《page 01》
◯未開領域 名もなき遺跡 大きな扉の向こう
扉の向こうのホール的な大部屋の床に、大きな縦穴が開いている。
床が壊れたというわけではなく、設計通りに作られたちゃんとした穴で、壁沿いに石の螺旋階段が設けられている。
前話の最終ページではライアンだけが大穴を目撃していたが、このページは別行動していた全員が駆けつけたところからスタート。
エディ「ライアンさん! 何なんですか、これ!」
ライアン「俺も何がなんだか。扉が開いたと思ったらこんな有様だ」
《page 02》
五人揃って大穴を見下ろす。
天井の亀裂から注ぐ光のお陰で、穴の周囲はそこそこ明るいが、穴の中は完全な真っ暗闇。
ライアン「あそこまで厳重に守られてたんだ。絶対に無意味な穴じゃないと思うんだが……」
エディ「暗すぎて底が全く見えない……」
パトリック「階段がある以上、人間が降りることを前提としていたのは間違いないでしょう」
ステラ「それじゃあ降りてみる?」
フェリシア「ちょい待ち! まずは息ができるか確かめてから!」
フェリシア「とりあえず、これ燃やして落としてみよう。誰か火種貸して」
フェリシアが布切れを筒状に丸めた小さなモノを取り出す。
《page 03》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴の前
エディがとっさに、火属性の魔法で指先程度の小さな火を出して、布切れに着火する。
エディ「どうぞ」
フェリシア「ありがと……って、やっぱりエドっち、魔導師なんじゃ?」
エディ「は、ははは、まさかそんな」
乾いた声で笑ってごまかすエディ。
フェリシアは深く追求しようとせず、着火した布切れの塊を穴に放り投げようとする。
フェリシア「投げたら一旦外に出るよ。爆発とかしたら大変だから」
エディ「可燃ガスですね」
フェリシア「そうそう、それそれ、んじゃ、投げるよ」
フェリシアが火を投げ入れたのと同時に、ひとまず全員部屋の外に出る。
《page 04》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴がある大部屋の外
そのまましばらく様子を伺うが、爆発する様子は全くない。
再び穴の近くに戻って覗き込んでみると、深い穴の底に小さな光が見える。
フェリシア「少なくとも呼吸はできそうだね。水没してるってこともなさそう」
ライアン「よし、降りてみるか」
パトリック「私は上に残ります。一網打尽になることだけは避けなければ」
ライアン「頼んだ。何かあったらすぐに連絡する」
ライアン「普段は簡単に別行動とかできねぇけど、今回は心強い味方がいるからな」
肩から下げた通信器を強調するライアン。
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段
場面転換のワンクッションの演出。螺旋階段を降りていることが分かる背景の描写。
《page 05》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
螺旋階段を降りていくエディ達四人。
全員が懐中電灯のような携行型の照明を持っていて、それで足元や進行方向を照らしている。
フェリシア「通信器も凄かったけど、こいつも凄いね! 松明よりずっと便利だわ!」
ライアン「これもエドワードの発明か?」
エディ「発明っていうほど凝ったものじゃないですよ」
エディ「魔導師がランプの代わりに使う照明器具を、ちょっと改造して手持ち式にしただけです」
エディ「いちいち照明魔法を使うのも面倒くさいっていう人が、魔力を通したら発光する石を照明に使って……る、と聞きまして」
フェリシア(嘘吐くの下手だなぁ、この子)
《page 06》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
何もない螺旋階段を降りていく間の暇つぶしも兼ねて、エディが発明品についての説明をし続ける。
エディ「魔導師が使うときは数時間分の魔力を一気に注ぐんですけど、普通の人間はそんなことできませんからね」
エディ「エネルギー源として魔石なんかを詰めて、スイッチ操作でオンオフとか出力とかを切り替えられるように……って、どうかした?」
エディの前を歩いていたステラが、振り返って慈しむような眼差しを向けている。
ステラ「エディって、発明のこと話してるとき、凄く楽しそうだよね」
エディ「そ、そうか?」
エディ本人は自覚がなかったので、困惑や気恥ずかしさが入り混じった反応しかできない。
ステラ「確か、この前『稼げるだけ稼ぎたい』って言ってたよね」
ステラ「こんなに凄いの作れちゃうんだし、冒険者より発明家やってる方がお金持ちになれたりして」
ステラは雑談として冗談っぽく言っただけだったが、エディは真剣な面持ちで目を剥いた。
《page 07》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
エディ(魔導器を売って稼ぐ……そんなの考えたこともなかった)
エディ(ていうか、どうして今の今まで思いつかなかったんだ)
エディ(魔法と比べれば完成度が低くても、必要としている人がいれば買ってもらえる)
エディ(冒険者が欲しがる魔導器を作って売れば、学費を稼ぎながら誰かの助けになれる)
エディ(これだ! きっと、これが一番いいやり方だ!)
エディがそんなことを考えている間に、一行は螺旋階段を降りきって縦穴の底に到着する。
エディ(……っと、今は探索に集中しないと。請け負った仕事を投げ出すわけには……)
懐中電灯ならぬ懐中魔力灯を、足元から正面に振り向ける。
《page 08》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底
四人が魔力灯を向けた先にあったのは、縦穴から続く横穴のトンネル。
そして、そのトンネルには大量の骸骨がひしめき合っていた。
二足歩行の骸骨に、トカゲかドラゴンを思わせる頭蓋骨が乗っかった存在の群れが、まるで生きているかのように四人の方へ振り返る。
唖然とする四人。数秒の沈黙の後、一斉に驚きの声を上げる。
四人「うわああああっ!」
トカゲ頭の骸骨「キシャアアアッ!」
《page 09》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと骨を鳴らして襲いかかる、トカゲ頭の骸骨の群れ。
その先人をライアンが一太刀でまとめて斬り伏せる。
ライアン「スケルトン!? いや、何だこの頭!」
フェリシアが放った矢が後方のスケルトンの頭蓋骨を射抜く。
フェリシア「ああもう! うちらの武器じゃ相性最悪だし!」
剣でバラバラにされたスケルトンは自動的に組み直されて復活。
頭蓋骨を射抜かれたスケルトンはそもそも全く堪えていない。
二人の後方で守られたエディとステラの足元に、剣で弾かれたトカゲ頭の頭蓋骨が転がってくる。
エディ「うわっ!」
《page 10》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと歯を鳴らして動く頭蓋骨に慄くエディとステラ。
フェリシア「踏み砕いて! もしくは蹴っ飛ばして!」
ステラ「えっ、えいっ!」
ステラは何度か頭蓋骨を踏みつけるが、体重が足りないのか砕けるには至らない。
続いて思いっきり蹴っ飛ばすも、飛んでいった頭蓋骨を首無しのスケルトンがキャッチして、首の上に据えて行動を再開する。
エディ(砕けってことは、骨そのものを粉砕すれば倒せるのか?)
エディ(それなら炸裂弾で……)
エディは腰の鞄に手を伸ばそうとしたが、直前で思いとどまる。
エディ(いやいや! こんな狭い場所で使ったら、皆まとめて自爆するだけだ!)
そのとき、ステラが持ち運んでいた通信器に着信が入り、パトリックの声が響く。
パトリック(通信)『今の悲鳴は!? 何があったんですか!』
《page 11》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
すかさずステラが通信器越しに現状を報告する。
ステラ「ス、スケルトンがたくさんいます! 弓も剣も効かないし、どうしたら!」
パトリック『スケルトン! でしたら、強い光が弱点かもしれません!』
パトリック『私もすぐに向かいます! 持ちこたえてください!』
ステラ「強い光……そうだ! これなら! 最大出力で!」
ステラが携行型の魔力灯をスケルトンに向け、それを見たエディも同じようにする。
唸り声を上げて怯むスケルトンの群れ。しかし倒すには至らない。
フェリシア「効いてる! けど……」
ライアン「威力不足って感じだな。もっと強い光あれば……」
もっと強い光と聞いて、エディがハッと何かを思い出す。
《page 12》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
急いで鞄から筒状の魔導器を取り出すエディ。
炸裂弾よりも魔力灯の方と似ている。
エディ「僕がやります! 合図をしたら目を瞑ってください!」
ライアン「任せた!」
フェリシア「ライアン! 一旦距離取って!」
手近なスケルトンを斬り伏せてから、後ろに飛び退くライアン。
エディ「投げます! 目を閉じて!」
すかさず、エディは円筒形の魔導器を投擲する。
《page 13》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
魔導器から放たれた凄まじい光が周囲一体を飲み込む。
目を瞑り、腕を盾にして眩しさに耐えるパーティーメンバー。
強烈な光を浴び、断末魔の悲鳴を上げて崩壊していくスケルトン。
《page 14》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
光が消えた頃には、行く手を阻んでいたスケルトンの群れが全滅していた。
身構えたままホッと息をつくライアンとフェリシア。
ステラは大袈裟なくらいに喜んで、エディに後ろから飛びついた。
ステラ「や……やったぁ!」
エディ「うわっ! ちょ、ちょっと……!」
そこにパトリックも階段を駆け下りてきて、戦いが終わったことを把握して安堵する。
パトリック「皆さん! 今の光は!」
パトリック「……なるほど、エドワード君がやってくれたようですね」
《page 15》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
フェリシア「凄いじゃん、エドっち! 今のも発明品?」
エディ「携行型魔力灯の失敗作ですよ」
エディ「光量調節回路に欠陥があって、全魔力をまとめて光に変えちゃうんです」
エディ「宿に置いてきたつもりだったんですけど、うっかり鞄に入れてたみたいで」
エディ「……まさかこんな使い方ができるとか、夢にも思ってませんでしたよ」
真面目な説明をしている間も、ステラはエディの背中にくっついたままで、エディも露骨に背中とステラを気にしている。
ライアン「ははっ! ツイてるな、お前!」
ライアン「よし! この調子で奥まで行くぞ!」
《page 16》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下通路
明かり一つない真っ暗な地下通路を、魔力灯で照らしながら進んでいく。
やがて先頭を行くライアンが立ち止まり、魔力灯を左右に動かして周囲の様子を確認する。
ライアン「ここから先は……通路じゃないな。ホールみたいに広くなってるのか?」
全員で通路の先の地下ホールに明かりを向ける。
すると、地下ホールの奥に巨大な影が鎮座しているのが見えた。
《page 17》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール
影の正体はミイラ化したドラゴンの亡骸。
暗闇の中、五人分の魔力灯の光に照らしあげられている。
ライアンとパトリックとフェリシアの三人は、大発見を前にして喜色満面。
ライアン「す、すげぇ! とんでもないもん見つけちまった!」
パトリック「ミイラ化したドラゴン! しかもこんなに状態が良いとは!」
フェリシア「これギルドに報告したら、大幅加点間違いなしでしょ! 全員ランクアップもあるって!」
《page 18》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
三人が喜びに湧く一方で、エディは知的好奇心に突き動かされ、夢中になってドラゴンの亡骸を観察していた。
エディ(ドラゴンの死体なんて、学院の骨格標本しか見たことない!)
エディ(全長はどれくらいだ? 十メートル? 十五メートル? 丸まってるから分かりにくい!)
エディ(さっきのスケルトンがトカゲ頭だったのも、ひょっとしてこのドラゴンと関係が?)
エディ(ていうか、どうしてこんな地下深くにドラゴンの死体が……あれ?)
エディはドラゴンの亡骸の違和感に気が付き、その箇所を間近から覗き込んだ。
《page 19》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ドラゴンの亡骸は、部分的に機械と置き換えられていた。
現代的な機械ではなく、エディの魔導器と同じような系統のデザイン。
いわばファンタジー風サイボーグドラゴン。
エディ(信じられない! 体の一部が、魔導器に置き換えられてる!)
エディ(古代魔法文明はこんなこともできたんだ!)
興奮にぞくぞくと打ち震えるエディ。
エディ(……いや、別に同じことをやりたいわけじゃない……ないんだけど……)
エディ(魔導器が秘めている可能性は、僕が思っていたよりもずっと大きい!)
エディ(だってそうだろ! 生き物とくっつけることすらできたんだから!)
エディ(それなら僕だって……!)
ちょうどそのタイミングで、エディの内心など知る由もないフェリシアが、何気ない一言をぽつりと漏らす。
フェリシア「あれ? ステラ? どこ行った?」
それを聞いて、エディはハッとして思索を打ち切り、周囲を見渡した。
《page 20》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラは他の仲間達から離れ、ドラゴンの亡骸に背を向けて、壁を魔力灯で照らしていた。
安堵して駆け寄るエディ。しかしステラはエディに目もくれず、彫刻が施された壁を見上げている。
エディもつられて壁を見上げる。
そこに施された彫刻は、まるで空に浮かぶ島々と、そこに向かって飛翔するドラゴンの群れを描いているように見えた。
《page 21》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラはなにかに魅入られたかのように、じっと彫刻を見上げている。
エディは彫刻に対しても、ステラの雰囲気に対しても困惑気味。
エディ「何だろう、これ……彫刻の様式は、古代魔法文明と同じみたいだけど……」
ステラ「……お父様が言ってたとおりだ」
エディ「えっ?」
ステラ「古代魔法文明の空中都市……お父様は、間違ってなかった……!」
壁の彫刻に再度フォーカスしたコマでシーン終了、場面転換。
ステラの様子がおかしくなった原因の説明は一旦お預け。
《page 22》
◯冒険者ギルド本部前など
ギルド本部の外観を大コマで描き、場面転換したことを分かりやすく提示。
そのコマにエディのモノローグを添えて、諸々の状況説明をする。
エディ(モノローグ)
「あの後、僕達はドラゴンのミイラを遺跡の底に残したまま、すぐにオリエンスの街に帰還した」
「さすがに持ち帰るのは無理だったし、下手に調べようとしたら却って台無しにしてしまうかもしれない」
「これ以上の調査は冒険者ギルドに任せようというになったのだ」
普段と変わらない様子のステラの描写を一コマ挿入。
エディ(モノローグ)
「ステラの様子がおかしかったのは、例の石板の前にいる間だけだった」
「遺跡を離れた頃にはすっかり元の調子に戻っていて、大発見の興奮を皆と熱く語り合っていた」
調査に取り掛かる専門家達(冒険者)のイメージ映像。
エディ(モノローグ)
「ギルドの対応はとても早かった」
「すぐさま専門チームを編成し、遺跡とドラゴンのミイラの調査を開始」
「そして僕達は――」
《page 23》
◯冒険者ギルド本部
1~2話に登場した大柄の冒険者のイグナシオが、エディ達5人に探索結果の評価を伝える。
イグナシオ「Cランク冒険者、ライアン・ハートフィールド」
イグナシオ「Dランク冒険者、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「Eランク冒険者、エドワード・オグデン、ステラ・アルヴァ」
イグナシオ「君達の活躍はギルドの上層部にも伝わっている」
イグナシオ「これまで見落とされていた遺跡の発見。不可思議な改造が施されたドラゴンの死体の発見。学術的な価値の高い壁画の発見」
イグナシオ「本格的な調査はまだ始まったばかりだが、いずれも『発見した』という事実だけで、高く評価されるべき実績だ」
イグナシオ「よって――」
《page 24》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
イグナシオ「ライアン・ハートフィールド、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「以上三名をワンランクの昇格とする」
声を上げずに、それぞれの性格に合った表情で喜びを露わにする三人。
イグナシオ「残る二名は、依頼達成回数が不足しているため、残念ながら今すぐ昇格というわけにはいかない」
エディ(う、やっぱりそうなるか。ほんと昇級とか昇格に縁がないよなぁ)
イグナシオ「だがその代わりに、ギルドマスター代理が特別な配慮をしてくださるそうだ」
そこにスッと現れる何者かの影。
読者視点ではアレクサンドラだと察せられる程度の描写。
《page 25》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラはエディ達の働きぶりに満足している様子。
堂々とした態度に満足げな表情。
アレクサンドラ「ギルドマスター代理、アレクサンドラだ」
アレクサンドラ「既に一度、君達とは顔を合わせているな」
キョトンとするエディとステラ。
一拍の間を置いて、第2話で二人にライアンを紹介した謎の女性が、アレクサンドラと同一人物であることに気が付き、二人揃って驚きの声を上げる。
エディ&ステラ「あああっ! あのときの!」
アレクサンドラ「君達が冒険者になった理由は把握している」
アレクサンドラ「だからこそハートフィールドのパーティーを紹介したのだが、まさに期待以上の成果を上げてくれたな」
アレクサンドラ「ランクアップを報奨にできない代わりに、微力ながら君達の目的を支援させてもらおう」
エディ&ステラ「!?」
《page 26》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「まずは、ステラ・アルヴァ。君には例の遺跡の研究チームに加わってもらう」
アレクサンドラ「ドラゴンの分析ではなく、遺跡自体の調査を担当するパーティーだ」
ステラ「あ……ありがとうございます!」
アレクサンドラ「無論、最初はEランク相当の役目しか任されないだろう。後は君の働き次第だ」
ステラ「分かってます! 頑張ります!」
やる気充分に燃え上がるステラ。
エディの脳裏に、壁画の前で真剣な面持ちになったステラの横顔が蘇る。
あれは今のステラと比べて、あまりにもギャップがある姿だった。
《page 27》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
エディ(遺跡……壁画……お父様……)
エディ(ステラが冒険者になった理由、僕とは全然違うんだろうな……)
エディ(金のためじゃなくて、きっと何か知りたかったことがあったんだ……)
アレクサンドラ「続いて、エドワード・オグデン」
エディ「は、はい!」
アレクサンドラ「君はステラ・アルヴァとは違い、冒険者になる必要があったのではない」
アレクサンドラ「目的を達成する手段はいくつもあったが、その中でも冒険者が最も効率がよかったというだけのこと」
アレクサンドラ「目的さえ果たせるのであれば、冒険者らしい仕事に拘る動機はない。そうだな?」
エディ(この人……本当に僕の目的を知ってるんだ……)
エディ(冒険者ギルドの情報収集能力、本当にとんでもないんだな……)
《page 28》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
ページの前半に、不敵な顔で凄いことを言い切るアレクサンドラを。
ページの後半に、驚きの余り絶句するエディを。
それぞれ大コマで描写して強いインパクトを出す。
アレクサンドラ「ならば、今日限りで冒険者を辞めたまえ」
エディ「え゛っ」
《page 29》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「代わりに君をギルド職員としてスカウトしたい」
アレクサンドラ「低ランクの冒険者と比べれば格段に稼げることは保証しよう」
アレクサンドラ「君の才能は最前線で活かせるものではない」
アレクサンドラ「『技術者』あるいは『研究者』として活躍するべきだ」
エディ「……僕の、才能……」
脳裏に魔導学院時代の思い出が蘇る。
座学以外では失敗ばかりで、昇級を賭けた実技試験は見るも無惨な大失敗。
教師から『魔導師の才能がない』と言われることすらあった。
エディ「僕にも、才能が……」
手のひらを見つめ、ギュッと握り込むエディ。
《page 30》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
エディは意を決して顔を上げ、アレクサンドラに力強く返答する。
エディ「やります! やらせてください!」
アレクサンドラ「そう言ってくれると信じていた」
アレクサンドラ「多彩な知識と魔導器造りの才能、ギルド職員として余すところなく活かしてくれ」
アレクサンドラ「さっそくだが……ステラ・アルヴァ」
ステラ「ひゃいっ!?」
ステラは急に話を振られて驚き、上ずった変な声を出してしまう。
アレクサンドラ「君が偽冒険者に襲われたところを、エドワードが自作の魔導器で助け出した」
アレクサンドラ「それが君達の関係の始まりだと聞いている。間違いないか?」
ステラ「え、えっと、初めて会ったのはそのちょっと前で……」
ステラ「でも、仲良くなったキッカケ、っていう意味なら、はい」
《page 31》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「結構。では、その偽冒険者はギルドカードを持っていたか?」
ステラ「それはよく覚えてます! 持ってました!」
エディ「え、そうなのか?」
ステラ「そうだよ! 持ってなかったら騙されてないってば!」
ぷんすかと擬音が出そうな顔で怒るステラ。
ギルドカードも持っていない自称冒険者に騙された、と思われたのが不服な様子。
エディ「でも、偽冒険者って」
アレクサンドラ「偽造品だ。奴らは偽造されたギルドカードを所持していた」
アレクサンドラ「完璧には程遠いが、良く見なければ騙せる程度の、な」
心の底から驚くエディとステラ、そしてライアン達。
《page 32》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
数ページほど静かにしていたライアン達も、ギルドカードの偽造という衝撃的な発言に、たまらず首を突っ込んでくる。
ライアン「ちょ、ちょっと待ってください! ギルドカードの偽造はできないんじゃ!」
アレクサンドラ「技術的には困難だが、原理的に不可能というわけではない」
アレクサンドラ「ギルドカードの偽造を困難にしている要因は、素材の金属板の各所に用いられた特殊な技巧の彫り込みだ」
アレクサンドラが自分のカードを取り出してみせる。
AAAランクが刻印された、エディ達の低ランクカードよりも精緻な彫刻が施された金属製カード。
アレクサンドラ「しかし、この技法も発明から既に三十年」
アレクサンドラ「贋作者達の技術が追いついたとしても不思議はない」
パトリック「それはかなり拙いのでは……!」
アレクサンドラ「ああ、由々しき事態だとも。冒険者ギルドにとって、最も重要な財産は信頼だ」
アレクサンドラ「偽冒険者の跋扈を許せば、世間からの信頼が大いに損なわれてしまう」
《page 33》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
フェリシア「あのー……これ、うちらが聞いていい話なんです?」
アレクサンドラ「一流たるBランク冒険者が率いるパーティーならば問題あるまい」
アレクサンドラ「無論、守秘義務は厳守してもらうがな」
フェリシア「うわぁ、怖……漏らしたら次の日に死体で見つかる奴だ……」
改めてエディに向き直るアレクサンドラ。
アレクサンドラ「贋作者の捜索を初めとして、我々も様々な対応を進めてはいる」
アレクサンドラ「しかし抜本的な解決策を講じなければ、また別の輩が問題を再燃させるに違いない」
アレクサンドラ「そこでだ。エドワード・オグデン。君に初仕事を与える」
嫌な予感を覚え、顔をひきつらせるエディ。
《page 34》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「偽造困難な次世代型のギルドカード。君にはこれを開発してもらいたい」
エディ(やっぱりそうなるか――!)
アレクサンドラが信頼と共に押し付けてきた初仕事。
エディはさっそくプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
◯未開領域 名もなき遺跡 大きな扉の向こう
扉の向こうのホール的な大部屋の床に、大きな縦穴が開いている。
床が壊れたというわけではなく、設計通りに作られたちゃんとした穴で、壁沿いに石の螺旋階段が設けられている。
前話の最終ページではライアンだけが大穴を目撃していたが、このページは別行動していた全員が駆けつけたところからスタート。
エディ「ライアンさん! 何なんですか、これ!」
ライアン「俺も何がなんだか。扉が開いたと思ったらこんな有様だ」
《page 02》
五人揃って大穴を見下ろす。
天井の亀裂から注ぐ光のお陰で、穴の周囲はそこそこ明るいが、穴の中は完全な真っ暗闇。
ライアン「あそこまで厳重に守られてたんだ。絶対に無意味な穴じゃないと思うんだが……」
エディ「暗すぎて底が全く見えない……」
パトリック「階段がある以上、人間が降りることを前提としていたのは間違いないでしょう」
ステラ「それじゃあ降りてみる?」
フェリシア「ちょい待ち! まずは息ができるか確かめてから!」
フェリシア「とりあえず、これ燃やして落としてみよう。誰か火種貸して」
フェリシアが布切れを筒状に丸めた小さなモノを取り出す。
《page 03》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴の前
エディがとっさに、火属性の魔法で指先程度の小さな火を出して、布切れに着火する。
エディ「どうぞ」
フェリシア「ありがと……って、やっぱりエドっち、魔導師なんじゃ?」
エディ「は、ははは、まさかそんな」
乾いた声で笑ってごまかすエディ。
フェリシアは深く追求しようとせず、着火した布切れの塊を穴に放り投げようとする。
フェリシア「投げたら一旦外に出るよ。爆発とかしたら大変だから」
エディ「可燃ガスですね」
フェリシア「そうそう、それそれ、んじゃ、投げるよ」
フェリシアが火を投げ入れたのと同時に、ひとまず全員部屋の外に出る。
《page 04》
◯未開領域 名もなき遺跡 大穴がある大部屋の外
そのまましばらく様子を伺うが、爆発する様子は全くない。
再び穴の近くに戻って覗き込んでみると、深い穴の底に小さな光が見える。
フェリシア「少なくとも呼吸はできそうだね。水没してるってこともなさそう」
ライアン「よし、降りてみるか」
パトリック「私は上に残ります。一網打尽になることだけは避けなければ」
ライアン「頼んだ。何かあったらすぐに連絡する」
ライアン「普段は簡単に別行動とかできねぇけど、今回は心強い味方がいるからな」
肩から下げた通信器を強調するライアン。
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段
場面転換のワンクッションの演出。螺旋階段を降りていることが分かる背景の描写。
《page 05》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
螺旋階段を降りていくエディ達四人。
全員が懐中電灯のような携行型の照明を持っていて、それで足元や進行方向を照らしている。
フェリシア「通信器も凄かったけど、こいつも凄いね! 松明よりずっと便利だわ!」
ライアン「これもエドワードの発明か?」
エディ「発明っていうほど凝ったものじゃないですよ」
エディ「魔導師がランプの代わりに使う照明器具を、ちょっと改造して手持ち式にしただけです」
エディ「いちいち照明魔法を使うのも面倒くさいっていう人が、魔力を通したら発光する石を照明に使って……る、と聞きまして」
フェリシア(嘘吐くの下手だなぁ、この子)
《page 06》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
何もない螺旋階段を降りていく間の暇つぶしも兼ねて、エディが発明品についての説明をし続ける。
エディ「魔導師が使うときは数時間分の魔力を一気に注ぐんですけど、普通の人間はそんなことできませんからね」
エディ「エネルギー源として魔石なんかを詰めて、スイッチ操作でオンオフとか出力とかを切り替えられるように……って、どうかした?」
エディの前を歩いていたステラが、振り返って慈しむような眼差しを向けている。
ステラ「エディって、発明のこと話してるとき、凄く楽しそうだよね」
エディ「そ、そうか?」
エディ本人は自覚がなかったので、困惑や気恥ずかしさが入り混じった反応しかできない。
ステラ「確か、この前『稼げるだけ稼ぎたい』って言ってたよね」
ステラ「こんなに凄いの作れちゃうんだし、冒険者より発明家やってる方がお金持ちになれたりして」
ステラは雑談として冗談っぽく言っただけだったが、エディは真剣な面持ちで目を剥いた。
《page 07》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の螺旋階段(前ページから継続)
エディ(魔導器を売って稼ぐ……そんなの考えたこともなかった)
エディ(ていうか、どうして今の今まで思いつかなかったんだ)
エディ(魔法と比べれば完成度が低くても、必要としている人がいれば買ってもらえる)
エディ(冒険者が欲しがる魔導器を作って売れば、学費を稼ぎながら誰かの助けになれる)
エディ(これだ! きっと、これが一番いいやり方だ!)
エディがそんなことを考えている間に、一行は螺旋階段を降りきって縦穴の底に到着する。
エディ(……っと、今は探索に集中しないと。請け負った仕事を投げ出すわけには……)
懐中電灯ならぬ懐中魔力灯を、足元から正面に振り向ける。
《page 08》
◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底
四人が魔力灯を向けた先にあったのは、縦穴から続く横穴のトンネル。
そして、そのトンネルには大量の骸骨がひしめき合っていた。
二足歩行の骸骨に、トカゲかドラゴンを思わせる頭蓋骨が乗っかった存在の群れが、まるで生きているかのように四人の方へ振り返る。
唖然とする四人。数秒の沈黙の後、一斉に驚きの声を上げる。
四人「うわああああっ!」
トカゲ頭の骸骨「キシャアアアッ!」
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと骨を鳴らして襲いかかる、トカゲ頭の骸骨の群れ。
その先人をライアンが一太刀でまとめて斬り伏せる。
ライアン「スケルトン!? いや、何だこの頭!」
フェリシアが放った矢が後方のスケルトンの頭蓋骨を射抜く。
フェリシア「ああもう! うちらの武器じゃ相性最悪だし!」
剣でバラバラにされたスケルトンは自動的に組み直されて復活。
頭蓋骨を射抜かれたスケルトンはそもそも全く堪えていない。
二人の後方で守られたエディとステラの足元に、剣で弾かれたトカゲ頭の頭蓋骨が転がってくる。
エディ「うわっ!」
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
カタカタと歯を鳴らして動く頭蓋骨に慄くエディとステラ。
フェリシア「踏み砕いて! もしくは蹴っ飛ばして!」
ステラ「えっ、えいっ!」
ステラは何度か頭蓋骨を踏みつけるが、体重が足りないのか砕けるには至らない。
続いて思いっきり蹴っ飛ばすも、飛んでいった頭蓋骨を首無しのスケルトンがキャッチして、首の上に据えて行動を再開する。
エディ(砕けってことは、骨そのものを粉砕すれば倒せるのか?)
エディ(それなら炸裂弾で……)
エディは腰の鞄に手を伸ばそうとしたが、直前で思いとどまる。
エディ(いやいや! こんな狭い場所で使ったら、皆まとめて自爆するだけだ!)
そのとき、ステラが持ち運んでいた通信器に着信が入り、パトリックの声が響く。
パトリック(通信)『今の悲鳴は!? 何があったんですか!』
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
すかさずステラが通信器越しに現状を報告する。
ステラ「ス、スケルトンがたくさんいます! 弓も剣も効かないし、どうしたら!」
パトリック『スケルトン! でしたら、強い光が弱点かもしれません!』
パトリック『私もすぐに向かいます! 持ちこたえてください!』
ステラ「強い光……そうだ! これなら! 最大出力で!」
ステラが携行型の魔力灯をスケルトンに向け、それを見たエディも同じようにする。
唸り声を上げて怯むスケルトンの群れ。しかし倒すには至らない。
フェリシア「効いてる! けど……」
ライアン「威力不足って感じだな。もっと強い光あれば……」
もっと強い光と聞いて、エディがハッと何かを思い出す。
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
急いで鞄から筒状の魔導器を取り出すエディ。
炸裂弾よりも魔力灯の方と似ている。
エディ「僕がやります! 合図をしたら目を瞑ってください!」
ライアン「任せた!」
フェリシア「ライアン! 一旦距離取って!」
手近なスケルトンを斬り伏せてから、後ろに飛び退くライアン。
エディ「投げます! 目を閉じて!」
すかさず、エディは円筒形の魔導器を投擲する。
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
魔導器から放たれた凄まじい光が周囲一体を飲み込む。
目を瞑り、腕を盾にして眩しさに耐えるパーティーメンバー。
強烈な光を浴び、断末魔の悲鳴を上げて崩壊していくスケルトン。
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
光が消えた頃には、行く手を阻んでいたスケルトンの群れが全滅していた。
身構えたままホッと息をつくライアンとフェリシア。
ステラは大袈裟なくらいに喜んで、エディに後ろから飛びついた。
ステラ「や……やったぁ!」
エディ「うわっ! ちょ、ちょっと……!」
そこにパトリックも階段を駆け下りてきて、戦いが終わったことを把握して安堵する。
パトリック「皆さん! 今の光は!」
パトリック「……なるほど、エドワード君がやってくれたようですね」
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◯未開領域 名もなき遺跡 縦穴の底(前ページから継続)
フェリシア「凄いじゃん、エドっち! 今のも発明品?」
エディ「携行型魔力灯の失敗作ですよ」
エディ「光量調節回路に欠陥があって、全魔力をまとめて光に変えちゃうんです」
エディ「宿に置いてきたつもりだったんですけど、うっかり鞄に入れてたみたいで」
エディ「……まさかこんな使い方ができるとか、夢にも思ってませんでしたよ」
真面目な説明をしている間も、ステラはエディの背中にくっついたままで、エディも露骨に背中とステラを気にしている。
ライアン「ははっ! ツイてるな、お前!」
ライアン「よし! この調子で奥まで行くぞ!」
《page 16》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下通路
明かり一つない真っ暗な地下通路を、魔力灯で照らしながら進んでいく。
やがて先頭を行くライアンが立ち止まり、魔力灯を左右に動かして周囲の様子を確認する。
ライアン「ここから先は……通路じゃないな。ホールみたいに広くなってるのか?」
全員で通路の先の地下ホールに明かりを向ける。
すると、地下ホールの奥に巨大な影が鎮座しているのが見えた。
《page 17》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール
影の正体はミイラ化したドラゴンの亡骸。
暗闇の中、五人分の魔力灯の光に照らしあげられている。
ライアンとパトリックとフェリシアの三人は、大発見を前にして喜色満面。
ライアン「す、すげぇ! とんでもないもん見つけちまった!」
パトリック「ミイラ化したドラゴン! しかもこんなに状態が良いとは!」
フェリシア「これギルドに報告したら、大幅加点間違いなしでしょ! 全員ランクアップもあるって!」
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◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
三人が喜びに湧く一方で、エディは知的好奇心に突き動かされ、夢中になってドラゴンの亡骸を観察していた。
エディ(ドラゴンの死体なんて、学院の骨格標本しか見たことない!)
エディ(全長はどれくらいだ? 十メートル? 十五メートル? 丸まってるから分かりにくい!)
エディ(さっきのスケルトンがトカゲ頭だったのも、ひょっとしてこのドラゴンと関係が?)
エディ(ていうか、どうしてこんな地下深くにドラゴンの死体が……あれ?)
エディはドラゴンの亡骸の違和感に気が付き、その箇所を間近から覗き込んだ。
《page 19》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ドラゴンの亡骸は、部分的に機械と置き換えられていた。
現代的な機械ではなく、エディの魔導器と同じような系統のデザイン。
いわばファンタジー風サイボーグドラゴン。
エディ(信じられない! 体の一部が、魔導器に置き換えられてる!)
エディ(古代魔法文明はこんなこともできたんだ!)
興奮にぞくぞくと打ち震えるエディ。
エディ(……いや、別に同じことをやりたいわけじゃない……ないんだけど……)
エディ(魔導器が秘めている可能性は、僕が思っていたよりもずっと大きい!)
エディ(だってそうだろ! 生き物とくっつけることすらできたんだから!)
エディ(それなら僕だって……!)
ちょうどそのタイミングで、エディの内心など知る由もないフェリシアが、何気ない一言をぽつりと漏らす。
フェリシア「あれ? ステラ? どこ行った?」
それを聞いて、エディはハッとして思索を打ち切り、周囲を見渡した。
《page 20》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラは他の仲間達から離れ、ドラゴンの亡骸に背を向けて、壁を魔力灯で照らしていた。
安堵して駆け寄るエディ。しかしステラはエディに目もくれず、彫刻が施された壁を見上げている。
エディもつられて壁を見上げる。
そこに施された彫刻は、まるで空に浮かぶ島々と、そこに向かって飛翔するドラゴンの群れを描いているように見えた。
《page 21》
◯未開領域 名もなき遺跡 地下ホール(前ページから継続)
ステラはなにかに魅入られたかのように、じっと彫刻を見上げている。
エディは彫刻に対しても、ステラの雰囲気に対しても困惑気味。
エディ「何だろう、これ……彫刻の様式は、古代魔法文明と同じみたいだけど……」
ステラ「……お父様が言ってたとおりだ」
エディ「えっ?」
ステラ「古代魔法文明の空中都市……お父様は、間違ってなかった……!」
壁の彫刻に再度フォーカスしたコマでシーン終了、場面転換。
ステラの様子がおかしくなった原因の説明は一旦お預け。
《page 22》
◯冒険者ギルド本部前など
ギルド本部の外観を大コマで描き、場面転換したことを分かりやすく提示。
そのコマにエディのモノローグを添えて、諸々の状況説明をする。
エディ(モノローグ)
「あの後、僕達はドラゴンのミイラを遺跡の底に残したまま、すぐにオリエンスの街に帰還した」
「さすがに持ち帰るのは無理だったし、下手に調べようとしたら却って台無しにしてしまうかもしれない」
「これ以上の調査は冒険者ギルドに任せようというになったのだ」
普段と変わらない様子のステラの描写を一コマ挿入。
エディ(モノローグ)
「ステラの様子がおかしかったのは、例の石板の前にいる間だけだった」
「遺跡を離れた頃にはすっかり元の調子に戻っていて、大発見の興奮を皆と熱く語り合っていた」
調査に取り掛かる専門家達(冒険者)のイメージ映像。
エディ(モノローグ)
「ギルドの対応はとても早かった」
「すぐさま専門チームを編成し、遺跡とドラゴンのミイラの調査を開始」
「そして僕達は――」
《page 23》
◯冒険者ギルド本部
1~2話に登場した大柄の冒険者のイグナシオが、エディ達5人に探索結果の評価を伝える。
イグナシオ「Cランク冒険者、ライアン・ハートフィールド」
イグナシオ「Dランク冒険者、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「Eランク冒険者、エドワード・オグデン、ステラ・アルヴァ」
イグナシオ「君達の活躍はギルドの上層部にも伝わっている」
イグナシオ「これまで見落とされていた遺跡の発見。不可思議な改造が施されたドラゴンの死体の発見。学術的な価値の高い壁画の発見」
イグナシオ「本格的な調査はまだ始まったばかりだが、いずれも『発見した』という事実だけで、高く評価されるべき実績だ」
イグナシオ「よって――」
《page 24》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
イグナシオ「ライアン・ハートフィールド、パトリック・ブライトマン、フェリシア・ヒル」
イグナシオ「以上三名をワンランクの昇格とする」
声を上げずに、それぞれの性格に合った表情で喜びを露わにする三人。
イグナシオ「残る二名は、依頼達成回数が不足しているため、残念ながら今すぐ昇格というわけにはいかない」
エディ(う、やっぱりそうなるか。ほんと昇級とか昇格に縁がないよなぁ)
イグナシオ「だがその代わりに、ギルドマスター代理が特別な配慮をしてくださるそうだ」
そこにスッと現れる何者かの影。
読者視点ではアレクサンドラだと察せられる程度の描写。
《page 25》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラはエディ達の働きぶりに満足している様子。
堂々とした態度に満足げな表情。
アレクサンドラ「ギルドマスター代理、アレクサンドラだ」
アレクサンドラ「既に一度、君達とは顔を合わせているな」
キョトンとするエディとステラ。
一拍の間を置いて、第2話で二人にライアンを紹介した謎の女性が、アレクサンドラと同一人物であることに気が付き、二人揃って驚きの声を上げる。
エディ&ステラ「あああっ! あのときの!」
アレクサンドラ「君達が冒険者になった理由は把握している」
アレクサンドラ「だからこそハートフィールドのパーティーを紹介したのだが、まさに期待以上の成果を上げてくれたな」
アレクサンドラ「ランクアップを報奨にできない代わりに、微力ながら君達の目的を支援させてもらおう」
エディ&ステラ「!?」
《page 26》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「まずは、ステラ・アルヴァ。君には例の遺跡の研究チームに加わってもらう」
アレクサンドラ「ドラゴンの分析ではなく、遺跡自体の調査を担当するパーティーだ」
ステラ「あ……ありがとうございます!」
アレクサンドラ「無論、最初はEランク相当の役目しか任されないだろう。後は君の働き次第だ」
ステラ「分かってます! 頑張ります!」
やる気充分に燃え上がるステラ。
エディの脳裏に、壁画の前で真剣な面持ちになったステラの横顔が蘇る。
あれは今のステラと比べて、あまりにもギャップがある姿だった。
《page 27》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
エディ(遺跡……壁画……お父様……)
エディ(ステラが冒険者になった理由、僕とは全然違うんだろうな……)
エディ(金のためじゃなくて、きっと何か知りたかったことがあったんだ……)
アレクサンドラ「続いて、エドワード・オグデン」
エディ「は、はい!」
アレクサンドラ「君はステラ・アルヴァとは違い、冒険者になる必要があったのではない」
アレクサンドラ「目的を達成する手段はいくつもあったが、その中でも冒険者が最も効率がよかったというだけのこと」
アレクサンドラ「目的さえ果たせるのであれば、冒険者らしい仕事に拘る動機はない。そうだな?」
エディ(この人……本当に僕の目的を知ってるんだ……)
エディ(冒険者ギルドの情報収集能力、本当にとんでもないんだな……)
《page 28》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
ページの前半に、不敵な顔で凄いことを言い切るアレクサンドラを。
ページの後半に、驚きの余り絶句するエディを。
それぞれ大コマで描写して強いインパクトを出す。
アレクサンドラ「ならば、今日限りで冒険者を辞めたまえ」
エディ「え゛っ」
《page 29》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「代わりに君をギルド職員としてスカウトしたい」
アレクサンドラ「低ランクの冒険者と比べれば格段に稼げることは保証しよう」
アレクサンドラ「君の才能は最前線で活かせるものではない」
アレクサンドラ「『技術者』あるいは『研究者』として活躍するべきだ」
エディ「……僕の、才能……」
脳裏に魔導学院時代の思い出が蘇る。
座学以外では失敗ばかりで、昇級を賭けた実技試験は見るも無惨な大失敗。
教師から『魔導師の才能がない』と言われることすらあった。
エディ「僕にも、才能が……」
手のひらを見つめ、ギュッと握り込むエディ。
《page 30》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
エディは意を決して顔を上げ、アレクサンドラに力強く返答する。
エディ「やります! やらせてください!」
アレクサンドラ「そう言ってくれると信じていた」
アレクサンドラ「多彩な知識と魔導器造りの才能、ギルド職員として余すところなく活かしてくれ」
アレクサンドラ「さっそくだが……ステラ・アルヴァ」
ステラ「ひゃいっ!?」
ステラは急に話を振られて驚き、上ずった変な声を出してしまう。
アレクサンドラ「君が偽冒険者に襲われたところを、エドワードが自作の魔導器で助け出した」
アレクサンドラ「それが君達の関係の始まりだと聞いている。間違いないか?」
ステラ「え、えっと、初めて会ったのはそのちょっと前で……」
ステラ「でも、仲良くなったキッカケ、っていう意味なら、はい」
《page 31》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「結構。では、その偽冒険者はギルドカードを持っていたか?」
ステラ「それはよく覚えてます! 持ってました!」
エディ「え、そうなのか?」
ステラ「そうだよ! 持ってなかったら騙されてないってば!」
ぷんすかと擬音が出そうな顔で怒るステラ。
ギルドカードも持っていない自称冒険者に騙された、と思われたのが不服な様子。
エディ「でも、偽冒険者って」
アレクサンドラ「偽造品だ。奴らは偽造されたギルドカードを所持していた」
アレクサンドラ「完璧には程遠いが、良く見なければ騙せる程度の、な」
心の底から驚くエディとステラ、そしてライアン達。
《page 32》
◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
数ページほど静かにしていたライアン達も、ギルドカードの偽造という衝撃的な発言に、たまらず首を突っ込んでくる。
ライアン「ちょ、ちょっと待ってください! ギルドカードの偽造はできないんじゃ!」
アレクサンドラ「技術的には困難だが、原理的に不可能というわけではない」
アレクサンドラ「ギルドカードの偽造を困難にしている要因は、素材の金属板の各所に用いられた特殊な技巧の彫り込みだ」
アレクサンドラが自分のカードを取り出してみせる。
AAAランクが刻印された、エディ達の低ランクカードよりも精緻な彫刻が施された金属製カード。
アレクサンドラ「しかし、この技法も発明から既に三十年」
アレクサンドラ「贋作者達の技術が追いついたとしても不思議はない」
パトリック「それはかなり拙いのでは……!」
アレクサンドラ「ああ、由々しき事態だとも。冒険者ギルドにとって、最も重要な財産は信頼だ」
アレクサンドラ「偽冒険者の跋扈を許せば、世間からの信頼が大いに損なわれてしまう」
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◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
フェリシア「あのー……これ、うちらが聞いていい話なんです?」
アレクサンドラ「一流たるBランク冒険者が率いるパーティーならば問題あるまい」
アレクサンドラ「無論、守秘義務は厳守してもらうがな」
フェリシア「うわぁ、怖……漏らしたら次の日に死体で見つかる奴だ……」
改めてエディに向き直るアレクサンドラ。
アレクサンドラ「贋作者の捜索を初めとして、我々も様々な対応を進めてはいる」
アレクサンドラ「しかし抜本的な解決策を講じなければ、また別の輩が問題を再燃させるに違いない」
アレクサンドラ「そこでだ。エドワード・オグデン。君に初仕事を与える」
嫌な予感を覚え、顔をひきつらせるエディ。
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◯冒険者ギルド本部(前ページから継続)
アレクサンドラ「偽造困難な次世代型のギルドカード。君にはこれを開発してもらいたい」
エディ(やっぱりそうなるか――!)
アレクサンドラが信頼と共に押し付けてきた初仕事。
エディはさっそくプレッシャーに押し潰されそうになっていた。