さくらは台所に置いてあったお弁当箱をいつも忘れないように玄関に置きにいくと、リビングからさくらの声が聞こえた。
朝からよくもまぁそんな大きな声を出せるなぁと藍里は思いながらもリビングに戻る。
「もう知らないっ!」
「ごめん、さくらさん……あ、藍里ちゃん」
時雨は困った顔をしていた。こういう場面は初めてではなかったが、たった少し部屋を離れただけで怒りの沸点に達するさくらは相当今日はカリカリしている、触れない方がいいと藍里はもうずっと一緒にいるからわかってはいる。だからあえてさくらのもとには行かないようにした。
「食べる? 朝ごはん」
「うん、食べる。ママは食べたの?」
ソファーに毛布をかぶって横になるさくらを横目に椅子に座る藍里。時雨は首を横に振った。
「じゃあ今から用意するから待っててね」
時雨が台所に行っている間にリビングのテレビのチャンネルをザッピングする。
朝はいつも同じ番組を流し、天気予報にメインニュース、芸能情報、最近のトレンド、そして占いを見るころには藍里の出る時間だ。
いつもよりも早く起きたから少し見たことないコーナーが流れる。他の局の番組に変えるのも楽しいものだと変えていくと地元の情報番組に手が止まった。
藍里が岐阜の頃によく見ていたなぁと。父はこの番組を好んで見ていた。愛知出身の男女2人のタレントが朝から名古屋弁を捲し立ててやっていたのだが10年くらい前にアナウンサーがMCとなり、いまだにタイトルも変わらず地元の情報をメインに伝えている。
実は藍里の父は地元のコーナーで素人代表でレポーターをしていたらしい。
最初は野次馬の1人だったがとあるコーナーで目をつけられて、地元の劇団員ともあって柔軟に対応もでき、背も高く顔もそこそこよかったからスカウトされて藍里が生まれる前からの何年か出ていた、と母から聞かされていたのを思い出した。
その番組に出なくなっても父はその番組を見ていた。だから藍里も当たり前のように見ていた。
岐阜から出てようやく神奈川での生活が落ち着いた頃に、朝その番組をつけたが全く違う番組がやっていて落胆したことも。県外で暮らしたことがなかった藍里はあれが東海地方限定の番組であることを知るのは少ししてからであった。
ようやくその番組を見れる地域に戻ったがさくらの前ではつけるのは躊躇したが今日は何の気なしにその局に変えた。
相変わらず番組名は変わってないがMCも出演者もスタジオも変わっていてまるで浦島太郎の気持ちである。
「この番組も長いよね、こないだ何十周年かの特番やっててさ」
「そうなんだ……あっ」
時雨は何かを思い出したかのように番組を変えた。藍里も懐かしさにかまけてすっかり忘れていた。
この番組はさくらにとって過去を、父を思い出すものでもあった。
タイミングが悪かった、そしてさらにタイミングの悪さがかさなる。
『この番組をご覧の皆様、おはようございます。橘綾人です』
この地元の番組のエンタメコーナーに父、桜にとっては元夫の綾人が映ったのであった。
朝からよくもまぁそんな大きな声を出せるなぁと藍里は思いながらもリビングに戻る。
「もう知らないっ!」
「ごめん、さくらさん……あ、藍里ちゃん」
時雨は困った顔をしていた。こういう場面は初めてではなかったが、たった少し部屋を離れただけで怒りの沸点に達するさくらは相当今日はカリカリしている、触れない方がいいと藍里はもうずっと一緒にいるからわかってはいる。だからあえてさくらのもとには行かないようにした。
「食べる? 朝ごはん」
「うん、食べる。ママは食べたの?」
ソファーに毛布をかぶって横になるさくらを横目に椅子に座る藍里。時雨は首を横に振った。
「じゃあ今から用意するから待っててね」
時雨が台所に行っている間にリビングのテレビのチャンネルをザッピングする。
朝はいつも同じ番組を流し、天気予報にメインニュース、芸能情報、最近のトレンド、そして占いを見るころには藍里の出る時間だ。
いつもよりも早く起きたから少し見たことないコーナーが流れる。他の局の番組に変えるのも楽しいものだと変えていくと地元の情報番組に手が止まった。
藍里が岐阜の頃によく見ていたなぁと。父はこの番組を好んで見ていた。愛知出身の男女2人のタレントが朝から名古屋弁を捲し立ててやっていたのだが10年くらい前にアナウンサーがMCとなり、いまだにタイトルも変わらず地元の情報をメインに伝えている。
実は藍里の父は地元のコーナーで素人代表でレポーターをしていたらしい。
最初は野次馬の1人だったがとあるコーナーで目をつけられて、地元の劇団員ともあって柔軟に対応もでき、背も高く顔もそこそこよかったからスカウトされて藍里が生まれる前からの何年か出ていた、と母から聞かされていたのを思い出した。
その番組に出なくなっても父はその番組を見ていた。だから藍里も当たり前のように見ていた。
岐阜から出てようやく神奈川での生活が落ち着いた頃に、朝その番組をつけたが全く違う番組がやっていて落胆したことも。県外で暮らしたことがなかった藍里はあれが東海地方限定の番組であることを知るのは少ししてからであった。
ようやくその番組を見れる地域に戻ったがさくらの前ではつけるのは躊躇したが今日は何の気なしにその局に変えた。
相変わらず番組名は変わってないがMCも出演者もスタジオも変わっていてまるで浦島太郎の気持ちである。
「この番組も長いよね、こないだ何十周年かの特番やっててさ」
「そうなんだ……あっ」
時雨は何かを思い出したかのように番組を変えた。藍里も懐かしさにかまけてすっかり忘れていた。
この番組はさくらにとって過去を、父を思い出すものでもあった。
タイミングが悪かった、そしてさらにタイミングの悪さがかさなる。
『この番組をご覧の皆様、おはようございます。橘綾人です』
この地元の番組のエンタメコーナーに父、桜にとっては元夫の綾人が映ったのであった。