恋の味ってどんなの?

 次の日の帰りの会が終わったあと。もう藍里は限界が来ていた。ピークでもあった。昨日のバイトの時も少し辛かったが痛み止めをこっそり飲んだ。昨晩遅く寝たことに後悔しつつも授業中はお腹の痛みも襲う。

 横ではクラスメイトたちがあいも変わらずキャッキャと笑い合い、話題は綾人のことだ。
「今度綾人の映画のオーディションだって! 東海地方在住……高校生! わたしたち対象?」
「ばーか、あんたみたいなデブスが通るわけないよ」
「そのデブスさが通るんだよ、案外」

 あの輪の中には入れないし、まさか彼女たちは綾人の娘がすぐそばにいるだなんて知らないだろうし、藍里は父のことでキャーキャー言ってるのも不思議であった。
 自分もだが高校生は同級生よりも20以上の男性にも興味があるのか……。
 そして彼女たちの抱く綾人のイメージと藍里の知っているさくらに対して罵る綾人……でも父は嫌いでも無い。

 ぐるぐるとネガティヴになってしまう。それは生理のせいなのか、寝不足なのか。
 手元には書類。今度名古屋の中心部で大学展があるのだ。帰りの会に全員に配られた。

 担任にまた書類の催促をされて明日には出します、と伝えると担任は

「まぁ、はっきり書かなくていいと思うけどね。母娘で今の時代働けるところ、限られてるからさ……その辺は配慮しますから。でも緊急事態に何かあったら連絡先わからないと、ねえ。仕事中は携帯出られませんとか聞いてあったから」

 と言った後にニヤッと笑う顔に気持ち悪さを感じた藍里。緊急連絡先……ずっと家にいる時雨の番号でも、と思ったが家族以外の男がいるという事実も良くない、と口を閉じた。

「藍里、今日1日体調悪そうやったな」
 級長の仕事を終えて教室に戻ってきた清太郎。一緒に玄関まで行く。

「うん……でもこのあと直でバイトだから1人で帰る」
「マジかよ。無理すんなって」
「ありがとう。人がいないから私が行かないと」
「……どこも人不足だな。まぁ俺んとこはいっつも不足。あ、その大学展の日はうちの母さんと姉ちゃんこっちにくるんや」
「えっ、来るの?」
「で、観光案内せぇって言われてるから付き添ってやれん。すまんな」

 何も頼んでいたいのに清太郎が付き添うつまりだったのかと藍里は驚いて顔は真っ赤でドキドキしていた。

「別に付き添ってなんて言ってないし……てか大学展よりもおばさんとお姉さんに会いたいわ」
「次の日もおるから大学展見に行かないと。今年は1日だけやから。人生かかっとるよ」
「……でも。清太郎は決まってるの?」
「うん、まぁ。ここら辺やないし」
「え、名古屋の方じゃ無いの?」
「関東のな、W大学……」
「えっ、そうなの? って、確かお父さん銀行員だし、W大学出身よね。まさか銀行員?」
「うん……まぁ」

 子供の頃を思い出すとそんな感じは一ミクロンも感じ取れなかったと藍里は驚く。

「こう見えても、な……」
「すごっ、将来安泰じゃん」
「かなぁ。母ちゃんたちは反対してるけどね……帰ってこいって。俺は帰らん」
 清太郎はいつもよりも真剣な顔をしていた。たしかに子供の頃から強烈なキャラの母親と気高い姉に彼は挟まれているとは思っていたが。
「意志強いね」
「……別に銀行員じゃなくてもいいけど家には帰りたく無い、ただそれだけ。藍里は?」
 藍里はふとさくらを思い浮かべる。もし自分が関東に行ったら……心配するだろう。そもそも関東には綾人がいる。

 さくらは時雨とこれから一緒になるのだろうか。でもそうなったら自分は……と。

「もし俺がついてこいって言ったら来るか?」
 気づくともう清太郎の住む弁当屋の前だった。藍里はエッと声を出してしまった。

「……エッてなんだよ。またなんかあったら聞く、それに母ちゃんたちがお前ともしよかったらお前の母さんにも会いたいって言ってるからもしよかったら会ってやってくれないか」
「うん、私はいいけどさママは聞いてみないとわからない」
「無理すんな」
 すると弁当屋からエプロンを女性が出てきた。清太郎の叔母で清太郎の母の姉ともあって顔もなんとなく似ていた。藍里は会釈した。

「綺麗な子だね。あんたの彼女か」
「……なようなもんだ。じゃあな。バイトだろ」
 清太郎は恥ずかしそうにして振り返らず手を振った。叔母さんもニコニコ微笑んで手を振っていた。

「彼女のようなもん……??」
 突然そう言われたが、ああ、もっと早く会えたら自分も頷けたのだろう。藍里は胸が苦しくなった。
 時雨にも清太郎にも少し引っかかったようなことを言われて、一体どういうことなのだろうかと思いながらもバイト先のファミレスの裏口から入っていく。

 と同時に藍里の様子を社員の沖田が慌ててやってきた。
「すまん、藍里ちゃんって160くらいだよね……」
「何が160ですか?」
「身長だよ。雪菜くらいだから雪菜の制服を着られるよな?」
「はっ???」
 と藍里は沖田から制服一式を押し付けられた。きっと雪菜がロッカーに置いてた制服であろう。名札がついていた。

「早く、着替えろ。人が足りないんだ。メニューの取り方とか諸々はバイト入る前の本部研修で習ったろ」
 そう言われた藍里は確かに名古屋のファミレスの本社で1日だけ通しで研修したということを思い出したがたった1日であとは裏方でキッチンの手伝いだけであった。

「着替えろ、早く!」
「は、はい……!!」


 そして五分後には着慣れないファミレスの制服を纏いファミレスのキッチンに入ると数人の忙しそうにしてるキッチンスタッフの男性たちはびっくりした様子で見ている。

「あらぁ似合うじゃない、藍里。さぁ早くもう大変なんだからぁ」
 理生がやってきた。藍里は初めてのフロアでの仕事。平日の夕方はいつも混み合っているのだがそれを何人かのアルバイトたちが回していたのだが夏休み明けのテスト週間、雪菜のボイコットによる欠席でてんてこまい。
 いつもはキッチンからお客さんは多いなぁと思いながら見ていたのだがまさしくそれ以上を越すものであって藍里はどきどきよりも緊張が上回る。

「そこの可愛いオネェさん! 水くださいな」
 早速声がかかった。若い大学生の集団。こちらは違う大学の生徒なのか、テスト期間ではないようだ。

「すいません、さっきから呼んでるけどこなくて」
 と大学生の席に行く前に老人夫婦に呼び止められる。

「おーい、全然注文したもの来ないんだけどぉ」
 とビールを片手にグダを巻くサラリーマン。


 藍里は全てにハイ、と答え対応していくが、目線の先に見覚えのある顔……。
「すいませんーってあれ、藍里じゃん」
 なんと清太郎がいたのだ。しかも何故かクラスメイトの女子数人に囲まれて。クラスメイトの女子が藍里を見てびっくりしている。ひとりはスマホで藍里のファミレスの制服姿を撮影して藍里はやめてって困り顔。清太郎もバツ悪そうな顔をしている。
 きっと藍里が着替えている間に入ってきたのだろう。
「……弁当屋、他のバイトさんに明日と変わって欲しいって言われて暇してたらこいつらにつかまっちゃったんだよ」

 清太郎は他の女子たちよりも明らかにテンションが低い。その合間にも他の席から呼ばれたり、ベルは鳴る。
「藍里、ここで働いているんだね、めっちゃ似合ってる。可愛いいからなんでも似合うんだよ。今からメニュー選ぶから他のところ行ってきて」
「宮部くん、このファミレスの前でウロウロしてて1人で入ろうとしてたんだよねぇ」
 藍里はそうなの? と言いかけたが後ろから来た両手に食事を持っていた沖田から耳打ちされた。

「向かいのカップルのところに早く行ってこい」
「はい……」
 藍里はクラスメイトたちのところを後にして言われた席に向かうと、30代くらいのカップルが座っていた。男性の方はかなりイラついていて、その前に座っていた女性は俯いていた。
「いくらなんでも人が足りてないんじゃないのか」
「申し訳ありません……お伺いしますね」
 藍里はメニューパットを片手に注文を取る。

「そもそもお前がここにいきたいっていうからこんなに混み合ったところに巻き込まれたんだよ」
「すいません……」
「お前が家でご飯ちゃちゃっと作ればいい話なんだよ」
「すいません、ちょっと調子が悪くて」
 藍里のことを無視して男は女に対して大声で話す。他の客も少し反応する。

「調子悪いてなんなんだよ。専業主婦のくせし家事料理も何もうまくできんくってしかも体調管理もできないなんて、毎日ダラダラしてるんだろ? だからそんなに豚みたいに肥えるんだよ」
 その女は特に見た目からして太ってはおらず、ふっくらしているだけであるが藍里は2人のやりとりをみて過去の記憶が蘇る。

 そう、さくらと綾人のやりとりである。綾人は流石にこういう公共の場ではしなかったがよくさくらが悪い、と罵ってさくらは悪くないのにずっと謝っていた記憶がある。
 調子が悪い時も家事料理はしっかりしろという言葉も似たようなのを何回か藍里は聞いたことがあった。

 女が泣き出した。
「おい、泣いてどうなるの? お前はサラダだけだ。俺はステーキセット、ご飯は大盛り……ってウエイトレスさん?」

 藍里はいきなりのウエイター業務と緊張と生理からくる貧血と過去のことを思い出し彼女の体は心身ともに限界がきてその場で倒れた。最後に周りのざわめきと、その中から声が聞こえた。

「藍里!!!!」

 清太郎の声、そして誰かの温もりだった。
「いらっしゃいませぇえええ……って、あれ?」
 なぜか意識を取り戻したと同時にまだファミレスにいたと思い込んでいた藍里は、今ここはファミレスではないってことに気づく。バイト先の休憩室である。
「大丈夫か、藍里」
「……宮部くんがなんでここ……うっ」

 体をゆっくり起こしたが少し頭に痛みを覚える。清太郎が藍里を再び横にした。
「倒れたんだよ。その時にテーブルの角に頭すったみたいだけど……今救急車呼んだらしい」
「……保険証、多分家」
「お母さん呼ぼうか。電話貸して」
 藍里は首を縦に振る前に、さくらは今日まで生理で体調が悪い……滅多にない休みを自分のために使っていいのだろうか。倒れたのはきっと貧血だろうが。それとも……あの男の客の傲慢な態度を見て過去を思い出したのだろうか。

 清太郎は藍里の頭をアイスノンで冷やす。
「一緒に来てたクラスの子達は……」
「心配してた。まだいるけど」
「……お店は」
「今はそんな心配するな。それよりも早よ電話」
 藍里はスマホで『さくら』と着信履歴から出して清太郎に渡した。自分から電話しようとしたがやはり少し頭が痛い。なかなか着信に出ないようだが清太郎は心配そうに藍里を見ている。
 よりによって自分の倒れた時に彼が客としているだなんて、しかも他のクラスメイトもいた訳であって……恥ずかしさもある。
「……俺の席からあの客見ていたけど酷かったよな。奥さんに対してすごくひどいことを言ってたしな」

 藍里は男性客を綾人、女性客をさくらと重ね合わせてみていた。
「ひどいよな……あ、もしもし? あれ、橘……じゃなくて百田……さくらだっけ藍里のお母さんの名前」
「さくら。ママ出た?」
 清太郎はスマホを持ったまま少しキョトンとした顔している。きっとさくらが寝ぼけて電話に出たのだろうか。
「百田さくらさんのスマホですか。……そうですよね? あの、さくらさんは」

 もしかして、と思い藍里はスマホを取り上げた。
「もしもし」
『もしもし、藍里ちゃん? 今の男の人誰かな。さくらさんは今寝てるんだけどどうしたかな』
 時雨の明るい声だった。しまったーと清太郎を見ながら電話を続けようとするが清太郎がスマホを取り上げた。

「すいません、同じクラスメイトの宮部清太郎です。さくらさんに名前おっしゃっていただけたらわかるはずです。さくらさんの娘さんの藍里さんがバイト中に倒れまして……はい、ええ。今ご自宅の下のファミレスです。頭を打ちましてもうすぐ救急車……」
 救急車の音が聞こえた。

「はい、今すぐ来ていただけますか。お願いします」
 藍里はどうしよう、と思いながらもやはりまだ体はだるい。スマホを返されたが2人の間に沈黙が流れる。

「その、今のはね……」
「男の人、だったね。びっくりしちゃったよ」
 清太郎は苦笑いしている。母娘女所帯であろう百田家に男がいる、それには彼も驚いているようだった。

「救急車きたぞ……たく、また人手足りなくなるぞ」
 沖田が仕事の合間になのか心配するそぶりもなく休憩室に来た。藍里はやっぱり自分は……と苛まれてしまう。子役の時もそうだった。うまくいかずに裏でマネージャーだったさくらがスタッフに怒られているのを。
 家ではそのことを綾人にさくらがなじられていた頃を。そしてさくらと2人きりの時に藍里はさくらから八つ当たりされていた頃を。

 それを思い出すたび息が苦しくなる。息が荒くなる。清太郎はそれに気づいた。
「藍里、大丈夫かっ! ……おっさんも少しは心配しろよ」
「おっさんだと?」
「あぁ、おっさん。藍里が客に絡まれていた時に無視してただろ。それよりも前に鬱陶しいから藍里にあの席で接客させたんだろ。俺は見てたぞ」
 沖田はぬぐっと口を歪めた。清太郎は藍里のそばにいながらもきっとした表情で睨む。

「患者さんはどちらでしょうかっ」
 と救急隊員が休憩室に入ってきた。沖田は複数の隊員によって押しのけられて尻餅をついてしまう。

「くそっ! イタタタっ」
 その後沖田の元に理生がやってきたが情けない彼の姿に見下ろして笑った。
「何笑ってる、少しヘルニアが……俺も倒れたらどうするんだ、この店は」
「バイトを馬鹿にしたバチが当たったのよ。それにあんたの代わりはいくらでもいるわ」
「はぁ?」
「あんたのせいでやめてったバイトの子達を招集してきたから」
 と数人の女性たちも沖田を見下ろす。全員冷たい目線だが誰もいなくなった休憩室に入って着替えを始めるようだ。

 理生に引きずられて休憩室を追い出された沖田は腰を痛そうにしている。
「腰が痛くても座ってできる作業あるでしょ。さっさと動きな」
 理生はその後藍里を追いかけた。



 その時、ファミレスでは外に救急車が来て少し騒々しかった。奥から担架で運ばれる藍里。それを追う清太郎と理生。

 さっきまで清太郎といたクラスメイトたちも心配そうにみていた。が、そのうちの一人帷子(かたびら)アキがスマホを見ている。
「あ、それさっきの藍里じゃん。可愛く撮れてる」
 と、姫路《ひめじ》優香が覗き込む。アキのスマホに藍里をこっそり撮った写真を何がメッセージフォームにつけてページの送信ボタンを押した。

「まさかアキ、あれに送ったの?」
 潮なつみも覗き込む。アキはニヤッと笑った。

「てか大丈夫かなぁ……百田さん」
「すごい勢いで頭ぶつけてたし……血は出てなかったけどさ。にしても宮部くんが藍里! 藍里! って叫んでたのびっくりだわ~」
「宮部くんと百田さん、幼馴染運命の再会恋愛……見守りたいよねー」
「うんうん!」
 あき、優香、なつみは何事もなかったかのように清太郎と食べるはずだったビックパフェを食べる。

「そうそう、あと……」
 藍里の写真を送った先から返信がアキのメールに届いた。


『この度は推薦でのご応募ありがとうございます。結果につきましてはまたこちらからメールを送らせていただきます


 名古屋発映画、橘綾人の娘役オーディションチーム』
 藍里は担架に乗って救急車に運ばれた。清太郎も一緒である。後で一緒に理生が藍里のカバンを持って追いかけてきた。
「……理生さん、お店は?」
「大丈夫よ。昔のバイトの子達招集してなんとかきてもらった。前から頼んでいたけど一気に今日は入れますって。偶然にも程があるわ。あなたはラッキーよ」
 と清太郎に荷物を渡して藍里の右手を握った。

「気にしないで、少しでも早く呼べていたらあなたに不慣れなことをさせなかったのに、ごめんなさいね。でも制服似合ってたから。回復したら少しずつ私のもとでフロアで働こうね」
 とたたみかけるように理生は話しかけた。藍里は苦笑いして握り返す。

「そろそろよろしいでしょうか。ご家族の方ですか」
「職場の先輩です、でこの男の子は……」
 救急隊員に対して理生はなんと言っていいかわからず声が出ない。すると清太郎が
「えっと、藍里の彼……」
 と言いかけたところであった。

「藍里ちゃーん!!!!!」
 とやってきたのは時雨であった。

「おたくは……」
「藍里ちゃんの……えっと、その、なんというか……あ、さくらさん……藍里さんのお母様の代わりにやってきました。今まだ寝てるんです……」
「寝てる……? 母親が」
 救急隊員はあっけに取られているようだがもう行くとのことで時雨は理生の目の前で救急車に乗り込んだ。清太郎もあっけに取られている。救急車は発車した中で藍里はさくらがまだ寝ているのかと彼女もなんとも言えないのだが、今清太郎と時雨というこの組み合わせの中一緒にいるのがさらに……。

「さくらさん、少し前にまた寝ちゃって。明日からまた仕事でしょ。寝ちゃうと起きないし、何度も叩き起こしたけども起きなかったから枕元にメモを置いておいた……」
「マジかよ、娘倒れたのに寝るような人だっけ」
「……藍里ちゃん、彼は誰? 制服からすると一緒の高校の」
 藍里は答えようとしたが

「彼氏です」
 と思ってもいない回答に声が出なくなった。藍里は首を横に振ろうとしたが隊員が押さえていたため振れなかった。
「それは驚きだなぁ……藍里ちゃんここにきてからすぐ彼氏出来るなんて、さくらさんに似て美人さんだからそうだよね」
 時雨もそんなことを言い、こないだの藍里ちゃんも、の「も」の意味深さに拍車をかける。

「……彼氏ってのは冗談ですけどあなたこそ誰ですか」
 清太郎がさらっというと時雨は笑った。
「冗談きついよ。そうだよね、彼氏じゃないよね。あ、僕は藍里ちゃんの家に住まわせてもらってます家政夫です。一応さくらさんの彼氏っていうテイですけど」
「ヒモじゃん」
「君、言うねぇ~おもしいろいよ」
「さっき電話でも言ったけど宮部清太郎、藍里とは幼馴染でさくらさんに言えばすぐわかると思う」
「あぁ、そうなのか……幼馴染とこうして偶然に会うのもすごいね、藍里ちゃん」
 あっという間にこの空間は和んだようにも思えたが……

「恐れ入ります……患者さんの名前とか住所とかわかりましたらご記入ください」
 と救急隊員が間に入って時雨と清太郎はハイ、と冷静になった。時雨が記入用紙を手にして書き出す。

「名前は、百田藍里……生年月日は……えっと」
「そう言えば時雨くん、保険証はある?」
「あるよ。一応さくらさんの財布の中にあるって前聞いたことがあって」
「そこに載ってるから」
 と時雨がさくらの財布を取り出そうとすると、清太郎が記入用紙を取り上げる。
「俺と同じ生まれで、1月11日生まれ。身長、体重……」
「……それは私が書くよ。恥ずかしい」
「恥ずかしいもクソもないだろ、書かないとこれからの診察に支障出るだろ」
「わかったよ……」

 と藍里は恥ずかしそうに答えてそれを清太郎は書く。時雨はさくらの財布を握ったまま居た堪れない顔をしている。財布から保険証を取り出して、あるよとアピールはした。すると時雨のスマホに着信が。
「あ、さくらさんだ」
「ママ……」
「ここはスマホ大丈夫ですか。彼女の母親からで」
 と隊員さんに聞き、やむおえない状況だと許可をくれたのだが隊員からしたらこの時雨とやらは家族でなかったのかという冷ややかな目線を送っているようにしか藍里は見ていた。

「さくらさん、はい。ごめん驚かせちゃって。そうだよ、藍里ちゃんがバイト中に倒れて。頭も打ったんだって。ごめん財布持ってる……あ、免許証」
 そう、さくらの財布の中に車の免許証も入ってたのだった。あっちゃーという顔をして時雨は電話を切った。

「さくらさん、タクシーで来るって。僕としたことが……ごめんね」
「ううん、ありがとう」
 清太郎は藍里をじっと見てた。とりあえず時雨がさくらの恋人であることであるのは理解できたようではあるが。救急車は病院に着いた。
 藍里は部屋に入ってきたさくらを見ると少しホッとした。なんだかんだでやはり母親が一番なのだ。

 さくらは藍里の右手を握る。反対の腕は点滴を打っているようだ。

「貧血と過労とのことよ。脳波も異常なし。ごめんね、すぐ行けなくて」
「ううん、ママも体調悪かったし……明日から仕事で大丈夫? 生理終わってないのに」
「そうだけど私が休んだらあんたと時雨君養っていけないでしょ。頑張んなきゃ」
「……無理しないで。私みたいに倒れちゃう」
「大丈夫、やすみやすみにやれるから。あ、二人にも入ってきてもらおうか」

 さくらは手を離して外で待っていた清太郎と時雨を呼んだ。
「藍里ちゃん……特に何もなくてよかったよ」
「時雨君もありがとう。宮部くんもこんな夜遅くまで待っててくれたなんて」
 清太郎は首を横に振った。

「しばらくは授業のノート書いてもっていくよ。無理すんな」
「ありがとう……」
 さくらは少し難しそうな顔をしている。

「途中から編入してきてしかも夏休み明け……数日休んだら遅れがさらに増えてしまうわ」
 藍里も確かに、と言いつつもどうにもできないものである。さくら自身も藍里を連れて逃げた際にしばらくはまともに学校に生かすことができずに避難先の施設で勉強を教えてもらったくらいであった。

「勉強に遅れがあるけどさらに遅れちゃう……」
 さくらは頭を抱える。
「ごめんね、藍里……私がいけない」
「なんで? ママがなんで今そんなこと言うの。私がちゃんんと自分の体調を管理しなかっただけだし」
「私が逃げなきゃ、逃げなかったらあんたがこんな苦労することなんてなかったの」
 さくらはまた自責の念に陥る。
 時雨がさくらを抱えて宥めながら病室を出ていく。

 病室の中は清太郎と二人きりになった。
「……お前の母ちゃん、雰囲気変わったな」
「うん、宮部くんもそう思うよね。自分の母親のこと言うのもあれだけど」
「あの彼氏さんがいい人なんだろうな。優しそうじゃん」
 藍里は頷いた。どちらかといえばさくらよりもそばにいる時間が長い彼女は彼の優しさはわかっている。

「でも表情があんなに柔らかくなってた。あの頃の怯えたような目とは違う」
 清太郎も子供ながらにそう思っていたようだった。藍里はそのようにさくらがそう思われていたとは……。

「じゃあ俺帰るわ。……じゃあ」
 清太郎は藍里を見ている。じっと、瞳を見ている。

「なんだよ、もう無理すんな」
「ありがとう」
「それと……その」
「なぁに?」
「お前、あのおとこのひとがすきなんだろ」

 藍里はいきなり清太郎にそう言われて声が出ない。

「図星だな。じゃあ……」
 清太郎とすれ違いに時雨とさくらは入ってきた。互いに頭を下げる。時雨は荷物を撮りに行くついでに清太郎を送っていくそうだ。

 さくらは藍里の頭を撫でる。
「ごめんね、もっと強くならないとね。弱くてごめん」
「宮部くんがね、変わったねって。私も変わったと思うよ。ママ」
「藍里……っ」
 さくらは涙が出る。藍里は思い出した。

「そうだ、宮部くんのお母さんがママのこと心配してるって……」
「……」
 さくらはそれ以降黙っていた。藍里はしまった、と思いながらもいつの間にか眠りについていた。
 藍里は何とか受けごたえもできて会話もできるが頭を強く打ったという清太郎の証言もあったため、念の為に検査を受けることになり、少し時間がかかるようだ。

 時雨と清太郎はベンチで待つ。互いに知らない同志。男と男。病院ということもあり静かな時間。

「あのさ……また明日学校もあるから君は先に帰っててもいいよ、親御さんも心配するだろう」
 と言い出したのは時雨だった。清太郎は首を横に振った。

「僕は親戚の家に居候していまして……連絡もしてます。正直居候の家にいるよりかは外にいた方がいいから待ちます」
「いや、もう夜8時だよ。だったらタクシー呼ぶから」
「いいえ、藍里のそばにいてあげたいです」
 清太郎の強い眼差しに時雨はびっくりした。

「ごめんね、なんか……追い出してるわけではないけど、なんというか」
 時雨は少しひるんでるようだ。

「さくらさんの娘さんで……ほら付き合ってるんだけど、一緒にいる時間が長くて。なんというか、そのね……」
 と口を濁らせてるようにしどろもどろに時雨が目線を合わせずに答えてると、さくらがあわててやってきた。
 着の身着のまま来たらしく、ルームウェアだがなんとか外でもセーフな格好であった。

「藍里はっ、時雨くん……ってあなたは」
 さくらは目の前でスッと立ち上がった青年の清太郎を見てハッとする。
 数年前に見た時よりも大人になったが面影はあるようだ。

「……宮部、清太郎くんよね? お久しぶりね」
「お久しぶりです。懐かしいですね」
「うん、あらまーあんなに小さかっ……いや、それがもうこんなにっ。藍里に時雨くんよりも大きい」
 比べられた時雨は苦笑い。

「180はあるので。父さんに似ました」
「そうだったわね……まさかこんなところで会うなんて。制服、藍里の学校だから……岐阜からここまで通ってる?」
「親戚の家が近くなんで下宿してます」
「藍里、まったく言ってなかったわよ。クラスメイトだなんて」

 すると時雨が首を横に振る。
「なんか藍里ちゃんの彼氏だって」
 さくらはびっくりする。清太郎は慌てる。
「いや、あれは冗談です」
 するとそこに看護師がやってきて静かに! のジェスチャーをされ、3人は一緒にベンチに座る。看護師が藍里の家族の一人として書類や説明などを聞かされ、記入していく。

「でも藍里が倒れたなんて……あっ」
「なんか心当たりでも」
 さくらだけが藍里が生理だと知っていた。しかし男二人には言うに言えない。

「藍里はファミレスで接客中に倒れたんですよ。僕あの時客としていて。見てました」
「……接客」
 さくらは書く手を停めた。藍里には表に立つ仕事をするなと何度も口酸っぱく言っていた。綾人と離れても彼に見つかってはいけないという不安がある。

「どうやら人手が少なくて裏方で働いてた藍里がヘルプでやってたんですよ。不慣れなのに仕事もきつそうで、最後接客してたところは女の人を……」
 藍里からさくら母娘の事情を聞かされていた清太郎はこれ以上は言えないと思って口を閉じした。

「……そうなのね。多分ただの貧血よ」
「貧血……もしかして」
 時雨はさくらを見ると彼女は頷いた。言うまいと思っていたが。

「それ気づいてたらなにか対策できたのに。不覚だったよ」
「時雨君、私が言わなかったから」
「これから貧血対策のメニューももっと日常的に考えるね」
「ありがとう。私も貧血持ちだから……」
 清太郎はこの二人の会話をずっと聞いていた。彼も思い当たることがあって頻繁にトイレに行く藍里を見かけていたこと、そして朝に走って学校に行くと言った時に藍里は嫌がったこと。

「……そういうことか」
「ん? どうしたの」
 清太郎にさくらは問いたときに検査室から看護師が出てきてさくらだけ通された。時雨と清太郎は再び二人で待つ。

「あの、さっき言いかけて終わったんですけど」
 今度は清太郎から声をかけた。
「え、なんのことだっけ」
「……忘れたならいいです」
 と二人の間は静かになった。

 藍里は特に脳などに問題がなく、数日休み医者からOKをもらったら通学ができるようになるそうだ。
 それから次の日の昼前には退院をした藍里。迎えにきた時雨と共に帰る。さくらは仕事に行って次の朝まで帰ってこないとのことだ。

「ママ、働くよねー……て私のバイト代足しにならないし、ママが働くしかないもんね」
「僕もある意味無職だし、仕事しながらでも家事をしてさくらさんと藍里ちゃんを支えていきたいよ」
 時雨の運転する車の助手席。藍里はそれを聴くと時雨はもうさくらと結婚し、戸籍上自分の父親が時雨になるのか、と思ってしまった。

「でもさ、いい職場見つかりそうなんだよ」
「は、はやっ……どこなの?」
「昨晩タクシーで宮部くん送ってく時にさ、彼って親戚の弁当屋に下宿してるんでしょ。あそこの弁当屋さん。夫婦二人でご飯作ってレジと配達員をバイトにやらせてるらしいけど、作る人もう一人くらい欲しいらしいんだ」
 藍里はそういえば昨日は清太郎と時雨は一緒だったということを思い出す。
 藍里が時雨のことを好きと見透かされていたわけであって、そのあと二人で何を話したのか気にもなっていた。

「結構気さくで礼儀正しい子だね。今度お店に行こうかなって。メアドも交換しちゃったー。高校生とメアド交換ってなんかテンション上がる……って同姓同士、嬉しい。友達そんなに多い方じゃないから」
 変にテンションが高い時雨にすこし引き気味の藍里だが、そんな無邪気な時雨の笑顔と一緒にいられるのが嬉しいのだ。

 昨晩はずっとさくらが泣いていた。居た堪れなくなり藍里は寝たふりをして目を瞑っていた。時雨も知っている。荷物を持ってきてさくらにまた声をかけて空いているベッドの上にさくらを横に寝させた時雨だが、さくらは時雨をそのまま押し倒してキスをした。長く長く。音を立てて、時雨のベルトを外すガチャガチャっと言う音。藍里はドキドキと鼓動が高まった。

 我に帰った時雨はダメだよ、と言ってさくらを引き離し、さくらは何でって叫んだ。時雨は明日藍里を迎えに行く、と言って再び病室を後にした。藍里は眠りにつくまでさくらの啜り泣く声を聞いていた。全部このやりとりは聞いていた。二人とも藍里が起きてたなんて思わないだろう。

 そんなことがあっても時雨は藍里を迎えにきた。さくらとの昨日のやりとりで時雨はどう思っているのか。
 娘ながらに心配しつつも、複雑な気持ちの藍里であった。

「今日はお家でゆっくり、ね。ご飯は食べれたかな」
「……あまり美味しくなかった」
「じゃあ昼にスパゲッティ、めんたいこスパゲッティ用意してありますー」
「もう用意してたんだ、嬉しい」
「当たり前よー、藍里ちゃんの大好きなスパゲッティ!」
 藍里は嬉しくなった。でも、めんたいこスパゲッティが好きなのはさくらなのだが、と思いつつも時雨の笑顔に昨日の大変だったことが消えて無くなる感じもしたようだわ

 家につき、リビングに行くと一つの封筒が置いてあった。あの書類提出用のものだった。
「夜になかったからきっとさくらさんが置いていったと思うよ。僕が寝てる間に家に来てそのまま仕事かな」
 藍里も気づいたらさくらが横のベットからいなくなってたことに気づいた。
 封筒を開けて書類を見るとさくらの職業欄にしっかり名前が書いてあった。
『株式会社エージェントタウン』と記載してあり、聞いたことのないところだと思いながらも封筒を学校のカバンに入れた。

「さてさてースパゲッティをチンするね。そこで座ってて」
 藍里はソファーに座った。少しまだ頭は痛いしまだ生理も終わらないがさくらみたいに生理の日はゴロゴロしていたい、そう思うばかりだ。

 するとメールが入った。清太郎からである。学校のはずだが……。えっ、と藍里は声を出す。

「どしたの、藍里ちゃん」
「宮部くんが今からくるって」
「え、学校は?」
「……そういえば今日は昼までだったんだ」
 藍里はすっかり忘れていた。時雨もうっかり、と笑った。

「なんならスパゲッティ食べてもらおっかな。余ってるし」
 とまた台所に行ってしまった。

「……こんな時に時雨くんと宮部くん……」
「体調はどうだ、藍里」
 と机の上に何か入った袋を置く清太郎。ノートのコピーも一緒に。何だか1日、というか半日の量にしては多い。時雨に昼ごはんもどうかと言われたが、学食のパンを買ったからいいと言っていた。藍里はスパゲティを半分くらいまで食べ終わった。

「ありがとう、昨日は夜遅くまで。それにこれ……」
「おばちゃんが弁当屋のデザート持ってけ、て言うから。お前の母ちゃんと、なんだっけ……おにぎりみたいな具の」
「時雨くん……ね」
 時雨はその時は台所でお茶を入れていた。多分聞こえて入るだろうが。

 藍里はノートのコピーを手にして中を見ると文字が一枚一枚違う。

「クラスメイトの奴らが心配して何も言ってないのにコピーして渡してきた」
「そうだったんだ、今度お礼しなきゃね」
「だな」
 そこに時雨がお茶を持ってきた。

「どうも、おにぎりの具の時雨です。はい、お茶」
 やはり聞こえてたんだと藍里は笑った。清太郎も。時雨も別に慣れているのであろう、ニコニコ。

「時雨くん、デザートもらった」
「それはそれはご親切に。じゃあ僕のコーヒーゼリーはいらないかなぁ」
「あ、どうしよ」
 清太郎はじゃあほしい、と藍里に伝えると時雨が台所に戻っていった。

「……まさか手作りのデザート?」
「うん、常に何かデザートを作ってストックしてくれてるの。すっごい美味しいんだから」
「ちょうどよかった、昨日パフェ食べれなかった……ビッグパフェ」
「ごめん」
 清太郎はクラスメイトたちがあとで送ってきた写真を藍里に見せた。3人でこのパフェを食べられたのだろうか、清太郎も一緒に食べてでさえも食べきれないサイズである。

「ここで働いてる藍里にいうのも悪いけど俺は甘いのよりもコーヒーゼリーの方が断然いい。こんなあまったるい塊をあいつらは完食したらしい」
 ともう一枚完食した写真も。

「これはこれは……なかなかだね。盛り付けも大変だから店側からしたら大感激だよ」
「だよな」
 と時雨が二人の話を聞いてたのか立ち尽くしてた。
 彼の手には生クリームホイップたっぷりかけたコーヒーゼリー。

「ごめん、甘ったるいのダメだったかな。苦いから生クリームホイップしてみたんだけどさ」
 少ししょんぼり顔の時雨。だが清太郎は首を横に振って受け取る。

「いや、これなら大丈夫ですコーヒーの苦味とホイップの塩梅がいいと思います」
「ならよかった……あっ」
 時雨はすこし後退りした。この二人の雰囲気に何かを察したようだ。

「僕風呂場の掃除してくるから……若い二人で仲良く……ね」
 とサササササっとリビングを出て行った。藍里は早速ホイップから食べている。
 清太郎も座って食べる。

「食欲はあるんだな。明太子スパも食べて、デザートも食べて」
「食欲はあるよ。時雨くんの作ってくれたものは全部美味しいの」
 フウンとまっさらに平らげた皿を見て、藍里がコーヒーゼリーを食べている姿を見ると昨日横たわっていた人間と同じには思えないようである。

「まさかあの人と一緒にいるのか」
「……学校とバイト以外は。ここ最近はママよりも一緒にいる時間長いかも」
「まじか、てかコーヒーゼリー美味いな。あの人お前の母ちゃんの恋人ってことは40……まだいってなさそうだけども30代くらいだろ」
「うん、34歳」
「お前と結構離れてるのか」
「そうだね……ママにとっては年下の恋人だけど」
「再婚したら父親、になるのか」
 藍里はスプーンを口に含んだ。口の中はコーヒーの苦味とクリームのあまみ、スプーンの冷たさ。

「橘綾人……まさかあの人がお前の本当の父親だなんてクラスメイトたちが知ったら驚くよな」
「だよね、よく教室で話しててさ。かっこいいとかそんなこと聞くと恥ずかしい」
「恥ずかしい、か……」
「パパが褒められてるってなんかね」
「会ってるのか」
 清太郎は半分残ったコーヒーゼリーを一気に口に含んだ。藍里は首を横に振る。

「そうだよな、離婚したんだもんな」
「……今はいいけどママの前ではパパの話をしないでね」
「いいお父さんだったと思うけどさ」
「……うん」
「母ちゃんからは聞いてた。『外面ばかり良過ぎる』って」
「……」
「ごめん、昨日倒れた理由……あれだろ。お前の母ちゃんが橘綾人にされてたようなことをあの客がしてた、それを思い出したんだろ」
「……」
 藍里の手が止まった。右目から涙が出た。

「すまん、昨日倒れたばかりなのに」
「大丈夫、事実だから。でも……パパ優しい人よ」
「……ずっと見てたんだろ、ああいうの」
「……」
「母ちゃんのことを藍里のかあちゃんに言ったら狼狽えてたけど、唯一相談してたんだってな。本当に母ちゃん心配してるから」
 藍里は両手を覆って泣いた。清太郎はそんな彼女を抱きしめる。
「もっと近くにいた俺も気づいてやれなくてごめん許してほしい」
 藍里は声を上げて泣いた。


 その様子を時雨はドアの向こうから聞いていた。途中からではあったが。

 しばらくはリビングに入らないようにしようと再び浴室に戻っていった。