「――くぅッ、こいつはダメだ」
『どうされましたか?』

 眉間にシワをよせながら相棒へ、「あぁ、コイツはな」と続けて説明する。
 まず美味いかどうかと言われると確実に美味い(・・・)といえるが、問題はその美味さ……いや、旨さが問題だ。

 俺の知識に一番近しい味として、この草から感じる味は七つ。
 まず舌先にピリリとした刺激と風味が、肉や魚の味を引き立たせるので有名な香辛料である胡椒(こしょう)から始まり、・山椒(さんしょう)・レモングラス・ローズマリー・スィートマジョラム・タイム・セルバチコに似た風味といったモノが絡み合っていた。

 特に山椒がこれらの調和をぶちこわしていて、とてもじゃないがあの魚に使っても効果が無い。いや、むしろ逆効果になるのでは? とすら思う。
 こんなハーブは今まで聞いたことも食べたことないが、流石は異世界というところなのだろうか?

「――と、言うわけだ。ワンチャンあのドブ臭が赤金草(このくさ)と合わさる事で、悪臭が消える化学変化でもおこしてくれと願うばかりだな」
『ふむ。まぁ今はコレだけですから、持って帰って試してみましょう』

 うなずきながら「そうだな」といいつつ、わん太郎を頭の上に乗せて赤金草を採取する。
 質感は意外と柔らかく、幅二センチほどの草は小気味好い音とともにプリプリと葉がちぎれた。
 少しすると片腕に抱えられるほどになり、それを持っていく事とする。

「このくらいでいいんじゃね?」
『ですね。では早速あの社まで戻りましょうか。駄犬が再度凍らせてくれましたし、帰る頃にはちょうど良く溶けているでしょう』
「ルイベには最適だな。それにしてもコイツ……一体何者なんだろうな?」

 一度落としたにもかかわらず、相変わらず頭の上で寝ているわん太郎。
 左手で胴体をなでると、「もっと愛でるワン」と寝言を言っている。困ったやつだ。
 
 そのまま帰り道に相棒とヤツの事を話していると、気になる事を言い出す。

『そうですね……駄犬が言う、異界骨董やさん(・・・・・・・)と言う場所に心当たりがあります』
「マジで? どんな釣り堀だよ。行ってみたいんだけど」
『ハァ、本当に釣り馬鹿思考全開ですね。そこはまぁ、主がいた元の場所。つまり日本にあると聞いています』
「そうなの? へぇ~行ってみたかったなぁ」
『はい。噂では傾国の女狐が店主をしており、現実と異界の間に店があるらしいです。っと、着きましたね』

 もっと聞きたかったが、今は空腹を満たすことで頭が一杯の腹減り部族の俺だ。
 目的の社近くまで来たことで、思わず走り出す。マジで若い。
 石の上に置いた、糸を釣り上げたバナナの木に似た木の葉っぱの上に、いい感じに溶けたルイベとなった魚が水分をしたたり落としながら俺をまつ。

 さらにいい感じに臭みも抜けたと思いながら、池で軽く赤金草を洗ってからいよいよ調理をしてみる。

「よし料理するぞ! と、言っても……道具もねぇし、とりあえず草に巻いて食べてみるか」
『それがいいでしょうな。おっと、駄犬が持ってきた藻塩(もしお)を振りかけるのもお忘れなく』

 それに「わかった」と言いながら、わん太郎が持ってきた小瓶の中から藻塩をひとつまみ。
 藻塩は薄いベージュ色をした旨味の塊だ。
 
 そのワケは自然の恵みをふんだんに使ったといえる。
 なぜなら海藻の成分のひとつであるヨードがある。そして海藻に豊富に溶け込んだミネラル。つまり、カリウム・マグネシウム・カルシウムなどが食材の味わいを豊かにしてくれるんだよね。

 それをまずパラリとかけて、ルイベとなった切り身を赤金色の草ではさみながら口の中へと放り込む。
 するとどうだろう。あれほど酷い香りだったが、何とか我慢して食べれるレベルにまでなった。

「……まぁ、なんとか食べられるけどさ、やっぱりだめだ。臭みが消えた代わりにエグみが出た感じだな。やっぱり山椒の風味が邪魔をしているし、レモングラスと愛称も悪そうだ」

 まぁ腹は満たされるかもしれないけど、こんな酷い物をこれからずっと食わないといけないかと思うと悲しくなる。
 そう思ってルイベを見つめていると、相棒が『ふむ、それなら解決するでしょう』と言い出す。