夏都は宏明の怒鳴り声にすっかり萎縮している。

 「大丈夫や。宏明くんからは俺からもよーく言っとくから安心してもええで。」
 夏都はただ過呼吸を起こすばかりだ。
 「ヒューヒュー」いうばかりで苦しそうだ。
 
 和貴は「大丈夫。大丈夫」と言いながら夏都の背中を優しくさすった。
 宏明もしばらくして到着した。
 和貴からも「ホテルを取ったからそこで休むように」と言われた。
 ――――――――
 最終日の朝、ホテルで目が覚めると宏明はまだ夢の中だ。
 あれから宏明とも話し合いを重ね「いきなり怒鳴らない」と約束をしてくれた。
 父親みたいに頭ごなしに怒鳴るのではなく、単純に夏都の心配をしていたからだ。

 しばらく宏明の寝顔を眺めていると「んー」と声を小さく上げて目を開けた。

 「あの……ヒロ兄ちゃん。おはよう。」
 「あぁ……」
 「昨日のこと……まだ怒ってる?」
 「もう怒ってねぇよ……でも二度と勝手にいなくなるなよ。メモを残してたとはいえ、心配したんだからな。」
 「ごめんなさい」

 宏明は夏都の無事を確認すると安堵したような口調だ。
 夏都の髪を優しく撫でる宏明の顔もどこかおだやかだった。

 「もう、ひとりで出ていったりしないから……」

 言葉を紡ごうとしたら、宏明もいつの間にか寝ている。
 子どものように健やかな寝息を立てていた。

 夏都も心に誓う。

 自分を救って守ってくれている、正明、泰明、宏明の三兄弟を支えようと。
 共有花嫁として一生三人を支える決意をした。

 その日の夜、和貴に呼び出された。
 
 「なーちゃん、俺が君を呼び出した理由はわかるか?」
 「……うん」
 「前よりいい顔つきになってきたから安心したで。」
 
 いつもの穏やかな笑顔になる。