「何でここにいるの、宮部くん」
「……ごめん、昨日あれからお前の帰りつけてった」
 あっ、とクラスメイトに揶揄されて恥ずかしくてダッシュで清太郎の下宿先の親戚の弁当屋の前を走ったことを思い出した藍里。

 あれからかなりの距離があるのにつけてこられたのかと思うと自分のセキュリティが甘いと反省する。

「あと、下のファミレス……客として入った」
「えええっ!」
「おらんかったな」
「……私、調理担当で」
「あ、働いたったんか。バイトしてるんやろ? って聞こうと思ってたんやけど」
「しまった、認めてしまった」
 清太郎は笑った。藍里もつられて笑う。彼女は昨日はミスをして中で怒られていたが、まさか客として清太郎がいたのか、と思うとどこかで自分が作ったものがカレの口に入ったのかと思うと……苦笑いしかできない。

「あそこのウエイターさんたち、かなりピリピリしてて笑顔ないな」
「まぁ、色々あってさ」
「色恋沙汰?」
「……まぁそういうこと。てかわかるの」
「なんとなく」
 藍里は参ったなぁという表情で清太郎と学校までの道のりを歩く。

「ここまで学校と逆方向じゃん」
「んー、確かにだけど散歩と思えば」
「散歩って……てかストーカーだよ」
「人聞き悪いな。あっちって言いながら反対方向に帰るしさ。まぁ色々あったみたいだけどお前のこと守ってやれるの、俺だけだろ」


 ドキン


 藍里は似たような痛みを清太郎の言葉でも感じてしまう。生理痛なのか、なんなのか。

 時雨がいなければもうすぐにキュンとして朝からギュッという案件である。

「……なにぎざってるのよ。そんなキャラだっけ」
「るっせぇ。小学校の時に男子たちにちょっかい出されて泣いてたのを助けたのは俺だろ」
「そうだったけど……」
「そうやら」
「そうでした」
 清太郎はスタスタと歩いていく。

「待ってよ、待って」
「なんだよ、さっきはストーカーとか言って」
「ごめん、ストーカーは言いすぎた」
「罰として走って学校まで行くぞ!」
 と走り出す清太郎。だが藍里は走れない。生理がきたばかりだから。体が重い。

「何だよー、走れ!」
 あっという間に遠くまで行く清太郎。

「歩いて行きたいー」
「ここまでだけでも走れ!」
「いーやーだー!!!」
 と藍里が叫んだ瞬間、下腹部から何かどろっとしたものが出たのがわかった。でもそれは吸収されるが不快感でしかなかった。下着の上から重ねて黒色の腹巻き型パンツも履いているのだがそこにもナプキンをセットして安心感を増しておく。
 生理の経血の汚れの失敗をしたくない、数年の経験が編み出した裏技でもある。

 清太郎は容赦ない。藍里は走らず出来るだけ歩数狭めに早く歩いていく。

「おーそーいっ」
「むーりー!」
「……今日は無理か」
「無理」
「わかった。藍里が走れそうな時は学校まで走るぞ」
「うん……て、これからも?」
 清太郎は頷いた。藍里は顔が真っ赤になる。彼がわざわざ学校とは正反対の家まで迎えにきて一緒に登校するということなのだ。

「歩くときは離れて」
「……まぁ、な」
 と2人を数人の生徒たちが通り過ぎていく。

「恥ずかしい」
「……顔真っ赤だ、バカ」
 そんな朝。