「……失礼します」

 “職員室呼び出し”という言葉を聞いて、良いイメージを浮かべられる学生は、果たして何人くらいいるだろうか?

 そんなノー天気なやつが今、心底羨ましい!

「あ、相葉、来たか」

 担任の佐々木が、面倒くさそうにオレを手招きする。

「おまえ、今日も遅刻して来ただろー!」

 確認なんか取らなくても、出席とったのおまえなんだから、知ってるだろ!
 佐々木は出席簿をめくりながら、苛立たしげにボールペンを、カツカツと机に叩きつけた。

「一学期の最後に約束したよな? もう遅刻はしないって! なのになんだ! 新学期早々、遅刻してんじゃねーか!」
 
「……すみません」

 オレはボソリと、やる気なく呟いた。

 あー、もー、なんだよ! そんなことで呼び出したのかよ!

 オレのイライラゲージは、マックスになって行く。
 佐々木は持っていたボールペンを、おもむろにオレの方に突き出した。

「一学期最後にした約束、覚えてるな? 今度遅刻したら、罰当番!」
「うえー!」
「『うえー!』と思うなら、遅刻すんな!」

 佐々木はピシャリと、オレに容赦なく突っ込む。

 もう……本当に厄日だ。
 
 と言っても、何回か遅刻をするたびに、罰当番はやらされて来た。
 
 体育館床の雑巾掛け、教職員のトイレ掃除、裏庭の草むしり……などなど。

 まあ、どれもマトモにやった記憶はないが。

「ちゃんとやらなかったら、停学にしてやる」
「げっ!」

 オレの心の中が読めるのかと、少しドキッとした。

「相葉には、図書室の本の整理をやってもらうから」
「本?」

 “本”という単語には大人しそうな、上品なイメージがある。
 今までやった、どの罰当番よりも、楽な仕事な気がした。

「結構、本って重いから重労働だぞ。まあガンバレや」

 ……だから、アンタは人の心が読めるんデスカ?

「どうして、本の整理なんか……」

「新しい本を結構入荷したんで、古い本も一回整理することに、委員会で決まったんだ。あ、俺、図書委員会の顧問ね。量あって、大変なんだわ。部活持ちの委員が結構いてなー、なかなか作業が進まねーのよ。詳しいことは図書室行って、委員に聞いて。じゃあよろしくな、相葉!」

 佐々木は机の引き出しからファイルを出すと、書類に目を通しながら、シッシッと、虫でも払うようにオレを追い払った。
 
***
 
 オレは渋々、職員室を後にした。

 佐々木の横暴さにむかっと来たが、もともとは自業自得。“停学”の言葉に、少々ビビッたことも確か。

 仕方がないので、オレは重い足を引きずりながら、図書室に向かった。

 にしても、たかだか遅刻程度で“停学”なんて横暴じゃねぇー!? あのサド教師!


つづく