〝いろはと、壱葉〟
小さい頃、初めて出会った日。
名前の響きが似てるからって、
子供なりの、とても単純な理由で。
私達が仲良くなるのに、
時間なんてかからなくって。
初めて出会った日が、
──────私の初恋になった。
でもね、その気持ちがイケナイものだって。
気づいたのは、高校生になってからのこと。
私、木更いろはは、
どこにでもいる、普通の家の普通の人間。
だけど、幼なじみの、
掛川壱葉くんは違う。
将来、日本経済を回してしまうような。
そんな、
──────手の届かない人。
〝好き〟って気持ちを抱いちゃいけないって。
分かってはいたのに.....................
「壱葉くん、
いま、なんて言ったの...............っ?」
高校2年生になってから、
しばらく経った放課後の屋上。
私に、明らかに〝謝罪〟して来た壱葉くん。
いや............私の聞き間違いかも?
そう思って聞き返しているところ。
「いや、だから...............っ、
いろはのこと、好きになって、ごめん」
〝好き〟って、
言ってるのに、〝謝る〟壱葉くんの言葉。
「............っ、ごめん......って?」
理由は半分ぐらい分かってる気がするけど。
壱葉くんの口から聞きたいから、尋ねてみる。
すると...........................
「俺、婚約者がいるのに、
いろはのこと、好きになったから.........っ、」
私の予想通りの回答をする壱葉くん。
その顔は、
ほんの少し、苦しそうにも見える。
でも............ちゃんと向き合わなきゃいけない。
「十六夜千歳さんの、こと?」
「っ、あぁ、」
私が尋ねると答えてくれた壱葉くん。
最近転校してきた、
十六夜千歳さん。
十六夜財閥のお嬢様で、
──────壱葉くんの婚約者だ。
最近、凄く〝噂〟になってたから、
〝噂〟とかに疎い私でも、知ってる人物。
十六夜千歳さんは、
すごく、〝ヤキモチ妬き〟ってことも。
〝噂〟になるほど、有名な女の子。
だから...........................
「壱葉くん、なんか誤解、してるよね、」
「はぁ、誤解...............?」
〝なんの話しだ?〟って顔の壱葉くん。
「私ね、別に壱葉くんのこと、〝好き〟とか、じゃないよ。だから告白断ったのも別の理由」
「はぁっ、でも、島元にっ、」
私が理由を告げると、
焦ったような壱葉くんの顔。
ごめんね..................っ、壱葉くん。
心の中で、そう思って..................
「はい!この話しは終わり!
壱葉くんは、十六夜さんのとこ戻って!」
壱葉くんの目の前で、
手を叩いて戻るように促した。
「............っ、あ、あぁ、」
〝納得いかない〟って、口ぶりの壱葉くん。
それでも、
屋上から出る扉の方に向かう壱葉くん。
その後ろ姿からも、
〝納得いかない〟感じが滲み出てる。
だったら........................
「.....................っ、壱葉くん!幸せにね!」
少しでも、壱葉くんが、
幸せになれるように言葉をかけた。
「っ、ごめん、」
そう最後に言って、
壱葉くんは屋上をあとにした。
ねぇ、壱葉くん。
私は、壱葉くんと幼なじみで幸せだったよ。
でもね...........................
謝るくらいなら、
最初から〝好き〟なんて言わないで欲しかった。
その心の中の言葉は、
──────永遠に壱葉くんに届かない。
fin.