オディールは朝のさわやかな風を頬に感じながら、澄み通る深い青空へ両手を広げた。
「【龍神よ、猛き息吹で恵みを降り注げ】」
見渡す限り辺り一帯にサラサラと雨が降り注いでいく。花畑の花々はぬれて色鮮やかに輝き、辺りをみずみずしいパレットのように彩っていた。
オディールは瞼を閉じ、幸せに満ち溢れた微笑みを浮かべながら、雨の滴に心地よく濡れていく。これこそが【お天気】スキルの正しい使い方であると、彼女は深い満足感を抱き、静かに頷いた。
◇
みんなを率いて湖までやってきたオディールは、バチャバチャと湖水の中を駆けながら両手を上げ、嬉しそうに叫んだ。
「さぁ、ここに家を建てていくよ~」
数キロに及ぶ広大な湖は朝日を浴びてキラキラと輝いている。その湖を取り巻くように美しい花畑が広がり、まるで名画のように壮観な風景を鮮やかに描き出していた。
「ここに……、家?」
ミラーナは顔に困惑の色を浮かべ、湖の中をのぞきこむ。水は澄み通り、金色の微粒子がキラキラと揺らめいている。やはり湖全体が聖水になっているようだった。
「砂漠の中の水上の街、いかにもセント・フローレスティーナっぽいじゃない?」
オディールは陽気に言い放ったが、ミラーナはヴォルフラムと顔を見合わせて首をかしげる。湖の上に家を建てるなんて聞いたこともなかったのだ。
「まぁいいからやってみよう! ヴォルは柱の位置に棒を立てていって」
オディールは設計図をヴォルフラムに渡し、場所を指示していった。
◇
ミラーナはワンピースのすそを結んで恐る恐る湖に入っていく。水量はまだ少ないためひざ位の深さしかない。
ヴォルフラムはザバザバと豪快な音をたてながら湖を進み、設計図と周りの風景を確かめながら指定の場所を探す。
「最初の柱はここでいいですかね?」
ヴォルフラムは竹竿で湖底をつつきながら振り返り、オディールに聞いた。
ミラーナの手を引きながら追いついてきたオディールは辺りを眺め、ニコッと笑う。
「そうだね、ここから十メートルおきに円周上に立てていくよ。ミラーナ、太さ二メートルの柱をここにバーンとよろしく!」
「もう、オディったら、気軽に言うんだから……」
ミラーナは口をとがらせながら魔法手袋を着け、厳しい視線で湖底をにらむ。水の向こうの地面に土魔法が届くかどうかなんて、やったこともないから分からないのだ。
「失敗したっていいんだよ。まずやってみようよ!」
お気楽に言ってくるオディールをジト目でにらむと、ミラーナは大きく息をつく。そして軽く肩を回すと両手を湖底に向けて目をつぶり、精神を集中してイメージを固めていく……。
呪文をつぶやき始めたミラーナの背中に、オディールは手を当て、膨大な魔力を注ぎ込む。これが上手くいかなければ計画は一からやり直し。オディールはキュッと口を結び、いつもより多めの気合いを込めた。
二人は一瞬全身から閃光を放ち、ヤバいほどの魔力がミラーナの手にあつまっていく。
その壮絶な魔力に、ヴォルフラムは思わず息を飲む。美しい湖での未曾有のチャレンジの行方はまさに予断を許さない。
直後、ミラーナから放たれる黄金色に輝く微粒子の群れは湖底を目指した。水面で多くがはじかれてしまったが、それでも一部が湖底にたどり着くとモコモコっと膨らみ始める。
「行っけーーーー!」
オディールはギリッと奥歯をかみしめ、下腹部から魔力を絞り出した。
直後、真っ白な御影石の柱がバシュッと水しぶきを散らし、天に駆け上がるかのように飛び出してくる。それは朝日を浴び、金色の輝きを纏いながら、澄み通る青空めがけて勇壮にそびえ立った。
「おぉ!」「ヤッターー!」
その柱はパルテノン神殿のように、ふっくらとわずかに優美な曲線を描きながらまっすぐに空へと伸びている。
ミラーナは肩で息をしながらその柱を見上げ、ほほ笑みながらふぅと息をつく。
「さっすが、ミラーナ!」
オディールは満面の笑みでミラーナの手を取り、はしゃいだ。ここまでしっかりしていればこの上に建造物を作っても大丈夫だろう。
「こんなのでいいかしら? 高さは足りてる?」
ミラーナは安堵した様子でオディールを見た。
「上出来だよ。高さは後で調整すればいいからね。最終的には水面が後二メートルくらい高くなって、その上三メートルが一階になるんだ」
オディールは竹竿で柱をパシパシ叩きながら説明する。
「はぁ……、そうなのね。でも水上に街を作るなんて聞いたことないわ。オディの発想には驚かされるばっかり。その発想どこから出てきたの? 本当に年下なの?」
眉を寄せながらオディールの顔をのぞきこむミラーナ。
「や、やだなあ、僕は子供……。子供だからこういう発想なんだよ!」
オディールは冷や汗を流しながら後ずさりする。中身がオッサンだとバレたら大変である。
「まあ、小さな頃から面倒見てるから良く知ってるんだけど……」
腕を組んで首をかしげながら考え込むミラーナ。
「そ、そうだよ。さぁ、次に行くよっ!」
オディールはミラーナの背中をパンパンと叩くと、ジャバジャバと水をかき分け、ヴォルフラムが待ってる所へと走って行った。
◇
午前中、二百メートルの円の範囲内に十メートル間隔で柱を打ち、湖畔への橋げたも作り上げた。
聖水に浸かりながらだと疲労は感じないので予想以上に良いペースで作業が進み、欲張って一気に設置してしまったのだ。
「姐さん、そろそろお昼ですよね?」
お腹を空かせたヴォルフラムは子リスのような目をして訴えてくる。
「え? もうそんな時間かぁ。なるほど……。せっかくだから柱の上に一区画だけ作ってそこで食べよう」
オディールは柱に生やしたらせん階段を登り、上に立つと、見事に円の形にずらりと並んだ柱の群れを見渡した。
花畑の向こうにたたずむロッソ、静かに広がる湖面、この美しいキャンバスに下手な建物は建てられない。
セント・フローレスティーナ初の本格的な建物は、単に住めれば良いという物ではダメなのだ。見た人が思わず見惚れてしまうような、シドニーのオペラハウスにも匹敵するほどのインパクトある美しさが必要なのだ。
一度見たら忘れない、美しく、人の心をつかんで離さない壮大な建築物をここに……。オディールはブルっと武者震いすると、グッとロッソに向けてこぶしを握った。
◇
「よーし、ミラーナ! 梁を通すよ!」
「梁? 隣の柱まで横に伸ばすの?」
「そうそう、クレヨンの家の床を作った時みたいにさ」
「いやいや、あれよりももっと遠いじゃない……」
渋い顔をして首を振るミラーナ。
「大丈夫だって! 外してもやり直せばいいんだからさ」
オディールはニコニコしながらミラーナの肩を叩いた。
ミラーナはジト目でオディールを見る。しかし、今さら柱の位置は変えられない。大きく息をついたミラーナはしゃがみ込み、ボウリングの球を投げる時のようにジッと隣の柱の位置を見定めた。
しばらく精神集中をしたミラーナは、片手を目標の柱に向け、もう一方を足元の柱に向け、呪文を唱え始める。
それに合わせオディールは魔力を注入していく。
直後、ミラーナから迸った黄金色の微粒子は二本の柱にまとわりつき、向かい合う地点をぼうっと光らせた。そこからにょきにょきと御影石が生えてきてお互いに向けて伸びていく。やがて中央部でぶつかるとパァッと黄金色の輝きを放ち、くっついた。
「おぉ! できたできた! さすが、ミラーナ!」
オディールはミラーナの背中に飛びつく。
そんな調子のいいオディールにふぅと息をついたミラーナだったが、振り向くと優しく金髪をなでたのだった。
「【龍神よ、猛き息吹で恵みを降り注げ】」
見渡す限り辺り一帯にサラサラと雨が降り注いでいく。花畑の花々はぬれて色鮮やかに輝き、辺りをみずみずしいパレットのように彩っていた。
オディールは瞼を閉じ、幸せに満ち溢れた微笑みを浮かべながら、雨の滴に心地よく濡れていく。これこそが【お天気】スキルの正しい使い方であると、彼女は深い満足感を抱き、静かに頷いた。
◇
みんなを率いて湖までやってきたオディールは、バチャバチャと湖水の中を駆けながら両手を上げ、嬉しそうに叫んだ。
「さぁ、ここに家を建てていくよ~」
数キロに及ぶ広大な湖は朝日を浴びてキラキラと輝いている。その湖を取り巻くように美しい花畑が広がり、まるで名画のように壮観な風景を鮮やかに描き出していた。
「ここに……、家?」
ミラーナは顔に困惑の色を浮かべ、湖の中をのぞきこむ。水は澄み通り、金色の微粒子がキラキラと揺らめいている。やはり湖全体が聖水になっているようだった。
「砂漠の中の水上の街、いかにもセント・フローレスティーナっぽいじゃない?」
オディールは陽気に言い放ったが、ミラーナはヴォルフラムと顔を見合わせて首をかしげる。湖の上に家を建てるなんて聞いたこともなかったのだ。
「まぁいいからやってみよう! ヴォルは柱の位置に棒を立てていって」
オディールは設計図をヴォルフラムに渡し、場所を指示していった。
◇
ミラーナはワンピースのすそを結んで恐る恐る湖に入っていく。水量はまだ少ないためひざ位の深さしかない。
ヴォルフラムはザバザバと豪快な音をたてながら湖を進み、設計図と周りの風景を確かめながら指定の場所を探す。
「最初の柱はここでいいですかね?」
ヴォルフラムは竹竿で湖底をつつきながら振り返り、オディールに聞いた。
ミラーナの手を引きながら追いついてきたオディールは辺りを眺め、ニコッと笑う。
「そうだね、ここから十メートルおきに円周上に立てていくよ。ミラーナ、太さ二メートルの柱をここにバーンとよろしく!」
「もう、オディったら、気軽に言うんだから……」
ミラーナは口をとがらせながら魔法手袋を着け、厳しい視線で湖底をにらむ。水の向こうの地面に土魔法が届くかどうかなんて、やったこともないから分からないのだ。
「失敗したっていいんだよ。まずやってみようよ!」
お気楽に言ってくるオディールをジト目でにらむと、ミラーナは大きく息をつく。そして軽く肩を回すと両手を湖底に向けて目をつぶり、精神を集中してイメージを固めていく……。
呪文をつぶやき始めたミラーナの背中に、オディールは手を当て、膨大な魔力を注ぎ込む。これが上手くいかなければ計画は一からやり直し。オディールはキュッと口を結び、いつもより多めの気合いを込めた。
二人は一瞬全身から閃光を放ち、ヤバいほどの魔力がミラーナの手にあつまっていく。
その壮絶な魔力に、ヴォルフラムは思わず息を飲む。美しい湖での未曾有のチャレンジの行方はまさに予断を許さない。
直後、ミラーナから放たれる黄金色に輝く微粒子の群れは湖底を目指した。水面で多くがはじかれてしまったが、それでも一部が湖底にたどり着くとモコモコっと膨らみ始める。
「行っけーーーー!」
オディールはギリッと奥歯をかみしめ、下腹部から魔力を絞り出した。
直後、真っ白な御影石の柱がバシュッと水しぶきを散らし、天に駆け上がるかのように飛び出してくる。それは朝日を浴び、金色の輝きを纏いながら、澄み通る青空めがけて勇壮にそびえ立った。
「おぉ!」「ヤッターー!」
その柱はパルテノン神殿のように、ふっくらとわずかに優美な曲線を描きながらまっすぐに空へと伸びている。
ミラーナは肩で息をしながらその柱を見上げ、ほほ笑みながらふぅと息をつく。
「さっすが、ミラーナ!」
オディールは満面の笑みでミラーナの手を取り、はしゃいだ。ここまでしっかりしていればこの上に建造物を作っても大丈夫だろう。
「こんなのでいいかしら? 高さは足りてる?」
ミラーナは安堵した様子でオディールを見た。
「上出来だよ。高さは後で調整すればいいからね。最終的には水面が後二メートルくらい高くなって、その上三メートルが一階になるんだ」
オディールは竹竿で柱をパシパシ叩きながら説明する。
「はぁ……、そうなのね。でも水上に街を作るなんて聞いたことないわ。オディの発想には驚かされるばっかり。その発想どこから出てきたの? 本当に年下なの?」
眉を寄せながらオディールの顔をのぞきこむミラーナ。
「や、やだなあ、僕は子供……。子供だからこういう発想なんだよ!」
オディールは冷や汗を流しながら後ずさりする。中身がオッサンだとバレたら大変である。
「まあ、小さな頃から面倒見てるから良く知ってるんだけど……」
腕を組んで首をかしげながら考え込むミラーナ。
「そ、そうだよ。さぁ、次に行くよっ!」
オディールはミラーナの背中をパンパンと叩くと、ジャバジャバと水をかき分け、ヴォルフラムが待ってる所へと走って行った。
◇
午前中、二百メートルの円の範囲内に十メートル間隔で柱を打ち、湖畔への橋げたも作り上げた。
聖水に浸かりながらだと疲労は感じないので予想以上に良いペースで作業が進み、欲張って一気に設置してしまったのだ。
「姐さん、そろそろお昼ですよね?」
お腹を空かせたヴォルフラムは子リスのような目をして訴えてくる。
「え? もうそんな時間かぁ。なるほど……。せっかくだから柱の上に一区画だけ作ってそこで食べよう」
オディールは柱に生やしたらせん階段を登り、上に立つと、見事に円の形にずらりと並んだ柱の群れを見渡した。
花畑の向こうにたたずむロッソ、静かに広がる湖面、この美しいキャンバスに下手な建物は建てられない。
セント・フローレスティーナ初の本格的な建物は、単に住めれば良いという物ではダメなのだ。見た人が思わず見惚れてしまうような、シドニーのオペラハウスにも匹敵するほどのインパクトある美しさが必要なのだ。
一度見たら忘れない、美しく、人の心をつかんで離さない壮大な建築物をここに……。オディールはブルっと武者震いすると、グッとロッソに向けてこぶしを握った。
◇
「よーし、ミラーナ! 梁を通すよ!」
「梁? 隣の柱まで横に伸ばすの?」
「そうそう、クレヨンの家の床を作った時みたいにさ」
「いやいや、あれよりももっと遠いじゃない……」
渋い顔をして首を振るミラーナ。
「大丈夫だって! 外してもやり直せばいいんだからさ」
オディールはニコニコしながらミラーナの肩を叩いた。
ミラーナはジト目でオディールを見る。しかし、今さら柱の位置は変えられない。大きく息をついたミラーナはしゃがみ込み、ボウリングの球を投げる時のようにジッと隣の柱の位置を見定めた。
しばらく精神集中をしたミラーナは、片手を目標の柱に向け、もう一方を足元の柱に向け、呪文を唱え始める。
それに合わせオディールは魔力を注入していく。
直後、ミラーナから迸った黄金色の微粒子は二本の柱にまとわりつき、向かい合う地点をぼうっと光らせた。そこからにょきにょきと御影石が生えてきてお互いに向けて伸びていく。やがて中央部でぶつかるとパァッと黄金色の輝きを放ち、くっついた。
「おぉ! できたできた! さすが、ミラーナ!」
オディールはミラーナの背中に飛びつく。
そんな調子のいいオディールにふぅと息をついたミラーナだったが、振り向くと優しく金髪をなでたのだった。