家に帰ると遅くなるはずだったさくらがリビングのソファーで横になっていた。毛布でくるまっている。スマホを触りながら。
「ただいま、ママ」
「おかえりなさい、藍里」
気だるそうにしているのを見て藍里は察した。きっと生理だ、と。
「おかえり、藍里ちゃん……何か飲む?」
「うん、お茶飲む」
わかった、と時雨は台所に戻った。さくらの口元を見ると少し赤くなってる。あのエビチリを食べたんだろうな、と思いながら藍里は一旦部屋に戻って部屋着に着替えてリビングに戻った。
その頃にはもうお茶が置いてあった。
「ちょっと早く生理来ちゃったー。明日明後日休むわ……」
「わかったよ。無理しないでね」
「ありがとう」
と目を伏せてもスマホには目を通しているさくら。
何を見ているのかはあえて聞かない藍里。
毎月さくらが生理になると大抵休みになる。生理休暇、と言ってて藍里は自分のバイト先にはそんなものが無いから羨ましいと思った。
「ごめん、藍里……薬持ってきて」
顔色が悪いさくらに藍里は頷いて台所に行くと時雨が明日の弁当の準備をしていた。
「どうしたの?」
「ママが頭痛薬ほしいって」
「あー、ここにあるよ」
「ありがとう」
「つきのもの、きちゃったって……」
時雨は「つきのもの」と恥じらいながら言う。藍里とさくらの母娘2人だけだったら「生理」とダイレクトに言うのだが男である時雨の前では流石にそうは言わない。
「うん……」
「辛そうだね、毎回……こればかりは変わってやれないけど出来ることはさくらさんの身体が少しでも楽になるようにサポートするしかない」
よく見ると藍里が高校に持っていくお弁当だけでなく他にも器がある。きっとさくらのためのものだろう。
鍋にはほうれん草、にんじん、コーン、玉ねぎ、鶏肉の入ったシチュー。
「ほうれん草は貧血にいいんだよ。女性は男性よりもより多く鉄分取らなきゃダメだからね。あと温かいスープだと体も温まる……」
「普通に美味しそう」
バイト先でまかないをたべたのだが美味しそうな匂いについ食べたくなる藍里。
「味見する?」
「……え、いいの?」
「食べたい時に食べていいんだよ」
「太っちゃう」
「ははっ」
時雨にシチューを注いでもらい、藍里はフーフーと何度も冷ましてから口につける。
「美味しい」
「でしょ。って市販のルーだけどさ」
「……そうなんだ」
「こだわればルーなくてもいけるけど、ルーがなんだかんだでいいと思う」
「うんうん」
藍里は時雨とのこの時間がたまらなく好きだ。料理をする彼の横顔、こうやってお裾分けしてくれる、そして味見している自分をニコニコしながら見て、こうやって作ったんだよ、と嬉しそうに言う彼の笑顔が堪らなく好きなのだ。
「ねぇ、薬まだなの」
藍里は現実に一気に戻された。毛布にくるまったさくらが台所まで来ていたのだ。
「さくらさん、寝てていいんだよ。さぁ薬飲んで。さっきエビチリ食べたから薬飲んでも大丈夫かな」
時雨はすぐシチューのコンロの火を消してさくらの元に行き、リビングまで間寄り添って行く。それを見るとああ、時雨はさくらの恋人なんだ……と。
苦しい、なぜか藍里は苦しくなった。胸の奥が。時雨に恋をしてから感じた苦しみ。胸の奥というか、お腹というか感じたことのない痛み。
そう、あのときリビングで、まさしくこのソファーの上で2人が愛し合ってたとき、2人仲良く睦まじくしていたとき。
思い出すだけで苦しくなる。
藍里はコップに水を入れてリビングに行く。
「あ、水忘れてたよ。ありがとね、藍里ちゃん」
「いえ……」
さくらが藍里をじっと見ている。元気のないさくらを見ると昔の表情のない彼女に似ているように感じる。
「藍里は生理しんどい?」
時雨のいる前でその会話? と顔をするが答えないわけにもいかず。
「まぁしんどいけど薬飲めば大丈夫かな」
「ここ数年はさ、生理周期安定してたんだけどさぁ……」
と話が進むたびに時雨は居た堪れない顔をしてコップを持っていくついでに台所に行ってしまった。
「ママ、時雨くんの前でこういう話やめようって言ったじゃん」
「ただ聞いただけじゃん」
さくらは高校大学と女子校というのもあり、さくらとの接し方もそれの延長線上なもののようだ。
「……時雨くんと出会ってから生理周期整ったのよー」
「だからその話」
「藍里、高校でかっこいい人見つけたでしょ?」
「なっ……」
それ以前に時雨が好きになったなんていえない。そして、幼馴染の清太郎がいたということも。
「共学なんだからさ、いい恋愛してホルモンあげれば肌艶も良くなるわよ。あ、ただしエッチなことはまだダメよ」
さっきまで具合が悪そうにしていたのにニヤッと笑うさくら。
「さくらさん、横になってください。あとカイロをお腹と背中に貼るといいみたいだよ」
時雨が頃合いを見てか部屋に戻ってきた。
手には貼るカイロ二つ。今は春だというのに。
女の子は冷やしてはいけない、さっきのシチューも……時雨はさくらのために一生懸命に調べたのかと思うと藍里はまた心の中、ちくんとした。
「ただいま、ママ」
「おかえりなさい、藍里」
気だるそうにしているのを見て藍里は察した。きっと生理だ、と。
「おかえり、藍里ちゃん……何か飲む?」
「うん、お茶飲む」
わかった、と時雨は台所に戻った。さくらの口元を見ると少し赤くなってる。あのエビチリを食べたんだろうな、と思いながら藍里は一旦部屋に戻って部屋着に着替えてリビングに戻った。
その頃にはもうお茶が置いてあった。
「ちょっと早く生理来ちゃったー。明日明後日休むわ……」
「わかったよ。無理しないでね」
「ありがとう」
と目を伏せてもスマホには目を通しているさくら。
何を見ているのかはあえて聞かない藍里。
毎月さくらが生理になると大抵休みになる。生理休暇、と言ってて藍里は自分のバイト先にはそんなものが無いから羨ましいと思った。
「ごめん、藍里……薬持ってきて」
顔色が悪いさくらに藍里は頷いて台所に行くと時雨が明日の弁当の準備をしていた。
「どうしたの?」
「ママが頭痛薬ほしいって」
「あー、ここにあるよ」
「ありがとう」
「つきのもの、きちゃったって……」
時雨は「つきのもの」と恥じらいながら言う。藍里とさくらの母娘2人だけだったら「生理」とダイレクトに言うのだが男である時雨の前では流石にそうは言わない。
「うん……」
「辛そうだね、毎回……こればかりは変わってやれないけど出来ることはさくらさんの身体が少しでも楽になるようにサポートするしかない」
よく見ると藍里が高校に持っていくお弁当だけでなく他にも器がある。きっとさくらのためのものだろう。
鍋にはほうれん草、にんじん、コーン、玉ねぎ、鶏肉の入ったシチュー。
「ほうれん草は貧血にいいんだよ。女性は男性よりもより多く鉄分取らなきゃダメだからね。あと温かいスープだと体も温まる……」
「普通に美味しそう」
バイト先でまかないをたべたのだが美味しそうな匂いについ食べたくなる藍里。
「味見する?」
「……え、いいの?」
「食べたい時に食べていいんだよ」
「太っちゃう」
「ははっ」
時雨にシチューを注いでもらい、藍里はフーフーと何度も冷ましてから口につける。
「美味しい」
「でしょ。って市販のルーだけどさ」
「……そうなんだ」
「こだわればルーなくてもいけるけど、ルーがなんだかんだでいいと思う」
「うんうん」
藍里は時雨とのこの時間がたまらなく好きだ。料理をする彼の横顔、こうやってお裾分けしてくれる、そして味見している自分をニコニコしながら見て、こうやって作ったんだよ、と嬉しそうに言う彼の笑顔が堪らなく好きなのだ。
「ねぇ、薬まだなの」
藍里は現実に一気に戻された。毛布にくるまったさくらが台所まで来ていたのだ。
「さくらさん、寝てていいんだよ。さぁ薬飲んで。さっきエビチリ食べたから薬飲んでも大丈夫かな」
時雨はすぐシチューのコンロの火を消してさくらの元に行き、リビングまで間寄り添って行く。それを見るとああ、時雨はさくらの恋人なんだ……と。
苦しい、なぜか藍里は苦しくなった。胸の奥が。時雨に恋をしてから感じた苦しみ。胸の奥というか、お腹というか感じたことのない痛み。
そう、あのときリビングで、まさしくこのソファーの上で2人が愛し合ってたとき、2人仲良く睦まじくしていたとき。
思い出すだけで苦しくなる。
藍里はコップに水を入れてリビングに行く。
「あ、水忘れてたよ。ありがとね、藍里ちゃん」
「いえ……」
さくらが藍里をじっと見ている。元気のないさくらを見ると昔の表情のない彼女に似ているように感じる。
「藍里は生理しんどい?」
時雨のいる前でその会話? と顔をするが答えないわけにもいかず。
「まぁしんどいけど薬飲めば大丈夫かな」
「ここ数年はさ、生理周期安定してたんだけどさぁ……」
と話が進むたびに時雨は居た堪れない顔をしてコップを持っていくついでに台所に行ってしまった。
「ママ、時雨くんの前でこういう話やめようって言ったじゃん」
「ただ聞いただけじゃん」
さくらは高校大学と女子校というのもあり、さくらとの接し方もそれの延長線上なもののようだ。
「……時雨くんと出会ってから生理周期整ったのよー」
「だからその話」
「藍里、高校でかっこいい人見つけたでしょ?」
「なっ……」
それ以前に時雨が好きになったなんていえない。そして、幼馴染の清太郎がいたということも。
「共学なんだからさ、いい恋愛してホルモンあげれば肌艶も良くなるわよ。あ、ただしエッチなことはまだダメよ」
さっきまで具合が悪そうにしていたのにニヤッと笑うさくら。
「さくらさん、横になってください。あとカイロをお腹と背中に貼るといいみたいだよ」
時雨が頃合いを見てか部屋に戻ってきた。
手には貼るカイロ二つ。今は春だというのに。
女の子は冷やしてはいけない、さっきのシチューも……時雨はさくらのために一生懸命に調べたのかと思うと藍里はまた心の中、ちくんとした。