《それで、本当に面白いんだよね》


 昨晩、星絆から来ていたメールにそう返信してメールを閉じた。



 星絆は、私の隠し事を知ってからも変わらぬ関係でいてくれた。


 そして、それを星絆から望んでくれた。


 連絡は今まで以上に頻繁に取り合うし、私の体調が良いときはいつもお見舞いに来てくれる。


 きっと、私に残された時間がそうさせているのだろうけど、星絆と向き合えたし後悔はない。


 そして、こんなことならもっと早く行っておけばよかった、なんて思うくらいになった。



《今日は通院だったっけ?》


 診察を終えて会計を待っていると、透真くんからメールが届いた。


 《うん、エントランスにいるよ》


 《わかった。今から行ってもいい?》


 《うん、待ってる》


 久しぶりの再会を心待ちにしていると、少しやつれた透真くんが姿を現した。


 覚悟しなければならないと思いつつ、どこかで信じていたのかもしれない。


 別れはまだ先だという願いを。


 「俺、もう長くないって」


 「そっか」


 「俺、楽しかった。幸せだった」


 「待って……」


 このまま諦めてほしくなかった。


 私の方が諦められなかった。

 人生は願っても変わらないことばかりだけど、残された時間を充実させるのは今からでも遅くない。

むしろ、ちょうどいい。


 それを教えてくれたのは紛れもなく透真くんだった。


 こんなことは性に合わない。


 けれど、誰かのためだから、透真くんのためだから力になりたいと思った。


 「どこか出かけない?」


 あてもなかったけれど、そう言ってみた。


 週末、早紀さんの運転で隣県の水族館に来ていた。


 周囲はふたりを心配して止めようとしたのだけど、最後のお願いだから、と言うとしぶしぶ許可を出してくれた。


 不謹慎ではあるけれど、許可をもらうためだから仕方がない。


 勿論、無理は禁物という条件付きの許可をもらった。


 水族館に行くのは小学生以来だ。


 それに、透真くんとの遠出も初めてで、胸の高鳴りは止まることを知らなかった。


 一歩足を踏み入れると、神秘的な空間に色とりどりの明かりに照らされる。


 私が透真くんの乗った車椅子を押しながら、2人で水族館を回った。


 「海月って可愛いよね」


 「そうだな。蒼来は海月が好きなのか?」


 「うん。海月って死ぬと水に溶けて消えるんだ。神秘的だよね」


 少しの沈黙にハッとして透真くんに目を向けると、彼は心配そうに私を見つめていた。


 「そんな顔をしないでよ。ただ魅力的だと思っただけ」


 不快な気持ちにさせたかったわけでも、死を考えたわけでもないけれど、透真くんを不安にさせてしまったことを申し訳なく思う。


 「お腹空かないか?ご飯食べに行こう」


 「うん」


 お昼時ということもあってか、店内は満席に近い状態だった。


 運よく空いていた席に座ると、周りをカップルに囲まれた。


 ふと、この状況だと透真くんと私もカップルに見られるのかな、なんてことを考える。


 本日のおすすめ、と書かれたプレートを注文して、少しの間沈黙が流れた。


 「同じ病気なんだから、俺の前では言いたいこと全部言っていいんだよ。無理に隠すな」


 「ありがとう」


 「まぁ、俺が胸張って言えることでもないけどな」


 「たしかに」


 「いや、そこはお世辞でも否定するだろ?」


 「そう?でも言いたいこと全部言っていいって言ったのは透真くんでしょ」


 それには、目を合わせてクスクスと笑う。


 「蒼来は変わったな、ずいぶん明るくなった」


 親目線の透真くんに、また笑ってしまう。


 なんだよ、と照れ笑う透真くんの姿に、この時間が長く続くことを願った。