事実は小説よりも奇なり――実際におきる出来事の方が、フィクションよりもずっとはるかに複雑で波乱に満ちていること。
確かにそうだな、とつい最近になって思う出来事があった。
より厳密にいうならば、ついさっき……10分ほど前のこと。
住み慣れた町をのんびりと歩く。別段何も不可解な点はない。
予定こそなかったものの、自宅にジッと引きこもる道理もないし何せ今日の天候は大変よい。
雲一つない快晴、さんさんと輝く太陽はとても眩しくて温かく、その下で優雅に小鳥達がすいすいと泳いでいる。
時折頬をそっと、優しく撫でていく微風はほんのりと暖かい。
ふわりと乗せる春の香りが鼻腔をくすぐって、心地良い眠気をももたらす。
今日は正に、絶好のピクニック日和といっても過言じゃない。
だから彼――和泉雷志は散歩に出ることにした。
平日とだけあって、朝早くから学生やサラリーマンの姿でごった返す中を、一人ラフな姿な上にあくせくと行き交う人混みをのんびりとした足取りで進む。
事情を知らない第三者が今の彼を見やれば、さぞ怠惰な男として映ったことに違いあるまい。
朝から働きもせず、自堕落な生活でのうのうとその日を生きる愚か者、と。
実際は、雷志もきちんと職にはついていて、たまたま本日は休みというだけであった。
平日に休みというのは、なにかと融通が利きやすい。
数多くが平日出勤だから、飲食店などが混む心配は差ほどしなくても済む。
朝早くからご苦労なことだ。
もっとも、おれも頑張っているんだけどな、と雷志は思った。
たまたま働く時間帯が他とズレているだけで、なんなら己の仕事は高収入とは裏腹に危険がいっぱいでいつ命を落とすかも予測できない。それこそあらゆるどの職よりも遥かずっと、危険だとも雷志は自負していた。
せっかくの休みなのだから、のんびりとさせてもらうまで。
明日になれば、また……労働という地獄の日々が待ち受けているのだから。
嫌なことには、現実逃避するのが一番の最良といってもよかろう。
それはさておき。
「――、あ、す、すいません!」
「おっと。あぁいや、気にしないでくれ。俺は別に気にしてないから」
「すいませんでしたー!」
道中ぶつかったその少女は、よほど慌てていたらしい。
制止しようとした時には、彼女の小さな背中はすでに人混みの中へと消えてしまった。
(これは、さすがに届けないとまずいか)
足元にちょこん、と落ちている社員証をひょいっ、と雷志は拾い上げる。
“赤城かえで”……なかなか古風でよい名前だな、と雷志は思った。
雰囲気からして恐らく、由緒ある名家に違いあるまい。
一瞬だったとはいえ、どことなく気品ある雰囲気もあった。
とにもかくにも、社員証がなくともあの娘も困るだろう。
幸い社員証に記載された会社と思わしき住所は、現在地からしてそう遠くはない。
行き先さえわかれば焦る必要もなく、たったったっ、と小走りで少女の後を追った。
そうしてついた先は――。
「……めちゃくちゃすげー場所に勤めてたんだな、あの子」
天へと向かって伸びる巨大な高層ビルの前に、雷志は苦笑いを小さく浮かべた。
大小新旧、様々な建造物が群集するこの都心の町並みにおいて恐らくだが、一番の規模を誇るのではなかろうか。
出入口を警護する警備員も、これだけの大企業に勤めるのだ。
スーパーや小企業のそれと比較しても、明らかに面構えからしてまるで違う。
およそ六尺の鉄棍は、陽光をたっぷりと浴びて鈍く重く、それでいてぎらりと不気味に黒鉄に輝く。ボディーアーマーにヘルメットと、装備についてはもはや万全と言う他ない。
見るからにして明らかに常軌を逸脱している彼らの存在が、いかに目前の企業が有名であるかを代弁していた。
であれば、無関係な人間が会社の周辺をうろつけば彼らに不信感を与えるのは至極当然で――。
「失礼ですが、何かここに御用でしょうか?」
ずかずかと近寄られて、改めて警備員の図体のでかさを雷志は理解した。
身長はざっと2mと近くはあろう、体格もがっしりとしてよく鍛えられている。
ボディーアーマーが逆に帰って窮屈そうで、雷志の目にはそれが拘束具のように見えて仕方がなかった。
羆という愛称がこの男にはぴったりだろう。そんなことを脳の片隅で思いつつ、用件をさっさと済ませる。
ここへの来訪はあくまでも、社員であろう少女の落とし物を届けにきただけにすぎないのだから。
「あ~失礼ですけど。この社員証の方って、こちらの企業に勤められていますかね? 実はさっき彼女とぶつかっちゃったんですけど、どうやらその時にこれを落としたみたいで。それで近くだったものですから届けにきたんです」
「どれどれ……確かに、これはこの企業に勤めておられる方のものですね。わざわざありがとうございます、後はこちらの方でしっかりと本人に渡しておきますので」
「えぇ、それじゃあよろしくお願いします」
素直に社員証を渡した途端、羆の顔がわずかに柔らかくなった。
これを脅しに何か要求してくる、とでも思われていたのか……。
だとしたら、それはすこぶる失礼であると雷志は彼らに対し猛抗議せねばならない。
善意として届けただけなのに、あたかも最初から犯罪者と決めつけられていたようで、気分的には決して心地良いものではない。
謝罪の一つでも要求してやろうかとも思わないでもなかったが、そんな彼の思考をクリアにする人物がひょっこりとこの場に姿を見せる。――さっきの娘だ。
クリーム色のポニーテールに、翡翠色という非常に稀有な瞳が印象的で、どこかあどけなさが残る端正な顔立ちと、それらを総合すると誰しもがかわいいと口をそろえるような女性だ。
自動ドアをパタパタと潜るその様子は、どこか落ち着きがない。
何かに対して慌てふためいている、と察するのはその言動を見やれば一目瞭然である。
「あ、あれ? あなたはさっき私がぶつかっちゃった人……!」
彼女の一言に雷志は感嘆の息を静かに吐かせる。
確かについさっき顔合わせをしたばかりだが、時間に換算すればあまりにも短い。
およそ5秒――彼女の場合は特に出社するのに急いていただけあって、満足にこちらの顔は見ていなかったはず。
なかなか記憶力の方が、この娘は優秀であるらしい。
「よく俺のこと憶えていたな。あの一瞬の間で」
「え、えぇ。だって、その……あなたってなんだか、その……すごく目立つから」
「……あー。やっぱり目立つのか、俺は」
少女からの言葉に、雷志はがくりと項垂れた。
しかし、これについては彼女の言い分が正しい。
正しいと彼自身も素直に認知しているので、さして言及したりはしなかった。
身長は177cmとやや高く、朱殷色という非常に稀有にしてどこかおどろおどろしい髪色は時に、相対する者に恐怖を与える。
同様に、血を連想させる瞳は彼の知らぬところでいつしか、鬼眼などという大変不本意な異名までもつく始末であった。
以上から和泉雷志は、近寄りがたい雰囲気こそ放つがいい漢としてそこそこ評判が高い。
「――、まぁいいや。とりあえず、さっきぶりだな。そこにいる警備員さんにもう渡してあるけど、アンタ社員証落としていったぞ」
「えっ!?」
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いや、その……」
突然、視線を右往左往してひどく狼狽する様子に雷志ははて、と小首をひねった。
見るからに彼女の言動は怪しいの一言に尽きて、しかし何故そうなったかを雷志は知る術がない。
それ以前として、別段彼女が何者であろうか。彼にすれば微塵も興味もなかった。
今後付き合いがあるのならばともかくとして、彼女との出会いは恐らく一期一会で終わるだろう。
ならばわざわざ互いに素性を知ることも、詮索するのも無粋極まりないと言うもの。
雷志は、落とし物を届けにきた。そして無事本人の手に戻った。これだけで十分事足りる。
長居する道理も、謝礼をせびる気も彼には毛頭なかった。
「――、それじゃあ俺はこれで。あぁ、そうそう。アンタ“赤城かえで”って言うんだな」
「えっ!? いいい、いやいや。だ、誰のことだかさっぱり……」
「いや、思いっきりその社員証に書いてあったし。まぁ、今時にしては珍しい古風で良い名前だと俺は思うぞ」
「あ、ありがとう……ございます?」
「あぁ、それだけだから。そんじゃーな」
今度こそ用件は済んだ。
ひらひらと手を振りながら、くるりと踵を返した雷志はその場を後にする。
(……なんだか、めっちゃ警戒されてるな俺)
背中越しからでも、ひしひしと彼らの鋭い視線が突き刺さるのを雷志は否が応でも感じていた。
いくら部外者だからと、こうも警戒される覚えはこちらとしては微塵もない。
いずれにせよ、今後ここに近寄るのだけはやめておいた方がよかろう。
「――、それにしても……」
ようやく視線から解放されて、人気のない公園のベンチに一角にて。
清々しいぐらい青々とした空をぼんやりと眺める傍らで、雷志は沈思した。
――なかなか、かわいい娘だった。
多分、過去出会ってきた中でダントツかわいいんじゃないか?
あんな娘が務める企業とは、いったいどんな仕事をしているんだろう。
今になって無性に気になってきやがった。
……まるでストーカーのような心境になってきたな――。
危うく犯罪者になりかけた己を、雷志は叱責した。
「――、これはダンナ。こんなところで出会うとは奇遇ですね」
「……せっかくの公園で、しかもここは一応デートスポットの一つでもあるんだぜ? なんで朝っぱらからお前とすごさなきゃいけないんだよ」
「けっへっへ。相変わらず辛辣ですねぇダンナ」
ダンナ、と彼のことをそう呼称する男の第一印象は優男が相応しかろう。
確かにそうだな、とつい最近になって思う出来事があった。
より厳密にいうならば、ついさっき……10分ほど前のこと。
住み慣れた町をのんびりと歩く。別段何も不可解な点はない。
予定こそなかったものの、自宅にジッと引きこもる道理もないし何せ今日の天候は大変よい。
雲一つない快晴、さんさんと輝く太陽はとても眩しくて温かく、その下で優雅に小鳥達がすいすいと泳いでいる。
時折頬をそっと、優しく撫でていく微風はほんのりと暖かい。
ふわりと乗せる春の香りが鼻腔をくすぐって、心地良い眠気をももたらす。
今日は正に、絶好のピクニック日和といっても過言じゃない。
だから彼――和泉雷志は散歩に出ることにした。
平日とだけあって、朝早くから学生やサラリーマンの姿でごった返す中を、一人ラフな姿な上にあくせくと行き交う人混みをのんびりとした足取りで進む。
事情を知らない第三者が今の彼を見やれば、さぞ怠惰な男として映ったことに違いあるまい。
朝から働きもせず、自堕落な生活でのうのうとその日を生きる愚か者、と。
実際は、雷志もきちんと職にはついていて、たまたま本日は休みというだけであった。
平日に休みというのは、なにかと融通が利きやすい。
数多くが平日出勤だから、飲食店などが混む心配は差ほどしなくても済む。
朝早くからご苦労なことだ。
もっとも、おれも頑張っているんだけどな、と雷志は思った。
たまたま働く時間帯が他とズレているだけで、なんなら己の仕事は高収入とは裏腹に危険がいっぱいでいつ命を落とすかも予測できない。それこそあらゆるどの職よりも遥かずっと、危険だとも雷志は自負していた。
せっかくの休みなのだから、のんびりとさせてもらうまで。
明日になれば、また……労働という地獄の日々が待ち受けているのだから。
嫌なことには、現実逃避するのが一番の最良といってもよかろう。
それはさておき。
「――、あ、す、すいません!」
「おっと。あぁいや、気にしないでくれ。俺は別に気にしてないから」
「すいませんでしたー!」
道中ぶつかったその少女は、よほど慌てていたらしい。
制止しようとした時には、彼女の小さな背中はすでに人混みの中へと消えてしまった。
(これは、さすがに届けないとまずいか)
足元にちょこん、と落ちている社員証をひょいっ、と雷志は拾い上げる。
“赤城かえで”……なかなか古風でよい名前だな、と雷志は思った。
雰囲気からして恐らく、由緒ある名家に違いあるまい。
一瞬だったとはいえ、どことなく気品ある雰囲気もあった。
とにもかくにも、社員証がなくともあの娘も困るだろう。
幸い社員証に記載された会社と思わしき住所は、現在地からしてそう遠くはない。
行き先さえわかれば焦る必要もなく、たったったっ、と小走りで少女の後を追った。
そうしてついた先は――。
「……めちゃくちゃすげー場所に勤めてたんだな、あの子」
天へと向かって伸びる巨大な高層ビルの前に、雷志は苦笑いを小さく浮かべた。
大小新旧、様々な建造物が群集するこの都心の町並みにおいて恐らくだが、一番の規模を誇るのではなかろうか。
出入口を警護する警備員も、これだけの大企業に勤めるのだ。
スーパーや小企業のそれと比較しても、明らかに面構えからしてまるで違う。
およそ六尺の鉄棍は、陽光をたっぷりと浴びて鈍く重く、それでいてぎらりと不気味に黒鉄に輝く。ボディーアーマーにヘルメットと、装備についてはもはや万全と言う他ない。
見るからにして明らかに常軌を逸脱している彼らの存在が、いかに目前の企業が有名であるかを代弁していた。
であれば、無関係な人間が会社の周辺をうろつけば彼らに不信感を与えるのは至極当然で――。
「失礼ですが、何かここに御用でしょうか?」
ずかずかと近寄られて、改めて警備員の図体のでかさを雷志は理解した。
身長はざっと2mと近くはあろう、体格もがっしりとしてよく鍛えられている。
ボディーアーマーが逆に帰って窮屈そうで、雷志の目にはそれが拘束具のように見えて仕方がなかった。
羆という愛称がこの男にはぴったりだろう。そんなことを脳の片隅で思いつつ、用件をさっさと済ませる。
ここへの来訪はあくまでも、社員であろう少女の落とし物を届けにきただけにすぎないのだから。
「あ~失礼ですけど。この社員証の方って、こちらの企業に勤められていますかね? 実はさっき彼女とぶつかっちゃったんですけど、どうやらその時にこれを落としたみたいで。それで近くだったものですから届けにきたんです」
「どれどれ……確かに、これはこの企業に勤めておられる方のものですね。わざわざありがとうございます、後はこちらの方でしっかりと本人に渡しておきますので」
「えぇ、それじゃあよろしくお願いします」
素直に社員証を渡した途端、羆の顔がわずかに柔らかくなった。
これを脅しに何か要求してくる、とでも思われていたのか……。
だとしたら、それはすこぶる失礼であると雷志は彼らに対し猛抗議せねばならない。
善意として届けただけなのに、あたかも最初から犯罪者と決めつけられていたようで、気分的には決して心地良いものではない。
謝罪の一つでも要求してやろうかとも思わないでもなかったが、そんな彼の思考をクリアにする人物がひょっこりとこの場に姿を見せる。――さっきの娘だ。
クリーム色のポニーテールに、翡翠色という非常に稀有な瞳が印象的で、どこかあどけなさが残る端正な顔立ちと、それらを総合すると誰しもがかわいいと口をそろえるような女性だ。
自動ドアをパタパタと潜るその様子は、どこか落ち着きがない。
何かに対して慌てふためいている、と察するのはその言動を見やれば一目瞭然である。
「あ、あれ? あなたはさっき私がぶつかっちゃった人……!」
彼女の一言に雷志は感嘆の息を静かに吐かせる。
確かについさっき顔合わせをしたばかりだが、時間に換算すればあまりにも短い。
およそ5秒――彼女の場合は特に出社するのに急いていただけあって、満足にこちらの顔は見ていなかったはず。
なかなか記憶力の方が、この娘は優秀であるらしい。
「よく俺のこと憶えていたな。あの一瞬の間で」
「え、えぇ。だって、その……あなたってなんだか、その……すごく目立つから」
「……あー。やっぱり目立つのか、俺は」
少女からの言葉に、雷志はがくりと項垂れた。
しかし、これについては彼女の言い分が正しい。
正しいと彼自身も素直に認知しているので、さして言及したりはしなかった。
身長は177cmとやや高く、朱殷色という非常に稀有にしてどこかおどろおどろしい髪色は時に、相対する者に恐怖を与える。
同様に、血を連想させる瞳は彼の知らぬところでいつしか、鬼眼などという大変不本意な異名までもつく始末であった。
以上から和泉雷志は、近寄りがたい雰囲気こそ放つがいい漢としてそこそこ評判が高い。
「――、まぁいいや。とりあえず、さっきぶりだな。そこにいる警備員さんにもう渡してあるけど、アンタ社員証落としていったぞ」
「えっ!?」
「ん? どうかしたのか?」
「あ、いや、その……」
突然、視線を右往左往してひどく狼狽する様子に雷志ははて、と小首をひねった。
見るからに彼女の言動は怪しいの一言に尽きて、しかし何故そうなったかを雷志は知る術がない。
それ以前として、別段彼女が何者であろうか。彼にすれば微塵も興味もなかった。
今後付き合いがあるのならばともかくとして、彼女との出会いは恐らく一期一会で終わるだろう。
ならばわざわざ互いに素性を知ることも、詮索するのも無粋極まりないと言うもの。
雷志は、落とし物を届けにきた。そして無事本人の手に戻った。これだけで十分事足りる。
長居する道理も、謝礼をせびる気も彼には毛頭なかった。
「――、それじゃあ俺はこれで。あぁ、そうそう。アンタ“赤城かえで”って言うんだな」
「えっ!? いいい、いやいや。だ、誰のことだかさっぱり……」
「いや、思いっきりその社員証に書いてあったし。まぁ、今時にしては珍しい古風で良い名前だと俺は思うぞ」
「あ、ありがとう……ございます?」
「あぁ、それだけだから。そんじゃーな」
今度こそ用件は済んだ。
ひらひらと手を振りながら、くるりと踵を返した雷志はその場を後にする。
(……なんだか、めっちゃ警戒されてるな俺)
背中越しからでも、ひしひしと彼らの鋭い視線が突き刺さるのを雷志は否が応でも感じていた。
いくら部外者だからと、こうも警戒される覚えはこちらとしては微塵もない。
いずれにせよ、今後ここに近寄るのだけはやめておいた方がよかろう。
「――、それにしても……」
ようやく視線から解放されて、人気のない公園のベンチに一角にて。
清々しいぐらい青々とした空をぼんやりと眺める傍らで、雷志は沈思した。
――なかなか、かわいい娘だった。
多分、過去出会ってきた中でダントツかわいいんじゃないか?
あんな娘が務める企業とは、いったいどんな仕事をしているんだろう。
今になって無性に気になってきやがった。
……まるでストーカーのような心境になってきたな――。
危うく犯罪者になりかけた己を、雷志は叱責した。
「――、これはダンナ。こんなところで出会うとは奇遇ですね」
「……せっかくの公園で、しかもここは一応デートスポットの一つでもあるんだぜ? なんで朝っぱらからお前とすごさなきゃいけないんだよ」
「けっへっへ。相変わらず辛辣ですねぇダンナ」
ダンナ、と彼のことをそう呼称する男の第一印象は優男が相応しかろう。