「うううう、さっむ!」
「だから言っただろ、寒いって!」
 屋上に着いた俺たちは刺さるような寒さに上着をギュッと握り、小刻みに震えた。
「ハハッ、あ、ほら!海見えますよ」
 無邪気に笑う彼は今にも海に向かって走り出しそうなほどワクワクしている様子だったが、彼の身体がそうはさせてくれない。そして彼は少し俯き寂しそうな表情を浮かべた。
「僕は……先輩の居場所になりたかった」
 彼が急にボソッと呟いた言葉が、俺の胸にずしっと落とされた。
「君は俺の居場所だよ」
「ごめんなさい。もうすぐ、僕は……」
「それでも君は」
 俺は彼の言葉を遮り車椅子の前に膝をついた。
「それでも君は俺の居場所だよ。君がどこにいても、君は俺の居場所だ。後輩くんが言っただろ?流唯は今もきっと、近くにいるって。相手を思えば近くにいる気がする。それだけで強い味方になるよ」
「……ありがとうございます。うん、やっぱり僕は先輩の居場所です」
「それで君の居場所も俺だから」
「僕の、居場所……」
 驚いたように顔を上げた彼は、ホッと安心したように肩の力を緩めた。
「そう。だからまた、冬になったらあの海で会おう」
「なんで冬の海なんですか!僕は夏の海の方が好きなんですけど」
「ハハッ、たしかに。でも俺、冬の海も好きになれそうだな。君がいるなら、尚更」
「じゃあ冬になったら海で待ってます」
 君の言う『始まってしまった終わり』は止められないのかもしれない。それでもこの冬の海に最後の泣き言を言わせてくれ。
「君を失いたくない」
 
 家に着いた俺は一枚の写真を壁のコルクボードにピンで止めた。
「最近のおもちゃってすごいんだよ。現像までできるんだって」
 クリスマスの日、海で撮ったブレブレの写真。出来の悪さに改めて笑ってしまう。それでもこれが
「これも『青春』ってやつなのかな」
 出会いが生んだ心弾む喜びも、失ったことで生まれた痛みも、互いの支えになりたいとこぼした涙も、全て俺たちが一緒に生きた証だから。
「また言うの忘れてたな……俺の名前」
 大月流星。名前すら一度も呼ばれたことがない君だけど、俺にとって必要な大きすぎる存在だ。
 きっと俺は、君がいなくなったら泣くだろう。胸が張り裂けそうなほど悲しくて寂しくて涙が止まらないと思う。流唯がこの世界からいなくなった時のように。それでも悲しさを乗り越えるつもりはないよ。悲しさが君を感じさせてくれるから。
 俺はあの時、君がくれた答えが大好きなんだ。
「死んだら人はどこに行くんだろうね」
「どこにも行きませんよ」