「でもこんなに服の魔力を引き出すお方初めてなので……これは本当に俺が作る服、すごいことになるのでは……ソフトクリームにフルーツ全部乗せ的だ……」
 何か役に立てそうで嬉しい。アガる。
 リュウさんはまじまじと私のほうを見ながら、
「不思議ですね」
 また魔力の話が出るんだろうな、と思っていると、
「今まで赤の他人だったのに、こうやって二人きりで部屋に入って。銀髪の女性ももういない。一目惚れした相手と一緒に居られるなんて幸せなことあるんですね」
 いや!
「魔力の話わい!」
 いつも言わない語尾でツッコんでしまった。
 するとリュウさんは微笑みながら、
「どうしても言いたくなってしまって申し訳御座いません。不快でしたか?」
「めっちゃ気分良いわ! ありがとう!」
「それなら良かったです。同じ気持ちで居て下さったみたいで」
「……あの、リュウさん、私もですけども敬語止めませんか?」
 私がそう提案するとリュウさんがう~んと斜め上を見てから、
「ならば、敬語にならないように、会話しましょうか」
「その言葉も若干なっているけども、敬語無しでいきましょう」
「分かりました。梨花さん」
「そのさん付けも!」
 と言って私がリュウさん、いやリュウを指差すと、
「分かりました、梨花。では梨花も俺のことリュウと呼んで下さい、いや呼んでほしい」
「勿論リュウ! これからよろしくね!」
「はい! 梨花さん! よろしくお願いします!」
 リュウの敬語癖強いなぁ、と噛みしめていると、リュウが、
「では魔力の話ですが、やはり梨花は魔力が特殊ですね。本当に服によって魔力が大きく変化するというか。俺は魔力に敏感なほうなのですが、梨花の魔力は不安定というかなんというか読みづらかったです。最初の時、不安そうな表情をしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした」
「いや! 敬語無しの流れからめっちゃ正式な謝罪を述べないでよ! いいよ! もうそういうことは!」
「ちゃんと謝らないといけないかなという気持ちが出てきて、申し訳御座いません」
 まあ丁寧な男性も嫌いじゃないけどね。優しく扱ってくれている感じもするし。
 でも、
「そんなかしこまった言い方ばかりしなくていいからね!」
「分かりました」
 そう言って一礼したので、そういうところだぞ、と思った。まあいいか。最高だし。
 リュウは口を開き、
「それでは早着替えの魔法をお教えします」
 めちゃくちゃ敬語じゃん、と思いつつも、いちいち指摘していてもアレなので、ここはスルーすることにした。
 リュウさんは私のクローゼットを指差しながら、
「あちらから農夫の恰好を取り出してもよろしいですか?」
「どうぞ、どうぞ」
 リュウは農夫の恰好を手に取り、それを私に渡してきたので、受け取ると、
「この農夫の恰好を着ているイメージをして下さい。そして同時に今着ている服は魔力の中に押し込んで仕舞うイメージを」
 そんな同時に二つのことなんてできるかな、と思いつつも、やってみると何だか一瞬裸になってしまった気がして、
「ああぁぁああああああああ!」
 と叫んでしまったが、普通に農夫の恰好をしていた私。
「そんなすぐにできる魔法でも無いんですけどもね、梨花さん、梨花、やっぱり魔法のセンスありますね」
「いやでもこれ失敗していたら裸になったんじゃないんですか!」
「そうなったところは見たことないので、多分大丈夫です」
 とニッコリ微笑んだリュウさん。
 まあ着替えくらいで慌てる人だから本当にそうなんだろうけども。
 何はともあれ早着替えができた私にリュウさんは、
「それにしても、どこかで早着替えしていましたか。才能の塊ですね」
 と言われたので、会釈しながら、
「まあコスプレイヤー時代に」
 と答えておくと、
「こすぷれいやー……?」
 と頭上にハテナマークを浮かべているような反応。
 そういう言葉は無いのか知らないのかは分からないけども、伝わっていないようだった。
 この異世界にはコスプレイヤーというモノが無いのかもしれないなぁ。もったいない。
 リュウはまだ小首を傾げながらも、
「それではこれから梨花さんに、梨花には、今ある服をセットしてもらいたいので、一度着替えてほしいんです」
 そう言いながらリュウはどこからともなく服を出し始めた。魔力の中に仕舞っていた服というヤツかな。
 最初に私に見せたのは魔法使いっぽい服。
 見習い魔法使いの服とは違い、緑を基調とした服だった。
 リュウは言う。
「魔法使いの服は基本的にジェンダーレスなので、誰にでも合いますね。後で細かく採寸をイジれますし」
 見せたのち、一旦テーブルに置き、また別の服を見せてきた。
「これは僧侶の服ですね、こちらも基本的にジェンダーレスで、ムキムキ過ぎる男性以外は着れますね」
 十字架の紋様がある服だ。この異世界でも僧侶って十字架なんだぁ、と思った。
「最後は……いや、大体こんな感じですね。この二つを着替えて、ついでに早着替えの魔法をして魔力の中に入れておいてください。入れたら普段着の服に戻ってください」
「そんな味気ないこと言わないでください。ちゃんと着た後の感想をリュウさんからもらいますから。あと、今何か言いかけました?」
 と思ったことをただただツラツラ喋ったら、急にリュウは額から汗をじんわりかき始めたので、
「どうしたの? 何か私、言っちゃいけないこと言った?」
「いえ……その……はい、大丈夫です……」
 何か怪しい。というか怪し過ぎる。絶対に何か隠している。
 だから、
「何か隠しているなら言ってください。そういう隠し事とか好きじゃない、かなぁ?」
 とちょっと揺さぶりをかけてみると、リュウは汗を流し始めて、新陳代謝良すぎかよと思った。
 リュウは指で汗を拭きとりながら、
「ま、まあ、ちょっと、面白そうだな、と思って、作った服が、あります……無駄に手を加えたカットフルーツのような服が……」
 ちょっと俯きがちで慌てている様子。
 面白そうだなと思って作った服って、何?

・【面白そうだなと思って作った服】


 私は何かイジりがいがあるような気がして、ちょっと詰めてみることにした。
「面白そうな服って何? 私が着れそうな服があるということ?」
「まっ、まあ……しゅ、趣味とか、じゃないんですけども……」
 何だこの感じ。何か見たことある。これはアレだ。私だ。
 変な性癖が友達にバレそうになっている時の私だ。
 もしかするとリュウって……
「めっちゃいやらしい服、作ったことがあるの?」
「そういうわけじゃないです! 仲間内でいいなみたいな感じになって!」
 めっちゃデカい声出すじゃん、と思いつつ、ついニヤニヤしてしまう。
 そっか、そっか、リュウも私と一緒で服の癖があるのねぇ、それは似た者同士で興奮するわぁ。
 私は優しく諭すように、
「大丈夫、私もいろんな服好きだから。変わった服を着ること、前の世界でもあったからさ。私に見せてごらん? その服」
「えっ、梨花は向こうの世界ではモデルだったんですか?」
 モデルという職業はこっちにもあるみたいだ。
 えっと、どうしよう、まあいいか、
「そう、私モデルだったの。さらに自分で服を作ることもあってね」
 と言うと、嬉しそうにパァっと顔を明るくしたリュウ。
「服! 自分で作っていたんだ! じゃあ変わった服の耐性もあるよね!」
 変わった服の耐性という言い方し始めたなぁ、と思いつつ、私は、
「そうそう、だからその変わった服というヤツを見せてよ。私めっちゃ服好きだから」
「そ、それなら……あくまで、あくまでね! 研究のために作っただけで! 変わり種のアイスみたいなもんで!」
 いやまだ見せていないのに、すっごい言い訳を走らせる。
 焦り過ぎて敬語じゃなくなっているし、それはいいんだけども。
 というかリュウの作った変わった服って何だろう、ボンテージとかかな、結構ハードなのかな、それともハードにされたいのか。
 ボンテージとか着たら、どんな魔法使えるんだろうとか思っていると、
「じゃ! じゃあ! 見せるね! このチャイナドレス!」
 とリュウが言って「えぇっ!」と思った。
 こっちの世界でもチャイナって言ったと思った瞬間に、いや私の言い回しに変換されるのかとも思ったり、でもそれ以上にチャイナドレスがあるなんて、とも思ったり。
 そしてリュウが見せたその服はなんと鬼神騎士に出てくるエイリーのチャイナドレス激似だったのだ!
「エイリーだ!」
 つい叫んでしまった私。変な顔されていないかなとすぐにリュウのほうを見ると、リュウはそんな私が言ったことなんて多分耳に入っていないくらい、耳まで真っ赤にして立っていた。
「この脚のスリットは、その、動きやすいという意味もあるん、だってさ……」
 脚の長すぎるスリットもまんまエイリーの服だ。
 この赤色を基調として、ドラゴンっぽい金色の模様が全身に走っているところもまさに。
 胸のところが大胆に開いているところもまさに漫画のチャイナドレスだった。
 これ、もしや私、エイリーの技が使えるようになるの……? と思いながら、すぐさまチャイナドレスを手に取ると、リュウは、
「えっと、これ、大丈夫かな……多分、梨花のサイズに合うと思うんだけども。この服は多少サイズが合わなくても、ピッタリくるような魔力を入れているから綺麗に収まるはず、なんだけども」
「着る! ありがとう! リュウ! 大好き!」
 そう言って今すぐ着替えようとするとリュウが慌てて、
「外出るから! 他の服もよろしく!」
 と言って玄関から外に出た。
 私はリュウの背中がまだ見えている段階から着替え始めていた。
 だってエイリーの服が着れるなんて夢のようだから。
 私は完成させることができなかったから、このピッチリと収まる感覚を味わうことができなかった。
 でもこっちのこの服はどうやら魔力で体にフィットするみたいで、言っていた通り、ピッチリとフィットできて、ちょっとエロいなと思って心が躍った。
 これは囲みがすごいのでは、そんなことを考えながら、自分の体をまじまじと見た。
 いやいや他の服も着替えるんだった。
 それを思い出して、僧侶の服と魔法使いの服を着た。
 最後に普段着に戻して、リュウを呼んだ。
「終わりましたね」
 と部屋に入ってきたところで、すぐに私はチャイナドレス、というかエイリーの服にした。
「どう! 可愛いでしょ!」
 するとリュウは体をビクンと波打たせてから、
「か、可愛いです……」
 と開いた口が閉じず、リュウのほうが全然可愛かった。花持たせろよ、おい。
 ちょっと挙動不審になっているリュウをからかいたくなった私は、
「ねぇ、リュウ、こういうの好きなんだぁ」
 と言って前かがみになって胸を寄せてみると、リュウは首をブンブン横に振ってから、
「いやいや! 堂々と立っている梨花のほうがカッコ良くて好きだよ!」
「ちょっとぉ、リュウ、カッコイイよりも可愛いって言ってよ」
「可愛い! それは勿論可愛い! エキゾチックで本当に素敵だと思うよ!」
 すぐ可愛い以外も言うんだから、可愛いな。
 まあ胸はこれくらいにして、と思いながら脚のスリットを前面に押し出し、
「どう?」
 と言ってみると、少々困惑しながらも、
「走りやすそうですね!」
「いやそうじゃなくて!」
「その……えっとぉ……脚が綺麗ですね……」
「つまり?」
「あの、力強くてカッコイイです……」
「可愛いでしょ!」
 と全力でツッコんだんだけども、段々私も恥ずかしくなってきたので、止めることにした。
 こんなあからさまにドキドキしているような顔をされたら、そんなん鏡になるだろ。
 私は魔法使いの恰好になると、
「おっ、似合っています。すっごい可愛いですよ」
 と余裕ある感じで言ってきたので、すぐさまエイリーのチャイナドレスに戻ると、リュウが吹きだしてしまい、またいちいち反応して可愛いな、おい。
「リュウ、こっちはどう?」
「だから可愛いですから、そんな可愛いと梨花さん」
 と言ってから真剣な瞳でこっちを見てきたリュウ。
 いよいよ慣れたかなと思っていると、
「抱きしめたくなります」
 と言ってから、ふわっと優しく私のことを抱きしめてきたリュウに私は声にならない声が出た。
 心臓のバクバクが止まらず、わわわわぁぁぁと思っていると、ゆっくりと離れてからリュウが、
「最高に可愛いです。でもそれは服の力ではなくて、梨花さんに魅力があるからです」
 そう言って頬を赤めながらも笑った。
 マジかよ、何これ、こんなイベントって急に起こります? 私は焦りながら、僧侶の恰好にした。
 するとリュウはまた嬉しそうに、
「その恰好も似合いますね、やっぱり梨花はスタイルが良いからどんな恰好をしてもカッコイイし、可愛いですね!」
 めっちゃ褒めてくれて、アガる……とか思っていると、リュウが、
「ところで、各服を着た時、何らかの魔力を感じましたか?」
 と言われた時にそういうこと一切考えていなかったことに気付いた。
 リュウは純粋に魔力の話ができることを楽しみに待っているといった感じなんだけども、私はもう服をリュウに見せるということしか考えていなかったので、あわあわしていると、
「もしかすると魔力のこと、考えていませんでしたか?」
 とハッキリ図星を突かれて、ぐうの音も出ず俯くと、
「それだけ服を気に入ってくださったということですよね、有難うございます。梨花さんで本当に良かったです」
 うわっ、こういうところも肯定してくれるのかよ、最高過ぎる。
「じゃ、じゃあ改めて服の魔力を見てみますね!」
 そう言って私は今着ている僧侶の服で、自分の心の奥の魔力を見てみた。

・【魔力の実践】


 僧侶の服を着て、心の奥の魔力を見てみると、透明な何かを感じた。
「まるで鏡のようなクリアな感情があります」
「その通りですよね」
 そう言って頷いたリュウは続ける。
「それは無属性で主に回復を司ります。きっと回復魔法が使えるはずです。試しに俺の手の甲のここへ、魔法を放ってくれませんか?」
 リュウの手の甲には、古傷のような跡があった。
「その傷を、私、治せますかね?」
「治すというかゼロにすることはできないと思います。たまに疼いて痒みが出るんです。それが消えるかなと思いまして」
 でも私は治したいと思った。
 疼いて痒くなるなんて、地味だけども嫌だなぁ、と思ってしまったので。
 私は心の奥底に語り掛けて集中した。
 一番の回復魔法を出す、そんなつもりでリュウの手の甲に触れながら、魔力を放出するような気持ちになると、リュウが目を丸くして、
「えっ!」
 と叫んだ。
 私も見て、ちょっと驚いてしまった。
 何故なら古傷のような跡が綺麗さっぱり無くなり、まるで高校生の肌のように艶々になったから。
「えぇぇええ!」
 とリュウの声は止まらない。
 一体何なんだろうと思っていると、リュウが急に私の肩をガッと両腕で掴んで、こう言った。
「大丈夫ですか!」
「いや、こっちの台詞だけども」
 そうよく分からず答えると、リュウはさらに大きな声で、
「本当に大丈夫ですか! 立ってられますか!」
「そりゃ立ってられるけども、本当にどうしたの? リュウ、大きな声出してビックリしちゃった」
「いや梨花、魔力の使い過ぎで倒れそうになっていないですか?」
「いや全然。めっちゃ元気」
「ありえない……」
 そう言ってちょっとヒいているようなリュウ。
 いやいや、どういうこと、どういうこと、ヒかれるのはちょっと悲しいよ、と思っていると、リュウが自分の体をパンパン叩き、何回か屈伸して、最後に腕を上にあげ、伸びをしたところで、こう言った。
「完全回復しました……古傷から何から何まで、きっとちょっと若返っているかもしれないです……」
 確かにリュウはさっきまで大人の男性らしい、体の硬さが肌から感じられていたんだけども、何だか肌艶が良すぎて体が柔軟になっているような気がする。ピチピチのぷるぷるというか。
 私は少し焦りながら、
「もしかするとやってはいけないほどに回復させちゃったっ? 筋肉が小さくなったとかっ?」
「いやそういうことは一切無いです。筋肉は硬さと柔軟性が合わさって、最強のヤツになったかもしれません」
 そう言って自分の上腕二頭筋をチェックしたリュウ。いや筋肉隆々かよ。最高じゃん。
 というか、
「僧侶の服ってそういうことじゃないんですか? 回復させるというか」
「いや普通ここまでじゃないです。梨花はすごいです。ここまで服の魔力を引き出すなんて。チートですよ、その能力は」
 またチートって言われた……そんな最高なことありえるの? 何を着てもチートって……ヤバッ、異世界転移子の成功じゃん……あっ、
「そう言えばリュウは異世界転移子について何か知ってる?」
「確か、梨花さん、梨花はそうなんですよね」
「そうそう、私の過去の記憶的にもそうだと思う」
「俺は異世界転移子の服を作ったことがあるんですけども、特殊な部隊に所属していて、かなりの能力を持っていたという話ですね。そもそも異世界転移子は能力が高いらしいので、そういった特殊な部隊に所属することは珍しいことではないらしいですね」
「そういう人ってスカウトされるのかな? そういう部隊に」
 リュウは腕を組んで、少し悩んでから、
「確かにそうですね、スカウトされるんですかね……いや待って下さい、俺が服を作った異世界転移子はすぐに部隊に入ったというか、何なら部隊に入れるために神官が異世界転移させたみたいなことを言っていたような。お菓子の輸入みたいな感じで狙ってやったみたいな」
「えっ? でも私、そういう部隊に入っていないよっ!」
「そうですよね、この村に、いたんですか?」
「はい、この村の道の真ん中で眠っていたらしいです」
 リュウはう~んと唸ってから、
「異世界転移子にもいろいろあるのかもしれませんね。何かキッカケがあって転移したパターンと、神官から呼ばれるパターンが」
「神官ってどういう人なんですか?」
「この世界の王様みたいな人ですね、この世界を取り仕切る頭脳というか。でもちょっとワガママで有名でして、俺も服を作るとなった時たくさんの注文がありました。能力的にもデザイン的にも。で、そのデザインがあんまりだったみたいで俺はその一回限りでそれ以上に仕事を受けることはなかったですね」
 私は正直納得がいかなかった。
 こんなエイリーの服みたいな最高のデザインセンスをしているのに。
 だから、
「私はこのチャイナドレス好きだよ、最高に好きだよ。リュウのセンスは間違っていない!」
「そう言ってくださって、有難うございます」
 そう言ってハニカミ笑ったリュウ。やっぱり最高に可愛いなぁ。じゃれてる猫じゃん。
 リュウはさっきの綻んだ笑顔から、少し真剣そうな顔をしてこう言った。
「でも梨花が異世界転移したこともきっと何か意味があると思います。だってここまで能力が高いんだから絶対何かあります」
 私は実は幻の勇者的な? でもそんなの正直どうでもいいとも思う。
 何故なら私にとって今一番大切なことはリュウと一緒にいることだから。
「では次は魔法使いの服になってください。それとここからは家の外に出ましょうか。攻撃魔法を使うことになると思いますので」
 リュウが玄関の扉を開けて、私のことを待ち、私が外に出てからリュウも外に出てきた。普通にレディファーストするのかよ。
 私は外に出てから魔法使いの服に早着替えの魔法をすると、リュウは私が腕に付けているブレスレットを見ながら、こう言った。
「早着替えしても、そのブレスレットは付けっ放しですね。魔法のブレスレットなんですか?」
「私にとってはある意味ね」
「どういうことですか?」
「このブレスレットは私にできた最初のファンがくれたブレスレットで思い出のブレスレットなんだ。コスプ……服を着替える時も手首に何か巻いて隠せる時はいつも付けているんだ。可愛いでしょ」
「か、可愛いですけども、そんな、その、男性からのプレゼントですか?」
「そうだけども」
 何を言いたいんだろう、微妙に口ごもってと思っていると、私は気付いてしまった。そうか、
「もしかするとリュウ、嫉妬してるの?」
 ダメだ、ちょっとニヤニヤが止まらない。嬉し過ぎるんだけど。私は口元を手で隠しながら、そう聞いてみると、
「いや、嫉妬というか。なんというか、すみません、嫉妬しています」
 と言って頭を下げたので、どう考えても可愛すぎる。
 でも、
「これは私がレイヤーとし……モデルとしてやっていけるかもと思った、思い出のブレスレットだから外さないよ」
「そうですか。では俺はその思い出を越えられるように頑張ります」
 と真面目な表情で言い切ったので、尊いと思った。
「ではブレスレットの話はこのくらいにして魔法使いの服の話をしましょう。どんな色が見えますか?」
「青と緑と空色かな?」
「というと水魔法と木魔法と風魔法ですね、水と木は多分農夫の時と同じ感覚なので風魔法の説明をします」
「いや木はトゲトゲしたモノも見えるから、攻撃もできるということだよね。木の攻撃はまだ知らない」
「木の攻撃も基本的に生長が元になっていて、地面にある根っこなどを媒介にして、その根を肥大させたり、トゲを伸ばしたりするんです。感覚は補助魔法と一緒で使えると思います」
 なんとなく分かったし、何だか使える感じがした。
 ならば、
「じゃあ風魔法について教えてっ」
「分かりました」
 リュウは頷いてから喋り出した。

・【風魔法】


 リュウは落ち着いた声で、かつ、分かりやすく時々強調しながら喋っている。
「風魔法は風を操って時には移動し、時には攻撃をする魔法です。攻撃にならない加減で自分に風を当てることにより、浮いたり、早く移動することができます。いちいち自分で強弱を調整するというよりも、先に調整した風魔法を心の中で唱える方法が楽だと思います。ちなみに心の中で唱えることと声に出して唱えることの違いですが、心の中で唱えるほうが小さい魔法しか扱えず、声に出して唱えることで大きな魔法を扱えるといった感じです。風魔法で移動する時はどっちにしろ小さい調整で大丈夫なので、先に設定しておくといいですよ」
 なるほど、リュウって聞きたいこと全部先回りして言ってくれて楽だなぁ。
 まず自分の中で、これくらいかなと思って風魔法を下から当ててみると、ふわっと浮いた。
 それに対してリュウが、
「すごいです! 一発でそういう感覚を出せるって本当に才能あります! 梨花さんは、梨花は天才ですね!」
 何かめっちゃ褒めてくれるし、最高にアガる。
 上下左右に移動して、何だか感覚が掴めた感じ。
 これに風移動小という何の捻りの無い名前を付けたところで、もうちょっとスピードを上げてみようと思ったその時だった。
 ヒュン。
 私は思ったよりも上へ飛んだ、というよりも上空に飛ばされた。
「わぁぁあああああああ!」
 私はパニックになってしまい、目を瞑ってしまった。終わりだ。終わりだ。
 と思っていると、何かに当たって優しく跳ねたような感覚がした。
 そのあとに何かにギュッと支えられたような。
 おそるおそる目を開けると、なんとリュウが私をお姫様抱っこしていた。
「最初はこうなりますからね。大丈夫です。これが普通です。ただ梨花は元々魔力が高過ぎて出力の幅が大きいだけです」
 そう言って私を優しく草むらにおろしたリュウ。
 でも跳ねたような感覚は何なんだろうと思っていると、近くにトランポリンのようなモノがあった。
「トランポリン」
 と私が反射で呟くと、
「俺は布を扱うことが得意で、こういったモノならいつでも出せるんです。トランポリンの強弱も自分で設定できますし」
「それは火・水・木・風・雷のどれ? それか無属性?」
「そういう属性には当てはまらない魔法もあるんです。言うなれば布ですね」
 そんな言うなれば布なんてまんまなこともあるんだ、私は感心していると、リュウが、
「風魔法扱うこと、まだできますか? 今ので疲れましたら一回休みましょう」
 と言ってくれたんだけども、今の感覚を大切にしたいので、私はもう一度チャレンジしてみた。
 すると強風の速度で完璧に移動できるようになった。
 リュウは手を叩いて、
「素晴らしいです! 梨花すごすぎる!」
 と言ってくれて、めっちゃテンションが上がった。
 さて、最後は、
「エイリー……チャイナドレスだね!」
 そう私が言うと恥ずかしそうに笑ったリュウ。いやオマエが作ったんだろ、とは思った。可愛いからいいけども。リュウも服も。
 あと私が何か言いかけても全然そこには突っかかってこない。
 そういうことをいちいち言ってこない心の広さがめっちゃ好きだ。
 リュウは咳払いを一回してから、
「では、チャイナドレスに着替えてください」
 と言ったので、私はウキウキで早着替えの魔法をした。
 やっぱりこの服は体に密着して、自分のスタイルがくっきり浮かび上がる感じがたまらなくカッコイイ。
 摂生に努めた生活をしてこれた成果が出て、自己肯定感が上がる。
 リュウはそれなりに満足そうな顔しながら、うんうん頷いて、
「その服は徒手空拳なので、基本的な運動神経が飛躍的に上がっているはずです。適当に体を動かしてみてください」
 言われた通り、走ったり跳んだりしてみると、風魔法を使っているほどに素早く動け、またジャンプ力も飛躍的に上がり、着地する時に大丈夫かと思ったけども、全然普通に地面に降り立つことができた。
「使いやすい! この服!」
「梨花に合っているのかもしれないですね。いや、それ以上に似合っています。可愛いです。梨花」
 いや!
「急に真っ直ぐ褒めないでよ!」
 顔が火照ってきた。
 リュウは慌てながら、
「こういうこと言うのダメですか?」
「いや別にいいけども! 急にどうしたのとは思う!」
「俺はずっと言いたいですよ。でも言ってばかりだと効力が薄れるかなとか思っています」
「だとしたら言い過ぎなほうだよ!」
「でも言葉は気持ちを伝えるためにあるんですから、言い過ぎだと思われても俺は言いたいです。ダメですか?」
「だっ、ダメなはずないじゃん! ありがとう!」
 そう私が荒らげると、
「でもそんな大きな声ばかり出させてしまうんでしたら止めますよ」
 と言って私を優しく抱きしめたリュウ。
 まるで荒ぶる小動物を収めるかのように。
 どうやらリュウは溺愛ぶりが始まると止まらなくなるらしい。
 だから私は身を任せることにした。
 優しく私の頭をポンポンして、撫でてくれるリュウに私は抵抗しないことにした。
 何で異世界転移したかは分からないけども、こんなことをしてくれる男性と出会えたんだからラッキー一択だ。
 もしかしたら私へのご褒美なのかもしれない。いや分かんないけど。
 ちょっとしてからリュウは離れて、
「では続きをしましょうか。心の奥底を見て、どの属性が使えそうですか?」
 自分の心の奥底を見ると、もう心臓がバクバクいって興奮しまくってしょうがない。
 もう虹色だ、いろんな感情が出てくる虹色、と思っていると、本当に何だか虹色が見える。
 なんというか、色がマーブル模様になっているような、シャボン玉溶液の光の反射みたいな感じ。
 私は試しに、赤色を念じながら蹴りをしてみると、なんと、炎を纏った蹴りが出た。
「素晴らしいです! やっぱりドラゴン模様なので火ですね!」
 そうリュウは拍手したんだけども、いや、もしかすると、と思い、今度は青色を念じながら蹴ると、水を纏った蹴りが出て、それを見たリュウが「えっ!」と叫んだ。
 いやまだまだ、私はこの青色には、少し透明な青色もありそうだと思い、それを念じて蹴ると、今度は氷を纏った蹴りが出た。
 リュウは開いた口が塞がらないといった感じ。
 何だかもっと驚かせたいと思って、私はどんどん感じた色を念じて蹴りを繰り出した。その結果、バラのトゲを纏った蹴り、岩の蹴り、風の蹴り、雷の蹴り、そして光っているような蹴りも出せた。
 でもこれこそエイリーだと思った。
 エイリーは闇属性以外の属性を全て出せて、闇落ちした時に闇属性も出せるようになるんだ。
 まさにエイリーだなぁと思ってニコニコしながらリュウのほうを見ると、呆気にとられているような表情をしていたはずのリュウは何だか恐怖で震えているようだった。
 いやいや!
「何か変だったっ?」
 あまりにもおののいているので、私はビックリし、少々焦りながらそう聞くと、リュウは、
「俺の予想を上回る属性まで使えています。梨花とシンクロしています。その服は」
「エイリ、チャイナドレスが私とシンクロ! めっちゃ嬉しい!」
「そうですね、俺も嬉しいです。本当にすごいです。梨花は天才です!」
「ううん! この服を作ってくれたリュウが天才なんだよ!」
 と抱きつこうと思ったその時だった。
 村のエントランスのほうから叫び声が聞こえた。
 リュウは一気に真剣そうな表情になり、
「魔物かもしれません。俺が倒します。行きましょう」
 と言ったので、私も気を引き締めて、リュウのあとをついていった。
 でも何だかリュウの速度が遅く感じたので、私は、
「先に行って倒せたら、倒しておく!」
 と私が言うと、リュウは一瞬不安そうな顔をしたけども、
「無理しないでください」
 と言って優しく私の背中を押してくれた。
 何だかこれなら圧勝できると思った。
 村のエントランスに着くと、そこには恐竜のような怪物がエントランスの看板を壊して、暴れていた。
 村人は逃げ惑うだけで何もできなくて。
 恐竜の身長は三メートルくらいあるけども、速度は遅そうだから一気に仕留めると思ったところで、その恐竜が体の周りに風を纏い、近くのモノや草木を風で巻き上げて、巻き上げたモノなどを意図的に操作して、村人へ向かって発射した。
 私は瞬足で、その村人の前へ行き、水の蹴り上げでシールドを出現させて、守った。
「梨花さん!」
 私は声援を背中で感じながら、恐竜の方向を向いた。
 逃げている途中で腰を抜かした村人に向かって、攻撃を発するなんて許せない。
 恐竜は体の周りに風を纏っているのなら、その風を炎で熱くして攻撃すればいいと思った。
 だから足先に炎を込めて、足先から火炎放射を出すようなイメージで突くような蹴りを発したその時だった。
 ズゴォォオ!
 私の足先からは火炎放射のように広がる感じではなくて、炎のレーザービームのようなモノが一直線に出て、恐竜を貫いた。
 すると恐竜は黒と紫のモヤに包まれて、そのまま消え失せた。
 何だか素材になりそうな皮膚というか布や何か宝石のようなモノを落として。
 ……あれ? 想像と違くね? ……私はじわじわ炙ってダメージを与えるつもりだったんだけども、めっちゃ宇宙SFロボットモノのビームが出た……。
 一瞬何が起きたのか分からず、静まり返る現場、その数秒後、黄色い声援が聞こえてきた。
「すご! 梨花すごい!」
「梨花の魔力半端無いぞ!」
「というか梨花の服可愛い! んで強いて!」
「凄すぎる! これでこの村は安泰だ!」
「火、火なのか……? 強すぎる……勝てない……」
 最後、ヒロさんだった。じゃがいも火入れ魔法使いのヒロさんだった。
 声援は鳴りやまない。
 リュウが私の隣にやって来て、
「大丈夫だった? 梨花!」
 と私の手を握った。
 いや、
「何か余裕だったかもしれない……」
「それは良かった! それが一番良いことだから!」
 私の無事を見て、ホッとしているリュウへ私は、
「あの、魔物が起き上がることってないかな? ほら、あそこに素材みたいなのが落ちているんだけども、そこからまた新しい魔物が召喚されるとか」
「いや、ああいった素材が落ちている時はもう完全に倒した証拠ですよ、こういう魔物の素材も服になるんですよ……って! えぇぇえええ!」
「……どうしたの、リュウ?」
「何か、二メートル以上の恐竜みたいな魔物だった……?」
 何だかまた震え始めたリュウに、何なに、やっぱり復活するの? と思いながら、
「いや三メートルくらいあったけども……」
 と答えると、リュウが目を丸くしながら、
「上級魔物だよ……今の魔物……それを倒すなんて……すごいよ、梨花……」
 と、ちょっとヒいてるくらいの感じだったので、私は慌てて、
「いやいや! そんな強く無かったよ! ちょっとだけ風魔法使うだけで!」
「いや魔物はあんまり魔法も使わないんだよ、牙や爪で襲ってくるだけなんだ……あとは火を吹くくらいかな、うん……」
 何かめっちゃヒいてらっしゃる……いや!
「ヒかないで!」
 とハッキリ言ってしまうと、リュウは、
「ヒいているわけじゃないんですよ、でも本当にすごくて……梨花は本当に才能に溢れていると思います」
 でもちょっとヒいているような気もするけども、でもまあそう言ってくれているんだからもうそれを信じよう。
 というか私、もしかするとめちゃくちゃ強い?

・【旅】


 とある、多分みんなが集まっている畑に居なかった村人が私に向かって、こう言った。
「いやぁ、梨花ちゃんがこの村にずっと居てくれると安泰だぁ」
 うっ、と思ってしまった。
 何故なら私はこれからリュウと旅に出ようと思っているから。
 というわけで私はその場にいた村人たちに、改めて私がリュウと旅に出ようと思っていること、その前に私がしていたことをみんなもできるようにと、性能の高い農夫の服を作るための素材集めに行くこと、を、改めて伝えた。
 みんなそれなりにガッカリしてくれるところが正直嬉しい。それくらい信頼していてくれていたということだから。
 そんな落ち込む村人たちにリュウはこう言った。
「最近、魔物が強くなっているという情報があり、実際この村にも来ていました。そこで、自衛のために誰か一人に戦闘服を渡します。上級魔法使いの服です」
 するとすぐさま、ジャガイモを火入れすることができるヒロさんが手を挙げて、
「この村で魔法なら俺だろ!」
 と叫んだ。
 でも即周りから、
「いやオマエは絶対に調子乗る」
「独裁者になるかもな」
「ちょっとオマエはマジでダメだな」
 と言われて散々だった。
 ヒロさんは黙って俯いてしまった。いや図星なのかよ、図星だったらちょこちょこ良くないだろ。
 そこで一人の村人が、
「魔法オタクのスーホがいいだろう」
 すると次々と村人たちが、
「確かに、正しい魔法の知識もあるしな」
「スーホなら安心だ」
「スーホは良いヤツだし、農業にも積極的だからなぁ」
「やっぱり真面目なヤツに着てもらいたい」
 魔法オタクの男性、スーホさんは後ろ頭を掻いて照れながらも、
「僕でいいのかい?」
 と言うと、
「勿論!」
「オマエしかいない!」
「スーホが適任だよ」
「これからよろしく頼むよ」
 と声が上がり、結構即決した。
 リュウは服を取り出して、それをスーホさんに渡し、
「それでは基本的な魔法の扱い方と早着替えの魔法をお教えします。梨花はちょっと休んでいてください。着替えなどもあるので男性二人で行なったほうが早いと思いますので」
 そう言ってリュウとスーホさんは多分スーホさんの家へ行った。
 ちょっと暇になったなと思っていると、一人の村人がこう言った。
「梨花! めっちゃ可愛い服だけど何なんだっ?」
「これはリュウが作った服で、私って服の能力を引き出すことが上手いみたいでこの服を着るとめっちゃ強くなるんだって」
「すごいなぁ! すごいシステムだなぁ!」
 システムて、と思った。
 その後は村人たちから質問攻めを受けて、何かチヤホヤしてくれて楽しかった。
 リュウとスーホさんもやって来たところで、リュウが放置されていた魔物の素材を見てから「あっ」と言って拾いに行ったので、私もついていくと、リュウが、
「ちょうど良かった。こういう素材とかは早着替えの魔法の服みたいに、魔力に仕舞うような感覚で触れると貯蔵できるんだ」
 言われた通りすると私にも簡単にできた。
「梨花、変わった素材があったらどんどん集めてほしい。でも何が変わっているかよく分からないはず。俺も分からない。だから拾えるだけ拾ってほしい」
 そんな細菌の学者みたいな方法でやっていくんだ、と思った。
 村人たちとの会話もそこそこに、ついに、
「それではみんな! 私はリュウと最初の旅に出掛けるから!」
 リュウも村人たちへ手を挙げながら、
「まずは良い農夫の服を作るため、近くの山へ木の魔石を集めに、そのあとに海へ水の魔石を探しに行きます」
「さながら新婚旅行だね! リュウ!」
「そうですね、梨花」
 私とリュウは仲良く村の外へ出た。
 村の外には一体何があるのか、正直心臓が高鳴っていた。
 私はそのままチャイナドレスというかエイリーの服で移動し、リュウは魔法使いのような恰好になって風魔法で移動している感じだ。
 リュウの服はローブといったふんわりと着こなす感じではなくて、体にピッタリとついている、ダイビングスーツのような服で、筋肉の隆々さが分かる感じで自信満々かよと思った。
 そんなリュウのスタイルに惚れ惚れしながらも、すぐに魔物が出現するのかなとか思って注意しながら移動していたんだけども、特に何も無く、野生のイノシシのようなモノが走っていたりするだけで、案外平和なんだなぁ、と考えていると、リュウが、
「魔物、いると思っていましたか?」
 もう、私の考えていることすぐ分かるんだから、以心伝心かよ、と思いながら、
「うん、魔物にすぐ襲われると思っていた」
 と答えると、
「魔物は最近活発的になってきましたが、そんなにいないんですよ。魔物は子育てとかもしませんし。突然出現するモノなんです」
「そうなんだ、魔物には魔物の暮らしがあると思っていた」
「何故出現するかは分かっていないのですが、大半はこの世界の中央の街、ギラダで出現します。このあたりは辺境なので、魔物はほとんど出現しないことになっています」
「でもさっきいたけども」
「最近はぐれ魔物が多くなってきて、魔物を討伐する精鋭部隊も疲弊しているという話です。ギラダを中心に活動しているらしいんですけども」
「そうなんだぁ」
 と興味あるような、無いような。
 正直リュウと一緒に居られればいいかなと思っているから。
 ただリュウは続ける。まあ知っていたほうが有利になるということなんだろう。
「魔物はウィルスのようなモノで百害あって一利無し。いたら倒していいモノです。魔物はいつも黒紫のオーラを放っています。それ以外の生物は魔物ではありません。そこに住んで生活しているので乱獲厳禁です。なので基本的に俺は素材として植物を集めます。植物は簡単に育てることもできるので、素材としてもらった分で育てるといった感じです」
「なるほど、じゃあ生物は倒さないほうがいいわけね」
「はい、村のしきたりで守り神と信じられている場合もありますので。ただ魔物はすぐに倒してしまって構いません」
 でもこれ、最初に知っておいて良かったかも。
 リュウに褒められたくて、生物を乱獲していたら、嫌われていたかも。
 やっぱりリュウの話は絶対ちゃんと聞いておくべきだと思った。いや元々そうするつもりだけども。
 野を越えていくと、山の麓に着いた。
 リュウは立ち止まって私のほうを向き、
「じゃあこれからゆっくり歩いていこう」
 と言って私の手を握ってきたので、
「そ、そういうデート的なことっ?」
 と聞いてみたんだけども、どうせはぐれないようにとかだと思っていたら、
「はい、新婚旅行ですから」
 とニッコリ微笑んで、一気に心音のペースが上がってきた。
 あっ、そういうの、そういうこともするんだ、リュウって。最高かよ。
 でも、
「バラバラになって動いて、いろんなモノを探したほうが効率的じゃないの?」
「いや本命の魔石はそもそも夜にならないと見つけづらいんです。魔石は暗いところで光り出す性質があるので」
「じゃあ昼間は珍しそうな素材を集めるということ?」
「それもそうなんですが、それよりもまったりキャンプでもしませんか? もうちょっと上のほうへ行ったらですけども。だから今はピクニックですね」
 そんなゆったりしてもいいのかなとも思ったけども、魔石は暗くならないと見つからないという話だし、まあいいか、むしろ今を楽しんだほうがいいかもと思った。
 私はリュウと手を繋いで、山をゆっくり登り始めた。
 ちょっと急な坂道だとは思うんだけども、このエイリーの服を着ていると本当に軽々移動できて、全然苦じゃない。
 疲れが無いというか、これだと夜眠れるかなとどうでもいいことが不安になった。いや夜は活動するんだ、今日は。
 リュウは手を握っていないほうでどこかを指差して、
「あれは蜜花だ、素材としては普通だけども吸ってみると美味しいんですよ。天然のスイーツですね。こういう野の食べ物とか食べられるほう?」
 正直私は田舎育ちなので、全然余裕である。
 でもここはちょっと可愛い子ぶって、苦手かもとか言いながら上目遣っ、あっ、ヤバッ、めっちゃ良い香り、これはもう、
「めっちゃ食いつくします」
 とヨダレ垂れかけの口でそう言い放った私。あらヤだね。
「いや食いつくしたらダメですけども、ちょっとくらいなら頂いても平気なので吸ってみましょう」
 そう言ってリュウに連れられるまま、私はその蜜花の元へ行った。
 蜜花はラフレシアくらい大きい花で、でも香りは金木犀のように爽やかな香りで、おしべ・めしべの根元から蜜が湧き出ているように溢れていた。
 溢れているところはちょっとヨダレが垂れそうな私の口っぽい。
 リュウが蜜花の花びらを触りながら、
「野が苦手なら上澄みの蜜を捨てたりするんだけども」
 と言ったところで私はカットインして、
「もったいない! 全部吸います!」
 と言うとリュウは吹きだして笑った。
 さすがにがっつきのダサさがあったかと思って、ちょっと反省していると、リュウが、
「野のモノでも、もったいないと思ってくれる人、俺は大好きだよ」
 と言ってくれて、何だ、自己肯定感上げてくれるだけかよ、と思った。
 リュウは続けて、
「俺たちはこういった素材を自然から頂いている身ですからね、しっかり感謝しないとダメですよね」
 そう言ってリュウはどこからともなくコップを取り出して、そこに蜜花の蜜を入れて私に渡してくれた。
 蜜花の蜜は黄金色に輝いていて、というか金木犀の花の色に似ているイメージ。もしかしたら金木犀なのかもしれない。
 私は早速その蜜を吸うというか飲んでみると、さらさらと飲み込める蜂蜜といった感じで、とても甘く、心の奥から癒される後味だった。
「リュウも飲む?」
 そう言って私はコップを渡そうとすると、
「有難う」
 と言って受け取ってそのままそのコップで飲んだ。
 その時に、あれ、間接キスという概念あるのかな、と思ってしまい、探りを入れる感じで、
「あっ、同じコップだったけども良かった?」
 と聞いたところでリュウは笑顔で、
「俺は大丈夫ですよ、梨花の全てを受け入れていますから」
 と言って笑って、何だか私のほうが恥ずかしくなってしまった。そんな言い方されるなんて、えっちかよ。
 ただそのあとすぐにリュウが、
「でも確かに俺が飲んだ後は梨花、嫌かもしれませんね。じゃあ別のコップを」
 と言いながらまたコップを出したので、私は首を横に振って、
「いや洗い物増えると大変だから一緒でいいよ!」
「でも水魔法で簡単に洗えますから、洗い物は気にしないでください」
 洗い物と言っちゃったことにより論点ズレちゃったな、と思いつつ、私は、
「洗い物じゃなくて本当は私も共有で良いという意味で! だって私だってリュウのこと受け入れているから!」
 と言うと、急にリュウは顔が真っ赤になって、
「そ、そうですかっ、な、何だか照れますね」
 と言って、てへへへと微笑んだ。そんな少年のような顔がたまらなく可愛かった。
 何かこの可愛い顔をもっと破顔させたくなってきて、私はリュウからコップを奪い、また蜜を飲んでから、
「おいしいね!」
 と言ってみると、リュウは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
 いや、
「こっち見てよ、リュウ。私のこと可愛くないの?」
「可愛すぎるから直視できません」
「ちょっとぉ、私に慣れてよぉ」
 と甘ったるく言ってみると、リュウは私のほうを見て、
「でも一生慣れたくありません。ずっと新鮮な気持ちのまま梨花さん、梨花と一緒にいたいです」
 と言って微笑んで、私の負けかよ、と思ってしまった。めっちゃ可愛い。最高。
 そんな感じでイチャイチャしていると、段々熱く感じてきた。
 最初はここまでラブラブかよと思っていたんだけども、どうやら本当に気温が上がってきたらしい。
 するとリュウが、
「この辺でテントを張って休みますか」
 と言いながら、リュウはすぐにテントをその場に出現させた。
 大きめの、グランピングのような、四人家族が休めるくらいのサイズだった。

・【キャンプ】


 テントの中に入ると、リュウが、
「氷の太陽!」
 と明らかに魔法を詠唱したので、何だろうと思っていると、テントの上部に氷でできた太陽が浮き始めて、テントの中がひんやりしてきた。
「これで快適に過ごせますよ。夜は活動しますので、ちょっとお昼寝でもしませんか。俺は外で寝てきますので」
 と言ってすぐに、振り返りもせず、リュウがテントの外に出ようとしたので、私はリュウの腕を掴んで、
「リュウも一緒にテントで寝ようよっ」
「い、いやさすがに、それは紳士的じゃ、ないようなっ」
 と焦った顔のリュウ。
 でも、
「何もしなければ紳士的だし、別にもう新婚旅行なわけだから何かしていいんだよ?」
「まだ早いですよ、ゆっくり距離を詰めさせてください」
「でも寝るくらいはいいじゃない、私だってそういうこと今はする気ないし」
「確かに、それならそうかもしれません。そういったことは同意があって成り立つことですからね」
 ちゃんとそういう価値観も異世界にあるんだと思った。
 ただまあ、
「私はいつでも同意しているけどね」
「そういうことは言わないでください。ドギマギします」
 恥ずかしそうにそう言ったリュウの顔が可愛くて、最高だった。今すぐ抱き締めたいけども、このタイミングで抱き締めると話がこじれそうなので我慢した。
 結局リュウも踵を返し、テントの中にベッドと寝袋を出してくれて、リュウが、
「では一応段差をつけて寝ましょう」
 と言ってきたので、私は可笑しくなって、
「何も起きないように段差をつけるという発想なんなの!」
 と私は手を叩いて笑ってしまった。
 リュウは顔を赤くしながらも、少し不満げに、
「段差があれば、間違いが起こりづらくないですか……」
「段差にそんな効果あるなんて聞いたことないよ! 段差くらいの壁ならすぐ乗り越えられるよ! そういう愛でしょ! 私とリュウって!」
 と自分で言って何だか恥ずかしくなってきた。
 愛と口にしたことも照れるし、やっぱり所詮段差の話だし、というところも何だか。
 リュウは優しく微笑んでから、
「確かに。段差だって壁だって、梨花となら乗り越えるよ」
 と言って私の手を握ってきた。そういういちいち握手してくるところがマジで可愛い。最高かよ。
 とはいえ、その後はそのまま私がベッドで、リュウが寝袋に入って、一緒に寝た。結局段差かよと思った。
 私はベッドの上からリュウの寝顔を眺めていた時に「いや段差も結構良いな、見やすいな」とも思った。
 結局段差は最高だった。
 目覚めると、リュウは寝袋からいなくなっていて、トイレかなと思っていながらテントの外に出ると、外でリュウが大きな魚を焼いていた。
「起きましたか、梨花」
「その魚、何?」
「ここの湖で生息しているネーナという魚です。美味しく食べられるんですよ。せっかくなので一緒に食べましょう」
「先に起きて捕まえて料理していたの?」
「そうですよ、俺はショートスリーパーなので全然大丈夫ですよ」
 まあリュウが大丈夫と言っているんだからそれを百パーセント信じるけども。
 外はもう夕暮れになっていて、空が橙色に輝いていた。
「綺麗……」
 ふと呟いてしまった私。
 だって空はどこまでも遠く深く、木々も煌めている。
 余計な建物は一切無くて、大自然が眼下に広がっている。
 何だかこんなところで二人きりでキャンプなんて素敵過ぎると思っていると、リュウが、
「梨花が一番綺麗ですけどね」
 と言いながらネーナという魚を大きな皿の上に置いた。
「では食べましょうか、梨花さん」
 いや!
「普通に綺麗って言って流れるなよ!」
「そうですね、梨花さん、梨花はそこに綺麗があり続けるので流しちゃダメですよね」
「そうじゃなくて! 普通に可愛いって言うなぁ!」
「俺は大切なことほど何度も言いたいですけども。言っちゃいけないのなら自重します。でも漏れ出たらすみません。綺麗な梨花さん」
 そう言ってニッコリ笑ったリュウ。
「いや今の最後に言ったのはわざとじゃん! わざと言ったヤツじゃん!」
「いいえ、自然ですよ」
 そうニコニコ笑っているリュウ。
 どうやらリュウは自分が褒め攻めしている時は照れが無いらしい。
 でも私はリュウの恥ずかしがっている顔が大好きなので、
「そういうこと言う、リュウは最高にカッコイイけどねっ」
 するとすぐさま顔を真っ赤にしたリュウ。
 いやいや責められるの弱すぎでは? まあいいや、続けよう。
「いろんなことを簡単にこなすし、食事の準備をしていてくれているなんてスパダリじゃん。女性に対して真面目だし、正直そういうところがめっちゃ好き」
「や、やめてください……」
 そう言ってそっぽ向いて俯いたリュウへ私は、
「カッコイイリュウも好きだけども、そういう可愛いリュウも見たいなぁ、ねぇ、ダメぇ?」
 と甘えると、首をぷるぷる震わせながら、こっちをゆっくり向いたリュウ。
 何これ、可愛過ぎだろ。犯罪では?
 私はリュウの真隣に立って、頭を撫でてあげると、
「あっ、すみません」
 とリュウは会釈した。
 いや、
「すみませんて。厳しい上司からお礼を言われたみたいなリアクションしないでよ」
「そうですよね、梨花は優しくて対等な人物ですもんね」
「そうそう、対等なんだから敬語やめてもいいんだよ!」
「善処します」
「それできないヤツのヤツ!」
 そんな会話をしながら、またリュウはイスを出してくれて、一緒にネーナという魚を食べた。
 ネーナという魚には骨が無くて、めちゃくちゃ食べやすかった。
 コラーゲンが多いみたいで、とろとろで、のど越しも良いし、味もウナギみたいで美味しかった。
 周りは徐々に闇に包まれていき、夜になってきたところでリュウが光の玉のようなモノを魔法で二つ出して、その光の玉は私とリュウそれぞれ周りを飛び始めた。
「近くはこのライトの衛星で見えますので、あとは遠くを見て下さい。木の魔石が光り始めるはずです」
 すると、急に割と近間が光り始めたので、
「あれ」
 と声に出すと、リュウが、
「あれはホタルですね、魔石はもうちょっと光が大きいですよ」
「えっ、ホタルもいるんだ、綺麗だね」
「そうですね、虫だからと嫌う人もいますが、俺も神秘的で好きです。ホタル」
 こういう時でもいちいち私のことを綺麗と言ったらウザいかもしれないと思っていたけども、ホタルが主役の時はちゃんとホタルを立てて喋ってくれて、バランス感覚最強かよ、と思った。
「梨花、空を見てください」
 言われた通り、上を見上げると、そこには満天の星空が輝いていた。
「いつの間に……」
 こんな星空なんて、日本では長野県の山のほうへ行かないと見えないだろう。
 この異世界には、少なくてもここには排気ガスのようなモノは無くて、空気が澄んでいて、だからこそ星を眺めることができて。
「俺、自然の光、好きなんです。ライトの衛星出しておいてアレですけども」
「私も好きだよ。何だか包まれているような気がして、明るくなれる」
「そうですね」
 私はふとリュウのほうを見ると、温かい笑顔で星空を見ていて、そういうところも可愛いなと思った。
 でも、
「そろそろ魔石のほうも見ないとダメじゃないの?」
「そうですね、忘れていました。空間が最高過ぎて」
「その空間に私がいても邪魔じゃなかった?」
「邪魔なはずないじゃないですか、一緒にいる、自分以外の人がいてくれているということがまた楽しいんですよ、こうやって話を共有できますし……あっ」
 と言ってどこかを指差したリュウ。
 その指先を見ると、何かが光っているように見えた。
「あれが多分魔石ですね、緑色に光っていますし、木の魔石で間違いないはずです。取りに行きましょう」
 そう言って私とリュウは木の魔石を集めた。
 必要な分をとったら、テントに戻り、そこで寝て、朝になったところで次の場所へ移動した。

・【海】


「海だぁぁあああ!」
 つい私は大きな声を出してしまった。
 広大な水平線を見てしまうと、つい荒らげてしまう。
「一応準備運動をしてから海の中に入りましょう」
「えっ? 海の中に入るのっ?」
「はい、水魔法には水中でも息ができるようになる魔法がありますので、それでまず浅瀬ですが、海底を探索しましょう。魔石は暗いところであれば光るので、海底なら昼でも暗くなっているので見つかると思います」
 そう淀みなく説明するリュウに私は、
「水着はどうしたらいいかな!」
「服はそのチャイナドレスでもいいと思いますよ。その水魔法は体全体を覆うような感覚なので、何を着ても大丈夫なんです。俺はこの魔法スーツのまま入ります」
 でも私は海の雰囲気を出したくて、水着になりたかったので、
「リュウ、女性用の水着は無いかな?」
「では今から作りましょうか? 確かに梨花なら水着のほうが、水中動作が早くなる可能性がありますね。服の能力を引き出すので」
「作れるのっ?」
「大体こうだろうなということは分かっていますし、素材は、この近くに生えているヤシでいいですよね」
 そんなすぐに作れるんだ、リュウってすごい……の前に!
「絶対ビキニでお願い! 私は海といったらビキニだと思っているから!」
「えっ、競泳水着みたいな感じじゃなくていいんですか?」
「リュウはそっちのほうが好きぃ?」
「いや好みの話じゃなくて、多分競泳水着のほうが、水中動作が早くなりますよ」
「そういう機能美より自分アゲのほう!」
 私が語気を強めると、リュウは頷いて、
「分かりました。まあビキニのほうが作ることは楽なので、すぐ作りますね」
 と言うと、リュウは近くに生えていたヤシを切り落としたと思ったら、目にも止まらぬ速さで、ヤシの木の皮を剥いてるやら何やらで、すぐにビキニが完成した。
「魔力を込めているので、多少サイズにズレがあってもピッタリすると思います」
 と言いながらリュウは木陰に消えていった。
 着替えの時いなくなること徹底しているなぁ、と思いながら私は着替えた。
 ヤシの木で作ったとは思えないほど、肌触りが滑らかで、何だかめっちゃ泳げる気がした。
 いや競泳水着じゃなくても全然水中動作のヤツいけそうなんかい。
 リュウが戻ってきて、私と自分に水中で息ができるようになる魔法をかけて、早速海へ入った。
 海、冷たかったらどうしようと思っていたら、めちゃくちゃ生暖かくて気持ちが良かった。というかもしかすると魔法の効果?
 まあそんなことはどうでもいいとして、私とリュウは泳いで海の中を探索し始めた。
 当然のごとく海の中で呼吸ができるし、
「魚が泳いでいて美しいですね、上を見れば光が差し込んで光っている。ここも良い環境ですね」
「そうだね、リュウ!」
 と会話もできて楽し過ぎる。
 下を見れば色鮮やかなサンゴ礁と、サンゴ礁に隠れる変わった形をした魚が泳いでいる。何か星型っぽい、魚が。
 サンゴ礁を辿って、どんどん海底へ向かって泳いでいくと、徐々に暗くなってきて、そのタイミングでまたリュウがライトの衛星という光を出した。
 奥に進むと、体が妙に大きいけども、頭がめちゃくちゃ小さい魚や、イカなのかタコなのか、発光する軟体動物などがゆらゆら浮いている。
 未知の生物過ぎて楽しいなぁと思っていると、リュウが、
「魔石ありましたね、光っています」
 私がリュウの言った先を見ると、そこはまるで銀河が広がっているように煌めいていた。
 銀河を見下ろすなんて、そんなことを思いながらふと、
「ロマンチックだね」
 と言うとリュウが頷きながら、
「この銀河が失われないように、少しだけ魔石をもらいましょう」
 と言って、リュウも銀河と思っていたんだ、と、一緒で嬉しいなと思った。
 魔石を拾い集めて、浜辺に戻ってきた。
 リュウが魔法を解除すると、体は何も濡れていないようでサラサラだった。改めて魔法ってすごいなと思った。
「それでは」
 と言って、またテントを出したリュウ。
「夜まで寝るの?」
「それがいいと思います。夜は岩陰にある魔石が光るので」
 二人でテントに入ると、またリュウは氷の太陽を出してから、ベッドと寝袋を出したので、
「また段差かよ」
 と言ってしまうと、リュウは、
「ベッド二つだと、ベッドから降りる時に足音が鳴ってしまうこともありますので」
「そんな私の睡眠のことばかり考えないでよ。というか海こそ一緒に魚介類を捕まえたい」
「では一緒に起きて、行動しましょうか」
 そう言うと、リュウは静かに寝袋に入った。
 いや!
「でも寝袋のまま!」
「すみません、実はベッドは一つしかないんです。ずっと一人旅だったので」
「そのくせに寝袋は寝袋であるんだね」
「狭いところでは直接寝袋に入っていたので。あとは雇った兵士のためになどで寝袋は複数あります」
「じゃあ私も寝袋がいい! リュウと同じ目線で寝たい!」
「分かりました。ではそうしましょう」
 そう言うとリュウはベッドを片付けて、寝袋をもう一つ出した。
「これで対等だね!」
 と私が言うとリュウは笑いながら、
「そうですね、同じ目線で同じモノを見て、同じことを考えられたら最高ですね」
「私! 海底の魔石、銀河だと思ったよ! 一緒!」
「じゃあもう俺と梨花は一つになりますね」
「えっ、一つになるって、そういうことを今からするということ……?」
 と私が心の奥底から熱くなりながら、そう言うと、
「そういうことじゃないです! そういう意味じゃないです!」
 と慌てたリュウ。
 まあそういうことじゃないとは思っていたけども、そんなに汗を流して最高に可愛いのかよ。
 リュウは寝袋の奥に入って丸まった。
 可愛い顔見せてくれよ、とも思ったけども、今日はこのくらいで許してやるかと思って私も寝ることにした。
 ――。
 ほぼ同時に目覚めたと思う。
 何故なら私が起きた時に、めちゃくちゃデカい伸び声を出してしまったので、それでリュウが起きたから。
「すみません、すごく寝ていました。冷凍し過ぎのアイスクリームでした」
 リュウが上体を起こしてそう言ったんだけども、
「それは別にいいじゃん」
 と言いながら私は寝袋から出て、テントの外に出ると、目の前は真っ暗で、もう夜になっていた夜空にはまた満開の星が広がっていた。
「夜だし、魔石を探しに行こうか!」
 私がそう言うとリュウも頷き、またライトの衛星を出して、一緒に浜辺を歩き出した。
 というか夜の海って何かエモい。
 こうやって好きな男性と一緒に歩いているなんて漫画の中の人物かよ。
 波打つ音だけが流れる空間で私とリュウは手を繋いで歩いている。
 なんとなく手を繋ぎ始めた。どっちが先だっけ?
 そんなことを聞くのは野暮といった感じだし、多分同時だったと思う。ほら、私とリュウの考えることは一緒だから。
 じゃあリュウも心臓の鼓動、高鳴っているのかな。
 何だか幸せだよ、私。
 リュウもそう思ってくれているのかな、と思いながら岩場に行くと、魔石が光っていた。
 リュウはふとこんなことを言った。
「まだ魔石が見つからなければ、静かな時間が永遠だったのに」
「何? 静かな私のほうがいいってこと?」
「そういうことではないんですが、落ち着いた時間も素敵だったなぁって」
「まあ確かにね、これから拾う時間になるからね」
「なんて、すみません。ちょっとだけ嘘つきました。落ち着いていませんでした。俺、心臓が高鳴っちゃって。何だか梨花と一緒にいるとすごく嬉しいんです。心が弾むというか」
 めっちゃ同じこと考えていました。最高かよ。
 それが分かれば、もう満足って感じで、そこから私とリュウは魔石を拾ってから、余った時間、二人で岩場に座ってずっと海と星を眺めていた。
 まあ私は時折リュウのこと眺めていたけども。

・【村で服を作る】


 村のエントランスまで来たところだった。
 銀髪の女性、バルさんが私とリュウを指差して叫んだ。
「帰ってきてくれた! 早く来てほしい! 大変なんだ! 向こうのほう!」
 私とリュウは顔を見合わせてから、速度を上げた。
 村で一体何が起きているんだろうか。
 もしかすると魔法使いの戦闘服を渡した、魔法オタクのスーホさんが独裁をやっているのか?
 いやでもそんなことは無いはず、と思いながら、私とリュウは急ぎ、ついにその激震地に着いた。
 そこには鋭い眼光のような穴が開いた巨大過ぎる大木がうねうねと動いていた。
 一応地面に根を張っているようで、移動するといった感じではないのだが、常に枝を怪しく蠢かせて、まるで周りに立っている人間を威嚇しているようだった。
 私は焦りながら、
「リュウ! これはどういったモンスターなのっ?」
 と尋ねると、リュウはぶるぶると震えながら、こう言った。
「こんなモンスター、見たこと無い……これはキメラだ……合成モンスターだ! ソフトクリームに砕いたポテトチップスが入っているような感じだ!」
「いや! それは実は美味しいパターンのヤツ! そういうことじゃなくて危険ということでしょっ?」
「多分そうだと思うから、みなさん! このモンスターから離れてください!」
 そう声を荒らげたリュウ。
 でも周りの村民たちはあんまり動こうとしない、もしかすると既に操られているとかそういうことっ?
 私たちの後ろから追いついてきたバルさんがこう言った。
「いや……このモンスターはこうやってくねくねしているが、それだけで特に何もしないんだ。とは言え、みんな様子を見に来てなぁ……」
「何その大雨が降って大水が出た時の川みたいな、いつ暴れるかもしれないんでどこかへ避難してください。ここは私とリュウでどうにかします」
 リュウも頷きながら、
「そうですね、任せてください。でも一体どうしてこんな合成モンスターが……」
 と言った時に近くにいた、上級魔法使いの戦闘服を着ているスーホさんが申し訳無さそうにこう言った。
「実は僕のせいなんです……僕が魔法を失敗したばっかりに、こんな周りの土の栄養を吸い取って、畑の農作物を疲弊させるようなモンスターを誕生させてしまって……」
 すると間髪入れずにバルさんがこう言った。
「そんなことはない! 村民がスーホに期待し過ぎて無理言って生長魔法を使わせたせいだろ!」
 リュウさんは手にアゴを当てながら、こう言った。
「つまり生長魔法を重ね過ぎた結果、こうなってしまったということですね。ならそこまで危険じゃないかもしれません。ここは俺の魔法に任せてください」
 私を遮るように腕を伸ばしたので、私はリュウに任せることにした。
 リュウは魔法を詠唱し始めた。
 割にはちょっと長いなぁ、と思っていると、リュウの手から眩い光の波動が飛び出して、その大木のモンスターにヒットすると、そのモンスターは浄化されるように透明になっていき、消えていった。最後、完全に消える時に黒っぽい紫色の煙がまた出た。
「一撃!」
 私は興奮しながら声を上げてしまった。
 あまりにも鮮やかな終わりに驚嘆してしまった。
 リュウは落ち着いた声で、
「このモンスターが吸い取った栄養がまた土に戻るようにと、そのための魔法の設定もしていたので、長くなりましたが、まあ俺が攻撃態勢に入っても反撃してきませんでしたし」
「さすがリュウ! カッコイイ!」
「これくらいのことはできなければ冒険はできませんからね」
「そんなスカさないでよー、好きって言ってんだから反応してよ!」
 と私が抱きつくように腕を掴みながら言うと、リュウは顔を真っ赤にしてそっぽ向いた。反応可愛いっ、これだけで私得過ぎる。
 モンスターの足元には木の皮のようなアイテムが出現した。宝石のようなモノも出てきた。
 リュウは私から逃げるように、そのアイテムを取りに行った。早く顔見せてくれないかな。
 振り返った時にはいつもの表情に戻っていて、チェーというかもはやチョーと思ってしまった。この違いに意味は無い。何ならチューにすれば良かったかなと思いついたところで、発想がジジイだなと思って、その発想は滅した。
 リュウは、宝石のほうはすぐに魔力の格納庫に入れたんだけども、木の皮のほうをこちらに見せながら戻って来て、
「合成モンスターをあえて作って、それを倒して特殊なアイテムを得るという方法も実際にあって。これもまた特殊な素材っぽいので良かったです。だからって危険も伴うので俺はしませんが」
 と言ったところでスーホさんが改めて、頭を下げながら、
「申し訳御座いません! 帰って来て早々こんな事態になってしまって!」
 するとバルさんも、周りにいた村民たちも頭を下げながら、口々に、
「いやいや! スーホに無理をさせてしまって!」
「まさかこんなことになるなんて! 俺たちがうるさかったせいだ!」
「魔力って怖いんだな! 改めて知りました!」
 と反省の弁を述べていて、マジでみんな性格の良い村で良かったぁ、と思った。
 リュウは少々困惑しながらも、
「いえいえ、今回のことで分かって頂ければそれで充分ですから」
 と言って、怒ることもしなかった。こういう温厚なところも好きだなぁ。
 とりあえず私とリュウは自宅に戻って、今回の旅で得たアイテムを整理することにした。
 リュウは手に魔石を出現させながら、
「まず水の魔石と木の魔石で完璧な農夫の服を作るという話でしたね」
「それって農夫の服にしないと効果が出ないの?」
「そんなことはないですね。個々の意識というか深層心理の部分で、農夫の服にしたほうが効果が少しだけ強めに出るということはあるかもしれませんが、別の服にしても出せると思いますよ」
「じゃあみんなの意見を聞いて服を作るなんてどうかな? あっ、でもそれだとリュウが大変か……」
 と私はちょっと余計なことを言ってしまったかと思っていると、
「いや、俺はいろんな服を作れたほうが楽しいので、そうしましょう。それでは聞きに行きますか」
 そう言ってまた魔石を元に、魔力の中にリュウは戻したんだけども、私は、
「ここからは役割分担しようよ、私が聞いて回るからリュウは服を作る準備をしていてよ」
「俺は服を作る時間、そんな掛からないので一緒でいいですよ?」
「何それ、そんなにリュウって私と一緒に居たいの?」
 なんて、ちょっとどんな反応見せるか見たくなって、意地悪するような感じでそう聞いてみると、リュウは真っ直ぐな瞳でこう言った。
「はい、俺は梨花さんとずっと一緒に居たいので」
 あまりにも真面目な面持ちだったので、逆に何だか私が恥ずかしくなってしまい、
「じゃ、じゃあ……行こうか……」
 と言って、振り返らず玄関のほうへ行くと、
「行きましょう! 梨花さん!」
 と私の手を握ってきたので、ちょっ、そういう反則は苦手ですな、とルールに厳しいサポーターみたいな心の中の独り言が出てしまった。
 私とリュウは村民から服の意見や要望を聞いて歩いた結果、普通の農夫の恰好が一番人気だった。
 やっぱり仕事しているスイッチが入る服が農夫の服だからということだった。
 でも中には細かい要望がある人もあって、リュウはどちらかと言えば、そういう人に対してのほうが嬉しそうだった。
 本当に服を作ることが好きなんだなぁ、リュウって。
 私はどちらかと言うと、服を作ることは副産物というか、負の副産物というか、私はコスプレをすることが一番好きだったから。
 コミケに行って、カメコから写真を撮ってもらって、そこで自己顕示欲を上げて、っていう。
 でも今はリュウがいてくれれば、それだけで最強というか、そういう気分だ。
 リュウと一緒に自分の家に戻って、早速リュウは高速で服を作り始めた。
 結局服作りは二時間で終わり、私と同じ時間に寝た。
 その間に私は温泉とか行ったり、温泉の熱で野菜を蒸したりしていた。
 ちなみに魔法でも野菜は焼けるけども、温泉の熱で調理したほうが美味しい。

・【戦闘服を作るための素材】


 朝一番に農夫の服や農夫の能力が使える凝った服を配ったところで、また私とリュウは旅へ出ることにした。
 今回の旅の目的は戦闘服を作るための素材を手に入れる、だ。
 スーホさん以外にも戦闘ができる人がいたほうがいいということで、そのための素材を集める。
 みんなとバイバイしてから、また早速エイリーの服(チャイナドレス)を着て移動し始めた。
 リュウは風の魔法使いの恰好になって、風を使って移動している。
 今日はまず強い魔物の情報を知るため、ここから一番近い大きな街のギルドに寄る。
 着いた。何かもうあっさり着いた。
 単純にこのエイリーの服が私に合い過ぎているらしい。
 馴染み過ぎているというか、もう十割全に使うことができている。
 速く移動することは一旦辞めて、二人でギルドへ向かって歩いていった。
 すると何だか後ろから、何かバカにするような笑い声と共に、ネチャァとした声が聞こえてきた。
「おい! オマエ! リュウじゃねぇかっ? リュウだよなぁ! おい!」
 リュウよりも先に私が振り返ると、その声の持ち主の男性はこう言った。
「リュウ! オマエに言ってんだよ! つーかツレちゃんが反応しちゃったから完全にオマエじゃん! なぁ! リュウ!」
 その声の持ち主の隣を歩いていた女性が乾いた笑い声を出してから、
「マジで、マジかよ、リュウって本当そういう服作るよねぇ、怖い怖い、アタシのこともそんな目で見ていたのかなぁ?」
 リュウの足は止まったんだけども、黙って俯くだけで。
 私はリュウの顔を覗き込むと、何か耐えるように、歯を食いしばって、苦しそうな顔をしていたので、
「何ですか貴方たちは。何か嫌な感じですね」
 とハッキリ言うと、ネチャネチャ喋る男性がこう言った。
「いやいやいやぁ、だってリュウだろうぅ? その情けない後ろ姿はリュウそのものじゃん! 服の力でしかバトルできない弱々しいリュウくぅん? 聞いてるぅー?」
 私は何か納得いかなくて、
「じゃあ人違いじゃないですか? リュウはめちゃくちゃ強いですから」
 と言ったところで、女性のほうがバッと距離を詰めてきて、リュウの顔を見ると、吹き出してから、こう言った。
「やっぱりリュウだよぉ! あれあれあれ? 新しいパーティ? できたんでちゅね~、偉いでちゅねぇ~」
 そう言って頭を撫でようとしてきたので、私はその手を振り払った。
 するとその女性がこっちを睨んできて、こう言った。
「ちょっと失礼でしょ? ちゃんと昔のパーティは最強だったって教えてあげないとこの子、今、痛い目に遭うわよ?」
 と言ったところで後ろから殺気を感じたので振り返りながらも、後ろへバックステップをすると、なんとさっきの男性が私に向かって蹴ってきていた。
「えっ! 突然蹴るほうがヤバくないですかっ?」
 私が驚愕しながら言うと、その女性と男性が私を挟み撃ちするように立ち回って、
「リュウ? アンタ、ヘタレだからさ、何もできないだろうからアタシとシシカバでこの子フルボッコにするね? 何かムカつくからさぁ?」
 と女性のほうが言ったところで、リュウが私と背中合わせで立って、こう言った。
「止めろ、梨花さんは関係無い。やるなら俺をやれ」
 すると私の目の前にいるシシカバという男性がこう言った。
「止めろ、ねぇ……そんな口の利き方、元パーティによくできたなぁ? ヘタレのリュウをさ、守りながら闘うの大変だったんだよなぁ?」
 女性のほうも何か喋り出した。
「というかさぁ、君も可哀想だよねぇ、そんな変態の服を着させられてさぁ? リュウの趣味に付き合わされて最悪だよねぇ?」
 えっ? このエイリーの服の良さが分からない? ダサ過ぎる。
 というかもう私は怒り心頭だ。
 本当はリュウが返り討ちにしたほうがカッコが付くんだろうけども、私は我慢できない。
 本気の速度を出してみることにした。あくまで速度だけは。
 今まで移動する時はリュウの風魔法に合わせていた部分もあったけども、ここはもう瞬発的に本気の感覚を。
「ハッ!」
 私は地面を蹴ってまず目の前にいるシシカバと言われていた男性のほうへ飛び膝蹴りをした。
 そのシシカバというヤツは一切目線をズラすことなく、真正面を向いたまま私にアゴを蹴られていた。全く反応していない。
 着地したところですぐにターンして、女性のほうへ向かって、腰を狙って蹴りを繰り出した。
 その女性も何も起きていないような顔をして、全く動かなかった。
「ふぅ」
 リュウの隣に戻ってきて、ちょっと溜息をついたところで、シシカバと女性が吹っ飛び始めた時に私は「あれ?」と思った。
 もしかすると今の私の動き、速すぎた……? いやでもそんなに……? まるでエイリーの神速じゃん、と思っていると、シシカバと女性は鈍い声を上げた。
 すると、周りにいた通行人たちが拍手し始めた。
「すごい! 何か知らんがすごい!」
「いや、おれは見えたね、あのチャイナドレスの子が二撃与えたんだよ」
「いやいや! 見えなかったよ! あの男のほうも何かしたんじゃないか!」
「そうだよ! だってあの子と挟み撃ちの連中は距離があったじゃん!」
「いや、おれは見えたから、多分そうだと思うぜ?」
 何か盛り上がっている……そして悪い気はしない、とちょっと悦に浸っていると、リュウが私の両肩を掴みながら、こう言った。
「すごい! さすが梨花さんだ! 高級バニラを使ったジェラートだ!」
「違うよ! リュウが作ってくれた服が最高だからだよ!」
 と言ったところで、さらに拍手が大きくなった。
 ひゅーひゅーとかも聞こえる、異世界にもこういうタイミングのこういう指笛あるんだ。
 私とリュウは通行人に会釈をしながら、ギルドへ入っていった。
 するとカウンターにいるお姉さんから、
「あたし、千里眼で見ていたよ。すごい女の子捕まえたね、リュウ。もうあんな最悪な二人組とつるまなくて良くなったんだ、良かった良かった」
 何かリュウの過去を知っていそうなので、
「リュウってどうだったんですか?」
 と言ったところで、すぐにリュウが焦ったように、
「ま! まあ! とりあえずギルドで強い魔物の情報を教えてもらおう! ほら! 千里眼で見ていたならこっちのレベルも分かっているでしょ! 素材を集めているんだ! よろしく頼みます!」
 カウンターのお姉さんはフフッと笑ってから、
「過去はリュウから直接聞いてくださいね、強い魔物の情報は大体こんな感じかなぁ?」
 と言って目の前に、AやらSやら書かれた紙を見せてくれた。
 カウンターのお姉さんは続けて、
「魔物討伐が目標ではないんだよね? ならこのSランクのアズール山がいいんじゃないかな? 魔物が魔物を生んでいるし、ちょうどいいんじゃないかな? だってさ、リュウは本当は強いわけだし、この女の子に至っては既に最強ランクじゃない? あの中では通行人に紛れていたヘルカオさんしか見えてなかったみたいじゃない。でもリュウは見えていたんでしょ? 勿論私もだけどね!」
 あっ、何か通行人の中にいた「おれは見えていた」オジサンも有名な人だったんだ、とか思っていると、リュウは私のほうを見ながら、
「それなりに危険が伴う地帯だけども、梨花さん、梨花、大丈夫ですか?」
「勿論! 私はリュウが居ればどこでも大丈夫だよ!」
 というわけで私とリュウはこの近くにあるアズール山という山へ行くことにした。
 果たして、どんなことが待ち受けているのだろうか……の前に、移動中、私は気になっていたので、リュウのことを聞くことにした。
「リュウ、あの人たちって何だったの?」
「……昔のパーティだよ」
 ちょっと言いづらそうに、口を開いたので、あっ、でも、と思って、
「いややっぱりいいや、私は今のリュウだけ知っていればそれで十分だ。私のリュウはこの目の前にいるリュウだけなんだから」
 これで終わらせた、と思っていたんだけども、リュウがまた喋り出した。
「俺がさ、敬語がちなのはパーティを追放されたことがあって、そこからあんまり人に対して強く出られないんです。だからほら、今も敬語になっちゃったりして、そういうことがあったからだから、その、ゴメンなさい、対等に喋られなくて」
「人に対して強く出る必要なんてそもそも無いよ、というか私は温厚な今のリュウが好きなの。敬語とかは後からじっくりやっていくとして、あんな腹立つこと言われても手を出さなかったリュウは偉いと思うよ」
「いや、その代わりに梨花さんのことを頼ってしまって……」
「あれは私が勝手にキレただけ! それに自分の本気の速度も分かってちょうど良かったよ! リュウは何もできなかったわけじゃない! 絶対そう!」
「でも」
 と言ったところで私は矢継ぎ早に答えた。
「私のことを信じて! 私の言うことが真実だから!」
「ありがとう……俺は梨花さんに助けられてばっかりだな、好きだよ、梨花、さん」
「別に! 何も助けていないし!」
「いや梨花さんが一緒に居てくれるだけで俺は助けられているよ」
「それはお互い様だからね! というか私のほうがリュウのこと好きだから! 覚悟していてね!」
「覚悟していてって何をっ」
 と言って笑ったリュウの顔が可愛くて、やっぱり私のほうが好きだなと改めて確信した。
 そんな会話をしていると、アズール山の麓に着いた。
「さぁ、梨花、ここから魔物をどんどん倒していこう。無理はしないでね」
「勿論! リュウもだよ!」
 するとリュウは風の魔法使いの恰好から剣と盾を持った勇者の恰好に切り替わって、何だか表情も凛々しくなって一段とカッコ良くなった。
「何でその恰好っ!」
 と興奮しながら尋ねると、リュウは、
「強い魔物には一撃が大きい剣士スタイルのほうがいいんです。梨花さんは遠距離魔法もできますよね? 俺の後ろに居て、援護してください」
「前線も大丈夫だよ!」
「いや、最初なのでまずは魔物のパターンを覚えてください。魔物はタイプによって思考にパターンがあるので、それを感覚的に学んでください」
「分かった。リュウの言うことだから全部信じるね!」
「ありがとうございます」
 そう言って私とリュウは二人セットで、バトルを開始した。
 魔物は続々とやってくるんだけども、どんどん倒しては素材をゲットしての繰り返し。
 リュウの言う通り、魔物には何だかパターンがあって、まるでゲームのようだった。
 ちょっとプログラミングされているような感じ。
 弱い魔物はスーパーファミコンといった感じで、強い魔物はニンテンドースイッチの大型プロジェクトって感じ。
 まあリュウは強いし、私も思った通りに体が動くので、楽勝だった……と、その時だった。
 山の奥のほうから逃げてくる武道家の集団が私たちの脇を走り去って行きながら、
「ヌシだ! 逃げろ! オレたちについてきてしまった! まさか麓まで降りてくるとは!」
 と私とリュウに言ってきた。
 私は小首を傾げながら、
「倒しても大丈夫なヤツですか?」
 と聞くと、
「倒せないんだよ! 逃げろ! とにかくオマエたちも逃げろ!」
 と武道家が言ったところで、その真後ろに人型なんだけども、黒紫の煙を纏った、明らかに魔物がいて、その魔物がその武道家に対して首元を掻っ切るように引っ掻こうとしていた。
 危ない、と思ったその時にはリュウが尖った氷の斬撃みたいなのを飛ばしていたみたいで、魔物の引っ掻こうとして腕にヒットして、なんとか武道家を守った。
 リュウは私の隣に来てから、
「この山のヌシ、つまりSランク依頼のボスですね」
 武道家は震えながらその場に腰を抜かして、
「終わりだ! もう終わりだ! この距離は!」
 と叫んだ。
 リュウは即座にその武道家の肩を掴んで、後方に投げ飛ばした。
 ちょっと荒々しかったので、
「今の大丈夫っ?」
 と聞くと、リュウは、
「アズール山にいる武道家なんだから、この程度のぶっ飛ばしは大丈夫。それよりもこの魔物を退治しよう」
 と言い終えた直後に魔物がリュウに向かって鋭い爪で引っ掻こうとしているのが見えたので、私はエイリー風の神速を使うことにした。
 まずアゴに膝蹴り一撃、眉間に正拳突き、鼻と口の間に人体急所・人中にエルボーの三連撃。
 正直リュウをバカにしていたバカ二人組の時は同じ人間だし、多少力をセーブしていたんだけども、今の相手は魔物だから制限ナシで全力をぶち込んだ。
 仕上げに、まず思考する時間が欲しかったので、喉仏にキックを前方に吹き飛ばすイメージで繰り出した。
 人型をしている魔物なので急所が分かりやすいなぁ、と思いつつも、その一般的な知識の急所で合ってるのかなとは思った。
 さて、遠くに吹っ飛ばしたので、こっからリュウと会話をして、どう闘うか考えようと思ったその時だった。
「ぐわぁぁああああああああああああああああああ!」
 その魔物は声を上げて、消えていった。
 でもここから最終形態になるはず、と思って、
「リュウ! これからどうする!」
 と私は声を荒らげると、リュウは黙って魔物がいたほうを見ているだけで。
「リュウ! こっからが勝負なんでしょ! 最終形態の出方を見てから闘う?」
「いや……梨花さん、梨花……宝石が出たということはもう勝ったよ……」
「えぇっ? これで終わりぃぃいいいっ?」
「いやもう今の梨花さんの動きは俺でも見えませんでした。すご過ぎる……」
 でもエイリーってこんな感じだしなぁ、と思っていると、私たちの後方で震えていた武道家が、
「破壊の天使だ……」
 と呟き、それエイリーの二つ名じゃんと思って嬉しくなった。
「梨花さん、図らずもこのアズール山のボスを倒しました。強い魔物の出現も少なくなるはずです」
「えぇっ? じゃあもう逆に素材は集まらないのっ?」
「いえ、そういうことを気にする必要はありません。それに俺たちの分の素材は山ほど手に入りましたから大丈夫でしょう」
 そう言ってその魔物がドロップした素材をかき集めたリュウ。
 まあ魔物がいなくなればそれでいいというわけか、良かったぁ、いけないことしたんだと思っちゃった。
「それでは梨花さん、一旦ギルドへ戻って報告をしましょう。武道家さんも一緒に帰りましょうか」
 リュウは腰を抜かした武道家を背負って、一緒にギルドへ移動しようとしたその時だった。
 私はさっきの反動か何かで、異常にスピードが出てしまい、移動の足並みが合わなくなってしまった。
「リュウ! どうしよう! リュウに合わせるの大変! いや! リュウが悪いんじゃなくてね!」
「分かっていますよ、それなら梨花さんは先にギルドへ戻っていてください」
「嫌だよ! 私はリュウと一緒に居たいもん! どうにかして!」
「多分ですが、そのチャイナドレスはもう戦闘専用になってしまったんですね。魔力の相乗効果により。なので他の服に着替えてください。まあ慣れればまた大丈夫なんでしょうけども、今は武道家さんもいるので慣れるのはまたあとにしましょう」
「そっか! そうすればいいんだ!」
 私はストックしていた見習い魔法使いの恰好になった。
 でも、
「この服、あんまり可愛くない……」
「大丈夫ですよ、梨花さんが可愛いので何を着ても可愛いですよ、どんなトッピングも似合うパフェですよ」
 そう微笑んだリュウ。そういうリュウが可愛過ぎる。
 いやでも、
「そういうことじゃないんだよなぁ、服は自分アゲでもあって」
「それなら一旦家に戻ったら、梨花さん、梨花が着たい服を作りましょう!」
「ありがとう! リュウ!」
 みたいな会話をしていると、武道家がちょっと退屈そうに溜息をついた。
 そうだ、邪魔者がいたんだった、あんまりイチャイチャしないようにしなきゃ、と思っていると、リュウが、
「服は自分アゲという言葉、俺も気持ちよく分かりますよ。服を作るための初期衝動ってそうでしたから。やっぱり梨花と同じところが多くて、すごく嬉しいです」
 そう何だか照れ笑いを浮かべたリュウ。
 いやそういうハグしたくなるような感じ出すなよ、今はイチャイチャできないんだってば。
 ギルドに戻って報告すると、ギルドのお姉さんは勿論、ギルドにいた人たちもみんな驚愕していた。
 でも武道家が本当だということを証明してくれて、この人やっと役に立ったなぁとかちょっと失礼なことを思ってしまった。
 その後、私とリュウは自宅に戻ることにした。