もしもこの想いが赦されるなら君に伝えたいことがあるんだ

 ◆◆◆
 何度目かになる休日の作戦会議。
 今日は蒼井と2人でちょっと大きな街にあるショッピングモールに来た。
 理由は自分の好みを探すこと。そもそもいくら記憶を忘れるからって好き嫌いくらいあるだろって話になったことから始まる。
 蒼井と過ごす日々は忘れたり忘れなかったりの繰り返し。ずっと感情が動くと忘れると思ってたけどそうでもないみたいだ。
「ーー木野?なんかあった?」
 蒼井の声に我に帰る。
「あっ、ごめんちょっと考えごと」
「大丈夫か?」
「うん、ごめん」
 疑わしそうな顔をする蒼井にへらっと笑う。
「なんで笑うんだよ」
 呆れたように言われて困る。
「まあ、いいや。これ好きだったよな?」
 そう言いながら黙ったままの私に飲み物を渡して蒼井は向かいの椅子に座った。
 ここは大きなツリーが有名でクリスマスになるとイルミネーションが綺麗らしい。
「……で、どう?自分が何が好きなのかわかった?」
「うーん。微妙?」
「なんで疑問系なんだよ」
「だって、色々ありすぎるんだもん」
 私の言い訳に笑う。
「本当、木野はそういうとこあるよな」
『ーーまあ、それが梓のいいとこでもあるんだけど』
 誰かがそう言って穏やかに笑った。
「えーー?」
「木野ーー?」
「ーーえっ?悠!?」
 私の後ろから響いた声に蒼井が驚いたように目を丸くした。
「直樹?それに、桜も」
「えっ?」
 今のは誰の声だろう。
 そう思ってしまうほど全員が目を丸くした。
「ーーめっちゃ偶然じゃね!?悠こんなとこで何してんの?」
 いち早く反応したのは会津くんで次に反応したのはやっぱり井上さんだった。
「本当に偶然。こんなところまで滅多に来ないのにどうしたの?」
 そう言いながら2人ともようやく私の視界に入る。
「えっ……あ、と……木野さん?」
 私の顔を見て誰よりも目を丸くしたのは井上さんだった。
「えっと、こんちには?」
 学校の外で同級生に会うなんてほぼないから随分他人行儀になってしまった。
 私の返事に何故か少しだけ悲しげに眉を寄せた井上さんに少しだけ罪悪感がある。
「木野じゃん!お前ら2人で何してんの?」
 会津くんの心底面倒くさい質問にため息をつきたくなる。
「直樹たちこそデートしてんじゃないの?」
「俺たちはもちろんそうだけどさ!木野と2人って気になるじゃん!」
「こら、直樹!やめなよ木野さんに失礼でしょ」
 さすが彼女の井上さんが会津くんをとめてくれてほっとする。
「えーでもさ、気になんじゃん?」
「はいはい、私たちはそろそろ行くよー。じゃあまた学校でね。木野さんもじゃあね」
 そう言って井上さんは会津くんを連れて人ごみの中に消えてしまった。
「なんか、悪いことしちゃった?」
「いや、別にいいだろ。直樹はともかく井上なら変なこと言ったりしない」
「そっか」
 さっき井上さんのこと下の名前で呼んでた気がしたんだけど、聞き間違いかな?……って、何考えてんだろ。別に私と蒼井はなんでもないんだから誰をどう呼んでようが関係なくない?
 さっき蒼井にもらった飲み物をぐいっと飲んでなんとか落ち着く。
 あれ?ていうか。
「私、これが好きって蒼井に言ったことあったっけ?」
 飲んでから気づいたけど確かにこれ私が好きな紅茶だ。
 私の問いに一瞬動きを止めた蒼井が「……結構前にな」と目も合わせずに答える。
「そっか。ありがと」
「……どういたしまして」
 素っ気ないような言い方につい笑ってしまう。
「なんだよ……?」
「別に、なんか蒼井らしくないなぁって」
「はぁ?」
 困ったような顔に笑いが溢れる。
「だって、いつも何にも興味ありませんみたいな感じなのにわざわざ私の好きなもの覚えてて買ってくれたりって。それってなんか嬉しいなぁって」
 私の言葉に驚いたように目を瞬いて何故か自嘲するように笑った。
「……お前は本当に変わんないな」
 ぼそっと呟いた言葉はよく聞き取れなかった。
「少ししたら俺たちももう少し見て回るか」
「そうだねー。こんなところまで来たんだし」
 わざわざ遠出したのに手ぶらなのはなんだか勿体無い。
「じゃ、行こっか?」
 私の声で再開した。
 色々なお店があってどのお店に入るかすら迷ってしまう。
 ブランド物の服屋。
 美味しそうなアイスクリームのお店。
 映えそうな飲み物を売ってるところもある。
 前を歩いてる女の子達はみんなで楽しそうに写真を撮って笑っている。
 その景色があまりにも遠い世界であまりにも場違いな自分に足が止まる。胸の奥がざわざわと揺れる感覚にめまいがする。無意識に目線を下に下げると履き慣れたスニーカーが映った。
「ーーおい、木野?」
 真上から声が降ってきた瞬間に見慣れた黒いスニーカーが視界に入る。
「なに考えてんのかだいたいわかったけど、とりあえずこっち来い」
 ぐっと手を引かれて視線が上がる。
「えっ?ちょっとーー」
「前を向いてろ。大丈夫だから」
 蒼井の言葉に何故か目が熱くなった。
 なにが大丈夫なのかさっぱりわからないし、なんのことかもわからないけど……迷いなく大丈夫と言われてびっくりするほど安心した。
 どうせ調子に乗るからそんなこと一生教えてあげないけど。
「ほら、お前こういうのだろ?」
 そう言って連れてきたのはかわいい雑貨屋さん。
「……かわいい」
 店内に足を踏み入れると「いらっしゃいませ」と声がかかる。
 可愛いを全面に出しすぎてないから誰でも入りやすい雰囲気。文房具とかバッグとかヘアアクセとかとにかく色々ある。小さいゆいぐるみも。
 ゆっくりいろいろ見ていると光るものが目の端に映った。
「あっ……これ」
 私のこぼした言葉に蒼井が反応した。
「あー。これか。たしかに好きそう。それに、似合うな」
 手にとったネックレスを私の方に向けて微笑んだ。
「お前が好きな海っぽいモチーフだし。いいんじゃね?この貝殻もお前の好きな青じゃん」
「……なんで、私が海好きってわかったの?」
 純粋に疑問だった。
「は?見てればわかる」
 なに当たり前のこと言ってんの?とでも言いたげな顔にイラっとする。さっきからどうして私の好きなものすぐわかるんだろう。教えたことないはずなのに。見てればわかるって……そんなに顔に出てないはずなんだけど。
「ていうか、別に買わないよ。流石に手でないって」
 私の言葉に「ふうん」と言って元あった場所に戻した。
「ま、今日は好きなもの探しなんだから別に隠すことないだろ」
「そういうあんたは全然やってなくない?」
「俺は自分の好きなものはわかってるからいいんだよ」
 私がじとっと睨んでもどこ吹く風だ。
 結局私は貝殻が散りばめられたデザインのノートとイルカがモチーフのポールペンを買った。
 蒼井に言われてから思ったけどたしかに私の持ち物って青系の色が多かったり海系のモチーフが多いんだよね。無意識に集めてたんだなと他人事みたいに思う。
 気がつけば結構な時間が経っていて外は茜色に染まっていた。
「うわー、綺麗な夕焼け色だね」
 久しぶりの外の空気を吸い込みながら空を見上げた。
「だなー。まぁ木野は茜色っていうより朝焼けのが似合うけど」
「……は?」
 慌てて聞き返してももう教えてくれなかった。
 ドキドキした胸をおさえて帰り道を歩く。
「……木野はさ、どうして青色が好きなんだ?」
「え?うーん。なんでだろ」
 よくわからないけど……。
「ーー何よりも大事で大切な人をすぐに思い出せるから」
「え……?」
 驚いたように私を見る蒼井に私が驚く。
「え?あれ?なんで私……?」
 自分が言ったことの意味がわからない。
「ごめん、なんかよくわかんないや。でも青は好きだよ」
「そっ、か。まぁいいや」
 そのあとはなんだか気まずくてあまり会話にならなかった。
 今日も蒼井は家まで送ってくれた。
「今日もここでいいよ。いつもありがとう」
「おう、それと、これ」
 ゴソゴソと出された包に目を丸くした。
「えっ?蒼井もあそこでなんか買ったの?」
「そう。そんで、これはお前にやるよ」
 そう言って私の手に乗っかる。
「えっ、ありがとう?見ていい?」
「どうぞ」
 カサっと音を立てて出てきた。
「えっ!これ……」
 私が買うの諦めたネックレスが手の中にあった。
「なんで?」
「似合うと思ったんだよ……お前に」
 そっぽを向いた蒼井の頬が少しだけ赤くなっていた。
 やめてよ。そんなことされたら、勘違いしちゃうから。
「な、お前なんで泣いてんだよ!」
 慌てた蒼井が袖で涙を拭ってくれる。
「あはは、ごめん。なんか、嬉しくて」
 それ以上に胸の奥の方が苦しくて、つらかった。
 この気持ちは、なんなんだろう。
 わからない。考えたくない。
 この気持ちは見つけちゃいけない。
「なんだそれ」
 そう言って笑った君がどうしようもなく眩しく見えた。