翌朝、ロッソのよく見えるカフェテラスで朝食をとった一行――――。

「ねぇ、今スキルランクいくつ?」

 オディールは食後のお茶をすすりながらミラーナに聞いた。

「え? 十五……かな?」

「へっ!? じゅ、十五ってSランク冒険者を超えてますよ!」

 横で聞いていたヴォルフラムはビックリして目をまん丸にする。

「だって、毎日最大出力の魔法打ちまくってるんだもの。そのくらい行くわ」

 ミラーナはちょっと得意げにヴォルフラムを見る。

 インフラの土木工事はほぼすべてミラーナがやってきたのだ。その行使した魔法量は世界でもトップクラスになっている。ただ、敵を倒しているわけではないのでレベルは低いままだが。

「じゃあ、今日はゴーレム作ろうよ、ゴーレム!」

 オディールは好奇心で目をキラキラと輝かせる。

「ふふっ、ゴーレムってこれの事かしら?」

 ミラーナはポケットから丸い石ころを出してテーブルに置いた。

 するとその丸みを帯びた石ころはちょこちょこと動き出し、ミラーナの手の上によじ登っていく。

「えっ!?」「はぁ!?」

「ハムスターゴーレムの『ハム』ちゃんよ。可愛いでしょ?」

 ミラーナは腕を登るハムを見せながらニコッと笑う。クリっとした目がついていて、黄金色に光っている。

「す、すごいね。もうやってたんだ」

「だって、オディがハムスターも作れるって言うから練習してたのよ」

 ミラーナはオディールの腕にハムを乗せた。

「うわぁ……、良くできてる……」

 石でできたハムはクリっとした目を輝かせ、小首をかしげてオディールを見上げている。

 オディールはハムを手のひらに乗せると、すべすべしたハムの頭をなで、嬉しそうに微笑んだ。

「ここまでできてたらワーカーゴーレムもできるね」

「ワーカーゴーレム?」

 首をかしげるミラーナ。

「こういうのだよ、農作業や力仕事をやってもらおうかと思って」

 オディールは設計図を出して広げた。

 そこにはいかつい装甲で異彩を放つ人型機動兵器モビル・アーツのスケッチや、手足のパーツの概要が細かく書かれている。

「……。何……? これ……?」

 ミラーナは眉をひそめて渋い顔をする。

「モビル・アーツだよ。ほらこの(かぶと)のような装飾、カッコいいでしょ?」

「……。もっと可愛いのがいいわ」

「えっ。いや、これにはロマンが……」

「なんかこう丸っこいのがいいの」

 ミラーナは口をとがらせて頑固に譲らない。

 いや……、えぇっ。

 オディールは凍り付く。夢の等身大モビル・アーツの計画が根底から否定されてしまったのだ。堂々とした巨大なブーツから伸びる精悍な脚、無機質な胸部に強靭な肩。これらが生物のように力強く大地を駆け抜ける、そんな情景を思い描いていたオディールは言葉を失った。

「こういうのがいいのよ……」

 ミラーナはそう言いながら紙に卵のような図形をかいて手足を生やし、丸い目玉を描いた。

「卵……」

 オディールは言葉に詰まる。人型機動兵器モビル・アーツを作るはずが、このままだとハンプティダンプティみたいなファンタジーな妖精になってしまう。

「きっとこういう可愛い子の方が人気出るわよ」

 ニッコリと笑いながらさらに違うバージョンの卵を描いていくミラーナ。

 その嬉しそうな姿にオディールは何も言えなくなってしまう。やはり異世界の少女にモビル・アーツの魅力なんてわかるはずもなかったのだ。

 すっかりしょげ返ってしまったオディールを見たミラーナは、焦った様子で言う。

「あ、そのうちにこのモビル何とかも作るわよ。でも、最初は卵で行きましょうよ」

 重いため息と共にオディールは静かにうなずいた。


       ◇


 その後二人で、熱い議論を交わしながら、ときに微笑みを交えて、卵型ゴーレムの設計をじっくりと詰め上げていった。

 スピードを求めれば車輪が必要だが、車輪だと階段は登れない。となると脚と車輪のハイブリッドが答えだろうが、卵の下部に両方はなかなかうまく収まらない。

「二輪は止めて一輪にしようか?」

 オディールはシュッシュと卵の下の方にタイヤを埋め込んだ絵を描いた。

「えっ! 倒れないかしら?」

「一輪車に乗ってる人もいるじゃん? そこは賢く頑張ってもらって……。それで脚はこう!」

 そう言いながら長い腕を四本描いた。

「え? 腕……なの?」

「普段は車輪で動いて、階段などは下側の腕でゴリラみたいに歩くんだよ。どう?」

 そう言いながら、可愛いクリっとした目を描き加えるオディール。

 その、ぬいぐるみのような愛らしさにミラーナは嬉しそうに微笑む。

「あら可愛い! モビル何とかよりこっちの方がずっといいわよ」

「そ、そうかもね……」

 オディールは死んだ魚のような目で力なく答えた。