シノアは、真昼に問いかける。
「まだ戦術機との契約を済ませていないのでしょう。略式だけど今してしまいます」
「はい」
シノアは、ポケットから銀色の銃弾を取り出す。きれいな装飾が施された観賞用の銃弾のような形だ。そしてそれを押し込むと、小さく針が飛び出す。
「指を出して。血が必要なの」
「はい」
ぷつ、と赤い血の膨らみができる。
「痛むでしょう」
「いえ。大丈夫です。その銀色の弾丸は?」
「シルバーブレッド。困難を打ち砕くという意味があるわ。時雨お姉様が贈ってくれたの」
シノアは大切そうにその弾丸をしまう。
血を流しながら二人で一緒に戦術機を持つ。血が流れて戦術機に注がれていく。
「シノア様……私の血が……」
「それでいいの。略式ということになっているけどこれが本来の形なの」
恐らく真昼が、言いたいのは自分の血がシノアの服についてしまうことなのだが、それに気に留めず、儀式を続ける。
痛みを伴う契約。
血を盟約の契りとして必要とするのが本来の形の戦術機の契約。
「指輪を通じてあなたの魔力が戦術機に流れ込んでいるわ」
コアと言われる部分が脈打ち、駆動音と共に戦術機全体に魔力が伝播し、エンジンがかかる。
「来た!」
気配の遮断を解除し、デストロイヤーを二人を認識できたその瞬間に、戦術機のブレードを頭の横へと全力で叩き込む。
瓦礫を粉砕しながらワンバウンドし、デストロイヤーは吹き飛ぶ。
起き上がるデストロイヤーを見る。デストロイヤーに感情があるかどうかは知らない。少々興味のある事だが、少なくとも見た感じデストロイヤーには怒りのような気配を感じる。そしてそれを抱くのと同時に、デストロイヤーが正面に一メートルを超えるサイズの魔力の弾丸を生み出し、それを此方へとはなって来る。正面から放たれる魔力の弾丸を切り裂きつつ、そのまま一気に前へと踏み込む。
瞬間、時雨に向かってガスが噴出される。
「ガス!? 時雨お姉様!?」
「大丈夫だ。ただの目くらましだね。だけど危険だ。やはり実化棟から脱出する相応の特異能力を持っている」
シノアは真昼に言う。
「戦術機が完全起動するまで手を離さないで」
「はい。シノア様いつまで?」
「その時になれば分かるわ」
煙の中から現れて、シノア達に攻撃を仕掛ける。
「待ってください!」
「シノア!?」
真昼はシノアの攻撃を静止させ、頭を下げる。そこを追ってきた時雨が現れる。もし攻撃をしていれば時雨に攻撃があたっていただろう。
時雨は憎々しげに呟く。
「同士討ちを狙うとは、随分と頭が回るじゃないか」
「あなた目はいいのね」
「あはは……田舎者なもんで視力には自信あります」
「来るよ」
強襲してくるデストロイヤーをシノアが、戦術機で殴り飛ばす。デストロイヤーが赤く発光し、その周囲に魔力のバリアの様なものを張る。
シノアは、それを気にする事なく飛び上り、デストロイヤーの体に追いつく。そのバリアは、衛士の標準装備している防御結界を焼いてくる。
躊躇する事無くデストロイヤーの頭に戦術機を叩きつけて、そのまま大地へ吹き飛ばす。
「ナイスだよ、シノア」
地面に当たるのを、デストロイヤーが途中で回転しつつ受け身を取る事で回避する。その行動を狩る為に、時雨が魔力弾を放つ。
それをデストロイヤーは触手を交差させ、防御の姿勢を取る。そのままデストロイヤーの触手に魔力が灯るのが見える。
「魔力の鞭か……! よくやるものだ」
ヒュンヒュン! と空気を切り裂いて、魔力で切れ味が増した鞭が迫る。それから逃れる為に体全体を捻る。
時雨は、弾丸を地面に打ち込み、デストロイヤーの体制を崩す。そして、空からブレードモードにしたシノアが、降ってくる。
デストロイヤーはそれを回避して、シューティングモードにしているシノアを巨大な体で包み込み、魔力で小爆発を連続して起こす。
「くっ、熱っ」
「時雨お姉様!!」
時雨を蒸し焼きにするつもりだ。それに気付いたが、シノアでは対処するのに時間が足りなかった。
ひやり、と焦りがシノアの胸を撫でる。しかしそれを断ち切るように桃色の髪の衛士が斬撃をデストロイヤーに向けて放った。
ブシュッ!! と音と共に魔力が噴出して光熱が溢れる。それを真昼は、力づくでデストロイヤーを切り裂いて、時雨を救出する。
そして数秒後、大爆発が起きた、
シノアはガードモードにしていた戦術機で時雨と真昼の盾となり、傷を負うことはなかった。
横浜衛士訓練校に戻ると検疫を受ける。その控室で真昼は、自分の話をし始めた。
「私、二年前にお二人に助けられたんです。横浜衛士訓練校の衛士っていうのはわかったんですけど、それ以上はわからなくて」
「まさかそれだけでここへ?」
「はい。えへへ……補欠ですけど」
「筋金入りの無鉄砲ね」
「こうしてすぐ時雨様とシノア様に会えて夢叶っちゃいました」
そこで、もじもじ、と真昼はした後、意を決したようにして言う。
「私を! お二人の妹にしてけれませんか?」
そこで制度に詳しい時雨は、首を傾げる。
「二人の妹? シノアの妹ではなく?」
疑似姉妹制度は、横浜衛士訓練校特有の上級生が姉として下級生の妹を導く制度である。
学年の異なる2人の衛士が擬似姉妹のような契約をかわし、上級生は下級生に衛士としての成長を促すだけでなく人間的な指導を行っていく。
そうしてともに過ごしていく中で、魂の姉妹とでもいう深い絆で結ばれるのです。
三人の場合はスリーシスターズと呼ばれる形になるのだが、『二人の』妹という言い方に疑問を抱いた。
「意味的にはスリーシスターズです。けど、私は、時雨お姉様の妹にもなりたい。私は、お二人に認められる存在になりたいんです。だから……!」
「だから……二人の妹か。ふむ……無理だね!」
「ええ!?」
「制度的にも、心情的にもあって間もない人と交わす制度ではないからね。けど……僕は気に入ってるよ。君のことを。夢結は、どうだい? 少し話してみる気はあるかい?」
「時雨お姉様が望むなら」
時雨は一瞬だけ目を伏せて、パン、と手を叩く。
「では、時雨隊に入隊という形でこれからよろしくお願いするよ、真昼」
「は、はい! こちらこそ! 時雨様!」
時雨は花のような笑顔を見せる真昼を見ながら、シノアの事を考える。
(彼女がシノアの傷を癒やす助けになれば良いけど……僕と同じ立場になれば僕の気持ちも理解できるのだろうか……ねぇ、シノア。君の傷は僕が間違った記憶処置をしてしまった故に化膿してしまった。だから、何としても僕が君を救う。この純粋な衛士を踏み台にしたとしても、僕がこの世で優先させるのはシノアだけだから)