◇◇◇
なんで泣くんだよ。
再び眠りに落ちた彼女の頭を撫でる。
ずっと考えてた。梓が俺との記憶を忘れた理由。それが関係してるのか?
何がお前をそんなに苦しめてる?
届かない問いがぐるぐる回っている。
木野のお母さんに挨拶をして家を出た。
「ーー待って!」
後ろからかけられた声に振り向く。
「貴方は梓とどんな関係なの?」
息を切らした木野のお母さんが真っ直ぐに俺のことを見据えた。
「……ただの、クラスメイトです」
それ以上でも以下でもない。
少なくとも今の俺には、何もない。
俺の答えにホッとしたような残念そうな顔で複雑そうに微笑んだ。
「……そう、わざわざありがとう」
そう言って木野のお母さんは自分の家に戻って行った。
ーー……俺は、木野にとってなんだ?
「ーーはっ、そんなの……ただのクラスメイト以外の何者でもないだろ」
自分でそう言ったじゃないか。
何もかも忘れた梓は、俺のことを知らない。覚えてない。
それが事実だ。
わかりきっていたはずだろ。
自分勝手に痛みだす胸が苦しい。
なんで、こんなにつらい。
持て余した痛みを振り切るように走り出した。
月曜日。
今日も木野は学校に来なかった。
担任が言うには熱がまだ下がらないらしい。
正直、木野がいないことに少しホッとしている自分がいる。何も自分の中の感情を整理できてないから。
「ーーい、……おーい、悠!」
「……うるさい。なんだよ」
「悠が無視するからだろ?どうしたんだよ?」
「……なにが?」
見透かされたような問いにいらつく。
「明らかに様子がおかしいんだよ。自覚ないのか?」
「……うるさい……」
自覚がないと言えば嘘になる。
それでも、認めたくなかった。
自分が木野にとってなんでもないただのクラスメイトでしかないことを。
俺が、木野を守れるような立場じゃないことがもどかしかった。
「なあ、俺はあいつに何をしたんだ?」
「は?」
俺の言葉に直樹は目を丸くする。
「あいつが泣くようなことをしたのか?」
泣いてる顔が瞼の裏に焼き付いている。
「どうして俺は、あいつを忘れたんだ?」
直樹は何も言わない。
わかってたことだ。直樹も桜も肝心なことは教えてくれない。
「悠、ちょっと来い」
急に直樹に腕を引っ張られてバランスを崩しながら立ち上がる。そのまま引きずるように歩き出した。
「は?おいーー」
「桜、悪いけど上手く誤魔化しといて。俺と悠2人とも早退な」
直樹の言葉に桜は呆れたように「はいはい」と笑った。いつの間に取ったのか直樹は俺の荷物と自分の荷物を肩にかけていた。
直樹に引きずられたまま校舎を出る。
「おいっ、なんなんだよ?」
「お前、何をそんなに悩んでんの?」
「は?」
近くのコンビニを通り過ぎて小さい公園に着いた。
「お前も、あいつも、どうしてギリギリまで何も言わないんだよ?」
あいつって誰だよ。
「俺たちに話すときはいつも自分で決めた後。その後俺たちがどんなに止めたって絶対に自分の決めた通りにする。頑固者同士で拗らしてるんじゃねぇよ」
「ーー……なに、わかったように言ってんの?」
直樹が掴んだままだった腕を振り払う。
「わかんねぇだろ、俺のことなんか」
苛立ちが混ざる。
「俺が今どんな思いかなんかお前にわかんねぇだろ。勝手にわかったような口聞いてんじゃねぇよ」
苛立つ俺に直樹が呆れたように笑った。
「俺の言葉にそんなにキレてる時点でもうお前の中で答えは出てんだろ?」
「……っさい」
「何を悩んでんだよ。そんでお前はどんな結論に至ったんだよ?話してみろよ、答えが出てる悩みがなんなのか」
「うるさいんだよっ」
わかってんだよ。
最初から全部わかってた。
今さら悩んでどうこうなるもんじゃないことくらいわかってんだよ。
「うるさかろうが俺は引かない。あいつの時みたいに後悔するのはもうごめんなんだよ」
「……なんの話だよ」
「別に、大切な奴に手を伸ばせなかった。情けない話だよ」
意味わかんねえ。
「直樹に話しても何も変わらねぇよ。もうずっとわかりきってたことだからな」
そうだ。最初からわかってた。
「木野に俺は必要ない。あいつはひとりで立ってる。誰の力も借りないで自分だけの力で」
過去に何があろうが、今の木野梓に俺は必要ない。
その事実を受け入れたくなかっただけだ。
「だからなんだ?」
当然のように言った直樹に眉を寄せる。
「なんだってなんだよ?」
「だから、それがどうしたんだよ?」
「は?」
「お前もあいつも変なとこネガティブというか……例えば本当に今の木野梓がお前のことを必要としてないとして、それがどうしたんだよ?」
反論しようとした俺を遮るように続ける。
「お前が木野と、梓といたいって思うことは勝手だろ?そもそも、お前は過去の梓だけじゃない。今の木野を好きになったんだろ?」
「……っ」
「木野が今どんな状態なのか俺はよく知らない。だけど高校に入ってからの木野の近くに悠がいたことは変わらないだろ。俺からみたら木野も悠に少なからず影響を受けてるよ」
「だからーー」
「だから、勝手に諦めてんじゃねえよ」
直樹の言葉に何も言えなかった。
「梓のことを悠が決めつけるなよ。桜も言ってただろ。もう2度と悲しそうな顔させるなって」
日曜日の朝、泣きそうな顔で桜がそう言った。
「過去も、今も、全部ひっくるめて好きなんだろ?」
「……ああ」
「だったら、悠が持てる全部で梓にぶつかれ。それでもダメだったら骨くらい拾ってやるから」
最後は冗談めかして笑った。
「……悩んでる暇なんか、なかったな」
ぶつかるしかない。
そのためにはまずあいつに伝えないといけない。
思い出したこと。
草の香りを風がつれてきて今さら空の色を知った。
「……直樹」
「うん?」
「ありがとな」
空を見上げたままの俺に直樹は照れたように「どういたしまして」と笑った。
なんで泣くんだよ。
再び眠りに落ちた彼女の頭を撫でる。
ずっと考えてた。梓が俺との記憶を忘れた理由。それが関係してるのか?
何がお前をそんなに苦しめてる?
届かない問いがぐるぐる回っている。
木野のお母さんに挨拶をして家を出た。
「ーー待って!」
後ろからかけられた声に振り向く。
「貴方は梓とどんな関係なの?」
息を切らした木野のお母さんが真っ直ぐに俺のことを見据えた。
「……ただの、クラスメイトです」
それ以上でも以下でもない。
少なくとも今の俺には、何もない。
俺の答えにホッとしたような残念そうな顔で複雑そうに微笑んだ。
「……そう、わざわざありがとう」
そう言って木野のお母さんは自分の家に戻って行った。
ーー……俺は、木野にとってなんだ?
「ーーはっ、そんなの……ただのクラスメイト以外の何者でもないだろ」
自分でそう言ったじゃないか。
何もかも忘れた梓は、俺のことを知らない。覚えてない。
それが事実だ。
わかりきっていたはずだろ。
自分勝手に痛みだす胸が苦しい。
なんで、こんなにつらい。
持て余した痛みを振り切るように走り出した。
月曜日。
今日も木野は学校に来なかった。
担任が言うには熱がまだ下がらないらしい。
正直、木野がいないことに少しホッとしている自分がいる。何も自分の中の感情を整理できてないから。
「ーーい、……おーい、悠!」
「……うるさい。なんだよ」
「悠が無視するからだろ?どうしたんだよ?」
「……なにが?」
見透かされたような問いにいらつく。
「明らかに様子がおかしいんだよ。自覚ないのか?」
「……うるさい……」
自覚がないと言えば嘘になる。
それでも、認めたくなかった。
自分が木野にとってなんでもないただのクラスメイトでしかないことを。
俺が、木野を守れるような立場じゃないことがもどかしかった。
「なあ、俺はあいつに何をしたんだ?」
「は?」
俺の言葉に直樹は目を丸くする。
「あいつが泣くようなことをしたのか?」
泣いてる顔が瞼の裏に焼き付いている。
「どうして俺は、あいつを忘れたんだ?」
直樹は何も言わない。
わかってたことだ。直樹も桜も肝心なことは教えてくれない。
「悠、ちょっと来い」
急に直樹に腕を引っ張られてバランスを崩しながら立ち上がる。そのまま引きずるように歩き出した。
「は?おいーー」
「桜、悪いけど上手く誤魔化しといて。俺と悠2人とも早退な」
直樹の言葉に桜は呆れたように「はいはい」と笑った。いつの間に取ったのか直樹は俺の荷物と自分の荷物を肩にかけていた。
直樹に引きずられたまま校舎を出る。
「おいっ、なんなんだよ?」
「お前、何をそんなに悩んでんの?」
「は?」
近くのコンビニを通り過ぎて小さい公園に着いた。
「お前も、あいつも、どうしてギリギリまで何も言わないんだよ?」
あいつって誰だよ。
「俺たちに話すときはいつも自分で決めた後。その後俺たちがどんなに止めたって絶対に自分の決めた通りにする。頑固者同士で拗らしてるんじゃねぇよ」
「ーー……なに、わかったように言ってんの?」
直樹が掴んだままだった腕を振り払う。
「わかんねぇだろ、俺のことなんか」
苛立ちが混ざる。
「俺が今どんな思いかなんかお前にわかんねぇだろ。勝手にわかったような口聞いてんじゃねぇよ」
苛立つ俺に直樹が呆れたように笑った。
「俺の言葉にそんなにキレてる時点でもうお前の中で答えは出てんだろ?」
「……っさい」
「何を悩んでんだよ。そんでお前はどんな結論に至ったんだよ?話してみろよ、答えが出てる悩みがなんなのか」
「うるさいんだよっ」
わかってんだよ。
最初から全部わかってた。
今さら悩んでどうこうなるもんじゃないことくらいわかってんだよ。
「うるさかろうが俺は引かない。あいつの時みたいに後悔するのはもうごめんなんだよ」
「……なんの話だよ」
「別に、大切な奴に手を伸ばせなかった。情けない話だよ」
意味わかんねえ。
「直樹に話しても何も変わらねぇよ。もうずっとわかりきってたことだからな」
そうだ。最初からわかってた。
「木野に俺は必要ない。あいつはひとりで立ってる。誰の力も借りないで自分だけの力で」
過去に何があろうが、今の木野梓に俺は必要ない。
その事実を受け入れたくなかっただけだ。
「だからなんだ?」
当然のように言った直樹に眉を寄せる。
「なんだってなんだよ?」
「だから、それがどうしたんだよ?」
「は?」
「お前もあいつも変なとこネガティブというか……例えば本当に今の木野梓がお前のことを必要としてないとして、それがどうしたんだよ?」
反論しようとした俺を遮るように続ける。
「お前が木野と、梓といたいって思うことは勝手だろ?そもそも、お前は過去の梓だけじゃない。今の木野を好きになったんだろ?」
「……っ」
「木野が今どんな状態なのか俺はよく知らない。だけど高校に入ってからの木野の近くに悠がいたことは変わらないだろ。俺からみたら木野も悠に少なからず影響を受けてるよ」
「だからーー」
「だから、勝手に諦めてんじゃねえよ」
直樹の言葉に何も言えなかった。
「梓のことを悠が決めつけるなよ。桜も言ってただろ。もう2度と悲しそうな顔させるなって」
日曜日の朝、泣きそうな顔で桜がそう言った。
「過去も、今も、全部ひっくるめて好きなんだろ?」
「……ああ」
「だったら、悠が持てる全部で梓にぶつかれ。それでもダメだったら骨くらい拾ってやるから」
最後は冗談めかして笑った。
「……悩んでる暇なんか、なかったな」
ぶつかるしかない。
そのためにはまずあいつに伝えないといけない。
思い出したこと。
草の香りを風がつれてきて今さら空の色を知った。
「……直樹」
「うん?」
「ありがとな」
空を見上げたままの俺に直樹は照れたように「どういたしまして」と笑った。

