『99でも普通の人間なら多い方ですが、それが一時間寝たからと言って回復するのはおかしい』

 その話に「でもしてるぞ?」と言うと、『はい。ですから他に理由があるはずです』と続け、『ス釣タスを確認してください』と言う。
 (マナ)(ポイン)(ちょう)の項目から下へと目線を移し、(ちょう)XPを確認。

 するとさっきは3万後半だった釣り経験が、今はほぼ0に近かった。
 正確に言うと30/85000といった感じに表示されている。
 それを伝えると、『やはり……ではレベルも上がっていませんか?』と相棒は言う。
 見れば確かに釣果レベルが60から71になっていて、上がっているとわかった。

「十一も上がっている!」
『予想通りですか。その他も上がっていると思いますが、この上がり方は普通じゃない』
「そうなのか。でも上がっているぞ?」
『ええ。そこで主が気絶した理由ですが、多分レベルアップをした瞬間に、MP釣が回復したとしか思えません』
「その言い方だと、それもイレギュラーぽいな」
「そうですね。主もこれまで表面では見えなかったけれど、レベルアップをしていました。でもそれに気が付きましたか?」

 相棒の言葉を思い出し、これまでの人生を考えてみる。
 たしかにある瞬間に〝釣りが上手くなった〟という感覚はあった。
 でも、今回みたいに気絶することなんて無かったし、今ならハッキリと分かる体の中にある力――MP釣を感じることはなかった。

 正直この島に来た時、妙な体の中の感覚に戸惑っていた。
 それは知らない場所にいることへの不安感からと思っていたが、どうやらその正体はMP釣を認識したことへの戸惑いだったらしい。
 
「言われてみるとこの島へ来てからだな……」
『でしょうね。普通は感じることも無いままに人生が終わるでしょうから。ですが主は神釣島へ来たことで覚醒し、それを使えるようになった』
「なるほどなぁ、まぁ納得したよ。それで気絶した理由は?」

 相棒は『これも憶測ですが』と言いながら話をつづける。
 どうやら何度もレベルアップを繰り返しながら、スキルを使い続けた事によるものだと言う。
 ただそれも確定したことではなく、理由は不明とのこと……スキルを使うのが少し怖い。

『まぁ主が普通の枠を超えて、無茶をしなければ大丈夫ですよ』
「べつにしたつもりも無いんだけどな」
『とは言え、ここで生き抜くにはスキルを使用しないと無理でしょうから、気絶しないように鍛えるしかないですね。そこでこれからの事ですが、衣・食・は整いました』

 相棒の言いたいことは俺も感じていた。だから続けてこう話す。

「後は住……つまり俺たちの家ってワケか。でもそれはそこの社でいいんじゃね?」

 背後にある不気味に朽ちた社。
 南国には似つかわしくない、よくある日本にある神社ぽい感じの建物に、右の親指をむけながら話す。

『いえ、そこはやめたほうがいいでしょう。あそこは〝(ことわり)〟が出た実例があります。もしかしたら再度遭遇するかもしれない……それでまた何か悪さをされても困りますからね』
「そ、それもそうだな。うん、ちがう所を探そうか」
『ええ。とはいえ、今夜はそこを使いましょうか。夜露は体によくありませんからね。明日になったら他の場所に家を作りましょう』

 それに「そうだな……」と言いながら、わん太郎をなでる。
 よほど満足したのか、「くぅ~くぅ~」といびきが聞こえてクスリと笑ってしまう。
 開けた森の間から見る星空は、見たことのない星座にあふれ、ココが異世界なのだとあらためて思い知る。
 大の字になって苔の布団へと倒れ込みながら、どこまでも高い星空をながめた。



 ◇◇◇



 ――大和が星空を眺めている頃と同時刻。
 とある大陸にある一つの国。その玉座の間で一つの決定が下された。
 だが玉座の主はなく、そこを囲みながら三人の男女が話す。