7

 鏡和名と名乗った少女の謎の忠告を受けたものの、だからといって亜澄との交際が終わるわけではない。数日後、一緒に帰宅する事になった碧人はなるべく人気の少ない場所を探して、プレゼントを贈ろうと考えていた。
 ずっとプレゼントの内容を考えていた碧人は、前日にプレゼントするものを決めた。すぐに用意できるものではあったが高校生がそんな高いものを贈る事なんて難しいし、まだ早いだろう。
「……おっ」
 そして、丁度良さそうな所を見つける。川辺の近くにある小さな公園。周囲に人の気配を感じないし、程よく綺麗な景色の見える場所だった。
「ここで休憩しないか?」
「もしかして疲れましたか? それなら、良いですよ」
 亜澄に休憩するように促しながら、どのタイミングで渡そうとするか伺う。

「ここから見える夕焼け、綺麗じゃないですか?」
「そ、そうだな。綺麗だ、うん。綺麗」
 この公園に付いて、そこから時間が少し経ってはいるのだが、どのタイミングで渡そうとするのが掴めない。休憩って言ったから、すぐにこの場を離れる事になるだろうし、なるべく早めに渡したい。
 着いた時より、間違いなく夕日が落ちている筈だし、どこかのタイミングで切り出されてもおかしくない。だから、なんとかして碧人は話題を切り出そうと一歩を踏む。
「あの」
「……どうしました?」
 亜澄は少し疑問を浮かべる様な顔をして、聞いてくる。大丈夫。碧人はそう言い聞かせて、本題に切り出す。
「一つお願いがあって、これを受け取ってほしい」
「え、これですか?」
 亜澄に手渡したそれは、ラッピングされた袋。この時のために、わざわざ買ってきたものだった。亜澄は驚いた顔をしてその袋を手渡す。
「開けても、いいですか?」
 コクリ、と碧人はうなずいた。それを見た亜澄は、その袋を開ける。
「……! これ」
 亜澄の目が開かれる。中に入っていたのは、小さな蝶々を模した銀色の髪飾りだった。
「亜澄にプレゼントしたいなって考えてて。それで、どうしようかって思った時にあえてこういうのにした……んだけど」
 少し前、プレゼントを計画していた碧人は、たまたま立ち寄った店で見つけたものだった。手を出せる値段ではあったものの、決して安い値段ではなかったし、またこれを選んだ理由もある。
 改めて思えば、亜澄の好きなものが何なのかをまだ知らなかった。
 だから、黒髪のロングヘアに似合うようなものとして、一目見て綺麗だと感じたこの蝶々の髪飾りにしたのだ。
「……ありがとうございます! 私、嬉しいです!」
 満面の笑みを広げて、亜澄は喜ぶ。
 自分の、プレゼントにこんなに喜んでくれた。碧人はそれを見て、とても嬉しくなる。
「これが渡したくって、どうしても良い所で渡したかったんだ……そ、それじゃあそろそろ行く?!」
「ふふっ……行きましょうか」
 最後は少し照れ隠しになってしまったが、プレゼント作戦は成功だった。

  8

 やっぱり好きだ。大好き。
 だから、そろそろ計画に移そう。
 大丈夫。自分の事を好きなのは確実なんだし、絶対に許してくれる。

  9

「今日は、私の家に来てくれませんか?」
 プレゼントの数日後、学校で昼食を取っている時に、亜澄がさらっとそう言いのけるなんて思いもしなかった。
「……え? マジでいいの?」
「ええ。マジです。良いです」
 確認の質問も即答。そんな急に誘ってくるなんて。
「はあ……マジか、嬉しいや」
「ふふっ。絶対楽しい事がありますから。待っててくださいね!」
 亜澄の家に行けるだけでも楽しみだ。碧人は、そんな事を素で言えるような人間ではなかったが、それでも内心彼女にそう、伝えた。


「待って」
 亜澄と別れて、トイレに行こうとした時に、誰かに呼び止められた。
「あれ……もしかして」
「……そう。私だよ」
 呼び止めた相手は鏡だった。今度は、何を言ってくるのか。
「どうしたんだよ。また亜澄絡みで何かあるのか?」
「その通り。彼女の家に行くのはいくらなんでも危険」
 何で、そんな事が断言できるのだろうか。それに、まるで彼女が危険物の様に話してくる鏡に少し苛立ちが生まれる。
「なんだよ、そんな断言できる立場なのか?」
「……うん。だって、私は遠藤の事、知っているもの。お兄さん絡みで」
「……お兄さん?」
 それは前に話した時は一切聞かなかった事だ。
 ……お兄さん絡みとは、一体?
「私は遠藤に近づきすぎると危険だと思う。だって……」
「……別に、心配されるような事でもないだろ。じゃあ俺は行くから」
「あっ待って……!」
 碧人はそのまま歩いて行った。
 流石に、出会って少し話しただけの相手を、信じられなかった。

  10

「どうしよう……」