リビングのソファーで時雨がシクシクと泣いている。
「ごめんね、変なところ見せてしまって……」
「僕もなんとなく気持ちわかります……わかるとか簡単に言ってしまうのはアレですけど、はいティッシュ」
「ありがとね、ほんと僕はもう泣き虫で」
 チーンと鼻水をティッシュに出す時雨。

「……藍里ちゃんたちも知ってたの?」
「私は……ついこの方知ったばかりで。先生や清太郎から教えてもらった」
「先生にもバレてるのか」
 時雨は項垂れている。

「てかさっき時雨さん、藍里に抱きついてましたよね……」
「あ、その」
 代わりに藍里が声を出してしまった。時雨も顔を上げた。

「……ごめん、いつも藍里ちゃんに話とか聞いてもらっててさ」
「いや、だからといって藍里に抱きつくなんて。それに藍里も藍里でさ抱きしめてなかった?」
 あっ、と藍里は目線を逸らす。

「誰だって泣いてる人いたら……どうかしてあげたいとか思わない?」
「まぁそうだけどさ」
 清太郎はムッとした顔をしている。

「ごめん、藍里ちゃんの彼氏の君の目の前で……でもね、藍里ちゃんは本当に優しくて」
「……」
 藍里も
「清太郎、別にそんな関係じゃないし……優しくしてもらって、夏休みの間は家事とかご飯とか勉強とか……なかなか外に出られない私と遊んでくれたり話をしてくれたり」
 というがいい顔をしない。


 んーと考えてようやく口を開いた。
「……まぁ、藍里やさくらさんがこう今平和に過ごせてるのも時雨さんのおかげでもあるか」
「ごめん、清太郎くん」
「いえ、ありがとうございます。藍里、これからは俺も藍里たちを幸せにするから」
 と時雨の前で藍里を抱きしめる清太郎。突然のことにびっくりする藍里は時雨と目が合う。

 抱きしめる力が強くなる。
 藍里はもちろん清太郎のことは好きだ。だが時雨と目が合うと気持ちが複雑になる。

 時雨は目線を下げて口をぎゅっと固く閉じる。なぜそんな顔をするのか、藍里はわからなかった。さくらのことを好き、彼女のためにもっと仕事をしてと決意していたはずなのに。

 藍里はそんな時雨の顔を見るともう心がぐらついてしまう、だから目を瞑って清太郎のハグを受け入れた。
「藍里、愛してる……」
「清太郎……」

 時雨は立ち上がった。
「はい! てことで、今から餃子を食べよう。たくさん出来ちゃったし、藍里ちゃんと清太郎くんのラブラブ記念日。さてさて食べよう。僕さくらさん呼んでくるから。あ、2人は藍里ちゃんの部屋でラブラブしてて。今からサラダとか作ったりスープも作るから。はいはい!」

 と藍里たちを立たせて藍里の部屋に押し込めた。

 急に部屋に押し込められ2人きりになった2人。清太郎と藍里は目を合わせた。
 清太郎が笑う。

「……ついつい嫉妬してあそこで抱きついちゃった」
 藍里は口籠る。

「そいやさ、時雨さんの前だから恥ずかしかったのかな」
「えっ?」
 清太郎は藍里をじっと見つめる。
「俺に愛してるって言ってくれなかった」
「……!!」
 そういうつもりではない、と思いながらも藍里は顔を赤らめる。そんな彼女に清太郎はキスをした。
 長く長くなんとも唇を離して付けて……。
「愛してる、藍里」

 藍里頷いて
「わたしも、清太郎のこと愛してる……」
 とまたキスをした。たくさん抱きしめ合い、キスを何度もする。いつもよりも鼓動が高まる。
 奥には時雨達がいるのだがいつもの鼓動とは違うもの、何か疼くものがある。

「……だめだ、これ以上ひっついてるともう」
 清太郎から身体を離した。藍里も少し離れた。

「なに嫉妬してんだか、バカだよな。俺は時雨さん手伝ってくる。藍里はここにいろよ……」
 清太郎はしどろもどろになっている。藍里は息も荒くなっていた。顔が赤くなってるのにも気づく。

「……うん、あとでいく」
 清太郎が部屋から出ると藍里はベッドに横たわる。まだドキドキが止まらない。
 清太郎の男の部分を感じたのだ。子供の頃には感じたことのない感触。
 自分の部分も何故か熱くなっている。清太郎から離れなかったら自分達はどうなっていたのだろうか。

 しばらく藍里はベッドの上で悶えていた。ドラマや漫画でしか知らなかった世界。急に自分の身で感じた彼女。
 こないだのさくらと時雨の愛の交わりの声を聞き、それも思い出しながら男と女は愛し合う、それを自分も味わったら……どうなってしまうんだろうか。

 でも早すぎたのか……。

 どれだけベッドの上にいたのだろうか、気付けばいい匂いがする。

「藍里ーできたぞー」
 清太郎の声を聞いて藍里は身体を起こした。

「はぁい……」