落第魔導師、異世界に技術革新を巻き起こす【シナリオ】

《page 01》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前
まるで城のような学院の後者の前に、制服姿の少年少女の生徒が大勢集められている。
その中には主人公のエドワード(エディ)の姿もあるが、プレッシャーでガチガチ。
集められた生徒達に向けて、教師が昇級試験の開始を宣言する。

教師「これより昇級試験を開始します」
教師「皆さんが次の段階に進めるかどうかは、この試験の結果次第。心して臨むように」

《page 02》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)
試験が始まる前に、教師が生徒に説明するという形で、世界観と魔法の設定について軽く触れておく。
そのついでに、主人公や今後の話で出てくる生徒の姿も一コマずつ程度描写。

教師「魔導師は現代社会の根幹を成す重要な存在です」
教師「火を操れば一騎当千の兵器となり、風を操れば帆船を自由に走らせ、水を操れば見渡す限りの田畑を潤し、土を操れば山を崩して道を切り開く」
教師「農業、戦争、インフラ整備。魔導師と関わりのない分野は、もはやこの世にはありません」
教師「ですが、わが校が求める一流の魔導師になるためには、人並み外れた努力と才能が必要不可欠」
教師「この昇級試験は、魔導師に相応しい者を見極める最初の選別です」

《page 03》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)
試験内容の説明&試験シーン。説明は台詞を詰め気味に配置して、試験シーンの絵面を大きめに取る。
そつなくこなすモブ生徒の姿と、うまくできないエディの姿をセットで描写する。

教師「皆さんには四大属性に対応した四つのテストを受けていただきます」
教師「内容はごく初歩的なものばかり。最低限の素質が身に付いているかを試すものです」
教師「昇級試験の合格には、四つのテストを全て成功させる必要があります」
教師「三つまでなら再試験を受けることができますが、四つ全て失敗した場合はその時点で落第決定です」
教師「それでは、試験開始!」

ナレーション「火の試験――」
モブ生徒:拳大の火の玉を放って的に命中させる
エディ:火の玉が発射直後に消滅

ナレーション「風の試験――」
モブ生徒:風を操って羽根を頭上に浮かばせる
エディ:羽根が台座からちょっとしか浮かばない

ナレーション「水の試験――」
モブ生徒:コップに手をかざし、中の水を噴水のように吹き出させる
エディ:コップの水面がさざなみ立つだけ

《page 04》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)
焦るエディ。周囲の生徒は心配そうな目で見たり、くすくす嘲笑したりしている。

エディ(ど、どうしよう……三回連続で失敗……次も失敗したら、問答無用で一発不合格……)

エディが真っ青になっている間に、モブ生徒が次の試験をクリアする。

ナレーション「土の試練――」
モブ生徒:教師が放った魔法を土壁で防ぎ止める

教師「よろしい、合格です。次、エドワード君」
エディ「は、はいっ!」

教師に呼ばれて前に出るエディ。周囲の揶揄と陰口が聞こえてくる。

生徒達
「エディの奴、さすがにダメっぽいな」
「一発不合格とか珍しいもんが見れそうだ」
「あいつ座学は優秀なくせに、実技はマジでゴミクズだからなぁ」

《page 05》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)

教師
「火属性のルビー寮。風属性のエメラルド寮。水属性のサファイア寮。土属性のトパーズ寮」
「あなたもよく知っている通り、学院の寮は先天的な魔力適正に応じて割り振られます」
「そして、あなたは土属性を得意とするトパーズ寮」
「教師として手を抜くことはしませんが、無事に達成できることを期待していますよ」

エディ「は……はい! お願いします!」

追い詰められたエディが、必死な顔で土壁を生成。
だが前ページのモブ生徒のものと比べて明らかに薄い。
そこに教師の魔法が放たれ、爆発が起こって土壁が吹き飛ばされる。

エディ「うわあっ!?」

《page 06》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)
エディは呆然とした顔で尻もちを突いている。失望した顔で首を横に振る教師。

教師「残念です。下がりなさい、エドワード君。次の生徒は――」
エディ「ま、待ってください!」

エディは縋るように、懐から太い金属の筒らしきものを取り出す。

エディ「魔導器を使わせてください!」
エディ「こ、これは僕が自作したもので、スイッチを押せば中の仕掛けが……」
教師「エドワード君」

怖い顔の教師に威圧され、びくりと震えるエディ。

《page 07》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎前(前ページから継続)

教師
「確かに、一流の魔導師も必要に応じて魔導器を使います」
「いわゆる魔法使いの杖からして、持ち主の魔力制御を補佐する収束器ですからね」
「ですがこの試験は、魔導師としての必要最低限の実力を図るもの」
「魔導器に頼らなければならないのなら、昇級する資格などありません」

エディは反論することもできず、真っ青な顔でうつむくことしかできなかった。
周囲の生徒のリアクションは、嘲笑や哀れみなど様々。

《page 08》
◯アルスマグナ魔導学院 遠景
場面転換。学院の遠景を背景に、主人公のモノローグを入れる。

エディ(モノローグ)
「こうして僕は落第した」
「それも一発不合格。再試験すら受けられない最低の結末だ」
「魔導学院の百年以上の歴史の中でも、最初の進級試験で一発不合格を食らってしまったのは、僕を含めてたったの七人」
「つまり僕は、この上なく情けない理由で歴史に名を刻んでしまったのだ」

◯アルスマグナ魔導学院 どこかの部屋
エディが父親から届いた手紙を読んでいる。
場所は前の場面からの流れで学院のどこかだと分かる程度で、詳細な描写は必要なし。

父親(手紙)「進級試験の結果について、学院から連絡があった」
父親(手紙)「正直に言って失望したぞ、エドワード」
父親(手紙)「最初の試験すら合格できないようでは、お前には魔導師の才能がなかったと言わざるを得ない」

《page 09》
◯アルスマグナ魔導学院 どこかの部屋(前ページから継続)
前ページから引き続き、父親からの手紙を読むエディ。

父親(手紙)「よって、学費の援助は今月で打ち切らせてもらう」
父親(手紙)「もし学院に残りたいなら、学費も生活費も自力で稼ぎなさい」
父親(手紙)「私は今後一切、銀貨一枚たりとも援助はしない。心しておくように」

◯アルスマグナ魔導学院 廊下
場面転換。酷く落ち込み、トボトボと廊下を歩くエディ。
すれ違う生徒がクスクスと笑い、エディを更に気落ちさせる。
そんなエディに、背後から威勢のいい声が投げかけられる。

男の声「よぅ、エディ!」

《page 10》
◯アルスマグナ魔導学院 廊下(前ページから継続)
声の主は友人のオースティン。エディと比べて体格が良く、陽気な印象。

エディ「オースティン……」
オースティン「進級の件、残念だったな。でもまぁ、再試験で落ちた奴なら他にもいるんだ」
オースティン「来年に向けて今から準備しとかねぇと……」
エディ「いや……それがさ……」

場面転換の演出を挟み、次のページに。

《page 11》
◯アルスマグナ魔導学院 中庭
中庭のベンチに座って話し込むエディとオースティン。
場面転換の合間に手紙の件を話したという形で会話が進む。

オースティン「援助打ち切りかぁ。親父さんらしいって言えばそうだけど、さすがにキツイなぁ」
オースティン「んで、これからどうするつもりなんだ?」
エディ「どうって、そりゃあ続けたいよ」
エディ「やっと夢を叶えるスタートラインに立てたんだから」
オースティン「夢っていうと、アレか。子供の頃に、故郷の町を救ってくれた魔導師みたいになりたい……とか何とか」
エディ「うん、それ」

下記のエディの台詞と合わせて、その魔導師の活躍のイメージ図を描写する。

エディ「町を襲った魔獣をたった一人で蹴散らして、壊れた町も魔法であっという間に直して」
エディ「しかも報酬を受け取るどころか名乗りもしなかった」
エディ「僕もそういう魔導師になりたかったんだけど、こんな有様じゃあね……」

《page 12》
◯アルスマグナ魔導学院 中庭(前ページから継続)
オースティンがひどく落ち込んだエディを気遣い、とある提案をする。

オースティン「うーん……そうだ! いいこと思いついた!」
オースティン「一年くらい休学してみたらどうだ?」

エディ「休学!?」

オースティン「休学して学費を稼ぐのは、うちの学院だと珍しいことじゃねぇぞ」
オースティン「今後の学費と生活費を稼ぎつつ、実務経験を積んで腕を磨ける」
オースティン「まさに一石二鳥って奴だ」

エディ
「なるほど……進級に必要な単位は取ってあるんだから、これから丸一年休学したとしても、来年の進級試験は問題なく受けられる……その間に稼げばいいのか……」

エディの顔に段々と希望が戻ってくる。

《page 13》
◯アルスマグナ魔導学院 中庭(前ページから継続)

エディ「あ、でも……僕みたいな落第生、どこが雇ってくれるんだろ」
エディ「魔法は三流未満だし、力仕事とか全然できないし……」

オースティン「座学は同期でもトップクラスだったろ」
オースティン「だったら仕事くらい探せば見つかるって」
オースティン「でもまぁ、手っ取り早く短期間で稼ぎたいっていうなら……」

爽やかな笑顔でエディを励ますオースティン。
そして次の台詞と共に、驚きで目を丸くするエディの様子を大きく描写する。

オースティン「冒険者になってみないか?」

《page 14》
◯大陸のどこか
自然の風景を背に、冒険者ギルドについて説明するエディのモノローグを描写する。
風景はコマごとに遠景から近景に近付いていき、最終的に馬車鉄道が走行している様子にフォーカス。小型バス程度のサイズで二頭立てで、野外に敷かれたレールの上を走っている。

エディ(モノローグ)
「この大陸は、大きく分けて二つの領域に分かれている」
「人間の国々がある『人類領域』と、その外に広がる『未開領域』」
「そして、冒険者は未開領域の探索を生業とする人々のことだ」
「未開領域の魔力濃度は人類領域よりも遥かに高く、その影響でこちらには存在しない資源や動植物が山程ある」
「まさに一攫千金の宝の山。絵に描いたようなハイリスク・ハイリターン」
「それが冒険者という職業だ」

《page 15》
◯大陸のどこか 馬車鉄道の乗換駅
街道沿いに設けられた駅(屋根付きのバス停程度の規模)で、マントかローブを羽織ってカバンを背負った旅装束のエディが馬車を降りる。
長時間の乗車で体の節々が傷んでいる様子。

エディ(いたた……運賃が安いのはいいんだけど、長いこと乗ってると堪えるな……)
エディ(後一回乗り換えたら目的地……プロの魔導師なら、こんな苦労はしなくて済んだんだろうな)

それと同時に、同じく馬車から降りてきた少女が、元気にぐっと伸びをする。
見た目はエディと同世代。この少女がメインヒロイン(予定)なので、ビジュアルもしっかりと描写しておく。

少女「あー、良く寝た!」
エディ(馬車で寝られるとか、凄いなあの子)

そのとき、何か大きな影がエディ達の頭上を横切る。

少女「わあっ! 何あれ!?」

《page 16》
◯大陸のどこか 馬車鉄道の乗換駅(前ページから継続)
エディ達の上空を、大きな鳥に牽引された乗り物が横切っていく。
その鳥は普通の生物ではなく、魔力で作られた擬似的なもの(エネルギー体が鳥の形を取ったような外見)

エディ「鳥の形をした魔法だよ。後ろに乗ってるのが魔導師だろうね」

エディ(僕もあれくらいできたら、馬車で痛い思いすることも……)
エディ(……いや、それなら休学なんかしてないか)

物思いに耽ろうとしたエディの眼前に、満面の笑みを浮かべた少女の顔がぐいっと近付いてきた。

エディ「うわぁっ!?」
少女「凄い! 詳しいんだね!」

後ずさって距離を取ろうとするエディだったが、少女はその分だけぐいぐいと詰め寄ってくる。

エディ「ちょ、近いって! ていうか馬車来たから! 離れて離れて!」

《page 17》
◯大陸のどこか 馬車鉄道 車内
車窓の外に広がる風景を大コマで描写。
これから先の物語の主な舞台となる大都市を展望する。
大きな川の手前側に都市があり、橋を挟んだ川向かいには人の手がほとんど入っていない自然が広がっている。
手前側が人類領域で奥側が未開領域。
未開領域側の橋の近くにも少しだけ市街地がある。
大都市の一部が橋の向こう側に浸透して広がったイメージ。

エディ(ナレーション)
「自由都市オリエンス」
「人類領域と未開領域の境界線上に位置する街」
「世界最大の冒険者ギルドが拠点を構える、冒険者達の一大拠点」
「僕がこれから先の一年間を過ごす場所――」

《page 18》
◯自由都市オリエンス 中央広場
中央広場で場所を降りるなり、人混みに圧倒されるエディ。
ふらつきそうになったエディとは対照的に、少女は興奮してテンションが上がり、いてもたってもいられず駆け出してしまう。

少女「着いたー! オリエンスー!」
エディ「あ、ちょっ……行っちゃった」
エディ(ていうか、名前も聞いてなかったな。どこの誰だったんだろう)
エディ(いや、そんなことより。まずは自分の用事を終わらせなきゃ)

エディは気を取り直し、鞄から地図を取り出して目的地を探す。

エディ(ええと、冒険者ギルドは……あっちかな)

《page 19》
◯自由都市オリエンス各所
台詞なしのページ。エディがオリエンスのあちらこちらを歩き回る。
最後のコマで、エディがフッと諦めたような笑みを浮かべる。

《page 20》
◯自由都市オリエンスの一角
大袈裟に地面に崩れ落ちるエディ。
目をぐるぐるさせて、落第が決まったときとは全く別の絶望に打ちひしがれる。

エディ(迷ったぁー!)
エディ(人は多いし道は複雑だし! なにこれ迷路? 無秩序に街広げすぎじゃない!?)
エディ(冒険者ギルドってどこだよ! ていうかここはどこなんだよ!)

そんなエディの耳に、見知らぬ誰かの声が入ってくる。

???「冒険者ギルド? 知ってる知ってる! 案内してやるよ!」

《page 21》
◯自由都市オリエンスの一角(前ページから継続)
声がした方にハッと顔を向けるエディ。声の主はチンピラじみた風体の男達。
エディに声をかけたのではなく、page 18で別れた少女が相手。

少女「本当? ありがとう! どこにも見当たらなくて困ってたんだ!」
チンピラ「いいってことよ。あっちの裏通りが近道だぜ」

少女は疑う様子もなく男達についていこうとする。
その一部始終を見ていたエディは、唖然として目を剥いている。

エディ(え……あれってどう見ても……)
エディ(人を見かけで判断しちゃいけないっていうけど、さすがに露骨過ぎるって)
エディ(でも、冒険者ってガラの悪い外見の人が多いって聞くし……)
エディ(……いやいや、いくら何でもアレはダメでしょ!)

《page 22》
◯自由都市オリエンスの一角(前ページから継続)
エディは一通り悩んでから、少女の後を追いかけることを決める。

エディ(と、とにかく追いかけよう!)
エディ(本当に親切な人だったとしても、ついでに案内してもらったと思えばいいだけなんだ!)

◯自由都市オリエンス 裏路地
場面転換。少女とチンピラ達がメインの場面。
人気のない裏路地の奥に来ても、少女はまだ疑いを抱いていない様子。

チンピラ「よーし、着いたぞ」

《page 23》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
着いた場所は裏路地の行き止まり。少女は状況が理解できずにキョトンとしている。

少女「えっ? あの、行き止まりだけど」

チンピラ達「ギャハハ! マジかよこいつ! まだ自分の状況分かってねぇぞ!」
チンピラ達「簡単に引っかかりやがって! チョロすぎだろ!」

次々に刃物を取り出すチンピラ達。
少女もさすがに窮地を悟り、怯えた顔で後ずさる。

最後のコマで、少女とチンピラ達から少し離れたところで、誰かの靴がざりっと地面を踏む描写(エディが行動を起こそうとしていることの前振り)

《page 24》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
円筒形の金属筒が弧を描いて宙を舞う。
Page 06でエディが持っていた金属筒と同じデザイン。
それがチンピラ達の足元に音を立てて落ちる。

チンピラ達「何だ? ……うわっ!」

金属筒から大量の煙が一気に吹き出す。

《page 25》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
路地裏の行き止まりが濃密な煙に包まれ、ほとんど前が見えなくなる。

チンピラ達「ふざけやがって! どこのどいつだ!」

デタラメに刃物を振り回すチンピラ達。
その合間を縫うようにして、人影が少女に近付いて腕を掴む。

少女「きゃあっ!?」

《page 26》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
page 15で少女がエディに顔を近付けたのと対比させるように、凛々しく真剣な面持ちのエディが怯えた少女にぐっと顔を近づける。

エディ「今のうちだ! 逃げるよ!」
少女「えっ、あ、うん!」

エディは少女の手を引いて、煙幕の外に走り出す。

チンピラ「テメェ! 待ちやがれ!」

《page 27》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
息を切らして裏路地を駆けるエディと少女。
少女が後ろを見ると、チンピラ達が鬼のような形相で追いかけてきている。

少女「駄目! 追いつかれる!」

エディ「分かってる! ……こんなこともあろうかと!」

《page 28》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
エディは急ブレーキを掛けて足を止めながら、振り返ると同時にしゃがみこんで地面に手を突く。

エディ(どうせ僕は! 三流未満の落第魔導師!)

ちょうどチンピラ達が走っている辺りの左右の壁際に、円筒形の魔導器が幾つか設置されている。

エディ(姑息だろうと! 卑怯だろうと! 頭を使って足掻くだけだ!)

地面に突いたエディの手から、パルス状の微弱な魔力が放たれる。

《page 29》
◯自由都市オリエンス 裏路地(前ページから継続)
魔力のパルスが円筒形の魔導器に到達、その機能を遠隔で作動させる。
閃光がほとばしり、路地裏を揺るがす大爆発がチンピラ達を飲み込む。
爆発の煙が青空に立ち上っていくコマで場面転換。

《page 30》
◯冒険者ギルド本部 外観
建物の外観を描写し、そこが冒険者ギルド本部であることをナレーションで明示する。
近世ヨーロッパ的な数階建ての立派な建造物。

ナレーション「同日、冒険者ギルド――」

◯冒険者ギルド本部の一室
爆発の煤で汚れたエディと少女が長椅子に腰掛け、大柄な冒険者の男から事情聴取を受けている。
エディと少女は困ったような顔で笑い、大柄な男は強面で無表情。

大柄な男「なるほど、状況はよく分かった」

《page 31》
◯冒険者ギルド本部の一室(前ページから継続)

大柄な男「冒険者を名乗る不届き者は、我々が適切に処理しておこう」
大柄な男「爆発で建物が損傷したことも含め、君達が咎められることはない」
大柄な男「事後処理は全て冒険者ギルドが済ませておく」
エディ「あ、あはは……ありがとうございます」

爆発の跡地の様子を一コマ程度挿入。
路地の左右の建物の壁が焦げて軽く崩れ、周囲に野次馬が集まっている。

大柄な男「礼を言うのはこちらの方だ」
大柄な男「偽冒険者共の蛮行には、我々も常日頃から困らされているからな」

《page 32》
◯冒険者ギルド本部の一室(前ページから継続)
聴取を終えた大柄な男が席を立ち、エディと少女を残して部屋を出る。

大柄な男
「さて、聴取は以上だ」
「俺はこれから上の方に報告を持っていくが、二人はゆっくり休んでくれて構わない」

扉が閉まって二人きりに。
エディは緊張から解放され、長椅子にぐったりと背中を預けて長々と息を吐く。
すると、隣に座っていた少女がいそいそと身を寄せ、はにかみながらエディの顔を覗き込んでくる。
最初の方のただ明るいだけの笑顔とは違い、エディのことを意識しているような反応。

少女「そういえば、お礼、まだ言ってなかったよね。ありがとう」
エディ「べ、別に……大したことはしてないし」
少女「そんなことないって! 本当に格好良かったよ!」

《page 33》
◯冒険者ギルド本部の一室(前ページから継続)
ようやく少女が自己紹介をする。その満面の笑みに照れながら、エディも名前を名乗る。

少女「私、ステラ。ステラ・アルヴァ。あなたの名前は?」
エディ「……エドワード。エドワード・オグデン。エディでいいよ」

◯冒険者ギルド本部 飾り気のないどこかの部屋
大柄な男が、机にぽつんと置かれた魔法の水晶玉を通じて、ギルド幹部に一連の出来事を報復している。
手の平サイズの水晶玉の上方に、映像が蜃気楼のように映し出されている状態。
この時点では、ギルド幹部の姿はシルエットにするなどしてぼかし、次のページで明らかにする。

大柄な男「報告は以上です」
幹部『ご苦労、イグナシオ。魔導学院の生徒にアルヴァ家の娘ときたか』
幹部『しかも少年の方は自作の魔導器を使っていたと』

《page 34》
◯不明(水晶玉越しの通信先)
場面転換。ギルド幹部の姿を大コマで描写。一目で強さと美しさを兼ね備えたと分かる女性。
それと同時に、幹部の肩書などをナレーションで提示し、主人公が極めて地位の高い人物にいきなり注目されたことを読者に印象づける(次話への興味を引く仕掛け)

幹部「面白い。その少年、我々が求めていた人材に育つかもしれん」
幹部「快くギルドに招き入れろ。間違っても心変わりをさせるんじゃないぞ」

ナレーション「AAA(トリプルエー)ランク冒険者、ギルドマスター代理」
ナレーション「アレクサンドラ・ボールドウィン」
《page 01》
◯冒険者ギルド本部 正面外観
前のシーンから時間経過していることの演出も兼ねて、冒険者ギルドの外観の大コマから第2話スタート。

ナレーション「翌日――」

◯冒険者ギルド本部 受付カウンター
エディとステラが受付嬢から冒険者ギルドについての説明を受ける。
二人共、前のシーンでは旅装束かつ爆風で汚れていたが、このシーンではちゃんと身なりを整えている。

受付嬢「それでは、オリエンス冒険者ギルドのシステムについて、簡単に説明させていただきますね」

《page 02》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
受付嬢によるギルドの説明。
ここからしばらく、設定解説に重点を置いたシーンが続くため、キャラの動作や情景描写は最低限に。
必要に応じて、イメージ図や地図などによる説明も添える。

受付嬢「東方未開領域を探索する冒険者の支援、それが私達冒険者ギルドの役割です」
受付嬢「支援と言っても分かりにくいですよね? 具体的には、大きく分けて三つの業務があるんですよ」
受付嬢「まず一つ目は、未開領域についての情報の共有です」
受付嬢「冒険者が探索の結果をギルドに報告して、その情報をギルドが他の冒険者に提供する」
受付嬢「このサイクルでどんどん探索を進めていくというわけです」

ステラ「はい! 質問いいですか!」
受付嬢「どうぞ!」

元気よく手を挙げるステラ。受付嬢もテンションを合わせてくる。
エディはちょっと取り残され気味。

《page 03》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
引き続き設定解説パート。

ステラ「もしも報告しなかったらどうなるんですか?」

受付嬢「報告は義務ということになっていますが、基本的に罰則はありません」
受付嬢「処罰対象となるのは、危険情報を隠蔽した場合などですね」
受付嬢「ギルドへの情報提供は功績としてカウントされますので、よほどの事情でもない限りは報告をおすすめします」

エディ(知識の共有は大事だよな。学院で勉強した内容だって、誰かが研究して皆で共有したものなんだし)

受付嬢「二つ目の業務は探索成果の買い取りです」
受付嬢「情報提供とは違って、ギルドを通さない売買は薬草一束であっても罰則がありますので、くれぐれもご注意ください」

《page 04》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
引き続き設定解説パート。
受付嬢がため息混じりにやれやれと首を横に振る。

受付嬢「このルールに文句をつける人、結構いるんですけどね?」
受付嬢「私達がしっかりチェックしたものだけ流通するようにしないと、偽物が市場に溢れかえって大変なことになるんですよ」
受付嬢「まぁもちろん、他所に売るときには利鞘で稼がせてもらいますけど」

エディ(変なとこ正直だな、この人)

受付嬢「そして、三つ目の業務ですが」
受付嬢「最近はむしろ、冒険者といえばこのイメージが強いかもしれませんね」
ステラ「アレですね!」
受付嬢「そう! アレです!」
エディ(さっきから何このテンション)

《page 05》
◯冒険者ギルド本部 依頼掲示板
ホールの壁を端から端まで埋め尽くす巨大な掲示板。
そこに依頼票が大量に貼り付けられ、周囲には大勢の冒険者が集まっている。

受付嬢(吹き出しのみ)
「依頼の仲介です! 都市の内外から持ち込まれた、多種多様な依頼の数々! それらを希望と能力に応じて適切に分配します!」

◯冒険者ギルド本部 受付カウンター
掲示板のカットは大コマ一つで済ませ、再び受付カウンター前での説明シーンに戻る。

受付嬢「冒険の準備にはとにかくお金が掛かります」
受付嬢「未開領域の資源を持ち帰れば相当な収入になりますが、それも毎回成功するとは限りません」
受付嬢「なので昔から、冒険者は短期間の仕事を繰り返して予算を稼ぎ、それを元手に未開領域を探索してきたんです」
受付嬢「そこから発展して、ギルドが仕事の仲介やトラブルの解決も担うようになった、というわけですね」
受付嬢「大富豪のスポンサーがいる人なんかは、こういう依頼を受ける必要はないんですけど、あくまで例外です」

《page 06》
◯冒険者ギルド本部 受付カウンター(前ページから継続)
このページで設定解説パートは終了。

受付嬢「冒険者ギルドの主な業務は以上です」
受付嬢「次に『冒険者ランク』について説明しますね」
受付嬢「まず最低ランクのEは見習いで、全員ここからのスタートになります」
受付嬢「Dは半人前。Cは一人前。Bは一流。A以上は実力や功績を称える名誉称号です」
受付嬢「厳密に言うと、正式なギルドメンバーとして扱われるのはCランクから」
受付嬢「D以下はパーティーのリーダーになったり、ギルドの運営に携わったりすることができません」
受付嬢「他の職業……例えば大工やパン屋のギルドでも、修行中の人はギルドの構成員ではありませんから、それと同じですね」

再びシュバッと手を挙げるステラ。

受付嬢「はいどうぞ!」
ステラ「Eランク冒険者はパーティーに入らないと探索ができないんですか?」

受付嬢「危険度が低い場所なら一人でも探索できます。よくある薬草採集とかですね」
受付嬢「ただし高危険度エリアに立ち入れるのは、Cランク以上の冒険者が率いるパーティーだけです」
受付嬢「短期間でたくさんお金を稼ぎたいなら、一人でコツコツやるよりもパーティーに入れてもらう方が効率的ですよ」

エディとステラが、二人揃って「しまった」「まずい」とでも言いたげな顔をする。
理由は次ページ以降。

受付嬢「説明は以上です! お二人とも、じゃんじゃん稼いでどんどんギルドに貢献してくださいね!」

《page 07》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール
場面転換&時間経過。
説明を聞き終えたエディとステラが、冒険者ギルドに加入できたことを喜んだり、今後の活動について二人で頭を悩ませたり。

ステラ「手に入れました! ギルドカード!」
エディ「素材は金属かな。魔法的な効果はなさそうだし、本当にただのカードなんだね」

メンバー証のギルドカードを嬉しげに掲げるステラ。
エディの方はカードの作りの方に興味を引かれている。

ステラ「それはそうと、参ったなぁ」
ステラ「エディとパーティー組んで探索すればいいかなって思ってたけど、それじゃ奥まで行けないのかぁ」
ステラ「うーん……私みたいな駆け出し、パーティーに入れてくれる人、いるのかな……」

エディ「由々しき問題だよね。僕も一年で稼げるだけ稼がなきゃいけないのに」
エディ「薬草集めばっかりじゃ絶対間に合わないよなぁ」

ちょうどそのとき、何者かの影が二人に近付いてくる。

《page 08》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール(前ページから継続)
人影の正体は、前話の最終ページに登場した女冒険者、アレクサンドラだった。

アレクサンドラ「はじめまして。エドワード・オグデン君とステラ・アルヴァ君だね」

エディもステラも、アレクサンドラがAAAランク冒険者兼ギルドマスター代理であることを知らないため、初対面の他人に話しかけられたときの怪訝な反応をしている。
アレクサンドラの服装も前話と違い、何の変哲もないただの私服なので、格の高い冒険者だと気付く余地がない。

アレクサンドラ「実は知人のパーティーが、一探索限定の臨時メンバーを募集していてね」
アレクサンドラ「この文字を判読できる人材を求めているのだけれど、君達はどうかな」

アレクサンドラは一枚の紙を二人の前に広げてみせる。
紙に書かれているのは、不可解な模様のようにも見える文字の羅列。
この世界で一般に用いられている文字とは全く違う。

ステラは眉を寄せて首を傾げるだけ。
しかしエディはすぐにその文字を読み解いた。

エディ「古代魔法文明の文字ですか? 魔法素材の発注書?」
ステラ「えっ? 凄い! 読めるの!?」
エディ「ま、まぁ、ちょっとね」

愛想笑いで誤魔化すエディ。

エディ(学院で教わったんだけど……落第して学費稼ぎに来ましたとか言えないよなぁ)

《page 09》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール(前ページから継続)

アレクサンドラ「素晴らしい! 彼らは向こうのラウンジで作戦会議の最中だ」
アレクサンドラ「仕事を探しているなら相談に乗ってやってくれないか」

◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ
同じエントランスホール内で違う場所に場面転換。
アレクサンドラに紹介された冒険者に話しかける場面や、自己紹介などはバッサリカットして、本当に古代魔法文字の解読ができるかどうかのテストを成功させたところからシーンを始める。

冒険者達「凄い! 本当に解読できてる!」

エディが翻訳した文章を見て、驚きの表情を浮かべる三人の冒険者達。
三人とも、エディとステラよりも年上の先輩。
ページの下部で、それぞれ一人に一コマずつ割り振って、名前と肩書をナレーション形式で提示する。

若い剣士の男「こんなの読める冒険者なんて、Aランクの連中くらいしか知らねぇぞ!」
ナレーション「Cランク冒険者 ライアン」
ベリーショートの単発で体育会系の雰囲気が強い爽やかな青年。

僧侶風の男「恐らく、冒険者になる前から習得していたのでしょう」
ナレーション「Dランク冒険者 パトリック」
長髪で線の細い美男子タイプだが明らかに堅物な雰囲気。

盗賊風の少女「ねぇねぇ! どこで勉強したの?」
ナレーション「Dランク冒険者 フェリシア」
あくまで盗賊風のファッションという意味で、全体的にギャルっぽい根明な少女。

《page 10》
冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

エディ「ええと、その辺は秘密ってことで……」

冒険者になった経緯を言いたくなくて、笑って誤魔化すエディ。
フェリシアはターゲットをステラに切り替え、肩を組んで証言を引き出そうとする。

フェリシア「彼氏君はそう言ってるけど、実際のところどうなのさ」
フェリシア「ひょっとして凄い魔導師だったりとか?」
エディ「彼氏じゃないですよ!?」

慌てるエディ。しかしステラの方はあっけらかんとしていて全く動揺せず、いい笑顔で即答する。

ステラ「知りません! 昨日会ったばっかりなので!」
ステラ「お互いのことは詮索ナシってことにしてますし!」
フェリシア「ええー? いいじゃん、ちょっとくらい」
パトリック「フェリシア、その辺にしておきなさい」
パトリック「過去を探られたくない冒険者など珍しくもありません」
フェリシア「はーい」

パトリックのフォローに、エディはホッと胸をなでおろす。

《page 11》
冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)
ライアンが自分達の直面している問題と、エディに協力してもらいたい仕事を語る。
過去の出来事について説明している部分は、過去の光景の回想+現代の説明セリフの組み合わせで分かりやすく表現。

ライアン「それじゃ、そろそろ本題に入らせてくれ」
ライアン「俺達は魔物素材の収集をメインにしてるパーティーなんだが、遺跡に逃げ込んだ獲物を追いかけているうちに、奇妙な扉を見つけちまった」

現代風に喩えると、大型トラックが余裕ですれ違えるくらいの幅と高さの大きな扉。

ライアン「ところが、押しても引いてもまるで開く気配がない」
ライアン「扉からだいぶ離れたところに開閉装置らしきものがあったんだけど、こいつも全く機能しないときた」
ライアン「壁の奥で仕掛けが動いてる音はするんだが、扉はピクリとも動かなかった」
ライアン「んで、周りをもっとよく調べてみたら、装置の近くに古代魔法文明の文字っぽい文章があったんだ」

開閉装置のデザインは、パッと見で用途が分かりやすいものであれば何でも可。

《page 12》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)
回想演出終了。現在の描写に戻る。

ライアン「きっとこれが手掛かりに違いない! ……って考えたまでは良かったんだがな?」
ライアン「俺達は現代の魔法文字すら読めないし、食料も心許なくなってきから、渋々引き上げたってわけさ」

パトリック「ですが、せっかくの発見を忘れるのは惜しい」
パトリック「魔獣狩り以外の功績を挙げれば、ランクアップも大きく近付きますから」

フェリシア「他の連中に手柄を譲るのも癪だしね」
フェリシア「だけど古代文字とか読める奴にコネなんてないし、どうしたものかって思ってたところに、運良く君達が来てくれたってワケ」

ライアン「どうだ? 一緒に来てくれるか?」
「ひとまず今回限りの助っ人って形になるけど、もしも金になるようなモノが見つかったら、分け前は全員で等分だ」
ライアン「あと、現場で見つけた魔法文字は書き写してあるから、そいつの翻訳も頼みたい」
ライアン「翻訳の手間賃は追加で払うよ」

《page 13》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

エディ(断る理由なんかないよな。最高に幸先いいスタートじゃないか)

エディが返事をしようとしたところで、ステラが今までにないくらいに真剣な態度で割って入る。

ステラ「あのっ! 私も連れて行ってください!」
ステラ「古代文明の遺跡、どうしても行ってみたいんです!」

普段のステラの陽気な雰囲気とのギャップに驚くエディ。
ライアン達三人は顔を見合わせ、そして優しく微笑みかける。

ライアン「最初からそのつもりだけど?」
ライアン「二人組の片方だけ引き抜くなんてしないって」

ステラ「あ、ありがとうございます!」

嬉しそうに頭を下げるステラ。
エディはステラが零した言葉が引っかかって、そちらに注意を惹かれてしまう。

エディ(……古代遺跡に行きたい……それが冒険者になった理由、なのかな)
エディ(お互い詮索なしってことにした手前、実際どうなのか聞けないけど……)

《page 14》
◯冒険者ギルド本部 エントランスホール ラウンジ(前ページから継続)

フェリシア「ところでさ。うちらが助っ人探してるって、よく分かったね。まだ募集も掛けてなかったのに」
エディ「紹介されたんですよ。ライアンさん達の知り合いだっていう女の人から」
ライアン「知り合い?」

再び顔を見合わせる三人。今度は明らかに困惑の色が浮かんでいる。

ライアン「……誰?」

◯冒険者ギルド本部 エディ達から離れたどこか
アレクサンドラが、大柄な冒険者の男(第1話終盤に登場したイグナシオ)を連れて、ギルド本部内のどこかを歩いている。

イグナシオ「珍しいことをなさいましたね」
イグナシオ「わざわざEランクのルーキーのために一芝居打つとは」
イグナシオ「あの少年がそれだけ優秀な魔導師だと?」
アレクサンドラ「十中八九、魔導師としては最底辺だ。腕を磨いても三流止まりだろう」
イグナシオ「では、何故?」

にやりと笑みを浮かべるアレクサンドラ。

《page 15》
◯冒険者ギルド本部 エディ達から離れたどこか(前ページから継続)

アレクサンドラ「魔導師ではなく、技術者として見れば可能性の塊だ」
アレクサンドラ「あの少年が使っていた魔導器……発煙筒と爆発物の残骸を見たか?」

イグナシオ「いえ、申し訳ありません」

アレクサンドラ「通常の魔導器は魔導師の補助の道具に過ぎず、魔法を使えなければ魔導器も使えないのが当然だ」
アレクサンドラ「ところが、アレらは違う」
アレクサンドラ「まだまだ完璧とは言い難いが、明らかに『魔法を使えずとも扱えること』を意識した作りになっている」
アレクサンドラ「魔導師としては敗北宣言なのだろうが……別の分野で育てば、歴史に名を残すことになるかもしれんぞ」

最後のアレクサンドラの台詞は、何も知らずに打ち合わせをしているエディの顔を描いたコマに添える。

《page 16》
◯自由都市オリエンス 商業区画
エディ達5人が商業区画で買い物をしている。探索に向けた必要物資の調達。

ライアン「必要なものがあったら、今のうちに買い込んでおいてくれ」
ライアン「未開領域にはマトモな店なんかないし、街の方とも連絡は取れなくなるからな」

フェリシア「お金のことは気にしなくていいからね」
フェリシア「ライアンの財布から出すから」

ライアン「パーティーの予算からな!」

パトリック「欲しいものがあれば遠慮なく相談してください」
パトリック「冒険のスタイルによって必要なものは変わってきますから」

ステラ「はーい!」

エディも商業区画をきょろきょろと見渡す。
ふと目に入った看板に「ガラクタ屋」の店名が。

《page 17》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ
何気なくその店に入るエディ。内部はガラクタだらけで商店のようには思えない。
店主も商売にやる気があるようには感じられず、エディに視線すら向けてこなかった。

店主「いらっしゃい」
エディ「あの、ここは何を売ってるんですか?」
店主「見ての通りガラクタだよ。こう見えて需要があるんでね」
店主「ぶっ壊れた鎧を修理用の部品取りにしたり、金属だけ集めて溶かして使いまわしたりな」
エディ「なるほど……あっ、これ炸裂弾の容器に使えるかも」

エディは興味を惹かれて商品を漁っていたが、不意に手を止めて目を丸くした。

エディ「こ、これは……!」

《page 18》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)
ライアンがエディを探してガラクタ屋に入ってくる。

ライアン「おーい、何探して……うわっ! 何だここ!?」
エディ「ライアンさん。これ買ってもらえませんか?」
エディ「代金は僕の分の取り分から天引きってことにしてください」
ライアン「別にいいけど、そんなにいいのがあったのか?」

エディが差し出したのは手の平サイズの水晶玉。二つにパックリと割れている。

ライアン「水晶玉?」
エディ「はい。魔導師が占いや遠見の魔法を使うときの媒体だと思います」

《page 19》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)

ライアン「直して使うのか」
エディ「無理ですね」

エディ(遠見も修復も基礎は習ってるけど、使い物になるかっていうと……)

エディ「それにこれ、かなり使い込まれてるみたいです」
エディ「ほら、断面に魔力的な劣化の痕跡が。割れたのも劣化が進んだからでしょうね」
エディ「魔法で形だけ取り繕っても元通りには機能しませんよ」

ライアン「ほらって言われても、さっぱり分からん」
ライアン「ていうかよく知ってるな、そんなこと」

エディ「多分、遠見の魔法を使っても映像を出せなくなって、声しか聞こえなくなったから手放したんだと思います」
エディ「魔法で精製した人工水晶だから、宝石としての価値も低いですし」

《page 20》
◯自由都市オリエンス ジャンクショップ(前ページから継続)

店長「詳しいな、坊主。そいつを持ち込んだ客もそう言ってたよ」
店長「で、買うのかい? 今すぐ買うなら安くしとくぜ。売れ残りだからな」

ライアン「使い道があるなら、パーティーの予算で買ってもいいけど」
ライアン「話を聞いた限りだと、使い物にならないようにしか思えないぞ」

エディ「魔法の水晶玉としては完全に再起不能ですよ」
エディ「でも、使い道はあります。前から試したかったことがあるんです」
エディ「ひょっとしたら、今回の探索の役に立てるかもしれません」

◯自由都市オリエンス 冒険者向けの安宿 夜
同一ページ内で場面転換&時間経過。
買い出しを終えたエディが見るからに安価な宿の個室に戻ってくる。
そして背負っていた荷物を床に下ろしてから、魔法で小さな光の球を空中に作り、その光を照明代わりにして鞄を漁る。

《page 21》
◯自由都市オリエンス 冒険者向けの安宿(前ページから継続)
鞄から取り出したのは、日中の買い出しで手に入れた水晶玉の残骸。
エディは魔力を帯びた指先で、水晶玉の残骸の断面を撫でるようにして、断面を平らに加工していく。

エディ(石の加工は土魔法の領分。精密な細工や宝石みたいなカッティングはできなくても、単純な形に削り出すだけなら僕にもできる)
エディ(設計は前々から考えてたとおりに。試験が近かったから一時中断してたけど、後は材料を集めて作るだけってところまでは練ってたんだ)

エディは心の声で呟きながら、水晶の加工作業を続けていく。

エディ(魔法の才能がなかったのは、入学してすぐに理解した)
エディ(ギリギリで卒業できたとしても、それじゃあ人の役になんか立てやしない)
エディ(だからずっと考えてきた。僕みたいな奴でも……それこそ一般人でも魔法の真似事ができるような魔導器を……!)
エディ(……まぁ、卒業どころか進級すら無理だったのは、さすがに想定外だったけど)

一つ目の加工が終わり、満足気に微笑むエディ。

エディ(よしっ! 一個目できた!)

仕上がったのは数センチ四方程度の水晶の薄い板。

《page 22》
◯自由都市オリエンス 橋の上 前ページから数日後
場面転換。ナレーションで数日後と明示。未開領域の側に渡る、大きな石造りの橋の上。
エディ達5人が探索の準備を整えて橋を渡っている。

エディ「未開領域の側にも街があるんですね」
パトリック「法律上の正式名称は存じませんが、冒険者の間では前衛地区と呼ばれています」
ライアン「最初は探索のスタート地点に過ぎなかったらしいんだけどな」
ライアン「人が集まりゃ商売も自然と始まって、気付いたら街がここまで広がってたらしい」

橋を渡り終えた辺りで、ステラがふとなにかに気がついて、街の一角に視線を向ける。

《page 23》
◯自由都市オリエンス 前衛地区
ステラの視線の先にあったのは、重傷を負った冒険者が魔法で治療を受けている光景だった。

ステラ「おっ、魔導師だ。治してもらえるなら、怪我しても安心かも」
フェリシア「アイツは運が良かっただけだよ。期待しちゃダメだからね」

フェリシアの忠告にピンと来ていないステラ。
エディがすかさず補足説明を加える。

エディ「魔導師は需要の割に全く数が足りてないんだ」
エディ「仕事熱心な人あちこち巡って一箇所に留まらないし、研究熱心な人は必要な分だけ稼いで後は研究室に籠りっぱなし」
エディ「多分あの治癒魔導師も、ここに常駐してるわけじゃないんだろうね」
ステラ「なるほどぉ」

パトリック「私もいわゆる神聖魔法の心得はありますが、魔導師を名乗れるほどの熟練度ではありませんし、治療については応急処置が精一杯です」
パトリック「お二人共、なるべく怪我をしないように注意してください」
ステラ「はーい」

《page 24》
◯自由都市オリエンス 前衛地区 川辺の船着き場
そんな会話を交わしているうちに、最初の目的地に到着する。
人類領域と未開領域を隔てる大河のほとり、そこに設けられた船着き場。
エディ達を待っていたのは、軽薄な雰囲気の若い魔導師。

魔導師「よぉ、来たか。時間通りだな」
魔導師「結構結構。時間にルーズな奴はロクな死に方しねぇよ」
フェリシア「自分は二日もサボってたくせに。おかげでこっちの予定が延び延びだっての」

フェリシアの文句は小声だったので、魔術師本人には届いていない。
この魔導師の役割について、ライアンが再確認という体裁でエディ(と読者)に説明する。

ライアン「昨日も説明した通り、目的地の遺跡の近くまでは船で移動する」
ライアン「目的地がハッキリしてるなら、貴重な水と食料を消費しながら歩くより、ずっと安く済むからな」

魔導師「いいか、そこの新人共。船の上では俺が絶対だ」
魔導師「指示に従わないなら、容赦なく川に叩き落とすぞ」
魔導師「分かったなら、さっさと乗れ。この後も予約が入ってんだ」

そう言って指し示されたのは、ただの木製ボート。
帆やエンジンどころかオールすらなく、係留された状態でプカプカと浮かんでいるだけ。
ステラはさすがに困惑を隠しきれていないが、エディはすんなりと納得できた様子。

《page 25》
◯自由都市オリエンス 前衛地区 川辺の船着き場(前ページから継続)
全員が乗り込んだところで、魔導師が魔法を発動させる。

魔導師「よし、全員乗ったな! 振り落とされるなよ!」

ボートの下で川の水が不自然に動き、シャチかイルカのような水の塊が形成される。
エディ達を乗せたボートは、その水の塊の背中にくっつくように一体化。
川の流れに逆らって、猛スピードで上流に向かっていく。

ステラ「わわっ! なにこれ! 凄―い!」
魔導師「お前ら運が良かったな! 俺みたいな一流魔導師が当番の日で!」
エディ達4人(自分で言うのか……)
ステラ「自分で言っちゃうんですね」

ステラだけツッコミが心の声になっていない。

《page 26》
◯オリエンス河 ボート上
ノンストップで川を遡り続けるボート。
その間、エディは魔法の仕組みの方に関心を惹かれ、押し黙ったまま分析している。

エディ(自画自賛はともかく、腕前は間違いなく一流だ)
エディ(魔法で元素に動物の形状を与えられるのは、それだけで一流の証)
エディ(僕なんか、得意属性の土魔法ですらマトモな形が作れないっていうのに……)
エディ(水属性が中心なのは間違いないとして……この速力、風属性との複合?)
エディ(いや、ひょっとしたら水の単属性で、水棲生物を模した形状がスピードを生んでいるのかも……)

魔導師「そろそろ飛ぶぞ! しっかり掴まっとけよ!」
エディ「……えっ?」

イルカの形をした水の塊が、勢いよく斜め上方に飛び上がって宙を舞う。

エディ「うわああああっ!?」
ステラ「ヒャッハー!」

森林地帯の上を、弧を描いて飛び越えていく水の塊&ボート。

《page 27》
◯未開領域 名もなき遺跡近辺 岩山の上
森林地帯から突き出した岩山の頂上付近に落下する水の塊。
着地の瞬間に勢いよく弾けて、落下の衝撃を相殺。ボートは無事に軟着陸する。

エディ「い、生きてる……?」
フェリシア「何度やっても慣れないわ、これ……」

元気なのは魔導師本人とステラだけで、他の面々はぐったり。

魔導師「んじゃ、予定通りボートは川辺に置いとくから。帰りは自力で川下りでもしてくれ」
魔導師「俺は次の予定が待ってるんでね」

魔術師が魔法で大量の水を出し、その流れを使ってボートに乗ったまま岩山を滑り降りていく。

《page 28》
◯未開領域 名もなき遺跡近辺 岩山の上
いよいよ遺跡探索開始。まずはライアンによる遺跡周辺の状況説明から。
必要に応じて、イメージ図や遺跡の断面図・見取り図などを添える。

ライアン「さて……探索対象の遺跡はこの岩山の中にある」
ライアン「というか、岩山に見えるのは表面だけで、内側はほとんど大昔の建造物だな」
ライアン「岩山をくり抜いて建物を作ったのか、建物の周りに岩盤を貼り付けて偽装したのかは知らないけど、経年劣化であちこち崩落しているみたいなんだ」
ライアン「俺達が追いかけていた魔物が、その亀裂の一つから足を滑らせて落っこちた……っていうのが遺跡を発見した経緯だ」

全員で大穴を囲んで見下ろしているコマで締めて次のページに移行。

《page 29》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部
縄ばしごを使って遺跡の中に降りていく5人。
天井はかなり高く、建物3~4階分の吹き抜けほどの高度がある。
プロの冒険者3人は慣れたものだが、エディはおっかなびっくりで苦戦する。

エディ(降下用の魔導器も作ればよかった……!)

着地して移動しようとした矢先、何か固くて乾いたものを踏んだ音がする。
隣り合って歩いていたエディとステラが下を向くと、そこには放置された白骨死体が。
声にならない悲鳴を上げるエディとステラ。
先程の水上移動中には平然としていたステラも、今回は思いっきり驚いてエディにしがみつく(エディも取り乱しているため、密着されたことを全く意識できない)

パトリック「おっと、足元に気をつけてください。転落死した方の亡骸がありますので」
エディ「降りる前に言ってもらえませんか!?」

《page 30》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
気を取り直して移動再開。高い天井の亀裂から、まばらに光が注ぎ込んでいる。
このページは台詞多め。

フェリシア「ねぇ、エドっち。念のための確認なんだけど」
エディ「……エドっちって、僕ですか?」
フェリシア「うちらが最初の探索で見つけた古代魔法文字、エドっちに翻訳してもらったでしょ?」
フェリシア「あの翻訳、自信ある?」

エディ「ありますよ。簡単な文章でしたから」
エディ「第二開閉装置。書いてあったのはそれだけです」
エディ「魔法文字といっても、当時の人にとっては日常生活でも使ってた文字ですし、特別なことが書いてあるとは限りませんよ」

パトリック「しかし、値千金の情報です。第二があるならば、第一もあるのが道理」
パトリック「恐らくは、最低でも二つの装置を順番に……もしくは同時に動かすことで扉が開く仕組みだと推測できます」

ライアン「一つの扉に二つの装置。三つ目があるっていうパターンは、一旦脇に置いとくとして」
ライアン「セキュリティを高めたかったのか知らないけど、片方は扉から離れた場所に設置されていた」
ライアン「俺が建築家なら、もう片方は扉を挟んで左右対称に……」

ライアンが人間用の扉(探索の目的の大きな扉とは別物)を押し開ける。

《page 31》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
扉の向こうには、page 11で回想として描写した開閉装置と同じものが鎮座している。
予想が当たって満足気に微笑むライアン。

ライアン「どうだ、エドワード」
エディ「大当たりです。第一開閉装置って書いてありますね」
ライアン「よし! さっそく手分けして動かそう!」
ライアン「フェリシアはステラとここに。パトリックはエドワードと第二開閉装置の方を頼む」
ライアン「俺は中央の扉の前で待機しておく。ヤバいことが起こったら、そのときは任せてくれ」

ライアンが指示を出している間に、エディは鞄から手作りの魔導器を取り出し、フェリシアに手渡す。
現実の物品で喩えるなら、昭和末期の肩掛け式携帯電話をシンプルにしたような外見。
小さなリュックサック並のサイズだが携行可能な本体と、トランシーバーのような受話器がセットになった構造。

フェリシア「おおおっ! マジで完成したんだ!」

エディ「通信器です。ぶっつけ本番になってすみません。テストが終わったのが昨日だったもので」
エディ「使い方はステラに聞いてください。簡単なマニュアルを渡してありますから」

《page 32》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
エディが発明した通信器の構造を、簡単な図も添えて解説。

フェリシア「これどういう仕組み? 魔法だよね?」

エディ「基本は遠見の魔法で遠隔通信するのと同じですね」
エディ「こっちの小さい方の装置に、水晶玉から切り出した水晶板を仕込んで、そこから音を出したり取り込んだりする構造です」
エディ「ただ、術式を魔法陣とか魔法文字とか魔法素材の組み合わせで再現したり、必要な魔力を魔石なり何なりの形で内蔵させるのが大変で」
エディ「映像の送受信はスパッと諦めて、音声だけに特化させたんですが、それでもこんな大きさになっちゃいました」

ライアン「いやいや、充分に凄い発明だろ! 冒険が根本的に変わるぞ!」
パトリック「先程の御遺体も、こんな道具があれば救助を呼べたかもしれません」
フェリシア「可能性しか感じないって! マジで!」

徹底的にべた褒めされて照れるエディ。
ステラはそんなエディの横顔を見て、まるで自分のことのように嬉しがっている。

《page 33》
◯未開領域 名もなき遺跡 内部(前ページから継続)
さっき発表した分担の通り、パーティーを3つに分けて扉の開閉を試みる。

ライアン「よし、全員配置に付け!」

エディとステラはそれぞれ別の開閉装置に割り当てられ、普通なら声も届かないくらい離れている。
しかし今回は通信器のお陰で、リアルタイムで会話を交わしながら同時操作のタイミングを合わせることができた。
エディとステラが通信器越しにタイミングを合わせ、パトリックとフェリシアがそれぞれの開閉装置を操作する。

エディ&ステラ「3! 2! 1! ゼロ!」

《page 34》
◯未開領域 名もなき遺跡 探索目的の巨大な扉の前
ライアンの目の前で、巨大な扉が重厚な音を立てて開いていく。
この時点ではまだ扉の向こうの光景は描写しない。
読者に提示するのはライアンが驚愕する顔だけ。

ライアン「こ、これは……!」
《page 01》
◯未開領域 名もなき遺跡 大きな扉の向こう
扉の向こうのホール的な大部屋の床に、大きな縦穴が開いている。
床が壊れたというわけではなく、設計通りに作られたちゃんとした穴で、壁沿いに石の螺旋階段が設けられている。

前話の最終ページではライアンだけが大穴を目撃していたが、このページは別行動していた全員が駆けつけたところからスタート。

エディ「ライアンさん! 何なんですか、これ!」
ライアン「俺も何がなんだか。扉が開いたと思ったらこんな有様だ」

《page 02》
五人揃って大穴を見下ろす。
天井の亀裂から注ぐ光のお陰で、穴の周囲はそこそこ明るいが、穴の中は完全な真っ暗闇。

ライアン「あそこまで厳重に守られてたんだ。絶対に無意味な穴じゃないと思うんだが……」
エディ「暗すぎて底が全く見えない……」
パトリック「階段がある以上、人間が降りることを前提としていたのは間違いないでしょう」
ステラ「それじゃあ降りてみる?」
フェリシア「ちょい待ち! まずは息ができるか確かめてから!」
フェリシア「とりあえず、これ燃やして落としてみよう。誰か火種貸して」

フェリシアが布切れを筒状に丸めた小さなモノを取り出す。

《page 03》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴の前
エディがとっさに、火属性の魔法で指先程度の小さな火を出して、布切れに着火する。

エディ「どうぞ」
フェリシア「ありがと……って、やっぱりエドっち、魔導師なんじゃ?」
エディ「は、ははは、まさかそんな」

乾いた声で笑ってごまかすエディ。
フェリシアは深く追求しようとせず、着火した布切れの塊を穴に放り投げようとする。

フェリシア「投げたら一旦外に出るよ。爆発とかしたら大変だから」
エディ「可燃ガスですね」
フェリシア「そうそう、それそれ、んじゃ、投げるよ」

フェリシアが火を投げ入れたのと同時に、ひとまず全員部屋の外に出る。

《page 04》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴がある大部屋の外
そのまましばらく様子を伺うが、爆発する様子は全くない。
再び穴の近くに戻って覗き込んでみると、深い穴の底に小さな光が見える。

フェリシア「少なくとも呼吸はできそうだね。水没してるってこともなさそう」
ライアン「よし、降りてみるか」
パトリック「私は上に残ります。一網打尽になることだけは避けなければ」
ライアン「頼んだ。何かあったらすぐに連絡する」
ライアン「普段は簡単に別行動とかできねぇけど、今回は心強い味方がいるからな」

肩から下げた通信器を強調するライアン。

◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段
場面転換のワンクッションの演出。螺旋階段を降りていることが分かる背景の描写。

《page 05》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
螺旋階段を降りていくエディ達四人。
全員が懐中電灯のような携行型の照明を持っていて、それで足元や進行方向を照らしている。

フェリシア「通信器も凄かったけど、こいつも凄いね! 松明よりずっと便利だわ!」
ライアン「これもエドワードの発明か?」
エディ「発明っていうほど凝ったものじゃないですよ」
エディ「魔導師がランプの代わりに使う照明器具を、ちょっと改造して手持ち式にしただけです」
エディ「いちいち照明魔法を使うのも面倒くさいっていう人が、魔力を通したら発光する石を照明に使って……る、と聞きまして」
フェリシア(嘘吐くの下手だなぁ、この子)

《page 06》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
何もない螺旋階段を降りていく間の暇つぶしも兼ねて、エディが発明品についての説明をし続ける。

エディ「魔導師が使うときは数時間分の魔力を一気に注ぐんですけど、普通の人間はそんなことできませんからね」
エディ「エネルギー源として魔石なんかを詰めて、スイッチ操作でオンオフとか出力とかを切り替えられるように……って、どうかした?」

エディの前を歩いていたステラが、振り返って慈しむような眼差しを向けている。

ステラ「エディって、発明のこと話してるとき、凄く楽しそうだよね」
エディ「そ、そうか?」

エディ本人は自覚がなかったので、困惑や気恥ずかしさが入り混じった反応しかできない。

ステラ「確か、この前『稼げるだけ稼ぎたい』って言ってたよね」
ステラ「こんなに凄いの作れちゃうんだし、冒険者より発明家やってる方がお金持ちになれたりして」

ステラは雑談として冗談っぽく言っただけだったが、エディは真剣な面持ちで目を剥いた。

《page 07》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)

エディ(魔導器を売って稼ぐ……そんなの考えたこともなかった)
エディ(ていうか、どうして今の今まで思いつかなかったんだ)
エディ(魔法と比べれば完成度が低くても、必要としている人がいれば買ってもらえる)
エディ(冒険者が欲しがる魔導器を作って売れば、学費を稼ぎながら誰かの助けになれる)
エディ(これだ! きっと、これが一番いいやり方だ!)

エディがそんなことを考えている間に、一行は螺旋階段を降りきって縦穴の底に到着する。

エディ(……っと、今は探索に集中しないと。請け負った仕事を投げ出すわけには……)

懐中電灯ならぬ懐中魔力灯を、足元から正面に振り向ける。

《page 08》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底
四人が魔力灯を向けた先にあったのは、縦穴から続く横穴のトンネル。
そして、そのトンネルには大量の骸骨がひしめき合っていた。
二足歩行の骸骨に、トカゲかドラゴンを思わせる頭蓋骨が乗っかった存在の群れが、まるで生きているかのように四人の方へ振り返る。
唖然とする四人。数秒の沈黙の後、一斉に驚きの声を上げる。

四人「うわああああっ!」
トカゲ頭の骸骨「キシャアアアッ!」

《page 09》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと骨を鳴らして襲いかかる、トカゲ頭の骸骨の群れ。
その先人をライアンが一太刀でまとめて斬り伏せる。

ライアン「スケルトン!? いや、何だこの頭!」

フェリシアが放った矢が後方のスケルトンの頭蓋骨を射抜く。

フェリシア「ああもう! うちらの武器じゃ相性最悪だし!」

剣でバラバラにされたスケルトンは自動的に組み直されて復活。
頭蓋骨を射抜かれたスケルトンはそもそも全く堪えていない。
二人の後方で守られたエディとステラの足元に、剣で弾かれたトカゲ頭の頭蓋骨が転がってくる。

エディ「うわっ!」

《page 10》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと歯を鳴らして動く頭蓋骨に慄くエディとステラ。

フェリシア「踏み砕いて! もしくは蹴っ飛ばして!」
ステラ「えっ、えいっ!」

ステラは何度か頭蓋骨を踏みつけるが、体重が足りないのか砕けるには至らない。
続いて思いっきり蹴っ飛ばすも、飛んでいった頭蓋骨を首無しのスケルトンがキャッチして、首の上に据えて行動を再開する。

エディ(砕けってことは、骨そのものを粉砕すれば倒せるのか?)
エディ(それなら炸裂弾で……)

エディは腰の鞄に手を伸ばそうとしたが、直前で思いとどまる。

エディ(いやいや! こんな狭い場所で使ったら、皆まとめて自爆するだけだ!)

そのとき、ステラが持ち運んでいた通信器に着信が入り、パトリックの声が響く。

パトリック(通信)『今の悲鳴は!? 何があったんですか!』

《page 11》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
すかさずステラが通信器越しに現状を報告する。

ステラ「ス、スケルトンがたくさんいます! 弓も剣も効かないし、どうしたら!」
パトリック『スケルトン! でしたら、強い光が弱点かもしれません!』
パトリック『私もすぐに向かいます! 持ちこたえてください!』
ステラ「強い光……そうだ! これなら! 最大出力で!」

ステラが携行型の魔力灯をスケルトンに向け、それを見たエディも同じようにする。
唸り声を上げて怯むスケルトンの群れ。しかし倒すには至らない。

フェリシア「効いてる! けど……」
ライアン「威力不足って感じだな。もっと強い光あれば……」

もっと強い光と聞いて、エディがハッと何かを思い出す。

《page 12》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
急いで鞄から筒状の魔導器を取り出すエディ。
炸裂弾よりも魔力灯の方と似ている。

エディ「僕がやります! 合図をしたら目を瞑ってください!」
ライアン「任せた!」
フェリシア「ライアン! 一旦距離取って!」

手近なスケルトンを斬り伏せてから、後ろに飛び退くライアン。

エディ「投げます! 目を閉じて!」

すかさず、エディは円筒形の魔導器を投擲する。

《page 13》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
魔導器から放たれた凄まじい光が周囲一体を飲み込む。
目を瞑り、腕を盾にして眩しさに耐えるパーティーメンバー。
強烈な光を浴び、断末魔の悲鳴を上げて崩壊していくスケルトン。

《page 14》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
光が消えた頃には、行く手を阻んでいたスケルトンの群れが全滅していた。
身構えたままホッと息をつくライアンとフェリシア。
ステラは大袈裟なくらいに喜んで、エディに後ろから飛びついた。

ステラ「や……やったぁ!」
エディ「うわっ! ちょ、ちょっと……!」

そこにパトリックも階段を駆け下りてきて、戦いが終わったことを把握して安堵する。

パトリック「皆さん! 今の光は!」
パトリック「……なるほど、エドワード君がやってくれたようですね」

《page 15》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)

フェリシア「凄いじゃん、エドっち! 今のも発明品?」
エディ「携行型魔力灯の失敗作ですよ」
エディ「光量調節回路に欠陥があって、全魔力をまとめて光に変えちゃうんです」
エディ「宿に置いてきたつもりだったんですけど、うっかり鞄に入れてたみたいで」
エディ「……まさかこんな使い方ができるとか、夢にも思ってませんでしたよ」

真面目な説明をしている間も、ステラはエディの背中にくっついたままで、エディも露骨に背中とステラを気にしている。

ライアン「ははっ! ツイてるな、お前!」
ライアン「よし! この調子で奥まで行くぞ!」

《page 16》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下通路
明かり一つない真っ暗な地下通路を、魔力灯で照らしながら進んでいく。
やがて先頭を行くライアンが立ち止まり、魔力灯を左右に動かして周囲の様子を確認する。

ライアン「ここから先は……通路じゃないな。ホールみたいに広くなってるのか?」

全員で通路の先の地下ホールに明かりを向ける。
すると、地下ホールの奥に巨大な影が鎮座しているのが見えた。

《page 17》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール
影の正体はミイラ化したドラゴンの亡骸。
暗闇の中、五人分の魔力灯の光に照らしあげられている。
ライアンとパトリックとフェリシアの三人は、大発見を前にして喜色満面。

ライアン「す、すげぇ! とんでもないもん見つけちまった!」
パトリック「ミイラ化したドラゴン! しかもこんなに状態が良いとは!」
フェリシア「これギルドに報告したら、大幅加点間違いなしでしょ! 全員ランクアップもあるって!」

《page 18》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
三人が喜びに湧く一方で、エディは知的好奇心に突き動かされ、夢中になってドラゴンの亡骸を観察していた。

エディ(ドラゴンの死体なんて、学院の骨格標本しか見たことない!)
エディ(全長はどれくらいだ? 十メートル? 十五メートル? 丸まってるから分かりにくい!)
エディ(さっきのスケルトンがトカゲ頭だったのも、ひょっとしてこのドラゴンと関係が?)
エディ(ていうか、どうしてこんな地下深くにドラゴンの死体が……あれ?)

エディはドラゴンの亡骸の違和感に気が付き、その箇所を間近から覗き込んだ。

《page 19》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ドラゴンの亡骸は、部分的に機械と置き換えられていた。
現代的な機械ではなく、エディの魔導器と同じような系統のデザイン。
いわばファンタジー風サイボーグドラゴン。

エディ(信じられない! 体の一部が、魔導器に置き換えられてる!)
エディ(古代魔法文明はこんなこともできたんだ!)

興奮にぞくぞくと打ち震えるエディ。

エディ(……いや、別に同じことをやりたいわけじゃない……ないんだけど……)
エディ(魔導器が秘めている可能性は、僕が思っていたよりもずっと大きい!)
エディ(だってそうだろ! 生き物とくっつけることすらできたんだから!)
エディ(それなら僕だって……!)

ちょうどそのタイミングで、エディの内心など知る由もないフェリシアが、何気ない一言をぽつりと漏らす。

フェリシア「あれ? ステラ? どこ行った?」

それを聞いて、エディはハッとして思索を打ち切り、周囲を見渡した。

《page 20》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラは他の仲間達から離れ、ドラゴンの亡骸に背を向けて、壁を魔力灯で照らしていた。
安堵して駆け寄るエディ。しかしステラはエディに目もくれず、彫刻が施された壁を見上げている。
エディもつられて壁を見上げる。
そこに施された彫刻は、まるで空に浮かぶ島々と、そこに向かって飛翔するドラゴンの群れを描いているように見えた。

《page 21》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラはなにかに魅入られたかのように、じっと彫刻を見上げている。
エディは彫刻に対しても、ステラの雰囲気に対しても困惑気味。

エディ「何だろう、これ……彫刻の様式は、古代魔法文明と同じみたいだけど……」
ステラ「……お父様が言ってたとおりだ」
エディ「えっ?」
ステラ「古代魔法文明の空中都市……お父様は、間違ってなかった……!」

壁の彫刻に再度フォーカスしたコマでシーン終了、場面転換。
ステラの様子がおかしくなった原因の説明は一旦お預け。

《page 22》
◯冒険者ギルド本部前など
ギルド本部の外観を大コマで描き、場面転換したことを分かりやすく提示。
そのコマにエディのモノローグを添えて、諸々の状況説明をする。

エディ(モノローグ)
「あの後、僕達はドラゴンのミイラを遺跡の底に残したまま、すぐにオリエンスの街に帰還した」
「さすがに持ち帰るのは無理だったし、下手に調べようとしたら却って台無しにしてしまうかもしれない」
「これ以上の調査は冒険者ギルドに任せようというになったのだ」

普段と変わらない様子のステラの描写を一コマ挿入。

エディ(モノローグ)
「ステラの様子がおかしかったのは、例の石板の前にいる間だけだった」
「遺跡を離れた頃にはすっかり元の調子に戻っていて、大発見の興奮を皆と熱く語り合っていた」

調査に取り掛かる専門家達(冒険者)のイメージ映像。

エディ(モノローグ)
「ギルドの対応はとても早かった」
「すぐさま専門チームを編成し、遺跡とドラゴンのミイラの調査を開始」
「そして僕達は――」

《page 23》
◯冒険者ギルド本部
1~2話に登場した大柄の冒険者のイグナシオが、エディ達5人に探索結果の評価を伝える。

イグナシオ「Cランク冒険者、ライアン・ハートフィールド」
イグナシオ「Dランク冒険者、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「Eランク冒険者、エドワード・オグデン、ステラ・アルヴァ」
イグナシオ「君達の活躍はギルドの上層部にも伝わっている」
イグナシオ「これまで見落とされていた遺跡の発見。不可思議な改造が施されたドラゴンの死体の発見。学術的な価値の高い壁画の発見」
イグナシオ「本格的な調査はまだ始まったばかりだが、いずれも『発見した』という事実だけで、高く評価されるべき実績だ」
イグナシオ「よって――」

《page 24》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

イグナシオ「ライアン・ハートフィールド、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「以上三名をワンランクの昇格とする」

声を上げずに、それぞれの性格に合った表情で喜びを露わにする三人。

イグナシオ「残る二名は、依頼達成回数が不足しているため、残念ながら今すぐ昇格というわけにはいかない」
エディ(う、やっぱりそうなるか。ほんと昇級とか昇格に縁がないよなぁ)
イグナシオ「だがその代わりに、ギルドマスター代理が特別な配慮をしてくださるそうだ」

そこにスッと現れる何者かの影。
読者視点ではアレクサンドラだと察せられる程度の描写。

《page 25》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラはエディ達の働きぶりに満足している様子。
堂々とした態度に満足げな表情。

アレクサンドラ「ギルドマスター代理、アレクサンドラだ」
アレクサンドラ「既に一度、君達とは顔を合わせているな」

キョトンとするエディとステラ。
一拍の間を置いて、第2話で二人にライアンを紹介した謎の女性が、アレクサンドラと同一人物であることに気が付き、二人揃って驚きの声を上げる。

エディ&ステラ「あああっ! あのときの!」

アレクサンドラ「君達が冒険者になった理由は把握している」
アレクサンドラ「だからこそハートフィールドのパーティーを紹介したのだが、まさに期待以上の成果を上げてくれたな」
アレクサンドラ「ランクアップを報奨にできない代わりに、微力ながら君達の目的を支援させてもらおう」

エディ&ステラ「!?」

《page 26》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

アレクサンドラ「まずは、ステラ・アルヴァ。君には例の遺跡の研究チームに加わってもらう」
アレクサンドラ「ドラゴンの分析ではなく、遺跡自体の調査を担当するパーティーだ」

ステラ「あ……ありがとうございます!」
アレクサンドラ「無論、最初はEランク相当の役目しか任されないだろう。後は君の働き次第だ」
ステラ「分かってます! 頑張ります!」

やる気充分に燃え上がるステラ。
エディの脳裏に、壁画の前で真剣な面持ちになったステラの横顔が蘇る。
あれは今のステラと比べて、あまりにもギャップがある姿だった。

《page 27》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

エディ(遺跡……壁画……お父様……)
エディ(ステラが冒険者になった理由、僕とは全然違うんだろうな……)
エディ(金のためじゃなくて、きっと何か知りたかったことがあったんだ……)

アレクサンドラ「続いて、エドワード・オグデン」
エディ「は、はい!」

アレクサンドラ「君はステラ・アルヴァとは違い、冒険者になる必要があったのではない」
アレクサンドラ「目的を達成する手段はいくつもあったが、その中でも冒険者が最も効率がよかったというだけのこと」
アレクサンドラ「目的さえ果たせるのであれば、冒険者らしい仕事に拘る動機はない。そうだな?」

エディ(この人……本当に僕の目的を知ってるんだ……)
エディ(冒険者ギルドの情報収集能力、本当にとんでもないんだな……)

《page 28》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
ページの前半に、不敵な顔で凄いことを言い切るアレクサンドラを。
ページの後半に、驚きの余り絶句するエディを。
それぞれ大コマで描写して強いインパクトを出す。

アレクサンドラ「ならば、今日限りで冒険者を辞めたまえ」

エディ「え゛っ」

《page 29》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

アレクサンドラ「代わりに君をギルド職員としてスカウトしたい」
アレクサンドラ「低ランクの冒険者と比べれば格段に稼げることは保証しよう」
アレクサンドラ「君の才能は最前線で活かせるものではない」
アレクサンドラ「『技術者』あるいは『研究者』として活躍するべきだ」
エディ「……僕の、才能……」

脳裏に魔導学院時代の思い出が蘇る。
座学以外では失敗ばかりで、昇級を賭けた実技試験は見るも無惨な大失敗。
教師から『魔導師の才能がない』と言われることすらあった。

エディ「僕にも、才能が……」

手のひらを見つめ、ギュッと握り込むエディ。

《page 30》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
エディは意を決して顔を上げ、アレクサンドラに力強く返答する。

エディ「やります! やらせてください!」
アレクサンドラ「そう言ってくれると信じていた」
アレクサンドラ「多彩な知識と魔導器造りの才能、ギルド職員として余すところなく活かしてくれ」
アレクサンドラ「さっそくだが……ステラ・アルヴァ」
ステラ「ひゃいっ!?」

ステラは急に話を振られて驚き、上ずった変な声を出してしまう。

アレクサンドラ「君が偽冒険者に襲われたところを、エドワードが自作の魔導器で助け出した」
アレクサンドラ「それが君達の関係の始まりだと聞いている。間違いないか?」
ステラ「え、えっと、初めて会ったのはそのちょっと前で……」
ステラ「でも、仲良くなったキッカケ、っていう意味なら、はい」

《page 31》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

アレクサンドラ「結構。では、その偽冒険者はギルドカードを持っていたか?」
ステラ「それはよく覚えてます! 持ってました!」
エディ「え、そうなのか?」
ステラ「そうだよ! 持ってなかったら騙されてないってば!」

ぷんすかと擬音が出そうな顔で怒るステラ。
ギルドカードも持っていない自称冒険者に騙された、と思われたのが不服な様子。

エディ「でも、偽冒険者って」
アレクサンドラ「偽造品だ。奴らは偽造されたギルドカードを所持していた」
アレクサンドラ「完璧には程遠いが、良く見なければ騙せる程度の、な」

心の底から驚くエディとステラ、そしてライアン達。

《page 32》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
数ページほど静かにしていたライアン達も、ギルドカードの偽造という衝撃的な発言に、たまらず首を突っ込んでくる。

ライアン「ちょ、ちょっと待ってください! ギルドカードの偽造はできないんじゃ!」
アレクサンドラ「技術的には困難だが、原理的に不可能というわけではない」
アレクサンドラ「ギルドカードの偽造を困難にしている要因は、素材の金属板の各所に用いられた特殊な技巧の彫り込みだ」

アレクサンドラが自分のカードを取り出してみせる。
AAAランクが刻印された、エディ達の低ランクカードよりも精緻な彫刻が施された金属製カード。

アレクサンドラ「しかし、この技法も発明から既に三十年」
アレクサンドラ「贋作者達の技術が追いついたとしても不思議はない」
パトリック「それはかなり拙いのでは……!」
アレクサンドラ「ああ、由々しき事態だとも。冒険者ギルドにとって、最も重要な財産は信頼だ」
アレクサンドラ「偽冒険者の跋扈を許せば、世間からの信頼が大いに損なわれてしまう」

《page 33》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

フェリシア「あのー……これ、うちらが聞いていい話なんです?」
アレクサンドラ「一流たるBランク冒険者が率いるパーティーならば問題あるまい」
アレクサンドラ「無論、守秘義務は厳守してもらうがな」
フェリシア「うわぁ、怖……漏らしたら次の日に死体で見つかる奴だ……」

改めてエディに向き直るアレクサンドラ。

アレクサンドラ「贋作者の捜索を初めとして、我々も様々な対応を進めてはいる」
アレクサンドラ「しかし抜本的な解決策を講じなければ、また別の輩が問題を再燃させるに違いない」
アレクサンドラ「そこでだ。エドワード・オグデン。君に初仕事を与える」

嫌な予感を覚え、顔をひきつらせるエディ。

《page 34》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)

アレクサンドラ「偽造困難な次世代型のギルドカード。君にはこれを開発してもらいたい」
エディ(やっぱりそうなるか――!)

アレクサンドラが信頼と共に押し付けてきた初仕事。
エディはさっそくプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
《page 01》
◯冒険者ギルド職員寮
エディは冒険者ギルドの職員寮に引っ越すことになった。
荷物が入った箱を抱えて寮に到着したところからシーンスタート。
建物の外見は近世くらいのヨーロッパの集合住宅のイメージ。

エディ(モノローグ)
「アレクサンドラさんの誘いを受けて、僕はギルド職員として働くことになった」
「魔導学院の落第生から低ランク冒険者、そしてギルド職員」
「我ながらコロコロと立場が変わり過ぎていて、自分でもなかなか頭がついてこない」

三~四階建ての建物の階段を上りながらモノローグを続ける。

エディ(モノローグ)
「だけど、前に進めていることだけは確かだ」
「安定した給料が貰えれば、休学中に学費を稼ぐという目的も達成しやすくなるし、それに――」

第3話page 29、アレクサンドラがエディの才能を認めたコマを回想として挿入。

《page 02》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室
部屋に入ったエディが驚きの声を上げる。
寮の個室は、第2話でエディが寝泊まりしていた部屋とは段違いに立派な部屋だった。
一人暮らしにはやや広く、一家族が暮らせそうな程度の広さがある。

エディ(いいのかな、こんなに広い部屋なんて)

荷物を床に置いて、軽く部屋を見て回ることにするエディ。

《page 03》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
前2ページから引き続き、台詞よりも建物内の描写に重点を置く。

エディ(てっきりワンルームかと思ってたけど、一人で使い切れるのかな、これ)
エディ(とりあえず、普段使わない部屋は物置と作業場にするとして)
エディ(魔導器弄りもしていいって言ってたし……)
エディ(うわっ! シャワーまである!)
エディ(学院の寮も風呂場は共用だったのに……とんでもないなぁ、冒険者ギルド)

台詞の内容に合わせて部屋を見て回った後で、エディはふと別のことに思い至る。

エディ(おっと、そうだ。隣の人には挨拶くらいしとかないと)
エディ(魔導器弄りの音で迷惑かけるかもしれないし)

《page 04》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前
このページも引き続き風景描写に重点を。次ページからはキャラの描写重視。
エディが隣室の扉をノックする。

隣室の住人「はいはい、今出ますよっと」

扉が開けられようとしたタイミングで、エディが気持ち早めの自己紹介をしようとする。

エディ「すみません。隣に越してきた者なんです……けど……」

《page 05》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)
扉を開けて出てきたのは、ノースリーブ姿の薄着の女性だった。
サバサバとした強気な性格だと簡単に見て取れる顔立ちだが、薄着な上に髪が長く、出るところが出ているため、男性だと見間違えることはない体型。

エディ「うわっ! すみません! 出直します!」

隣室の女性「逃げんな逃げんな。後回しにしたら面倒臭ぇだろ」
隣室の女性「噂はボスから聞いてるぞ。面白ぇ道具作ってるらしいじゃねぇか」

女性の方はエディに興味津々だが、エディは年上の女性が薄着でぐいぐい近付いてくるせいで、視線を彷徨わせるだけで精一杯になっている。

《page 06》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

エディ「あああ、あの! ここって男子寮じゃなかったんですか!?」
隣室の女性「そんな区別ねぇっての。平職員は男も女も全員ここだよ」
隣室の女性「ま、自分で家探すなら別だけどな」
エディ(学院は男女で分かれてたけど……冒険者ってそういうもの?)
エディ(ああ……男女混合パーティーで野宿とかするんだから、気にしないのが普通ってこと……なのかも?)

さすがにエディも落ち着いてきて、改めて隣室の女性に顔を向ける。
ただし無用心な薄着にはまだ慣れていない。

エディ「ええと、ギルド職員の方、なんですよね。どこの部署なんですか?」
隣室の女性「どこだと思う?」

質問を質問で返されて困惑するエディ。

エディ「……用心ぼ、警備員か何かで?」
隣室の女性「それ言い直した意味あったか?」

《page 07》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

隣室の女性「受付嬢だよ。ギルド本部のカウンターであれこれしてんだ」
エディ「えっ」
隣室の女性「さてはお前、似合わないだろって思ったな?」

図星を突かれて、エディはそっと視線を逸らす。

エディ「いや、その、僕が加入申請したときにはいなかったな、と」
隣室の女性「そりゃあ、あたしだって毎日働いてるわけじゃないからな」
隣室の女性「あんたに対応したのは、多分ミラベルあたりだろ」

第2話の受付嬢の顔を思い出すエディ。

エディ(同じ受付嬢でも全然違うな……)

《page 08》
◯冒険者ギルド職員寮 廊下 隣室の前(前ページから継続)

隣室の女性「そういや、まだ名前教えてなかったっけ」
隣室の女性「あたしはベアトリクス。お硬い名前で似合わねぇだろ?」
隣室の女性「だから普段はビィって呼ばせてる。あんたもそうしてくれよ」

◯冒険者ギルド本部 職員専用区域
場面転換。カウンター裏の職員専用エリアで、エディと受付嬢のミラベルが雑談している。
ミラベルも休憩時間なので、普段よりも気を緩めている。

ミラベル「へぇ、ビィとはもう会ってきたんだ。押しが強くって大変でしょ」
エディ「ホントですよ。薄着のまま平気で外に出てきましたし」
ミラベル「あはは! 薄着ならセーフでしょ。この前なんか、いっそ裸で暮らしたいとか言ってたしね」
エディ「勘弁してください」

《page 09》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)
場面はそのままで話題転換。エディの仕事内容が話題になる。

ミラベル「ところで、話は変わるんだけど」
ミラベル「エディ君の仕事って、新しいギルドカードの研究開発だけなんだっけ?」
エディ「え、ちょ、その話は……!」

慌てて周囲を見渡すエディだが、ソフィは平然と笑っている。

ミラベル「大丈夫だって。ここには職員しか入れないんだから」
ミラベル「新しいギルドカードを作るかも、って話は前々からあったしね」

エディは心配して損したと言わんばかりに溜息を吐く。

《page 10》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)
エディがギルド職員として請け負う仕事について、二人の会話を通じて簡潔に説明。
新ギルドカードの研究開発以外にも色々と仕事がある。

エディ「さすがにそれだけじゃないですよ」
エディ「ギルドカードの研究は、一年かけてじっくり進める大目標ですから」
エディ「他の部署から要請があったモノを作ったりとか、既にあるモノを修理したりとか、細々とした仕事も同時進行でやる予定です」

ミラベル「えっ、リクエストしていいの?」
ミラベル「それならさ、勝手にお湯沸かしてくれる機械とか作ってくれたら嬉しいな」
ミラベル「冬場とか温かい飲み物が欲しくなるけど、いちいち火に掛けてたらキリがないんだよね」

エディ「……直接言わずに、後でちゃんと申請書作ってくださいね」
ミラベル「むぅ、お硬い。受付とか事務とかも向いてるんじゃない?」

《page 11》
◯冒険者ギルド本部 職員専用区域(前ページから継続)

エディ「ビィさんからも同じこと言われましたよ」
エディ「ちなみにビィさんは、逆に飲み物を冷やす魔導器をリクエストしてました」
エディ「お酒は冷やして飲むのが一番だって言ってましたけど……仕事中は飲んでないですよね?」
ミラベル「ないない。多分」
エディ「多分!?」

エディは明らかにミラベルにからかわれている。
そんなとき、扉を挟んだメインホールの方で、何やら騒がしい気配が。

ミラベル「おっと、ソフィア調査隊のお帰りか」
ミラベル「色々持って帰ってそうだし、私も手伝いに行くとしますか」

《page 12》
◯冒険者ギルド本部 メインホール
ギルド本部の受付カウンターがあるメインホールに、普段よりも大勢の冒険者が扱っている。
その中でも最大の一団は、服も体も土埃や砂埃に汚れていて、さっき一仕事終えたばかりなのがよく分かった。
彼らのリーダーは白髪でダウナー系の若い女性。
エディが受付カウンターの裏に来た時点では、その女性は気怠げな態度で、受付嬢のビィと話し込んでいた。

白髪の女性「ま、初日としては上出来じゃな」
白髪の女性「金になりそうな発掘品はまだ見つかっとらんが、今はまだ下準備じゃ」
白髪の女性「急いては事を仕損ずる。千里の道も一歩から。大船に乗ったつもりで待っておれ」

エディ(モノローグ)
「AAランク冒険者、ソフィア・フォックス」
「僕達が見つけた遺跡の調査を担当する冒険者だ」
「今はステラも、この人の調査チームの一員として遺跡を調べている」
「……だから気になった、というわけではないけれど」
「この人の経歴や人柄について、他のギルド職員に聞いてみたことがある」

《page 13》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
引き続き、エディ視点からソフィアについて描写。
以後の話で、エディに探索用アイテムの開発を要請する依頼主になるので、ある程度強めに存在を印象付けておく。

エディ(モノローグ)
「そしたら、まぁ、何というか。思っていたのとは全然違う方向性で、耳を疑うような噂を教えられてしまった」
「曰く、ソフィア・フォックスはああ見えて百歳近い高齢なのだという」
「若く見える原因は色々と説がある、らしい」
「例えば、とある遺跡の調査中に、古代文明の秘宝を起動させてしまって若返ったとか」
「例えば、百年を生きた狐の魔獣が魔法で姿を変えているとか」
「……実際のところは、全く分からない。というか、そもそも年齢についての噂が本当だという証拠もない」
「常識的に考えたら、あの若さで多くの功績を挙げたことが原因で、根も葉もない噂話が広まってしまったんだろう」
「妙に古めかしい言葉遣いも、そんな風評の原因の一つかもしれない」

エディが受付嬢達の後ろでそんなことを考えていると、調査チームに加わっていたステラが、笑顔で駆け寄ってきた。

《page 14》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
カウンターの裏から外に出て、ステラを迎えるエディ。
ステラは服や髪の汚れを気にもとめず、遺跡探索の感想を嬉々として語る。

ステラ「ただいまー!」
エディ「おかえり。遺跡はどうだった?」
ステラ「ほんと凄かったよ! 壁画もあれだけじゃなかったし、ドラゴンの下に――」
ソフィア「待て待て。さすがに気が早いぞ」
ステラ「あ、隊長!」

さっきまで離れた場所にいたはずのソフィアが、いつの間にかすぐ近くに。
ステラは当たり前のように応対しているが、エディは思わず驚いてしまう。

《page 15》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)

ソフィア「他所に報告できるのは当分先だと言ったじゃろ」
ステラ「あはは、すみません」
ソフィア「やれやれ……さて、エドワードと言ったな」

急に話を振られて目を丸くするエディ。

ソフィア「お主のことは、ステラからもアレクサンドラからも聞いておるよ」
ソフィア「ただでさえ、冒険者ギルドに加わろうとする魔法使い(マジックユーザー)自体が希少なものじゃが、一般人向けの魔導器を研究しているとなると、妾も初めて見るレア物じゃな」

エディ(この人、口調が独特だな)
ステラ「あれ? 魔法が使える人、調査隊にも結構いましたよね? そんなに珍しいんですか?」

ソフィア「そういうのは、必要に迫られて必要な魔法だけを身に着けたに過ぎん」
ソフィア「魔法を体系的に学んだ後で、わざわざ冒険者になろうという物好きは滅多におらんよ」
ソフィア「普通に魔導師として稼いだ方がずっと儲かるからな」

エディもうんうんと頷く。

《page 16》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
エディはソフィアを間近で観察しながら、マニアックな心の声を早口で並べ立てる。

エディ(やっぱり、Aランク越えの冒険者ともなると、魔法についても詳しいんだな)
エディ(魔導師教育を受けていなくても、魔法をいくつか使える人はいる)
エディ(だけど、使える魔法の幅広さは魔導師の方がずっと上だ)
エディ(得意分野なら魔導師並かそれ以上の人なら、そりゃ多少はいるかもしれないけど……)

ソフィア「おっと、いかんいかん。そろそろ本題に入るとしよう」
エディ「は、はい!」

慌てて心の声を打ち切るエディ。
ソフィアが後方の冒険者に手招きをして、何かを持ってこさせる。

ソフィア「お主には、遺跡調査隊の装備品を開発してもらいたい」
ソフィア「申請書類の準備もできておるぞ」

ソフィアは冒険者から受け取ったものをエディに手渡した。
それを何気ない態度で受け取るエディだったが……。

《page 17》
◯冒険者ギルド本部 メインホール(前ページから継続)
渡されたのはとてつもなく分厚い書類の束だった。
想定外の重さに、それを受け取ったエディの手がずしりと沈む。
愛想笑いを浮かべたまま硬直するエディ。満面の笑みのソフィア。
エディの顔に冷や汗が垂れても、ソフィアは笑顔のまま表情一つ変えない。

エディ「……多くないですか!?」

ギルド本部の外を描いたコマを背景に、エディの叫びが響き渡る。

《page 18》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室
場面転換。帰宅したエディが備え付けのデスクに腰を下ろし、ソフィアから渡された書類の束をどさりと置く。
ここからしばらくは、エディが心の声であれこれと考え込むシーン。

エディ(参ったなぁ。ちょっと期待が重すぎる)
エディ(優先順位は付けてくれてるみたいだから、とりあえず優先度の高い奴から手を付けていくかな)

書類の束の上の方を片手でペラペラとめくる。
エディはそれらの中で目についた二枚を抜き取り、デスクの上に並べて置いた。

エディ(携行魔力灯と通信器の性能改善要請……か)
エディ(新しいのをイチから作るより、既存の魔導器を改良する案件の方が楽、かな)

《page 19》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは二枚の申請書とにらめっこをしながら、具体的な改良プランについて思案する。

エディ(確か、ライアンさん達に使ってもらったのを、そのまま試してもらったんだっけ)
エディ(改善要請の対象は、魔力灯の持続時間と通信器の通話可能距離……うん、想定内だね)
エディ(魔力灯はずっと点けてたら二時間くらいで魔力切れ)
エディ(通信器はせいぜい数百メートルで、遮蔽物がなければ一キロ届くかどうか)
エディ(仕様通りではあるけれど、調査隊の人達にとっては物足りない、と)
エディ(まぁ、その辺を除けば好評みたいでよかった)

エディは携行魔力灯と通信器をデスクに起き、カチャカチャと弄り始める。

《page 20》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(原因は分かりきってる。魔力が足りないんだ)

エディが魔導器から赤みがかった石を何個も取り出す。
これが魔導器のエネルギー源である魔石。

エディ(魔法のエネルギー源は大地を流れる魔力)
エディ(色んな部品で魔法を再現した魔導器も例外じゃない)

以降、エディの設定語りに簡単なイメージ図を添えて描写する。

エディ(魔導師や魔法使いは、天然の魔力を自分の体に溜め込んで、小規模な魔法ならその貯蔵魔力を消費して発動する)
エディ(自前の魔力じゃ足りないような大魔法を使うときは、貯蔵魔力だけで『魔力を集める魔法』を発動させて、かき集めた魔力で大魔法を行使する)
エディ(普通の魔導師が魔導器を使うのはこういう場合だ)
エディ(魔力を集める補助、集めた魔力の属性を変化させる補助、長期的な儀式に備えて魔力をためておく補助)
エディ(で、魔力を貯めておくときに使う素材の一つが、この魔石なわけだけど……)

《page 21》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは魔石の粒をつまんで覗き込みながら苦笑を浮かべる。
以下の心の声のコマの背景として、冒険者達が魔導器のエネルギー切れに困らされているイメージ図も描写しておく。

エディ(形も大きさもバラバラだから、魔導器の中にぴっちり収まらないんだよなぁ)
エディ(どれだけぎゅうぎゅうに詰めても、魔石と魔石の間が隙間だらけで無駄だらけっていうか)
エディ(魔導器を小さく作るなら魔石が少なくなるし、魔石をたくさん詰め込めばその分だけ魔導器が大きくなる……)
エディ(魔力灯は当然として、通信器も距離を伸ばせば伸ばすほど、魔力の消費が増える一方)
エディ(まさに『あちらを立てればこちらが立たず』だよな)
エディ(他の素材も試してみるとか? 魔力を溜め込む液体ってのもあるし)
エディ(経口摂取で貯蔵魔力を素早く回復! ……みたいに宣伝してたのもあったけど、アレ本っ当に不味かったよなぁ……)

そのとき、誰かが部屋をノックする音が響いた。

《page 22》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディが扉を開けると、そこにいたのはさっきと変わらず砂と土に汚れた姿のステラで、何やら申し訳無さそうに笑っている。
前ページまでは台詞中心のシーンが続いたので、このページからはしばらくキャラの描写中心で緩急を付ける。

ステラ「あはは……ええっと、シャワー、貸してもらえないかなーって」
エディ「……えっ?」

突然のことに硬直するエディ。
すぐにはリアクションをすることができず、少々の間を置いてから驚きの声を上げる。

エディ「えええっ!?」

《page 23》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
シャワールームで服を脱ぐステラ。リビングのエディはシャワールームに背を向けて平常心を保とうとしている。

ステラ「ごめんね、急に。いつも使ってる公衆浴場(ルビ:おふろやさん)、お湯を沸かしてくれてる魔導師が来れなかったみたいなんだ」
ステラ「魔導師が足りないのは分かるけど、さすがにドタキャンは迷惑だよね」
エディ「事情は分かったよ。でも、それならフェリシアさんあたりに頼んだ方が……」
ステラ「フェリシアさんは依頼で出張中」
ステラ「ほら、ライアンさんがBランクになったから、受けられる依頼が増えたでしょ?」

《page 24》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
シャワーを浴び始めるステラ。
エディはどうしてもそちらが気になって仕方がないが、理性で踏みとどまっている。

ステラ「そうそう。お詫びとお礼を兼ねて、いいもの持ってきたから」
エディ「いいもの?」

テーブルに目をやるエディ。そこにはステラが持ってきた小荷物が置いてあった。

ステラ「新製品の石鹸だって。ソフィア隊長がくれたんだ」
ステラ「冒険者といえども、街では身綺麗にしておくべきじゃ! ってね」

《page 25》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディは気を紛らわせるため、その石鹸に意識を向けようとした。

エディ「高いんじゃないか、これ。変な臭いもしないし」
ステラ「高ランク冒険者って凄いよね。そんなの気軽にくれちゃうんだから」

ステラが気持ちよさそうに体を洗っている一方で、エディは手にした真新しい石鹸をじっと見つめ、何やら真剣な面持ちで考え込んでいた。

エディ「……そうか。こうやって固めてやればいいんだ」

《page 26》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
何かを思いつくなり、すぐさま作業机に向かうエディ。
シャワーを浴びているステラのことはもう頭にない。

エディ(魔石を自然な形のままエネルギー源にするから、あんなにかさばって仕方ないんだ)
エディ(だったら、コンパクトに収納できるように加工してやればいい)
エディ(でも、単純に削って形を整えるだけじゃ物足りない)
エディ(どうせ加工するなら、徹底的にやってやろうじゃないか!)

エディはいくつかの小粒の魔石を片手で鷲掴みにし、魔法を発動させる。

《page 27》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
発動させたのは土属性の魔法。エディの手の中で魔石が粉砕され、粉状になっていく。

エディ(魔石の粉末は、魔法陣を描く絵の具にも使われる魔法素材。性能はお墨付きだ)
エディ(低品質の魔石には不純物が多いから、砂に混ざった砂鉄を磁石で集める要領で……)

エディは裏返した袋を片手に嵌め、手のひら一杯分の魔石の粉末に手をかざし、先程とは別の魔法を使った。
すると、粉末の山の中から赤い粉状の魔石が浮かび上がり、袋越しのエディの手に集まっていく。
テーブルに残された粉末から赤みがなくなった辺りで、手に嵌めた袋をもう一度裏返し、高純度の魔石の粉末だけを確保する。

エディ(よしっ! 成功!)

《page 28》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(高純度の魔石粉末。このまま容器に詰めても、普通に機能するかもしれないけど……)
エディ(物は試しだ。いけるとこまで行ってみよう)

エディはデスクの引き出しから液体入りのガラス容器を取り出す。

エディ(魔力水。名前の通り、魔力を蓄積させた水溶液)
エディ(小麦粉を水で練るみたいに、魔石の粉末を魔力水で練り上げてやれば、魔法陣を描くために適した絵の具になる)
エディ(何かの本にそう書いてあったはずだ)

このタイミングで、ステラがシャワールームから出てきたが、エディは作業に集中しすぎていて全く気が付かない。

《page 29》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)

エディ(普通の水じゃこうはならない。魔力水に溶け込んだ、魔力を蓄積する何かしらの物質が、魔石の粉末にも作用する……だったかな)
エディ(水気が適切なら絵の具状に。多すぎれば泥状に。少なければ粘土状に)
エディ(こういう場合なら、きっと粘土状が適切なはずだ)

やがて赤い粘土状の素材が練り上がる。
エディはそこで満足することなく、粘土状の素材を小さな薄手の容器に詰めていく。

エディ(これならどんな形にも加工できる。筒状、箱状、板状……魔導器に合わせて自由自在だ)

《page 30》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
そうして出来上がったのは、現実でいうところの携帯電話のバッテリーと同程度の大きさの板が数枚。
ここでようやく、エディが会心の笑みを浮かべる。

エディ(魔石一個分がこの一枚!)
エディ(この調子なら、どんな魔導器も簡単に小型化できる!)
エディ(……っと、喜ぶ前に、まずはテストしなきゃ)
エディ(エネルギー源として機能しなかったら何の意味もないんだから)

いそいそと準備に取り掛かるエディ。
その小さな板に魔力灯の発光部品だけを接続し、スイッチを入れる。

《page 31》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
魔力灯が眩い光を放ち、部屋全体をくまなく照らし上げる。

エディ「やった!」

すぐにスイッチをオフに。

エディ(出力は万全! 後はどれくらい持つかを確かめれば――!)
ステラ「なにそれ! 新しい発明品?」

肩越しにステラの顔がにゅっと現れる。

エディ「うわぁ!?」

《page 32》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
驚きすぎて椅子から転げ落ちるエディ。
ステラはエディが落とした小さな板を拾い、純粋な敬意のこもった笑顔をエディに向けた。

ステラ「凄いなぁ。こんなのまで作っちゃうなんて」
ステラ「いつかは魔導師の仕事がなくなっちゃうかもね」
エディ「……本末転倒すぎるって、それ」

まだ褒められ慣れていないので、エディは照れ隠しに顔を逸らすことしかできなかった。

《page 33》
◯冒険者ギルド職員寮 エディの個室(前ページから継続)
エディの手に収まった魔力バッテリー(マナ・カートリッジ)の絵を背景に、以下のモノローグ。

エディ(モノローグ)
「――こうして作った新部品を、僕はマナ・カートリッジと呼ぶことにした」
「ソフィア調査隊の要望に応えて生み出した、高密度の魔力蓄積装置」
「これでソフィアさんから頼まれた通り、サイズは据え置きで魔力灯を長持ちさせ、通信器の有効範囲を広げることができる……このときの僕は、まだそれだけしか考えが及んでいなかった」
「今になって思えば、なんて能天気だったんだろう」
「マナ・カートリッジという発明がもたらす影響が、たったそれだけで収まるはずなどなかったのに」

《page 34》
◯自由都市オリエンス 市議会
前ページの締めでアップにされた建物。
明らかに政治的な会議の真っ只中といった大部屋に、アレクサンドラも出席者の一人として加わっている。
そして、同じく参加者の一人だと思しき壮年の魔導師が、円卓の向こう側からアレクサンドラをにらみつける。

ナレーション「――十日後、オリエンス市議会」

壮年の魔導師「魔導師ギルドの代表として問う。冒険者ギルド代表代行、アレクサンドラよ」
壮年の魔導師「お前達が進めている、常人でも使用可能な魔導器とやらの開発、我々としては看過するわけにはいかん」
壮年の魔導師「よって、市議会による査察の実行を要求する」

不敵な笑みを浮かべるアレクサンドラ。

アレクサンドラ「――まいったな。痛くもない腹を探られるのは、好きじゃないんだが」
《page 01》
◯自由都市オリエンス 市議会
ページの上3分の2程度に、円卓を囲む議員達(各ギルドの代表者)の全体像を。
ページの下3分の1程度に、アレクサンドラと魔術師ギルドの代表がにらみ合う顔を描写。
(アレクサンドラの方は余裕がある不敵な笑みで、相手側は顔にシワを寄せている)

以上の描写を背景に、ナレーションでこの街の社会情勢の説明を加える。

ナレーション
「自由都市オリエンスは、どの貴族の領地にも属さない、国王直属の特別な自治領である」
「誰からも支配を受けない代わりに、政治経済の全てを市民達の手で行わなければならない」
「街を統治するのは市議会。そして市議会を構成するのは、各ギルドの代表者達」
「この街において、ギルドは単なる職業組合の枠組みを越え、市政の中心すら担っているのである」

《page 02》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)

ナレーション「市議会に議席を持つギルド、二十五団体」
ナレーション「それらの頂点には、都市内外に多大な影響力を持つ『三大ギルド』が存在する」

議長「二人とも落ち着きなさい。まずはメルクリウス、査察を要求する根拠の説明を」

ナレーション
「序列第一位、司法官ギルド」
「法律家や裁判官が属するギルドであり、市議会の議長もこのギルドから選出される」
「ただし、この序列の高さは『オリエンス市は法律を重んじる』という意思表示のための特別枠に過ぎず、実際の影響力では三番手に甘んじている」

アレクサンドラ「その通り! そもそも君達は、魔法の技術を売り物にしているのであって、魔導器をギルド外に販売しているわけではないはずだ」
アレクサンドラ「しかも一般人向けの魔導器など、欠片も関心がなかったんじゃないか?」
アレクサンドラ「魔導師ギルドの縄張りには手を突っ込んでいない。文句を言われる筋合いはないな」

ナレーション
「序列第二位、冒険者ギルド」
「オリエンスは未開領域探索の前線基地として発展した」
「当然、この都市における冒険者の立場は極めて高い」

《page 03》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)

壮年の魔導師、メルクリウス「確かに、現時点においては違法だと言い難い」
メルクリウス「我々が懸念しているのは将来的な問題だ」

ナレーション
「序列第三位、魔導師ギルド」
「オリエンスで活動する正規の魔導師は、例外もなくこのギルドに属している」
「他の都市と同様、魔導師は市民生活の礎であり、魔導師に頼らない生活を送ることは極めて難しい」
「冒険者ギルドは都市の収入を、魔導師ギルドは都市の生活を支える組織である」
「他ギルドからは荷車の両輪と喩えられることもあるが、両団体の関係性は――御世辞にも良好とは言えなかった」

メルクリウス「貴様らのギルドマスターの暴言、忘れたとは言わさんぞ」
メルクリウス「『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』」
メルクリウス「奴の言葉だけなら、下らぬ妄想と切って捨てることもできたがな」

アレクサンドラ「我々が魔導器を研究していると聞いて、いよいよ行動に打って出たと思い込んだ、と
アレクサンドラ「あれはギルドマスターの個人的な見解に過ぎないと説明しただろう?」

メルクリウス「どうだかな。貴様はギルドマスターの右腕と呼ばれた女だ」
メルクリウス「代表代行として、奴の思想の実現を目指しても不思議はあるまい」

二人の間に張り詰めた強烈なプレッシャーに、他のギルドの代表者達は口を挟むこともできない。

《page 04》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)
そんなとき、議長が鷹揚とした態度で折衷案を提示する。

議長「ふむ、ではこうしたらどうですかな」
議長「正式な査察ではなく、魔導師が個人的に『見学』をするのです」

アレクサンドラ&メルクリウス「「見学」」

議長「市議会の査察は簡単に行っていいものではありません」
議長「査察に踏み切った事実そのものが、ギルドの活動に違法性の疑い有り、という意味合いを持ってしまいますからね」
議長「しかし、単なる見学すら拒むほどの極秘研究だというなら、メルクリウスの懸念にも説得力があると言わざるを得ないでしょう」

《page 05》
◯自由都市オリエンス 市議会(前ページから継続)

アレクサンドラ「ふむ、こちらとしては見学を拒む理由はない」
メルクリウス「悪くない提案だ。現場を見れば、脅威足りうるかも分かるというもの」
議長「決まりですね」
議長「これはあくまで両ギルド間の交流という形で処理します」
議長「事を大袈裟にするのはよくありませんからね」
議長「では、次の議題を――」

◯冒険者ギルド本部 建物内部の一角
場面転換&時間経過。見学の件を聞かされたエディが、苦悶混じりに驚きの声を絞り出す。

エディ「ま、魔導師の見学ぅ!?」

《page 06》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋
エディの会話の相手は、アレクサンドラの側近の大柄な冒険者、イグナシオ。
慌てふためくエディとは対照的に、イグナシオは無表情で落ち着いている。

エディ「勘弁してくださいよ! 無理に決まってるじゃないですか!」

イグナシオ「何故だ? 前にも見学者を受け入れただろう」
イグナシオ「ステラ・アルヴァによる発明品の紹介も、かなりの好評を博したと聞いているが?」

エディ「あの人達は冒険者だったじゃないですか!」
エディ「僕の経歴分かってますよね!?」
エディ「魔導学院の進級試験で一発不合格ですよ!」
エディ「プロ呼んで見てもらうとか絶対無理ですからね!」

イグナシオ「ふむ……」

《page 07》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)
イグナシオは手帳を開いて予定を確認し、エディを納得させるための妥協案を提案する。

イグナシオ「確か、来月は大人数の見学が五件ほど予定されていたな」
エディ「は、はい。見学希望が凄く多かったから、できるだけ同じ日に纏めてもらったと……」
イグナシオ「ならば、魔導師には身分を偽って見学に参加してもらうとしよう」
エディ「……はい?」
イグナシオ「冒険者の振りをさせる、ということだ」
イグナシオ「魔導師が来ていると分からなければ、緊張することもなくなるだろう」

《page 08》
◯冒険者ギルド本部 どこかの部屋(前ページから継続)

エディ「そうかもしれませんけど……そんなことできるんだったら、知らないうちに済ませてもらった方が……」

イグナシオ「騙し討ちのような真似をするのは不誠実だからな」
エディ(その誠実さは要らなかった……!)

◯自由都オリエンス 市庁舎
アレクサンドラが廊下を歩きながら、手に持った水晶玉越しにイグナシオからの報告を受ける。
描写するのはアレクサンドラ側だけで、イグナシオは声だけ。

ナレーション「同日。自由都市オリエンス、市庁舎――」

イグナシオ『エドワード・オグデンからの同意を取り付けました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中には冒険者を名乗らせます』
アレクサンドラ「ご苦労。後は私が引き受けよう」
イグナシオ『了解です。しかし、本当によろしかったのですか?』

《page 09》
◯自由都オリエンス 市庁舎(前ページから継続)

イグナシオ『エドワードには普段通り仕事をするように指示をしました』
イグナシオ『魔導師ギルドの連中がそれを見れば、十中八九エドワードの技術を脅威と感じるでしょう』
イグナシオ『ならば、あえて手を抜かせた方が良かったのでは?』

アレクサンドラ「構わん。むしろ脅威だと思わせることが目的だからな」
イグナシオ『……?』
アレクサンドラ「私はね、イグナシオ。エドワードの経歴と技能を知った瞬間、天啓を受けたような気分になったんだ」
イグナシオ「この硬直した世界を変えうる可能性。彼の発明品からは、それを確かに感じさせられたよ」

《page 10》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場
場面転換。大勢の冒険者達を前に、エディとステラが新型魔導器の説明をしている。
司会進行はステラの担当で、エディは実際に魔導器を動かしてみせる担当。
前ページまでは台詞多めだったので、このページはキャラを大きめに。

ナレーション「一ヶ月後――」

ステラ「えーっと、それでは見学の方、こちらにどうぞ!」
ステラ「新型魔導器とマナ・カートリッジについて説明させていただきます!」

冒険者達の最後方に、意味深な二人組の後ろ姿。

二人組の片割れ1(始まったみたいだね、姉さん)
二人組の片割れ2(ええ、じっくり見せてもらうとしましょう)

《page 11》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
二人組の正体は魔導師かつ双子の美少年と美少女。
冒険者に紛れ込んでいるが、顔立ちや髪の色など明らかにモブとは違う雰囲気。
モノローグで強キャラのように描写しておく(この回では実力を発揮する機会がないので、驚き役としてのインパクトを高めるための演出)

二人組の片割れ 弟(一番奥にいる奴がエドワード・オグデンのようだね)
二人組の片割れ 弟(アルスマグナ魔導学院の生徒で、現在は休学中)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ソル」
ナレーション「得意属性 火・風 魔法の他、双子の姉と思考を共有する能力を持つ」

二人組の片割れ 姉(一年目の進級試験で落第したそうよ)
二人組の片割れ 姉(アルスマグナは進級しやすい学院なのに、どれだけ無能なのかしらね)
ナレーション「魔導師ギルド所属 二級魔導師 ルナ」
ナレーション「得意属性 水・土 それぞれ単独の能力は二級相当だが、思考の共有による四属性連携は特一級魔導師に迫る」

冒険者達の後ろに隠れて冷笑する双子。明らかにエディを見下している。

ソル(僕達が通った学院なら入学すら出来なかっただろうね)
ルナ(初戦は落ちこぼれの小銭稼ぎ。マスター・メルクリウスの取り越し苦労に決まってるわ)

そんな目で見られているとはつゆ知らず、司会進行のステラが発明品の説明を開始する。

ステラ「ええっと、まず紹介するのはこちら!」

《page 12》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラが見学者達にマナ・カートリッジを高く掲げてみせる。
前話のそれよりも更に洗練され、スマートフォンのバッテリー程度の厚みと大きさになっている。

ステラ「冒険者ギルド製魔導器の根幹を成す新発明!」
ステラ「マナ・カートリッジです!」

続けて、ゴルフボール程度の大きさの赤い魔石を数個、もう一歩の手で提示する。

ステラ「この小さな板の中には、これらの魔石全てを合わせたのと同等の魔力が蓄積されています」
ステラ「重さも大きさも大幅削減! どうぞ、実際に触ってみてください!」

近くにいた冒険者にマナ・カートリッジを渡すステラ。

モブ冒険者A「ほ、本当だ! 滅茶苦茶軽い!」
モブ冒険者B「これなら金貨の方が重いんじゃないか?」

《page 13》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
自信満々に解説を続けるステラ。
エディは後ろの方で次に見せる発明品の準備をしている。

ステラ「実は、魔導師が使っている魔導器にも、魔力を通すだけで機能するものあるんです」
ステラ「それが一般人に普及しない理由は、とにもかくにも魔力の確保!」
ステラ「魔導師は自分で魔力を注げば事足りますけど、一般人はそんなことできませんからね」
ステラ「だけど、魔力を蓄積する素材はとっても嵩張るんです。魔石ですらマシな方なんですよ?」

エディがまるでアシスタントのように、携行魔力灯をステラに渡す。

ステラ「例えば、これは魔力を光に変える魔導器なんですけどね」
ステラ「この大きさに魔石をギチギチに詰めても、たった二時間でエネルギー切れです」
ステラ「一晩中灯そうと思ったら、両手に収まりきらないくらいの魔石が必要になっちゃいます」

《page 14》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

ステラ「ところが! この形に合わせた円筒形のマナ・カートリッジなら、丸一日つけっぱなしでも全然余裕!」
ステラ「あっ、一日しか持たないって意味じゃありませんからね?」

驚きと感心の声を漏らす冒険者達。
その後方で、ルナとソルの双子が愕然としている。

ルナ(あの小さな板に魔石数個分の魔力ですって? ありえないわ!)
ソル(入手して調べてみる必要があるね。だけど、奴ら簡単に手放すかな)
ルナ(どうせ手放さないでしょうね。相当な貴重品に違いないわ)
ルナ(魔法で誤魔化して持ち去りましょう。リスクを犯すだけの意義はあるわ)

念話で深刻に話し合うルナとソル。
そのすぐ近くで、モブ冒険者があっけらかんと購入を希望する。

モブ冒険者C「これって買えるんスか?」
ステラ「売ってますよー。買って帰ります?」
ルナ&ソル((軽っ!?))

《page 15》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

ステラ「でも、マナ・カートリッジだけあっても意味ないですよ」
ステラ「ちゃんと魔導器も買ってくださいね」

エディがテーブルの上で箱を方向け、色々な大きさのマナ・カートリッジをばらばらと出していく。
唖然としているルナとソル。最後に自動車のバッテリー並のサイズがズシンと置かれ、完全に目を丸くする。

ステラ「この大きさなら魔石換算で……どれくらいだっけ。荷馬車一杯分?」
エディ「さすがに大袈裟。八割か九割くらいじゃないかな」
ステラ「えー? だったら大体あってるって!」
エディ「それはさすがに大雑把」

軽い雰囲気のエディとステラとは対照的に、ルナとソルはどんどん表情が険しくなる。

ソル(姉さん! あいつら常軌を逸してるよ!)
ルナ(落ち着きなさい、ソル)
ルナ(いくら魔力貯蔵技術に秀でていても、使い道が低レベルなら脅威に値しないわ)
ソル(そ、そうだね、姉さん。照明器具程度なら恐るるに足らずだ)

《page 16》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

ステラ「さて、続いては皆さんお待ちかね! 冒険に役立つ魔導器の紹介です!」
ステラ「たくさんあるので、もったいぶらずにどんどん行きますよ!」

前話からの一ヶ月の間に開発・改良した発明品の紹介。
作中の展開的にも、漫画上の描写的にも、テンポよく紹介していく。

ステラ「まずは野外調理機! 火種も燃料も一切不要! 全てマナ・カートリッジの魔力でやっちゃいます!」

薄型のカセットコンロに似ているが、カセットボンベを入れる円筒形の部分がない形状。

ステラ「続いて携帯保冷箱! 腐りやすい魔物素材も安全に持ち帰り! 折りたたみ式なので持ち運びも楽ですよ!」

ハードタイプのクーラーボックスのような見た目。冷蔵庫ではない。

ステラ「ちなみに、この二つには建物に備え付けるための大型タイプもありますよ」
ステラ「大型の保冷箱は、もう『冷蔵庫』って名付けた方がいいくらいに冷えるので、長期遠征の探索をするときに便利かもしれませんね」

《page 17》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
引き続き、テンポよく発明品の紹介。

ステラ「それからそれから、運用試験で大好評連発! 通信器の一般販売も始まります!」
ステラ「範囲は狭めだけど持ち運び簡単な小型タイプと、持ち運びが大変だけど広範囲の大型タイプ!」
ステラ「パーティーに一つ大型を置いといて、メンバーが小型を一つずつ持つのがベストかもですね」

小型通信器はトランシーバー程度、大型通信器は昔のラジカセ程度の大きさでマイクを外して使うタイプ。

ステラ「お役立ちアイテムじゃなくて、もっと派手なのが欲しいって人もいますよね?」
ステラ「それならこちら! 魔導式炸裂弾! 本当に凄い威力してるんで、購入にはギルドの審査が必要です! それくらいマジの奴!」

エディが序盤で使っていたものから、ハンドメイド感を無くしたような外見。

ステラ「使い捨ての投擲タイプは色んな効果のものを開発中です! お楽しみに!」

《page 18》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ステラがまだまだ紹介を続けている間に、ルナとソルが念話で深刻に話し合う。

ソル(魔導器としての性能は、決して高いわけじゃない……と思う)
ソル(だけど問題は、魔力を流し込むだけで機能するということ)
ソル(マナ・カートリッジさえあれば、ただの一般人が恩恵を受けられるということだ)

ルナ(その通りよ、ソル)
ルナ(しかもギルドの調査によれば、エドワード・オグデンが冒険者ギルドに加わってから、まだ一カ月余りしか経っていない)
ルナ(たったそれだけの間に、これほどの成果を叩き出したのよ)
ルナ(今はまだ、冒険者が求める便利な道具に留まっているけれど、いずれは……)

ソル(魔導師の役目を奪う導具を生み出すかもしれない。そういうことだね、姉さん)
ルナ(『いずれ、魔導師に頼らずに済む時代を作るべきだ』)
ルナ(……冒険者ギルドのマスターが願ったように、ね)

《page 19》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

ステラ「現時点で公開可能な情報は以上です!」
ステラ「紹介した魔導器とマナ・カートリッジはギルド本部内で販売していますので、購入ご希望の方はそちらへどうぞ!」

一斉に移動を開始する冒険者達。
人の波がなくなった後には、エディとステラ、そして双子の魔導師だけが残される。

二人が残ったのを見て不思議そうなステラ。
一方、エディは何かを察した様子で苦笑しながら、一歩前に出て二人に話しかける。

エディ「説明会はいかがでしたか?」
ソル「大変素晴らしい発明の数々でした。冒険者としてはありがたい限りです」
エディ「ああ、いえ。そうじゃなくって」

《page 20》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

エディ「聞かせてください。魔導師として、どう感じたのかを」

ルナとソルの表情が凍りつく。この描写を大コマで強調。
エディの後ろでは、ステラが大袈裟なリアクションで驚いている。

ルナ「……よく気付いたね」
エディ「当たり前ですよ」
エディ「他の人達は皆、目を輝かせながら驚いていたのに」
エディ「一番後ろの二人だけは、苦虫を噛み潰したみたいな顔で睨んでたんですから」

《page 21》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
ルナは溜息を吐き、敗北を認めて開き直ったかのように、威圧感を捨てて砕けた態度を取った。

ルナ「最後尾に陣取ったのが失敗ね」
ルナ「冒険者達の反応を伺えなかったから、演技の修整ができなかったみたい」
エディ「まったくもう……おかげでこっちは気が気じゃなかったんですから」
エディ「プロの前で下手なことしたら、それこそ一生物の大恥じゃないですか」

エディの反応は、嫌味でもなければ皮肉でもなく、心の底からそう思っての発言。

ルナ「こちらとしても、どうせ醜態を晒して終わると思っていたのだけれど」
ルナ「……魔導師としての評価、聞かせてあげましょうか」

ルナとソルが無言で視線を交わす。
念話で意見交換をしているが、内容は描写しない。

《page 22》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)
堂々とした、かつ事務的な態度で、ルナが視察の結果を告げる決めゴマ。
エディは「やっぱり」と思ったような顔をしつつ、それに加えて、今後の気苦労を持って青くなっている。

ルナ「二級魔導師ルナ、並びにソル」
ルナ「我々はエドワード・オグデンの技術を、魔導師社会の脅威足りうると認定します」
ステラ「そ、それって! まさかエディを……!」
ソル「強硬策を取るつもりはない。少なくとも今のところは」
ソル「冒険者ギルドとの戦争になれば、魔導師ギルドといえど無事に済むとは言い切れないからね」

《page 23》
◯冒険者ギルド本部 裏庭 説明会会場(前ページから継続)

ルナ「本日のところは失礼させていただきます」
ソル「また会うことがないように祈っておきますよ」

最後に定型的な言葉を残し、立ち去っていく二人。
それを見送った後で、安堵しながらその場に座り込むエディ。
ステラはそんなエディをねぎらうように頭を撫でた。

◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室
裏庭のエディ達を、高階の窓からアレクサンドラが見下ろしている。
その顔に浮かんでいるのは満足そうな笑み。
少し離れたところに、イグナシオがいつも通りの無表情で控えている。

アレクサンドラ「どうやら上手くいったようだな」
アレクサンドラ「これでまた一歩、魔導器の普及が進みそうだ」

イグナシオ「しかしながら、魔導師ギルドの警戒心が強まるのは避けられませんな」

《page 24》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)

アレクサンドラ「前にも言った通り、むしろ警戒心を抱いてもらわなければ困るんだ」

アレクサンドラは窓際から離れ、執務デスクに腰を下ろす。

アレクサンドラ「この現代社会は魔導師に酷く依存している」
アレクサンドラ「荒れ狂う海を鎮めて漁師達を守り、畑を襲う害虫の群れを焼き払い、時には雨を呼び時には雲を晴らす」
アレクサンドラ「風を操る魔法の恩恵がなければ、船を使った物流が致命的なまでに滞って、全ての経済活動が麻痺しかねない」
アレクサンドラ「各都市の食料庫で、魔法による長期保存措置が取られていない場所は存在しないだろう」

イグナシオ「国家レベルの経済計画すら、魔法に頼ることが大前提ですからな」

《page 25》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)

アレクサンドラ「魔導師に一切頼らず生きようと思えば、百年前の生活水準に逆戻りだ」
アレクサンドラ「しかしその重要性の割に、魔導師はあまりにも数が少なすぎる」
アレクサンドラ「我々のように、職務上必要な魔法を修めた非魔導師もいるにはいるが、どうあがいても例外的な少数派でしかない」
アレクサンドラ「生まれつきの才能がなければ、自然の魔力を体内に取り込むことすらできないのだからね」

イグナシオ「各地の魔導学院が人材育成に努めているのでは?」

アレクサンドラ「魔導学院の方針は『少数精鋭の一流を育てる』ことだよ。どこの学院もそれは変わらない」
アレクサンドラ「頭数を増やすことには興味がないし、それどころか『質の低下を避けるため』なんていう名目で過剰な選別を続けている」
アレクサンドラ「しかも一流になりきれなかった落伍者すら、魔導師の助手や下働きとして抱え込んで離さないときた」

《page 26》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)

アレクサンドラ「結果として、魔導師は軒並み傲慢になった」
アレクサンドラ「当然の帰結だ。どれだけ横柄かつ不誠実に振る舞っても、仕事の依頼が絶えることはないのだからな」
アレクサンドラ「他の魔導師に乗り換えられるならまだしも、肝心の『他の魔導師』を見つけるだけでも一苦労だ」
アレクサンドラ「先日、市内の公衆浴場が急遽営業を取りやめた事件があっただろう?」
アレクサンドラ「あれも勤務予定だった魔導師が、連絡もせずに仕事を放り出したことが原因だ」

イグナシオ「……それは承知しています。我々が契約している魔導師も、大部分は酷いものだ」
イグナシオ「前衛地区で雇った治癒魔導師達の怠慢で、果たして何人の冒険者が助かる命を失ったことか」
イグナシオ「もちろん、職務に対して誠実な魔導師もいるにはいますが」
イグナシオ「そのほとんどは、他の魔導師のしわ寄せに耐えかねて、そう長くないうちに辞めてしまうものです」

アレクサンドラ「我らがギルドマスターが、魔導師に頼らない社会を望んでいるのも理解できてしまうな」

《page 27》
◯冒険者ギルド本部 ギルドマスター執務室(前ページから継続)

アレクサンドラ「だが私は、魔導師がいなくなればいい、とまでは思わない」
アレクサンドラ「『一般人でも使える魔導器』の出現を脅威に感じて、自分達の問題の解決を真摯に進めてもらいたい――それが偽らざる本音だよ」

イグナシオ「ですが、もしも連中が強硬策に……エドワードの妨害に打って出た場合は?」

アレクサンドラ「ギルドマスター代理の肝煎りのプロジェクトをか?」
アレクサンドラ「メリクリウスは老獪な男だ。そこまで短絡的な愚行には走らないだろうさ」
アレクサンドラ「それに現場レベルの暴走なら、問題なく対処できる備えを固めてある」

イグナシオ「……それでもなお、自分達の問題から目を背けたなら?」

アレクサンドラ「そのときは、ギルドマスターの願いを叶えるしかなくなるな」
アレクサンドラ「エドワードの魔導器なら、きっと世界の一つや二つは変えられるはずだ」
アレクサンドラ「私はそう信じているよ」

《page 28》
◯自由都市オリエンス 商業区画 ジャンクショップ前
第2話のジャンクショップで買い物を終えたエディが、荷物を抱えて店の外に出てくる。
そこに偶然フェリシアが通りかかり、軽い態度でエディに声をかける。
前ページまで台詞中心のシーンが続いたので、このシーンは台詞少なめに。

フェリシア「やっほー、久しぶり」
エディ「フェリシアさん?」

《page 29》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア
場面転換。腰を据えて話をするために移動した後からシーン開始。
場所は洒落たカフェテリアのオープンテラスで、二人が座ったテーブルの上には二人分の甘味。
フェリシアは久々に会ったエディを手放しで褒めているが、エディは慣れない場所に戸惑っていてそれどころではない。

フェリシア「聞いたよ、エドっち。先週の説明会も大好評だったそうじゃない」

説明会のシーンの翌週になっていることをさり気なく説明。

フェリシア「最近はどのパーティーも一つは魔導器を持ってるし、マジで大活躍じゃん!」
エディ「や、やめてくださいよ。一番肝心な仕事は全く手つかずなんですし」
フェリシア「一番肝心な仕事っていうと……ああ、アレかぁ」
エディ「はい、アレです」

二人共同じものを思い浮かべて難しい顔。

《page 30》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)

エディ
(偽造困難な次世代型ギルドカードの開発。ほんと無茶振りしてくれるよなぁ)
(休学期間の一年かけてやればいいから慌てなくても大丈夫……なんて思ってたけど)
(あれよあれよと一ヶ月、もうすぐ二ヶ月目まで見えてきた)
(さすがにそろそろ着手くらいはしておかないと……)

フェリシア「でもさ、例の仕事を押し付けられたのって、別にエドっちだけじゃないんでしょ?」
エディ「ええ、まぁ。古いやり方の改良も進めておくとか何とか」
フェリシア「だったら、エドっちがプレッシャー感じる必要なんかないじゃん」
フェリシア「普通の魔導器だけでもギルドにめっちゃ貢献してるんだし、無茶ぶりは他の人に任せちゃいなよ」

フェリシアのあっけらかんとした助言を受け、エディは少し肩の荷が下りたように表情を綻ばせる。

エディ「……そうかも、しれませんね」

《page 31》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)

エディ「だけど、やれるとこまでやってみようと思うんです」
エディ「無謀な夢を叶えようとしてるんですから、これくらいの無理難題で逃げてなんかいられません」
フェリシア「エドっちは真面目だなぁ」

慈しむような笑みを浮かべるフェリシア。
エディが責任感ではなく、向上心で仕事に取り組もうとしていると分かって安心した様子。

《page 32》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)

フェリシア「でもさ、実際問題どうにかできそうなの?」
フェリシア「さすがにノープランじゃ無理ゲーもいいとこでしょ」

フェリシアの素朴な質問を受け、エディは腕組みをして苦々しく顔を歪める。
シリアスな表情ではなく、むしろギャグっぽさのある苦悶。

エディ「それなんですけどね……一応、構想みたいなのは浮かんではいるんですよ」
フェリシア「え、マジ!?」
エディ「ただ、現状の僕だと知識が足りないというか、専門書に頼らないと無理っていうか」
エディ「これまで作った魔導器より格段にハイレベルなんですよ」

《page 33》
◯自由都市オリエンス 商業区画 カフェテリア(前ページから継続)

フェリシア「じゃあ魔導師ギルドに本を借りたら――」
エディ「無理ですね。絶対貸してくれないです」

食い気味に即答するエディ。

フェリシア「じゃあどうするのさ。魔法の専門書なんて、この街じゃ魔導師ギルドしか持ってないよ?」
エディ「……いえ、本を借りるアテもあるんです」
エディ「あるんですけど、頼りたくないというか、気まずいというか……」
フェリシア「焦らすなぁ。法律的にヤバいとかじゃないなら、お姉さんに言ってみ?」
エディ「……学校ですよ」

《page 34》
◯アルスマグナ魔導学院 校舎のイメージ映像
大コマのイメージ映像を背景にエディとフェリシアの台詞を乗せて締め。

エディ「アルスマグナ魔導学院」
エディ「つい最近まで、僕が通っていた学校です」
フェリシア「……はいっ!?」
エディは冒険者ギルドの職員として魔導学院に戻り、生徒達からの嘲りと好奇の視線を浴びながら、学院の大図書館で専門資料を調べ続けた。
手伝いとして同行したステラは、エディが抱えていた事情を初めて知って、理不尽な扱いに怒りを覚える。
だが、エディは気にしないように伝え、次世代ギルドカードの設計に集中する。
そしてオリエンス市に戻ってからも、これまで以上にやる気を出したステラと、数少ない学友であるオースティンのサポートを受けながら、遂に開発を成功させた。

次世代ギルドカードは、まるでスマートフォンのような外観。
薄型マナ・カートリッジを内蔵し、内部に登録された画像や文字情報を、人工水晶のディスプレイに表示する仕組み。
エディが恥を忍んでまで読みたかった資料は、魔法的に文字や画像を記録する方法だった。
(元々は、魔導師が研究成果などを魔法的に隠蔽するための技術)
偽造・変造が困難なのみならず、記載可能な情報量も爆発的に増加しており、冒険者ギルドのみならずオリエンス市全体から大絶賛を受ける。

これをきっかけに、冒険者ギルドと魔導師ギルドの間でエディを巡る争奪戦が勃発。
そんな折、ステラが「自分も事情を明かさなければ不公平」と考えて、自分の過去をエディに打ち明ける。
ステラの父親は貴族の末席かつ高名な考古学者だったが「古代魔法文明は天空に存在した」という常識外れの説を主張したことで魔導師界隈から大反発を受け、失意のうちに亡くなってしまう。
(魔力は大地のエネルギーと考えられているので、天空に魔法文明があるというのは普通の考えではない)
そしてステラは、父親が夢見た天空都市を探すため冒険者になったのだった。

加熱し続ける、冒険者ギルドと魔導師ギルドのエディ争奪戦。
だが、当のエディはそれを気にも留めず、これまでに培った技術の粋を集めて、ステラのための「大空を飛ぶ魔導器」の開発に取り掛かっていた。
エディにとって、自分のために怒り、見返りも考えずに力を貸してくれたステラのことが、誰よりも大切な存在になっていたのだ。
そして、休学期間終了寸前に完成した「大空を飛ぶ魔導器(ファンタジー的デザインの小型飛行機)」に乗って、エディとステラは大空の冒険へと旅立つ。
空で待ち受ける数々の難局を、二人は数々の発明品を駆使して乗り越えていき、遂に大空に浮かぶ古代文明の遺跡を見つけ出すのだった。

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