るんちゃんは私たちのもとに駆け寄ってくる。

「ゆっこ見て、いい感じじゃない?」

 左からただ立っている水野君、宇佐美君、私、向坂君の背中。
 その奥に海と青空。

 るんちゃんが青春といえば海と言っていた理由が、なんとなくわかった気がする。

「香織は入らなくていいの?」

 向坂君が言ったことで、私も気付いた。
 この素敵な写真の中に、るんちゃんがいない。

 でも、るんちゃんは私たちを撮って満足したのか、迷っている。

「るんちゃんも一緒に写真撮ろうよ」

 私が提案すると、るんちゃんは返事をするより先に、私の腕を引いて、海の前に立った。

 るんちゃんが左手を伸ばし、インカメラでシャッターを切る。

 さっきみたいな写真は本当に満足したらしく、普通に海を背景に写真を撮った。

 るんちゃんは自撮りに慣れているから自然な笑顔だけど、私は少しぎこちない表情だ。

「ゆっこ、ピース」

 るんちゃんにカメラを向けられるけど、やっぱり自分が被写体になるのは抵抗があって、私もるんちゃんにカメラを向ける。

 お互いに写真を撮って、私たちは吹き出すように笑った。







 月森さんたちと別れ、電車の中で鈴梨アプリに投稿するための写真を選ぶ。

 桜庭さんが最初に撮った背中の写真や、海の写真。

 スライドしていくと、さっきの思い出が一枚一枚に収まっている。
 唐突に連れて行かれたけど、結構楽しかった。

 そんなことを思い返していると、ふと、手が止まる。

「……友達でよかったのかよ」

 その写真を見ていると、隣から悠斗に言われた。

 僕が見ているのは、月森さんの全力の笑顔写真だ。
 隠し撮りに近いから、これは投稿できないけど、消すこともできていなかった。

「光汰みたいにすぐに距離を縮めることは、僕にはできないから」

 四人の背中の写真を選び、コメントを付ける。

『一番星』

「ロマンチストかよ」
「……うるさいな」

 悠斗に言われたことで少し恥ずかしくなったけど、勢いに任せて投稿する。

「そういえば、アカウント、このままやっていく?」
「いい。春希の隠し撮りに対する反応の良さが結構クセになってるから」

 嫌な楽しみ方を見つけてしまった悠斗に、苦笑いするしかない。

「いつか言うんだろ? 一目惚れしたって」
「……言えないから」

 きっと顔を赤くしているであろう僕を見て、悠斗はにやりと笑いながら、電車を降りていく。

 月森さんに惹かれたことは否定しないけど、こういうからかわれ方をするなら、言わなければよかったと後悔しながら、僕も電車を降りた。