「じゃあねー!」
みずきの元気な声に適当に返す。学校の最寄りの改札でいつもより早い時間にわかれた私は開放感を感じつつ気を抜きすぎないよう気をつける。
今日はみずきが予定があるらしいから早く帰れる。みずきには申し訳ないけれど正直気楽だし嬉しい、けれど今日はバイトだ。一度家に帰ったあともう一度出なければ行けないのはかなり面倒で。自分の趣味のためのバイトでもやっぱり憂鬱になる。みずきが見えなくなった瞬間帰るために移動を始めた私はそんなことを思いながら駅ホームへと向かった。

バイト終わり、疲れきったままベッドでスマホをいじっていると、あるネット小説サイトの通知。
『碧凪さんが新作を投稿しました』
その文を見た私はつい瞬発的に正座になる。碧凪先生はネット小説サイトで投稿している文字書きで、偶然見つけた最初の作品からずっと推している。
ありきたりな言葉では言い表せない関係性と登場人物それぞれの感情、何よりそれをあらわす少し特別な言葉たち。他の人にはない薄暗くも美しい雰囲気に惚れた私は、碧凪先生がこのサイトに投稿し始めてから全ての作品を読んでいる。そんな碧凪先生の新作だ。今度はどんな作品かどきどきしながらサイトを開く。

『彼と出会ったのは偶然だった』
そんな言葉から始まった物語はある2人の出会いと別れの話だった。苦しい世界の底で2人だけでこっそり息をするような、友情でも愛情でもない、そんな話。
あぁ、今回も最高だ。自分の中に渦巻いている激情をそのままぶつけるようにファンレターとも言えるコメントを書き上げる。一旦落ち着いたところで、書いたコメントを読み返す。誤字脱字、失礼な事は書いていないか確認した上で送信ボタンを押す。

多少落ち着いたものの興奮冷めやまないそのままでTwitterにつぶやく。そして、共通のゲームの推しを通じて知り合ったネッ友のmikiにDMで共有したところでもう一度読み返すために小説サイトに戻った。
ああ、何度読んでも最高だ。なんだよこの関係性、落ち着いて細かく読もうとしてもほかの何とも違う2人だけの雰囲気にのまれそんな事は叶わない。
2週目を読み終わり、余韻に浸っているとTwitterからDMが。mikiからの返信だった。
リンクと長文に対して『そっか』の一言だけ。普段はノリがいいのに何故か碧凪先生の時だけ塩対応だ。それでもしっかり返信してくれるのがmikiの良い所で優しさだけれど。mikiの他にも同じゲームを好きなネッ友はいるけれど、関係ない話も気楽にできるのはmikiだった。一度ホームに戻るとツイートの方にもいくつか反応が来ていた。そっちにも反応しつつのんびりmikiと小一時間DMで話し続けた。